★ 農林水産省から


食品安全委員会への食品健康影響評価の依頼について

消費・安全局 衛生管理課



 わが国における牛海綿状脳症(BSE)対策について「日本における牛海綿状脳症(BSE)対策について(中間とりまとめ)」(平成16年9月食品安全委員会通知)を踏まえた見直し案を、厚生労働省食品安全部監視安全課と共に、10月15日、食品安全委員会へ諮問した。以下にその内容を紹介する。


 厚生労働省および農林水産省は、「中間とりまとめ」を踏まえ、わが国における牛海綿状脳症(BSE)対策について、食品安全委員会へ以下の事項に係る見直しを行うことの意見を聞くこととした。

(1) と畜場におけるBSE検査について、牛海綿状脳症対策特別措置法第7条第1項の規定に基づく検査対象となる牛の月齢の改正及び検査技術に係る研究開発の推進

(2) 特定危険部位(SRM)の除去の徹底

(3) 飼料規制の実効性確保の強化

(4) BSEに関する調査研究の一層の推進

I と畜場におけるBSE検査 について(厚生労働省関係)

1 現状

(1) 規制の状況

  食用を目的とした獣畜のとさつ解体については、と畜場法第14条に基づき、都道府県又は保健所を設置する市の職員であると畜検査員の行うとさつ前及びとさつ後の検査を経なければならない。とさつ前検査において、神経症状を呈するなどBSEが疑われる牛については、と畜場法第16条に基づき、とさつ解体が禁止される。とさつ後検査のうちBSE検査の対象については、牛海綿状脳症対策特別措置法第14条第1項及び厚生労働省関係牛海綿状脳症対策特別措置法施行規則第1条において、月齢0ヶ月以上(全ての月齢)の牛と定めている。

  また、と畜場法第16条に基づき、BSEにり患している牛を食用とすることは禁止されているほか、BSEと診断された牛は焼却し、処理を行ったと畜場の施設設備は消毒を行わなければならない。

(2) 都道府県等における実施体制

  平成13年10月18日から、牛のとさつ解体を行う全てのと畜場におけると畜検査にBSE検査が導入され、平成16年8月31日までに3,551,910頭について検査が実施された。

  また、BSEスクリーニング検査で陽性となった場合には、国立感染症研究所、帯広畜産大学又は北海道大学において確認検査を実施し、厚生労働省に設置した「牛海綿状脳症の検査に係る専門家会議」において検査結果に基づく確定診断を行っている。

2 課題と今後の措置

(1) BSE検査の対象月齢の見直し

  「日本における牛海綿状脳症(BSE)対策について(中間とりまとめ)(平成16年9月9日食品安全委員会通知。以下「中間とりまとめ」という。)の「4結論(2)」においては、次のように指摘されている。

  「検出限界以下の牛を検査対象から除外するとしても、現在の全月齢の牛を対象としたSRM除去措置を変更しなければ、それによりvCJDのリスクが増加することはないと考えられる。しかしながら、検出限界程度の異常プリオンたん白質を延髄閂部に蓄積するBSE感染牛が、潜伏期間のどの時期から発見することが可能となり、それが何ヶ月齢の牛に相当するのか、現在のところ断片的な事実しか得られていない。ただし、我が国における約350万頭に及ぶ検査において発見されたBSE感染牛9頭のうち、21、23ヶ月齢の2頭のBSE感染牛が確認された事実を勘案すると、21ヶ月齢以上の牛については、現在の検査法によりBSEプリオンの存在が確認される可能性がある。

  一方、21、23ヶ月齢で発見された2頭のBSE感染牛における延髄閂部に含まれる異常プリオンたん白質の量が、WB法で調べた結果では他の感染牛と比較して500分の1から1,000分の1と微量であったこと、また、我が国における約350万頭に及ぶ検査により20ヶ月齢以下のBSE感染牛を確認することができなかったことは、今後の我が国のBSE対策を検討する上で十分考慮に入れるべき事実である。」

  と畜場におけるBSE全頭検査は、平成13年10月当時、牛の月齢の確認が困難であったこと、国内初のBSE感染牛が発見された直後で検査をした肉としない肉が流通することへの強い不安があったこと等の状況を考慮して開始したものであるが、当該措置を講じてから約3年間が経過しようとしている現在、その間の科学的知見等の進展に基づいて食品安全委員会が行ったBSE対策の検証結果である「中間とりまとめ」において上記の指摘がなされていることを踏まえ、と畜場におけるBSE検査の検査対象を21か月齢以上とする(厚生労働省関係牛海綿状脳症特別措置法施行規則第1条の改正)。

  なお、見直しに当たっては、必要な経過措置を講じることとする。

(2) BSE検査法の開発

  「中間とりまとめ」の「4 結論(3)」においては「検査法については、今後とも改良が行われるべきものと考えられ、検出限界の改善や、牛の生体から採取した組織、血液等を用いた生前検査法の開発等も含め、研究が進められるべきであり、その中で20ヶ月齢以下の牛に由来するリスクの定量的な評価について、今後さらに検討を進める必要がある。」と指摘されている。

  これまでも、厚生労働科学研究においてスクリーニング検査方法の開発、確認検査方法の感度の改善など成果を上げてきたところであるが、上記指摘を踏まえ、引き続きこれらの異常プリオン蛋白質検出技術の高度化について検討するとともに、諸外国における情報の収集に努め、今後のBSE検査体制の充実に資する。


II 特定危険部位(SRM)の除去について(厚生労働省関係)

1 現状

(1) 規制の状況

  平成13年10月18日から、と畜場法第9条及び同法施行規則第7条に基づき、と畜業者は牛の頭部(舌及び頬肉を除く。)、せき髄及び回腸遠位部(盲腸との接続部分から2メートル)について、枝肉及び食用に供する内臓の汚染を防ぐように処理することが義務付けられており、その取扱いの詳細は「食肉処理における特定部位管理要領」(平成13年10月17日付け食発第308号厚生労働省医薬局食品保健部長通知)により示されている。

  また、同じく平成13年10月18日から、と畜場法第6条及び同法施行規則第3条に基づき、と畜場の設置者又は管理者は、牛の頭部(舌及び頬肉を除く。)、せき髄及び回腸遠位部(盲腸との接続部分から2メートル)を専用の廃棄物容器に収納し、焼却することが義務付けられている。

  なお、平成14年7月4日からは、牛海綿状脳症対策特別措置法第7条第2項及び同条第3項において、上記措置が規定されている。

  さらに、平成16年2月16日から、食品衛生法第11条第1項に基づき、牛のせき柱について食肉加工業者等による食用への使用が禁止されている。

(2) 都道府県等による監督体制

  と畜場においては、都道府県等の職員であると畜検査員が常駐して監督する下で、と畜場法に基づきSRMの除去、廃棄及び焼却が行われている。

  また、食肉処理施設及び食肉販売施設においては、都道府県等の食品衛生監視員が食品衛生法に基づき定期的に立入検査を行い、遵守状況の確認を行っている。

2 課題と今後の措置

(1) SRM除去及び交差汚染防止の実施状況の検証

  「中間とりまとめ」の「4 結論(4)」においては「と畜場等における適切なと畜・解体の実施を通じて交差汚染を防止することは人のBSE感染のリスクを低減する上で重要である。このため、引き続き適正なSRM除去、交差汚染防止の指導を行なうとともに、その実施状況を定期的に検証するなど、適正な実施が保証される仕組みを構築するべきである。」と指摘されている。

  と畜場においては、と畜検査員が常駐して監督する下、と畜場側の衛生管理責任者及び作業衛生責任者の管理下で、日々、SRMの除去、廃棄及び焼却が行われており、食肉処理施設及び食肉販売施設においては、都道府県等の食品衛生監視員の定期的な立入検査により遵守状況を確認するという体制がとられているところであるが、上記指摘を踏まえ、これらに加え、SRMの管理状況についてさらに的確な検証が行われるようにするため、今後次の措置を講じる。

 (1) SRM管理に関する法令及び関係通知の遵守状況を確認するため、と畜場におけるSRM管理の実態調査を定期的に行うこととし、スタンニングの方法、ピッシングの有無、SRMの除去・焼却を行う際の標準的な作業手順及び確認方法を記載した文書及び実施記録の作成状況、背割り前のせき髄除去の有無、SRMの焼却方法、背割り後のせき髄の除去方法、枝肉の洗浄方法などについて定期的に調査を行い、その結果を公表する。

 (2) 厚生労働科学研究において、と畜処理工程における枝肉等のSRM汚染防止措置の評価方法を開発し、と畜場における実用化を進める。

(2) その他

  「中間とりまとめ」の「3−3−2−3 SRM除去によるリスク低減」においては、「ピッシングの扱いについては、今後その廃止も含め、更に検討する必要がある。」と指摘されている。

  このことを踏まえ、厚生労働省において、既にピッシングを中止したと畜場での事例を整理して都道府県等に対し情報提供を行い、と畜場におけるピッシングの中止への取組みの指導を推進するとともに、と畜場の現状を踏まえつつ、引き続き中止の方針で検討を進める。


III 飼料規制の実効性確保の強化について (農林水産省関係)

1 現状

(1) 飼料については、BSEまん延の原因である反すう動物に対する反すう動物由来たん白質の給与を排除するとともに、飼料への交差汚染による反すう動物由来たん白質の混入を防止する観点から、飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(以下「飼料安全法」という。)第3条第1項に基づき、反すう動物を対象とする飼料は、ほ乳動物由来たん白質、家きん由来たん白質及び魚介類由来たん白質(以下「ほ乳動物由来たん白質等」という。)を含んではならない等の成分規格が定められている。

(2) この成分規格の実効性を確保するため、飼料安全法第3条第1項に基づき、飼料の製造、保存、表示及び使用について以下の基準が定められている。

 ア 飼料の製造について、反すう動物を対象とする飼料には、ほ乳動物由来たん白質等を用いてはならない。

 イ 飼料の保存について、ほ乳動物由来たん白質等を含む飼料は、反すう動物を対象とする飼料に混入しないように保存しなければならない。

 ウ 飼料の表示について、ほ乳動物由来たん白質等を含む飼料は、反すう動物に対して使用してはならない旨を表示しなければならない。

 エ 飼料の使用について、ほ乳動物由来たん白質等を含む飼料は、反すう動物に対して使用してはならない。

(3) これらの飼料の規格及び基準の遵守を図るため、飼料の輸入、製造、販売、使用等に関わる者に対して、独立行政法人肥飼料検査所(以下「肥飼料検査所」という。)、都道府県等が、飼料安全法に基づき監視を行うとともに、「反すう動物用飼料への動物由来たん白質の混入防止に関するガイドライン」(平成15年9月16日農林水産省消費・安全局長通知)により指導を行っている。

2 課題と今後の措置

 「中間とりまとめ」の「4 結論(5)」においては、「BSE発生対策として現在行われている飼料規制により、BSE発生のリスクは極めて小さいものと考えられるが、若齢のBSE牛が確認されていることも踏まえ、飼料規制の実効性が保証されるよう行政当局によるチェックを引き続き行うことが重要である」と指摘されている。

 飼料規制については、これまで、反すう動物に対して反すう動物由来たん白質が給与されることのないよう、交差汚染の防止も視野に入れた上記の規制措置を講じ、その実効性を確保するため、特に交差汚染の可能性が高い国内での飼料製造段階及び動物性たん白質飼料の輸入段階を重点的に検査してきた。

 しかしながら、我が国におけるBSE発生状況も踏まえてBSE感染因子である異常プリオンの伝播を防止し、国内におけるBSEの根絶を図るためには、(1)海外からの飼料輸入段階、(2)国内の飼料販売段階及び(3)国内の飼料の使用段階における飼料規制の遵守に係る検査・指導体制を一層強化することが必要である。

 このため、新たに、以下について飼料規制の実効性確保を強化するための措置を講ずることとする。

(1) 輸入飼料に係る交差汚染の防止

  輸入飼料について、成分規格の遵守を徹底するための検査・分析を強化することとし、以下の措置を講ずることとする。

 ア 動物性たん白質である魚粉等については、引き続き動物検疫所による輸入検査を的確に実施し、違反があった場合には輸入停止等の措置をとることにより、魚粉等への反すう動物由来たん白質の混入防止を徹底する。

 イ その他の飼料については、輸入事業者による届出事項の拡充(飼料安全法施行規則第70条の改正)により輸入飼料の原材料を把握した上で肥飼料検査所が検査・分析を行い、成分規格違反があった場合には、回収・廃棄等の措置を講ずることにより、その他の輸入飼料への反すう動物由来たん白質の混入防止を徹底する。

(2) 販売業者における飼料の保存に関する規制の徹底

  飼料販売業者において飼料の保存に関する規制を徹底するため、販売業者に対する遵守状況の確認を強化することとし、以下の措置を講ずることとする。

 ア 飼料を農家に対して直接販売する小売店についても飼料安全法に基づく届出を義務付ける(飼料安全法施行規則第69条の改正)ことにより、飼料販売段階における飼料規制の監視対象を拡大する。

 イ 飼料の保存の方法の規制について小売店を含む販売業者に対する周知・徹底の強化を図るとともに、都道府県による立入検査等を強化することにより、飼料販売段階における反すう動物向け飼料への反すう動物由来たん白質の混入防止を徹底する。

(3) 牛飼養農家における飼料の使用に関する規制の徹底

  牛飼養農家において飼料の使用に関する規制を徹底するため、地方農政局等による巡回点検等の機会を活用して、飼料規制について農家に対する周知・徹底の強化を図るとともに、都道府県による農家に対する立入検査等を強化することにより、農家段階における飼料の誤用・流用を防止する。

(4) その他

  トレサビリティについては、昨年12月から個体識別情報の記録等の生産段階における措置が施行された。さらに本年12月から牛肉への個体識別番号の表示等の流通段階における措置が施行されることとされており、その確実な実施に向けた準備を推進する。

  リスク牛の検査については、平成16年度から死亡牛検査の全都道府県における実施体制が整備されたところであり、我が国におけるBSEの汚染の程度を把握するとともにBSE対策の有効性について検証するため、引き続きリスク牛の検査を行う。


IV BSEに関する調査研究について (厚生労働省・農林水産省関係)

1 現状

 平成13年9月に国産牛のBSE感染が確認される以前から、厚生労働科学研究及び農林水産省プロジェクト研究において、検査方法の検討、サーベイランス等を実施してきた。国産牛におけるBSE発生を機に、と畜場における高感度迅速検査方法の開発、BSE発生のメカニズムの解明のための動物接種実験の実施、食肉等への異常プリオンたん白質汚染防止方法の検討など、BSE対策に必要な研究を厚生労働省と農林水産省が連携して推進している。

2 課題と今後の措置

(1) BSE検査法の開発

  「中間とりまとめ」の「4 結論(3)」においては「検査法については、今後とも改良が行われるべきものと考えられ、検出限界の改善や、牛の生体から採取した組織、血液等を用いた生前検査法の開発等も含め、研究が進められるべきであり、その中で20ヶ月齢以下の牛に由来するリスクの定量的な評価について、今後さらに検討を進める必要がある。」と指摘されている。

  これまでも、厚生労働科学研究においてスクリーニング検査方法の開発、確認検査方法の感度の改善など成果を上げてきたところであるが、上記指摘を踏まえ、引き続きこれらの異常プリオンたん白質検出技術の高度化について検討するとともに、農林水産省プロジェクト研究においてBSEの生前検査法の開発を進める。

(2) SRM汚染防止措置の評価方法の開発

  「中間とりまとめ」の「4 結論(4)」においては「と畜場等における適切なと畜・解体の実施を通じて交差汚染を防止することは人のBSE感染のリスクを低減する上で重要である。このため、引き続き適正なSRM除去、交差汚染防止の指導を行なうとともに、その実施状況を定期的に検証するなど、適正な実施が保証される仕組みを構築するべきである。」と指摘されている。

  このことを踏まえ、引き続き厚生労働科学研究においてSRMによる枝肉等の汚染防止措置の評価方法の開発について検討する。

(3) 動物接種試験の継続等

  「中間とりまとめ」において、次のような指摘がなされている。

 ・「3−3−4 管理措置オプションによるリスクの増減」

  「今後とも定量的なリスク評価の試みは引き続き行われるべきであり、また、我が国をはじめとして諸外国で現在進行中の経口摂取試験の成績等について引き続き情報収集及び検討に努めるべきである」。

 ・「4 結論(2)」

  「検出限界程度の異常プリオンたん白質を延髄閂部に蓄積するBSE感染牛が、潜伏期間のどの時期から発見することが可能となり、それが何ヶ月齢の牛に相当するのか、現在のところ断片的な事実しか得られていない。」

 ・「5 おわりに」

  「厚生労働省及び農林水産省においては、BSEに関して科学的に解明されていない部分について解明するため、今後より一層の調査研究を推進するべきであり、そうして得られた新たなデータや知見をもとに適宜、定量的なリスク評価を実施していく必要があろう。」

   このことを踏まえ、引き続き厚生労働科学研究において動物接種試験等BSEに関する研究事業を継続するとともに、農林水産省プロジェクト研究において牛への経口接種試験を行い、異常プリオンたん白質の蓄積メカニズムの解明の研究を進める。


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