◎調査・報告


日本型有機畜産の可能性

日本獣医畜産大学 食料自然管理経済学教室
講師 永松 美希


世界的有機市場の形成

 有機食品をめぐる状況が、90年代以降大きな変化を遂げつつある。草の根運
動として実践されてきた有機農業も、最近では多くの消費者が安全な食品と環
境に配慮した農業を求めるようになり、世界的な有機市場が形成されつつある。
有機食品の市場販売額は90年代以降年率5〜40%という驚異的なスピードで拡
大を続け、98年には135億ドルであったが、2000年には推計260億ドルとわずか
2年間で倍増し、2008年には800億ドルにまで成長する見込みである。とくに牛
海綿状脳症(BSE)の発生が、その有機市場拡大に拍車をかけている。

 こうした有機市場の拡大で、これまで有機部門に関心を示さなかった食品産
業界も、今や有機部門を経営戦略の有望な部門として位置づけ、国際的な競争
を繰り広げるようになってきている。

 有機畜産に関しては世界レベルで基準策定が進行してきたにもかかわらず、
日本ではこれまであまり議論されてこなかった。飼料自給率の極めて低い日本
の現状では、地域循環システムを促進する有機畜産の実現は困難であり、また、
輸入飼料の大半が遺伝子組み換え体である現実が重くのしかかり、有機畜産基
準策定そのものを疑問視する声もあり、関心が薄かったのである。しかし、日
本でもBSEの発生以来、その原因解明と関連して畜産物の安全管理システムの
確立が緊急の課題となっており、有機畜産への関心が高まりつつある。


日本の有機農業の歴史と有機畜産

 過去においても、日本の畜産業で安全・安心を目指してきた取り組みは、草
の根運動的に存在していた。日本の有機農業運動の歴史を振り返ったとき、そ
の出発点は経済の高度成長期に水俣病をはじめとする深刻な公害問題が発生し、
食品の安全性も脅かされた時期であった。少しでも安全な食品を子供たちに食
べさせたいとの母親たちの思いが生産者に伝わり、産消提携や産直運動を生ん
できた。より安全な牛乳や鶏卵などの畜産物は、栄養的に優れた食品として消
費者に選好されることで運動の原動力となり、消費者グループや生協の組合員
の拡大にも有効な食材であった。

 ポストハーベスト汚染の問題や遺伝子組み換え飼料の問題も消費者が連携し
てそれらを拒否したことがきっかけとなり、IPハンドリング(分別生産流通管
理システム)による安全な飼料の輸入体制が確立されてきた。

 現在でも、鶏卵や牛乳等の畜産物には、手軽に良質の蛋白質を摂取できる食
品として様々な期待が寄せられており、BSE発生以降は、特にトレーサビリティ
の確保された有機畜産への期待は一層強くなっている。国際連合食糧農業機関
(FAO)も有機食品について、食品安全管理システムが最も良くなされていると
評価している。

 有機畜産を進めることは、地域の循環システムを確立することや、堆肥を安
定的に供給していくことを考える上で重要な意味を持っている。また、アニマ
ルウェルフェア(動物福祉)の観点からも有機畜産を進めることは、今後さら
に要求されてこよう。さらに環境保全面を考えれば、国内の畜産農家が有機に
転換していくことは、今後多方面から要請されるであろう。

 生産者サイドでも、こうした消費者の安全・安心な畜産物に対する期待に応
えようと、従来型の有機農業運動に見られる産消提携や生協を中心とする産直
運動以外にも、各地で様々な展開が試みられ一定の成果を挙げつつある。

 こうした消費者の要請に応えようと始まっている各地の実践は、互いに重な
る部分もあるが、以下のように分類できる。

@産消提携に基礎をおいた有畜複合経営
A山地酪農による自給型酪農経営
B世界基準に適合する有機畜産経営
C日本型基準によるトレーサビリティーシステムの開発
DJA(農協)による有機の里づくり

 紙数に限りがあるため、このような実践の全てを紹介することは出来ないが、
いくつかの先駆的な事例を紹介することで日本の取り組みの到達点を確認し、
今後の可能性と課題を明らかにしたい。

@産消提携に基礎をおいた有畜複合経営
 −魚住農園の事例−

 有畜複合経営への取り組みは、日本の有機農業運動初期から係わってきた農
業者や有機農業の理念を追求する生産者が実践するスタイルである。そのため、
一農家で取り組める範囲の耕種と畜産を組み合わせた形態であり、農家の自給
の延長で消費者と提携をしてきた。茨城県八郷町の魚住農園は、その先駆的か
つ典型的な事例の1つである。約3haの耕地に年間50〜60品目の野菜の周年栽培
と小麦、大豆、なたね、小豆、そば等を作付けし、600羽の放牧養鶏を実践し
ている。労働力は夫婦2人と研修生である。魚住農園には有機農業を目指す若
者が日本だけでなく世界中から訪れる。耕種部門に農薬や化学肥料は一切使用
しない。鶏にも抗生物質、ホルモン剤等は一切使用しない。くちばしを切るデ
ビーキングや、人工照明などアニマルウェルフェアに反することも行わない。
トウモロコシ等の一部飼料は輸入飼料を使用し、外部農家の牛ふんも畑の堆肥
として使用していたが、遺伝子組み換え飼料の問題が明るみに出てきた96年以
降は一切やめて、自給できる飼料と地域で得られる国産の酒粕や米糠や緑餌を
多く与えるようにした。魚粉も山形県のサケふ化場の残さに変更した。卵の黄
身が若干白くなったが、味に変わりはない。このようにして出来た野菜や卵な
どの農産物を自ら地域の消費者に届けている。

 今後は永続的な自給と未利用地域資源の発掘と活用が課題である。

A山地酪農による自給型酪農生産
 −中洞牧場の事例−

 山林の多い日本の国土で中山間地域の有効利用として期待できる放牧を主体
とした酪農である。輸入飼料に依存しない、野芝等を利用する低投入型の山地
酪農そのものの歴史は古く、島根県の木次乳業等でも古くから実践され、安全
な牛乳として消費者に提供されてきたが、本稿では、岩手県の北上山地のほぼ
中央に位置する岩泉町の冬場は零下20度にも気温が下がる厳しい自然の中で、
完全放牧に挑む中洞牧場を取り上げる。

 中洞牧場は、83年、農用地開発公社による北上山系開発事業に参加し、入植
したことがその発端である。当時の国や県の指導する集約的かつ輸入飼料依存
型酪農を開始したが、その手法に疑問を持ち、92年に放牧を主体とした山地酪
農に転換した。現在は無施肥管理、周年昼夜放牧、自然交配・自然分娩による
中洞ブランド”エコロジー牛乳”生産を行っている。輸入濃厚飼料やGM飼料も
一切与えない。搾乳牛に与える購入大豆粕、ビートパルプは国内産であり、不
足する乾草も国内産で賄っている。現在の経営規模は放牧地38ha、うち林間放
牧地15ha、採草放牧地兼用地5ha、採草地5haである。飼養頭数は経産牛19頭、
育成牛11頭、種雄牛2頭である。年間売上高5,500万円、年間総乳量7万3,000kg
となっている。放牧への転換当初は、搾乳時間になっても牛が帰ってこないた
め中洞氏が探し回ったりしたこともあったというが、時間がたつにつれ牛も放
牧になれ、時間には帰ってくるようになり、中洞氏もまた少々の異変には動じ
なくなっていた。放牧に転換したことにより、牛が大変健康になり、医薬品の
使用が無くなった。2000年には自社プラントを建設し、生乳はすべて自社プラ
ントで加工している。1頭当たりの1カ月乳量は約3,800kgと慣行酪農の1/2〜
1/3である。乳脂肪率も3.0%と低いが、健康で安全な牛乳として消費者の強
い支持を受けており、宅配を主体に1本(720cc)440円で販売され、一部高級
スーパーでは600円程度で販売されている。

 このように通常牛乳の3〜4倍の価格でも十分消費者から支持されており、さ
らに口コミで味の良さと安心感が伝わり、生産量を拡大する必要性が出てきた
ため、他の山地酪農生産者との提携を開始しようとしている。従来型の高泌乳
生産を目指すことなく、岩手の北上山地の植生を生かした放牧による健康な酪
農生産を目指しているのである。

 このような消費者が主導してきた日本の有機農業運動は、ポストハーベスト
フリー飼料(PHF)の開発から非遺伝子組み換え飼料の開発(NON-GMO)を行い、
河川敷の草や森林の下草等の未利用資源を掘り起こし、そのことによって国内
産飼料の増産と給与割合の拡大を目指している。こうした活動はすべて消費者
グループや生協、有機農産物専門流通事業体との提携で成り立ってきた。つま
り消費者主導によるアグリフードシステムであり、生産者の顔の見える透明性
の高いトレーサビリティの確保されたシステムを先駆的に開発してきたところ
に特徴がある。

B日本型基準によるトレーサビリティシステムの開発
 −全農安心システム第1号「宗谷黒牛」−

 全農は「安心システム」という産地の信頼を高め、かつ生産履歴が確認でき
るトレーサビリティの確保された独自の認証システム「全農安心システム」を
2000年7月にスタートさせた。北海道の宗谷黒牛はその認証第1号である。宗
谷岬肉牛牧場は、もともと宗谷畜産開発公社によって開発された従来型の牧場
であり、開発当初は多額の負債を抱えていた。牧場長が現在の氏本氏に変わっ
てから経営の立て直しを図るため、いずみ市民生協やわかやま市民生協との産
直を開始し、この産直活動を通して従来型の加工型畜産ではない放牧を主体と
し、できるだけ地域の資源を生かした有機畜産を目標に牛肉生産を目指すこと
になった。その意気込みはまさに牧場のコンセプト「大地の健康・牛の健康・
消費者の健康」に端的に表れている。自給飼料を主体とした放牧にこだわり、
最終の仕上げ段階にのみ非遺伝子組み換えの購入濃厚飼料を使用している。さ
らに漁業の盛んな稚内に立地するため地元漁業と共存できる牛肉生産を目指し
ている。牛の飲料水にはすべて上水道を使い自然河川に糞尿が混入しないよう
にすることも、漁業者との話し合いで決まったことである。汚染水が混入しな
いように極めて厳密に管理している。

 安心システムを実行するために、生産者、消費者、流通業者の3者で独自の
エコロジービーフガイドラインを作成しており、そのガイドラインに沿って生
産、流通基準が遵守されているか毎年第三者機関によって検査を受けるのであ
る。有機基準ではないが、現状でできるだけ有機に近づけようと努力し、改善
を重ねている。生産基準は全て情報公開され、トレーサビリティの確保された
システムとなっている。生協産直からのスタートであるため生協組合員やその
子供たちとの交流には特に、積極的に取り組んでおり、牧場に交流施設エコビ
レッジを建設している。

 今後、肉牛生産でどこまで飼料自給率を向上させられるかが課題であろう。
その点では、経営規模が異なり大学の研究牧場であることが有効に働いている
こともあるが、北海道の北里大学八雲農場も完全自給飼料、放牧による牛肉を
生産し、東都生協と産直活動を行っている。

C世界基準に適合する有機畜産経営
 −タカナシ乳業・大地牧場の連携による有機認証牛乳−

 タカナシ乳業は千葉県御宿の大地牧場と提携し、日本で初めてアメリカの有
機認証団体QAIの認証を受けた有機牛乳の生産を2001年より開始している。

 有機牛乳の生産者である大地氏の経営する大地牧場の乳牛飼養頭数は、育成
牛80頭、搾乳牛100頭、乾乳牛15頭である。牛舎に隣接して草地が30haあり、
牧草を無農薬・無化学肥料による有機栽培で栽培している。地域では有数の酪
農家である。乳牛には100%有機飼料を与える、フリーストール形式の採用、
医薬品は一切使用しない等、アメリカの厳しい有機畜産基準を遵守している。

 大地氏はもともと無農薬による牧草を栽培しており、通常の牛乳と同じルー
トで生乳を出荷していたが、すでに岩手県葛巻町で低温殺菌牛乳を生産してお
り、さらに次の新しい展開を模索していたタカナシ乳業との話し合いの中で完
全有機牛乳の生産に挑戦することになった。タカナシ乳業はすでにアメリカの
有機牛乳乳業のホライズンオーガニックディリー社と技術提携を行っており、
有機酪農と有機牛乳に関するノウハウを取得していた。有機牛乳を生産するた
めには加工に関しても専用ラインを確保した上で有機認証が必要なため、系列
会社のあしがら乳業を有機牛乳加工プラントとして認証を取得した。完全有機
牛乳実現のために大地牧場の生産で不足する有機飼料をアメリカから購入し、
大地牧場に提供すると同時に有機酪農の技術も指導し、アメリカ基準に沿って
生産された有機原料乳を大地牧場がタカナシ乳業に提供する形態を取っている。
認証に関する手続きや費用はすべてタカナシ乳業で行っている。加工された牛
乳はタカナシ乳業の販売店を通した宅配ルートを中心に1本(200ml)120円で
販売されており、一部スーパーマーケットでは空き瓶回収ができないため140
円で販売されている。有機牛乳への消費者ニーズは高く、生産量が不足するほ
どであるが、厳しい有機基準をクリアできる新しい生産者を開拓できないため
生産が拡大できないでいる。

 他にも鶏肉では、徳島県イシイフーズがフランスのコクノアールという地鶏
を導入し、国内認証団体の認証による有機チキンの生産を行っている。このよ
うに世界基準に適合する有機生産を目指す生産者や企業が出現してきている。

D有機の里づくり

 静岡県にあるJA富士開拓は、戦後開拓で富士山麓の朝霧高原に入植した人た
ちによって作られた農協である。入植者の懸命の努力により、火山灰と石ころ
だらけの荒れ地を開墾によって広大な草地へと転換させた。70年代から80年代
にかけては、日本でも有数の酪農地帯であったが、その後の牛乳消費量の減少
と乳価の停滞のため、酪農家戸数は150戸から66戸まで減少した。90年代に入っ
てからは、酪農家戸数の減少にもかかわらず、高泌乳、高成分追求の酪農生産
の弊害によるふん尿公害の問題も出てきた。そこで、新たな道を切り開くため、
「有機の里」づくりを目指し始めた。「有機の里(村)」づくりは他の地域で
も見られるが、JA富士開拓の特徴は、放牧酪農や放牧養豚、そして酪農生産の
副産物である堆肥を使用した高原野菜作りと、畜産と耕種を組み合わせた地域
複合経営をJA自ら主導しているところにある。全国的にも貴重な先駆的事例で
ある。JAの参事が中心となり「富士朝霧高原有機農業経済振興会」を結成し、
毎月公開で「富士有機農業学校」を開催した。こうした勉強会を継続していく
中で放牧酪農や放牧養豚が開発されていったのである。

 もともとJA富士開拓の酪農家の大半は、1,000haの広大な草地を利用して日
中は放牧を行っていた。その中で、約100頭の乳牛を飼養する中島氏は、冬や
雨の続く時期を除いて、ほぼ昼夜完全放牧を行なうようになった。配合飼料も
一部与えているが、それらはもちろん非遺伝子組み換え飼料である。中島氏の
牛乳は地元の朝霧乳業で他の牛乳とラインを区別して「放牧牛乳」として加工
され、有機食品の宅配事業者「らでぃっしゅぼーや」等で首都圏の消費者に販
売される。消費者の評判が大変よいため、もう1戸加わることとなった。今で
は放牧乳ヨーグルト、放牧乳アイスクリームと加工品目も拡大している。

 放牧養豚経営は全国的にみても生産者が数えるほどであり、貴重な存在であ
る。豚舎から解放された豚が採草地のなかで水遊びをしたり走り回ったりして
おり、この姿を見ると豚を檻に閉じこめることがアニマルウェルフェアに反し
ていることが良く理解できる。この豚肉も専門の流通業や小規模加工メーカー
に販売されている。

 野菜は酪農経営を後継者に譲った70才から80才の高齢者が「朝霧高原作物研
究会」を結成し、農薬や化学肥料を使用しない有機栽培で行っている。酪農か
ら出る堆肥があるから土づくりが容易である。収穫した野菜は農協が経営する
コミュニティスペース「牧場の駅・富士ミルクランド」の一角に「ファーマー
ズマーケット」を建設し、そこで収穫した野菜だけでなく自然食品全般を扱う
ようにした。地元の消費者だけでなく、富士山を観光で訪れる消費者から大変
好評で、野菜だけで年間200万円以上の収入がある高齢生産者が出現している。
今後は畜産物と野菜を組み合わせた宅配や有機認証取得を目指した経営指導が
課題である。


EUのアニマルウェルフェア運動と日本の状況

 以上、日本各地の先駆的な取り組みを紹介してきた。どの実践も消費者の安
全・安心で畜産物を生産するため現状で出来る限り家畜の健康に配慮し、飼料
も出来るだけ国内自給を目指している。そのため畜産物の価格は慣行生産によ
る畜産物よりも高額になるが、消費者は生産現場の努力を認めた上で、享受し
ている。今後、このような実践が全国的に浸透していくことが望ましいであろ
う。

 日本の全般的状況で注意しておきたいのは、畜産物も安全な食品として開発
しようとする意欲は強いが、動物の健康と福祉に配慮したアニマルウェルフェ
アの視点が弱いことである。

 EUはアニマルウェルフェア運動の先進国であるが、EUにおけるアニマルウェ
ルフェア運動は有機畜産規則以外でも大きな成果を挙げつつある。60年代に開
発された工業的畜産の象徴ともいえる食肉子牛用クレート、雌豚用ストール、
繋ぎ飼いケージの3つのシステムがEU全般において改善される方向にある。2006
年には雌豚用繋ぎ飼いは禁止され、2013年には雌豚用ストールは最初の4週間
の使用を除いて禁止される。豚の断尾と歯削もすでにイギリスでは禁止されて
いる。食肉用子牛を閉じこめる両側が狭い木枠で固定された囲いのクレートは、
90年にイギリスで禁止され、EU全域でも2007年には禁止される予定である。
現在、採卵鶏は世界に47億羽いるが、その3/4はバタリーケージに閉じこめら
れている。ちなみに日本の使用羽数は1億5200万羽で世界第4位であり、98%は
バタリーケージ飼養である。鶏は羽ばたくこともできず、骨も折れやすくなる。
EUでは2012年までにこのバタリーケージも禁止される。

 このように食肉子牛用クレート、雌豚用ストール、繋ぎ飼いケージ、そして
採卵鶏のバタリーケージは近い将来全面禁止されることが合意されている。

 これまで農業動物の健康と福祉そして保護に関して関心を示してこなかった
EUの動物保護団体も重要な課題との認識を持ち始め、日本をはじめアジアの農
業者の意識をも喚起する運動を拡大しようとしている。日本でもアニマルウェ
ルフェアに配慮した酪農の生産構造に転換し、有機畜産を実践してゆく時期に
さしかかっているといえるだろう。
 

日本型有機畜産への道

 世界全体を見れば、有機畜産の開発は、コーデックスガイドライン等の国際
有機畜産基準に規格化された消費者の食品安全性への要求の高まりと、世界市
場経済システムにおける競争の中での優位性を高めるため、厳しい精度の高い
検査認証制度で進むと考えられる。有機農業は本来、経営事業ではなく「運動」
であった。その目指してきた地域自給経済システム社会の確立は、EUよりもむ
しろ日本の「産消提携」「産直」で展開してきたと考えられる。最近の食肉の
偽装表示等一連のスキャンダルは、この「産消提携」「産直」の根本的な問い
直しを迫っているが、「産消提携」「産直」システムは本来の機能を発揮すれ
ば、食品安全管理システムとして最も有効であると考えられる。この「産消提
携」「産直」の理念や原則は、EU各国の有機農業団体や有機農業者からも高く
評価されており、産消提携のシステムがイギリスのボックススキームに、生協
のワンパック野菜が自然食品店等のワンパック野菜・果物等の販売事業に導入
されている。

 この経験を生かして農業者、消費者の市民パートナーシップ事業によって、
有機畜産への道を開発してゆくことが重要だと考える。

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