★ 事業団から


個性豊かなチーズづくりを 応援するために 

「ナチュラルチーズ・サミット in 十勝 ’02」から

企画情報部 情報第一課


 平成14年11月29日から12月1日の3日間、帯広市で「消費者サービスのための
チーズ官能評価」をテーマとする「ナチュラルチーズ・サミット in 十勝’02」
(主催:十勝ナチュラルチーズ振興会、帯広市、(社)日本ソムリエ協会北海
道支部)(以下「チーズ・サミット」という。)が開催された。全国からチー
ズの製造、販売にかかわる者およびホテル、レストランでワインとともにチー
ズをサービスする業務に従事しているソムリエ等約90人が参集した。平成2年
に第1回が開催されて以来、今回で13回目を迎える。


今回の目的

 日本でのナチュラルチーズの味覚・状態を表現する用語は、チーズの歴史の
古いフランスからの用語がそのまま使われていたりするため、日本人にはなじ
みのない表現が多々ある。このため、今回のチーズ・サミットではフランス語
との用語の違いを日本人の感覚に結びつく日本語に定義するとともに、官能評
価の要領作成や模擬判定会を行った。すなわち生産者、消費者、流通業者、プ
レス・評論家等のオピニオンリーダー達関係者がナチュラルチーズを正しく見
極める能力を養うことが今回の目的であった。

 生産者が品質に責任を持ち、流通・サービス業者が製品の特性を十分に理解
することにより適正な市場が形成されることが現在求められているからである。

 今回はジェラール・リポー氏を講師として以下の内容による指導が行われた。


ジェラール・リポー氏

 今回の講師ジェラール・リポー氏はフランス政府農務省牛乳・乳製品・チー
ズ製造業の投資支援部門の責任者である。リポー氏はパリ農業祭(農業祭とし
ては世界最大規模・世界最高レベル)の「チーズコンクール」、フランス全国
各地における「フェルミエタイプ(伝統的農家製タイプ)のチーズコンクール」
および「チーズプラトー(チーズを美しく盛った大皿)コンクール」等の審査
員のほか、2つの乳製品学校で乳業技術の講師を務めている。また、「コミテ
・プレニエ(Le Comiteォ Pleォnier des Fromages:チーズが結ぶ都市の会で中
小生産者の問題を話し合いながら解決し、助け合っていく会)」の会長、そし
て、ヨーロッパにおける伝統的チーズの会を組織化するため、小規模なあるい
は農家製チーズの品質を守り市場を育て、町と町を結びつける「チーズが結ぶ
ヨーロッパ都市の会」会長としても尽力している。

 リポー氏は平成10年(社)中央酪農会議主催「第1回ナチュラルチーズコン
テスト」で共働学舎新得農場の宮嶋望氏が畜産局長賞を受賞した時に、フラン
スからの特別審査員を務めていた。以後リポー氏は13年に来日した際に十勝を
訪れ、日本にもフェルミエ(農家製)タイプのナチュラルチーズが存在するこ
とを知り嬉しく思い、今回の講師として再来日するに至った。
【フランス政府農務省ジェラー
ル・リポー氏(右)と共働学舎
新得農場宮嶋望氏(左)】

 

これまでの歩み

 昭和63年1月、十勝国際交流ネットワーク研究会「国際化時代の十勝圏研究
事業」の一環として共働学舎新得農場の宮嶋望氏他1名が、ヨーロッパにおけ
る有機農法、ナチュラルチーズ、アグリツーリズム等農業地域活動視察のため
ドイツ、スイス、フランスに派遣された。フランス、アルザス州コルマール市
にて、当時フランスチーズ原産地呼称証明協会(ANAOF)会長であったジャン
・ヒュベール氏と出会った。この出会いにより、農業地域の経済的活性化、伝
統文化の継承を目的とするAOC(Appellation d ’Origine Contro^leォe:原産
地統制呼称)制度を知ることとなり、今日の「ナチュラルチーズ・サミット 
in 十勝」が開催される契機となった。〔「畜産の情報 2000.5月号」掲載〕

これまでのテーマ

第1回 フランスAOC(Appellation d’Origine Contro^leォe:原産地統制呼
    称)制度について
第2回 米国ウイスコンシン州のチーズ販売戦力について
第3回 ナチュラルチーズ製造技術講習会について
第4回 チーズとフランス農村の生活文化研修旅行報告(十勝酪農家婦人によ
    る)について
第5回 「農産物国際市場と地域農業の方向」「発酵食品と人類の関係史」に
    ついて
第6回 チーズ工房の経営について
第7回 食卓の三大発酵食品、パン・ワイン・チーズについて
第8回 全道のナチュラルチーズ鑑定評価、生産現場の衛生管理について
第9回 乳製品の衛生管理とチーズ官能評価について
第10回 チーズの品質管理と官能評価について
第11回 HACCPマニュアル制作方法について
第12回 基本味の識別テスト、官能評価の概念・方法について

 チーズ・サミットでは、上表のとおり、これまでフランスのAOC制度、チー
ズ製造技術を学び、その製品を販売し、販売方法も研究しかつ実践を積んでき
た。次に大切な食品衛生管理を学習し、消費者のより安全・安心な製品を求め
る声に呼応して、安全性にも十分配慮するようになってきた。日本のチーズの
1人当たり年間消費量は欧米に比べて格段に少ないものの、ようやく2キログラ
ム台となり、十勝圏内で製造したナチュラルチーズもそれなりに好評を博す時
代に入ってきた。そこで今回のチーズ・サミットでは、次のステップとして、
チーズの味や状態の善し悪しを判定する能力の向上が必要とされるようになっ
たため、官能評価をも学ぶこととなったのである。
【十勝産ナチュラルチーズ
「カチョカバロ、シントコ、
カマンベール」】

    
【十勝産ナチュラルチーズ
「モッツァレラ、マスカルポーネ、
トム、カマンベール」】

 

ジェラール・リポー氏の指導・講演内容とワークショップ

 今回のチーズ・サミットは、リポー氏の講演で始まった。五感の能力を活用
する官能評価の必要性とそれに基づくチーズ判定法の普及のためにはコンクー
ルが有用であること、それがチーズ生産者の技術の向上と流通関係者がより高
い水準で消費者の好みに応じたよりよい状態のナチュラルチーズを提供するこ
とができ、販売促進にもつながるという内容であった。次にリポー氏の指導の
下、参加者によるワークショップが行われた。

1 コンクールの意義

@ コンクール会場で一堂に会した、生産者、消費者、流通業者、プレス・評
 論家等のオピニオンリーダー達がコミュニケーションをとることにより、製
 造されたチーズが比較され、より質の高いものになる。なぜならば、技術面
 を含めて、欠点をも見出し改善することができるからである。

A コンクールにおいて生産者に優劣をつけメダルを与えることは、マスコミ
 から脚光を浴びる価値のあるイベントとなり、その製品のみならず製品の生
 まれた地方までもが話題になり、その地域に興味を持つ訪問者が増え宣伝効
 果は高い。ちなみにフランスではパリのコンクールでそれぞれ金・銀・銅メ
 ダルを受賞した製品には2年間パッケージに表示して販売することが許可さ
 れてもいる。

B 消費者、流通業者がコンクールに参加することは、選択肢が増えるため多
 くのチーズの中からどれが良いものか、チーズの「全体的な景観」や「熟成
 がもう少し必要」等の適確な助言を生産者に行ないやすくなる。その上、プ
 レス・評論家等のオピニオンリーダー達がメダル受賞・生産地のPRを行なう
 ことにより、生産者の技術の向上および研鑚意欲を駆り立てることとなる。

C その地域のブランド化につながる。

2 カテゴリー別判定要領講義

 リポー氏の指導の下、ナチュラルチーズを5つのカテゴリー別(@ソフトA
白カビBウオッシュCセミハード・ハードD青カビ)に分けてそれぞれ種類、
外観、色、熟成加減・カードの状態、テクスチャー、臭覚、味覚等の講義が行
われた。

3 カテゴリー別判定要領ワークショップ

 参加者は5つのカテゴリー別(@ソフトA白カビBウオッシュCセミハード
・ハードD青カビ)グループに分かれて、ワークショップ形式でそれぞれのカ
テゴリーのナチュラルチーズの評価項目、表現方法を定義する作業に入った。
今回のサミットにおける最も重要な作業である。参考として、ナチュラルチー
ズの官能評価で定評のあるフランス・アルザス州AERIAL社の評価方法、評価表、
風味用語集が用いられた。

4 模擬判定会

 参加者全員が判定員となり、各カテゴリーごとに、商品名を明かさない番号
のみをふったナチュラルチーズを、3の作業で定義した評価方法で模擬判定会
を行った。行われた判定は、それぞれ種類、外観、色、熟成加減・カードの状
態、テクスチャー、臭覚、味覚等をそれぞれ点数により判定するものであった。
この方式はフランスにおける消費者プロモーションを目的とするコンクール形
式に則しているという。
【模擬判定会における番号のみ
をふったナチュラルチーズ(ウ
ォッシュタイプのカテゴリー)】
5 総括講演会

 リポー氏からは参加者に対して熱の入ったワークショップの成果を褒める言
葉があり、判定をする際の重要な注意事項(審査会場の広さ、テーブルの配置、
チーズのならべ方、審査員の意見のまとめ方等)等を含めての講評とフランス、
イタリア、スペイン、ギリシャ等チーズとワインを中心にヨーロッパの伝統的
食文化の成り立ちについてOHPを使いながら講演があった。
【リポー氏の総括講演会】

 

「十勝産ナチュラルチーズ」のこれから

 昨年度、十勝圏内では国内ナチュラルチーズ生産量の約3分の2を生産するに
至っている。

 イタリアのブラという小さな町で発端となった「スローフード」が日本でも
ようやく叫ばれてきた昨今であるが、「@顔の見える地元の原料でつくった
『安心・安全』な十勝産ナチュラルチーズを消費者に届けること、A農畜産物
の厳しい国際競争の中では『質』を追求すること」をスローガンに、十勝圏内
では14年も前から「チーズ文化」がゆっくりと育まれてきた。そのような中で、
一筋縄ではいかないチーズ製造の難しさや面白さに魅せられ、個性豊かなチー
ズ作りにかかわる人たちが増える一方、チーズ愛好家と呼ばれる、専門的な知
識をもつ消費者も増えてきている。そのため、関係者が理解しあえる用語を定
義し、正しく評価できる能力を磨くことは有意義であり、今後の国産ナチュラ
ルチーズの消費拡大につながると思われる。

 日本の気候と風土、コメ文化である日本人の口にあったチーズが全国各地で
育ってきたのは、フランス農務省の行政にかかわる専門家やフランス人技術者
らを直接招いて、国産ナチュラルチーズ振興に力を注いできたことが、大きな
要因の1つといえる。国産ナチュラルチーズが、海外の歴史あるチーズと競合
できるような商品に成長してきていることは、極めて喜ばしいことである。近
い将来、「十勝産ナチュラルチーズ」についてのイメージをより明確にする
「十勝ブランド」誕生が期待される中、日本各地では官・民が一体となった農
畜産物の「ブランドづくり」が進められている。さらには、チーズのみならず
農畜産物が媒体となり、日本と海外の生産地、町と町が結びついていく可能性
も期待したい。最後に、今後も次のステップへと問題を提起し、発信をし続け
る「ナチュラルチーズ・サミット in 十勝」に注目していきたい。
【十勝産ナチュラルチーズのみ
を販売する小野氏(左)と「チ
ーズ工房十勝野フロマージュ」
赤部氏(右)(帯広市内)】

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