需給動向 海外

◆中国の畜産物需給◆

相次ぐ食品汚染事件の影響で輸入乳製品への依存度が高まる


1.2011年の牛乳乳製品需給見通し

 2011年の生乳生産量は前年比2.6%増の3290万トンと増加する見込みである。この理由として米国農務省(USDA)は、メラミン混入事件を発端とする消費の減退により需要は減少するものの、高値で推移する生乳価格が生産者の生産意欲を刺激するため、乳牛飼養頭数が同2.9%増の805万頭に達するためとしている。月別では温暖な気候となる4月から生乳生産量が増加する見通しであるが、主産地の内モンゴル自治州における砂嵐の発生と不安定な社会情勢が生乳生産の低下に影響するとの懸念もある。

表13 中国の生乳需給状況
(単位:千頭、千トン)
資料:USDA
表14 中国の乳製品需給状況
(単位:千トン)
資料:USDA
  注:乳製品は、粉乳類、ホエイ、バター、チーズの4種

2.最近の需給状況

 中国では乳製品のタンパク質含有量を多く見せるため、2008年のメラミン混入事件、2011年の皮革タンパク粉混入事件(注)など人為的事件が相次いで発覚し、牛乳乳製品の安全性が幾度も脅かされてきた。4月に入ってからも牛乳の食中毒事件が2件発生したため、消費者の信頼は失墜し、国産乳製品の消費減退は避けられないとの見通しである。

 こうした相次ぐ食品汚染事件を受けて、国家品質監督検査検疫総局は2011年3月、全乳製品メーカー1176社を対象に生産ライセンスの更新制度を導入した。これにより、同局が定めた品質管理基準を満たさないメーカーは全てライセンスを取り消され、生産を停止しなければならない。3月末時点で45%以上の小規模メーカーが営業を停止したものの、更新が完了した大規模メーカーが従来からシェアの93%を占めていたため、生産量の減少は一定量にとどまり需給に影響は出ていないとされている。

 このような政府による規制強化は、食品の安全性確保が主目的であるが、乳業業界の再編を促す効果もあり、メーカー側がこれを契機に品質を改善することで安定した供給基盤を確立できるものとされている。

機構注:皮革製品や動物の体毛を溶かして粉状にしたもので、メラミン同様、乳製品のタンパク質含有量を多く見せることができる。加水分解することで検出がメラミンより困難になる。

図13 牛乳乳製品の月別生産量の推移
資料:中国国家統計局

3.生乳価格の推移

 4月の生乳の生産者販売価格は1キログラム当たり3.20元(41.02円、1元=12.82円6月末TTSレート)となり、前月から同0.01元(0.13円)下落した。乳価は2009年9月から19カ月連続で上昇しているが、2011年に入って上昇基調は収まり、ほぼ横ばいに推移している。

図14 生乳の生産者販売価格の推移
資料:中国国家統計局

 このように生乳価格が昨年から大幅に上昇しているのは、飼料価格や労働費、資材費などの生産コストが上昇しているためであり、実際の生産者の利益は薄いものとなっている。特に大手乳業メーカーの支払いは生産コストの上昇を十分に反映していないといわれている。その結果、生産者は少しでも収益を上げるため低品質な飼料を給与し、乳質の向上が図れないといった状況に陥っている。

4.乳製品の貿易

 乳製品の輸入量は脱脂粉乳および全脂粉乳が毎年顕著に増加しており、2011年1〜5月期では、前年を大幅に上回る伸びとなっている。こうした乳製品の輸入増加を受けて、政府は2011年2月、粉乳類、ホエイ、チーズ、バターの関税を10%(チーズのみ12%)から15%に引き上げた。ただしニュージーランドとは2008年にFTAを締結したため、同国からの輸入品の関税は段階的に廃止されており、2010年のシェアは脱脂粉乳と全脂粉乳でそれぞれ55%、88%と輸入国の中で最大となっている。

 政府内では、輸入乳児用調製粉乳の需要の高まりから、関税の引き上げには否定的な考えもあり引き上げた後も議論は続いている。現地報道によれば、乳児用調製粉乳の輸入品のシェアは2008年に40%であったものが、2010年には50%近くに上昇したとされている。

 この背景には、前述の食品事件のため、乳児用調製粉乳を中心に国産より輸入品が優先的に購入されていることがある。2011年4月は乳製品の国際市場が上昇した中で輸入が増加したため、輸入乳児用調製粉乳の小売価格は上昇し、国産品も一部の地域で便乗値上げされた。それにより富裕層の集まる沿岸部は輸入品を、内陸部では国産を購入するといった構図になった。

 チーズとバターの輸入は長期的には上昇すると予想される。チーズ自体、一般的な中国の食卓には浸透していないが、富裕層においては食の欧米化が進み消費量は増加している。また、バターは製菓・製パン部門で需要が増加しており、高品質な輸入製品の依存度が高まっている。

 一方、輸出量は粉乳類がメラミン混入事件後に90%減少し、ホエイも減少している。国際的な中国産乳製品の信頼失墜と年々増加する国内需要により、今後もそれらの輸出はそれほど伸びない見通しである。

表15 脱脂粉乳の国別輸入量
(単位:トン、%)
資料:GTI社 “World Trade Atlas”
  注:HSコード040210
表16 全脂粉乳の国別輸入量
(単位:トン、%)
資料:GTI社 “World Trade Atlas”
  注:HSコード040221,29
表17 バターの国別輸入量
(単位:トン、%)
資料:GTI社 “World Trade Atlas”
  注:HSコード040510
表18 ホエイの国別輸入量
(単位:トン、%)
資料:GTI社 “World Trade Atlas”
  注:HSコード040410
図15 乳製品の月別輸入量

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