★ 農林水産省から


「平成15年度食料・農業・農村白書」の概要
−畜産をめぐる状況を中心として−

大臣官房 情報課  小牟田 暁
はじめに

 「平成15年度食料・農業・農村の動向に関する年次報告」(食料・農業・農村白書)は、16年5月18日閣議決定の上、国会に提出、公表された。

 15年度の白書は、食料・農業・農村基本計画の見直し作業が進められていること等を踏まえ、現行の基本計画策定以降の食料、農業および農村をめぐる情勢の変化や直面する課題、さらに農政改革の必要性等について、国民各層の理解に資するよう取りまとめられた。

 以下、15年度白書の概要について、畜産に関連する部分を紹介する。

 なお、最後に白書全体の構成も紹介するので、詳細等については白書本文をご参照いただきたい。

米国でのBSE発生、高病原性鳥インフルエンザの感染拡大の影響

 15年12月、米国においてBSEの発生が初めて確認され、わが国は直ちに米国からの牛肉等の輸入停止措置を講じた(表1)。14年のわが国の牛肉輸入量の47%を占める米国産の輸入停止により、外食産業を中心に、国産やオーストラリア産の牛肉のほか、豚肉、鶏肉等への原材料の転換が進むなど、わが国の食肉需給に影響が生じている。

 また、16年1月、わが国で79年ぶりとなる高病原性鳥インフルエンザの発生が確認され、その後、同年3月までに新たに3カ所で発生が確認された。一方、海外では、アジアを中心に高病原性鳥インフルエンザの感染が拡大した。さらに、16年2月には米国でも発生が確認され、14年のわが国の鶏肉輸入量の35%を占めるタイ、23%を占める中国、10%を占める米国からの鶏肉等の輸入が停止された。このため、米国のBSE発生に続き、わが国の食肉需給はさらに大きな影響を受けた。

 わが国は、食肉の国内需要量の多くを輸入に依存しており、輸入先は特定の国に片寄っているため、わが国の食肉需給は主要な輸入先国における不測の事態に大きく影響されやすい構造となっている。

表1 BSE、高病原性鳥インフルエンザの主な発生状況等
資料:農林水産省作成(16年3月末現在)。

わが国における牛肉需給の動向

 わが国初のBSEの発生後の牛肉消費の動向をみると、発生直後には購入世帯数と世帯当たりの購入量がともに大幅に減少したが、14年後半にはBSE発生前の9割の水準までに回復し、その後横ばいで推移した(図1)。このため、全世帯の平均購入量は、BSE発生前と比較して2割ほど下回って推移した。16年に入り、米国でのBSE発生等の影響により、購入世帯数、購入量ともに減少した。

図1 牛肉の家計購入量、購入世帯の推移
(平成12年8月〜13年7月の各月に対する同月増減率)
資料:総務省「家計調査」
 注:農林漁家を除く全世帯(2人以上の世帯)での値である。


 一方、牛枝肉の卸売価格の動向をみると、BSE発生直後に急落し、特に低規格品ほどその下落幅が大きかった(図2)。その後、回復傾向となり、輸入牛肉と競合する低規格品の価格は、発生前の8割の水準で推移していたが、米国でのBSE発生による輸入停止のため、16年1月に上昇した。このような牛枝肉の価格の変動等に伴い、肉用牛経営の収益性は13年度に悪化した後、14年度には改善がみられたが、低規格品の割合が高い乳用おす肥育牛の経営はさらに収益性が悪化した。

図2 牛枝肉の規格別卸売価格の推移
(平成12年8月〜13年7月の各月に対する同月増減率)
資料:農林水産省「食肉流通統計」
 注:枝肉卸売価格は食肉中央卸売市場での各畜種・規格の加重平均値である。

 牛肉の消費と価格の回復の遅れは肉用牛経営に依然大きな影響をもたらしているが、消費回復の遅れの一因として、牛肉の安全性に対する消費者の信頼が十分に回復していないことが影響していると考えられる。

 今後、牛肉の安全と安心についての消費者の信頼を確かなものとし、消費の回復につなげていくためには、各関係機関が一体となってBSEの感染源および感染経路を明らかにするとともに、牛肉の履歴管理制度の適切な執行や、消費者に対する正確な情報の公開と正しい知識の普及・啓発に努めていくことが必要である。

家畜排せつ物の適切な管理の推進

 家畜排せつ物の不適切な管理を解消するため、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」に基づく管理基準の適用猶予期限までに、たい肥化施設の整備等を推進していくことが重要である。このため、農林水産省は15年3月に「畜産環境整備促進特別プロジェクト」を設置し、都道府県やJA全中等関係団体と連携を取りつつ、施設整備の推進を図っている。

 また、畜産農家は、経営規模の拡大等に伴い、家畜排せつ物を自らの経営耕地へ還元することだけですべて処理することは困難になっている。特に、畜産経営が多い地域の中には、家畜排せつ物の発生量がたい肥として農地に還元できる量を超えているとみられる地域もある。このため、家畜排せつ物の農地への適切な還元を行うためには、耕畜連携やたい肥の広域流通に向けた取り組みが重要となっている。さらに、家畜排せつ物をバイオマス資源の一つとして位置付けて、メタン発酵や直接燃焼による発電等、地域の実情に応じた家畜排せつ物の利用技術の実証・普及を行うことが重要である。

自給飼料生産の推進

 近年の飼料作物の生産動向をみると、農家戸数の減少等に伴い作付面積は減少傾向にあり、14年度には約93万5千ha(北海道約61万ha、都道府県約32万ha)となった(図3)。また、飼料作物の単収についても、牧草に比べ収量が多いものの栽培・収穫作業等の作業の負担が大きい青刈りとうもろこし等の作付けが減少していること等から減少傾向にある。

図3 飼料作物作付面積等の推移
資料:農林水産省調べ
注1:平成14年は見込み
 2:生産量は、TDN(可消化養分総量)ベースである。
 3:目標は、食料・農業・農村基本計画において示された生産努力目標

 一方、水田等の既耕地の活用、耕畜連携の観点から、通常の水稲の栽培技術を活用し湿田でも生産可能な稲発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)の増産の取り組みが進められており、14年における作付面積は前年比51.1%増の3,593haとなった。また、14年には多収で病害抵抗性、耐倒伏性等の特徴をもつ4つの専用品種が新たに登録され、さらに単収向上に向けて専用品種の開発等の取組が進められている。

 酪農経営における飼料作付面積の推移をみると、1戸当たりの飼料作付面積は着実に増加しているが、規模拡大に伴い1戸当たりの総労働時間も増加傾向にある(図4)。特に、家畜の飼養管理にかかる労働時間が増加している。このため、今後、自給飼料生産の拡大を図るためには、大型機械の共同利用、経営の共同化および搾乳・ほ乳ロボット等の新技術導入による飼養管理の効率化や飼料生産の組織化・外部化等を推進するとともに、各地域の立地条件に応じて放牧を積極的に活用することが必要である。

図4 酪農家1戸当たりの自営農業投下労働
時間の推移(全国平均)
資料:農林水産省「農業経営統計調査(牛乳生産費)」
注1:7〜11年については、前年9月〜当年8月、12年以降については前年4月〜当年3月の結果である。
 2:「自給牧草にかかる労働時間」と「搾乳牛にかかる飼養管理時間」は1戸当たり搾乳牛飼養頭数に搾乳牛1頭当たりの自給牧草にかかる労働時間、搾乳牛1頭当たりの飼養管理時間をそれぞれ乗じて算出。

バイオマス利活用の推進

 バイオマスとは、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」のことである。具体的には、家畜排せつ物、食品廃棄物等の廃棄物系バイオマス、稲わら、間伐材等の農地や森林に自然還元されている未利用バイオマス、プラスチックやエタノールの原料として利用可能なとうもろこし、さとうきび等の資源作物がある。

 家畜排せつ物の利活用の状況をみると、12年度における発生量は約9,100万トンであり、うち8割がたい肥や液肥等として農地に還元されている。稲わらについては、955万トンのうち7割が農地へすき込まれており、2割がたい肥、飼料、家畜の敷わらとして利用された。

 各地域では、地域住民の関心や収集コストが比較的低いことから、生ごみ等の廃棄物系バイオマスの利活用が進展しつつあるが、全体としては点的な取り組みにとどまっている。利活用を推進する際の問題点として、施設の初期投資、管理運営コスト、バイオマスの収集・輸送コストの負担が大きいこと等が指摘されており、これらの課題の解決を図ることが重要である。

 バイオマスは地域に存在する固有の資源であり、これらの積極的な利活用は、新たな産業や雇用の創出、循環型の地域づくりに貢献することが期待されている(図5)。

図5 バイオマス利活用による地域の活性化
資料:農林水産省作成。

15年度白書
 (第1部 動向編)の構成

トピックス

 15年度における食料・農業・農村をめぐる特徴的な動きをわかりやすく紹介。(食料・農業・農村基本計画の見直し、BSE、高病原性鳥インフルエンザの発生、異常気象等が農業生産に及ぼす影響等7項目。)

第I章 食料の安定供給システムの構築

 安全な食料供給に対する国民的要請にこたえるための食品安全行政の推進、食の安全と安心の確保に向けた具体的取組について記述。

 また、食料自給率の動向について、消費・生産両面から多角的に分析するとともに、年齢別の食生活の現状や食料産業の動向の分析を踏まえ、食育の推進、農業と食品産業の連携の重要性等を記述。

 さらに、国際的な穀物の需給動向、UR以降の世界の農産物貿易構造の変化、アジアや中国の動向等について分析するとともに、わが国の輸出促進に向けた取組状況と課題を整理。また、WTO農業交渉や、FTA交渉の動向と交渉に当たっての基本的考え方等について記述。

第II章 農業の持続的な発展と構造改革の加速化

 最近の農業生産や農家経済の動向、新規就農者の動向等について分析。また、農業の構造改革の加速化に向けた課題について、担い手の育成・確保の状況や都府県における最近の稲作経営の特徴、農地の確保と有効利用、農協改革の取組について現状と課題を整理。

 さらに、米政策改革の現場での取組状況を整理するとともに、現行の基本計画のもとでの米、麦、大豆、野菜、畜産物等の需給動向の分析を踏まえ、需要に応じた生産の推進に当たっての課題と政策改革の重要性を記述。

第III章 活力ある美しい農村と循環型社会の実現

 農業と環境のかかわりについて基本的考え方を明らかにするとともに、自然循環機能を活用した生産方式やバイオマスの利活用の取組状況と課題、農業の多面的機能の重要性について記述。

 また、人口の減少、集落機能の弱体化等農村をめぐる現状と中山間地域等直接支払制度の実施状況等を記述。

 さらに、農地や農業用水等農村地域の有する資源の現状を明らかにするとともに、地域の資源を活用した農村の地域再生に向けた取組と課題について先進的な取組事例を交えて記述。


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