海外情報  畜産の情報 2012年4月号

2011年中国の豚肉価格高騰の背景 及び飼料の生産流通実態

調査情報部長 岩波 道生  調査情報部 平石 康久、植田 彩


  

【要約】

●2011年の価格高騰は、インフレが起こりやすい社会経済環境が継続していることに加え、短期的にはピッグサイクルの上昇時期および飼料価格等の生産コスト上昇によって引き起こされた。

●中国の養豚は零細な農家による出荷が半分以上を占める一方、年間出荷頭数数万頭の大規模経営が出現している。当面の間は、零細農家の参入や退出による価格変動は継続する見通し。大規模養豚経営も、労働力の確保やふん尿処理などの問題を抱えている。

●豚肉は生鮮での消費が引き続き好まれ、消費地近くまで生体での輸送が行われる。流通は中間業者が大きな役割を果たしているが、コールドチェーンの整備は進んでいない。ハムやソーセージなどの製品、スーパーマーケットの冷蔵豚肉などの消費が大きく拡大するには、時間がかかる。

●養豚の飼料原料となるとうもろこしは、東北部だけでなく、西北部(陝西省、甘粛省、新疆ウイグル自治区)から多様なルートを経由して南部の養豚地帯に輸送されている。輸送コストは目安としてとうもろこし価格の1割。

●政府は価格高騰に対応し生産刺激的な政策を打ち出すとともに、生産者を大規模化することによって、供給の安定を図りたい考え。ただし、ピッグサイクル下降局面に入り、生産過剰の心配もあり。

T. 2010年豚肉価格の上昇の背景

図1 中国の豚肉卸売価格
資料:中国商務部HP「商務預報」
 注:月の価格は週別価格の単純平均

 豚肉価格の動向は中国政府の強い関心事項である。食品価格の消費者物価指数(CPI)に占める割合は1/3とされ、このうち豚肉が2割程度を占めているといわれる。このため、豚肉価格の上昇がCPIに大きく影響する。

 2007年後半から2008年にかけて、農家の生産意欲の減退や疾病(病原性の高い豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS))のまん延などによる影響で豚肉生産が落ち込み、豚肉価格が高騰し、大きな社会的な問題となった。

 2010年の後半以降も、豚肉価格が上昇し、CPIを大きく引き上げた。2011年の価格水準は2008年の価格高騰時の水準を超えた。

参考 http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000439.html 「中国:2011年の豚肉の価格高騰とその背景」

http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000466.html 「高騰する豚肉市場価格安定に向けた中国政府の対応.」

 2010年後半以降の豚肉価格の上昇には、次のような背景が考えられる。

 

 2008年末からの景気後退により、中国政府は景気を支えるため、通貨の供給量を大幅に増加させた。

その結果、2008年は名目GDPに対する通貨供給量(M2)の比率(マーシャルのK)が1.5であったものが、2009年以降は1.8に上昇したことから、インフレが起こりやすい環境となった。

2.都市人口や所得の増加

沿岸部の経済発展と都市部の人口増加により、豚肉消費量は今後も増加傾向を維持するものとみられる。

表1 地域別人口
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
表2 1人当たり豚肉消費量の推移
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
注1:都市部は購入数量、農村部は消費数量である。
注2:中国統計年鑑のデータは、家計消費のみ計上されており、外食や加工原料としての利用は含まれていない

3.零細農家の問題

 中国養豚の最近の動向としては、小規模農家の著しい減少と大規模企業養豚による生産の活発化がある。しかしながら、豚肉の生産構造は、依然として小規模農家が全出荷頭数の半分を占めるなど中国養豚を支えている。これらの農家は、価格に敏感に反応するため、豚肉価格の低迷時には養豚経営をあきらめ、他の産品へ経営を転換する。

 豚肉価格が上昇すると、再度養豚を始める動きが活発化し、出荷頭数が増加する。こういった動きが、価格の変動原因となる。

 一般にピッグサイクルは3年程度といわれているが、中国では価格を見ると、国慶節(10月)から旧正月(2月頃)まで価格が上昇しやすいという季節的な変動とともに、下降および上昇局面合わせて42月程度(3年半)のサイクルを持っているとみられる。2010年後半から2011年にかけては、2009年に豚肉価格が下落し、小規模農家の多くが養豚から他の産品の生産へ転換したため、豚肉生産の不足から価格の上昇局面となった。
表3 出荷規模別養豚農家戸数の割合
資料:中国畜牧業年鑑
表4 全体の出荷頭数に占める割合
資料:中国畜牧業年鑑
図2 中国の豚肉卸売価格とピッグサイクルの周期
資料:中国商務部HP「商務預報」より機構作成
注1:2009年から2010年にかけての冬季に、中国では寒波に見舞われ、豚肉価格が上昇した。
注2:月の価格は週別価格の単純平均

4.飼料価格の高騰

 中国では豚/穀物比が政策の判断指標として用いられている。豚/穀物比は1キログラム当たり豚肉(生体)価格を同トウモロコシ価格で除して算出されるものであり、2010年でこの比率は5.6であった。

 生産者にとっての損益分岐点は豚/穀物比は5.5〜6.0といわれており、2010年では収益が悪化していたことがうかがえる。その後、豚肉価格が高騰し2011年第3四半期までの合計では7.1まで上昇したため、収益環境は好転した。さらに2011年収穫の穀物も豊作が伝えられており、生産コストの上昇に歯止めがかかることが期待されている。

 なお、政府機関研究者によれば、中期的に見て、中国産の搾油用大豆が品質やコスト面で輸入大豆に立ち打ちできずに、東北地域を中心として、トウモロコシによって置換されていくであろうとの見通しを持っていた。
表5 生体豚とトウモロコシ価格の比較
資料:国家統計局「中国農産品価格調査年鑑」、国家統計局HP
 注:2011年は第3四半期までの生産者物価指数から推定

5.その他

 子豚価格の高騰による導入頭数の伸び悩みや、豚肉価格高騰時、出荷の前倒し(例えば、通常体重120kgで出荷するところ、100kg程度で出荷し、出荷頭数の割には豚肉生産量が伸び悩む)なども、需給に影響を与えたといわれる。

写真1 小売市場における販売風景
写真2 部位別価格(2011年12月)

U. 中国の養豚業の概況

1.世界需給の位置づけ

 世界中で飼養されている豚のうち、中国で飼養されている豚が半数を占めている。

 国として世界で最も豚肉を消費しているだけでなく、1人当たり消費量も年間33kgと、40〜60kgを消費する欧州諸国に次ぐ、第二グループの位置につけている。中国の豚肉需給の変化は、穀物も含め、世界の食肉・穀物需給に大きな影響を与えるポテンシャルをもっている。
図3 各国の豚飼養頭数(2010年、合計9.7億頭)
資料:FAOSTAT
表6 各国の豚肉消費量(2007年)
資料:FAOSTAT
 注:枝肉ベース

2.中国における養豚業の位置づけ

中国では、国内総生産額に占める農林漁業の割合は10%である。そのうち牧畜業は3割を占めており、経済上、重要な産業である。
食生活上も、1人当たり食肉消費量のうち、豚肉が6割以上を占める

表7 GDPに占める農林漁業の割合
資料:中国統計年鑑
 注:中国の第二次産業には鉱業も含む
表8 農業粗生産額
資料:中国統計年鑑
図4 2007年の1人当たり食肉消費量(kg/年)
資料:FAOSTAT
 注:枝肉(骨付き肉)ベース

V. 中国の養豚・豚肉生産流通事情

 豚の飼養頭数は、2005年の4億3千万頭から、2010年の4億6千万頭と、5年間で7%以上増加している。養豚農家数は年々減少しているが、年間50頭以上出荷する農家数は増加傾向にあり、一定の規模拡大が進んでいることをうかがわせる。しかし、養豚農家1戸当たり飼養頭数は平均で7頭しかなく、依然として零細な経営が中国の養豚を支えている構造となっている。

表9 養豚、豚肉生産に関する基本データ
資料:「中国統計年鑑」、「中国畜牧業年鑑」、FAOSTAT

 地域別には四川省での飼養頭数が多い。その他、湖南省、河南省、山東省、湖北省、広東省、河北省の8省を合わせると、中国全土の豚の飼養頭数の半分(全世界の1/4)を占めている。

表10 2009年の地域別豚生産状況
資料:中国畜牧業年鑑

1.中国における養豚関連指標

 中国における養豚関連の指標は、零細・小規模農家と、大規模養豚経営で大きく異なる。
品種については、ほとんどが三元交雑種であるが、母豚や肥育豚の能力が異なる。また、経営形態については、小規模農家が肥育経営であるのに対し、大規模経営は一貫経営が大半である。

 大規模経営の生産指標は、日本と比較しても同等以上の成績である。

表11 日本と中国の養豚生産指標の比較
資料:農林水産省「家畜改良増殖目標」、聞き取りにより、機構作成
写真3 ガラス室内で展示された種豚(交易会場)
写真4 伝統的な肉加工製品

2.中国における生体豚生産コスト

 2010年の中国における豚1頭当たり生産コストは、全国平均で約1300元(1万7千円)であり、日本の統計上の生産コストの5割強となる。
 そのうち、飼料コストは70%を占めており、出荷価格に与える影響は大きい。

 更に、現地生産者からの聞き取りによると、1頭110kg当たりのコスト1頭1500元以上(広東省広州市近郊の大規模養豚場)、約2000元(四川省資陽市養豚組合)なければ再生産はできないとのことであった。これは、2011年には、子豚価格や飼料価格の上昇によりコストが上昇しているものとみられる。

表12 2010年における中国肥育豚1頭当たり生産コスト
資料:国家発展改革委員会「全国農産品成本収益資料」
注1:日本の子豚費の欄には種付料、もと畜費、繁殖めす豚費、種おす豚費の合計を記入した
注2:中国の平均飼養期間は肥育経営のデータと思われる
表13 全国畜産品と飼料の市場価格(元/kg)
資料:中国畜牧業年鑑

3.ふん尿処理

 生産者等からの聞き取りによれば、小規模農家はふん尿を堆肥化し、耕作地への還元や周辺農家への販売を行う。一定の処理施設を導入できる規模の農家はメタン発酵を行っている事例がよく聞かれた。なお、零細農家は農地での野積みや、穴を掘って埋めるなどしていたようであるが、今では農地に堆肥として散布するように指導されているようである。

 しかし、聞き取りを行った場所においては、ふん尿を集荷して堆肥にする専門業者の存在を聞くことはできず、大規模養豚場などでもふん尿の処理に苦労しているものとみられる。

写真5 農家の庭先で販売される堆肥
写真6 ふん尿を利用したバイオガス発生装置

W. 中国の飼料の生産・流通実態 (聞き取り事例)

 本調査において、2011年12月に中国における主要な養豚地域である、四川省と広東省における飼料・養豚・豚肉に関連する生産・流通事情を調査した。

 四川省は中国で最大の養豚頭数を誇る省であるが、その大半が省内での消費に仕向けられている。飼養規模の拡大は進んでいるものの、小規模経営や伝統的流通が主体となっている。

 広東省は経済発展が進んだ地域であり、農地も少ないことから養豚産業の規模は全国と比較して大きいとは言えない。しかし、早くから経済発展が進んだため、大規模経営体への集約が早くに進んだ。また、大消費地である香港、マカオに出荷するために、安定的かつ大量に供給できる大規模経営が発達した。これにあわせて、企業的な養豚経営や食肉加工企業も発達している。

 同地域での、飼料の生産流通実態について、聞き取り内容を報告する。

1.飼料原料穀物の調達と輸送

 飼料原料については、地域ごとに調達先や輸送経路が異なることから、多様な流通ルートが形成されている。

 沿岸省である広東省であっても船を利用した流通ルートのほか、鉄道ルートも存在する模様である。輸送コストは、とうもろこし1トンの買入価格を2000元(26,400円)程度であるとすると、その5%〜10%程度の輸送経費であると推察される。

 内陸部にある四川省は鉄道により調達され、四川省彰山市や新塔市周辺に穀物の集散地が形成されており、ここで事業を行っている多くの仲卸業者を起点に、省内の各地へ配送されている。

 また、バラ積み船の船腹ごとの混載や、バルクのアンローダーがない港に近い飼料工場へ納入する場合は、コンテナ輸送も行われている。

図5 広東省および四川省の聞き取りによる飼料原料穀物の流通事例図

2.穀物輸入やDDGSについて

 聞き取り先により、穀物輸入の手続きについて、さまざまな意見が聞かれた。

 広東省の穀物貿易企業によると、トウモロコシは政府の規制があり輸入できないが、DDGSは可能であり、同社も輸入実績があるということである。ただし、DDGSの輸入を行う度に、農業部の検査を受けて認証を受けなければならないということである。GMO(輸入禁止品種14種)の水際規制があり、禁止されているGM品種の混入があった場合、輸入が差し止められるということであった。

 四川省における聞き取りによると、大手配合飼料会社は毎年農業部に対し、飼料原料の調達計画を提出し、調達に対する認可を受けている。その調達計画の中で、輸入原料枠を設けていれば、輸入は可能であるという。この企業では、輸入枠の承認を受けているが、コスト的に合わないため、実際は輸入を行っていないとのことであった。

3.飼料の構成

 飼料の構成割合についても、聞き取り先によりさまざまな意見が聞かれた。

 おおむね、幼少期(50kg)までの飼料では、とうもろこしなど穀物が55%〜60%、大豆かすなどが20%程度、飼料原料の割合に変化がみられる肥育期になると、穀物が65%と大豆かすなどが15%〜25%程度になる。

 なお、価格が高騰するとうもろこしの代替として小麦、大豆かすの他に菜種かすや国産DDGSの利用も行われている模様である。四川省の配合飼料メーカーの倉庫では、くず米、ふすまなども見られた。

 肥育期の配合飼料価格は、広東省および四川省とも2011年で3100元〜3200元(40,900円〜42,200円)/トン程度であった。

表14 広州市の養豚企業の例
資料:中国畜牧業年鑑
表15 四川省成都市の飼料企業の例
資料:成都農心飼料有限公司
写真7 配合飼料工場
写真8 鉄道による穀物の輸送
写真9 飼料原料問屋
写真10 飼料工場でのとうもろこしの荷降ろし

W. 中国の養豚関連産業について(個別事例)

 中国国内の養豚、豚の流通、食肉処理などについて、前述のとおり聞き取りを行う機会を得たので、事例紹介として報告を行いたい。

1.養豚農家や養豚企業の事例

(1)広東省大規模養豚企業の例

●1980年代前半に地元政府と海外からの出資を受けて設立。年間5万頭を出荷するが、半分は母豚として国内の農家へ、残りは肥育豚として、香港、マカオ向けへ生体出荷。香港、マカオ向け出荷が多いのは、香港、マカオの業者と従来から契約を締結しているため。

●豚の生産性を著しく阻害する豚の伝染病(口蹄疫,PRRS,豚流行性下痢(PED))に飼養している豚が感染していないことが優位性である。

●飼養品種はランドレース、ヨークシャー、デュロックの三元交雑種。

●生産コストは生体重1kg当たり14元(1頭1540元、2011年)。生産コストのうち7割が飼料コスト。子豚価格は300元。労賃が高騰しており、1人当たり年間4万元の給与を支払っている。

●飼料は自社加工。原料となるとうもろこしは東北地方から船で輸送(大連→黄甫)。

●ふん尿処理施設も備えている。

●今後の懸念事項は環境問題、特に悪臭を懸念。飼料については2011年秋が豊作であったこともあり、心配はしていない。

(2)四川省における母豚・肥育豚の大規模生産者

●人工授精により繁殖。年間分娩回数2.2回、1頭当たり分娩回数は6回。品種はランドレース、ヨークシャー、デュロックの三元交雑種

●豚舎(60m×10m)は40棟で、1棟当たり600頭程度を飼養。1人当たり2棟の豚を管理。

●年間出荷頭数は2万頭。母豚は市場ではなく、大規模養豚企業に出荷している。出荷時には子豚の伝染病の有無について衛生当局による検査を受けた上で出荷。

写真11 農家の風景
写真11 農家の風景

(3)四川省建方県における養豚協同組合(専業合作社)

●2008年5月設立。133農家が加入。1戸当たり200元の年会費を徴取し運営。年会費は、養豚技術の勉強会や情報交換会などに充当。組合では年間2万頭を出荷している。役員は無給である。購入飼料を利用している地区内のすべての養豚農家が協会に加入している。

●組合の目的は、飼料、医薬品、子豚の共同購入による有利購買、技術指導、組合単位による有利販売。

●設立時は政府からの要請や支援、逆に妨害もなかった。組合の活動が順調に推移してからは、組合員が豚舎を整備する時には政府から建設費用を補助してもらえるようになった。
●会員は飼料や子豚を組合から購入する、出荷した肥育豚販売時の清算は個別に行う。

(4)四川省建方県における大規模農家

●母豚130頭の規模

●豚舎には扇風機やスプリンクラー、水冷設備(壁のひだ状の換気口に水を流して空気を冷やす)、出入り口の消毒設備、地下タイプのふん尿処理施設を備えており、メタンガス発酵も行っている。

●周辺の1農家とこの農場合わせて毎日、トラック1台(60頭)の出荷を行い、共同出荷。

●養豚施設の建設費は1平方メートル当たり350元であったが、そのうち半額は国からの補助。
写真12 商業的農家による養豚場の風景

(5)四川省建方県における中規模農家

●母豚20頭。豚舎4棟で250頭の飼育規模。夫婦2人による養豚。

●ふんは発酵させ、1袋5元で近隣農家に堆肥として販売。

●すべての豚に耳標が装着。(四川省では豚全頭にトレーサビリティーを整備とのこと)

●切歯は行われているが、尻尾はある程度残されてあった(他の地域も同様)。

●豚舎のベッドは堆肥で行われていた。
写真13 農家の養豚風景(堆肥ベッド)

2.インテグレーター、パッカーの事例

(1)四川省インテグレーターA出資の大規模養豚企業

●200ムー(13ha)の敷地で40棟(60m×10m)×400頭=16,000頭の飼養規模。オールインオールアウト方式を採用しているが、給餌やふんの掻きだしは人力で行っている。1人当たり従業員600頭を管理。堆肥は近隣農家に無料で配布(農家が引き取り)。

●他の場所にある自社養豚場を合わせて、グループ全体で年間10万頭を出荷。と畜場は同地域の地方自治体の施設を利用。

●出荷先割合は、市場やスーパーで販売される生鮮肉が5割。小売用冷凍豚肉が25%、加工用冷凍豚肉が25%。小売用冷凍豚肉の一部は香港やマカオに出荷している。

●生鮮肉の販売が一番安定しており利益が高い。冷凍肉や加工品は市場が不安定で、生鮮肉の価格が上昇すると、売れ行きが伸びる補完関係を持つ。

写真14 自社農場の風景

(2)四川省インテグレーターB出資の大規模養豚企業

●年間で豚10万頭、鶏200万羽を出荷している。飼料も年間50万トン販売。

●養豚農家と契約を行い、飼料、飼養技術(薬品)、子豚を農家に無料で支給し、肥育後にその豚を買い取る経営モデルを構築。技術指導は大卒の社員が1人当たり20戸の農家を担当。

●農家との契約方式のメリットとして、ふん尿処理施設などが節約できること、農家は肥育に専念でき、販売先と販売価格が安定しているため増頭に踏み切りやすいことがある。

●設備投資は農家責任で行う。

●出荷時は全て生体で行うが、消費地近くで加工され、成都市への出荷は、スーパーで冷凍肉として販売されるものが8割、自由市場に生鮮肉として販売されるものが2割。地元に出荷される豚は生鮮肉ですべて販売される。

3.ハム、ソーセージメーカー

(1)広東省の大手企業系列のハム・ソーセージメーカー

●外国企業と合資により設立され、2009年に大手企業の系列となる。従業員は300人。

●使用する豚肉の30%〜40%は、自社農場で生産されたもの。残りは中間業者から部分肉を仕入れる。その際、品質検査は行うが、飼料や医薬品の提供、飼養技術の指導などは行っていない。

●原料となる冷凍肉は東北地域や福建省など全国から、物流会社の冷凍専用車を利用して持ち込まれる。一部輸入冷凍バラ肉も利用している。

●10年以上前は6割が香港向けに出荷されていたが、いまは国内市場向けが8割である。

●金額ベースでみると、出荷シェアのうち80%がハム、ソーセージである。近年の売上高は横ばい。顧客はスーパーなどの小売がほとんどで、一部ホテルなどの外食産業である。

4.と畜場および卸売市場の事例

(1)広東省広州市のと畜場および卸売市場の事例

●平均で1日当たりのと畜数が2,900頭、最盛期には5,000頭を処理している。広西チワン自治区、湖南省、湖北省、江西省からも生体豚が入荷する。

●生体豚のクレンブテロールやラクトパミンの検査を厳しく行っている。政府が無償で配布した検査キットを利用。卸売市場職員が出荷頭数の15%を抽出し、尿検査を行う。

●と畜後は枝肉で売り渡され、消費市場でブロックなどに加工される。

●卸売市場における買い手は、レストランや消費者といった最終ユーザーは参加していない。

●豚には番号が付され、小売から農場までのトレーサビリティーが行えるようになっている。

●価格形成については、仲卸業者が農場出荷価格、運搬費などを加味して販売価格を決定。セリは一時期導入を試みたが、豚の大きさや品質がまちまちで価格決定が難しく、現在は実施されていない。

●と畜手数料は1頭当たり24元。仲卸業者は市場のペンを月5000元で借りて豚を一時保管し、その後と畜もしくは再出荷しており、集散拠点の役割を果たしている。

●消費者のし好は地域によって異なり、広州市では冷蔵や冷凍による変色をいやがるため、生鮮の豚肉を好む傾向が強い。一方、湖南省などでは変色へのこだわりは薄く、冷蔵豚肉にも抵抗感が少ない。

●四川省成都市においても、冷蔵豚肉販売店と生鮮豚肉販売店では豚肉キロ当たり3元の価格差がある(生鮮肉が安い)。その一方で、生鮮肉が冷蔵肉よりも品質が高いとの認識が普通である。

●流通経路については、下図のとおり

図6 広東省広州市における豚肉の流通経路(例)
写真15 広州市卸売市場の風景
写真16 と畜後の半丸と体をつり下げたままで運送するトラック。
    冷却装置をそなえている。

5.養豚関連聞き取り事例のまとめ

 年間出荷頭数が10頭にも満たない零細農家が依然として大多数の中国において、5万頭や10万頭を出荷する養豚企業が存在することは驚きである。しかし、大規模養豚場の出荷先は大規模小売店や肉製品加工工場が主力であり、地域の小売市場は依然として、零細農家が支えている。

 インテグレーターの中でも、自社農場において一貫生産を目指す社がいる一方、ふん尿処理の問題等から養豚農家と肥育を委託する契約による方法を主体に行う会社もあり、多様な経営が試みられている。

 一方、養豚農家でも資材購入および出荷の協同化を図り、成功を収めている地域も存在する。

 冷凍豚肉は加工品の材料以外には、生鮮豚肉の価格が高い時の補完的な役割しか果たしていない。そのため、輸入冷凍豚肉が直接消費用途として出回ることはあまりないように思われる。冷蔵豚肉もインフラが不十分であることに加え、価格も高く、消費者のイメージが必ずしも良くない問題がある。ハムやソーセージの加工品の消費量は必ずしも大きな伸びを示していないという話もあった。

 流通経路は依然として仲買人を経由する生体豚での取引が主力である。

(注)円換算は2012年2月末TTSレート
1元=13.2円で計算


 
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