◎地域便り


埼玉県 ●住民の煙害苦情に市が一石三鳥対策
      煙害解消に小麦農家と酪農家の連携
に補助

埼玉県/企画情報部


 埼玉県北部の熊谷市は利根川や荒川が東西に流れる肥沃な土地で、稲作との
二毛作の小麦農家も多い。市農政課によれば、かつては市内での小麦作付け面
積は約1,200ヘクタールもあり、刈り取られた麦ワラはほとんどが畑で焼却さ
れていた。最近では一般住民との混住化が進み「空気が汚れて、喘息発作や健
康に悪い」、「濃厚な煙で道路の視界が悪く、交通事故になる」等の苦情が寄
せられるようになっていた。


 小麦収穫時期が約1週間程度と集中しており、小麦ワラ回収や運搬に設備や
労力・時間を要し、しかも小麦農家にはメリットも無いこと等があり、安直に
畑で焼却していたという。


 そこで、熊谷市では小麦農家が収集した麦ワラを畜産農家に提供し、畜産農
家が麦ワラたい肥を生産し、その有機たい肥を耕種農家が使用する地域資源循
環型農業の構築を目指したのである。


 そのため、小麦農家が麦ワラを回収する機械導入に一部補助を行うことで、
煙害発生を軽減すると共に、供給された麦ワラを敷き料に利用することで畜産
農家ではオガクズ等の敷料代が無料となりコストダウンとなった。また、麦ワ
ラと家畜ふん尿では良質たい肥が生産でき、小麦農家も安定利用することで、
小麦の安全性を高めることが可能となる事業を熊谷市では「未利用資源回収支
援事業」と名付けて機械への補助(県4割、市1割)が行われることとなった。


 機械の導入先は同市中条地区の小麦農家で結成する中条機械利用組合(石原
靖久組合長)がモデル組合として選定された。小麦収穫後にロールベーラーで
回収された麦ワラは小麦農家で保管され、市内の酪農家4戸に提供される。石
原さんは「この事業で、焼却の煙で迷惑を掛けていた方々に喜んでもらえる。
また、購入の化学肥料から、無料の有機肥料で経費節減にもなる。しかも、お
いしい有機小麦が生産されれば、これから付加価値づくりが課題だ。そう考え
ると高額の機械購入費も高くない」と今後に期待する。


 酪農家グループ4戸の代表の八木原敏夫さんは170頭(成牛100頭)を飼養す
るトップクラスの酪農家である。一代で築き上げた大規模経営であるが「フリ
ーバーンの敷き料代も無視できない。オガクズは1立方メートルで3千円、園芸
農家にたい肥を販売しても赤字なので、無料の麦ワラの提供は有り難い。ロー
ルベーラーで短くカットされているので利用性も良好だという。小麦農家への
たい肥供給(年間260トン見込み)は稲刈り後の10月半ばや翌年の2−3月に行
われ田畑に散布される。熊谷市は市民15.6万人のうち、小麦農家約1,300戸、
酪農家23戸、肉用牛農家13戸が存在する。市農政課は「他の地域でも広げ、事
業に参加する農家を増やしたい。また、資源循環型の有機肥料を使った安全な
農畜産物を供給することで市民の農業への理解を深めたい」としている。
刈取前の麦畑(6月第1週)
(刈り取り後は直に田植準備に入る)
今迄は田植に入るため、麦桿は焼却していた

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