◎調査・報告


再認識したい食鶏取引・小売り企画の「品質標準」−鶏肉のトレーサビリティに関連して−

京都産業大学 名誉教授 駒井 亨




消費者の最大関心事は鶏肉の鮮度

 昨今、一連の鶏肉偽装販売(輸入鶏肉を国産鶏肉と偽って販売)に端を発して、
鶏肉のトレーサビリティに関する論議が盛んである。

 しかし、各種出版物に掲載されている関係者の発言を見ると、消費者にとって
最も大切な「鶏肉の鮮度」についての基本的な理解や視点が欠落しているように
思われる。

 鶏肉の品質(商品価値)についての関係機関による意識調査は繰り返し行われ
ていて、調査の結果はその都度公表されているが、消費者の意見を最も端的に集
約していると思われる調査結果の1つに平成9年12月の日本食肉消費総合センター
による食肉消費動向調査がある。

 この調査結果によると、消費者の鶏肉購入時の品質判断基準は、「鮮度」が7
4.1%で最も多く、これに「産地銘柄等の表示」(41.2%)と「肉の色と光沢」
(40.1%)が続いている。以下、「肉汁の有無」(13.3%)、「肉のしまり」
(12.0%)、「清潔できれいなパックや陳列」(6.3%)となっている。

 上記の6項目(品質要素)のうち「肉の色と光沢」および「肉のしまり」は明
らかに鮮度の尺度であるから、この2項目を「鮮度」に加えると、消費者の鶏肉
に対する品質評価は「鮮度」に圧倒的なウエイトが置かれていることがわかる。

 鶏肉は牛豚肉に比べて熟成期間が極端に短く、特に若齢(35〜55日齢)のブロ
イラーではと殺処理後4〜8時間で死後硬直が解けると言われている。その上、鶏
の処理は大羽数を同時に短時間で行い、またスピンチラー(連続式冷水冷却装置)
を使用するためクロスコンタミネーション(個体間の相互汚染)の機会が多い。
また、牛豚肉は皮をはいで食用に供するが、鶏肉は皮つきのまま食用に供するか
ら細菌汚染のリスクも大きい。

 大多数の消費者は、もちろんこのような鶏肉についての専門知識を持っている
わけではないが、感覚的あるいは経験的に「鶏肉は変質しやすい」ことを知って
おり、それだからこそ、「鮮度」が一番大切だと実感しているのである。
 

食鶏取引・小売規格は鮮度を最重要視

 食鶏取引規格は、昭和36年度に初めて設定され(農水省・畜産物取引規格設定
協議会)、この規格では、食鶏の種類、名称、重量区分等について、全国共通の
取引基準が設定されたが、それと同時に、食鶏の生体およびと体の品質標準が設
定された。当時は肉用若鶏の生産に採卵用鶏種が多く使用されていたため、一般
に食鶏の肉づきが貧弱で、その改善が強く要望されており、品質標準は肉づきを
中心とするものであった。

 食鶏取引規格はその後、食鶏の取引形態や取引品目の変化、鶏種、マーケット
サイズ(出荷時の体重)等の変化に合わせて、42年度、44年度、48年度、52年度
の4回の改定を経て、平成4年度改定の現行規格に至っている(いずれも農林水産
省畜産局長通達として実施)。

 また、昭和48年度には、小売店頭での表示を目的とする食鶏小売規格が初めて
設定され、これも52年度の改定を経て平成4年度改定の現行規格となっている(
同じく畜産局長通達として実施)。
 
  このように、食鶏取引・小売規格は、それぞれ数回の改定を経て、その都度、
食鶏の流通・消費の実態に即した内容に改められて、国内での食鶏の流通、販売
の規範となっている。

 食鶏の品質基準については、取引規格では、と体、中ぬきおよび解体品の主品
目(骨つき肉と正肉類)について表1のとおり、A級およびB級の品質標準を定め
ている。 

 取引規格の品質標準による格付は、食鶏が流通段階で取引される時点で表1の
品質標準表の全項目を満足することが条件とされている。また食鶏小売規格の品
質標準は表2のとおりで、小売店頭で販売される生鮮品(丸どり、骨つき肉およ
び正肉類)は、特選品および標準品の品質表示を行う場合、この品質標準表の全
項目を満足することが要求される。

						

表1 食鶏取引規格「中ぬき」および「解体品主品目」(骨つき肉および正肉類)の品質標準

 格付は、中ぬきおよび解体品主品目の個々のものについて行い、流通段階にお
ける取引の時点で、品質標準表の全項目を満足しなければならない。中ぬきと解
体品主品目の格付は別個である。
 

表2 食鶏小売規格「丸どり」「骨つき肉」および「正肉類」の品質標準

 格付は、丸どり、骨つき肉および正肉類の個々のものについて行い、小売店頭
で販売される時点で、品質標準表の全項目を満足しなければならない。丸どり、
骨つき肉および正肉類の格付は別個である。


 上記の食鶏取引規格および食鶏小売規格の品質標準表を見て容易に理解される
ように、取引規格のA級およびB級はいずれも鮮度良好なことが共通の基本条件と
なっている。

 また、小売規格では、特選品と標準品は鮮度以外の品質項目については大差が
ないが、鮮度については、特選品は「鮮度が特に良いもの」に限定されている。

 このように現行の食鶏取引規格および小売規格の品質標準は「鮮度」を最重要
視した内容となっている。

「品質標準」の軽視が偽装販売の横行を許す

 上述のとおり、食鶏取引規格および食鶏小売規格の「品質標準」は、消費者の
視点で、常に時代を先取りして改定されてきたが、その実施状況を見ると、食鶏
の種類、品目および形態、名称、重量区分等は流通、小売の各段階で十分に普及、
実施されている反面、「品質標準」については軽視あるいはなおざりにされてき
たきらいがある。

 例えば、取引規格の等級については、日本経済新聞の荷受相場のと体や正肉は
A級であることを取引の条件としており、ブロイラー先物取引においても取引要
綱に品質標準A級の生鮮品と規定しているが、その格付は関係業者の自主的格付
に過ぎず、公的あるいは第三者格付ではない。また小売規格の等級表示について
はほとんど実施されていないのが実情である。

 このように、食鶏の規格で最も重要されるべき「品質標準」がなおざりにされ
てきた理由についてはあえて言及しないが、規格の品質標準が国産鶏肉に限定し
て適用されることを考え合わせれば、国産鶏肉が輸入鶏肉に対抗できる最も強力
なよりどころである「鮮度」を担保する「品質標準」がなぜ活用されないのか理
解に苦しむ。

 食鶏取引規格および小売規格の品質標準が、遅くとも昭和50年代から普及、徹
底し、厳格に適用されて、消費者や食品サービス産業、食品小売業(特にスーパ
ー)関係者の理解と信頼を得ていたとしたら、昨今見られるような鶏肉の偽装販
売など発生する余地は無かったのではないか。

 社団法人中央畜産会が「消費者の視点に立脚した新世紀養鶏の確立に向けて」
と銘打って平成12年度にとりまとめた「養鶏問題懇談会報告書」にも、「鶏肉は
鶏卵と同様に鮮度が重要な生鮮食品であり、0〜4℃保管でと殺処理後8時間以上7
2時間以内に調理されることが風味(フレーバー)や味の点で最良であることが
知られている」と明記されている。


鶏肉の鮮度は計測できるか

 前出表1、表2の食鶏取引・小売規格の品質標準表で、「鮮度」は視覚による官
能的判定にゆだねられており、その判定には相当の経験と熟達を要する。熟練、
熟知すれば、鶏肉(生鮮品)を一見してその鮮度を判定することが可能であるが、
一般の消費者や経験の乏しいスーパーの店員などにこれを求めるのは無理で、鶏
肉の鮮度を正確に計測できる機器の開発、普及が望ましい。

 幸い、最近2種類の鮮度計測機器が開発、実用化されており、その普及が期待
される。

 その1つは「K値測定器」で、これは、動物の筋肉内に存在するエネルギー物質
ATP(アデノシン3リン酸)がと殺後ADP(アデノシン2リン酸)→AMP(アデノシ
ン1リン酸)→IMP(イノシン酸)→HXR(イノシン)→HX(ヒポキサンチン)と
変化することに着目して、最終分解物質であるHXRとHXの占める割合で鮮度を判
定するものである。このK値測定器を使った多数の測定事例を総合すると、0〜4
℃で保存された鶏肉のK値は、と殺処理後2〜3日間の鶏肉では20%以下であるの
に対して、5〜6日あるいはそれ以上保存した鶏肉では40%以上になる。

 社団法人日本食鳥協会の調査(11年度実施)によると、量販店は生鮮鶏肉の販
売期限をと殺処理後4日までとしており、また鶏肉専門小売店の多くはと殺処理
後2日までとしているから、小売店頭で販売されている鶏肉のK値は低く、鮮度は
極めて良好と推定される。

 輸入鶏肉については、チルド生鮮品でも原産国でと殺処理されてから日本国内
の小売店頭に並べられるまでに6日間以上を経過しており、そのK値は40〜70%以
上で、国産生鮮品と大差があるから、小売店頭で販売されている鶏肉(生鮮品)
や業務用に流通する生鮮品について、K値の測定による国内産鶏肉と輸入鶏肉(
生鮮品)の判別は可能である。

 鮮度計測機器のその2は、イギリス農林水産食料省(トリー研究所)が開発し
たトリーメーター鮮度計で、これは魚体の誘電導と導電率から魚の鮮度を推定す
る非破壊簡易鮮度計で、その使用方法は極めて簡単で、鶏肉の鮮度も同様に測定
可能と考えられる。また、このトリーメーターによって、生鮮品と解凍品の判別
も可能であるという。

 鶏肉の流通・販売におけるトレーサビリティの確立ももちろん必要であろうが、
小売店、スーパーの店頭で販売される鶏肉(生鮮品)や業務用(外食や中食)の
食材として使用される鶏肉(生鮮品)の鮮度が上記のような計測機器によって簡
単に測定できるようになれば偽装販売は即座に露見することになる。

 消費者の熱望する新鮮な鶏肉の販売を保証するために、誰にでも簡単に取り扱
うことのできる鮮度測定機器の開発と普及が待望される。



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