◎調査・報告


地鶏の長期熟成に伴う肉質
(呈味成分、肉の硬さ・軟らかさ、食味性)
の変化と最適熟成条件の確立
(14年度畜産物需給関係学術研究情報収集推進事業報告書から)

広島大学大学院生物圏科学研究科
西村 敏英、都築 政起、田辺 創一




はじめに

 近年、消費者の健康志向並びにし好の多様化から、鶏肉の消費量が増加している。また、これまで肉用鶏として主流であるブロイラーとは一味違うおいしい鶏肉の供給を目的として、各地で新しい銘柄鶏(地鶏)の生産が盛んになっている。地鶏の多くは日本在来種である大シャモ、比内鶏、名古屋種と外来種を交配させたもので、特定の産地や品種を強調して販売されている(引用文献1)。

 従来、鶏肉は新鮮なものほどおいしいとされていて、多くの鶏肉の肉質に関する研究は、と鳥直後の鶏肉を用いて分析されていた。しかし、鶏肉も、畜肉と同様に一定期間低温で貯蔵する熟成処理を施すことにより、肉質が改善されておいしくなることが明らかとなってきた(引用文献2−4)。したがって、と鳥直後の鶏肉に関する分析データは、必ずしも食する時の肉質を反映していないことになる。ブロイラーについては、これまで熟成を考慮した肉質分析が若干なされていたが、週齢の高い地鶏の熟成に伴う肉質の変化に関する研究は、ほとんどなされていない。

 我々は、地鶏の成長はブロイラーに比べて遅いことに着目し、週齢の異なる地鶏の熟成に伴う呈味成分を検討した(引用文献5)。その結果、週齢が高い鶏肉の呈味成分の増加速度は若い鶏の肉のものより小さいことが明らかになった。また、と鳥後3日間熟成した、20週齢大シャモF1もも肉の呈味成分量は、8及び12週齢のものより低いことが判明した。したがって、成長速度の遅い地鶏をよりおいしい食肉として供給するためには、ブロイラーよりも長い熟成期間を要すると考えられる。しかし、どれくらい熟成すればおいしい地鶏を供給できるかについては、全く明らかにされていない。

 そこで、本研究では地鶏として、大シャモとロードアイランドレッドを交配した交雑種20週齢を用い、と鳥後7日目まで長期熟成した時の肉質(呈味成分と肉の硬さ・軟らかさ)の変化を解析した。また、官能検査を行い、食味性も検討した。これらの結果を総合的に判定して、地鶏の最適熟成条件を決定し、おいしい地鶏の供給に貢献することを目的とした。  

地鶏むね肉の熟成に伴う硬さの 変化

 と鳥直後の筋肉は軟らかいが、しばらくすると死後硬直を起こし、食肉は硬くなる。死後硬直した肉は食品としての価値が低いが、肉を低温で貯蔵し熟成させると、肉は解硬現象により段々軟らかくなる。十分に解硬した肉は、軟らかくなるだけでなく、味や香りも向上するのでおいしいと感じる(引用文献6、7)。死後硬直の時間は畜種によって異なるが、ブロイラーでは経験的にと鳥後4−6時間程度と言われている。最近、この時間帯を骨付き状態で貯蔵し、1から2日間熟成すると、ジューシーでかつ軟らかい鶏肉が得られることが明らかにされている(引用文献8)。しかし、ブロイラーに比べて成長速度の遅い地鶏では、熟成に伴う硬さの変化についてはほとんど調べられていない。

 そこで、20週齢の大シャモ交雑鶏を用いて、と鳥後、4℃、通称カブト(胴体部分)の状態で3、5、7日間貯蔵した。これらを低温下で脱骨し、むね肉を加熱した後、その破断応力をレオメーター(Model;R-DM-2、(株)サン科学)を用いて測定した。

 熟成したむね肉の破断応力はと鳥直後のものよりも小さかった(図1)。したがって、20週齢の地鶏むね肉は、カブトの状態で3日間熟成すると十分軟らかい肉が得られることが明らかとなった。しかし、3日間以上熟成させても、その値は変化しないことが判明した。また、7日間熟成させたものは、ドリップロスが多く、肉汁の損失が大きいと推察された。

 次に、地鶏の長期熟成に伴う遊離アミノ酸、ペプチドおよび核酸関連物質の変化を調べ、最適熟成期間を決定することを試みた。

図1.地鶏胸肉の熟成に伴う硬さの変化

地鶏肉の熟成に伴う遊離アミノ酸の変化

  上記と同様に、カブトの状態で4℃、3、5、7日間貯蔵したものを低温下で脱骨し、むね肉およびもも肉中の総遊離アミノ酸の変化を測定した(図2)。と鳥直後のもも肉に含まれる総遊離アミノ酸量は、むね肉の含量より約3倍高かった。それぞれの肉を長期熟成すると、遊離アミノ酸は増加した。5日目までの熟成で、むね肉の熟成に伴う遊離アミノ酸の増加速度は大きかった。一方、もも肉の遊離アミノ酸速度は、胸肉ほど大きくなかったが、一定速度で遊離アミノ酸の増加が認められた。このように、遊離アミノ酸の増加速度が、部位によって異なっていたのは大変興味深い現象である。この違いは、その増加に関わっているアミノペプチダーゼ量の違いを反映している可能性が推察された。

 一般的にもも肉はむね肉よりもおいしいといわれている。この理由の1つとして、後者の遊離アミノ酸量が前者のものより少ないことが考えられる。我々のデータから、むね肉をよりおいしいものに改善するためには、従来の熟成期間よりも長くする必要が示唆された。

 むね肉およびもも肉の熟成に伴う各遊離アミノ酸の変化をそれぞれ図3と4に示した。いずれの肉でも、ほとんどの遊離アミノ酸は熟成に伴い増加していた。

 むね肉では、いずれのアミノ酸も5日間の熟成に伴い著しく増加した。しかし、5から7日目の熟成期間での増加はあまり大きくなかった。この要因の1つとして、7日間の肉ではドリップが多かったことから、遊離アミノ酸がドリップと共に流出した可能性が考えられた。また、むね肉には、うま味の発現に最も寄与しているグルタミン酸、甘味に関与しているアラニンが多く含まれていた(図3)。

 一方、もも肉では、各遊離アミノ酸の増加量はむね肉に比べて小さかった。もも肉に最も多く含まれる遊離アミノ酸としては、うま味の発現に最も寄与の大きいグルタミン酸であった。また、甘味を呈するアラニンとグリシンもグルタミン酸の次に多く含まれていた(図4)。


図2.地鶏肉の熟成に伴う総遊離アミノ酸量の変化

図3.地鶏胸肉の熟成に伴う各遊離アミノ酸の変化

図4.地鶏腿肉の熟成に伴う各遊離アミノ酸の変化

地鶏肉の熟成に伴うペプチドの変化

 熟成によるペプチドの増加は、食肉のまろやかさの増大に寄与することが報告されている(引用文献9)。よって、地鶏肉の熟成に伴う呈味改善効果を評価するときには、ペプチドの変化を測定する必要があると考えられる。

 地鶏むね肉およびもも肉の長期熟成によるペプチド量の変化を図5に示した。むね肉のペプチド量は5日目まで増加し、その後減少した。ペプチドは、アミノペプチダーゼの基質となるため、アミノ酸へと分解される。5日間の熟成においてペプチドの増加が認められたのは、ペプチドを生成するエンドペプチダーゼの活性がアミノペプチダーゼの活性を上回っていたためと推察された。5から7日目でペプチドが減少したのは、エンドペプチダーゼ活性が減少すると共に、ペプチドがドリップと共に流出したことが考えられた。

 一方、もも肉のペプチド量は、長期の熟成期間中にほとんど変化しなかった。もも肉の遊離アミノ酸量は熟成に伴って増加していた。したがって、もも肉ではエンドペプチダーゼによって生成されたペプチド量に相当する分が、アミノペプチダーゼによって遊離アミノ酸へと分解されたと推定された。

 むね肉ともも肉のペプチド量を比較すると、前者が後者よりも高い値を示した。特に、3から5日間熟成した肉では、むね肉のペプチド量は、もも肉の約2倍であった。

図5.地鶏肉の熟成に伴うペプチド量の変化

地鶏肉の熟成に伴う核酸関連物質の変化

 地鶏むね肉の長期熟成における核酸関連物質の変化を図6に示した。うま味の発現に寄与するイノシン酸(IMP)量は、と鳥直後が最大で、その後の3日間での貯蔵で急激に減少し、以降ほぼ一定の速度で減少した。

IMPの代謝物であるイノシン(Ino)やヒポキサンチン(Hyp)は、長期の熟成期間で徐々に増加していた。地鶏むね肉のIMP量は、と鳥直後に約8.5μモル/g肉の最大値を示し、7日間熟成した後も、約4μモル/g肉を示していた。

 一方、地鶏もも肉の長期熟成における核酸関連物質の変化を図7に示した。むね肉の場合と同様にIMPは、と鳥直後に最大値を示し、5日目まで急激に減少した。その後、変化が認められなかった。その代謝物であるイノシン(Ino)やヒポキサンチン(Hyp)も5日目までは徐々に増加したが、その後は変化が認められなかった。地鶏もも肉のIMP量は、と鳥直後に約6μモル/g肉の最大値を示し、7日間熟成した後も、約2.3μモル/g肉を示していた。

 核酸関連物質の中で、特にIMP量を部位別に比較してみると、熟成前のIMP量はむね肉の方がもも肉よりも多かった。この結果は、先に地鶏並びにブロイラーの短期熟成による呈味成分の変化を測定したときの結果と同じであった。このように、部位によってIMPの含量が異なる要因の1つとして、AMPをIMPへ分解するAMPデアミナーゼの活性量が部位によって異なることが考えられる。またIMPの減少速度が部位によって異なっていた点も大変興味深い。この理由の1つとして、 IMPがイノシンと変換される5‘−ヌクレオチダーゼの活性量が部位によって異なることが考えられる。今後、検討する必要があろう。

 また、先にも記述したように、一般的に、もも肉がむね肉よりおいしいといわれている。前項で、うま味に寄与しているグルタミン酸を含む遊離アミノ酸の含量は、むね肉よりもも肉で大きいことが明らかとなった。本研究で、むね肉の IMP量は、もも肉のものより多かったことを考えると、もも肉のうま味の発現には、 IMPよりグルタミン酸を含む遊離アミノ酸がより重要であると推察された


図6.地鶏胸肉の熟成に伴う核酸関連物質の変化

図7.地鶏腿肉の熟成に伴う核酸関連物質の変化

地鶏食味性の評価

 地鶏むね肉ともも肉の長期熟成における物性や呈味成分の結果と食味性との関係を明らかにするために、むね肉ともも肉を加熱調理し、食味性、特に硬さ・軟らかさとうま味の強さを官能検査によって評価した。

 胸肉の硬さ・軟らかさの評価に関する結果を図8に示した。棒グラフには、軟らかいと評価したパネラーの数を表示した。と鳥直後のものと3日間熟成したものの比較では、3日間熟成したむね肉が、有意に(p<0.01)軟らかいと評価された。また、3日間熟成のものより5日間熟成のものの方が軟らかいという傾向が認められた。5日間と7日間熟成のものの比較では、硬さ・軟らかさには差が認められなかったが、7日間熟成のものはぱさぱさ感が大きいという評価が得られた。ここで得られた官能評価の結果は、前述の破断応力の結果とよく対応していた。したがって、3日間以上の熟成により、むね肉はより軟らかくなり、おいしくなることが明らかとなった。

 むね肉のうま味の強さに関する結果を図9に示した。うま味の強さは、どの比較においても有意差は認められなかった。と鳥直後の肉より3日目のものでうま味が強く評価されたことは、グルタミン酸を含む遊離アミノ酸の増加とよく呼応していた。しかし、3日間以上熟成した肉においては、うま味の強さに違いが認められなかった。この理由の1つとして、遊離アミノ酸は増加したが、 IMPが減少したことが考えられる。この点については、今後さらに検討が必要である。

 これらの結果から、十分に軟らかく、うま味も強い地鶏むね肉は、5日間の熟成により得られると推察された。

 もも肉の硬さ・軟らかさの評価に関する結果を図10に示した。と鳥直後のものと3日間熟成したものの比較では、3日間熟成したむね肉が、有意に(p<0.01)軟らかいと評価された。また、3日間と5日間熟成のもの並びに5日間と7日間熟成のものの比較では、硬さ・軟らかさには差が認められなかった。したがって、3日間以上の熟成により、もも肉はより軟らかくなり、おいしくなることが明らかとなった。

 次に、もも肉のうま味の強さに関する結果を図11に示した。うま味の強さは、どの比較においても有意差は見られなかった。しかし、と鳥直後のものより3日間熟成したもので、また、3日間熟成したものより5日間熟成したもので、うま味が強い傾向が認められた。逆に、7日間熟成のものが、5日間熟成のものよりうま味が弱いという傾向が見られた。官能評価によるうま味の強さに関する結果は、呈味成分の変動とほぼ一致したといえる。と鳥直後の肉より5日目まで熟成したものでうま味が強い傾向を示したことは、グルタミン酸を含む遊離アミノ酸の増加とよく呼応していた。しかし、うま味の強さに有意差が認められなかったのは、遊離アミノ酸の増加が小さかったことに起因していると推察された。

 これらの結果から、十分に軟らかく、うま味も強い地鶏もも肉は、3日間の熟成により得られると推察された。


図8.地鶏胸肉の熟成に伴う軟らかさの変化

(官能検査は、2点識別法で行った。棒グラフは、軟らかいと評価したパネラーの数を示す。)

図9.地鶏胸肉の熟成に伴ううま味の強さの変化

(官能検査は、2点識別法で行った。棒グラフは、うまみが強いと評価したパネラーの数を示す。)

図10.地鶏腿肉の熟成に伴う軟らかさの変化

(官能検査は、2点識別法で行った。棒グラフは、軟らかいと評価したパネラーの数を示す。)

図11.地鶏腿肉の熟成に伴ううま味の強さの変化

(官能検査は、2点識別法で行った。棒グラフは、うまみが強いと評価したパネラーの数を示す。)

まとめと今後の課題

  本研究の結果、大シャモ交雑鶏20週齢のむね肉ともも肉を骨付き状態で、と鳥後3日間熟成することにより、軟らかくなることが明らかになった。また、むね肉を長期間熟成すると、うま味成分であるグルタミン酸を含む遊離アミノ酸やまろやかさに寄与するペプチドが増加することが明らかになった。一方、もも肉を長期熟成すると、遊離アミノ酸は増加するが、ペプチドはほとんど変動しないことが判明した。また、うま味発現に重要な成分であるIMPはと鳥直後の肉で最大値を示し、その後減少することが明らかとなった。このように、部位によって呈味成分の変動に違いが認められたことは、興味深い問題であり、今後の検討課題として残された。

 各熟成期間のむね肉ともも肉について、硬さ・軟らかさとうま味の強さを官能検査により評価した。むね肉、もも肉ともに、3日間以上熟成することにより有意に軟らかくなることが明らかになった。うま味は、むね肉では5日間の熟成まで、またもも肉では3日間の熟成まで強くなる傾向が認められた。

 以上の結果から、20週齢の大シャモ交雑種では、軟らかくて、うま味の強いむね肉ともも肉は、と鳥後それぞれ5日間および3日間熟成することによって得られると結論された。

[引用文献]
 1)国産銘柄鶏ガイドブック2000年度版(日本食鳥協会監修、全国食鳥新聞社発行)(2000)
 2)Nishimura, T. , Rhue,M.R. , Okitani, A. and Kato, H. , Components Conditioning to the Improvement    of Meat Taste during Storage, Agric. Biol. Chem, 52( 9 ), 2323-2330(1988)
 3)Kato, H. and Nishimura, T. , Taste Components and Conditioning of Beef, Pork and Chicken, in          “Umami: A Basic Taste”(Eds. By Kawamura, Y. and Kare, M. R.)Marcel Dekker Inc.(New York)pp.    289-306(1987)
 4)駒井 亨、西村敏英、三船和恵、笠原 猛、都築政起、「鶏肉のおいしさを探求する(座談会)」、鶏鳴新   聞、4月1日号、4月15日号(2001)
 5)西村敏英、都築政起:「地鶏並びにブロイラーの解体前及び解体後の熟成に伴う肉質(呈味成分、肉の硬   さ・軟らかさ)の変化」平成13年度畜産物需要開発調査研究事業報告書、117-132(2001)
 6)Nishimura, T. , Mechaism Involved in the Improvement of Meat Taste During Postmortem Aging, Food    Sci. Technol. Int. Tokyo, 4( 4 ), 241-249(1998)
 7)西村敏英、「食肉のおいしさ」、日本味と匂学会、8( 2 ), 161-168(2001)
 8)奥村朋之、犬塚雄介、小川真理子、小川俊也、中村丈志、井手 弘、久保正法、西村敏英、「除骨時間が   鶏胸肉の肉質に及ぼす影響−食味性、理化学的および組織的特性について−」、日本畜産学会誌、73,   291-298(2002)
 9)西村敏英、「食品の呈味形成におけるペプチドの役割を探る、ペプチドの呈味性および味覚変革作用」、化   学と生物、39( 3 ), 177-183(2001)

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