海外トピックス


豚価低迷に苦しむ養豚農家に対して、カナダ政府、米国政府が支援策を発表


カナダ政府、養豚産業の再構築に対する支援策を発表

 カナダ連邦政府は8月15日、飼料価格の上昇などによる生産コストの増加と肉豚価格の低迷に苦しむ養豚経営に対する支援策を発表した。

 カナダの養豚経営は、2007年8月より繁殖豚とう汰の取り組みを通じ需給改善に努めてきたところであるが、昨年来からの景気悪化、今春の新型インフルエンザ(H1N1)の発生による豚価低迷、米国の原産地表示などにより米国への生体輸出が大幅に減少したことなどから、「過去60年間で最悪の経営環境」(養豚生産者団体(カナダ豚肉協議会(CPC))に陥っている。  

 このような中、CPCは7月6日、国内の豚肉消費拡大などを掲げた5年間の戦略的移行計画を策定し、政府に対してローンなどを含む支援を要請していたところであり、今回の政府の決定はその要請を踏まえた内容となっている。

新たな支援策は3つの柱から構成


 今回の対策は以下の3つの柱で構成されている。

 1. 国際豚肉マーケティング基金の創設(1700万カナダドル(14億6千万円:1カナダドル=86円))。この基金は新たな市場の開拓やH1N1で失った市場を取り戻すための資金として活用。

 2. 政府の信用保証を備えた長期ローンの創設。金融機関からの融資であり、金利は市場金利。また、健全な経営計画を有する生産者は、飼料費、人件費に充当可能な短期資金を借りることが可能。

 3. 養豚農家経営転換計画の創設(7500万カナダドル(64億5千万円))。最低3年間養豚業を行わない生産者に対して経営規模に応じた金額を支払う。

 なお、上記対策の細部については、カナダ政府、養豚産業および金融機関との間で調整が行われているところである。

 また、今回の決定に際して、カナダ農業・食料省のゲーリー・リッツ農相は、「我々はカナダの養豚産業は再び収益性の高い産業になると考えているが、そのためには、ぜい肉を落とした競争力の高い産業にしなければならない。存続可能と言い難い一部の生産者に対しては経営転換を促し、生産量を削減する必要がある。また、資金の借り入れを必要としている一部の生産者に対しては、政府の保証を備えた資金を提供し、その経営再建を支援する。また、我々は、新たな市場を開拓し、カナダ養豚産業が長期間にわたり成功するよう、マーケティングのための予算を講じる。」とし、今回の対策が単なる一次的な救済措置ではなく、生産構造の再構築や新規需要の開拓など、今後のカナダ養豚産業の発展に資する対策であることを強調している。

米国の養豚生産者団体の動きが活発化


 カナダと同様に、米国の養豚産業も景気悪化に伴う豚肉価格の低迷、飼料価格の上昇などによる生産コストの増加に苦しんでいる。

 CPCがカナダ政府に支援策の要請を行った際、米国の養豚生産者団体(全米豚肉生産者協議会(NPPC))は、「CPCが要請している対策は長期ローンとしているが、実際は政府の買い支えであり、これによりカナダの生産量が維持されれば、米国の養豚産業は致命的な打撃を受ける」と批判を展開した。これに対して、CPCは、「そもそもカナダの子豚価格の低下は、米国の原産地表示の義務化により米国への輸出量が減少したことが大きな要因である。また、カナダは2007年以降約12%の母豚を削減しているが、米国の母豚の削減はこの2年間程度で4%にも満たない。大変失望している」とコメントしている。

 このような中、NPPCは8月17日、米国農務省(USDA)に対して、豚肉の買い上げで1億5千万ドル(141億円:1ドル=94円)(うち2009年度予算で5千万ドル(47億円))、H1N1関連で豚のサーベイランスやワクチン開発などで1億ドルを内容とする総額2億5千万ドル(235億円)の対策を要請する書簡をUSDAヴィルサック農務長官に発出した。NPPCはその中で、「2007年9月以降、出荷豚1頭当たり21ドル以上の損失を出している」とその窮状を訴えている。この要請などを受け、USDAは9月3日、2009年度予算で3千万ドル(28億円)を使って豚肉を買い上げることを公表した。ヴィルサック農務長官は公表の際、「この買い上げは、市場の悪化に苦しんでいる生産者の支援となるものである。また、この対策は、豚価の低下傾向を和らげ市場を安定させるとともに、良質な栄養のある食料をUSDAの栄養プログラム対象者に提供するものである。」と発言し、今回の対策が生産者支援と食料援助の二つの要素を持つことを強調している。なお、今回の対策は2009年度予算を活用したものであり、総額2億5千万ドルの要請のうち、5千万ドルの豚肉買い上げに対応しているに過ぎない。2009年10月から始まる2010年度予算を踏まえて、USDAがどのような対策を打ち出すのか、今後の動きが注目される。

元のページに戻る