需給動向 海外

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脱脂粉乳の介入買入在庫、全量を生活困窮者向けへ


◇絵でみる需給動向◇


約5万4千トンの介入買入在庫、来年の食料支援制度へ仕向けられる

 欧州委員会は6月11日、保有する脱脂粉乳の介入買入在庫約54,000トンについて、全量を2012年分の生活困窮者向けに仕向けると公表した。この結果、当局が抱える介入在庫は実質的にゼロとなる。

 同在庫について欧州委員会は、域内の脱脂粉乳卸売価格が高水準で推移する中、さらなる価格上昇を抑制するため、一定水準の保有が必要と判断したとみられ、本年3月を最後に放出を見送っていた。

 しかし、来年の生活困窮者を対象とする食料支援制度の予算額が大幅に削減されること(後述)、また、現在の域内需給状況ではさらなる介入買入が行われる見込みはないことを踏まえ、同在庫を来年分の食料支援用に回すことを決定したとみられる。

 1987年に創設された同支援制度は、EUの農産物に係る介入買入在庫を有効活用し、生活困窮者に食料を無料で配布する制度である。制度発足当初は、配布される食料は介入買入在庫のみとされていたが、介入買入在庫が常に存在する訳ではないため、1990年代半ばより、在庫が活用できない場合は同種の農産物を市場から調達することも可能とされた。その後、2005年以降は活用できる介入買入在庫(牛肉、脱脂粉乳、バター、砂糖、コメ、穀物)が急減したことなどから、欧州委員会は2008年、必要に応じて常時市場から農産物の調達が可能となるよう制度改正の提案を行った。(注)

 しかし、欧州理事会は同提案に係る同意手続きを留保し、制度改正が完了していないことから、介入買入在庫の使用が優先される状況にある。このことから、今回の生活困窮者向け全量処分につながったとみられる。

 また、欧州委員会は6月20日、食料支援制度に係る2012年の基本計画を公表した。同計画は例年ならば10月頃に策定されている。今回の異例とも考えられる早期策定は、予算が4億8千万ユーロ(約566億4千万円。1ユーロ=118円)から1億1300万ユーロ(約133億3千万円)へと大幅に削減される中、脱脂粉乳在庫の全量仕向け決定という情報だけではなく、具体的な食料支援の全体像を示すことで、加盟国および支援実施機関に十分な準備期間を与えることを図っているとみられる。

(注)海外情報「欧州委、生活困窮者への食料支援制度の改正案を採択」(2010年9月28日)参照
http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000234.html

6月の乳製品卸売価格、バターは再び記録的水準へ

 EU域内における6月のバター卸売価格は、域内の生乳生産量が春先のピークを迎える中、前月比7.1%高となる100キログラム当たり424ユーロ(約50,032円)となった。同価格は、昨年12月から本年3月にかけて同60〜70ユーロ程度上昇していたものの、4月からは10ユーロ程度下落しており、夏場を迎えるにあたって価格動向が注目されていた。

 しかしながら、6月の同価格は介入価格の90%高という水準まで再上昇し、2007年秋以来の記録的なものとなっている。これは、世界的な乳脂肪製品のひっ迫傾向に加え、2011年における域内バター生産量が域内需要を辛うじて満たす程度にとどまるとみられており、バターの最需要期である冬場において需給がさらにひっ迫するとの観点から上昇傾向に転じたと考えられる。(図11)

図11 バターの卸売価格の推移
資料:ZMB
  注:オランダのブランドバターを指標とした。

 一方、6月の脱脂粉乳卸売価格は、前月比2.1%安となる同235ユーロ(約27,730円)と2カ月連続して低下したものの、依然として介入価格の40%高という水準となっている。

 脱脂粉乳の場合、バターと同様昨年冬から本年3月にかけて上昇していたが、4月に入ると下落に転じ、6月に入っても上昇気配を見せていない。脱脂粉乳価格がバター価格と異なるトレンドを示しているのは、製品ごとに域内外の需要に強弱があることに加え、脱脂粉乳の介入買入在庫が価格抑止力として機能していたことが要因の一つなのではないかと思われる。しかしながら、前述のとおり、同在庫については全量が生活困窮者向けに仕向けられることが決定されたため、今後の価格高騰が懸念されている。(図12)

図12 脱脂粉乳の卸売価格の推移
資料:ZMB
  注:ドイツの脱脂粉乳(食品グレード)を指標とした。

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