★ 機構から


黒毛和種における繁殖農家の規模拡大の推移
〜平成18年肉用子牛生産者補給金制度の個体登録頭数から〜

食肉生産流通部肉用子牛第一課
係長 井上 裕之


1 はじめに

 昨今、わが国への主要な牛肉輸出国においてBSEや干ばつなどの被害が発生し、牛肉の安定供給確保が課題となっており、国内における肉用牛・牛肉生産の重要性がますます高まりつつある。こうした中、当機構は、肉用子牛生産者補給金制度を運営することにより、肉用子牛生産者の経営安定、ひいては増頭意欲の高進に寄与しているところであるが、今般、当該制度に基づく平成18年(1〜12月)の肉用子牛の個体登録頭数などが集計されたので、その動向について報告する。

肉用子牛生産者補給金制度

 主要な家畜市場における肉用子牛の平均売買価格が農林水産大臣の定める保証基準価格を下回った場合、肉用子牛を販売または自家保留した生産者に対し、当機構が都道府県の畜産協会などを通じ、その差額を肉用子牛生産者補給金として交付する制度。

 肉用子牛生産者は、当該補給金の交付を受けるに当たっては、あらかじめ都道府県の協会と肉用子牛生産者補給金交付契約を締結した上で、生産した個々の子牛を当該協会に個体登録しなければならない。

 なお、保証基準価格の決定および平均売買価格の算定は、制度により区分された肉用子牛の品種ごとにおこなわれる。


2 肉用子牛の品種別個体登録頭数について

(1)約905千頭の肉用子牛を個体登録
 平成18年に肉用子牛生産者補給金制度に基づき各都道府県の畜産協会などに個体登録された肉用子牛の総頭数は、黒毛和種では増加したものの前年より0.8%減少し、約905千頭となった。これは、肉用種、乳用種おすおよび交雑種の出生頭数の約8割に上っている。過去3年間の動向を見ると、米国産牛肉の輸入停止措置の影響などにより肉用子牛の価格が全般にかなり上昇したにもかかわらず、その個体登録頭数に大きな変動は見られなかった(表1)。

表1 肉牛子牛の品種別個体登録頭数
(単位:千頭)

(2)黒毛和種が最多
 平成18年における肉用子牛の品種別個体登録頭数は、黒毛和種の肉用子牛が約397千頭と最も多く、乳用種約280千頭、交雑種(乳用種めす×肉専用種おす)約214千頭を合わせた3品種で全体の98%を占めた。黒毛和種は、現在の5品種区分となった平成12年以降、7年連続で品種別個体登録頭数が最多となっており、わが国の肉用子牛生産の中核を担っている。また、乳用種および交雑種は、その個体登録頭数が酪農経営の動向に左右されることから、肉専用種、中でも圧倒的なシェアを占める黒毛和種の肉用子牛生産に寄せられる期待は大きい。


3 黒毛和種の個体登録動向(全国)

(1)個体登録頭数は11年間で80千頭増加
 平成18年における黒毛和種の個体登録頭数は約397千頭となり、同7年(第2業務対象年間初年)からの11年間で約19%増加した。ただし、直近の5年について見ると、横ばいないし若干の減少傾向となっている(表2)。

表2 黒毛和種個体登録頭数の推移
(単位:千頭)

(2)契約生産者数は11年間で約3割減少
 各都道府県の畜産協会などと肉用子牛生産者補給金交付契約を締結している黒毛和種の契約生産者(以下、契約生産者という。)は、平成18年には約61千戸となり、同7年からの11年間で34.9%減少した。黒毛和種の個体登録頭数は横ばいないし微減にとどまっているのに対し、契約生産者数の減少には歯止めがかかっておらず、契約生産者の高齢化に伴う廃業および後継者不足が大きく影響していることがうかがえる(表3)。

表3 契約生産者数の推移
(単位:戸)

(3)契約生産者の経営規模は順調に拡大
 この結果、契約生産者の平均経営規模は拡大を続けて平成18年の契約生産者1戸当たりの年間平均登録頭数は6.4頭となり、同7年からの11年間で2.9頭増加し、約2倍となった。

 このことは、個体登録頭数規模別の契約生産者数にも表れ、平成18年における年間個体登録頭数10頭未満の契約生産者は51,257戸となって、同7年からの11年間で43%減少する一方、同30頭以上の契約生産者は1,756戸となり、同期間に378%増加した(表4、図1、2)。

表4 個体登録頭数規模別契約生産者数
(単位:戸)

図1 登録規模別契約生産者数の推移(1〜9頭規模)



図2 登録規模別契約生産者数の推移(30頭以上規模)


 この結果は個体登録頭数規模別の個体登録頭数にも反映されており、平成7年から同18年までの11年間で、年間個体登録頭数10頭未満の契約生産者による個体登録頭数が全体の73%から43%へと大幅に減少した一方、同30頭以上の生産者による個体登録頭数は同期間に6%から23%へと大幅に増加した(表5、図3)。

表5 個体登録頭数規模別個体登録頭数
(単位:頭)


図3 個体登録頭数規模別登録頭数割合(全国)

注:各年の個体登録頭数の合計を100とした

(4)九州が個体登録頭数1位
 平成18年の個体登録頭数を地域別に見ると、九州が最も多く243千頭(対全国比61.3%)、次いで東北が71千頭(同18.0%)となっている。平成7年から同18年までの11年間の動向をみると、九州が35.9%増、東北地域が6.6%減、北海道が30.0%増となっている(図4,表6)。

図4 平成18年地域別肉用子牛(黒毛和種)個体登録頭数割合


資料:独立行政法人農畜産業振興機構調べ

表6 地域別肉用牛(黒毛和種)個体登録頭数の推移


4 黒毛和種の個体登録動向(東北・九州・北海道)

(1)個体登録頭数規模からみた特徴
 黒毛和種肉用子牛の主要な生産地として東北、九州、北海道の3地域を取り上げ、それぞれの地域の特徴を比較しつつ、その動向について分析した。

図5 個体登録頭数規模別個体登録頭数割合(東北)



注:各年の個体登録頭数の合計を100とした

図6 個体登録頭数規模別個体登録頭数割合(九州)


注:各年の個体登録頭数の合計を100とした

図7 個体登録頭数規模別個体登録頭数割合(北海道)



注:各年の個体登録頭数の合計を100とした

 3地域の契約生産者を年間個体登録頭数規模によって区分し、それぞれの階層ごとの合計個体登録頭数の割合を表したのが上のグラフである。これによると、年間個体登録頭数5頭未満、同10頭未満の小規模な契約生産者による個体登録頭数のシェアが最も高いのが東北(計62%)であり、ついで九州(同41%)、北海道(同11%)となっている。

 中でも東北は、年間登録頭数5頭未満の契約生産者の個体登録頭数のシェアが35%を占めており、生産規模拡大の遅れがうかがえる。この背景には、契約生産者の高齢化、後継者不足の問題などがあると考えられるが、九州、北海道に次ぐ主要な黒毛和種の生産地域であるだけに、今後の生産動向が懸念される。

 九州の年間個体登録頭数5頭未満の契約生産者の個体登録頭数シェアは18%となっており、東北より生産規模拡大が進展していることがうかがえる。いうまでもなく九州、特に鹿児島は国内最大の黒毛和種の生産地域であるので、粗飼料生産基盤整備などの拡大を踏まえた肉用子牛生産を振興することが期待される。

 北海道は、上記2地域とは明らかに異なった生産構造を示している。粗飼料生産基盤などの条件が圧倒的に優位であることを背景に、年間個体登録頭数30頭以上の契約生産者の個体登録シェアが47%、同50頭以上層の個体登録シェアも23%を占めている。今後も、優位な条件を更に活用し、肉用子牛生産を拡大することが期待される。

(2)小規模生産者の動向

図8 個体登録規模別契約生産者数の推移(1〜9頭規模・東北)


図9 個体登録規模別契約生産者数の推移(1〜9頭規模・九州)


図10 個体登録規模別契約生産者数の推移(1〜9頭規模・北海道)

 平成7年から同18年までの11年間における3地域の年間個別登録頭数5頭未満および5頭以上10頭未満の契約生産者数の推移を示したのが上のグラフである。ここでも3地域がそれぞれ異なった動向を示している。

 東北は、これらの小規模層の契約生産者が相当数残っているものの、その数は11年間で22千戸から15千戸へと33%減少した。契約生産者の高齢化と後継者不足が続く限り、この傾向は継続すると思われる。

 九州は、東北とほぼ同様の傾向を示しているが、これらの契約生産者は11年間で47千戸から28千戸へと減少し、減少率は41%と東北より高い一方で大規模層の生産者は着実に増加している。これは、わが国の黒毛和種肉用子牛生産の中心地域として、規模拡大に向けた各種の施策が奏功しているものと考えられる。

 北海道における小規模契約生産者数は、11年間で1,446戸から528戸へと63%減少した。ただし、ほかの2地域と異なり、この減少は前半の5年間に集中している。これは、粗飼料生産基盤や経営面積といった生産条件に恵まれていることから、生産構造の変化も他地域に先がけて進展したことを表しているものと考えられる。

(3)大規模契約生産者の動向

図11 個体登録規模別契約生産者数の推移(30頭以上規模・東北)


図12 個体登録規模別契約生産者数の推移(30頭以上規模・九州)


図13 個体登録規模別契約生産者数の推移(30頭以上規模・北海道)


 平成7年から同18年までの11年間における3地域の年間個体登録頭数30頭以上50未満および50頭以上の契約生産者数の推移を示したのが上のグラフである。

 東北はこれらの大規模層の契約生産者数が過去11年間で約3.7倍に増加したが、30頭以上50未満の層に比べ、50頭以上の層の契約生産者数は伸びが鈍く、大規模化の進展と言っても中間層が中心となっている。

 一方、九州は全体の伸び率は東北と同じく11年間で約6倍であるが、50頭以上の層の契約生産者数の増加の割合が東北よりかなり多い。これらのトップクラスの契約生産者が順調に増加することが、ほかの階層の契約生産者にも良い刺激を及ぼすことが期待される。

 北海道は上記2地域とはやや様相が異なっている。もともと大規模層の契約生産者の割合が高いこともあって、これらの契約生産者数の増加率自体は高くないが、九州と同様に、50頭以上の層の契約生産者が確実に増加している。恵まれた生産条件を考えると、生産拡大の余地はほかの地域よりも高いと考えられる。

 なお、今後は新たな農政の推進に伴い、粗飼料生産基盤の拡大や担い手の育成、確保などを通して肉用子牛の生産基盤の強化が求められているところである。


おわりに

 黒毛和種の市場取引価格が、堅調に推移している今こそ経営の安定が図られることを期待したい。そのためには、耕作放棄地などの未利用資源を活用した放牧などの低コスト生産を推進し、自給飼料生産を基盤とする規模拡大の取り組みが重要となってくる。さらに濃厚飼料価格の値上がりに対応したエコフィードなどの取り組みなども今後求められてくるものと考えられる。

 肉用牛繁殖の経営安定のため、肉用子牛生産者補給金制度への積極的な加入をお願いしたい。


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