◎調査・報告


平成17年度肉用子牛の市場取引価格の動向

食肉生産流通部肉用子牛第三課
課長 井上 敦司


1 はじめに

 国内の肉用子牛取引は市場での取引が中心であり、特に黒毛和種や褐毛和種については、大部分が市場で取引されている。このことから、家畜市場での肉用子牛の取引結果の収集および提供は、農畜産業振興機構が実施している肉用子牛生産者補給金制度の的確な運用を行う上で重要な役割を担っている。

 今般、機構が道県の肉用子牛価格安定基金協会を通じて、収集、提供している家畜市場での肉用子牛取引結果について、平成17年度の状況を取りまとめた。

 なお、機構が取り扱う肉用子牛の範囲は、市場で取引されるほとんどの肉用子牛を対象としており、農林水産大臣が四半期ごとに告示する平均売買価格の対象である指定肉用子牛とは一致しない。


2 家畜市場での肉用子牛価格の動向

(1)全般的な概況

 ―肉用子牛価格は主要な品種すべてでBSE発生前の水準を上回る―

 平成13年9月に日本で初めてBSEが発生した影響により、13年度の肉用子牛価格は大幅に下落した。14年度の取引価格は乳用種を除き回復基調で推移し、15年度以降は、いわゆる「牛のトレサビィリティ法」の成立により牛肉の安全性に対する信頼の確保が図られたことや米国でBSEが発生し米国産牛肉が輸入停止されたこともあり、取引価格は上昇した。17年度は、米国産牛肉の輸入停止が続いたため、枝肉相場の高騰を受けて、子牛価格はさらに上昇し、主要な品種すべてでBSE発生前の価格を上回った。

 17年度の品種別肉用子牛取引頭数をみると、黒毛和種が全体の約76%を占め、乳用種との交雑種「交雑種乳」が約17%と続く。

表1 平成17年度品種別肉用子牛市場取引頭数等


(2)品種別取引価格等の動向

(ア) 黒毛和種
a 全体の概況

○取引価格は上昇傾向

 黒毛和種の子牛の取引頭数は、BSE発生時にやや減少したものの、その後回復し、17年度は前年度比1%増の362千頭となり、BSE発生前の12年度の360千頭を上回っている。

 一方、雌雄合計の取引価格は、BSE発生時にかなり大きく低下したものの、その後回復基調で推移し、15年度には40万円を超え、BSE発生以前の価格378千円を上回った。さらに、それ以降も上がり続け、17年度も前年度比6.3%高の488千円とかなり上昇した。

図1 黒毛和種 取引頭数および価格

○出荷日齢はやや短縮化傾向
 子牛の出荷日齢は徐々に短くなっており、12年度は雌雄計で294日であったのが、17年度は284日と10日間少なくなっている。この要因の一つとして、化粧肉などがつく前に肥育しコストを抑えたいと考える肥育サイドの要望も挙げられる。一方、17年度の出荷体重は273キログラムと、14年度以降、ほとんど変化はない。

 なお、取引価格の上昇に伴って生体1キログラム当たりの単価も上昇し、17年度は前年度比6.0%高の1,787円となった。

図2 黒毛和種 出荷体重、出荷日齢の推移


○雌子牛の取引頭数割合が増加
 雌雄別にみると、17年度の取引頭数は雄199千頭、雌163千頭で、雌子牛の占める割合は45%と12年度の43.9%に比べ増加している。

 取引価格についても雌雄の価格差の割合は徐々に狭まっており、12年度は雌子牛の価格は雄子牛の81%であったのが、17年度は雄子牛が522千円に対し雌子牛は447千円と同85.5%となっている。雌子牛の取引頭数の増加や取引価格の上昇については、飼養農家の高齢化で将来肉牛経営をやめる農家が増え、自家保留の減少なども出荷増の一因ではないかとの見方もある。出荷体重は雌雄とも同程度で推移、日齢は雌雄とも短縮してきている。

表2 黒毛和種子牛の市場取引頭数、出荷体重、取引価格、出荷日齢、取引単価の推移

b 道県別市場取引結果
 道県ごとの市場取引結果は、一般的な経済情勢などによるほか、それぞれの地域での子牛の血統を含む生産状況や肥育サイドのニーズ、取引慣行などによって大きく異なる。

 
○取引頭数は鹿児島、宮崎で4割占める
 道県別の取引頭数割合をみると鹿児島、宮崎両県で全体の約4割を占め、次に沖縄県、北海道、岩手県などが続く。上位10道県で約8割を占める。

 17年度の上位10道県で前年度と比べ順位に変動があったのは北海道で5番目から4番目に順位を上げた。

図3 平成17年度県別市場取引頭数割合

○1頭当たりの平均取引価格(雌雄合計)はほとんどの道県で上昇
 17年度の道県別取引価格は、ほとんどの道県で上昇した。取引価格が最も高かったのは岐阜県で523千円、同県は16年度も518千円で最も高かった。取引価格は、それぞれの道県で幅があるが、結果的にそれが各道県で取引される子牛および市場の特徴を示している。

図4 黒毛和種 平成17年度道県別取引頭数および価格

 
表3 平成17年度道県別1頭当たり平均取引価格(上位10県)

○生体1キログラム当たり平均取引単価も岐阜県がトップ
 生体1キログラム当たりの雌雄合計の取引単価の高い順に道県別でみると、トップの岐阜県については、銘柄牛といわれる「飛騨牛」の産地であり、通常、去勢牛は生後約8カ月、体重が270キログラム程度になった段階で、市場で取引される。

 なお、上位10県で出荷体重が全国平均を上回ったのは宮崎県だけであった。

表4 平成17年度道県別平均取引単価(雌雄計、上位10県)

○1日当たりの平均取引単価も岐阜県がトップ
 1日当たりの雌雄合計の取引単価の高い順に道県別でみると、表5のとおりである。トップの岐阜県については、1日当たり取引単価が1,966円となり、育成コスト面を単純に日数でみると最も効率的な経営を行っているといえる。全国平均は1日当たり1,718円となっている。

表5 平成17年度道県別1日当たり平均取引単価(雌雄計、上位10県)

c 市場別取引結果
 17年度の各市場の取引結果のうち、雌雄計の取引頭数、平均取引価格、生体1キログラム当たり平均取引単価、1日当たりの平均取引単価の上位市場は表6、7のとおり。

 取引頭数および取引価格は、黒毛和種の産地である鹿児島県や宮崎県などの市場が上位を占めた。

表6 平成17年度市場別取引頭数(雌雄計、上位10市場)

 

表7 平成17年度市場別平均取引価格(雌雄計、上位10市場)


 
○生体1キログラム当たり平均取引単価
 1位となった兵庫県の湯村家畜市場は美方郡産の「但馬牛」の子牛を扱っており、出荷者は但馬牛の血統を守る少頭飼いの生産者が多い。2位、3位の飛騨家畜流通センターおよび関家畜流通センターは岐阜県の市場で「飛騨牛」を扱っている。

表8 平成17年度市場別平均取引単価(雌雄計、上位10市場)

 
○1日当たり平均取引単価
 1日当たりの取引単価も出荷日齢が242日と平均と比べ42日少ない湯村家畜市場が2,153円とトップとなっている。

表9 平成17年度市場別1日当たり平均取引単価(雌雄計、上位10市場)

(イ)乳用種(ホルスタイン)
a 全体の概況

○乳用種雄子牛の取引価格は大幅に上昇
 乳用種(ホルスタイン)の雄子牛の取引頭数は、13年度の日本初のBSEの発生により、かなり減少したが、14年度以降増加に転じた。16年度は再び減少し、17年度は前年度比6.6%減の16千頭となった。

 また、平均取引価格をみると、BSE発生の大部分が乳用種であったこともあり、13年度から15年度にかけて低下が続いた。その後は、牛のトレーサビリティ制度の導入などにより食肉に対する安全性への信頼が向上したことなどから上昇し、17年度は前年度比47%高の約98千円となった。

図5 乳用種雄子牛 市場取引頭数および取引価格の推移

○出荷体重、日齢とも減少
 乳用種雄子牛の出荷日齢は、他の品種とは反対に12年度から長くなっていたが、17年度は、224日と短くなった。出荷体重も日齢の変化に伴い12年度から増加したものの、16年度、17年度は減少し、17年度は12年度と同様に264キログラムとなった。取引価格が大幅に上昇した17年度の生体1キログラム当たりの取引単価は前年度比51%高の370円となった。

図6 乳用種雄子牛 出荷体重及び出荷日齢の推移

 

表10 乳用種雄子牛の取引頭数、出荷体重、取引価格、出荷日齢、取引単価の推移


b 道県別市場取引結果
○取引頭数
 17年度の乳用種雄子牛の取引頭数をみると、北海道、愛知県、徳島県、青森県、宮崎県の上位5県で7割以上を占める。

 17年度の乳用種雄子牛1頭当たりの取引価格が高かった県は宮崎県で121千円であった。

図7 乳用種雄子牛 平成17年度県別取引頭数割合

 

図8 乳用種雄子牛 平成17年度道県別取引頭数および価格


○生体1キログラム当たり平均取引単価
 生体1キログラム当たりの取引単価の高い順に道県別でみると、宮崎県、青森県、徳島県の順になっている。

 
表11 平成17年度乳用種雄子牛平均取引価格

 

表12 平成17年度道県別乳用種雄子牛平均取引単価(上位10県他)


 

表13 平成17年度道県別乳用種雄子牛1日当たり平均取引単価(上位10県他)


c 市場別取引結果
 乳用種雄子牛の17年度の各市場の取引結果のうち、取引頭数、平均取引価格、1キログラム当たり平均取引単価、1日当たりの平均取引単価の上位は表14〜17のとおり。

表14 平成17年度乳用種雄子牛市場別取引頭数(上位10市場)

 

表15 平成17年度乳用種雄子牛市場別平均取引価格(上位10市場)


 

表16 平成17年度乳用種雄子牛市場別平均取引単価(上位10市場)


 

表17 平成17年度乳用種雄子牛市場別1日当たり平均取引単価(上位10市場)


(ウ)交雑種乳
a 全体の概況
○取引頭数はBSE発生以前の水準まで回復、取引価格は大幅に上昇
 13年度の日本初のBSE発生によりかなり減少した交雑種乳の取引頭数は、14年度以降増減を繰り返し、17年度は前年度比2.8%増の81千頭とBSE発生以前の水準に回復した。平均取引価格は14年度以降年々上昇し、17年度は前年度比11.3%増の254千円となった。

図9 交雑種乳 市場取引頭数および取引価格の推移

○出荷体重、日齢とも減少
 交雑種乳の出荷日齢はほぼ同様に推移した。出荷体重は全体として、徐々に増加している。生体1キログラム当たりの取引単価は上昇し、17年度は前年度比11.4%増の920円となった。

図10 交雑種乳 出荷体重および出荷日齢

○雌子牛の取引頭数割合は増加傾向
 雌雄別にみると、17年度の取引頭数は雌44千頭、雄37千頭で雌子牛の割合が54%と12年度の51.2%に比べ増加している。他品種と比べ市場取引で雌子牛の方が多い理由は、交雑種乳の雄子牛は他品種に比べ市場を通さない庭先取引が多いことが挙げられる。

 取引価格は雄子牛の方が高い。雌は肉質で雄を上回るものの、肉量や肥育効率で雄に劣るといわれる。17年度の雌の価格は、227千円と雄牛の285千円に対し79.6%の割合となっている。

表18 交雑種乳の取引頭数、出荷体重、取引価格、出荷日齢、取引単価の推移

b 道県別市場取引結果
○取引頭数 
 交雑種乳の市場取引は北海道、熊本県、徳島県、宮崎県、群馬県の上位5県で8割以上を占める。

 17年度の1頭当たりの取引価格が最も高かった県は群馬県で276千円であった。

図11 交雑種乳 平成17年度県別市場取引頭数割合

 

図12 交雑種乳 平成17年度道県別取引頭数


 

表19 平成17年度交雑種乳の1頭当たりの平均取引価格(上位10県)


○生体1キログラム当たり平均取引単価
 生体1キログラム当たり取引単価の高い順に道県別でみると、熊本県が最も高く1,099円であった。

表20 平成17年度道県別平均取引単価(雌雄計、上位10県)

○1日当たり平均取引単価
 1日当たり取引単価の高い順に道県別でみると、熊本県が最も高く1,187円であった。

表21 平成17年度道県別1日当たり取引単価(雌雄計、上位10県)

c 市場別取引結果
 交雑種乳の17年度の各市場の取引結果のうち、取引頭数、平均取引価格、生体1キログラム当たり平均取引単価、1日当たりの平均取引単価の上位は表22〜25のとおり。

表22 平成17年度市場別取引頭数(雌雄計、上位10市場)

 

表23 平成17年度市場別平均取引価格(雌雄計、上位10市場)

 

表24 平成17年度市場別平均取引単価(雌雄計、上位10市場)


 

表25 平成17年度市場別1日当たりの平均取引単価(雌雄計、上位10市場)



3 おわりに

 日本の肉用牛生産は平成13年に発生したBSEにより大きな影響を受け、肉用子牛市場での取引頭数も減少し、子牛の取引価格も大幅に低下した。しかし、その後、国がいわゆる「牛のトレサビィリティ」を義務化するなどして牛肉の安全性に対する信頼の確保が図られた結果、消費者の信頼が徐々に回復に向かい、加えて米国でBSEが発生し同国からの牛肉の輸入が停止されたことなどもあり、枝肉価格が高騰したため、総じて、子牛の導入意欲が強まり取引価格はBSE発生以前を上回る結果となった。

 今後の子牛取引価格に対する懸念材料としては、高騰とも思える高値への反動、今日十分に回復していない牛肉の今後の消費動向、18年7月に輸入再開された米国産牛肉などの輸入動向などが挙げられる。従って、価格の高値にばかり目を奪われることなく、今こそ安定的な経営のための実力をかん養しておくべきであろう。


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