★ 農林水産省から


「平成14年度食料・農業・農村白書」の概要
−畜産をめぐる状況を中心として−

大臣官房 企画評価課 松本 憲彦


はじめに

 「平成14年度食料・農業・農村の動向に関する年次報告」(食料・農業・農村
白書)は、平成15年5月20日閣議決定のうえ、国会に提出、公表された。


 14年度の白書は、消費者の支持があって初めてわが国の農業生産、食料供給が
成立すること、わが国の農業構造が脆弱化する中、構造改革を推し進めていかな
ければならないこと、農村の役割を積極的に評価し、関係者が一体となった内発
的な取り組みを推進していく必要があることなどを基本認識として、現下の課題
を浮き彫りにしながら、その解決に向けた取り組みを多様な事例等を用いて紹介
している。


 以下、14年度白書の概要について、畜産関係の検討結果を一部紹介する。


 なお、最後に白書全体の構成も紹介するので、詳細等については白書本文をご
参照いただきたい。


BSE発生後の牛肉需給の動向

 
 BSE発生後の牛肉消費の動きを見ると、BSE発生直後には牛肉の購入を中止し
た世帯が大幅に増加した上に、購入を継続した世帯も購入量を減少させた結果、
全世帯平均での購入量は著しく落ち込んだ。しかしながら、と畜場における全頭
検査体制の確立等により両指標とも回復基調に転じた。この間の牛肉の市場出回
り量の増減に対する国産牛肉と輸入品の寄与度を見ると、14年に入ってからは国
産品が消費の回復に寄与している(図1)。また、消費の回復に伴い牛肉の生産
量や価格も回復してきた。





 一方、BSE発生当初の畜産物価格の低下により、肉用牛肥育経営や繁殖経営で
は、当該畜産物の生産から販売までに要した費用がわずかに増加した一方、粗収
益が減少し、所得が赤字になるなど13年度に販売された畜産物の収益性は悪化し
た(図2)。こうした状況を踏まえ、各種対策が実施されるとともに、食肉等の安
全確保や畜産農家の経営安定に万全を期すため、14年7月にはBSE対策特別措置
法が施行された。





 今後は、関係者が一丸となって感染源、感染経路の究明、牛肉のトレーサビリ
ティ・システムの確立、死亡牛の全頭検査体制の整備等を進め、一日も早いBSE
清浄国への復帰を目指すことが重要である。

14年の自給飼料生産の動向

 
 14年産の自給飼料生産量は、前年を下回る373万トン(TDNベース)となっ
た(図3)。これは、食料・農業・農村基本計画(12年3月閣議決定)に示され
た22年度における生産努力目標の7割の水準にとどまっており、同目標の達成に
向け、今後一層、基本計画に定められた生産性の向上等の課題の解決に努める必
要がある。





 こうした中、稲発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)の作付面積が近年順
調に拡大しており、14年には前年比39.1%増の3,308ヘクタール(見込み)に達
した。さらに、単収向上に向けて専用品種の開発等の取り組みも進められている。


耕畜連携を通じた自給飼料増産の推進

 酪農経営における飼料作物の作付意向を見ると、「拡大」または「条件が整え
ば拡大」するとした経営が一定程度みられるなど、積極的に飼料基盤の充実を指
向する傾向がうかがわれる(図4)。





 こうした中、主産地の酪農単一経営においては不作付け地や耕作放棄地をわず
かに増やしながら、貸借を中心に経営耕地面積を拡大させている(図5)。これ
は、酪農家が経営の効率化を強く意識し、相対的に条件の悪い農地の利用に見切
りをつけ、条件の良い農地の利用集積を求めてきた結果と考えられる。自給飼料
増産に当たっては、こうした農地の利用集積・団地化の推進が有効な取り組みで
あるが、近年、草地開発面積は伸び悩んでいる。このため、水田等既耕地での飼
料生産や中山間地域の耕作放棄地等での放牧といった畜産的利用を推進していく
必要がある。とりわけ、水田等既耕地を活用するに当たっては、地域の実情や畜
産農家のニーズ等に対応した効率的な飼料生産を展開できるよう、稲作農家をは
じめとする耕種農家と畜産農家が地域ぐるみで連携して土地利用調整を進めるこ
とが重要である。





期待されるバイオマスの利活用

 家畜排せつ物、生ごみ等の廃棄物や稲わら、間伐材等の未利用部分をはじめと
するバイオマスは、エネルギーや製品として持続的に利活用できる生物由来の有
機性資源であり、利活用の過程で大気中の二酸化炭素を実質上増加させない。ま
た、農林漁業との関連が強く、農山漁村に豊富に存在する。このため、その利活
用は地球温暖化防止、循環型社会の形成、農林漁業の自然循環機能の維持増進、
持続的な農山漁村の発展に貢献する(図6)。さらに、エネルギーや工業製品の供
給等農林漁業に新たな役割を付与することも期待される。






 現時点では、経済性等の観点から、主に廃棄物系バイオマスの利活用が進展し
ており、メタン発酵を利用した発電等の事例も近年増加してきている。家畜排せ
つ物については、その約8割はたい肥として再生利用されているが、散布等にか
かる負担の軽減と高品質生産が重要な課題となっている。


 なお、バイオマスの利活用の促進に当たって、今後は「バイオマス・ニッポン
総合戦略」(14年12月閣議決定)に基づき、22年度までに環境整備等が集中的・
計画的に実施される。


14年度白書(第1部 動向編)の構成

トピックス

 平成14年度における食料・農業・農村をめぐる特徴的な動き(米政策改革大綱、
バイオマス・ニッポン総合戦略等)をわかりやすく紹介。


第T章 食料の安定供給システムの構築

 食品安全行政の改革をはじめとする食品の安全性確保に向けた取り組みを紹介
するとともに、消費者と生産者の「顔の見える関係」の確立と相互理解に向けた
取り組みの重要性について記述。

 また、食料消費の変化を分析するとともに、食育の推進、農業と食品産業の連
携の重要性等について記述。さらに、穀物等の国際需給、わが国の農産物貿易、
食料自給率の動向等について分析・整理。

 これらの他、世界の農産物貿易に大きな影響を及ぼす諸外国の農政動向、WTO
農業交渉の動向とわが国の主張、モダリティ提案、各国との経済連携強化の動向
等について分析・整理。



第U章 構造改革を通じた農業の持続的な発展

 最近の農業生産、農家経済、農家・農業労働力の動向等を分析するとともに、
農業構造の動向、効率的かつ安定的な担い手の育成、農地の確保と有効利用、農
協改革等、農業の構造改革の加速化を図るための諸課題等について分析・整理。

 また、昨年12月に取りまとめられた米政策の改革について、改革の必要性、改
革の具体的内容等について体系的に紹介。さらに、米、麦、大豆、畜産物等品目
ごとの需給動向と各々の課題について焦点を絞って記述。


第V章 活力ある美しい農村と循環型社会の実現

 農業と地球環境のかかわり、自然循環機能を活用した生産方式の普及・定着状
況を紹介するとともに、農業の有する多面的機能に対する国民的な合意形成を図
るための諸課題等について記述。また、食料生産の場であるとともにバイオマス
の生産・持続的活用の場である農山漁村の役割を積極的に評価し、バイオマスの
利活用の意義、現状、今後の課題等を整理。

 さらに、人口の減少、集落機能の弱体化等農村をめぐる現状を分析し、内発的
な地域づくり、農村の社会基盤の整備等を通じた活力ある美しい農村の実現に向
けた取り組みと諸課題を整理。



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