話題

パルシステム100万人の食づくり運動
産直における復興再生にむけた取り組み

パルシステム生活協同組合連合会 商品本部
産直推進部長 高橋宏通


 パルシステム生活協同組合連合会(以下パルシステム)は9都県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・群馬・福島・山梨・静岡)にまたがる9地域生協を会員とする事業連合です。「組合員の暮らし課題解決」や「組合員の暮らしの生涯をサポート」という事業コンセプトに基づいて、組織拡大を続け、会員組合員世帯総数は100万世帯に上り、農畜産物は青果200億円、食肉160億円、鶏卵33億円、牛乳38億円を産直で供給しています。パルシステムは、店舗事業展開をせず個人対応型無店舗事業に特化しています。事業の柱に「産直と環境」を据えて、組合員参加と産地・生産者との連携で「地域循環型農業、日本型畜産の構築」を積極的に推進しています。

 3月11日に発生した東日本大震災はパルシステムの組合員および産直産地にも大きな被害をもたらしました。パルシステムのエリアでは福島、茨城、千葉も含まれとりわけパルシステム福島では1つのセンターが被災し多くの組合員が避難生活を余儀なくされました。震災以降、ライフラインや物流網がストップする中、食料品を中心とする物資の供給を最優先に取り組んできました。被災地には優先的にお届けし、無料で食料や物資の提供を実施してきました。多くの量販店や小売で店頭から物資が消える中、パルシステムの宅配は一部欠品はあったものの、「卵や牛乳、お肉などが届いて助かった」との声を多数いただきました。

大震災がもたらした畜産への影響

 畜産現場での震災の影響は大きく以下の4つに分けそれぞれ対応しています。ここでは主に(1)〜(3)について紹介します。

 (1)震災や津波などによる、生産現場、生産基盤、生産者などの被災の影響

 (2)停電や断水などのライフラインの喪失と交通網の遮断、燃料の不足による影響

 (3)飼料などの生産資材の枯渇による影響

 (4)原発事故による放射能汚染、風評による被害

(1)震災や津波などによる、生産現場、生産基盤、生産者などの被災の対策について

 パルシステムの産地の牧場、鶏舎、肥育施設は、産地生産者の財産ですが、パルシステムの組合員にとっても安全な畜産物を供給してくれる財産として受け止め、直接的支援、被災地の商品を利用することで復興につながる支援を実施しています。震災直後会員生協、組合員からは3億円を超える義援金が集まりました。また、パルシステムの全国の産直産地からも1千万円近くの義援金が届きました。パルシステムの産直産地を復興させることで、その地域一体が元気になる取り組みが必要と考え、産地応援キャンペーンにより売り上げの一部を復興基金に位置づけ、産地の復興に役立てていただきます。

 パルシステムの産直産地の中でもかなり深刻な被害を受けたのがパルシステムの卵の産地である花兄園(福島県、宮城県)でした。花兄園は福島県大熊農場をパルシステムの指定農場とし、開放鶏舎でNONGMOやPHF(ポストハーベストフリー)の飼料にこだわり、健康で、安全な卵を毎日生産出荷していただきました。自給飼料にこだわったパルシステムで好評な米たまごも出荷していただきました。しかし、花兄園の鶏舎に巨大地震と放射能被害が襲いました。鶏舎では約20名の生産者の方が働いていました。その数名の方が、家など流されましたが、原発事故のために確認のすべもない状況です。鶏舎には約20万羽の鶏を飼っていましたが、飼料も水も与えることができず、ほとんど餓死し全滅しました。「今回の地震と原発事故で一瞬にして約20万羽以上の鶏を失った。宮城県や岩手県の生き残った鶏舎も、その後の停電や飼料不足でかなりの鶏が餓死してしまった。」「パルシステム以外にも出荷していたが、地元の売り掛け金の大半は回収不能となってしまった。」と生産者が報告してくれました。花兄園の震災の被害は8千万から一億円にのぼると予想されます。出荷しようにも卵を運ぶトレーラーやコンテナ、容器もすべて失ってしまいました。パルシステムは花兄園の再興に全面的に支援しました。物流手段がなければパルシステムでの引き取りも検討しました。現地で仕事を失った水産物専門の運送会社に、パルシステムの卵の出荷輸送を依頼したことを契機に、地元企業に新たな仕事が入ることとなりました。

 このように産地の復興は、パルシステムの産直産地のみならず、現地の関連企業にも雇用の創出などに貢献できました。現地では壊滅的な被害の中で、一歩ずつ復興にむけて努力されています。卵の産直が動き出すと関連して、物流、飼料、包材などあらたな産業も息づいてきます。もちろん直接的な義援金もお支払いしていますが、被災産地の生産物をパルシステムの組合員が購入することが第二の復興になると確信しました。

(2)停電や断水などのライフラインの喪失と交通網の遮断、燃料の不足による影響について

 畜産、酪農産地全体に大きな影響があり、パルシステムでは産地同士の連携・助け合いでこの危機を最小限に食い止めることができました。東北からの交通手段がなくなった産地に代わり、近郊の産地が応援出荷を実施しました。新潟県の畜産産地が燃料を東北に提供するなど、ともするとライバル関係になりがちな産地同士の連帯により乗り越えることができました。

(3)飼料などの生産資材の枯渇による影響について

 パルシステムでは、より安全な畜産物を生産するための独自の飼養基準などを産地と実施していましたが、震災被害のため供給を優先する基準緩和措置を実施しました。酪農ではHTST牛乳にこだわってお届けしていましたが、UHT牛乳を認めました。鶏卵や養鶏ではNONGMO飼料、PHF飼料にこだわって生産していましたが、それ以外の飼料も容認し、まず、産地で家畜が飼育できること優先に取り組みました。これは事前に利用している組合員に告知し消費者の理解をいただいた上で実施しました。

日本型畜産・自給飼料が産地を救った

 東日本を中心とする畜産産地では、施設の被害よりも飼料不足が深刻でした。また、パルシステムの飼料の大半を供給している飼料工場(八戸)が津波により被災し壊滅的な被害を受けました。そこで産地と提携しNONGMO飼料、PHF飼料や抗生物質などの薬剤を減らした飼料を製造していただきました。秋田県のポークランドグループでは、飼料の備蓄がなく豚の大半が餓死する危機に直面しました。3日分の飼料を1週間は持たせようと給与量を3分の1に減らし、豚舎も床暖房が使えず、上からの電熱ヒーターのみでしのぎました。しかし、飼料が少ないので豚の体からの発熱も少なく、体のできていない若い母豚には流産が多発し、通常子豚は1.5kg前後で生まれますが1kgに満たず、母乳を飲めず死んだ子豚もいました。また飼料が少ないと一気に飼料に群がり、強い豚だけが食べてしまいます。この状況を救ったのがパルシステムと産地で進めてきた日本型畜産と自給飼料の取り組みです。

 日本型畜産とは、「食料自給」「環境保全」「食の安全」「食の豊かさ」を実現するために、国内の生産者と提携して、持続可能な畜産モデルを推進することで、以下の3点を実行しています。

①地域の資源循環に配慮し、国産自給飼料の活用を進めます。

②動物の生きる環境に配慮し、薬剤に頼らず健康に育てます。

③「食」と「農」をつなぎ、「いのち」と「環境」を守ります。

 自給飼料の飼料用米については、昨年度から飼料の産直化を目指し、地元の飼料用米農家から直接生産農場に搬入する仕組み作りを手がけていました。2011年度に向け牧場内の飼料用米の保管、調整施設を設立し実験を開始したところです。この飼料用米は2011年度秋から、米豚として販売するためのものでしたが、備蓄の飼料用米を給与することで豚の飢えをしのぎました。さらにおがくずや豚のふん尿を発酵させた敷料をしきつめた「バイオベット豚舎」では、飢餓に強く、飼料を減らしても立ち直りが早く、よく消化してふんの状態が良いことが明らかになりました。

 震災後の飼料不足という過酷な状況の中、バイオベットと自給飼料で、豚は体調を崩さずに育ちました。もしこの取り組みがなかったら、豚の大半が餓死しひいては、300人の従業員が職を失うことになりかねない事態でした。

 パルシステムでは、改めて日本型畜産の取り組みをひろめ、原発事故を教訓に、自家発電の整備(酪農)やふん尿のメタン発酵による発電、暖房など原発にたよらない自立型の畜産を産地とともに推進していくことが重要と考えています。

略歴 高橋宏通 (たかはし ひろみち)

1960 年東京都生まれ 

1990 茨城労生協入協後、首都圏コープ事業連合(現パルシステム)移籍

1995 株式会社ジーピーエス移籍

2002 事業部部長 

2006 取締役事業本部長 

2008 常務取締役

2010 パルシステム生活協同組合連合会移籍、現職

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