★ 農林水産省から


50周年を迎えた動物検疫所

動物検疫所 企画連絡室 調査課長 大塚 誠也




はじめに

 動物検疫は、外国から輸入した動物、畜産物等を介して家畜の伝染性疾病が
日本国内に侵入することを防止するほか、外国に家畜の伝染性疾病を広げるお
それのない動物、畜産物を輸出することによって国際信用を高め、もってわが
国の畜産の振興に寄与すること、また、狂犬病、エボラ出血熱など人畜共通感
染症の侵入防止を図り、公衆衛生の向上および公共の福祉の増進を図ることを
目的としている。


動物検疫所の誕生

 昭和26年に制定された現行「家畜伝染病予防法」に輸出入検疫に関する独立
した章が設けられ、これにより、水際防疫と国内防疫という現在の家畜防疫体
系が作られた。その当時は動植物検疫所として設置されていたが、翌年3月、
農林省設置法の一部改正により、「動植物検疫所」は「植物防疫所」と「動物
検疫所」に分離・独立し、併せて家畜伝染病予防法も一部改正され、現在の動
物検疫所が誕生した。

 27年4月、動物検疫所は、1本所(横浜)、3支所(名古屋、神戸、門司)、
5出張所(函館、羽田、大阪、敦賀、長崎)の体制となり、定員59名で業務を
開始した。


動物検疫所の変遷

 動物検疫所は、その誕生以降、昭和30年代には、国際航路の開設による海港、
空港の国際化等、同40年代には、高度経済成長に伴う輸出入される検疫対象物
の種類の拡大および量の増大ならびに沖縄の復帰等、同50年代には、成田空港
の開港、地方空港の国際化等、同60年から平成初頭にかけては、円高による動
物・畜産物輸入の急増および海外旅行ブーム等、近年では、成田空港第2ター
ミナルの供用開始、関西国際空港の開港、サルの検疫の開始等に対応するため、
組織の充実等を図ってきているところである。

 その結果、50周年を迎えた現在(平成14年4月)では、1本所、6支所、17
出張所、5分室体制(図1)となり、定員338人で業務を実施している。

◇図1 動物検疫所の配置と指定港◇


動物検疫の流れ

 動物検疫の対象となる動物を輸入する場合には、輸入者は、必要に応じ、あ
らかじめ動物検疫所に、動物の輸入の日時、場所等について届出を行う。輸入
された動物は、直ちに家畜防疫官が行う臨船(臨機)検査を受けたのち、動物
検疫所または農林水産大臣が家畜防疫上安全と認めて指定する検査場所に送ら
れ、一定期間けい留される。この間、臨床検査、血清反応検査、血液検査、ア
レルギー反応検査(ツベルクリン、ヨーニン)などのほか、病原学的検査、病
理組織学的検査などの精密検査を実施する(図2)。

 同様に、動物検疫の対象となる畜産物については、動物検疫所、家畜防疫官
が指定した保税上屋・倉庫・コンテナターミナルまたは農林水産大臣が指定し
た場所で、家畜防疫官によって監視伝染病の病原体を拡げるおそれの有無につ
いて検査が行われる。また、必要に応じて検査材料が採取され、精密検査が行
われる。悪性の伝染病の発生している地域から輸入される皮、毛類等の畜産物
に対しては、消毒が実施される(図3)。

 輸入される犬、猫、あらいぐま、きつね、スカンクについても、係留施設に
おいて、狂犬病の疑いの有無について検査が行われる(犬については、レプト
スピラ病も検査される)。

 国際郵便で輸入される畜産物やみつばち等は、国際郵便局において検査が行
われる。

◇図2 動物の輸入検査の流れ◇
◇図3 畜産物等の輸入検査の流れ◇



 

近年の動物検疫を巡る状況と対応

口蹄疫関係

 12年3月、92年振りに国内で口蹄疫の発生があったが、その発生原因として
口蹄疫発生地域から輸入された、穀物のわらおよび飼料用の乾草(以下「わら
等」という。)の関与が疑われたことから、家畜伝染病予防法および同法施行
規則の一部が改正され、12年12月30日より施行規則第43条の表の地域(口蹄疫
等の汚染地域)から輸入されるわら等については指定検疫物とされた。中国か
ら輸入されるわら等の安全を確保するため、同国へ家畜防疫官を派遣し、消毒
の実施状況等について立会いにより確認を行う等厳重な侵入防止対策を実施し
ている。

狂犬病予防法関係

 11年10月、本法の一部改正により輸出入検疫の検査対象動物として新たに、
猫、あらいぐま、きつねおよびスカンクが追加され、12年1月から施行された。
動物検疫所では、これらについても検疫を実施することにより狂犬病の侵入防
止等に努めている。

感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律関係

 10年10月本法が新たに制定され、12年1月から施行された。動物検疫所にお
いては、成田支所および関西空港支所に霊長類検疫施設を設置し、同法に基づ
き、サルを対象動物とし、エボラ出血熱、マールブルグ病を対象疾病として検
疫を行っている。

牛海綿状脳症対策関係

 13年9月にわが国において確認された牛海綿状脳症に対し、農林水産省は、
「BSEに関する技術検討会」等からの技術的助言を踏まえ、13年10月以降すべ
ての国からの肉骨粉等の輸入を一時停止することとしたことから、動物検疫所
においては、水際にてこれら飼料用肉骨粉等の輸入一時停止措置を講じている。

電子政府化関係

 動物検疫所では、9年より動物検疫手続電算処理システム(ANIPAS)を導入
し、貨物畜産物の輸入検査手続の迅速化を図っている。また、近年の急速な電
子技術の進歩やインターネットの爆発的な普及を背景として、政府全体で行政
手続きの電子化あるいは行政情報のインターネットを利用した提供等を可能と
する電子政府を実現するという方針が示されていることから、14年にホームペ
ージ(http://www.maff−aqs.go.jp/)をリニューアルして海外旅客向けの情
報提供や電子メールによる各種問い合わせへの対応を充実するとともに、輸入
動物についても畜産物と同様のシステムの運用を開始している。現在は、輸出
動・畜産物の申請手続ならびに動物の輸入事前届出等の輸出入検査申請以外の
申請手続等についても電子システムを開発している。


危険度分析関係

 ガットウルグアイラウンド交渉の結果、WTO協定の1つとして発効したSPS協
定の規定が、国際貿易に関し直接または間接に影響を及ぼす全ての検疫措置に
適用されることになり、WTO加盟国は原則として国際基準に基づいて自国の検
疫措置をとることが義務付けられた。このため、動物検疫においては、国際機
関の定めた危険性の評価法を考慮しつつ、科学的根拠に基づき危険性を評価し
た上で、検疫上の適切な保護水準を決定するための理論的裏付けとする危険度
分析を実施することとし、11年に危険度分析課が設置された。


おわりに

 昭和27年に動物検疫所として業務を開始してから既に50年を経過したところ
であり、これまでの間の国内の家畜衛生状況の維持、向上には一定の貢献をし
てきたものと考えているが、残念ながら、12年3月、92年振りに国内で口蹄疫
の発生があり、また13年9月にはわが国で最初の牛海綿状脳症が確認されたと
ころである。

 口蹄疫については家畜衛生関係者等の多大なご努力により短期間のうちに清
浄国に復帰することが出来、動物検疫所においても、再発防止のため新たにわ
ら等を検疫対象に加える等厳重な動物検疫を実施しているところである。一方、
牛海綿状脳症の発生を背景に、安全で安心な食料の安定供給への国民的要請が
強まっており、今後はこうした面での社会的な責任と期待が増大するものと考
えている。動物検疫所としては、これまで以上に国民の皆様のご理解を得ると
ともに、関係機関との連携を密にして水際検疫に取り組んでまいりたい。

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