◎調査・報告


レンダリング業界激動の 1 年 

−BSE発生後の対応と課題−

日本大学 生物資源科学部 助教授 早川 治




レンダリング産業の経営概況

 わが国に牛海綿状脳症(BSE)が確認されて早くも1年が経過した。発生当時
は、酪農経営を始め肉牛経営農家に大きなパニックが起こり、消費者には食肉
不安が走った。さらに、生産者や消費者だけに限らず、畜産関連産業全般に甚
大な被害を与えた。ここでは、そのうちレンダリング業界のこの1年を振り返
って、問題点や課題を整理することにする。

 レンダリング業は、と畜場・食鶏処理場から発生する可食部分(食肉や内臓
肉など)以外の不可食部分(脂肪、骨、内臓、血液、皮などのいわゆる残さ)
を原料として、食品原料(動物性油脂、エキスなど)と工業用原料(主に油脂、
脂肪酸を石鹸原料に、肉骨粉を飼料原料に)に再資源化する産業であり、われ
われの生活になくてはならない製品の原料を製造する産業であると同時に、畜
産物流通にあっては最川下に位置して流通上で発生するあらゆる畜産廃棄物を
処理して資源化するリサイクル処理産業でもある。これまでわが国では社会的
に認知されてこなかった産業であるが、BSE事件以降、元凶の一因とされた肉
骨粉の製造業者として一躍話題に上ったが、単に肉骨粉だけを製造しているだ
けでなく、上述のような社会的に重要な使命を持った産業である。このレンダ
リング業が存在することで、わが国畜産の規模的拡大がなし得たし、食肉産業
の近代化が実現できたと言っても過言ではない。

 社団法人日本畜産副産物協会(以下「副産物協会」という。)が実施した平
成12年度の調査1)によれば、全国に分布しているレンダリング工場は、北海
道13社15工場、東北10社12工場、北陸6社6工場、関東43社43工場、東海12社12
工場、近畿37社37工場、中国6社6工場、四国6社6工場、九州22社22工場となり、
全国で159工場が操業している。平成5年当時からの操業率を全国的に見ると約
20%の減少となっており、BSE発生後の工場数はさらに減少している。この要
因は、食肉輸入が増大したことから、国内頭羽数が大きく減少したことや、口
蹄疫やサルモネラ対策などの衛生問題対策費の大幅な上昇がある。石鹸や配合
飼料へのレンダリング原料相場が輸入パーム油等の安価な原料に市場を駆逐さ
れていることも大きい。こうした内外要因から、レンダリング業界では再編合
理化案が浮上してきた。この合理化検討では原料発生元に応じた適正配置・適
正規模が大きな争点となったが、レンダリング業者の危機意識の不足や長期負
債を抱えて転廃業が難しいこと、後継者もいないことから新たな取組意欲が欠
落するなど各企業間の統一を図ることが困難な状況にあった。さらに、統廃合
による統一工場の建設にも莫大な財源が必要となり、現状では新たな借金を抱
え込むことにもなり、再編の道筋は遠のいた感があった。

 設備能力をアンケート調査から見ると、全国のレンダリング処理能力は8時
間当たり約3,690トンであり、現在処理量は約2,890トンとなり、稼働率は約78
%の推計値になる。このうち、100トン以上の処理能力を持つ大規模企業数は
約20%弱となり、レンダリング企業の弱小零細企業の多いことが判ると同時に、
大規模企業は九州地区に多く分布しており、地域間格差も大きい。11年度の経
営収支に関しては、「赤字」「大幅赤字」が全体の52%に達しており、「黒字」
経営はわずか14%に過ぎない。さらに、10億円以上の売上高が計上されている
にもかかわらず、約半数の企業が赤字経営に転落しているのが実態である。

 レンダリング業は搾油、精製、乾燥など大がかりな装置を必要とする装置産
業と、小規模な蒸製釜を保有する個人経営とに大別できるが、いずれの経営に
おいても厳しい経営環境が続いている。こうした現実の中で、BSE問題が発生
したのである。


BSE対策と肉骨粉の処理

 BSE発生は畜産業全体に大きな被害をもたらしたことから、国は13年度から
BSE関連対策事業を農畜産業振興事業団の補助事業として予算化した。特に肉
骨粉に関わる対策事業には、肉骨粉の適正処分に関する事業(約154億円)、
安全な肉骨粉の供給体制整備事業(約200億円)が実施された。14年度にも同
様な事業が継続されたが、新たに死亡牛の適切な処理等の事業が加わり、畜産
副産物等の適切処理の推進に約230億円が予算化されている。

 この事業によってレンダリング会社に支払われる肉骨粉焼却費用(従来販売
価格相当額として)は、ミート・ボン・ミール(肉骨粉)の場合1キログラム
当たり39円、ミート・ミール(くず肉粉)は62円、また東京都内にある公共一
般焼却施設での肉骨粉の焼却費用は15円、東京都下の公共一般焼却施設は40円、
千葉県にある民間一般焼却施設は45円、セメント工場は40円の助成金が支払わ
れている。

 また、14年度からの死亡牛緊急処理円滑施設整備事業では、従来行っていな
かった死亡牛のBSE検査を4月から全頭検査実施することから、死亡牛の処理体
制の構築に必要な施設整備補助(1/2)が行われることになり、レンダリング
企業の中には新規に死亡牛処理専用のレンダリングラインを新設するところも
あるが、1ライン15億円の投資が必要となるなど企業負担が大きい。

 国は、13年9月に「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令」(以下
「飼料省令」と略称する)の一部を改正し「反すう動物等由来たんぱく質の牛
用飼料への使用等」を禁止した。その際、飼料用動物性油脂については、飼料
省令の運用に当たってOIE(国際獣疫事務局)の基準に即し「不溶性不純物の
含有量が重量換算で0.15%以下であること」とすることになり、新たに油脂工
程の施設整備の投資も必要となってきた。特に、牛の代用乳用の動物性油脂の
取り扱いについてはより厳格な基準・規格となり、不溶性不純物の含有量が重
量換算で0.02%以下であることとされ、これは15年1月15日から適用されるこ
とになった。


肉骨粉の在庫と処理

 現在、1日平均約900トンの肉骨粉が生産されていると見られているが、この
処理方法を巡って困難な状況が続いた。これは、飼料省令の一部改正によって、
反すう動物由来のたんぱく質(肉骨粉等)を牛用飼料として給与することを禁
じたことや、13年10月4日から骨粉等の牛への誤用・流用を防止するために、
緊急的な措置としてすべての国からの肉骨粉等の輸入を一時停止するとともに、
国内産を含めた飼料用・肥料用の肉骨粉等および肉骨粉等を含む飼料・肥料の
製造および販売の一時停止を要請し、また、同年10月15日には家畜飼料への肉
骨粉等の使用全面禁止のために飼料省令の一部がさらに改正された。

 その結果、肉骨粉が一時レンダラーの工場に大量に在庫が発生し、保管場所
すら確保することが困難な状況にあった。この状況を打開するために環境省は
全国の一般廃棄物処理施設およびセメント工場での焼却処分が行えるよう各方
面に焼却処分の要請を行った。その後の調査によれば、13年12月当時では肉骨
粉を焼却処分している県は20県、保管施設が確保されている県は35県、実証試
験を開始したセメント工場は1工場となっていたが、14年10月現在では、一般
廃棄物焼却施設での肉骨粉焼却県は37県231施設、セメント22工場で実施され、
一日平均焼却量約1千トン、累計焼却数量約16万トンと推計されている。焼却
処理が順調に進めば、早ければ3月中には在庫が解消されると思われる東京都
や、遅くとも夏頃には在庫が一掃される見通しが立ってきた。

 一般焼却施設での運用開始に当たっては、地域住民の合意がなかなか得られ
なかった地域や肉骨粉を粉末状では扱えない焼却施設であったり、焼却ボイラ
ーに挿入する際の粉塵対策、油分を含む肉骨粉を焼却する際のボイラーの耐熱
性など困難な問題を克服するのに時間を要した。また、肉骨粉はカルシウムを
含むことから再生セメントとしての利用が早くから検討されていたが、焼却す
ることによる異常プリオンの不活化の実証確認や血中に含まれる塩分の除去な
どセメント工場での焼却実施上の問題克服に時間を要した。


配合飼料産業再編の動き

 配合飼料市場は、国内畜産生産規模の縮小に伴って縮小を余儀なくされてい
る。さらに、BSE、サルモネラ、O-157などの衛生対策が急務となるなど、経営
環境の厳しさが一段と強まることが避けられない情勢にある。17年4月からは、
牛用飼料に動物性タンパク質が混入しないように牛用とそれ以外の飼料製造は
別ライン化を義務付ける省令改正が見込まれている。「1ライン1億円程度の投
資が必要」2)になること、また従来からの受委託製造では経営発展の解決策
にはならないと判断して、来秋には丸紅飼料と日清飼料が経営統合することが
発表された。経営統合されれば全農系に次いでわが国第2位の大型規模になる。

 一方、配合飼料メーカー第4位の中部飼料は100億円を投じて牛飼料専用プラ
ントを設置することを発表した3)。これを受けて、日本配合飼料、協同飼料、
中部飼料の3社は、北海道での配合飼料を相互委託する方針を決定した。それ
によれば牛用飼料の生産を中部飼料が請け負い、豚・鶏用飼料は日本配合飼料、
協同飼料が受け持つこととなる。

 配合飼料産業の再編は今後のBSE対策をにらんで一気に加速する様相を見せ
ており、従来の配合飼料需給構造が大きく変化することが予測される。そのこ
とは、飼料原料を供給するレンダリング産業においても極めて大きな地殻変動
となることから影響力の大きさは計り知れない。配合飼料工場の再編合理化は、
レンダリング工場の立地、適正規模の再編を余儀なくする。つまり、レンダリ
ング産業にとっては、新たな課題が発現したことになる。


レンダリング産業の今後の対応と課題

 副産物協会の前掲報告書の中で、衛生対策の今後の課題について「BSEなど
国際的な家畜疫病への対処が大きな課題である」として、「欧米のように反す
う動物由来のミート・ボン・ミールが反すう動物の飼料に利用されないとなれ
ば大きな影響を及ぼし、畜産業界全体に重大な影響が及ぶ。今後の対応として、
従前のサルモネラ菌対策では不十分であるから、OIEが定めた国際基準を満た
した設備投資を導入するか、原料の分離・分割が可能なのか、生産ラインの改
良で対処できるかなどさまざまな対処が想定できるが、単独レンダラーで行う
には限界がある。そのため(原料)発生元、飼料会社等とで調整が必要となる
ことから基本的な考え方や方法を提示することも課題である」と指摘している。
さらに、「BSE対応は業界再編合理化の契機としてとらえることができる」と
踏み込んだ見解を示している。さらに「口蹄疫、BSEの発生は、消費者の衛生
問題への関心を高めたことから、従来のようなへい死獣の取り扱いでは対処で
きない事態が予想される」と今後の対応を指摘している。

 わが国でBSEが確認される以前から、レンダリング業界では不測の事態を想
定していた。不幸にもそれが現実となってしまった今、改めてこの指摘を謙虚
に検討することは意義深いと思われる。

 現在レンダリング業界が抱えている諸問題のうち、いくつかを取り上げてみ
よう。1つは、配合飼料メーカーが早くも打ち出したように、牛用の専用ライ
ンを新設し、鶏・豚・ペットフード用、肥料用などとの分別を図る必要がある。
2つには、14年10月18日から始まった牛の頭部全体の焼却処理に向けた対応を
早急に確立することである。牛の頭部についてはと畜場法および牛海綿状脳症
対策特別措置法によって、牛の頭部(舌、頬肉を除く)、せき随および回腸の
焼却が義務付けられていたが、牛の頭部については14年10月17日までは眼およ
び脳の焼却で足りるとされていた。しかし経過措置終了を持って頭部全体(舌、
頬肉を除く)の焼却化がと畜場の焼却施設あるいは専用の化製場もしくは関係
業界で合意を得たその他の化製場において、肉骨粉および油脂等に処理した上
ですべて焼却することになった。つまり、レンダリング工場で特定部位として
肉骨粉、油脂等に処理した上で完全焼却しなければならず、専用ライン化が必
要となる。3つには九州地区で起こっている問題として焼却灰の処置問題があ
る。焼却灰を埋め立て地で処分していたものが、埋め立て地で処分できなくな
ることから、焼却灰の処分問題が新たな課題となっている。セメント工場で再
生セメントとして処分するもの以外は、現在では焼却炉での処理である。焼却
処理は焼却灰が発生するが、ほとんどのところでは最終的には埋め立て処分し
ている。しかし、その埋め立て処分ができない場合には、チャイナボーンとし
て処分するなど極めて限られた方法しか存在しない。北海道では、肉骨粉その
ものを炭化処理して土壌改良材として活用する実験が行われている。焼却処理
で発生した焼却灰の安全性は基本的にはOIEが定めた国際基準により処理をし
て異常プリオンが不活化することになっているので、この基準を満たした焼却
灰の安全性を早期に解明し、土壌改良材などの再利用化の可能性を検討しても
良いだろう。4つには、内外ともに大きな経営環境悪化を受けて、業界再編を
視野に入れたレンダリング業界の適正配置、適正規模を検討する必要があろう。
特に今般のBSE関連事業を国が行っている時に、「業界再編合理化の契機」と
すべきである。それは、業界だけの問題ではなく日本の畜産業全般に係わる重
大な影響力を及ぼす問題だからである。

注

1.「畜産副産物業界再編合理化検討推進事業報告書」社団法人日本畜産副産物
 協会 平成13年3月 

2.「日本経済新聞」平成14年10月8日より引用

3.「日本経済新聞」平成14年12月21日より引用

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