調査・報告

地域産業とはぐくみ合うエコフィード型循環養鶏
〜紀州うめどり・うめたまごへの取り組み〜

調査情報部 調査課 課長代理 谷口 清
情報課          係   長 石丸 雄一郎(現所属:野菜業務部交付業務課)


 和歌山県は、その大部分が紀伊山系を中心とする山岳地帯によって占められている。このため、比較的温暖な気候と山あいの農地を利用したみかん、はっさく、梅、かき、桃などの果樹栽培が盛んで、果実の産出額(平成18年。以下、産出額について同じ:農林水産省「平成18年農業産出額」)は675億円で全国の8.8%を占め、青森県(771億円:全国シェア10.0%)に次いで第2位となっている。中でも梅の収穫量は全国の約6割を占め、これを使った梅干しは古くから県内の名産品として知られており、和歌山県では、一定条件を満たした梅干しおよび調味梅干しを「和歌山県ふるさと認証食品」として認証している。

 また、畜産業について、その産出額(58億円)は県内農業産出額(1,095億円)の5.3%、全国の畜産産出額(4,918億円)の1.2%を占めるにすぎないものの、養鶏の産出額(41億円)が県内畜産産出額の大部分(70.7%)を占めるというのが、ほかの都道府県にはあまり見られない大きな特徴となっている。

 本稿では、古くから地域産業として知られる梅産業と連携し、互いに成長を目指す和歌山県下の養鶏産業の取り組みを紹介する。

表1 梅の収穫量全国トップ5(平成19年)


1 「厄介もの」を使え

 和歌山県で生産される梅の用途については、青梅用または加工向け(梅干し・梅漬け用ほか)など、時々の相場に応じていずれか高値の方にシフトする傾向があるとされるが、梅干し・梅漬けに仕向けられる梅は、この数年2万7千〜4万7千トン前後で推移している。

 梅加工販売業者からの聴き取りによると、生梅に塩を加えて梅漬け(→天日干しなどにより梅干しとなる)を製造する場合、一般に生梅重量の約4割程度の梅酢が副産物として発生するといわれている。このことから、最近、和歌山県内では年間1万5千〜2万トン前後の梅酢が生じているものと推察される。

 梅酢は20%前後の塩分を含むほか、梅に由来するアスパラギン酸などのアミノ酸、クエン酸などの有機酸、カルシウムおよび亜鉛などのミネラル、ビタミン類などを豊富に含んでいる。反面、塩分や有機酸などが高濃度に含まれていることから、一部が梅酢漬けなどに使用される程度で、その利用にはおのずと制限があった。浄化処理にも1トン当たり1万円以上のコストを要するとされ、一時期は河川・海洋投棄などによる公害問題も発生した。

 しかし、梅酢には消化促進や脂質代謝の改善、強力な抗酸化作用および殺菌作用などがあることが知られており、県内の代表的な産業である梅産業で大量に生成し、コストをかけて廃棄業者に処理を依頼していたこれら梅酢などの副産物=「厄介もの」を、一部では未利用資源として認識し、再利用を模索する動きも見られるようになっていた。


表2 和歌山県の用途別梅仕向量の推移


2 梅酢と鶏の出会い

1 「梅酢を飲んだ鶏は夏バテせず」がきっかけ

 「日本一の梅の里」を称する和歌山県日高郡みなべ町(平成16(2004)年10月1日に南部町と南部川村が合併して誕生した県中西部の町)で梅加工販売業を営む株式会社紀州ほそ川(以下「紀州ほそ川」)の細川清社長も、梅酢の再利用に取り組む一人であった。和歌山県内では、昭和末期(1980年代半ば)ころから梅生産が飛躍的に伸び、発生する梅酢もこれに伴って急増し、平成7(1995)年ころからはその処理が大きな悩みの種となっていた。

 紀州ほそ川では、梅酢の利用拡大を妨げる大きな要因の一つである塩分を除去すべく、平成8(1996)年1月に電気透析装置を導入、さらに同10(1998)年4月には濃縮装置を導入し、脱塩濃縮梅酢の飲料などへの利用を開始した。

 細川社長は、梅酢を飲ませた鶏が夏バテをしないという書籍の記述や、県内の一部地域では夏場の暑熱などで弱った鶏に梅酢を飲ませる習慣があるという話にヒントを得、和歌山県農林水産総合技術センター養鶏試験場(日高郡日高川町:平成14年4月以降は、和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所。以下、時期にかかわらず「養鶏研究所」)に自社の脱塩濃縮梅酢を持ち込み、用途の相談を持ちかけた。そして同11(1999)年6月、塩分濃度を通常の2分の1にした脱塩濃縮梅酢を用いた鶏に対する飼料添加試験が始まった。

2 予想を「裏切る」鶏への梅酢飼料給与の好結果

 養鶏研究所では当初、塩分濃度が同一であれば、梅酢の添加濃度が高くなると、鶏が摂取する塩分も多くなることから、高添加試験区ほど鶏に悪影響が出ると予想していた。しかし、実際には、添加した梅酢濃度が高い試験区ほど生存率が向上するなどの好結果が見られた。これが養鶏研究所の研究者たちの興味を引き、紀州ほそ川と養鶏研究所はさらに理想的な脱塩濃縮梅酢を求めて試行錯誤を繰り返し、ついに塩分0%・可溶性固形分70%の脱塩濃縮梅酢「梅BX70」を完成させたのである。

 一方で、ほかの畜種経営と比べて農業所得率が低い養鶏産業が畜産産出額の7割を占める和歌山県では、消費者ニーズに合った長期生産が可能な売れ筋商品の開発が、養鶏関係業者などから強く望まれていた。

 こうした背景の下、その後の研究の積み重ねにより、梅BX70添加飼料の給与による鶏の飼養技術が確立され、これにより生産された鶏肉および鶏卵が、それぞれ「紀州うめどり」および「紀州うめたまご」と名付けられて商品化されたのである。また、平成15(2003)年9月2日、梅BX70を利用した鶏の飼養技術に関し、和歌山県と紀州ほそ川は共同で特許を出願している(同20年9月調査時現在、審査中)。


表3 営農類型別1戸当たりの経営概要(全国)


3 ブランド化の推進と梅産業との連携

1 官民一体による地域産業振興

 紀州うめどり・うめたまごについては、付加価値商品として利益を上げる意味もあり、県内の名産品でもある南高梅のようなブランド化に向けた可能性が探られた。すでに養鶏研究所による梅BX70添加飼料の給与試験で得られた好成績の蓄積もあり、養鶏研究所のみならず、和歌山県農林水産部農業生産局畜産課(以下「県畜産課」)も、養鶏・鶏肉業者ほか関連業者を集めて説明会を随時開催するなど、県・紀州ほそ川が官民共同で一体となってブランド化を推進していった。

 このことは、畜産業者との関係があまり深くはなかった梅加工販売業者の紀州ほそ川にとって、梅BX70の鶏などへの利用を拡大する上で大きなプラスとなっただけでなく、養鶏研究所という県の試験研究機関の公的データが利用できることで、信頼性の高いバックデータを前面に出しながら、紀州うめどり・うめたまごのブランド化をより効率的に推進できるようになったことを意味した。同時に県にとっても、特産品である梅の健康イメージを想起させる畜産物の生産・流通・販売などを通じ、地元産業の振興を図ることができるというメリットが生み出されたのである。

 そして、紀州うめどり・うめたまごの新たなブランドとしての確立を推進し、和歌山県の特産物としての定着を図り、生産拡大から消費促進・販路拡大までに至る幅広い事業展開を目指し、平成17(2005)年4月1日、紀州うめどり・うめたまごの生産、流通などに携わる梅加工販売業者、養鶏業者、鶏肉業者ほか関連業者による「紀州うめどり・うめたまごブランド化推進協議会」(以下「推進協議会」)が設立された。推進協議会の会長には、紀州ほそ川の細川社長が選任されたが、ある関係者は、養鶏関係業者と直接的な利害関係がない梅加工販売業者が推進協議会の会長を務めていることも、一連の取り組みがうまくいっている要因の一つではないかとしている。

 推進協議会の会員数は、平成17年が7会員、同18年が8会員、同19年以降は11会員(梅加工販売業者1社、肉用鶏生産者1法人、採卵鶏生産者5農家、食鳥処理業者2法人、鶏卵・鶏肉流通業者2社:平成20年9月調査時現在)となっている。

 推進協議会設立は同時に、養鶏関係業者と梅関係業者の連携を意味するものでもあった。紀州うめどり・うめたまごは、養鶏・梅関係双方にその流通網を広げることができ、より有効なマーケティング=紀州うめどり・うめたまごが効果的に「売れる仕組み」の構築が可能となったのである。

 こうした動きに対し、県畜産課は、脱塩濃縮梅酢を利用した養鶏の県内養鶏農家への普及促進と、これによって生産された高品質・高付加価値な鶏肉・鶏卵の「紀州うめどり・うめたまご」としてのブランド化推進などによる県内養鶏農家の生産技術向上および経営安定を目的として、平成17〜19年度の3カ年度にわたり、総額8百万円を推進協議会に助成してバックアップした。この事業により、紀州うめどり・うめたまごのブランドロゴおよびブランドキャラクターも作成(平成18(2006)年1月6日商標登録)された。また、同年3月には、県畜産課により「紀州梅どり・梅たまご生産マニュアル」(注:県畜産課および養鶏研究所など県機関では、「梅どり」および「梅たまご」と表記する例が多い。以下同じ)も作成されている。

表4 紀州うめどり・うめたまご生産拡大消費促進(県単事業)の概要

 なお、紀州うめどりは、平成18年9月に大阪市住之江区南港北で開催された2006食肉産業展の地鶏・銘柄鶏食味コンテストで総合第3位(「食味・風味」および「見た目」部門では第1位)入賞、さらに、同20年4月に東京都江東区有明で開催された2008食肉産業展の同コンテストでは、最優秀賞に輝いた。

 南高梅は、和歌山県を代表し、梅のトップブランドとして知られる品種で、現在の和歌山県日高郡みなべ町晩稲(おしね)に住んでいた高田貞楠(さだぐす)が明治後期に育成した高田梅を基礎とする。

 その後、昭和25(1950)年に発足した梅優良母樹調査選定委員会が、和歌山県立南部(みなべ)高等学校園芸科の生徒たちの協力なども得ながら、5年間をかけて詳細な調査を行った結果、高田梅が最良とされ、その委員長で南部高等学校教諭でもあった竹中勝太郎により、「南部高校」と「高田」にちなんで「南高梅」と名付けられた。昭和40(1965)年10月29日には、登録第184号をもって農林省(当時)に種苗名称登録された。現在、南高梅はみなべ町の梅栽培面積の約8割を占めるが、南高梅は自家受粉ができず、結実に他品種の花粉を必要とするため、小粒南高、西川などが受粉樹として栽培(約1割強)されている。同じく収穫量ベースでは、南高梅が約9割を占めている。

 なお、南高梅は、「なんこうばい」と呼ばれることもあるが、正しい呼称は「なんこううめ」である。このうち、みなべいなみ農業協同組合(本所:みなべ町気佐藤(きさと))が地域団体商標制度により特許庁に登録出願した「紀州みなべの南高梅」は、平成18年11月17日、登録第5003836号をもって地域団体商標に登録されている。
 


2 鶏排せつ物の循環利用は一部では確立するも、県全域には至らず

 和歌山県内では、家畜排せつ物によるたい肥を利用している梅栽培農家も多く、推進協議会では、鶏排せつ物をたい肥などとして梅栽培農家に提供し、収穫された梅の加工によって生ずる梅酢を飼料添加して飼養された鶏から生産される鶏肉・鶏卵をブランド化販売する循環養鶏の構築も視野に入れている。

 有田川町など一部の地域では、梅BX70添加飼料を用いた養鶏農家由来の鶏排せつ物が梅栽培農家によって利用されているところもあり、その意味では資源循環型養鶏が一部確立しているといえるが、現段階においては、県内全体としての確立にはまだ至ってはいない。


紀州うめどり・うめたまご生産による資源循環型養鶏の構想図(県内一部地域では構築済)


4 紀州うめどり・うめたまごの特徴

1 基準順守は養鶏研究所が抜き打ちチェック

 平成17年4月21日、養鶏研究所により「梅どり・梅たまご飼養基準」が作成された。養鶏研究所では、同基準の順守について抜き打ちでチェックを行っているが、推進協議会によると、紀州うめどり・うめたまごとして出荷される量を見れば、おおよその見当はつくという。同基準に定める内容は、以下の通りである。

(1)ブロイラー
 後期飼料(ブロイラーは50〜60日齢前後で出荷されるが、給与される飼料は、時期により前期飼料、後期飼料、仕上げ飼料に大別される)への切り替え時から出荷までの間に、紀州ほそ川が製造する梅BX70をブロイラー用飼料に0.1%以上の割合で混合・給与したものをうめどりとする。

(2)採卵鶏
 紀州ほそ川が製造する梅BX70を採卵鶏用飼料に0.07〜0.14%の割合で混合・給与し、梅BX70の飼料添加から30日以上経過した採卵鶏から得られた卵をうめたまごとする。

 「紀州うめどり」は平成18年1月6日付け、「紀州うめたまご」は同年6月18日付けでそれぞれ商標登録されて紀州ほそ川が商標権を有しており、推進協議会に無償貸与している。

 県畜産課によると、平成19年度実績で、紀州うめどりの年間出荷羽数は約150万羽、紀州うめたまご採卵鶏飼養羽数は約3万1千羽となっている。ただし、梅BX70添加飼料を摂取している鶏のうち、ブロイラーについてはすべて紀州うめどりとして出荷されているが、老廃鶏由来の鶏肉は別で、鶏卵についても、そのすべてが紀州うめたまごとして販売されるわけではなく、自農場ブランドなどとして販売されるものもあることに留意する必要がある。


表5 紀州うめどり・うめたまご出荷・飼養羽数

2 紀州うめどり・うめたまごの特性

 これまでに実施された養鶏研究所(一部は東北大学、広島大学などとの共同研究)によるブロイラーおよび採卵鶏に対する梅BX70の飼料添加試験では、おおむね以下のような結果が得られている。

(1)共通事項
 ア 鶏の健康性(体液性・細胞性免疫機能)の向上
 イ モニターによる官能評価において、鶏肉(むね肉)の食味性、特に味・香りなどで無添加区に対し有意差。鶏卵(ゆで卵)も梅BX70添加区で良好な結果

(2)ブロイラー
 ア 飼料消費量および出荷時体重の増加
 イ 代謝性の向上。具体的には腹腔(ふくこう)内脂肪の低下(特に肝臓内脂肪細胞面積および肝臓内脂肪含有量の減少)、血糖の低下
 ウ 正肉割合の増加(特にもも肉)など産肉性の向上
 エ むね肉冷蔵時の保水性向上(ドリップの流失減少)
 オ 加熱むね肉の剪断(せんだん)性の向上(→歯ごたえの向上に結びついていると推察)

(3)採卵鶏
 ア 飼料要求率の効率化
 イ 産卵率およびハウユニット(鮮度の指標)など卵質の向上
 ウ 亜鉛、アミノ酸などの鶏卵移行の増加
 エ 卵黄中のビタミンA、葉酸、パントテン酸増加

 なお、葉酸、パントテン酸はともにビタミンB群に属し、かつてはそれぞれビタミンM(ビタミンB9)、ビタミンB5などと呼ばれていた。ともに細胞分裂に関係し、皮膚や粘膜の強化を促進するほか、葉酸は、生命の設計図といわれるデオキシリボ核酸(DNA)およびたんぱく質合成などに関与するリボ核酸(RNA)といった核酸合成や造血に、パントテン酸は、糖質・脂質代謝やストレスへの抵抗性などにも関係している。また、葉酸は、特に妊娠期の女性では重要な栄養成分とされ、不足によって産児の歩行障害や膀胱(ぼうこう)・直腸の機能障害、無脳症などの原因となることがあるため、養鶏研究所では、紀州うめたまごの大きなアピールポイントになるとしている。

3 紀州うめどり・うめたまごは「普段使いのちょっとよいもの」

 紀州うめどり・うめたまごは、梅BX70の養鶏への利用当初からブランド化に向けた活動が行われてきたが、その位置付けは高級イメージを前面に出した高価格商品というよりも、「普段食べるもので少しよいもの」の生産に軸足が置かれている。

 また、紀州うめどり・うめたまごの販売、流通および価格設定などについては、推進協議会の各会員が独自の販売・流通ルートやブランドを有するなど、会員ごとに事情が異なるため、基本的にそれぞれの会員の判断に委ねられている。

 ただし、紀州うめたまごの価格については、ブランド化の意味や目的なども踏まえ、推進協議会において10個当たり278円以上(小売価格)で販売することとされている。紀州うめどりに関しては、推進協議会の会員たる肉用鶏生産業者は有田養鶏農業協同組合(有田郡有田川町:以下「有田養鶏農協」)1者のみで、有田養鶏農協が、その直営養鶏場(3カ所)および組合員の飼養するブロイラーを一手に引き受けて食鳥処理業者に出荷しており、一本の固定した販売・流通ルートが確立されているため、特に推進協議会としての価格基準は設定していない。

 なお、当時と現在とでは、生産コストや諸物価などの事情が若干異なるため、あくまで目安であるが、和歌山県の平成17年度の試算によると、一般的な養鶏収益に比べ、紀州うめたまご飼養による生産農家の収益は2割強、紀州うめどり飼養による生産農家の収益および食鳥処理業者の売り上げはともに1割程度高くなるとの結果が示されている。


紀州うめたまご
東京交通会館(東京都千代田区有楽町)内の和歌山県アンテナショップ・わかやま喜集館にて購入(平成20年5月下旬)。和歌山県から東京都までの輸送コストなどもあり、1パック6個入りで白玉300円、赤玉350円。MS〜L規格で6個312〜420グラム(卵1個当たり52〜70グラム)

4 消費者からも好評、安定した売れ行き

 和歌山県伊都郡かつらぎ町に本店を置く老舗(しにせ)の食肉販売店では、推進協議会の会員でもある紀の川市の食鳥処理業者からの紹介や社団法人畜産協会わかやま開催の会合などを通じて紀州うめどりを知り、3年ほど前から販売を開始した。すでに養鶏研究所における梅BX70の飼料添加試験で好成績が出そろっていたこともあり、紀州うめどりの導入に対する大きな不安はなかったという。

 今回訪問した和歌山市中心街の複合商業施設内にある支店の一つでは、鶏肉スペースの半分程度が紀州うめどり(鶏肉および内臓)で占められていた。紀州うめどりは、養鶏研究所における好成績や食味性などに加え、臭みも少ないと消費者からは好評で、一般の鶏肉に比べ、単位量当たりの小売値で1割強〜2割程度高いにもかかわらず、安定的な売れ行きを示しているという。また、ドリップの流失が少なく、食肉販売店として取り扱いの手間がかからないことも大きなメリットの一つであるとされる。


店頭に並ぶ紀州うめどりのもも肉
紀州うめどりのパッケージには、それぞれブランドロゴ・キャラクターをあしらったシールが添付されている(和歌山市街:ぶらくり丁鳥久にて)。

 店主によると、鶏肉スペースの約半分に達する紀州うめどりの取り扱いをさらに増やすことは可能だが、実際に拡大するかどうかは、今後の店としての販売戦略次第であるとしている。

 平松養鶏場は、有田みかんの主要生産地の一つとしても知られる和歌山県有田郡有田川町(平成18年1月1日に吉備町、金屋町および清水町が合併して誕生した県中北部の町)で三代続く養鶏農家である。現在の代表・平松重人氏は、有田養鶏農協の代表理事であり、かつ推進協議会の副会長も務めている。


平松養鶏場内のブロイラーおよび採卵鶏
写真左は13日齢のブロイラーで、すべて紀州うめどりとして出荷。
右は紀州うめたまご向けの採卵鶏




梅BX70とその添加飼料
梅BX70は、いわゆる梅エキスのような粘性のある液体だが、飼料中に0.1%前後添加(原液を水で希釈した上で混合)しても、外見・感触上は一般の配合飼料とほとんど見分けがつかず、飼槽に張り付くこともない。

 現在の飼養羽数は、採卵鶏約1万羽、ブロイラー約8千羽(×4.5回転/年)で、ブロイラーはすべて紀州うめどりとして有田養鶏農協を通じ出荷している。一方、鶏卵については、比較的若い採卵鶏から生産された一定重量範囲のものを紀州うめたまごとして出荷しているが、ほかに自農場ブランドで販売しているものもあり、すべてが紀州うめたまごというわけではない。

 梅酢との出会いは、新聞記事と県からの案内であったという。一般に鶏の排せつ物は軟らかいものが多いが、梅BX70の使用後、約1週間でポロポロとした形状になって鶏舎の臭いも変わり、かつこの状態が持続した。鶏舎内の悪臭原因の一つとして、排せつ物に由来するアンモニア(NH3)があるが、養鶏研究所の試験では、添加区において窒素(N)=たんぱく質の吸収率が増加(→飼料要求率の効率化)したという結果も得られており、排せつ物の形状変化と併せ、梅BX70給与により、鶏の腸内細菌叢(そう)が変化した可能性も指摘されている。

 梅BX70の購入価格は1キログラム当たり2千円程度で、これを飼料中に0.1%の割合で添加している。梅BX70添加飼料の給与に当たっては、(1)紀州ほそ川から飼料メーカーに出荷された梅BX70をあらかじめ配合した飼料をメーカーから購入する、(2)紀州ほそ川から購入した梅BX70を養鶏農家が飼料中に自家配合する、(3)脱脂ぬかと混ぜて粉体化した梅BX70を紀州ほそ川から購入(脱脂ぬかと混ぜて濃度が低下するため、梅BX70の同量ベースで比較すると4割程度コストが高くなる)し、養鶏農家が飼料中に自家配合する−という方法があるが、推進協議会の会員養鶏農家では、飼養規模やコストなどに応じ、それぞれの方法を適宜組み合わせるなどしているとされる。

平松養鶏場では、紀州うめどりについては、前述のように有田養鶏農協に一元出荷している。梅BX70を飼料中に0.1%添加した場合、飼料コストは1トン当たり2千円程度上昇し、鶏肉ベースでは、1キログラム当たり2.4〜2.5円程度のコスト増になるという。しかし、ブロイラーはすべて紀州うめどりとして、新聞相場プラス1キログラム当たり10円の上乗せ価格で出荷しており、飼料相場の高騰を考えても、全体の収支は何とか釣り合っている状況であるという。


平松重人氏
比較的早い時期から梅BX70を利用している養鶏業者の一人。推進協議会副会長も務める。

 一方、紀州うめたまごについては、ほかの大規模養鶏場では直接または卸売業者を通じて量販店に出荷している会員もあるが、平松養鶏場の場合は、同養鶏場に直接買いに来るケースや宅配(関東からの注文が多く、そのほとんどは口コミによるという)などによるものが多いとしている。

 鶏排せつ物の処理については、紀州うめどりのものに関しては、平飼いで敷料(鶏排せつ物を発酵利用)があることから、梅栽培農家やみかん栽培農家などに出荷(価格は配送車の燃料代および高速料金見合い程度)している。紀州うめたまごを含む採卵鶏の排せつ物に関しては、ケージ飼いで敷料がないため、発酵たい肥にした後、20キログラム当たり400円で農業資材業者に販売し、最終的には県内および京都府内の野菜農家などで使われているという。

 なお、平成20年9月調査時点における有田養鶏農協の生産組合員は4戸で、いずれもブロイラーは生産しているが、採卵鶏を飼養しているのは平松養鶏場だけである。このほか、後継者不足などにかんがみ、地域の養鶏生産確保のため、有田養鶏農協では3カ所の直営養鶏場(ブロイラーのみ。うち2カ所は廃業した養鶏施設を借用)を有している。直営養鶏場の鶏排せつ物については、有田養鶏農協から2トン車1台当たり2千円程度で梅栽培農家に販売され、一部は焼却して肥料メーカーなどにも出荷されている。同農協の代表理事でもある平松氏は、私見ながら、地域養鶏農家の高齢化および後継者不足などを考えると、今後は直営養鶏場を増やしていく必要があるとしている。


おわりに

 和歌山県では、安全・安心を基本に、幅広い分野における優れた県産品を「和歌山らしさ」、「和歌山ならでは」の視点から推奨する「和歌山県優良県産品(プレミア和歌山)推奨制度」が平成20年度から設けられた。認定された県産品は、プレミア和歌山のロゴ・シンボルマークの提示および認定表示が可能となるほか、県が主催・後援する各種商談会およびプロモーション、アンテナショップ、県の物産紹介パンフレット・ホームページにおいて、プレミア和歌山推奨品として紹介・掲載されるなどのメリットがもたらされる。紀州うめどり・うめたまごは同制度の生鮮物分野(畜産物)に申請している(同年9月調査時現在、審査中)。

表6 和歌山県の養鶏の概況(平成19年)

 推進協議会によると、平成19年の推定売上高は、紀州うめどりが約11億円、紀州うめたまごが約2億円とされる。時点や統計のサンプル・手法などが異なるので単純な比較はできないが、現時点で最新となる農林水産省「平成18年農業産出額」のデータと比較すると、紀州うめどり・うめたまごの売上高は、それぞれ県内のブロイラー・鶏卵産出額の5割強および1割強に相当する。


東京都内における紀州うめどりのプロモーション
麻布十番納涼祭り・おらがくに自慢会場における紀州うめどり(焼き鳥)の販促風景(東京都港区:平成20年8月22日撮影)。同祭への和歌山県の出展はこれが3回目だが、県畜産課と県アンテナショップ・わかやま喜集館が、イベント性なども踏まえ、同年初めて紀州うめどりの販売を決定したという。

 現在、県内では年間平均2万トン前後の梅酢が発生しているが、このうち紀州うめどり・うめたまごの生産に利用されているのは200トン程度とされる。最近は梅酢漬けのほか、酢の物やドレッシング、つけだれ、スープ、梅酢飲料などさまざまに用途が拡大し、県内で発生する梅酢のすべてが養鶏に用いられるわけではないが、推進協議会事務局では、梅酢の量だけを見れば、紀州うめどり・うめたまごには100倍の成長余力があると意気込みを見せている。

 また、梅BX70については、今後、牛や豚などへの応用も検討されているほか、本州最南端に当たる県南部の東牟婁郡串本町では、「紀州梅まだい」の養殖も実用化されている。

 一方、紀州うめどり・うめたまごの今後の課題としては、(1)生産コストの低減、(2)さらなる機能性の追求、(3)県内ホテルなどへの利用拡大、(4)加工品などへの利用などさらなる用途の開発・拡大、(5)鶏排せつ物の利用拡大による資源循環型養鶏の完全化−などが挙げられる。現在の流通範囲は県内のほか、宅配などを除くと大阪府および奈良県辺りまでで、ほかには東京都内の県アンテナショップ・わかやま喜集館において時々販売(紀州うめたまごのみ)される程度だが、それでも紀州うめどり・うめたまごの需要に生産が追いつかない状況にあるという。つまり、今後の販路拡大とも併せ、紀州うめどり・うめたまごが直面している最大の課題は、何と言っても生産量の確保にある。

 しかし、冒頭で示したように、県内の畜産産出額は農業産出額の5.3%、全国の畜産産出額の1.2%にすぎず、また、県内の養鶏の現状を見ても、もともとの飼養・生産があまり大きくないことに加え、高齢化や後継者不足などの問題もあり、それほど大きな生産余力があるわけではない(表6)。「紀州うめどり・うめたまご」は、和歌山県内で生産されることに意味があり、県としては、その公的立場も考慮しながら、推進協議会とともに、今後も県内生産者や県内外の小売業者などに紀州うめどり・うめたまごをアピールしていく必要があるとしている。

 末筆となったが、今回の調査において、ご多忙中にもかかわらず多大なご協力をいただいた和歌山県農林水産部農業生産局畜産課 地坂吉弘副主査、株式会社紀州ほそ川 細川清社長(推進協議会長)、細川庄三専務取締役および松尾尚樹氏(推進協議会事務局担当)、平松養鶏場 平松重人代表(有田養鶏農協代表理事・推進協議会副会長)、ぶらくり丁鳥久 楠本弘店主ならびに関係の方々に対し、深く感謝申し上げる。

 なお、調査、執筆に当たっては、下記の資料を参考とした。



(参考資料)

1)田中智弘、河内浩行、松井徹、矢野秀雄:濃縮脱塩梅酢がハムスターの脂質代謝に及ぼす影響.Trace Nutrients Research 22(2005)、京都、第22回微量栄養素研究シンポジウム、2005.5、pp131−134

2)橋本典和:地域産業と連携した畜産振興への取り組み.畜産技術 第635号(平成20年4月)、東京、社団法人畜産技術協会、2008.4、pp56−57

3)和歌山県農林水産部:和歌山県の農林水産業.和歌山、2008.4

4)和歌山県農林水産部農業生産局畜産課:紀州梅どり・梅たまご生産マニュアル.和歌山、2006.3

5)上田雅彦、前田恵助:ブロイラーに対する脱塩濃縮梅酢の効果.わかやまけんちくさんひろば 講演要旨集、和歌山、社団法人畜産協会わかやま、2005.12(http://wakayama.lin.go.jp/summary/17gyouseki/05122211.htm

6)株式会社紀州ほそ川:梅酢を加工した「梅BX70」を添加する飼料は、畜産(鶏、豚等)、水産物の品質改善(抗酸化性:過酸化脂質の減少)の効果発揮と健康食品への展開.J−Net21 地域産業資源活用事業計画の認定、東京、独立行政法人中小企業基盤整備機構、
2007.10(http://j-net21.smrj.go.jp/expand/shigen/MTninteiKeikaku/pdf/wakayama071012_01.pdf

7)近畿大学総務部広報課:農学部 和歌山県紀南農協・田辺市と共同研究 梅酢の有効利用で梅加工に新しい光.近畿大学大学新聞WEB版 第417号、2000.10(http://ccpc01.cc.kindai.ac.jp/press/417/learning/nougaku.htm

8)田縁正幸:梅産業のゼロエミッションへの取組み.第1回全国高専テクノフォーラム―産学官に向け全国高専はいかに連携するか―、国立高等専門学校協会・釧路工業高等専門学校、2003.8(http://www.kushiro-ct.ac.jp/CTC/forum/presen/wakayama.pdf

9)和歌山県広報室:「紀州うめどり・うめたまご」って何?.連(REN)VOL.12、和歌山、
2005.9(http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/000200/ren/web/ren12/6_tokudane.html

10)和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所:鶏に梅酢で特許出願!!.わかやまけんちくさんひろば 地域畜産トピックス、和歌山、社団法人畜産協会わかやま、2003.12(http://wakayama.lin.go.jp/topics/tp012.html

11)和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所:脱塩濃縮梅酢(BX70)の採卵鶏へおよぼす効果.平成15年度試験研究成果選集、和歌山、2003(http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/

12)和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所:ブロイラーに対する梅酢の効果.平成16年度試験研究成果選集、和歌山、2004(http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/seika/seikasen16/h1602/h160214.pdf

13)和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所:「紀州うめどり」および「紀州うめたまご」の特性調査.平成17年度試験研究成果選集、和歌山、2005(http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/

14)和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所:ブロイラーに対する脱塩濃縮梅酢BX70の効果.養鶏研究所ニュース(機関誌「紅冠」より)第72号、和歌山、2006.1(http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/news/005/koukan72-1.htm

15)和歌山県農林水産総合技術センター畜産試験場養鶏研究所:紀州うめどり、紀州うめたまご分析試験.養鶏研究所ニュース(機関誌「紅冠」より)第73号、和歌山、2006.8(http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/news/005/koukan73.htm

16)和歌山県みなべ町(http://www.town.minabe.lg.jp/index.html

17)AGARA紀伊民報:梅酢で飼育「梅どり・梅たまご」出荷 みなべ町の会社など共同開発.2005.6.26付け記事(http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=3651

18)AGARA紀伊民報:梅酢入りの飲料 県内養鶏2割に使用 県、高級感で「看板」に.2006.4.4付け記事(http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=5543


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