海外情報  畜産の情報 2012年8月号

牛肉自給率向上に取り組むインドネシア
〜繁殖基盤の強化など生産振興の実態〜

調査情報部 木下 瞬、前田 昌宏




【要約】

・インドネシア政府は、2010年から2014年の5カ年で牛肉自給率を65%から90%に引
 き上げることを目標に掲げている。
・2014年の牛肉需要量は56万2千トンと予測されるため、目標自給率を達成するに
 は2011年の生産量から7割超増の増産が必要であり、その達成は容易ではない。
・2011年のインドネシア向け豪州生体牛輸出問題を契機に、自給率向上への取組み
 は加速。2012年の同国からの輸入量は5割減少すると政府は見込んでいる。
・増産に向けて政府は自給率向上プログラムを実施、特に繁殖障害の抑制や繁殖雌
 牛の確保など繁殖基盤の強化に注力している。
・豪州からの生体牛および牛肉輸入量削減は、インドネシア、豪州両国の牛肉生産
 構造の変化をもたらす可能性があり、今後の動向に注目すべきである。
・肥育素牛の安定供給を可能にし、高い増産目標を達成するには、子牛市場の整備
 などインフラ対策にも目を向ける必要がある。

1.はじめに

 インドネシアが2012年、生体牛輸入枠を大幅に削減したことで、豪州牛肉産業に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。アジアの牛肉需要増加が注目される中、ASEAN諸国の中でも最大の人口を誇るインドネシアは、国際需給に与える影響が特に大きい国の一つとなっている。

 インドネシア政府は現在、食料安全保障の観点から、コメ、大豆、トウモロコシ、砂糖および牛肉の自給率向上を基本的な方針として掲げている。牛肉については「2014年までに自給率90%を達成(注1)」との目標を設定し、併せて農家の所得向上にも取り組んでいる。今般の生体牛輸入枠の削減は、自給率向上に取り組む姿勢を内外に表明したものである。

 今後の国際需給や我が国の主要輸入先国である豪州の牛肉産業の動向を見通す上では、インドネシアの輸入需要は重要なファクターとなった。そのカギを握るのは、牛肉自給率の向上の成否と思料される。そこで本稿では、インドネシアの牛肉自給率向上に向けた取組みについて報告する。

 なお、本稿中の為替レートは100インドネシアルピア=1円(6月末日TTS相場:0.97円)を使用した。

注1:政府による自給率の算定は、国産牛由来の牛肉生産量/消費量で行われ、国産牛
   (水牛含む)は国内で繁殖−肥育されたものに限定される。本稿中の自給率の定義
   は以下同じ。

2.牛肉需給の現状

〜消費量は堅調に推移〜

 最近のインドネシアの牛肉需給の推移を見ると、牛肉消費量は増加傾向で推移している。2011年の消費量は45万トン(部分肉ベース、以下同じ)と、2005年比25.1%の増加が見込まれる。インドネシア経済は好調で、実質GDP成長率は6.5%(2011年)と高い伸びを背景に、所得の向上に伴う購買力の高まりが消費量増加の要因と考えられる。また、1年のうち、牛肉消費はラマダン(断食月)明けの祭り(イド・アル=フィトル、2012年は8月19〜20日)においてピークを迎えるが、日常的に食されるバソ(Bakso:写真参照)と呼ばれる肉団子などの消費も盛んで、通年で牛肉消費は一定量あり、消費が伸びる素地はある。2011年の年間一人当たり消費量は、1.98キログラムと、我が国の約1/3の水準である。ただし、この数値には観光客や外国人労働者(駐在員等)の牛肉消費量が加味されていないため、実際の数値はこれ以上とみられる。

Bakso(肉団子)スープ

ウェット・マーケットで販売される牛肉
(ジャカルタ市内)

〜供給面では輸入のシェアが増加傾向〜

 インドネシアで流通する牛肉は、(1)国内で繁殖−肥育(廃用役畜含む)したもの(以下、「国産牛由来」という。)、(2)生体牛(肥育素牛)を輸入して、フィードロットで肥育したもの(以下、「輸入牛由来」という。)、(3)輸入牛肉―の3つに大別することができる。

 国産牛由来牛肉の生産量の伸びは、消費量のそれを下回って推移しており、牛肉の自給率は低下傾向にある。2011年の生産量は29万トンで、自給率は65%と、2005年(69%)を4ポイント下回る見込みである。この要因としては、肉用牛の繁殖基盤のぜい弱性により生産量が安定しないことが挙げられる。

 このため、生体牛や牛肉の輸入需要は増加してきた。輸入先国は、BSEおよび口蹄疫清浄国に限定されており、生体牛と牛肉はともに豪州産が輸入の太宗を占める。生体牛輸入量(牛肉換算、部分肉ベース)および牛肉輸入量は、2010年にともに過去最高の10万トン、12万トンを記録した。

図1 牛肉供給量の内訳と自給率の推移
資料:インドネシア農業省(MOA)資料から機構作成
  注:2011年は推定値、2012年以降はMOAによる予測(目標)

3.自給率向上の取組み

(1)自給目標と輸入枠の削減
 〜2014年までに国産牛由来牛肉生産量を50万トン超に〜

 政府は、今後も人口増加および経済成長は続き、牛肉需要も増加すると予測している。農業省の畜産動物衛生総局(DGLAHS)によると、牛肉需要量は、2011〜2014年まで毎年約7.7%ずつ増加し、2014年は2011年比25.0%増の56万2千トンと予測される。

 「2014年までに牛肉自給率90%」という政府の目標達成のためには、2014年の国産牛由来牛肉生産量を50万7千トンまで引き上げることが必要と試算される。この値は、2011年の水準の7割超増に相当し、非常に高い増産目標といえる。増産の取組みについては次項で詳述する。

〜2012年に生体牛および牛肉輸入枠を約5割削減〜

 生体牛および牛肉を輸入する際には、政府の輸入許可が必要となる。許可制にすることで輸入量を制限し、国内の需給調整を行っている。

 政府は、2009年に「2010〜2014年の5カ年で牛肉自給率90%」という目標を設定した。しかしながら実際は、2010年の生体牛および牛肉輸入量が過去最高を記録しているように、輸入枠の運用は申請ベースによる弾力的なもので、特段制限されることはなかった。

 2012年5月時点で政府が公表した自給率向上のロードマップには、2014年までに生体牛および牛肉輸入量を段階的に削減していく方針が示されている。特に、2012年の削減幅は目立っており、生体牛輸入枠については前年比45.6%減(28万3千頭)、牛肉輸入枠については同57.5%減(3万4千トン)となっている。これは、インドネシアを生体牛の主要輸出先としていた豪州に大きな衝撃を与えた。さらに、2014年の生体牛輸入量(牛肉換算、部分肉ベース)は、2011年比59.0%減の3万1500トン、牛肉輸入量は同71.1%減の2万3100トンへ抑制する方針が掲げられている。

 この背景には、(1)2011年のアニマルウェルフェアに起因した豪州の生体牛輸出の一時停止措置(経緯については囲み記事を参照)、(2)2011年農業センサス調査(5年ごとに実施)で「自給率向上に高い実現性がある」との結果が得られたこと―があるとみられている。豪州の生体牛輸出停止措置について政府関係者は、「驚きであり、政府がより強く自給率向上の必要性を意識するきっかけとなった」と、コメントしている。


表1 インドネシアの牛肉自給率向上に係る目標値(2012年6月現在)
資料:MOA

インドネシア向け豪州生体牛輸出問題の経緯(2011年)

(1)5月30日 豪州のテレビ番組で、豪州から輸出された牛がインドネシアの食肉処
        理場で残虐な方法でと畜される映像が放送。
(2)6月3日  豪州政府、アニマルウェルフェアの基準を満たさないインドネシアの
        食肉処理場12カ所への生体牛の輸出を禁止。
(3)6月8日  豪州政府、インドネシアへの生体牛輸出を全面的に禁止。
(4)7月6日  豪州政府、インドネシア向け生体牛輸出を条件付きで解禁。条件は、
        輸送からと畜までの各段階において、国際獣疫事務局(OIE)が定め
        るアニマルウェルフェアの基準を満たすことや、輸出業者がこの基準
        が満たされているか監視することなど。

(2)増産に向けた取組み
 〜特に繁殖基盤の強化に注力〜

 政府が「牛肉の自給率向上」を達成可能としている根拠の一つとして、肉用牛の飼料自給率が100%であることが挙げられる。飼料には籾殻、稲わら、ソルガム、暖地型牧草(イタリアンライグラス、エレファントグラスなど)のほか、農産品の副産物が多く利用されている。具体的には、サトウキビの梢頭部、タピオカでん粉生産の際に得られるキャッサバの皮やでん粉かす、パームヤシの搾りかす、ココナッツやパイナップル関連製品の製造過程において得られる副産物などがある。  政府は、パプアなどインドネシア東部に牧草地などの開拓余地はあり、さらに残さ飼料の利用可能量も十分にあると見込んでおり、輸入飼料に依存しない増頭は十分可能としている。

 一方、インドネシアの繁殖農家は、水田や畑作など耕種部門との複合経営が多く、専業はインドネシア肉牛生産者協会(APFINDO)会員のフィードロット経営を含め、全体の3%程度とされる。また、一戸当たり繁殖牛飼養頭数は1〜2頭と、零細な経営が大半を占め、繁殖部門は副業的位置づけである。また、繁殖〜肥育の分業体制もはっきりとしていない。DGLAHSは、繁殖農家が専業で収益を確保するには、一戸当たり繁殖牛飼養頭数を8頭以上飼養する必要があるとしている。

 こうした状況を踏まえ、政府は自給率向上プログラム(図2)を実行に移している。DGLAHSは、プログラムを通じて、農家所得の向上、雇用の拡大、残さ飼料の活用による廃棄ロスの削減なども実現可能と見込んでいる。以下では、自給率向上プログラムのうち、政府が特に注力している繁殖基盤の強化に関する4つの取組みについて紹介する。
図2 牛肉自給率向上プログラムの内容
資料:DGLAHS資料
繁殖障害の抑制(AIおよび自然交配の普及促進)

 国内で飼養される品種は、バリ牛、マドゥラ、オンゴール、交雑種の4種である。飼養割合が最も高いのが、バリ牛(480万頭、全体の32.3%)で、政府もこの牛を肉用牛増頭の基幹牛として位置付け、純粋種の改良や中小農家への飼養奨励を行っている。バリ牛は、バンテンと呼ばれる野生の牛を家畜化したもので、バリ州、西ヌサトゥンガラ州を中心に国内で広く飼養されている。また、繁殖能力に優れ、受胎率は8割以上を誇り、繁殖牛は18産まで供用されることもある。さらに、耐暑性、耐病性、粗食性も高いという特徴を有するため、国内の飼養には最適とされる。しかし、特有の風土病「ジェンブラナ病(注2)」のまん延防止のため、島を越えた移動は禁止されている。また、バリ牛から生産される牛肉は低脂肪であり、まさにインドネシア人の嗜好に適している。

注2:ジェンブラナ病ウイルスを原因とする感染症。発症すると発熱、食欲不振を引き起こす。また、ワクチンは実用化されておらず、まん延防止のため、バリ牛をバリ島から他の島へ移出した場合は、再びバリ島に戻すことはできない。
表2 インドネシアの肉用牛の飼養動向
資料:DGLAHS資料及び聞き取りにより機構作成

インドネシアの在来種バリ牛、
白い足と尻が特徴

肥育農家の牛舎(東ジャワ)
 近年、バリ牛やオンゴールはブラーマンなど外来種との交雑が進み、交雑種の繁殖成績は、純粋種に比べ大幅に低下している(表3)。このため、政府は農家に適切な交配指導を行い、受胎率の低下を抑制することとしている。

 具体的には、政府主導で純粋種の品種改良を行い、とりわけ人工授精(AI)の普及に努めることで純粋種同士の交配を進め、生産性の向上を図ろうとしている。さらに、政府はAIの普及度合いに応じて、国内を4つに分類し、それぞれに見合った対策を実施している(図3)。例えば、肉用牛の飼養割合の高いジャワ島では、バンテン州などを除き、AIが100%普及しているため、供給可能な純粋種の冷凍精液の配備に努めることとしている。一方、マルクやパプアは飼養割合が低くAIも全く普及していないため、AIを導入するためにインフラ整備などの準備が進められている。冷凍精液の販売は、ジャワ州の東西2カ所の国立AIセンターと、西スマトラやバリなど8カ所の州立センターが担い、品種改良の方向性などで両者が連携することとなっている。ただし、政府のAIセンターだけでは冷凍精液の需要に十分対応できていないため、APFINDOも独自に冷凍精液を販売しAIを行っている。APFINDO会員のフィードロット経営で、AI実施は90%、自然交配は10%となっている。なお、国立AIセンターでは精液1本1万ルピア(100円、授精料別)で販売し、普及率の高い地域では妊娠保証付きで1回20万ルピア(2,000円、授精料込み)のメニューも用意されている。
表3 オンゴール種の繁殖能力
資料:DGLAHS資料
図3 人工授精(AI)の普及率による地域区分
資料:DGLAHS資料より機構作成
表4 島別の牛肉生産状況(2009年)
資料:DGLAHS資料
繁殖雌牛の確保(繁殖雌牛のと畜防止)

 プログラム実施前から政府はバリ牛の純粋種牛群造成のために、繁殖雌牛のと畜を制限しており、と畜場で獣医師の検査に基づいて、繁殖能力があると判定された場合はと畜を禁じている。しかし、近年、農家が少しでも収入を得るために検査を受けずに繁殖牛をと畜するケースが増え、繁殖牛増頭の阻害要因となっていた。

 この対策として、政府はと畜場に監視員を配置することで監視を強化し、出荷された繁殖牛を確認した場合、政府はその牛を1頭600万〜800万ルピア(6万〜8万円)で買取ることとした。買取られた牛は、政府が営農指導を行う比較的小規模な農家に無償提供される。このほか政府は零細規模の農家を対象に、飼養する繁殖雌牛一頭当たり50万ルピア(5千円)を交付し、と畜の予防に努めている。

 これらの取組みには、2兆ルピア(200億円)の予算措置がなされているが、監視員を配置できると畜場は主要な場所に限られることや、予算的な制約などから取組みの限界を指摘する声もある。

◎規模拡大の推進(インテグレーション経営の推進)

 経営効率を高め、所得を向上させるためには農家の規模拡大もしくはグループ化が必要となってくる。グループ化の取組みの中で特徴的なのが、インテグレーション(注3)と呼ばれるもので、これはプランテーション経営と肉用牛経営の複合経営を両立させ、さらにプランテーション部門から入手可能な副産物飼料の利用を可能にするものである。この一環として、政府は10万頭の肉用牛をパームプランテーションに提供することとしている。提供する牛はバリ牛中心であるが、国営企業には豪州から輸入したブラーマンの交雑種も提供している。具体的には、経営面積が1戸当たり2ヘクタールの小規模プランテーション農家を20戸程度グループ化させ、営農指導を行いつつ、そのグループに繁殖牛を30〜40頭無償提供するものである。政府は2012年に125、2013年に160グループの集団化を目標としている。

注3:ここでのインテグレーションの定義は、畜産物の生産から流通に関わる全ての部門を
   統合した一般的な概念とは異なり、畜産部門や耕種部門などの複合経営における部
   門間の統合を目指すものである。

◎牧草生産の拡大(飼料・水源の供給向上)

 牧草生産に関して、農家に栽培技術が十分に普及しているとはいえず、今後増頭する上で供給不足に陥る可能性もある。こうした状況を踏まえ、政府は各地に種苗センターを設置し、農家に対して牧草の種子を無償提供(企業経営には有償)し、播種を推進している。

 また、サイレージ化の技術も農家段階に十分に普及しておらず、スラウェシやパプアなどインドネシア東部では、長い乾季の間に飼料を腐らせ、給餌量が不足することもある。このため、政府はサイレージ化の技術普及に努めるとともに、乾季中の牛の給水量確保のために貯水池も用意している。

 さらに、飼料資源に恵まれた地域で飼料の開発を進め、肉用牛産地へ飼料供給力を高める計画もある。

4.輸入制限による影響

(1)国内への影響

(1)肥育素牛の不足
 〜国内素牛価格が輸入牛並みの水準に〜


 インドネシアのフィードロットは、豪州北部から350キログラム未満のブラーマンの交雑種を肥育素牛として輸入し、約2〜3カ月間肥育した後、出荷するという形態をとっている。主要なフィードロット経営は国内に24社あり、その飼養規模は2万5千〜14万頭とさまざまである。

 2011年以降の生体牛輸入枠の削減は、フィードロットに大きな影響を与えている。APFINDOによると、素牛不足から稼働率が2012年5月現在で50%程度に低下している。このため、一部のフィードロットでは自家繁殖を行うところも出てきている。しかしながら、国産の肥育素牛は、豪州産と比較して、導入時体重、月齢、飼料要求率など個体にばらつきがあることに加え、ロットを揃えるのが難しく、代替となり得ていないのが現状である。聞き取りによると、肥育素牛の供給不足から国内生体価格は上昇しており、2012年5月時点でキログラム当たり2万7千ルピア程度(270円)となった。これは2012年1〜3月における非繁殖向け生体牛の輸入価格(キログラム当たり2.98USドル(約240円))を上回る水準である。

(2)牛肉価格の上昇
 〜2011年の水準から3〜4割の上昇〜

 素牛不足に加え、牛肉輸入枠の削減により、牛肉の国内小売価格も上昇している。2011年の平均価格は、1キログラム当たり5万5千〜6万ルピア(550円〜600円)であったが、2012年5月現在で同8万ルピア(800円)まで高騰した。

(3)業界、生産者の反応
〜輸入業者、ユーザーなどは輸入割当の再考を要望〜


 こうした価格の上昇を受けて、インドネシアの輸入業者や外食産業などは、今回の輸入枠の算定方法について、「(牛肉消費量の多い)駐在員や観光需要を考慮していない」として、政府に再考を促す向きもある。2012年の牛肉輸入枠3万4千トンについても、上半期で大半を使い切ってしまい、今後のラマダン明けなど需要期の供給不足が懸念されている。

 他方、自給率向上には繁殖基盤の強化が最も重要と考えている政府としては、国内の素牛および牛肉価格の上昇は、ある意味狙い通りといえよう。零細農家が規模拡大を行うには、価格面での魅力、すなわち肉用牛経営の収益性向上が必要なためである。こうした両者の思惑もあり、輸入枠の削減方針が維持されるかは不透明である。

(2)豪州への影響 
〜北部では食肉処理施設建設の検討も〜

 豪州の生体牛輸出頭数の推移を見てみると、2009年の95万頭をピークに減少傾向にある。これはインドネシア向けの減少によるもので、インドネシア向けは2009年の77万3千頭から2011年には41万3千頭にまで急減している。

 2012年1〜4月のインドネシア向け輸出頭数は、前年同期比5.4%減の11万5千頭となっている(全体としては、同2.4%減の19万6千頭)。インドネシア以外では、豪州がインドネシアの代替となる市場を模索していることもあり、前年に実績のなかったロシア向けに2万頭が記録されるなどしている。

 しかしながら、ABARES(豪州農業資源経済科学局)は、中期的な輸出頭数について、「2016/17年度(7〜翌6月)は57万5千頭(2010/11年度比21.0%減)にとどまる」とし、インドネシアの減少分を補うことは難しいと予測している。このため、インドネシア政府が自給率向上目標に向かって国内の生産振興に取り組む限り、従前よりも輸入枠の運用は厳しいものとなると推測される。結果、インドネシアからの需要増を背景にこれまで成長を続けてきた豪州北部の生体牛輸出産業は、食肉処理施設の建設を検討するなど変化を強いられている。

図4 豪州の生体牛輸出の推移
資料:豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)

5.おわりに

 ここまで、インドネシアの牛肉自給率向上の取組みの内容を紹介してきた。国内の繁殖基盤の強化として、繁殖雌牛のと畜防止に2兆ルピア(200億円)という大きな予算額を充てていることなどを見ても、経済が好調なインドネシアが、自給率向上にかける強い意気込みをうかがい知ることができる。

 こうした政府の取組みは、肉牛の生産振興に特化したものであると言える。このため、干ばつなど自然災害に見舞われない限り、一定の功を奏し、肉用牛の頭数は増加傾向を維持するものと考えられる。

 しかし、今後は生産振興の次の段階、すなわち肥育素牛の流通体制の確保が課題となろう。今回の調査では、フィードロットは量、質ともに肥育素牛の安定的な確保に苦慮する一方、繁殖農家は子牛の販売ルートが確立されていないことや販売を決断する際の情報量の少なさを嘆いていた。こうしたミスマッチを改善するためには、子牛市場の整備などのインフラ対策にも目を向ける必要があろう。

 以上のように、零細な肉用牛農家が太宗を占めるぜい弱な生産基盤やインフラの未整備、残り2年という短いスパンなどを考慮すれば、2014年までに90%という目標自給率を達成するのは容易でないと考えられる。


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