話題

食育と地産地消への取り組み
〜学校給食の現場から〜

社団法人 全国学校栄養士協議会
理事 若林 美子

食に関する事件・事故への学校現場での対応

 中国製冷凍ギョーザによる有機リン系農薬中毒から始まり、乳製品のメラミン混入、産地偽装、輸入事故米の不正転売など次々に報じられ、学校給食にも多大な影響が及んだ。筆者はさいたま市の小学校に勤務しているが、食に関する事件・事故が発生するたびに、学校には給食で使用されている物資の調査が県、市からきて、それに振り回されるという事態が起きた。

 そのときは、外国産を主に使用していた食品製造業者や一般消費者の国産食材への需要が高まり、全体的に品薄になってしまい、国産食材使用を基本にしている学校給食では、通常使用していた食材の確保が大変難しくなり、価格面にも影響した。その対策として、給食費の値上げが困難な現状では様々な工夫が必要となる。安価とは言え、規格外のものは調理に時間を要し、また廃棄量が増えるので使用せず、通常使用している食材と量と栄養面で遜色(そんしょく)なければ、価格の安い食材に変更する(例えばさやえんどうが高いときは、小松菜と豆ペーストに置き換える)などの工夫で価格高騰を乗り切ってきた。

学校給食に求められるもの

 学校給食は、安全でおいしい給食が大前提で、かつ食教育になり得る給食の提供が求められている。安全の中には、衛生管理面と食材の安定供給があるが、ここでは食材の供給を中心に話を進めたい。

 わが国の食料自給率(カロリーベース)が40%という現状では、輸入食品抜きでは、日本の食生活は成り立たないが、外国産食材への不信感が高まる中、学校では児童の健康を考え国産にこだわりたい。学校給食で使用する食材は、まず市内産、県産、次に国産、それでも対応できない場合にだけ外国産を使用するという考えの基で実施している。

地元農家から提供された小松菜

地場産品の活用

1)農産物類

 児童の食の傾向として、肉類・揚げ物などはよく食べるが、野菜料理の食べ残し率は10%以上である。そこで5年ほど前から、ただ食べさせるだけでなく、食材として使った野菜が誰によって・どこで・どのような方法で作られたものなのかを、掲示物、放送、児童の給食委員会を通じてお知らせし、給食に取り入れるようにした。また、家庭との連携という点では夏休みに親子料理教室を開催し、食材は給食と同様地元産を使用し、「おいしい朝ご飯」「繊維をとろう!」「牛乳をもっと飲もう!」など、テーマを決めて実施し大変好評であった。ちなみに、牛乳はカルシウムに富み、しかも安価であるので、給食には絶対に欠かせない食材であり、もちろん景気低迷を受けて少しでも食費を抑えたい家庭の食卓には必ず登場させてほしい食材である。

 こうした地道な努力が奏功して、朝収穫された野菜が新鮮なうちに食べられるので、素材の味がわかるようになり、食べ残し率は5%までに改善された。

 また、小松菜は地元農家の方が「子ども達に安全な野菜を食べさせたい」という熱い思いから、通常は百貨店で販売する無農薬有機ものを年間を通じて安価で提供している。他にもくわいやなし、ぶどう、米などは年間契約により農家から購入している。そうすることにより、地元農家は安心して作付けができ、士気の向上と活性化にもつながるなど、農家側にとってもメリットがある。

-地元産のくわいを学校給食で提供−

2)農産物の加工品

 県の学校給食会が中心となり、何年も前から次のとおり地場産品の活用に取り組んできている。これらは、県内の給食で積極的に使用されている。
(1)米:学校給食米飯導入促進事業(流通米に補助金が支払われる)が廃止されたのを機に県内産の米を低価格で供給してもらい、米粉パンの開発に早くから取り組み、おいしい米粉パンの開発に成功した。
(2)大豆:県内産の大豆で納豆・豆腐
(3)小麦粉:県内産の小麦粉でうどん・パン

献立て作り

 学校給食は、小学校の給食室で栄養士1名と調理員によって作られ、栄養面はもちろんのこと、アレルギーにも適宜対応している。また、施設面での制約などもあるため、調理方法に工夫を凝らしたりしている。安全と価格と栄養とのバランスを取りながらの献立作りは苦労するが、月に数回は6年生がクラス単位で献立を考え、食への関心を高める取り組みを実践している。また、全国の郷土料理を取り入れることで、総合学習(社会科、理科)にも役立っている。

-栽培方法や伝統料理としてのくわいを紹介した「給食たより」−

地産地消を取り入れた学校給食がもたらす食への関心

 国産素材にこだわると、価格面で苦しくなるだけでなく、高価な加工食品を利用するよりも調理作業に手間がかかるが、なるべく手作りにしたり、米飯の回数を増やすなど、工夫次第である程度解決できる。

 地元の食材を取り入れることは、簡単にできることではないが、取り入れたことによって、児童が住んでいる地域の特産品を知り、伝統食文化を味わい、地域への愛着につながることを願って、安全で安価なおいしい給食の提供をこれからも続けていきたい。

牛乳パックからお道具箱としてファイルを再生

給食の思い出、そして食育への発展

 筆者が勤務している小学校の卒業生である宇宙飛行士の若田光一さんは、自分の少年時代を語った作文にこのように記している。「学校で好きだった科目は、算数と理科、そして一番といえば体育。体を動かすのが大好きだった。でも、学校生活で一番楽しかったのは、給食の時間だった」。子供によって違いはあるが、いつの時代でも、子供たちにとって給食は楽しみの一つであり、また、おいしいものを食べることは、人生の喜びの一つだと、当小学校の柴崎邦夫校長は述べている。

 子どもたちが将来にわたって健康に生活していけるよう、栄養や食事のとり方などについて正しい知識を身につけ、子供たち自らが判断し、食をコントロールしていく「食の自己管理能力」や「望ましい食習慣」を持つことが必要となってきている。その中で、栄養教諭には「食に関する指導と給食管理を一体のもの」として行い、地場産物を活用した給食と食に関する教育を全国学校栄養士協議会との連携の下、推進していくことが求められている。

若林美子(わかばやしよしこ)

1951年埼玉県生まれ、埼玉県育ち、昭和51年埼玉県学校栄養職員として小学校に勤務 現在さいたま市立宮原小学校勤務。(社)全国学校栄養士協議会理事、(財)日本学校保健会理事



 

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