◎調査・報告


鶏肉の生産、処理加工および流通の現状

京都産業大学
名誉教授 駒井 亨


まえがき

  社団法人日本食鳥協会は、農畜産業振興機構の補助事業(鶏肉競争力強化推進事業および鶏肉流通合理化対策事業)として、平成17・18年度に、鶏肉の生産、処理加工および流通に関する広範な実態調査を実施し、その結果を、平成17年度および平成18年度の実態調査・分析報告書にとりまとめた。

 本稿は上記2年度にわたる報告書の要約である。

 平成17年度の調査では、平成17年10月から平成18年3月までの6カ月間にわたって、東北、関東、関西、四国、九州、沖縄の主要な食鶏処理場を拠点として現地調査を実施し、また(社)日本食鳥協会の会員である生産加工、荷受、小売業者およびその他関連企業を対象として合計197件のアンケート調査を実施した。

 平成18年度の調査では、平成19年1月から3月までの3カ月間に、東北、関東、中部、近畿のブロイラー生産・処理加工企業6社および東京の荷受会社6社を訪問調査した。高病原性鳥インフルエンザが一部地域に発生した九州の訪問調査は中止したが、電話などによる聞き取り調査で補完した。

 また、東京および大阪の大手専門小売店を訪問調査し、さらにブロイラーの生産コスト調査に関連して、養鶏機械器具メーカーおよび食鳥処理加工設備メーカーを訪問してブロイラーの生産設備費用および食鶏処理加工設備費用などを精査した。


1.地域別のブロイラー生産状況と各地域の特色

 平成17年度、東北、関東、関西、四国、九州および沖縄のブロイラー生産状況を現地調査した結果、以下の所見を得た。

(1)東北−厳しさを増す環境問題
 東北地方〔主として青森・岩手〕のブロイラー生産は、全体的に見れば、農家による生産が6割、インテグレーターによる直営生産が4割と見られるが、インテグレーターによっては、100%直営生産または請負生産(インテグレーターが生産設備を所有し、生産者に請負生産させる)している。

 近隣住民の反対、環境問題など、鶏舎の新規建設は困難であり、既設の鶏舎の建て替え、農場の拡張で対応するしかない。既設鶏舎のリフォーム費用は坪(3.3平方メートル)当たり5万円前後であり、ウインドウレス鶏舎の建設は、土地代、整地費を除いても坪当たり15〜18万円を要する。新築鶏舎だけでは採算が合わないので、減価償却済の既設鶏舎との併用で採算を取るしかない。

 青森、岩手は、八戸グレイン・コンビナートに近接しているので、飼料の輸送コストは安い(10トンのバラ積トラックで50キロメートル以内でトン当たり1,000円)。

 鶏肉の国際競争力強化の方策としては、処理場の2シフトに向けての規制緩和、食鳥検査の民営化、検査料の引き下げが要望される。

(2)関東−有利な地元販売と東京市場への近接
 関東では、90年代以降新規のブロイラー生産者はなく、大部分の鶏舎は30年以上を経過していて、生産規模も小さく労働コストが高いが、新鮮な鶏肉(生鮮解体品)を地元や東京市場で比較的有利に販売出来るため、堅実な経営を続ける中堅(中規模)食鶏処理場が各県に健在である。

(3)関西−京阪神への生鳥、と体、生鮮解体品の供給に活路
 関西でのブロイラー生産の中心は今も昔も兵庫県だが、全国ブロイラー生産の1位、2位を占めた70〜80年代はじめ頃の面影はなく、直近(平成18年)では、全国ブロイラー出荷羽数の2%を占めるに過ぎない。

 兵庫県の中でもブロイラー発祥の地と言われ、生産の最も多いのは、県中・北部の但馬地方で、現在も中堅食鶏処理場2社が健在で、この2社で県内ブロイラー生産羽数の約7割を処理している。

 関西のブロイラーの特色は、出荷時生体重が大きいことで、平均出荷生体重は3キログラムを上回り(52〜55日齢)、特に専門小売店仕向のと体は生体重3.3キログラムと大きい。と体は氷詰で搬送する。

 上記2社の場合、ブロイラーの50〜70%を自社で直営生産しているが、もともと自社直営農場として建設したものは少なく、大部分は高齢化などで廃業したブロイラー生産者の鶏舎を買収または借用したものである。

 兵庫県に限らず、関西の食鶏処理場は極めて鮮度の良い生鮮解体品を近接の京阪神市場へ供給するほ か、と体や生体での出荷も多く、伝統的な京阪神市場への新鮮な食鶏の供給に生き残りを賭けている。

(4)四国−独立(個人)経営のブロイラー生産者が健在
 今日、ブロイラー生産者のほとんどは契約生産者としてインテグレーション(垂直統合経営)の中に組み込まれているが、四国ではいまだに20〜30%の生産者が独立経営生産者として健在である。これらの生産者はインテグレーターの傘下に入らず、独立でブロイラーを生産し、生産したブロイラーは自主的に食鶏処理場に販売する。

 四国のブロイラー生産者は、一般的に規模が小さく、1回5,000〜8,000羽程度の生産が多い。地鶏(阿波尾鶏)の場合も同規模だが、生産期間が長い(83日齢出荷)のため年間生産回数は3回である。

(5) 九州−ブロイラー鶏舎の建設続く
 環境問題や周辺住民の反対で、ブロイラー鶏舎の新設が全国的に困難を極める中、九州では、少なくとも一部の地域ではブロイラー生産施設のための用地取得や鶏舎建築が可能であるという(平成17年度現地調査時点で)。

 例えば、南九州の某ブロイラー企業は、ブロイラー生産農場4〜5カ所を新設すると同時に、既存のブロイラー生産施設(直営)も改修して生産力を強化している。温暖な南九州では、北海道、東北など寒冷地に比べて鶏舎の建築費も半額ですむと言う。

 南九州ではブロイラー生産者の規模も大きく、年間3,500万羽を生産する某ブロイラー企業では75%を直営生産し、残りの25%を31戸の農家が契約生産しているが、1戸当たりの年間ブロイラー生産羽数は28万羽である。

 南九州のブロイラー生産地は、いずれも港湾グレイン・コンビナートに近接していて飼料の輸送コストは安く1トン当たり600円の場合もある。食鶏処理場から消費地までのブロイラー製品(生鮮解体品)の冷蔵輸送コストは、東京まで16円、大阪まで13円である。

 ブロイラーの生産施設について、以上の各地で見られる新しい動きとして、公共事業の減少に悩む地元の建設業者が新規にブロイラー鶏舎を建設してブロイラー生産事業に参入する動きが見られるほか、大手ブロイラーふ化業者が産地処理場の要望に応えて新たにブロイラー鶏舎を建設してブロイラーの直営生産を行うケースも増えている。

(6)沖縄−移入、輸入鶏肉との競合に苦戦
 沖縄のブロイラー生産は年間300万羽でその99%は北部地区に集中しており、36戸の生産者の平均生産羽数規模は年間2万羽に満たない。食鶏処理場は、2社あり、地元での生鮮解体品の販売に注力しているが、宮崎、鹿児島両県からの移入鶏肉や米国からの輸入鶏肉との競合に苦戦している。


2.ブロイラーの生産設備および生産コスト

 ブロイラーの生産設備(ブロイラー用鶏舎)については、平成17年度に全国の食鶏処理場46社の協力を得て、各社の直営および傘下のブロイラー生産設備の現況をアンケート調査した結果、以下の状況が判明した。

 また、ブロイラーの生産性および生産コストについては、平成18年度、東北、関東、中部および近畿の代表的な中堅食鶏処理場を訪問調査して標準値を求めた(中国および九州は高病原性鳥インフルエンザ発生のため訪問調査中止)。

(1)ブロイラーの生産設備の現状
 食鶏処理場(インテグレーター)と契約して、または委託を受けてブロイラーを生産している個人生産者が所有するブロイラー生産用の鶏舎は、その約6割が昭和55年以前に建設されたもので、築後25年以上を経過している。これに80年代に建設された鶏舎を加えると、全体の8割以上が築後15年以上を経過しており、建て替えまたはリフォームの必要に迫られている。

 食鶏処理場(インテグレーター)の所有する直営農場のブロイラー鶏舎については、その約半数が25年以上を経過しており、これに15年以上を経過したものを加えると、77%が建て替えまたはリフォームの必要な時期に来ている。

 このような生産設備の老朽化に対応して、直営農場鶏舎の場合は、60%以上の企業が自己資金または借入金による更新を計画しているが、委託・契約(個人)生産者の場合は、自己資金または借入金による更新計画は47%で、27%の生産者は投資余力なしとしている。

 なお、ブロイラー用鶏舎の建設(新築)費用は、平成18年度の調査では、内部設備(給飼・給水・換気など)を含めて、寒冷地の場合、坪当たり15万円、温暖地では13万円(いずれもトンネル・ベンチレーション・システムのウインドウレス鶏舎、ただし鶏舎外部の給排水、電気設備費、整地、道路費用などは含まない)、また開放型鶏舎の場合は坪当たり7〜8万円である。

(2)ブロイラーの生産性と生産コスト
 平成18年度の実態調査の結果を総合して、現在のブロイラーの標準的な生産性および生産コストは次の通り試案される。

出荷時生体重
出荷日齢
商品化率
飼料要求率
配合飼料価格
初生ひな価格
=3キログラム
=52日齢
=98%
=2.05
1キログラム当たり35円
1羽当たり61円

 ただし、商品化率=[え付け羽数−(出荷日までのへい死+とう汰+輸送中へい死+検査不合格廃棄)]÷え付け羽数×100

ブロイラー1羽(3kg)の生産コスト
初生ひな費(61円÷0.98)
飼料費(3×2.05×35円)
薬品費
水道光熱費
敷料・雑費
労働報酬
捕鳥・出荷費
鶏舎清掃(除ふん)費
鶏舎減価償却費
鶏舎の支払利息
鶏舎の修繕・設備費
=62円
=215円
=12円
=15円
= 8円
=35円
=16円
= 8円
=20円
= 3円
= 7円

合計 401円

 ただし、1回4万羽、年間5回生産、夫婦1組で飼育管理を想定。


3.食鶏処理場の処理加工設備、運営および処理加工コスト

 食鶏処理場の処理加工設備の状況および運営状況については、平成17年度全国46社の食鶏処理場のアンケート調査結果から、またブロイラーの処理加工コストについては、平成18年度の中堅食鶏処理場6社の訪問調査結果から以下の所見を得た。

(1)食鶏処理場の処理加工設備と運営状況
 食鶏処理場内部の主要な処理加工設備は、平成2年以前に設備したものが30%、90年代設備したものが46%、平成12年以降に設備したものが24%で、処理加工設備の耐用年数が短いことを考えると、多数の処理場が老朽設備で稼動していることが分かる。

 最近は、人手不足のため食鶏処理設備とくに脱骨(正肉解体)作業の自動化(機械化)が進んでいるといわれるが、平成17年度の調査の結果では、大バラシ(胸部分と腿部分の分割)の機械化が6割、腿部分の脱骨作業の機械化が4割強、胸部分の処理作業の機械化が4割弱の普及率となっている。

 食鶏処理場の生鳥受入から製品出荷までの全作業の従業員1人1日当たりの食鶏処理羽数は、平均140羽であった。

 また食鶏処理場の現場作業員の平均年齢は、正社員46歳、パート50歳、外国人研修・実習生25歳であったが、食鶏処理加工の労力確保については、食鶏処理場の半数が必要な労働力の確保が困難であると回答している。

(2)食鶏(ブロイラー)の処理加工コスト
 ブロイラーの生体1羽または1キログラム当たりの処理加工コストは処理場によって大差があり、平成17年度のアンケート調査結果では、生体1キログラム当たり100円以上の差があり、平均では生体1キログラム当たりの処理加工コストは63.6円であった。

 平成18年度の中堅(中規模:年間1,000万羽未満の処理)処理場の訪問調査の結果では、1羽3キログラムのブロイラー(生体)1羽当たりの平均的な処理加工コストは、処理場費用150円、営業費用および一般管理費50円を合わせて200円と試算した。

 しかし、年間2,000万羽以上のブロイラーを処理加工する大規模処理場の場合は、平成18年度の電話による聞き取り調査では、処理場費用は平均115円、営業費用および一般管理費は平均35円合計150円であった。

 前述の平成17年度調査での生体1キログラム当たりの処理加工コスト63.6円を1羽当たりに換算すると191円になるから、平成18年度の中堅処理場6社の訪問調査の結果(1羽当たり200円)とほぼ整合している。


4.ブロイラー解体品の対生体歩留

 平成17年度のアンケート調査および平成18年度の訪問調査の結果、ブロイラーの標準的な対生体解体品歩留、産出量(1羽当たり生体重3キログラムのブロイラーから産出される解体品の重量)および産出割合(各解体品の構成比)は表1の通りである。

表1 1羽生体重3キログラムのブロイラーの解体品歩留、解体品産出量および産出割合


5.食鶏の種類別構成比と平均出荷生体重

 平成17年度のアンケート調査(食鶏処理場40社:平成17年9月)の食鶏の種類別構成比(羽数)と平均出荷生体重は次の通りであった。

一般若どり(ブロイラー)
銘柄鶏
地鶏
:62.3%(2.84キログラム)
:35.5%(2.95キログラム)
: 2.2%(2.78キログラム)


6.食鶏処理場の仕向先別製品出荷割合

 平成17年9月のアンケート調査による食鶏の種類別の仕向先別出荷割合は表2の通りで、食鶏の種類(ブロイラー、銘柄鶏、地鶏)によって仕向先の構成比が大きく異なっているのが注目される。

表2 食鶏処理場の生鮮解体品の仕向先別構成比(数量)



7.食鶏処理場の製品(生鮮解体品)販売価格

 平成18年度調査の食鶏処理場5社の生鮮解体品販売価格(平成18年1〜12月平均、ただしうち1社は平成17年10月〜18年9月)は表3のとおりであった(銘柄鶏は4社の平均)。

表3 食鶏処理場の製品販売価格(5社年間平均):円/kg



8.荷受会社の鶏肉の種類別取扱数量構成比

 平成17年度のアンケート調査では、荷受会社60社のうち18社から回答を得たが、この18社の鶏肉の種類別取扱数量構成比と今後の販売見通し(平成17年9月現在)は表4の通りであった。

表4 荷受会社(18社の)各種鶏肉販売状況



9.荷受会社の仕向先別鶏肉販売数量構成比

 荷受会社(15社)の仕向先別の国産および輸入鶏肉の販売数量構成比は表5の通りであった。

 スーパーへの販売が国産鶏肉90%であるのに対して、外食、中食、加工食品製造業者への販売は輸入鶏肉が48〜65%を占めているのが注目される。

表5 荷受会社の仕向先別鶏肉販売数量構成比(平成17年9月)



10.荷受会社の国産鶏肉解体品の品目別仕向先数量構成比

 荷受会社(16社)の国産鶏肉の品目別の仕向先別販売数量の構成比は表6の通りであった。

 むね肉、ささみおよび骨つきももの外食・中食・加工用仕向比率が高い。

表6 荷受会社の国産鶏肉解体品の品目別仕向先別数量構成比(16社平均)



11.荷受会社の鶏肉解体品仕入価格、卸売価格および販売マージン

 平成18年度訪問調査した荷受会社(東京)6社のブロイラー生鮮解体品の平成19年1月の品目別仕入価格、卸売価格および販売マージン(卸売価格と仕入価格の差額)は表7の通りであった。

表7 荷受会社6社の仕入価格、卸売価格およびマージンの平均値



12.荷受会社の鶏肉(生鮮品)仕入価格および販売価格の設定方法

 荷受会社6社の鶏肉(生鮮解体品)の仕入価格および販売価格の設定方法は、一般若どり(ブロイラー)肉については94%以上が日経の相場(日本経済新聞の荷受会社卸売価格:加重平均価格)に準拠しており、銘柄鶏肉は日経相場準拠が37%、協議価格が57%、地鶏肉は100%が協議価格で、生産コスト・スライド方式はブロイラー、銘柄鶏、地鶏いずれも皆無であった。

ちなみに、平成18年度訪問調査した荷受6社の平成18年1〜12月の各種食鶏のむね肉およびもも肉の卸売価格は表8の通りであった。

表8 東京荷受6社の平成18年1月〜12月のむね肉およびもも肉の平均卸売価格



13.荷受会社の販売実績

 平成18年度に訪問調査した荷受会社6社の販売価格の種類別の販売数量の構成比(平成18年1〜12月、6社平均)は表9の通りであった。

 むね肉およびささみの在庫処分販売の比率が高く、また銘柄鶏の場合もスーパーなどの特売協力価格での販売比率が高い。

表9 東京荷受6社の平成18年1〜12月の販売実績



14.解体品の品目別の生鮮品と凍結品の販売数量構成比

 荷受会社は鶏肉解体品を生鮮品で仕入れ、生鮮品で販売する。生鮮品の在庫(売れ残り)は凍結貯蔵さぜるを得ないが、凍結品は価格が安い上に、凍結費用、保管費用、入出庫料など出費が多い。

 表10は、平成18年1〜12月の東京荷受5社(手羽なかは2社)の鶏肉生鮮品と凍結品の販売数量構成比(平均)とその価格差である。

 この表で明らかなように、むね肉、ささみおよびきもの3品目の凍結在庫(売れ残り)が多く、したがって生鮮品との価格差が大きい。

表10 荷受会社の鶏肉生鮮品と凍結品の販売数量構成比および価格差



15.荷受会社の経営

 以上訪問調査によって見てきたように、食鳥荷受会社の経営は極めて厳しく、経営圧迫要因は極めて重い。

 荷受会社の経営を圧迫する要因としては次のような事項が考えられる。

(1)慢性的な供給過剰(国産、輸入とも)
(2)むね肉、ささみ、きも、の需要不振
(3)産地処理場からの解体品のセット購入
(4)スーパーなどの特売協力の日常化
(5)アウトパックに伴うパック・配送センターの費用負担(アウトパックは量販店内包装の外部化)
(6)余剰部位在庫処分による損失

 (2)については、きも(やきとり用)が加熱調製品として大量に輸入されるようになったため、国内産のきもが売れなくなった事実、(4)についてはスーパーの鶏肉特売が月のうち半分以上にもなる場合がある事実、また(5)については、従来スーパー各店舗の準備室(店舗内バックヤード)で2キロパック詰鶏肉を消費者包装にパックしたものを外部化(アウトパック)するようになり、このため荷受会社がこの業務(消費者包装と各店舗への配送)を行うことになり、この業務(パック諸掛と配送費)の費用(鶏肉1キログラム当たり約200円)がスーパー側で補償されないと大きな負担になる事実、(6)については、余剰部位(ささみ、きも、むね肉など)はペットフード用に処分販売する場合は1キログラム当たり100円程度であり、しかもこれら余剰部位の凍結貯蔵、入出庫手数料、運賃など(1キログラム当たり約50円と言われる)がかさむため、余剰部位の在庫処分による損失が大きい事実−などが指摘されている。

 荷受会社の経営改善方策としては、もも肉以外の解体品をいかに有利に利用(加工など)、販売するか、またパックセンターをいかに合理的に運営するかが重要であるという。


16.専門小売店の仕入価格

 鶏肉専門小売店については、東京と大阪の大手業者各1社を訪問調査した。

 東京と大阪の食鳥流通の相違は、東京が中ぬき(内臓を除去した丸どり)流通であるのに対して、大阪は依然としてと体(放血、脱羽した丸どり)取引であり、昔と違って、専門小売店の食鶏仕入も大部分は解体品仕入になっているが、東京では主として東北地方の処理場の製品(生鮮解体品)を仕入れているのに対して大阪は近県産の生鮮解体品仕入が主体となっていることである。

 東京の専門小売店の仕入れ価格は、中ぬき(V型)は日経荷受相場(と体)の高値の1.6倍、またもも肉は日経荷受相場加重平均マイナス10円(1キログラム当たり)である。東京には南九州からの生鮮解体品も入荷するが、南九州産は東北産より1キログラム当たり10〜20円安いのが一般である。南九州は東京までの輸送時間が長く鮮度が落ちると見られている。

 大阪の専門小売店の場合、荷受会社および産地処理場からの一般若どり(ブロイラー)生鮮解体品の仕入れは日経相場(東京荷受)に準拠する。銘柄鶏については産地処理場からの直接買入は協議価格であるが、荷受会社からの買入は日経相場に準拠する。平成19年1月の東京、大阪の専門小売店の仕入価格は表11の通り。

表11 東京・大阪の大手専門小売業者の仕入価格(平成19年1月)



17.専門小売店の小売マージン

 食鶏の産地処理場、荷受会社、卸売業者、小売業者、ユーザーなどの流通業者間の取引は、一般若どり(ブロイラー)の生鮮品については、上述の調査結果に見られるとおり、その大多数が日本経済新聞社の荷受相場の加重平均に準拠していることから、鶏肉の小売マージン(卸売価格と小売価格との差額)は、卸売価格については日本経済新聞社荷受相場(東京)の加重平均を使って算定するのが妥当であろう。

 小売価格については、総務省統計局小売物価統計調査の東京のもも肉小売価格が唯一の客観的価格と考えられる。

 表12は、日経の東京荷受の加重平均価格と総務省統計局の鶏もも肉価格の平成14年から18年までの5年間の推移である。

 表12に見られるように、鶏もも肉の小売マージン(卸売価格と小売価格の差額)は極めて大きく、小売価格は卸売価格の2倍以上となっている。

表12 鶏肉(もも肉)の小売マージン



18.鶏肉の価格スプレッド

 鶏肉の生産者価格(ここでは食鶏処理場の販売価格)←→卸売価格(荷受会社の販売価格)←→小売価格の間の価格差(スプレッド)を計算するためには、ブロイラー(3キログラム)1羽から産出される商品(生鮮解体品)の数量に各段階の単価を乗じた合計金額を比較することになる。

 まず鶏肉の生産者価格は、食鶏処理場のブロイラー解体品の販売価格、すなわち荷受会社の仕入(買入)価格であるから、前出表7の荷受会社の平均仕入価格(ただし手羽なかを除く)に各解体品の産出量(前出表1)を乗じて、ブロイラー1羽当たりの製品売上は552円と試算される。

 次に鶏肉の卸売価格は、同じく表7の荷受会社の平均卸売価格に各解体品の産出量を乗じて、ブロイラー1羽当たり631円となる。

 鶏肉の小売価格は、東京の大手小売店の聞き取り調査による各解体品の平成19年1月の小売価格に各解体品の産出量を乗じてブロイラー1羽分で1,718円と試算した。

 以上の試算から、生産者(処理場)価格と卸売価格のスプレッドは79円、卸売価格と小売価格のスプレッドは1,087円となる。

 小売価格を100とすれば、卸売価格は36.7、また生産者価格は32.1である。

図 鶏肉(ブロイラー1羽分の解体品)の価格スプレッド



あとがき

 鶏肉の価格スプレッドの試算結果(平成19年1月の価格による)から、鶏肉の生産者(食鶏処理場)価格と小売価格のス プレッドは極めて大きく、また生産者価格と卸売(荷受業者)価格とのスプレッドは極めて小さいことが確認された。

このような価格スプレッドを見ると、鶏肉は同じく食肉とはいえ、牛・豚肉とは全く異なりむしろ鮮魚に近い。

 鶏肉はその熟成(解硬=死後硬直の解除)時間が牛・豚肉に比べてはるかに短く、鮮魚に近似しているから、このこと(鮮度保持が難しい)をもって価格スプレッドが大きい理由とされるのかもしれない。

 しかし、鶏肉の場合、流通経路が極めて単純で、短縮されていることを考えると、このような大きな価格スプレッドが合理的であるのかどうか疑問とせざるを得ない。

 また、荷受業者のマージンがあまりにも少なく、経営圧迫要因があまりにも大きことを見ると、鶏肉流通の過半を担うとされる荷受業者の弱体化が鶏肉産業の健全性を損うのではないかと危惧される。


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