需給解説

豚肉の販売見通し(21年度下期)調査の結果について
〜21年度下期も豚肉の販売量の増加を見込む〜

食肉生産流通部 食肉需給課長 藤野 哲也
課長補佐 小田垣 諭司

 豚枝肉卸売価格(東京・大阪加重平均「省令」規格)は、平成20年9月以降前年同月を下回って推移している。21年8月には、お盆前の12日以降400円を下回る相場展開となり、枝肉卸売価格は8月で397円(前年同月比▲31.2%)、9月で389円(同▲25.9%)、10月で388円(速報値、同▲8.5%)と、昨年前半の中国産ギョーザ事件などによる国産志向の高まりなどから価格が600円を超えていた状況とは大きく異なっている。

 この豚肉卸売価格の下落の背景として、(1)景気悪化による需要の減少、(2)と畜頭数の増加などによる豚肉在庫の増加がその要因として挙げられている。

 今後の豚枝肉卸売価格については、(1)子取用雌豚の頭数が936,700頭(21年2月1日現在)と前年より2.9%増加していること、(2)サーコウイルスワクチンの使用や衛生管理水準の向上などにより、事故率が低減していること、(3)国産品の豚肉推定期末在庫量が、9月末現在で約2万8千トンと依然として高水準であること−などから短期的には低水準で推移することが予想される。

 このような状況を受けて、当機構では畜産業振興事業による豚肉の調整保管を実施しており、全国農業協同組合連合会が10月13日から、日本ハム・ソーセージ工業協同組合が10月23日からそれぞれ調整保管のための買い上げを開始しているところである。

 先月の牛肉に続いて、今月は、豚肉の下期の需給について、量販店、卸売業者、輸入商社へのインタビューやアンケートなどを踏まえて、展望してみたい。

1.豚肉の家計消費…消費量は前年を上回るもののその伸び率は鈍化

 総務省の家計調査報告によると、豚肉の1人当たり購入数量(4〜9月)は、前年同期比101.7%と前年同期をわずかに上回ったが、支出金額では同96.5%と前年同期を下回っている。このため、購入単価で比較すると、100g当たり133円となり、前年同期の140円から7円低下している(表1)。
表1 1人当たり家計消費量

 豚肉の家計消費量は、牛肉や鶏肉の代替需要や内食への回帰などを背景に近年増加傾向にあるものの、その伸び率は鈍化しつつあり、支出金額ベースで見ると4月以降6カ月連続で減少している。

 豚肉以外の食肉である牛肉、鶏肉の購入単価も21年に入って、ほぼ一貫して下落しているが、単価の下落率が大きい順に購入量の伸びが高くなっており、消費者の低価格志向を強く反映している(図1、2)。
図1 1人当たり食肉の家計消費量の推移(対前年増減率)
図2 食肉の家計消費における購入単価の推移(対前年増減率)

2.小売価格は卸売価格の下落を受けて低下傾向

 当機構調べによる豚肉の小売価格の動向については、国産および輸入品ともに、平成21年2月以降、おおむね前年同月を下回って推移している。生産量の増加などによる卸売価格の低下を反映して国産品の小売価格の引き下げが行われているが、同様に輸入品のロースも価格を下げている(図3)。

図3 豚肉小売価格の推移(対前年増減率)

3.POSに見る国産豚肉の販売比率…国産の割合が増加

 農林水産省による豚肉の消費構成割合を見ると、加工仕向が減少する一方で家計消費に占める割合が増加しており、20年は45%と5年前の40%に比べて5ポイント増加している。これは、主に加工向けとなる冷凍品の豚肉輸入量が減少しているためであるが、その一方でテーブルミート用の冷蔵品の豚肉輸入量は増加している。

 そこで、好調に推移している豚肉の家計消費における国産品と輸入品の割合を量販店POS調査(当機構調べ)から見てみたい。 POS調査は、16年度に店舗数を変更したため、現在のデータとの連続性はないものの、12年から15年までの4年間平均の月別国産販売比率を見ると、1月に84.5%とピークを迎えた後、下降を始め6月の77.4%を底に再び上昇を始めている(図4)。

 豚肉の生産量は、夏場に向けて減少し秋口以降増加するという季節変動を繰り返している。この結果、豚枝肉価格が供給の減少する夏場にかけて上昇し、秋口に低下に転じるため、国産品の価格が高い夏場にかけて輸入品、特に冷蔵品がテーブルミートとして仕向けられやすくなっていることがわかる。

 なお、19年度は過去4年間と平均して夏場の国産豚肉のシェアが高くなっているが、これは、主に輸入牛肉の卸売価格上昇による牛肉から豚肉への代替需要が増加したものであり、国産のみならず輸入豚肉の需要も増加していた。また、20年度は枝肉卸売価格が、年前半に高値で推移したことに加え、冷蔵品の輸入量の増加から輸入品が値下がりしたことが影響したものと考えられる。21年に入り国産品、輸入品とも値下がり傾向となっているが、より安い輸入品へのシフトが前半まで続いていた。

 しかしながら、8月以降は豚肉卸売価格の下落の影響から国産のシェアは増加に転じており、10月には76.6%にまで急増しており、消費者の低価格志向が根強い一方、国産品志向も依然として高いことがうかがえる。

図4 月別国産シェアの推移(POS)

4.量販店の豚肉の販売見通し−「増加」の割合が最も多いものの、その割合は減少

 平成21年度下期(10〜3月)の食肉の販売動向見通しなどについて、量販店、専門店および卸売業者に対して9月上旬にアンケート調査した。

 量販店の回答を見ると、食肉の取扱割合(重量ベース)は、豚肉43%に対して、牛肉28%、鶏肉28%となっている。この割合を前回調査(21年2月)と比べると、鶏肉が減少する一方で、牛肉と豚肉が増加している(表2)。
表2 量販店での最近の食肉の取扱割合

 また、最近の食肉の売り場面積割合の平均は、牛肉を「1」とした場合、豚肉は「1.4」、鶏肉は「0.8」となっており、豚肉の売り場面積が最も大きく、それぞれの販売数量を反映した結果と一致している(表3)。
表3 量販店での最近の売場面積割合 (牛肉を「1」とした場合)

 しかし、最近の売り場面積を前年同期と比較すると、豚肉と鶏肉の売り場面積が「増加」とした者はそれぞれ26%、22%となった。消費者の低価格志向により、安価な豚肉や鶏肉への需要を如実に示す結果となっている(表4)。

 また、豚肉の売り場面積が「増加」したと回答した者に増加面積に対するそれぞれの品種別シェアを聞いたところ、国産が86%を占めた。一方で、売り場面積が減少した品種のシェアは、輸入品で75%となっている(表5)。最近の販促の回数も、国産で増加したという回答が56%と最も高く、輸入では変わらないという回答が54%と最も多かった(表6)。これらの結果から、量販店では、国産の販売により力点を置いたものと思われる。
表4 売場面積割合の前年同時期との比較 (量販店)
表5 前年同期と比較して売場面積が増加、減少した品種(量販店)
表6 前年同期と比較した最近の販促回数 (量販店)

 今後の見通しを聞いて見ると、量販店の約4割は、販売の「増加」を見込んでいる一方で、4割弱は「減少」を見込んでいる。21年2月に実施した21年上期の販売見通しと比較すると、「増加」の割合が依然として高いものの28ポイント減少し、「減少」が18ポイント増加し、販売の見通しが相反する結果となった(表7)。
表7 平成21年度下期(10〜3月) の販売見通し(量販店、重量ベース)

 量販店の4割が増加すると見込んでいる豚肉であるが、その増加要因を種類別に見ると、9割が「国産」によるものと見込んでいる(表8)。その豚肉増加の理由について尋ねると、「価格の低下」が56%、「販促機会を増やす」が16%となっており、豚肉相場の値下がりから販売量が増加するものと見込んでいる者が多い。

 一方、豚肉の減少を見込む者の7割が輸入品の減少を挙げている。その減少の理由としては、設問の中では「景気悪化による販売不振」が最も多かった。
表8 豚肉の品種別の増減割合(量販店)

5.食肉専門店での見通し−同程度を見込む

 専門店の回答を見ると、食肉の取扱割合(重量ベース)は、豚肉42%に対して、牛肉43%、鶏肉15%となっている(表9)。これを地域別に見ると、東日本では豚肉の取扱が49%と最も多いのに対し、西日本では牛肉の割合が52%となっており、豚肉の取扱割合が37%と4割を切る結果となっている。また、品種別の取扱割合を見ると、豚肉は国産がほぼ9割のシェアを占めており、地域による差は見られなかった。一方、牛肉については、和牛が半数以上を占めていることは同様なものの、西日本では乳オスの取扱割合が東日本に比べて高くなっており、多くの種類の牛肉が消費されているのが特徴となっている(表10)。

 専門店における上期の豚肉の販売状況を見ると、20年度下期と比べて「減少」と回答している専門店は、全国で38%となっているが、西日本では28%と「減少」と回答する比率が低かった。一方、主要消費地域である東日本では5割に上っている。なお、「減少」と回答した専門店に、その理由を尋ねたところ、牛肉、豚肉ともに「景気悪化」を挙げている者が88%と最も多かった(表11)。
表9 最近の食肉の取扱割合(専門店、重量ベース)
表10 最近の品種別の取扱割合(専門店)
表11 上期と前期を比較しての販売状況(専門店)

 専門店の21年度下期(10〜3月)の販売見通しでは、豚肉は51%が「同程度」としており「増加」は18%にとどまり、量販店、卸売業者より厳しい見通し結果となった。ただし、「増加」するとした者の全員が国産が増加すると回答している(表12)。

 一方、「減少」と見込む専門店に、その理由を尋ねたところ、上期の回答と同様に「景気悪化」とした割合が8割と最も高かった。
表12 21年度下期(10〜3月)の販売見通し(専門店)

6.卸売業者での見通し−国産の増加が5割超

 卸売業者へのアンケート結果においても、国産豚肉の「増加」を見込んでいる者が多い。輸入品は、チルド、フローズンともに「同程度」の割合が多いが、チルドでは3割の者が「減少」を見込んでいるという結果となった(表13)。 国産豚肉の販売増加を見込む者にその理由を尋ねたところ、「卸売価格の低下」が最も多く、次いで「お客様の要望」となっており、豚肉相場の低下と消費者の低価格志向が相まって需要が拡大すると考えているものと思われる。
表13 卸売業者の平成21年度下期 (10〜3月)の販売見通し

 豚肉の販売見通しを部位別に聞いてみたところ、国産について「増加」の回答が多かったのは、かた、かたロース、もも、切り落としであった。一方、高級部位のロース、ヒレの「減少」を見込む者の割合が高く、それぞれ43%、38%という結果となった。

 また、輸入チルドおよび輸入フローズンについては、軒並み「同程度」の割合が高くなっているが、輸入品においてもロース、ヒレについては他の部位と比べて比較的「減少」を見込む者の割合が高い結果となっている(表14)。
表14 卸売業者の平成21年度下期(10〜3月) の部位別販売見通し

7.輸入から国産への切り替え−枝肉価格が420円で7割を占める

 輸入チルド豚肉と比較して国産豚肉が扱いやすくなる枝肉価格の目安を調査したところ、表15のとおり量販店、卸売業者ともにキログラム当たり420円という回答が最も多く、同価格では7割以上の者が扱いやすいとの結果となっている。

 昨年9月の調査結果では量販店、卸売業者ともに枝肉価格がキログラム当たり480円という回答が半数以上を占めていたが、現在は低価格志向や円高、国内豚価の値下がりなどの影響から60円近く下落したことになる。

 生産者側にとって見ると、この価格水準は非常に厳しいものと言わざるを得ないものの、現在の400円という卸売価格の中でいえば、国産豚肉の販売機会は大きく増えるものと考えられる。
表15 輸入チルドと比べて扱いやすい 国産価格(量販店)

8.下期の豚肉生産量はわずかに増加

 豚肉のと畜頭数は、平成21年3月以降前年同月を上回って推移している。21年2月1日現在の母豚頭数が93万7千頭(102.9%)と増加したことやサーコウイルスワクチンの効果などから、21年度上期は前年同期比6.4%とかなりの程度増加している。

 今後のと畜頭数の動向について、肉豚生産出荷予測(農林水産省食肉鶏卵課 平成21年10月30日公表)によると、前年同期と比べて10〜12月は101%、22年1〜3月は101%となっている。また、下期の各月の出荷予測頭数を合計して前年同期と比較すると100.8%とわずかに上回るものと予測されている(表16)
表16 豚のと畜頭数と出荷予測

9.輸入は減少見込み

 豚肉の輸入量は、チルドを中心に増加しており、20年度は全体で81万5千トンと前年度を8.0%上回った。中でもチルド豚肉は、前年度を14.5%と大きく上回った。

 一方、21年度に入って在庫量の増加や国内生産量の増加により輸入は前年同月を下回って推移し、21年度上期で見ると前年同期比17.5%減と大幅に減少した。冷蔵品が116千トン(前年同期比▲16.2%)冷凍品が235千トン(同▲18.1%)とそれぞれ減少し、これまで、量販店での販促の主体となっているチルドも減少に転じている。

 国内外の需要の減少などによる輸出国の現地価格安に加えて、円高に推移している為替相場など輸入環境は整っているものの、日本国内における加工用などを含めた豚肉全体の需要がわずかに減少していることがその要因と考えられる。

 それでは、今後の輸入はどのように見込まれるのであろうか。輸入商社からの聞き取りなどから予測すると、下期のチルド輸入量は、115〜129千トン(前年同期比▲9.6%程度)になるものと見込まれている。昨年度は月20千トンの大台を割り込むことがなかった冷蔵品の輸入量であるが、21年度の上期で20千トンを上回ったのは、4月と最需要期の7月のみとなっている。下期については、今後の国産豚肉の価格動向に大きく左右されるものの、月間平均で見ると20千トン程度は輸入されると見込まれる。輸入商社からは「米国の現地価格が弱含みで推移することに加え、米国内での需要も弱いことから為替相場次第であるが、一定量が輸入されるのではないか」、「国産の卸売価格は低下しているが、輸入品も値下がりが続いており、量販店の輸入豚肉の特売需要はそれほど減らない」などとの意見が聞かれた(表17)。
表17 豚肉の輸入状況

 また、加工・業務用のフローズンは、輸入先である北米、ヨーロッパともに現地価格が弱含みにあるものの、日本国内の需要減少による在庫の積み増しなどから減少が見込まれる。同様に下期の冷凍品の輸入量を推定すると、199〜210千トンで前年同期から大幅に減少するものと見込まれる。

 冷凍豚肉の輸入量の3割弱を占めるデンマーク産は、生産量の減少などから大きく減少するものと見込まれているが、「原産地価格は弱含みで推移するものと見込まれており、さらにバラの主要仕向先の一つである韓国への輸入も減少していることから、日本への輸出に期待している」(輸入商社)などの声もあった。

10.まとめ

 量販店、専門店、卸売業者の21年度下期の販売見通しでは、豚肉の「増加」を見込んでいる割合は、それぞれ42%、18%、53%となり、量販店、卸売業者の前回調査より「増加」と回答する割合が減少したものの、引き続き消費の拡大が期待される。

 しかしながら、消費拡大を見込む者の多くが、価格の低下をその要因として挙げるとともに、高級部位であるロースやヒレの売れ行きが減少するとの卸売業者の見方もある。

 このような中、国産品の需要の増加が期待できる一方で、国産品が扱いやすい価格としては、枝肉キログラム当たり420円という回答が最も多く、消費者の低価格志向がさらに継続することを反映した結果となっているものと考えられる。

 国産品と競合する冷蔵品の輸入量は、かなり大きく増加した前年度よりは減少するものの、今後とも安定的に輸入されるとともに、21年度下期の国内生産量もわずかに増加することが見込まれている。

 現在、豚肉の卸売価格が大幅に下落したことを受け、調整保管事業が実施されている。この事業の目的は、流通する量の一部を保管・隔離し、価格の回復を図るものであり、最終的には、需要に見合った生産への対応が必要になろう。

 一方、豚肉の消費拡大を見込む者の多くが価格の低下をその要因としていて、価格の回復が消費の減退につながらないような対策を、業界を挙げて取り組むことが重要となってくる。

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