◎今月の話題


 牛肉トレーサビリティ法を
  始めとするこれからの食と農

 竹田市九重野地区担い手育成推進協議会
  会長 後藤 生也





 牛肉の生産流通履歴を追跡できるシステムを制度化した牛肉トレーサビリティ法
が去る6月4日参院本会議で可決、成立したことは大抵の畜産農家も既に承知のこと
と察する。


 私は担い手育成による集落営農のリーダーとして、去る2月20日付け日本農業新聞
「私の紙面批評」で「食の安全へ適切な分析を」と題して一文を投じた。ここでも
その法の本質の在りようと趣旨徹底について、一言述べたいと思う。


 高齢化が一層深刻化する中山間地域で自らの生き残りを懸け集落営農を実践し、
農村が持つ多面的機能の維持のため、また、畜産農家として谷間の棚田を利用して
の「谷ごと農場」の取り組みに夢とロマンをもって、牛飼いを生きがいに「生涯現
役」を自認して頑張る河野さんらの姿を見る時、「集落営農」のリ−ダーとして心
底から感銘する。さらに感心したのは、今、畜産農家の大きな課題とも言うべき牛
肉トレーサビリティ法についてどのように考えているのか、話を聞いてみた際の答
えである。「法施行による規制が厳しくなることも考えられるが、現在行っている
「谷ごと農場」では飼料を始め殆どが自給であり、また豊かな大自然と太陽の中で
の育成である。「BSE」が世界的な問題となった時、生産履歴が重要であると大き
くとりあげられたが、わが子に花嫁衣装を着せて送り出すのと同様に、自らが生ま
せ育てた牛にも婚姻届に必要な戸籍謄本としての生産履歴書を付けて送り出すこと
は当然のこと」とむしろ自信ありげな答えが返ってきたことに対し、私は本当に内
心意外な思いがしたものである。


 最近、全国各地で水田放牧、舎外放牧が数多くみられるようになった。形は変え
ているが、基本的理念には全く変化がなく、その数は年々増加しており、九重野地
域にとどまらず、周辺集落(自治会)に広く波及効果が表れていると言える。


 次に牛肉トレーサビリティ法についてだが、先般の紙面批評で述べたようにこの
法の必要性については、「食」と「農」を通じて消費者と生産者の共有の課題であ
ると認識しており、前述の農家の言葉にみられる如く、われわれ農家自身が、この
法の持つ基本理念と趣旨について、充分に理解し認識をすることが大切であると考
える。また一方、この法にとどまらず全ての農政について、国、県、各市町村、農
協の責任において趣旨徹底を図ることこそ、急務である。


 今ここで、あらためて、「食と農、消費者と生産者の結び付き」、それこそが、
地産地消、スローフードの持つ意義ではなかろうかと考える。


 国の農政はノー、県農政はなってない、市町村はなおだめ、などとのボヤキ農業
でなく、グローバル化する農業情勢に即応し、一歩でも、ステップアップするには、
永い歴史の中で培われ、育まれた、雑草の如き農民の自助努力、そして、一にも二
にもやる気であり、農政を明るい展望へと導くことこそ一番大事な事であろうと考
えている昨今である。

※―― 「谷ごと農場」の概略 ――

 @経営主   河野達雄 竹田市九重野


 A経営の状況
  ・経営形態 肉用牛繁殖経営
  ・労働力  2人
  ・飼養頭数 成雌牛6頭
  ・作付面積 水稲 30アール
  ・飼料作物 100アール(放牧利用50アール)
  ・雑木林  110アール
  ・放牧形態 水田と隣接する山林をとりこんだ「谷ごと放牧」
	      (谷ごと放牧発祥の地)


 B放牧の特徴
   水田と雑木林地を活用した周年放牧体系の導入
   電気牧柵を利用した牧区を移動しながら放牧する輪換放牧


 C放牧に取り組んだ経緯
   県南西部の祖母、傾山系の標高500〜600mの典型的な中山間地域に位置する九重
    野地区では、平成5年度からの水田基盤整備に取り組んできたが、その中でも百木
    集落では、肉用牛経営が盛んなことから、遊休地や転作田の保全、肉用牛飼養管
  理の省力化のため、12年に2戸の農家が共同利用で水田や山林を電気柵、有刺鉄線
  で取り囲んだ放牧に取り組んだ。


 D放牧地造成
  ・基盤整備後の棚田と隣接雑木林


 E放牧地管理方法
   放牧の水田は、夏は青葉ミレツト、冬はイタリアンライグラス+エンバクの混種
  で、雑木隣地の下草と合わせて、周年での放牧が可能となっている。


 F放牧の実施状況
   成雌牛、育成牛、子牛の全頭を放牧しており、水田では電気牧柵で牧区を区分し
  ている。移動は容易で、草の生育状況を見ながら適宜牧区を変更している。草の不
  足する時期には隣接する畜舎で濃厚飼料を若干量は給与している。
   給水は谷の湧水を利用しており、衛生対策ではダニ駆除を月1回程度実施してい
  る。


 G放牧の導入効果
  ・飼料費等の生産コストの低減
  ・飼料管理労力と水田管理の省力化
  ・受胎率等の繁殖成績の向上
   今後の課題としては、新鮮な飲用水を確保するための施設整備や冬季粗飼料の確
  保と考えている。


 H将来計画
   牧草の生産量を確保しながら、成雌牛10頭までの増頭を計画している。
   都市との交流や畜産への理解を深めるための「谷ごと放牧」を見渡せる展望施設
  の設置も計画している。


ごとう せいや

昭和30年	竹田市連合青年団初代団長
  同 年	竹田市役所勤務(社会教育主事)
昭和43年	竹田市役所退職
昭和45年	宮砥地区自治連合会会長、市連合会監査委員
昭和50年	市議会議員4期
平成10年	竹田市農業支援アドバイザー
平成12年	担い手育成推進協議会会長
平成13年	宮砥地区観光推進委員会会長
景観保全・整備、歴史・伝統文化保全、教育・学習、地域社会の保全・整備、都市・
農村交流等支援活動を実施

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