★ 機構から


日本マーケットでのニュージーランドビーフの販売戦略

食肉生産流通部食肉課長 安井 護


はじめに

 日本の輸入牛肉マーケットは、米国産とカナダ産牛肉の輸入が再開されたものの、豪州産が9割弱と圧倒的なシェアを占めている。このような状況下における各国の販売戦略について、先月号(「畜産の情報(国内編)」7月号)のカナダに続いて、今月はニュージーランド(NZ)の取り組みを報告したい。


1.NZの輸出戦略

 NZ産牛肉は豊富な草資源を活用したグラスフェッドが主体で、大規模なグレインフェッド牛肉生産は日系資本により1カ所でのみ行われている。平成14年度に11千トンであったNZ産牛肉の輸入量は、15年の米国産牛肉の輸入停止を受けて、17年度には40千トン弱まで大きく増加したが、そのほとんどはフローズンであり、チルドは多くない(図1)。

 豪州という世界の牛肉産業のビッグ・プレーヤーの隣りで、NZはいやがおうにもその影響を受け、また、日本マーケットでも、豪州との違いを打ち出しながら、競争して行かざるを得ない。そのような立場で、NZの牛肉業界は、日本マーケットをターゲットにどのような販売戦略を立てて、販売量の拡大を目指しているのか。ミート&ウール ニュージーランド日本代表のジョンM.ハンドルビー氏に話をうかがった。

ミート&ウール ニュージーランド
日本代表 ジョン.M.ハンドルビー氏




図1 NZ産牛肉の輸入量


(機構、以下alic)最初に組織の概要について教えてほしい。

(ミート&ウール ニュージーランド、以下m&w NZ)われわれは、NZ産食肉の輸出機会増大を目的に大正11(1922)年「ニュージーランド食肉公社」として設立されて以来、NZの食肉輸出を推進するために活躍してきた。

 その後、法改正により平成9年に「ミート ニュージーランド」に、16年に羊毛業の振興活動を行う団体と統合し、「ミート&ウール ニュージーランド」となった。

 われわれは、直接の商取引は行わないが、食肉(牛肉、羊肉)と羊毛の輸出ライセンス認可、輸出クオーター管理、市場開発、研究開発支援、情報収集、販売促進、輸出アクセス問題、海外市場サービスなどを行っている。

(alic)海外の事務所は何カ所あるのか。

(m&w NZ)ヨーロッパ、アメリカなど世界に5カ所の事務所がある。北アジアには日本と韓国にあり、日本でのNZ産食肉の販売拡大のため、昭和39(1964)年に事務所を開設した。

(alic)政府からの補助金で運営しているのか。

(m&w NZ)予算はすべて生産者の課徴金で賄われており、平成17/18年度の予算額はほぼ3,200万NZドル(30億9,824万円:1NZドル=96.82円)である。

(alic)国別の輸出量はどのようになっているのか。

(m&w NZ)北米が60%と最大のマーケットである。北アジアは、日本10%、韓国11%、台湾6%でそのほかの国を含めた北アジア合計では28%だが、高単価の製品が多いので金額ベースでは全体の32%を占めている(17年10月〜18年9月)。(図2)

(alic)北米向けが全体の6割を占めるのであれば、もっと北米に輸出を集中すればよいのではないか。

(m&w NZ)米国は重要だが、基本的に経産牛などの加工用牛肉の販売先であり、高品質の牛肉を受け入れる余地が少ない。また、米国の関税制度では一次関税枠があることから、米国向けに特化することはできない。

 今後も拡大すると思われる日本、韓国、台湾などの北アジアの市場を重視しており、ここにもっと高品質の牛肉を積極的に輸出していきたい。

(alic)対日輸出の数量目標はあるか。

(m&w NZ)当面、4万トンを目標としており、その後、順次増やしていきたい。



図2 輸出国別シェア


2.グラスフェッドがNZ牛肉の特徴

(alic)NZというと酪農、乳用牛のイメージがある。日本向けは、フローズンが多いが、加工用牛肉が主体なのか(図3)。



図3 18年度の部位別シェア


(m&w NZ)経産牛などの加工用牛肉は全体の3割程度で、用途はハンバーガーや冷凍食品などである。残りの7割はアンガス種、ヘレフォード種などの肉用牛で、用途は外食、業務向けが主体で、小売向けは限定的である。

(alic)肉用牛の品種別内訳は。

(m&w NZ)肉用肥育牛は430万頭いるが、アンガス種が20%、ヘレフォード種が9%、アンガスとヘレフォードの交雑種が10%、乳用種のホルスタイン・フリージアンは14%である。

(alic)今年1月以降は輸入量が大幅に減少し、平成18年度合計では前年比1割以上の減少となっているが、その要因は何か。

(m&w NZ)豪州産との競合が大きいことと、日本から高金利のNZに対する投資増加によるNZドル高の影響が大きい。5年前に1NZドル60円だったものが、今では90円を超えるまで上昇し(円安、NZドル高)、輸入コストが大幅に上昇している。

(alic)NZ産牛肉は、豪州産牛肉や他国産の牛肉とどこが違うのか。何をセールス・ポイントとしているのか。

(m&w NZ)NZには大規模なフィードロットは1カ所しかなく、それ以外はグラスフェッドである。良質な牧草により肥育された牛肉の安全性、赤身牛肉のヘルシーさ、おいしさこそがセールス・ポイントだ。

 このような牛肉は日本でも生産されておらず、ここがほかとの差別化のポイントである。

(alic)「日本人はグラスフェッドよりもグレインフェッドを好む」と思うが、あえて、グラスフェッドを強調するのはなぜか。

(m&w NZ)われわれの消費者調査によれば、もちろん霜降り肉を求める消費者が多数ではあるが、ナチュラルな品質の赤身肉や低価格の赤身肉を求める層が4割弱いる。この層をターゲットにしていきたい。

(alic)実際の味はどうだろうか。

(m&w NZ)われわれはグラスフェッドを長年生産してきており、そのおいしさを知っている。また、生産技術も改良してきており、ある量販店のバイヤーから「試食して、『グラスフェッドの牛肉がここまできたのか』とこれまで抱いていたイメージが覆された」と聞いた。食べてもらえば、そのおいしさを実感してもらえると確信している。

(alic)味以外のセールス・ポイントはあるのか。

(m&w NZ)NZの大自然の中で、放牧により牧草だけで、飼育されていることが、安全性をより的確に伝えている。また、世界的に飼料価格が上昇する中、コスト競争力も高いと考えている。ただし、NZドル高が今後も続くと、低価格を売り物としている外食ではかなり厳しくなる。

(alic)生産される場所によって品質に差はないのか。

(m&w NZ)NZは、北島と南島とで気候は若干異なるものの、牛の品種や牧草に差はない。NZ産牛肉と言えば、どの箱もその品質は同じである。


3.日本市場での販売戦略

(alic)NZのグラスフェッド牛肉を日本で販売するための具体的な戦略はどのようなものか。

(m&w NZ)NZ産牛肉のセールス・プロモーションには、これまで一般的な名称として「ニュージーランドビーフ」を使用してきたが、今年3月、NZ産グラスフェッド牛肉の特性を明確に訴えていくために「ニュージーランド牧草牛」という名称に切り替えた。

  ロゴマークも新しくして、広々とした牧場で放牧され牧草だけを食べる反すう動物本来の飼育方法によってストレスなく育てられたグラスフェッド牛肉のおいしさを訴えていきたい。


(alic)「ニュージーランド牧草牛」キャンペーンの具体的な内容は何か。

(m&w NZ)ロゴを作成し、牛肉トレーに貼るシールや売場のポップ広告を提供している。また、外食でのメニュー、ポスターなどへのロゴ掲載も行っている。

(alic)消費者には直接訴えないのか。

(m&w NZ)まだ、扱っている量販店が愛知県と沖縄県の2社だけであり、消費者向けのPRは行っていない。メディアに対しては、さまざまなアプローチをしているが、関心を持ってもらっても、東京で販売しているところがないため、実際に購入することができず、がっかりされる。東京圏で、定番で販売する店を確保することが、当面の課題だ。

(alic)どのような量販店を対象にセールスプロモーションを行っているのか。

(m&w NZ)対日輸出量がそれほど多くないので、全国展開するナショナルチェーンには安定供給が難しいので、中規模のチェーン店をターゲットにしている。

(alic)どのような販売支援をしているのか。

(m&w NZ)シール、ポスターなどのPR資材を提供している。販売スタッフ(マネキン)の支援は今後、検討していきたい。

(alic)メディア向けの活動は。

(m&w NZ)少人数の試食会を毎月実施し、NZ産牛肉のおいしさを実際に味わってもらっている。日本人のグラスフェッドに対する先入観である「固い」、「おいしくない」を変えていきたい。

(alic)輸入するのはフルセットでなくてもよいのか。

(m&w NZ)NZは世界中に輸出しており、国によって需要・不需要の部位が異なるので、その中で調整が可能であり、フルセットを輸出条件としていない。日本の輸入者もパーツで輸入している。

(alic)牛肉以外に羊肉のプロモーションを行っているのか。

(m&w NZ)NZは、業務用、加工用にマトンの対日輸出を長年行ってきたが、近年はラムの需要が増加している。ラムについても、外食や量販店向けに販売促進資材などを提供しており、是非、試してほしい。


元のページに戻る