◎調査・報告 


生産/利用技術

豚の免疫機能を向上させる未利用資源を原料とした飼料添加物の開発

東北大学大学院農学研究科 助教授 鈴木 啓一


はじめに

 わが国の養豚生産現場では、成長促進を目的とした抗菌性飼料添加物や疾病予防のための動物用医薬品が多量に使用されており、これによる薬剤耐性菌の発生と食品摂取を通じた人への感染の可能性が危惧されている。本研究では、抗菌性飼料添加物および動物用医薬品の使用量を低減させる減投薬飼養管理システムの構築に向け、豚について、抗菌性飼料添加物と代替可能な家畜の免疫機能を活性化させる飼料添加物の開発可能性を検討するため基礎的試験と調査を行った。本試験ではまず、乾燥海藻(商品名:アスコフィラム・ノドサム)を飼料添加して実際に豚に給与し、豚の持つ免疫能(自然免疫:白血球貪食能や補体活性、獲得免疫:免疫グロブリン量)を高めることができるのかどうかを調べるため、経時的に無給与区の対照区との免疫能を比較検討した。また、果物のバナナの給与が豚の免疫能に及ぼす効果についても検討した。最後に、養豚農家段階で乾燥海藻を混合給与し、発育、枝肉形質への影響を比較してその有効性を検討した。

材料と方法

1.海藻の飼料添加による免疫機能の比較

 一腹から生まれた10頭のLWD三元交雑豚(雌6頭、去勢4頭)の雌と去勢を生後7週齢時に購入し大学の飼育施設で飼育した。導入時、それぞれ雌と去勢の頭数が等しくなるように無作為に分け試験区と対照区とにそれぞれ5頭ずつ配置した。導入1週間後に試験区には海藻を市販の肥育前期用飼料に0.5%添加給与した。対照区には市販の肥育前期用飼料を給与した。海藻添加飼料を給与開始後1カ月時点で羊赤血球を筋肉注射し、さらにその1カ月後に二度目の羊赤血球を筋肉注射した。採血は、(1)試験開始時点(海藻給与開始時点)と、(2)1度目の羊赤血球接種2週間後、さらに(3)2回目の羊赤血球接種1週間後と、さらに(4)20日後の合計4度、行った。体重がおよそ70キログラムに達した時点で試験を終了した。

 採血後、以下の項目の検査を行った。総白血球数は自動血球計測器を用いて測定した。また、貪食能としてin vitroでのケミルミネッセンス(CL)を測定した。貪食させる異物としてザイモザン、増光剤としてルミノールを用いて、貪食細胞がザイモザンを貪食し、破壊しようとする時に発生する活性酸素種によって起こる発光を増幅し測定した。顆粒球とリンパ球比率は血液塗抹標本を作製し、計数リンパ球数に対する顆粒球数の割合を算出した。補体第二経路活性はウサギ赤血球に対する溶血反応を用いて評価した。まずEGTA-GVBを試験管に300マイクロリットルずつ入れておき、ふたをしておく。そこに血漿を100マイクロリットル加え、ウサギ赤血球浮遊液を150マイクロリットル加える。37℃で40分間インキュベートする。インキュベート後、氷冷されたEDTA-GVBを4.05ミリリットル加える。2000rpm10分間遠心分離し、413ナノメートルで吸光度を測定した。抗体産生能の測定方法は、まず、羊赤血球(sheep red blood cell:SRBC)を抗原として、血液中の抗SRBC抗体の濃度を測定し、抗体産生能の強さ(ABP)とした。血漿中の抗SRBC抗体の力価は酵素抗体法(enzyme linked immuno sorbent assey; ELISA法)によって測定した。

2.バナナ給与が免疫能に及ぼす影響

 ランドレース種を用い、2腹から生まれた去勢と雌それぞれ1頭ずつ合計4頭を用いた。1腹の去勢と雌に対し、体重90キログラム以降に1週間の間毎日バナナの皮をむいて1本ずつ給与した。1 週間後に採血し免疫能を測定した。各種免疫能の測定は1と同じ方法で行った。

3.海藻の飼料給与が出荷成績に及ぼす影響

 宮城県内の一貫経営養豚場に依頼し、離乳後の豚を使い、肥育舎へ移動(体重25キログラム前後)後、飼料に海藻アスコフィラム・ノドサムを0.4%飼料添加し、体重が70キログラムまで給与した。いずれも肥育前期の時期だけ海藻を飼料添加給与した。その後、通常の市販飼料を給与し、体重が110キログラム前後で出荷した。試験は2度行った。1度目は32頭の子豚を試験区と対照区に分け、2度目は同様に20頭の子豚を同様に試験区と対照区に分け飼育した。従って、用いた頭数は試験区、対照区それぞれ26頭ずつ合計52頭である。出荷後、出荷日齢、枝肉上物率、枝肉皮下脂肪厚について調査した。

結果

1.海藻の飼料添加による免疫機能の比較

 表1に免疫形質測定値を示した。試験開始時点で、どの免疫形質とも試験区と対照区との間に有意差は認められなかった。しかし、海藻給与1カ月後の時点で顆粒球・リンパ比率および白血球数について、試験区が対照区より有意に高い値を示した。この時点では、補体別経路活性とIgGは測定しなかった。3回目の採血時である2回目の羊赤血球接種後1週間後には貪食能、補体別経路活性、顆粒球/リンパ比率および白血球数については試験区と対照区との間に有意差は認められなくなった。しかし、IgGは試験区、対照区ともに試験開始時点と比べると有意に高くなった。それと同時に、試験区が対照区と比べ有意に高い値となった。また、試験区、対照区とも個体間のばらつきが大きかった。さらに20日後の第4回目の採血時点ではいずれの形質とも区間に有意な差は認められなく、試験開始時点のIgG値まで値が下がった。

表1 海藻添加給与が免疫能に及ぼす影響
 
1)欠測値、試験区、対照区とも5頭ずつの平均値を示す。
a,b 試験区と対照区間に5%水準で有意差あることを示す。

 以上の結果より、海藻添加給与が血液中の白血球数と、顆粒球/リンパ球比率を高める効果のあること、さらに、海藻給与した豚が海藻を給与しない豚より羊赤血球に対する抗体産生能において有意に優れることから、海藻の飼料への添加給与が特定の抗原に対する抗体産生能をより高める効果のあることが示唆された。しかし、白血球数と顆粒球/リンパ比率について有意差の認められた時期が給与開始1カ月間だけで開始2カ月後には差が認められなくなった。豚の成長に伴い、免疫能が変化することが考えられ、それに伴い海藻の免疫能を高める効果が低下することが考えられる。また、抗原(羊赤血球)に対する抗体産生は2回目の抗原接種1週間後が最も高く、その後次第に低下することが知られており、本試験でもこの点が確認された。

2.バナナ給与が免疫能に及ぼす影響

 表2にバナナ給与が免疫能に及ぼす影響について示した。いずれの形質とも大きな区間差は認められなかった。本試験では、新鮮バナナの皮をむいて給与した。バナナ給与については、牛などの臨床産業医が経験的に免疫能を高める効果のあることを示唆しているが、本試験では有意な効果は認められなかった。新鮮バナナよりも、ある程度傷んだ古いバナナの方が免疫能を高める効果があるといわれており、再度調査する必要があると思われた。

表2 バナナ給与が免疫能に及ぼす影響
 

2005/2/14から2/22までバナナを給与。
対照区、試験区とも2頭ずつの平均値を示す。


3.海藻飼料給与が出荷成績に及ぼす影響

 表3には体重30キログラム前後から70キログラムまで海藻を添加給与し、その後体重110キログラムで出荷した成績を示した。試験は2度行ったが、表には2回の平均値を示した。出荷日齢は1回目、2回目とも約10日海藻給与区が優れたが、上物率、枝肉重量背脂肪厚、枝肉重量については差が認められなかった。また、1回目より2回目で背脂肪厚が厚い結果となった。

表3海藻添加給与が出荷成績に及ぼす影響
 
a,b試験区と対照区との間に5%水準で有意差があることを示す。
試験区、対照区とも26頭の平均値を示す。

 以上、飼料への海藻添加給与により、出荷日齢が有意に改善された。1回目の試験では、背脂肪厚が薄くなることが確認されたが、2回目では差が認められないことから、背脂肪厚に対する海藻給与の影響は無いと思われる。出荷日齢の差については、1の試験で確認された海藻の免疫能活性化の影響が何らかの形で作用し、発育が改善されたと考えられた。

まとめ

 豚に給与する飼料へ海藻を添加給与して免疫能に及ぼす影響を確認する試験と、実際の養豚場での海藻添給与試験を行った。その結果、海藻の飼料への添加給与により明らかに免疫能を高める効果が認められた。そして、その結果、肉豚の出荷日齢が約10日間短縮された。一頭あたり約30キログラムの飼料費が軽減できたことになる。今後さらに、飼料への海藻添加給与が豚の消化管粘膜免疫活性化効果やそのほかの免疫能に及ぼす影響を継続確認することが必要と思われる。さらに、バナナの免疫能に及ぼす影響についてはバナナの熟成に伴う成分変化などを一方で調べる必要があると思われた。

 飼料添加アスコフィラム・ノドサムを提供していただいた神協産業株式会社に感謝致します。


元のページに戻る