◎専門調査レポート


公共たい肥センターによる良質たい肥生産・流通のシステム作り 

−宮崎県を事例に−

岡山大学 農学部  教授 横溝 功

 




はじめに

 わが国の家畜排せつ物の年間発生量は、現在、約9,000万トンに上る。今回
の調査の対象である宮崎県の家畜排せつ物の年間発生量は、約380万トン(平
成12年調べ)である。ちなみに、家畜排せつ物がたい肥として利用されるであ
ろう農作物の作付け延べ面積(耕地面積)で見ると、全国が456万ヘクタール
であるのに対して、宮崎県は8万ヘクタールである。全国の耕地面積1ヘクタ
ール当たりの家畜排せつ物の年間発生量を計算すると、19.7トンである。同様
に宮崎県について計算すると47.5トンに上る。従って、全国平均と比較して宮
崎県は2.4倍の耕地面積当たり家畜排せつ物量ということになる。

 ちなみに、家畜排せつ物の中の窒素成分を取り上げて、耕地面積1ヘクター
ル当たりの窒素成分量を計算した場合、250キログラムを超える県が全国で8
県あるが、その中に宮崎県も含まれる(畜産局畜産経営課試算(平成11年))。

 以上のことから、宮崎県では、県内で過剰になっている家畜排せつ物をたい
肥化し、広域流通させることが大きな課題になっていることが分かる。現在、
宮崎県では、宮崎県良質たい肥生産流通促進協議会(以下「宮崎県良たい協」
という)を事務局として、県内で、たい肥化処理および流通が図られている。
そこで、本稿では、宮崎県内の優良なまたは大規模な公共たい肥センターの実
態調査を基に、・たい肥化処理システムの選択の妥当性、・センターを巡る組
織、・センターの運営、・たい肥流通、・畜産経営への支援の各項目を整序し、
そこから得られる教訓および課題を明確にしたいと考えている。
【左から宮崎県良質たい肥生産
流通促進協議会の小田さん、長
友事務局長、筆者】


宮崎県の畜産排せつ物の概要

 家畜排せつ物の年間発生量を、畜種別に宮崎県と全国で比較したものが、表
1である。宮崎県は、全国と比較すると、肉用牛と豚のウェイトが高いことが
分かる。逆に、乳用牛と採卵鶏のウェイトが低いことになる。

 なお、宮崎県の野積み・素堀りによる不適切な家畜排せつ物量は、それぞれ
年間585千トン、279千トンであり、合計864千トンになり、表i1iの宮崎県の家
畜排せつ物年間発生量3,830千トンに対する割合は、22.6%になる。ちなみに、
畜種別の不適切処理農家の現状について見たものが、表2である。

 不適切処理農家の戸数では、肉用牛部門が圧倒的に多いが、これは肉用牛農
家戸数が多いことによる。しかし、不適切処理農家割合で見ていくと、肉用牛
部門で低く、酪農部門および養豚部門で高くなっていることが分かる。表1の
畜種別の家畜排せつ物年間発生量も併せて考えると、養豚部門で不適切処理の
問題が大きいことが分かる。

 表2は、11年における調査であったが、表3からも分かるように、その後3
年間で、家畜排せつ物処理施設が急速に改善されていることが分かる。表2で、
野積みが2,026戸あったが、その後3年間でおよそ半数の915戸が改善されてい
る。また、素堀りが301戸あったが、70戸が改善されている。なお、表2およ
び表3で、野積みの戸数と素堀りの戸数の合計が、計の戸数と一致しないのは、
野積みと素堀りの両方に該当する農家が存在するからである。計の戸数で見れ
ば、11年に2,231戸あった不適切処理農家戸数のうち983戸と、およそ半数が改
善されていることが分かる。表3の家畜排せつ物処理施設の箇所数に注目する
と、3年間で459箇所であり、改善戸数983戸と併せて考慮すれば、2戸で1箇
所の家畜排せつ物処理施設を整備していることになる。このことから、家畜排
せつ物処理施設が共同利用されていることが分かる。

表1 宮崎県と全国における畜種別家畜排せつ物年間発生量



(注)(1)宮崎県は、宮崎県良質たい肥生産流通促進
      協議会の資料による。
      平成12年調べ。畜種の中から馬を除く。
   (2)全国は、農林水産省生産局畜産部畜産企画
      課編『平成14年畜産経営の動向』と「畜産統計」
     (農林水産省統計情報部)(平成13年2月)の
      資料から試算

表2 畜種別不適切処理農家の現状

(注)宮崎県良質たい肥生産流通促進協議会の資料による。
   平成11年調査

表3 家畜排せつ物処理施設の整備状況

(注)宮崎県良質たい肥生産流通促進協議会の資料による。


なぜ公共のたい肥センターか?

公共たい肥センターの論理

 本稿では、宮崎県の公共たい肥センターに焦点を絞って議論するが、なぜ公
共センターを対象にするのかを明らかにしておく必要がある。周知の通り、わ
が国の畜産経営は、近年、畜産物価格が低迷する厳しい交易条件の下、多頭化
によって、家畜飼養頭羽数の単位当たり固定費削減によるコストの低減を図り
ながら、いわゆる薄利多売の状況で、経営の最終目的である所得の維持増大を
追求してきた。しかし、その過程では、借入金に依存した投資に伴う回収問題
や資金繰りの問題、換言すれば固定化負債問題や、大量に発生する家畜ふん尿
処理の問題を惹起するケースが増えてきた。このような厳しい経営環境の下で、
・家畜ふん尿処理に対する施設投資を個別経営で行うと、固定化負債に陥る畜
産経営が多いこと、・家畜ふん尿処理およびその後のたい肥販売に要する労働
時間の確保が困難な畜産経営が多いことが、共同のたい肥センター設立への要
望になっているのである。

 しかし、なぜ公共かということに対する回答として、筆者は、・ボトルネッ
クである家畜ふん尿処理を支援すれば、持続的に経営展開できる畜産経営が多
数存在すること、・そのような畜産経営の経営主は比較的若く地域の担い手農
家として位置付けられること、そして、・担い手としての畜産経営の維持存続
が、地域の活性化に大きく貢献することが挙げられる。特に、・に関しては、
畜産経営が立地する自然条件・社会条件によって、個々の経営が対応すれば、
たい肥化処理やたい肥販売にかなりのコストを要する地域があることを付言し
ておきたい。それ故、たい肥化処理施設を共同で持ったとしても、なかなか運
営が難しい地域がある。そのたい肥化処理やたい肥販売の条件不利地域に、公
共たい肥センターの必要性が生じるのである。

 他方、最近の地方自治体の財政状況に鑑みると、公共たい肥センターへの多
額の支援を期待することはできない。すなわち、公共たい肥センターに赤字が
生じるのはやむを得ないとしても、赤字を出来る限りゼロに近づける努力が求
められているのである。


宮崎県の公共たい肥センター

 宮崎県は、6つの振興局と1つの支庁の7地域に分かれる。

 さて、宮崎県の公共たい肥センターは、5カ所である。すなわち、中部振興
局管内に、国富クリーンセンター、綾町堆肥センターの2カ所、西諸県振興局
管内に小林市環境保全有機完熟堆肥需給組合、(株)のじりアグリサービスの
2カ所、東臼杵振興局管内に(有)延岡地区有機肥料センターの1カ所である。
県下でもっとも畜産が盛んな北諸県振興局管内に公共たい肥センターが1カ所
も無いのが意外である。

 公共たい肥センターの位置付けを見るために、宮崎県良たい協の資料を整理
したものが、表4である。

 表4の供給可能量は、各市町村にあるたい肥生産者(公共たい肥センターも
含む)が、フル稼働してたい肥を生産した時のたい肥の供給可能総量である。
本稿では、公共たい肥センターの位置付けを、各市町村における当該供給可能
量の中に占める公共たい肥センターの供給可能量のシェアとして求めた。表4
より、(株)のじりアグリサービスと国富クリーンセンターが極めて高いシェ
アを占めていることが分かる。特に、(株)のじりアグリサービスでは、町内
に他のたい肥生産者が存在しないことから、シェアは100%になっている。ま
た、綾町堆肥センターが低いシェアであること、ならびに供給可能量自体も他
の公共のたい肥センターと比較して小さいことが分かる。

 以下では、西諸県地域の小林市環境保全有機完熟堆肥需給組合、(株)のじ
りアグリサービスの2カ所を対象に議論を展開する。前者は企業感覚に優れた
人材を代表取締役に抜擢し、経営改善を図っている公共たい肥センターであり、
後者は最新の施設を導入した公共たい肥センターである。

表4 公共たい肥センターの位置付け

(注)宮崎県良質たい肥生産流通促進協議会の資料による。

トップマネージメントの機能

小林市環境保全有機完熟堆肥需給組合の概要

 小林市は畜産が盛んで(畜産の農業粗生産額に占める割合は6割)、市の基
幹産業である反面、家畜排せつ物による畜産公害の苦情が多くなっていた。そ
こで、任意組合の小林市環境保全有機完熟堆肥需給組合が事業主体となって、
昭和57年度に「広域畜産環境対策事業」(事業費323,534千円、補助率55.0%)
でたい肥センターを設置し、58年3月から試運転を開始した。たい肥センター
の設置主体は、小林市である。その後、平成3年度に「県営畜産経営環境整備
事業」で、ふん尿処理施設の一部整備を行い、9・10年度に「畜産環境整備特
別対策事業」で、密閉型処理施設(縦型コンポスト)を各年度2基ずつ、合計
4基設置し、処理能力の向上を図ってきた。なお、たい肥センターの運営も、
任意組合の小林市環境保全有機完熟堆肥需給組合が当たることになった。
 小林市環境保全有機完熟堆肥需給組合の組織は、83名の組合員で構成されて
いる。うち25名がたい肥センターを利用している畜産経営である。当該畜種は、
養豚が20名、酪農がi5i名である(平成14年i9i月現在)。養豚経営は、繁殖豚
が約千頭、肥育豚が常時約8千頭の飼養規模である。酪農経営は、経産牛が約
150頭の飼養規模である。
 原料の受入れ量について13年度実績で見ていくと、豚ぷんが4,687トン、牛
ふんが2,919トン、13年度は1戸のブロイラー経営も利用組合員であったので、
鶏ふんが427トン、さらには、魚市場・青果市場・スーパーなどから生ゴミを
原料として調達しており、それぞれ25トン、17トン、467トンである。合計す
ると8,542トンになる。
 当該たい肥センターのスタッフは、男性3名、女性3名である。男性の1名
は経営の責任者であり、1名はセンター内の切り返し作業を担当、1名は養豚
農家から、豚ぷんの回収を担当している。すなわち、養豚農家がコンテナを所
有し、それを牽引してたい肥センターまで運搬するのである。なお、酪農経営
については牛ふんを各自持ち込むことになっている。養豚経営の場合にコンテ
ナで運搬する理由は、ふん尿混合の形態が多く、水分含有量が多いために、ダ
ンプで運搬できないということがある。女性i3i名のうち、i1i名はたい肥の袋
詰めを分担、1名は配達を分担、i1i名は事務および総務を分担している。


任意組合から法人化へ

 前述のように、当該たい肥センターの運営は、任意組合の小林市環境保全有
機完熟堆肥需給組合が当たってきた。しかし、当該たい肥センターでは、経営
感覚を持つ人材が必要となり、13年度からは、大出水清一氏が経営のマネージ
メントを引き受けることになった。大出水氏はたい肥生産に造詣が深く、マネ
ージメントを引き受ける前に就農経験もあり、その後建設業に転じ、独立して
いる。建設業の仕事では、苗床などの土作りに関する仕事にも携わっている。
また、鶏ふんでたい肥化の実証試験なども行っている。現在、大出水氏は、た
い肥センターの新たな展開のためにさまざまな新機軸を打ち出している。その
1つとして、近隣の全寮の学校から月に450キログラム、また、病院から月に
1,500キログラムの生ゴミを受け入れて処理を行っている。さらに、農村集落
の排水の汚泥を、テスト的に月i1iトン前後受け入れて処理を行っている。こ
の背景には、小林市の市政が、ゴミのリサイクルを指向していることにある。

 しかし、任意組合のままでは、さまざまな事業展開が出来ないので14年6月
17日に法人化し、(有)小林堆肥センターを立ち上げた。そして、大出水氏は
有限会社の代表取締役に就任している。
【(有)小林堆肥センター代表
取締役大出水氏と筆者】
たい肥の生産

 たい肥の原料で、養豚経営の豚ぷんの水分含有量は65〜70%である。酪農経
営の牛ふんの水分含有量は80%以上である。水分含有量に関して、当該たい肥
センターでは、特に搬入条件を設けていない。

 ただし、搬入の場合に、畜産経営は利用料金を当該たい肥センターに支払う
ことになる。豚ぷんの場合、トン当たり1,500円、牛ふんの場合、トン当たり5
00円である。牛ふんに対して豚ぷんの利用料金が高いのは、当該たい肥センタ
ーの職員が豚ぷんを回収しているからである。

 なお、現在、生ゴミを無料で引き取っている。

 副資材には、戻したい肥を使っている。原料と戻したい肥の混合割合は、5
:1であり、平均発酵日数は100日である。

 たい肥化処理をフローシートにしたものが、図1の通りである。図の縦型コ
ンポストの施設は、前述のように、9・10年度に「畜産環境整備特別対策事業」
で4基導入したものである。当該施設の選択理由は、・1基当たり、月にラン
ニングコスト(電気料)が10万円程度のコストで済むこと、・たい肥化処理に
当たってオガクズなどの副資材をほとんど用いず、減量が可能なことによる。

 特に、たい肥化処理で留意している点は、縦型コンポストから出てきた豚ぷ
んと、牛ふんや生ゴミが混合された時(発酵槽(1)への搬入時点)の水分調
整である。当該たい肥センターでは、この時点での水分含有量として、60〜65
%を目標にしている。また、ブロアーの空気量を調整し、高温発酵(好気性)
させる点がポイントである。24時間で一挙に80℃まで温度を上げている。この
効果により、製品たい肥に対して、食品検査を行った成績書を見せて頂いたが、
大腸菌群数の検査成績が陰性(−)になっていた。さらには、また、臭気が落
ちるとのことであった。

 水分含有量の60〜65%は、代表取締役が若い頃に就農した時の原体験に基づ
いている。すなわち、農家の庭先で、牛ふんと馬ふんを原料に用いて、スコッ
プで切り返してたい肥を作っていたが、非常に高温の発酵をして、固まりのな
い良質のたい肥が出来たことである。

 また、試行錯誤の結果、フローシートの中で、発酵槽(1)の次に粉砕機の
プロセスを入れている。これによって、代表取締役が原体験でできたような固
まりのない良質のたい肥生産が可能になっている。

 製品たい肥は豚ぷんが多いので、窒素・りん酸・カリの肥料成分含有率は、
2%・4%・1.7%と、ほぼ豚の乾燥ふんに近い割合になっている。

◇図1 たい肥化処理のフローシート((有)小林堆肥センター)◇


たい肥の販売

 平成13年度のたい肥の売上実績は、・袋詰め販売(15kg/袋)が、75,192袋、
1,127.88トン、・バラ販売が、389.59トン、・小袋詰め販売(i5ikg/袋)が、
1,510袋、7.55トンであり、合計1,525.02トンである。従って、袋詰め・小袋詰
めの割合が74%、バラの割合が26%と、前者の割合が高いことが分かる。

 価格は、袋詰め(15kg)280円であるのに対して、バラはトン当たり4,000円
である。袋詰めをトン当たりに換算すると18,667円にもなり、高い価格で売れ
ていることが分かる。袋詰めの販売先は、・JAこばやしの10カ所の支所、・量
販店(都濃・姶良・日南)、ホームセンター(西都・都濃・川南)、・個人の
肥料店(小林市内)であり、それぞれの販売割合は、45%、30%、25%である。
ちなみに、量販店およびホームセンターは、当該たい肥センターから各々100
キロメートルも離れている。最近では、ホームセンターでの消費が増えている
とのことである。この背景には、製品たい肥が、無臭で乗用車に積んでも全く
問題ないからということであった。また、個人の肥料店のウェイトが高いが、
小林市では個人の肥料店と耕種農家とのつながりが強いという特徴がある。

 バラについては、小林市内・綾町・宮崎市のハウス農家への販売が中心であ
る。

 今後は、・有機物はできるだけ減量に努め、さらなる良質の製品を目指すこ
と、・地域に貢献できるたい肥センターを目指すこと、特に、市の広報を用い
てPRし、需要を拡大すること、・最終製品の水分含有量を30%まで落とし、ペ
レット化して、ゴルフ場への販路拡大を目指すことが課題である。
【たい肥の袋詰め作業】

大規模省力施設の導入

(株)のじりアグリサービスの概要

 野尻町も小林市同様畜産が盛んで(畜産の農業粗生産額に占める割合は65
%)、町の基幹産業である。しかし、畜産物価格が低迷する厳しい交易条件の
下、畜産経営の担い手は高齢化し廃業する一方、残存する経営は多頭化によっ
て、家畜飼養頭羽数の単位当たり固定費削減によるコストの低減を図りながら、
所得の維持増大を追求してきた。その過程では、大量に発生する家畜ふん尿処
理の問題を惹起するケースが増えている。そこで、7年ころから公共のたい肥
センターを設置する機運が高まり、その検討がスタートした。当該たい肥セン
ター設置(野尻町有機センター)の事業実施年度は10年度から13年度までの3
カ年「畜産経営環境整備事業」であり(事業主体は、(社)宮崎県農業開発公
社)、総事業費は、11億4,380万円(土地は除く)にも上る。敷地は、広大な
町有地(3.6ヘクタール)を活用している。補助は、国がi5i億7,190万円、県
がi1i億8,717.8万円である。たい肥センターの試運転は、12年10月からである。
また、設置主体は、野尻町であり、運営主体は、第3セクターの(株)のじり
アグリサービスである。

 (株)のじりアグリサービスの組織は、管理部門に所長(専務取締役兼務)
が1名、事務職員が1名、製造部門にオペレーターが3名(たい肥散布作業も
含む)である。以上の5名は正社員であり、所長はJAのOB、事務職員は30歳代
の女性、オペレーターは40歳代後半の男性である。また、たい肥の散布時期に
パートを臨時的に雇用している。この臨時雇用者はJAのOBであり、大型免許を
取得している。以上のことから、当該たい肥センターの設置を契機に、地域に
新たな雇用の場を創出していることが分かる。

 (株)のじりアグリサービスの資本金は2,000万円で、出資者は、野尻町が1,
085万円(217株)、JAが600万円(120株)、利用者である畜産経営が63戸315
万円(63株)である。なお、当該畜産経営は、加入者協議会を結成している。

表5 (株)のじりアグリサービスの利用戸数とたい肥処理割合





たい肥の生産

 たい肥の処理施設は、第1に、ふんに関しては、スクープ式発酵処理施設と、
縦型開閉式発酵処理施設(コンポ式)である。前者は、肥育牛ふん・豚ぷん・
ブロイラーふんを処理し、後者は、ブロイラーふん・スラリーを処理する。第
2に、尿に関しては、消化処理+蒸発散処理施設である。

 たい肥原料の概要は、表5の通りである。また、臭気対策として、BM小清水
菌を用いている。

 家畜ふん尿の搬入条件は、ふんについては、施設の原料置場で流れ出ないよ
う、水分を落として搬入すること、尿については、できるだけふん・残さを含
まない状態のものを搬入することを義務付けている。

 また、搬入形態は、農家が自分でダンプなどを使って搬入することになって
いる。なお、(株)のじりアグリサービスはバキューム車やダンプ車を保有し
ているので、畜産経営はそれを借りることができる。

 (株)のじりアグリサービスは、利用料として、ふんについてはトン当たり
300円、尿についてはトン当たり500円、スラリーについてはトン当たり400円
を徴収している。平均発酵日数は、次頁の通りである。

 いずれにしても、原料投入から製品として出荷されるまで、6カ月を要して
いることが分かる。ちなみに、スクープ式発酵処理システムに対する満足度は
80%、縦型開閉式発酵処理施設(コンポ式)に対する満足度は60%であった。

 スクープ式発酵処理システムに対する課題は、下記の通りであった。

1.在庫に対する倉庫不足
2.腐熟に長期間を要する
3.攪拌機の維持費を要する

 縦型開閉式発酵処理施設(コンポ式)に対する課題は、下記の通りであった。

1.ブロイラーふん・豚スラリーが原料のためたい肥化が困難
2.異臭の除去
3.電気消費が大きい

 また、尿処理方式として、消化処理+蒸発散処理システムにした理由は、

 第1に、施設外に処理水を排水しないこと、

 第2に、低コストの処理ということであった。

 課題としては、各農場における尿溜めなど前処理施設の整備が必要なことで
あった。
【たい肥処理施設】
スクープ式発酵処理

●発酵棟(攪拌機)  15日
●養生棟(ショベルローダーによる切り返し)  30日
●製品棟(切り返し)  135日
(原料投入から6ア月後に出荷)

縦型開閉式発酵処理(コンポ式)

●コンポ内   7日
●養生棟(ショベルローダーによる切り返し)  143日
●製品棟   30日
(原料投入から6ア月後に出荷)


たい肥の販売

 たい肥の販売は、スクープ式発酵処理システムは、バラでトン当たり7,400
円で、袋詰めで12キログラム当たり300円で販売している。また、縦型開閉式
発酵処理施設(コンポ式)はバラでトン当たり5,300円、袋詰めで15キログラ
ム当たり320円で販売している。13年度のバラでの販売量は2,346.1トン、袋詰
めでの販売量が537.4トンであった。

 販売方法は、JAこばやしへの委託販売と、需要者への直接販売である。袋
詰めの場合、ほとんどJAへの委託であるが、野尻町内の3〜4軒の商店や小林市
内の1軒のホームセンターへも直接販売している。

 12・13年度は、たい肥センターが出来たばかりということもあって、たい肥
の売行きが悪かったが、徐々に、たい肥の評価が上がり、14年4月以降、順調
に販売が進んでいるとのことであった。

 ただし、現状の問題としては、第1に採算性の問題、第2に良質のたい肥生産
を目指すが故にたい肥センター内に滞留する期間が当初の計画より長期化し、
製品の保管庫が新たに必要になったことが挙がっている。また、今後、たい肥
の需要に応じた製造計画か、畜産経営のための廃棄物処理かのいずれにウェイ
トを置くべきかということが、大きな課題になってくる。ちなみに、13年度の
(株)のじりアグリサービスにおける損益は、下記の通りである。

表6 (株)のじりアグリサービスの損益計算書
                         13.4.1 〜 14.3.31

(注1)営業外収益のうち補助金 1,000,000円
  2)維持修繕費30万円〜50万円まで会社負担 その金額を超えると、
    町の負担


おわりに

 本稿では、宮崎県における公共のたい肥センターによる、たい肥生産・販売
のシステム作りの調査を通じて、そこから得られる教訓や課題を明らかにしよ
うとした。具体的には、2つの事例について取り扱った。1つは、比較的歴史の
あるたい肥センターにおいて、当該経営を立て直すために経営感覚に優れたト
ップが、さまざまな工夫を凝らしていた事例であった。また、もう1つは、近
代的な装備を導入し、町内の畜産経営から排出されるふん尿を丸抱えで処理し
ようという事例であった。いずれの事例も、当該地域内で畜産部門のウェイト
が高く、基幹部門として位置付けられていた。高齢化が進み廃業する農家が現
れる一方、残存する畜産経営は頭数拡大を図っていた。

 筆者は、前述のように、公共のたい肥センターが必要である論理として、下
記の3項目を挙げた。すなわち、@ボトルネックである家畜ふん尿処理を支援
すれば、持続的に経営展開できる畜産経営が多数存在すること、Aそのような
畜産経営の経営主は比較的若く地域の担い手農家として位置付けられること、
そして、B担い手としての畜産経営の維持存続が、地域の活性化に大きく貢献
することを挙げた。上記の2事例は、まさしく3項目を満たしているといえる。
従って、当該地域には、公共のたい肥センターが必要だといえるのである。

 しかし、地方自治体の財政状況に鑑みると、公共たい肥センターに赤字が生
じるのはやむを得ないとしても、赤字を出来る限りゼロに近づける努力が求め
られるということを述べた。小林市の事例では、たい肥生産において水分調整
に神経を使い、高温発酵をさせることによって、良質のたい肥生産に取り組む
とともに、産業廃棄物の資格を申請し、原料としての生ゴミの積極的な取り込
みを図っていた。この背景には、小林市のゴミのリサイクルを指向する市政が
あった。また、臭気がほとんど無い良質のたい肥の性質を利用し、水分を落と
してペレット化を図り、ゴルフ場への販路を考えるなど、マーケティングにも
積極的に取り組んでいた。正しくトップマネージメントの機能が発揮されてい
るといえる。その結果、たい肥センターの経営目標がかなり明確になっている。

 他方、野尻町の事例では、地域の畜産経営を丸抱えで支援するために、大規
模で省力的な近代施設を導入していた。当初は、たい肥の売れ行きに問題があ
ったが、1年が経過して、たい肥の成分が安定するにつれて、たい肥が順調に
さばけるようになってきた。しかし、経営の損益面では、赤字になっており、
今後の課題になっていた。この背景には、バラでのウェイトが高いこともある。
今後は、品質をいかに高め、袋詰めのウェイトをいかに高めるかが課題といえ
る。また、畜産経営の家畜ふん尿の搬入条件は、現状では、極めて緩いものに
なっており、このことがたい肥センターに多くのコストを付加する結果になっ
ている。すなわち、製品としてのたい肥の品質の向上のためには、搬入される
原料に立ち返って考慮する必要がある。それ故、畜産経営を支援する公共のた
い肥センターが持続的に運営されるためには、畜産経営も搬入するふん尿の水
分調整を図るなど、応分の負担を求められることになるのである。

 今後は、宮崎県良たい協が中心となって取り組んでいる業務の中でも、・た
い肥生産技術向上研修、Aたい肥販売強化に関わるシンポジウム、@たい肥成
分分析・たい肥共励会Bたい肥評価研修会が、極めて重要なものであり、公共
のたい肥センターも含めたたい肥生産者、たい肥需要者の相互の交流がますま
す求められるのである。

附記:本稿を執筆するに当たって、ヒアリング調査にご協力ご指導を下さった
宮崎県良たい協事務局長の長友純士様、小田和夫様、(有)小林堆肥センター
代表取締役の大出水清一様、野尻町役場畜産林務課課長の日高秀人様、末崎純
一様に厚く御礼申し上げます。

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