★ 機構から


日本マーケットでの米国産牛肉の現状

食肉生産流通部食肉課長 安井 護


はじめに

 平成19年3月31日、大手量販店では初めて西友が米国産牛肉の販売を開始した。シーファー駐日米国大使がPRに駆けつけるなど米国の積極的な姿勢がうかがわれた。

 米国産牛肉の輸入は18年7月に再々開されたが、これまでのところ輸入量は限定的である。

 その中で消費者は米国産牛肉についてどう考えているのか。外食産業や量販店は、どのような対応を取ろうとしているのか。17年11月以降、定期的に行ってきたアンケート調査を基に、今、日本の牛肉マーケットで米国産がどのように捉えられているのかを見ていきたい。


1.輸入停止前の1割以下の輸入量

 19年2月の輸入量は1,641トンと輸入が停止される前の月平均輸入量の1割以下にとどまっている。

 輸入量が少ないレベルでとどまっている要因は、供給者である米国サイドと需要者である日本サイドとのそれぞれにあるだろう。

 米国サイドの要因としては、もともと自然繁殖により春の分娩が多いため、20カ月齢以下の生体の発生は春から夏にかけて多く、冬にかけて減少すること、さらに誕生履歴を確認できる生体が少なかったことから、米国の強みであった「ばら」などの特定部位の大量供給が困難なことがある。

 一方、日本サイドの要因としては、供給量が安定しないので量販店や外食企業などのユーザーが扱いにくいこと、消費者の慎重姿勢が続いていること、米国産不在の間に豪州産が定着しており、ユーザーの切り替えが容易でないことなどが挙げられる。

 「米国の供給が増えないから、日本の需要が増えない」のか、「日本の需要が増えないから米国の供給も増えない」のか。両方に要因があるようで、あたかも「鶏が先か、卵が先か」のようである。

 以前は、米国産牛肉の7割以上が「ばら」で日本の焼き肉、牛丼需要を支えていた。米国産の輸入停止後、代替としての豪州産に需要が集中し、輸入価格は全般的に上昇し、特に豪州産「冷凍ばら」は1.5倍となっている。米国産の輸入再開後も供給量は限定的なため、米国産「冷凍ばら」の輸入価格はキログラム当たり555円と以前の1.8倍へと大幅に上昇している。

 一方、主にスライス、ステーキ用に使用される米国産「冷蔵かたロース」は低水準の需要に対して供給が比較的多いこともあり958円(卸売価格)と1.2倍にとどまっている。(表1)

表1 米国産牛肉の輸入量と価格


2.消費者の慎重さは変わらず

(1)価格よりも原産地を重視

 少しずつではあるが米国産牛肉がマーケットに出回る中、消費者の慎重な姿勢に変化はあるだろうか。

 今回、2月の消費者調査によれば、牛肉を購入する場合に一番重視するものは、「原産地・原産国」がトップで36.5%である。前回調査(当初輸入再開前の17年11月)では「価格」と「原産地・原産国」が32%でほぼ同じであったが、今回は「価格」が28%に低下しており、価格よりも原産地・原産国をより重視する結果となっている。

 信頼性(しっかりした検査体制か)を重視するのは6.7%と低いが、これは消費者が原産地・原産国に基づき牛肉の信頼性を判断しているためと考えられる。(図1)

図1 牛肉購入時の一番の重視点

調査は、インターネットにより全国1200人を対象に
輸入再開前の17年11月と19年2月の2回実施した。


(2)和牛肉に高い信頼性

 牛肉の印象を種類別に聞いたところ、「親しみ、なじみ」、「おいしい、品質がいい」、「検査体制がしっかりしている」のいずれの項目でも和牛肉が高いポイントをマークしている。一方、米国産牛肉は「価格が安い」との印象は強いものの、「安全性に不安」との印象を持つ人が1年3カ月前の調査とほぼ同じ68.5%となっており、消費者の慎重な姿勢が続いている。(表2)

表2 牛肉の印象(複数回答)部


(3)1割弱が米国産牛肉を購入

 米国産牛肉の流通量が限定的な中、消費者はどの程度、接触しただろうか。

 小売店で米国産と表示された牛肉を購入した人は8.6%、購入しないまでも表示を見たことがある人は50.9%に上り、合わせると6割の人が米国産牛肉に接触したこととなる。同じように購入の有無にかかわらず 、焼き肉、ステーキハウスなどの外食店では4割、牛丼などのファストフード店では5割が、米国産牛肉を使用したメニューに接触している。流通量が限定的にもかかわらず、かなりの人が米国産牛肉を食べる機会があったことが分かる。(表3)

表3 米国産牛肉への接触状況


 1月に(財)外食産業総合調査研究センターが関東圏のおおむね900名を対象に実施した別の調査によれば、小売店で米国産牛肉を「買わない」との回答は57.2%あるものの、「買った」が13.8%、「買いたいが、しばらく様子を見る」、「買いたいが、近所に売っていない」、「安ければ、買いたい」など、条件は付くものの「買いたい」が29.0%と、合わせて約4割は積極的な回答をしている。ただし、職業別に見ると、小売店での購入の主体となる専業主婦では「買わない」との否定派は7割に上っている。(図2)

図2 輸入再開後の米国産牛肉の購買行動


(4)外食で食べたいものは牛丼

 米国産を使用した外食メニューで、一番人気が高いのは牛丼で、「以前好きだった」が52.6%、輸入再開前の調査で「輸入再開したら食べたい」が40.8%であった。
今回調査で「実際に食べた」は14.5%にとどまっている。これは、調査時期が最大手の吉野家が販売時間を昼だけに制限していたときであり、メニューへの接触者が50.8%であったことが影響しているものと考えられる。なお、「実際に食べた」人を性別年齢別に見ると男性30・40代が約24%と一番高くなっている。(表4)

表4 外食での米国産牛肉を使用したメニューの選択(複数回答)


3.量販店が扱わない理由は「お客様の不安感」

 3月末から、大手量販店では西友が関東地区の20店舗での販売を開始したが、調査時点で北米産(米国またはカナダ)を扱っている量販店は2社であった。牛肉の種類別仕入割合は、和牛3割、和牛以外の国産牛4割、豪州産が3割である。6カ月後の見込みを聞いたところ、北米産を扱うとの回答は5社、仕入割合は1.6%に増えている。(表5)

表5 量販店の種類別仕入割合

 19年3月下旬に全国の量販店28社を対象に調査し、24社から回答を得た。

 現在扱っていない量販店にその理由を聞いたところ、「お客様の不安感」に続いて、「豪州産で対応できている」が2位、「輸入量が不安定」が3位であった。豪州産は穀物肥育牛肉の割合が増加し、品質も向上したとの意見があり、それに対して米国産が魅力的な価格、品質を打ち出せるかがカギとなっているようだ。また、量販店は計画的な販売を求めており、輸入量が少なく、供給が不安定な現状では、積極的に動くことが難しくなっている。さらに、お客様に安心して買ってもらうために、生産履歴の明確な商品を求めるという意見も強かった。(表6)


表6 量販店が米国産牛肉を扱わない理由(複数回答)


4.「使用しない」が増加した外食企業

 輸入再開前の調査で量販店よりも積極的な姿勢がうかがえた外食企業では、再開後どのくらい米国産牛肉を扱っているだろうか。

 もともと、外食企業では米国産牛肉の使用割合は高く、輸入停止前の15年には4割に上っていた。18年では豪州産がこれに取って代わり、そのシェアは6割に迫っている。(表7)

表7 外食企業の種類別仕入割合

 17年11月(回答42社)と19年2月(回答142社)の2回に全国の外食企業を対象に実施した。
 今回の回答者の業態別内訳は、レストラン24、ステーキ店6、焼肉店29、居酒屋チェーン10、ホテル32、総菜・中食18、集団給食23である。

 前回調査で「輸入再開後、なるべく早く扱いたいとする外食企業は27.7%であった。今回調査で「既に仕入れている」は13.4%にとどまっているが、業態別には焼肉店、居酒屋チェーン、ステーキ店で多く、その理由としては「米国産の品質が必要」、「メニューの多様化」との意見である。

 一方、「しばらく様子を見たい」は5割弱でほぼ同じであるが、「使用しない、使用する予定がない」は19.1%から40.8%へと倍に増加している。中には「もともと使用していない」もあるが、「国産・豪州産で十分対応可能」との意見が多かった。現状、国産・豪州産で代替できている中、直接的な価格メリットがないと米国産に切り替えるのは困難のようだ。(図3)

図3 外食企業の米国産牛肉の使用意向の変化


 現在使用していない企業が、使用するための条件としては、「安全性の確認」が一番多く、次いで「消費者のイメージの向上」、「価格の低下」と続いており、安全性を自ら確認する必要があると考えている企業が多い。(表8)


表8 外食企業が米国産牛肉を使用するための条件(複数回答)


5.売れ行きは期待より少ない卸売業者

 輸入商社と量販店や外食企業などのユーザーの間に入って牛肉を扱っている卸売業者は売り手と買い手の間にあり、それぞれの情報が集まり、肉のプロとして判断ができる立場にある。

 卸売業者の種類別仕入割合を見ると、現在4.0%の北米産は6カ月後の見込みでも4.5%と、大きな伸びを見込んでいない。(表9)

表9 卸売業者の種類別仕入割合

 19年3月下旬に全国の卸売業者20社を対象に調査し、 15社から回答を得た。

6.USMEFはマーケットの拡大を期待

 以上、最近行った調査結果をもとに、日本の牛肉マーケットでの米国産牛肉の現状を見てきた。

 卸売業者の意見をまとめると、北米産牛肉は「以前よりも価格は高いが品質はほぼ同じでユーザーからの問題はない。ただし、仕入量が安定せず、売れ行きは期待したよりも少ない」となろうか。(表10)

表10 卸売業者の米国産牛肉への意見(複数回答)



 最後に、米国産牛肉の販売促進・広報宣伝を行っている米国食肉輸出連合会(USMEF)のシニアディレクター 原田晋、山庄司岳道の両氏に市場回復のための戦略、今後の見込みを聞いた。


(問)輸入再開から8カ月経つが、消費者の米国産牛肉に対する慎重姿勢は変わっていない。USMEFとしてはどのような取り組みを行っているのか。
(答)「We Care」と題して、米国の食肉産業が牧場からパッカーまで各段階で日本の食卓の安全と品質のために、さまざまな安全対策を講じていることを訴えている。われわれの調査によれば、消費者の不安感が情報不足から来ている場合も多く、正確な情報を提供することが重要と考えている。

(問)卸売業者、外食企業、量販店などに対する支援はどのようなものがあるのか。
(答)外食企業、量販店が米国産牛肉を扱う場合の販売促進に対する資材の提供などを
行っている。また、直接、消費者に接する従業員が自信を持って米国産牛肉を勧めることができるように的確な情報を提供していくことも重要となっている。
 さらに米国産と言えばショートプレートなどの「ばら」が代表的な部位だが、それだけでなく、「新たな選択肢 New Alternatives」と題して、これまであまり使われていなかった、また、評価されにくかった「かた」や「もも」を使った新たな商品提案を行っている。さまざまな部位を使ってもらいたい。

(問)米国産と言えば、歩留まりがよく、扱いやすい単品の大量発注が可能なことが最大のメリットであったが、現状はどうなっているのか。
(答)変化した理由は二つある。日本向けの条件である20カ月齢以下と判別できる生体数が限られることから、以前のように特定の部位、例えばショートプレートだけを大量に提供できない。また、特定の部位だけでなく色々な部位を活用すれば、日本向け処理のために必要な上乗せコストを分散できるので、結果的に価格を下げて提供できる。

(問)「価格が以前よりも高い」との意見を聞くが。
(答)原産地価格が上昇している。その中で、パッカーは、誕生履歴を確認できる生体の購入にプレミアムが必要なこと、日本向けに別途処理するための施設整備、運用コストなどが必要となる。
 「ばらだけを以前の価格で欲しい」と言われると厳しいが、今まで使っていなかった部位を工夫して商品化すれば、国産も豪州産も価格が上昇している中で負けない価格で提供できる。

(問)大手量販店では3月末に西友が販売をスタートしたが、今後の動きはどうか。
(答)大手量販店が全国的に扱うには計画的な発注と仕入が欠かせないが、現状では、輸入量が少なすぎる。西友の例を見ても米国産牛肉に対する消費者の需要は確実に
あるので、輸入量が安定的に拡大すれば、他社にも広がっていくと思う。

(問)今後の対日輸出量をどう見込んでいるのか。
(答)米国では季節的な子牛生産のため、20カ月齢以下の生体の発生は春から夏に多く、冬にかけて減少する。これから、夏に向けて適格牛の出荷が増えてくるので対日輸出量も増加すると見込まれる。
 量が増えて、いつでもどこでも手に入るようになれば、消費者の受入れも進んで行くものと期待している。

(取材、19年4月4日)


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