海外情報  畜産の情報 2012年1月号



米国における牛乳・乳製品の消費拡大に向けた最近の取組
〜牛乳・乳製品のチェックオフ制度の仕組み〜

調査情報部 前田絵梨


【要約】

 米国では飲用牛乳の消費が減少傾向にあるものの、チーズをはじめとする乳製品の消費が好調であることから、牛乳・乳製品の一人当たり消費量は増加傾向で推移している。
  好調な消費を支える要因の一つとして米国のチェックオフ制度がある。これは、生乳生産者および飲用牛乳製造業者に賦課金(チェックオフ)の納付を義務付け、これを原資として消費拡大を行う制度である。
  本制度を活用して、子供に対する栄養教育や企業との連携による商品開発などが行われている。また、充実した事業実施体制に加え、政府による監視体制などが確立していることで、効果的に制度が運用されている。

1.はじめに

 米国は世界トップクラスの酪農大国であり、我が国の約10倍の生乳を生産し、8倍の生乳を消費している。米国の人口が我が国の2.5倍であることを考えれば、一人当たりの牛乳・乳製品の消費量は3倍を超えることになる。

 我が国と比較すれば、米国ではピザなど乳製品を多く含む食品が日常的に消費されるという食生活の違いが根底にあるが、米国の酪農・乳業関係者が積極的に消費拡大に取り組んでいることも、堅調な消費を支える要因の一つとなっている。

 米国では法律に基づき生産者等から農産物の取引時に賦課金(チェックオフ)を徴収し、これを原資として、農産物の消費拡大・知識普及・調査研究等を行っている。牛乳・乳製品においても当該制度を活用して、消費拡大が行われている。

 これまで、我が国の牛乳・乳製品の消費拡大活動は生産者等と政府からの資金により行われてきた。しかし、厳しい財政事情を踏まえると、今後は生産者等自らが消費拡大に積極的に取り組むことが求められている。

 本稿では、米国で行われている牛乳・乳製品の消費拡大に関する制度、仕組みを解説するとともに、生産者等が自ら行う具体的な取組を紹介したい。

表1 米国および日本の生乳生産量等の比較
資料:USDA、informa economics社、農林水産省
注1:米国は2009年1月〜12月、日本は2009年4月〜2010年3月
注2:日本の一人当たり牛乳・乳製品消費量は、生乳消費量を人口で除して算出
注3:米国の人口:EUROSTATによる1月1日現在の人口
    日本の人口:「国勢調査」および「人口推計」による10月1日現在の人口

2.牛乳・乳製品の消費動向

 米国の生乳生産量は2000年以降年平均1.4%増の割合で増加し、2009年の生乳生産量は8588万トンに達した。近年、米国産乳製品の輸出量は拡大しているものの、その大半は国内向けであり、全生産のうち9割程度が国内で消費されている。

 牛乳・乳製品全体の一人当たりの消費傾向としては、飲用牛乳(成分調整牛乳、加工乳、フレーバーミルク(チョコレートミルクなど)を含む)は減少する一方、チーズ、クリーム、ヨーグルトなどの乳製品は増加している。その結果、年間の一人当たりの牛乳・乳製品消費量は増加傾向で推移しており、2009年は前年比0.6%増の275キログラムであった。

図1 一人当たりの牛乳・乳製品消費量(生乳換算)の推移
資料:informa economics社調べ

(1)飲用牛乳の消費動向:減少傾向

 飲用牛乳の一人当たりの消費量は減少傾向にあり、1976年以降の年平均減少率は1.06%となっている。飲用牛乳消費の減少には様々な要因が考えられるが、一つには長い年月をかけて食習慣が変化していったことが挙げられる。米国では主に子供の朝食としてシリアルが好まれ、シリアルを食べることによって飲用牛乳も消費されていた。しかし、移民の増加により子供の数が増える一方で朝食でシリアルを食べる子供の数自体が少なくなり、一人当たり消費量の減少につながったといわれている。また、シリアルを朝食に食べていた大人が、ファストフード店で朝食を摂ることが増えたことも、飲用牛乳の消費が減少する要因の一つとなっている。

 この他の要因として、炭酸飲料など競合商品の出現が挙げられる。1980年代後半から炭酸飲料の消費が増加し、現在では消費量が飲用牛乳の約2倍となっている。また、飲料水、フレーバー飲料水、スポーツ飲料も大きく増加している。さらに、市場におけるシェアは小さいが、豆乳の消費も増えている。同製品は、牛乳と類似した嗜好を有していることに加え、たんぱく質を豊富に含んでいることから、栄養的に乳製品と同等、もしくは優れていると認識している消費者もおり、牛乳を脅かす飲料とみなされている。

図2 一人当たりの飲用牛乳消費量の推移
資料:informa economics社調べ

 次に、飲用牛乳のうち、全乳(3.25%脂肪牛乳)と低脂肪牛乳(無脂肪牛乳を含む)の消費動向について見てみると、全乳は減少傾向で推移する一方、低脂肪牛乳は健康志向を背景に横ばいで推移している。また、脂肪分別にみると、2%脂肪牛乳が減少傾向にある一方、健康志向の高まりを反映し、1%脂肪牛乳および無脂肪牛乳が横ばいないし緩やかな増加傾向を示している。

図3 一人当たりの低脂肪牛乳および無脂肪牛乳消費量の推移
資料:informa economics社調べ

(2)ヨーグルトの消費動向:新商品の登場

 ヨーグルトの消費も健康志向の高まりの影響を受けている。健康を意識した消費者がデザートの代わりにヨーグルトを食べるという習慣が定着したことなどにより、一人当たりの消費量が増加している。また、強力な代替品が存在しないことも、消費を下支えする要因の一つとなっている。

図4 一人当たりのヨーグルト消費量の推移
資料:informa economics社調べ

 加えて、2006年頃からはグリークタイプ(ギリシャタイプ)という新たな商品が開発されたことも、ヨーグルトの需要の拡大に貢献している。これまでのヨーグルトは甘めでデザート的であったのに対し、グリークタイプは甘さが控えめで食感もしっかりとしており、大人の嗜好に合わせた商品となっている。

 量販店の店頭ではグリークタイプのコーナーが設けられ、各種メーカーから様々な商品が売りだされている。商品のパッケージには一目でグリークだと認識しやすいよう、ギリシャ神話をモチーフにしたものがデザインされている。

量販店のヨーグルト売り場。
販売面積は、日本よりはるかに大きい。
グリークタイプのヨーグルト。
パッケージの絵柄だけで、消費者がグリークタイプだと判断できる工夫がされている。

(3)チーズの消費動向:ピザの消費拡大に伴い増加傾向

 チーズの一人当たりの消費量は、アメリカンタイプ、イタリアンタイプともに増加している。特にイタリアンタイプの消費の牽引役となっているのが、モッツァレラチーズである。モッツアレラチーズは、ピザの消費増加に伴い、急激に消費が伸びてきた。米国ではピザそのものは1970年代に流行し始めたが、流行の真っただ中にいた当時の子供たちはピザを食べることが習慣となり、大人になってもピザを好み消費拡大に貢献している。また、製造技術の発達でピザを冷凍保存することができるようになり、家庭で調理しやすくなったことも消費増の要因の一つである。

図5 一人当たりのチーズ消費量の推移
資料:informa economics社調べ

 アメリカンタイプは、ハンバーガーや加工食品に用いられるのが一般的である。ハンバーガーの消費の伸びに伴い、アメリカンタイプの消費も増加してきたが、最近の増加率はやや緩やかになっている。なお、乳脂肪を植物性脂肪に置き換えるなどしたイミテーション・チーズなどの商品もあるが、風味が劣ると評価されており、チーズを脅かす存在とはなっていない。

(4)バターの消費動向:堅調な消費を維持

 健康志向の高まりによりバター離れの傾向がややあるものの、一人当たりのバターの消費量は堅調に推移している。

 バターは、一時マーガリンに需要を奪われそうになったが、マーガリンがトランス脂肪酸を含み健康に良くないとの説が広まったことなどから、マーガリンの消費が落ち込み、消費の一部がマーガリンからバターへ移行したことが、バターの堅調な消費につながっている。

図6 一人当たりのバターおよびマーガリン消費量の推移
資料:informa economics社調べ

3.牛乳・乳製品のチェックオフ制度の概要

(1)農産物のチェックオフ制度とは

 米国には、農産物の出荷に当たり生産者に一定額のチェックオフを課し、農産物の販売促進や研究開発を振興する制度が存在する。現在、牛乳・乳製品をはじめとして、全18の農産物についてチェックオフのプログラムがある。これらのプログラムは、各業界からの要請に基づき実施されており、各業界が自主的に消費拡大に取り組んでいる。また、同プログラムでは、特定企業の製品などに限定した消費拡大活動を行うことはできない。

 生産者からチェックオフを徴収するためには、従来、個別の立法措置が必要であったが、全ての農産物について制度を創設する際の根拠となる「農産物販売促進、研究および情報法(Commodity Promotion, Research, and Information ACT of 1996)」が1996年に制定されてからは、同法に基づき制度を創設することが可能となった。例えばブルーベリーなどチェックオフ事業の規模が小さい6品目については同法に基づき運営されている。

 なお、チェックオフ制度の実施については一部の生産者などが抗議し裁判で争われてきた。最終的には、最高裁が2005年に、チェックオフ制度は「ガバメントスピーチ(Government Speech(政府の言論))」に対する納付を義務付けるものであって、特定の個人や団体の広告活動への納付を強制するものではないため、合衆国憲法の侵害には当たらないとの判決を下し、一定の決着が得られている。

(注:一部の生産者は、強制的に徴収された自らのチェックオフが賛同できない広告活動に使われることは、「言論の自由」を保証する合衆国憲法修正第一条に違反すると主張。最高裁は、「言論の自由」は「プライベートスピーチ(個人の言論)」には適用されるが、チェックオフ制度を活用した広告活動は「ガバメントスピーチ(政府の言論)」とみなされるため適用されないと判断。)

(2)チェックオフ制度の予算規模

 全18の農産物のチェックオフプログラムの2011年予算総額は876百万ドルとなっている。このうち牛乳・乳製品を対象とする酪農チェックオフ制度は288百万ドル(18プログラムの中で第1位)、飲用牛乳(加工乳を含む)を対象とするチェックオフ制度は108百万ドル(同第3位)となっており、他の農産物と比べ予算規模が大きい。

表2 2011年のチェックオフプログラムの一覧
(百万ドル)
注1:(*)輸入品に対してもチェックオフ徴収を行っている農産品
注2:共通法:「Commodity Promotion, Research, and Information Act of 1996」
    個別法:品目ごとの法律による。
注3:牛乳・乳製品、飲用牛乳の予算はDMIより、その他は米国農務省より聞き取り。
    総合計はALICにて合算。

(3)牛乳・乳製品チェックオフ制度の法体系

 牛乳・乳製品を対象としたチェックオフ制度には、生乳生産者(以下、「生産者」という。」)から徴収されたチェックオフを原資とする酪農チェックオフ制度と、飲用牛乳製造業者(以下、「製造業者」という。)から徴収されたチェックオフを原資とする飲用牛乳チェックオフ制度の2種類がある。

 酪農チェックオフ制度は「酪農生産安定法(Dairy Production and Stabilization Act of 1983)」および「乳製品の販売促進と研究に関する規則(Dairy Promotion and Research Order)」に基づき、飲用牛乳チェックオフ制度は「飲用牛乳販売促進法(Fluid Milk Promotion Act of 1990)」および「飲用牛乳の販売促進に関する規則(Fluid Milk Promotion Order)」に基づき運用されている。

 各法律は議会により定められ、各規則はチェックオフ徴収元である生産者・製造業者による投票でその存続が決定される。投票の実施はそれぞれ、酪農チェックオフ制度については生産者の10%以上、飲用牛乳チェックオフ制度については製造業者(飲用牛乳販売量ベース)の10%以上の要求により実施されるものであり、定期的に実施されるものではない。また、酪農チェックオフ制度については生産者の過半数以上の賛成で、飲用牛乳チェックオフ制度については、製造業者の過半数以上または飲用牛乳販売量ベースで40%以上の賛成で規則の存続(事業の継続)が決定される。

 この他に、米国農務省(USDA)が作成した「農産物の研究・販売促進プログラムの監視に関するガイドライン(Guidelines for AMS Oeversight of Commodity Research and Promotion Programs)」があり、本ガイドラインは、他の品目のチェックオフ制度も対象とした横断的なものとなっている。本ガイドラインでは、チェックオフの使途についての制限などが具体的に定められており、USDAは本ガイドラインに基づきチェックオフ事業の監視を行っている。

表3 牛乳・乳製品のチェックオフ制度
注1:生乳生産者:商業消費される生乳を生産する全ての生産者
注2:飲用乳製造業者:毎月300万ポンド以上の商業消費される飲用牛乳を製造・販売している業者
チェックオフ制度と法律、規則、ガイドラインの関係

4.酪農チェックオフ制度の概要

(1)制定の背景

 酪農生産安定法は1983年に生産者の要請を受けて制定された。1980年代当時は生乳の生産過剰が問題となっており、消費を底上げする必要性が高まっていたことが同法の制定を後押ししたといわれている。また、このほかに、@州・団体ごとに独自のチェックオフ事業が実施されていたが、チェックオフ単価が異なっていたため、単価統一の要望が高まっていたA独自のチェックオフが必ずしも法律に基づくものではなかったことから、チェックオフを支払わない生産者も消費拡大活動の恩恵を受けるという不公平があり、このような「ただ乗り(フリーライダー)」防止の声が強くなっていた─などの背景もあったといわれている。

(2)チェックオフの金額、徴収対象

 チェックオフとして、生産者から生乳100ポンド当たり15セントが、輸入業者から輸入乳製品に対し生乳換算で100ポンド当たり7.5セントが徴収され、これを原資として牛乳・乳製品の消費拡大に向けた取組が行われている。チェックオフ単価は、酪農生産安定法により定められており、徴収方法や対象となる活動等は、「乳製品の販売促進と研究に関する規則」により定められている。なお、近年、生乳生産量が増加していることを受け、チェックオフ資金も増加傾向にある。

図7 酪農チェックオフ資金額の推移
資料:USDA:「Report to congress on the National Dairy Promotion and Research Program and the National Fluid Milk Processor Promotion Program」

(3)事業実施主体等

 生産者からチェックオフを徴収し、消費拡大事業を行う組織としては、全国レベルのデーリィボード(National Dairy Promotion and Research Board)と地域レベルの地域団体がある。さらに、全国レベルの事業実施団体として、デーリィ・マネジメント・インク(Dairy Management Inc.: DMI)が設置されている。

@デーリィボード:全国レベルの事業実施主体

 デーリィボードは酪農生産安定法に基づき設立され、全国レベルのチェックオフ事業の計画作成や予算決定などを行う役割を担っている。デーリィボードの意思決定機関である理事会は、「乳製品の販売促進と研究に関する規則」により、農務長官から任命される38名の理事で構成されている。38名の理事の内訳は、生産者の代表が36名、輸入業者の代表が2名となっている。なお、生産者の代表は、全米を13地区に分割し、地域ごとの生乳生産量に応じて地域からの選出人数が決められているが、地域別定員数は定期的に見直しが行われている。

A地域団体:地域レベルの事業実施主体

(地域団体の概要)

 地域団体は地域レベルの消費拡大事業を行っている。同団体がチェックオフを活用して消費拡大事業を行うためには、毎年事業計画を作成し農務長官の承認を得る必要がある。承認された計画はQP(Qualified Programs)と呼ばれており、2011年には63のQP(生産者団体のQP:61、輸入業者の団体のQP:2)が承認されている。また、QPを承認するに当たっての条件の一つとして、「QPを申請する団体は、連邦または州が設置する場合を除き、法律の制定される以前から活動実績があること」が挙げられている。これには、生産者からのチェックオフを牛乳・乳製品全体の消費拡大に使うという性質上、営利を目的とした団体の参入を防ぐ狙いがある。

図8 全国レベルのチェックオフ事業に関する実施体制

 近年、管理部門の合理化や予算規模の拡大を図るため、地域団体間での統合が進んでおり、中には8つの州をカバーする大規模な地域団体も存在する。ただし、統合された地域団体の多くは、地域の生産者からのチェックオフ徴収の業務を継続しているため、農務長官への承認申請を毎年行っている。このため、統合が進んでいるにも関わらず、地域団体の承認数自体はあまり減少していない(農務長官から承認を得ることで、地域団体間でのチェックオフの移行が可能)。

(乳業協会連合(UDIA)の概要)

 地域団体の予算をより効率・統合的に実施するため、いくつかの地域団体が集まって乳業協会連合(United Dairy Industry Association:UDIA)を組織している。UDIAの歴史は古く、チェックオフ制度が設立される以前の1970年から設立されている。現在は18の大規模地域団体から構成されており、それらを総合するとカリフォルニア州以外の全米をほぼ網羅する規模となっている。

Bデーリィ・マネジメント・インク(Dairy Management Inc.: DMI)

 DMIは全国レベルのチェックオフ事業を実施する組織として、1995年にデーリィボードとUDIAにより共同設立された。DMIの予算は、デーリィボードのチェックオフおよびUDIAを経由する地域団体のチェックオフが原資となっている。また、DMIは、1995年に米国産乳製品の輸出促進を図るため米国乳製品輸出協会(USDEC)を設立した。さらに、2008年に生産者、乳業メーカーなどが一緒になって今後の消費拡大を検討する場としてイノベーションセンターを設置した。

(4)チェックオフの流れ

@生産者からのチェックオフの流れ

 生産者からのチェックオフ15セントのうち、5セントがデーリィボードに、残り10セントは地域団体に納付される仕組みとなっている。実際には、生乳処理業者が生産者に支払う乳代から15セントを控除し、デーリィボードに5セント、地域団体に10セントを振り分けている。

図9 酪農チェックオフ事業に係るチェックオフ
    (生産者分:15セント)の基本的な配分

 2011年予算の流れをみると、デーリィボードに集められたチェックオフ(2011年予算:96百万ドル)はそのままDMIに提供され、全米で一体的に行われる消費拡大事業である統合マーケティングプラン(Unified Marketing Plan)に活用されている。また、地域団体に集められたチェックオフ(192百万ドル)のうち、UDIAメンバーのチェックオフ(93百万ドル)は統合マーケティングプランに、非UDIAメンバーのチェックオフは地域の消費拡大事業に充当されている。さらに、UDIAのチェックオフを細かく分類すれば、その3分の1はDMIへ拠出され、残りの3分の2は、統合マーケティングプランの一環として、地域レベルの活動に使われている。

 このチェックオフの流れで注目すべき点は、地域団体のチェックオフがUDIAやDMIを通じて統合マーケティングプランに活用されているところである。当然であるが、生産者は自身のチェックオフが地元の消費拡大に使われることを強く望む傾向がある。チェックオフ徴収額は生乳生産量に比例するので、酪農地域で多くの金額が集まる。しかし、消費者が集中し牛乳・乳製品を大量に消費する都市部では少額しか集まらない。効果的な消費拡大を図るためには、酪農地域のチェックオフを消費地域である都市部で活用することが必要であり、その仕組みの一つとして、DMIを中心とした統合マーケティングプランがある。多くの地域団体の協力の下、同プランを展開することによって、地域レベルの消費拡大に使われていたチェックオフを全国レベルの活動に充当することが可能となった。現在の仕組みは、予算の規模拡大、効果的な運用などの面で、様々なメリットを生み出している。

図10 酪農チェックオフ事業に係るチェックオフの流れ(2011年予算)
資料:DMIの資料をもとに機構作成

A輸入業者からのチェックオフの流れ

 チェックオフ制度による消費拡大の対象は、個別の製品ではなく、牛乳・乳製品そのものであることから、国産乳製品のみならず輸入乳製品もその恩恵を受ける。しかしながら、長年、輸入乳製品は本制度の対象ではなく、チェックオフの徴収も行われていなかったため、生産者から不公平感を訴える意見が出されていた。

 このような要請をうけ、酪農生産安定法が2002年農業法の中で改正され、酪農チェックオフ制度において輸入業者からもチェックオフを徴収することが決定された。同様に2008年農業法の中では、当初、生産者と同等の生乳換算100ポンド当たり15セントと定められていたチェックオフ単価を同7.5セントと改定することが決定された。

 その後、2011年3月18日に輸入乳製品におけるチェックオフ徴収に関する最終案が発行され、2011年8月よりチェックオフ徴収が始められた。なお、輸入業者からのチェックオフは通関の際に関税に上乗せされ、税関で徴収されている。

 2011年は2つの輸入業者の団体が認定されている。7.5セントのうち、デーリィボード分を除く2.5セントは輸入業者の団体に納付される。デーリィボードへ納付されるチェックオフは統合マーケティングプランに活用されるが、同団体へ納付されるチェックオフは独自の取組、例えば「イタリアンチーズ」の消費拡大を実施することも可能である。

図11 酪農チェックオフ事業に係るチェックオフ
    (輸入業者分:7.5セント)の基本的な配分

5.酪農チェックオフの事業内容

 酪農チェックオフ事業は、大きく2つのカテゴリーに分類される。ひとつは、DMIが中心となって実施する全国レベルの統合マーケティングプランであり、もうひとつは、各地域団体で行われている地域独自の牛乳・乳製品消費拡大の取組である。

(1)統合マーケティングプラン

@統合マーケティングプランの概要

 統合マーケティングプランの2011年予算は189百万ドルで、チェックオフ全体(同:288百万ドル)の66%を占めている。

 このプランの中では、個別ブランドや特定地域ではなく、牛乳・乳製品全体の消費拡大につながる取組が行われることとなっており、活動内容は主に以下の3つの方向に大きく分類される。

・消費者の理解醸成

 子供を対象とした牛乳・乳製品の栄養学的メリットについての教育など

・企業との戦略的連携

 マクドナルドなどの企業と連携し、牛乳・乳製品をより多く使用する商品の開発など

・国際化の対応や調査研究の推進

 海外市場の開拓や牛乳・乳製品の調査研究の推進など

 2011年予算の主な活動は、子供を対象とした栄養教育費が51.4百万ドル、マクドナルドなど企業との戦略的連携費が43.7百万ドル、酪農・乳業に対する理解醸成費が21.6百万ドル、国際化に対応した輸出促進費が19.9百万ドルとなっている。

 栄養教育費と企業との戦略的連携費を合わせると予算総額の約5割を占める。これは、子供に対して正しい知識の普及啓発を図ることにより将来の需要を確保するとともに、企業との連携による新商品の開発によって即刻的な消費拡大を図ることに力点が置かれているという結果であろう。

ADMIと地域団体の役割分担

 統合マーケティングプランの実施はDMIが中心となっているが、地域レベルの活動は地域団体が主体となっている。DMIと地域団体の活動および役割分担は以下のとおりである。

(a)DMIの活動内容

 DMIは統合マーケティングプランにおいて、全米規模の広告活動や全体の連絡調整などを行っている。具体的には、テレビや新聞、ウェブサイトなどを利用した消費拡大キャンペーンを実施するほか、消費者教育に関するガイドラインの作成などを行っている。さらに、キャンペーンなどで団体や企業との連携が必要な場合、それら組織の上部機関との協議を行っている。

 この他に、例えば、学校で提供した牛乳・乳製品の食中毒事故や、酪農現場で動物福祉に関する問題が生じた際などに地域団体に対して的確なアドバイスを行っている。さらに、24時間体制で、牛乳・乳製品に関連する情報の監視をしており、例えばツイッターで牛乳・乳製品に対する事実と異なる批判があった場合は、即座に反論を載せるなどの対応を行っている。

図12 統合マーケティングプランの2011年予算
資料:DMI

(b)地域団体の活動内容

 地域団体は、統合マーケティングプランの目標に基づき州や地域段階での消費拡大活動を担っている。具体的には、消費拡大キャンペーンなどにおける地域団体との連携調整などは当該地域の地域団体が行っている。

 また、統合マーケティングプランの活動のひとつに、酪農・乳業に対する消費者の理解醸成促進がある。DMIは酪農家の仕事を日々紹介するウェブサイト「酪農家の一日」を運営しているが、この取組と併せて、地域団体は消費者に酪農家の仕事を理解してもらうための酪農体験学習を行っている。

〜地域団体の活動事例〜

 デンバーに位置する地域団体:ウェスタン酪農協会(Western dairy association: WDA)では、コロラドの酪農家に子供を招いて体験学習を行っている。そこでは、単に体験学習を行うのではなく、コロラド州立大学と協力して、体験学習に当たっての酪農家向け手引き書「コロラド酪農ツアーキット」を作成し、体験学習をより効果的なものとするためのサポートを行っている。

資料:WDA提供

(2)地域特別プログラム

 地域特別プログラムとは、統合マーケティングプランとは別に地域団体独自で行われているチェックオフを活用した消費拡大活動のことである。統合マーケティングプランとの最大の違いは、地域の牛乳・乳製品を対象としたプロモーションが行えることである。カリフォルニア州など大酪農地域を代表する地域団体は、統合マーケティングプランへ参加をせず、独自で当該地域のチーズに関する消費拡大活動などを行っている。

資料:カリフォルニアミルクボードウェブサイト
カリフォルニアの地域団体、カリフォルニアミルクボード(California Milk Producer Advisory Board)が地域特別プログラムを活用して作成しているカリフォルニアブランドを表すシール。

統合マーケティングプランの取組事例@
児童・生徒に対する栄養教育〜Fuel UP to Play 60〜

 児童・生徒を対象とした栄養教育のひとつに、DMIの栄養部門を担当する全国酪農協議会(NDC)、全国フットボールリーグ(NFL)、USDA、地域団体が連携して行うプログラム「Fuel UP to Play 60」がある。

 これは、肥満防止を含めた児童・生徒の健康強化のため、学校で毎日60分間の運動を行い、牛乳・乳製品をはじめとする栄養価の高い食品を摂取させる取組である。なお、本プログラムは、2005年にUSDAが作成した「国民のための食生活ガイドライン(Dietary Guideline for Americans)」を基礎としている。

 Fuel UP to Play 60は、学校ごとに栄養・運動プログラムを作成し、実行するもので、NDCはウェブサイトでプログラム作成などを支援するツールを提供している。

 それらのツールを基に、学校の栄養教諭や保健教諭は学校で低脂肪や無脂肪の牛乳・乳製品を提供するプランを、そして、クラス担当教諭は60分間の運動メニューを作成し、栄養・運動プログラムを一体的に行っている。

 プログラムの実施に当たり、児童の健康に対する意識向上を図るため、フットボール選手やフットボールチームのロゴを効果的に活用している。フットボール選手は、児童の憧れの対象であることから、選手と牛乳・乳製品を一連のものとすることにより、牛乳・乳製品のイメージの向上や児童・生徒の記憶に留める効果が期待できる。

 なお、プログラムの実施に当たり、NDCはNFLとの連携調整や、プログラムの実施方針やNFLのフィットネスプラン取り入れた運動プログラムに関するツールの作成などを行い、地域団体はNDCが策定した実施方針に沿って、地域のフットボールチームと調整や参加学校の募集を行っている。

 また、本取組の実施に当たり、USDAのヴィルサック農務長官は2009年12月、NDCおよびNFLと連携体制構築に係る覚書を締結している。

資料:DMI「Annual Report」、WDA提供






統合マーケティングプランの取組事例A
食品産業との連携〜マクドナルドによる商品開発〜

 牛乳・乳製品の消費を直接的に拡大する取組として、DMIによるマクドナルドやドミノピザなどの食品産業との連携があり、牛乳やチーズの消費増につながっている。

 DMIが企業と連携するに当たっては、@同様の戦略を共有できることA全国展開しているなど、影響力があるフードサービスであることBプログラムに取り組むための資金が潤沢にあること─の3つの基準があるという。

 一例としてマクドナルドとの連携について紹介する。

 DMIはマクドナルドにスタッフを派遣し、牛乳・乳製品の消費拡大につながるメニューを共同で開発している。例えば、マックカフェ用乳飲料については、従来よりも牛乳の使用量を80%増加させたメニューを開発し、牛乳の使用量は年間300百万ポンド(13.6万トン)増加した。また、フラッペは、一杯につき50%程度牛乳を使用するメニューを開発し、14,000店舗で販売したところ、牛乳の使用量は年間100百万ポンド(4.5万トン)増加した。この他、子供でも容易に開けられる、一回飲み切りサイズのペットボトルの開発も行われている。

 DMIはマクドナルドとの連携に当たり、2010年の実績で5百万ドルのチェックオフを商品開発や商品テストに投資した。これに対して、マクドナルドも新商品に伴うディスプレイ更新などで、年間10億ドルを超える資金を投入したといわれている。本連携は、少ないチェックオフで大規模な事業を展開できた優良事例である。なお、連携の方法はいくつか考えられるが、例えばマクドナルドへの生乳の値引き販売などは検討していないとのことであった。値引きによる消費拡大は一過性のものであり、値引きをやめれば消費も減少するという認識から、値引きによる消費促進は効果がないとしいている。

資料:DMI「Annual Report」

 

 

統合マーケティングプランの取組事例B
酪農・乳業業界の連携〜イノベーションセンター〜

 2008年、DMIは統合マーケティングプランにおいて、生産者・乳業メーカーなど酪農・乳業業界が連携し消費拡大につなげる活動を行う組織「イノベーションセンター」を設置した。
同センターは、様々な視点から酪農・乳業に関する種々の問題を解決するため、生産者・製造業者、乳業メーカーなどが一体となって検討する場として設置された。なお、この様に一つの組織の下で酪農・乳業業界が共に問題解決に取り組むのは初めての試みである。

 同センターでは牛乳・乳製品の消費拡大に当たっての問題の共有化、牛乳・乳製品の持つ栄養的メリットなど基礎的情報の収集・普及を行う。さらに、持続可能な生産体系を構築することを目的とした温室効果ガス削減計画の策定など、幅広い活動を行っている。なお、同センターによって得られた情報や策定された計画などが、チェックオフの今後の活動内容を検討する際の参考とされている。訪問した地域団体の担当者からは、「以前から、酪農・乳業業界が一体となって消費拡大について議論を重ねることが重要だと認識していた。今後、取り組むべき方向として、@アニマルウェルフェアへの対応A環境問題への対応B食の安全性の確立─などが重要であると考えている。大きな課題を解決するためには、酪農・乳業業界が一体となって取り組む必要がある。同センターの設置が、様々な課題解決に向けてのひとつのきっかけとなることを期待している。」と業界全体としての取組を評価する意見が聞かれた。

資料:DMI「Annual Report」

6.飲用牛乳チェックオフ制度の概要

(1)制定の背景

 飲用牛乳販売促進法は、酪農生産安定法の制定から7年後の1990年に制定された。本法律が制定された背景として、@長期にわたって飲用牛乳の一人当たりの消費量が減少傾向にあるなか、個々の企業がそれぞれプロモーションを行っても、活動規模が小さく十分な効果が得られなかったことA牛乳の飲用は肥満につながるというようなネガティブな認識に対して、消費者に正しい知識の普及が必要とされたこと─などがあったといわれている。

 また、酪農チェックオフ制度が、消費拡大につながっているという実績も、本制度の設立を後押しした要因と考えられる。

(2)チェックオフの金額、徴収対象

 チェックオフとして、米国(アラスカ州とハワイ州を除く48州およびコロンビア特別地区)で毎月300万ポンド以上の飲用牛乳を製造・販売している製造業者から飲用牛乳100ポンド当たり20セントのチェックオフを徴収し、これを原資として、飲用牛乳の消費拡大広告、栄養知識普及などの事業が実施されている。なお、20セントの徴収額は制度が発足した1990年当初から変更されていない。

 20セントの根拠については、生産者のチェックオフは法律で15セントと定められているが、このほかに、地域団体などに更に5セント支払い、合計では20セント程度の負担となっている場合が多いため、製造業者もその水準に合わせるよう設定されたといわれている。

 なお、一人当たりの飲用牛乳消費量は減少傾向にあるものの、人口が増加傾向にあることから、チェックオフ資金の規模はほぼ横ばいで推移している。

図13 飲用牛乳チェックオフ資金額の推移
資料:USDA:「Report to congress on the National Dairy Promotion and Research Program and the  National Fluid Milk Processor Promotion Program」

(3)事業実施主体等

@事業実施主体:飲用牛乳ボード

 飲用牛乳ボード(National Fluid Milk Processor Promotion Board)が事業実施主体である。同ボードは、飲用牛乳販売促進法に基づき設立されており、米国産飲用牛乳のプロモーションおよび消費者教育プログラムを統括している。飲用牛乳ボードの理事は、「飲用牛乳の販売促進に関する規則」により20名で構成されることが定められており、農務長官により任命される。なお、20名の内訳は、製造業者の地域ベースの代表15名(米国を12〜15地区に分割し、地域ごとに代表者の選出人数が決められる)、全国ベースの代表5名(少なくとも3名は製造業者で、少なくとも1名は消費者)となっている。

Aプログラムの執行:Milk PEPおよびカリフォルニアミルクボード

 事業の執行は、飲用牛乳ボードが運営するプログラムMilk PEP( Milk Processor Education Program、以下「飲用牛乳ボード」=「Milk PEP」として扱う。)およびカリフォルニアミルクボード(California Milk Processor Board:CMPB)により行われている。Milk PEPは、ウェブサイトやテレビCM、新聞広告を活用して、消費者の飲用牛乳に対する理解促進を目的とした全米統一的な情報発信を行っている。一方、カリフォルニアミルクボードは、全米統一的な活動から独立し、例えば「カリフォルニアミルク」の消費拡大活動などを行っている。

(4)チェックオフの流れ

 製造業者からのチェックオフは、20セント全てが飲用牛乳ボード(Milk PEP)に納付される。飲用牛乳ボード(Milk PEP)は、当該チェックオフ(2011年予算:108百万ドル)のうちカリフォルニアミルクボード分(13百万ドル)を当該組織へ返還し、残り全てをMilk PEPの資金(95百万ドル)に充てている。

 カリフォルニアミルクボードへの返還は、「飲用牛乳の販売促進に関する規則」に基づいて実施されているが、これは、チェックオフの権利を主張する同州の製造業者の意向が反映されたものである。

図14 飲用牛乳チェックオフ事業に係るチェックオフ(20セント)の流れ(2011年予算)
資料:DMIの資料をもとに機構作成

(5)事業の内容

@Milk PEP

 Milk PEPの主な活動内容は、消費者の飲用牛乳に対する理解促進を目的としたウェブサイト等による情報発信と、「ミルクひげ(Milk Mustache)」をメインに据えたテレビCMや新聞広告などである。

 「ミルクひげ」とは、牛乳を飲んだ時に唇の上にできる白いひげのような飲み跡で、これをつけた著名人がテレビCMや新聞広告に登場する。なお、これまでサッカー選手のデイビッド・ベッカムや元大統領のビル・クリントン、ハリウッド俳優などがキャラクターとして起用されている。1990 年代後半にテレビCMが大ヒットし、それ以降も、定期的に登場人物を変えるなど、消費者の関心を常に惹きつける工夫がされており、好感度の高い定番のプロモーションとして定着している。

 また、情報発信用のウェブサイトについては、現在、@母親向けA中高生向けBメキシコなどスペイン語圏からの移民であるヒスパニック向けC製造業者向けD小売向け─の合計5種を運営している。その他、母親向け、中高生向けにフェイスブック(Face book)でも情報を配信している。

 Milk PEPが行う消費拡大プログラムの予算のうち、母親を対象としたプロモーションプログラムは58%、中高生は24%、ヒスパニックは7%のシェアを有している。ヒスパニック向けのプログラムではスペイン語で情報提供が行われている。ヒスパニックは既にアフリカ系アメリカ人の人口を超えるなど重要なターゲットであるため、今後も予算が拡大される見込みである。

 また、運動を行った後にチョコレートミルクを飲むと疲労回復が早いとの研究結果を基に、子供に人気のスポーツ選手との組み合わせでチョコレートミルクの消費拡大を行っている。また、ミルクひげを人気キャラクターのスヌーピーとコラボレートさせ、量販店などの店頭ディスプレイでチョコレートミルクひげのプロモーションを行っている。なお、チョコレートミルクと聞くと、糖分が多く含まれるイメージを持つが、ここ数年では糖分を控えた製品が開発されるなど健康的なものを提供する工夫が行われている。

左写真
資料:Milk PEP提供

Aカリフォルニアミルクボード

 カリフォルニアミルクボードの主な活動内容は、カリフォルニアミルクの消費拡大活動やミルクひげをキーにしたテレビCMなどである。Milk PEPもミルクひげをキーにした消費拡大活動を行っているが、元々、ミルクひげはカリフォルニアミルクボードが始めたものである。

7.チェックオフ制度におけるUSDAの役割、評価制度

(1)USDAの役割

 生産者や製造業者からのチェックオフ徴収は法律で定められている。このことから、本事業はUSDAの厳しい監視の下に置かれており、チェックオフ事業の運営は生産者等の団体に任されているものの、その使途には制限がかけられている。

 具体的には、チェックオフの使途は販売促進、研究開発および栄養教育に限定されており、ロビー活動(政治家への要請活動など)や、生産の拡大を目的とした取組(例えば、ある飼料の利用推進など)、他の食品や農産物の批判広告、非食用の用途の開発などに支出することは禁止されている。

 USDAは、チェックオフが適正に使われているかどうかを監視するため、@担当官を理事会などに出席させ、企画、立案、承認など様々な段階において事業が規定に沿った形で行われているかを確認するほか、A既に実施されている消費拡大の内容、表現などに問題がないか─などの監視を行っている。

表4 チェックオフの使途の制限について
資料:USDA提供資料より機構作成

(2)チェックオフ制度の評価

@USDAの評価

 USDAは毎年7月1日までに、チェックオフ事業の実施状況、評価などについてとりまとめ、上下両院農業委員会に報告することが義務付けられている。事業の効果に関する分析はコーネル大学が委託を受け実施しており、飲用牛乳の消費量、牛乳・乳製品の消費量をそれぞれ指標とした計量経済分析により評価が行われている。

 なお、このようなチェックオフプログラムの監視に係るUSDA職員の人件費や監視のための旅費等の経費もチェックオフから支出されている。

資料:USDA:「Report to congress on the National Dairy Promotion and Research Program and the National Fluid Milk Processor Promotion Program」
USDAが毎年作成し議会へ提出する酪農チェックオフ事業・飲用牛乳チェックオフ事業の実績報告書

コーネル大学が行った計量経済分析によるチェックオフ制度の評価
〜2009年の飲用牛乳を指標とした評価結果〜

○宣伝広告(テレビ等全てのメディア活動を含む)に関する支出の1%の増加は、一人当たりの飲用牛乳消費量の0.037%増加につながった。

○宣伝広告以外(健康や栄養に関する普及啓蒙等)に関する支出の1%の増加は、一人当たりの飲用牛乳消費量の0.028%の増加につながった。

○米国の飲用牛乳の消費量は年約1%の割合で低下しているものの、これらの活動はその傾向を弱める効果を持つ。

○結果的には、チェックオフを活用した消費拡大事業により、飲用牛乳の総消費量は年間62.3億ポンド(283万トン)増加したことになる。

A生産者および製造業者の評価

 チェックオフの使用状況や成果は、DMIやMilk PEPにより納付者である生産者等に対して年次報告などの形で示されている。チェックオフ制度には投票によって同制度の是非を問える仕組みがあることから、納付者からの評価が低く不満が高まれば、投票を要請する動きがでてくることになる。これまでの投票で規則の継続(事業の継続)が承認されてきたことや現時点で投票が行われる兆候もないことから、同制度については、生産者等から一定の評価が得られているものと推測される。

 なお、生産者等の代表者は、それぞれデーリィボードや飲用牛乳ボードの理事会メンバーとなっていることから、地域の意見・要望などは、理事会などを通じて事業の企画、運営などに反映させることが可能である。

表5 投票の実施結果
注1:賛成得票率の( )の数値は、飲用牛乳販売量ベース

DMIが毎年発行している酪農チェックオフ事業の年報

 年報では、事業が始まった1980年代中頃以降、一人当たりの牛乳・乳製品の消費量は増加傾向にあることが強調されている。

 一人当たりの牛乳・乳製品消費量の推移

                        

 

 

 

 

 

 

 

資料:DMI「Annal Peport

 

8.チェックオフ制度の課題および今後強化すべき事項

 これまで、牛乳・乳製品のチェックオフ制度について、その仕組みや事業内容などを説明してきた。同制度は他の農産物と比べ予算規模が大きく、実施機関や実施体制も充実している。しかしながら、問題点がないというわけではなく、今回の調査に当たって複数の関係者と面談する中、制度の改善点などがいくつか挙げられた。個人的な見解がベースとなっているが、以下に、制度の問題点や今後強化すべき分野について整理する。

(1)チェックオフ制度の問題点

@チェックオフ単価の固定化

 酪農チェックオフ事業において、生産者からのチェックオフ単価(100ポンド当たり15セント)は事業開始から約30年間変更されていない。つまり、物価上昇を考慮すると、実質的には値下がりしていることになる。資金力が豊富な他の飲料商品などと互角に競争するためには、単価を上げて事業規模を拡大する必要がある。しかし、値上げについては、生産者の強い抵抗が予想され、難しい状況にある。

A事業効果などの伝達

 チェックオフ事業全体の効果に関する分析はコーネル大学が実施しており、計量経済分析により評価が行われているものの、事業の個別プログラムの評価は容易ではない。とりわけ、栄養や製品に関する研究、栄養や酪農・乳業に関する消費者教育などは一年で成果が出るものではなく、単年度でどのように成果を測定するのか、検討が必要とされている。このほか、酪農体験学習や消費者への情報発信などは重要な分野であるが、それがどの程度販売拡大につながったのかを定量的に測定することは難しい。チェックオフ納付者である生産者等への説明について更なる工夫が必要とされている。

 また、チェックオフをどの分野に使ったのかを気にする生産者が多数存在する。例えば、チーズ産地の生産者などから、「自分のチェックオフはチーズにどれだけ使われたのか」など問われることが多々あるため、DMIや地域団体は、事業執行の予算を様々な角度から分解し、品目別に整理することが求められている。

(2)今後強化すべき分野

@新商品の開発

 競合飲料がある中で飲用牛乳のシェアを維持拡大するためには、新商品の開発が重要である。商品開発には膨大な予算が必要となるが、現在の予算規模で十分に対応するのは困難である。そこで、企業と共同で効率的な商品開発を行うことが必要となってくる。実際に、マクドナルドやドミノピザなどの企業との商品開発は大きな成果を上げている。大企業には大規模なプロモーション予算と実行力があるため、連携することにより、DMIや地域団体がチェックオフ事業で消費拡大に単独で取り組むよりも大規模な事業を展開することができる。このことから、今後も企業との連携による商品開発は強化すべき分野である。

A消費者との信頼関係の強化

 消費者と生産者の距離が遠くなった現代社会においては、酪農産業に対する消費者の深い理解を得ることが、同産業の発展に不可欠である。このため、生産者自らが温室効果ガス削減目標を掲げ取り組みを強化している実態など、酪農産業が社会に貢献していることを消費者に伝えていく必要がある。

 また、消費者に対しては日ごろから酪農・牛乳乳製品の正しい知識を発信し、消費者の意識の中に、酪農・乳業への信頼を構築することも重要である。例えば食中毒事故などが起きた場合でも、消費者との間で信頼構築が強化されていれば、牛乳・乳製品の買い控えなどの被害を最小限に抑えることができる。このようなことを踏まえれば、Fuel up to Play 60や酪農家での体験学習などの取組は今後も強化すべき分野である。

B調査研究の充実

 消費者の理解や信頼を得るためには、牛乳・乳製品の持つ機能性を評価するための調査研究を強化する必要がある。

 また、チェックオフ納付者に事業効果を伝えることの難しさには、事業の個別プログラムの評価が容易でないことが背景にある。このため、納付者が成果を実感できるよう、チェックオフ事業の個別プログラムの評価手法の研究も進めていくことが重要である。

9.日本と米国との比較

 米国同様、我が国にも全国段階・地域段階の酪農乳業関係団体があり、生産者等からのチェックオフや会員からの会費を原資として消費拡大活動を行っている。我が国と米国とでは、@人口の推移(米国は増加傾向、我が国は減少傾向)A製造する商品構成(米国はチーズ中心、我が国は飲用牛乳中心)B需給構造(米国は乳製品の純輸出国、我が国は純輸入国)─などの前提条件が異なるため、消費拡大の取組を単純に比較することは難しい。しかし、それらの違いを前提として、我が国と米国における取組の違いについて、予算規模、制度のシステムおよび事業内容の観点から比較・考察したい。

(1)予算規模

 両国の最も大きな違いは、予算規模である。主な全国段階の取組としては、社団法人中央酪農会議および社団法人酪農乳業協会が独自のチェックオフ事業を実施している。なお、前者は、牛乳の消費喚起や牛乳・酪農の理解醸成に関する活動を行っており、後者は、牛乳・乳製品の健康科学情報の収集・配信による消費者への理解促進に関する活動等を行っている。両団体以外にも、チェックオフや会員からの会費を活用して、消費拡大事業を行っている組織があることから、総額を単純に比較することはできないが、消費拡大事業の大部分を占める両団体のチェックオフ総額が13億円であるのに対し、米国は313億円と我が国の24倍となっている。米国の生乳生産量が我が国の10倍であることを考えれば、チェックオフ単価の差は2倍以上であると推測される。また、単価については、米国は固定されているのに対し、我が国は適宜見直しを行っている。我が国の場合、必要な事業規模に合わせて、かつ、その時々の経済事情等を考慮し予算規模を柔軟に変動させるなど、生産者等にとってはメリットとなる面がある一方、大規模かつ長期的な計画が立てにくい面もあるものと推測される。

(2)チェックオフ徴収システムおよび実施体制

 米国でのチェックオフは法律に基づく徴収であるのに対して、我が国は実施団体の規定に基づく徴収となっている。フリーライダー防止のためには、チェックオフの拠出を法律で定めることが好ましいが、法的義務とすることによって、様々な制約が生じることも想定される。また、米国ではチェックオフの支払いが義務付けられているが、規則の存続(事業の継続)に関する最終決定権はチェックオフの納付者である生産者等の投票にあるということに留意すべきである。つまり、米国のチェックオフ制度は、生産者等が主体の制度であり、その存続も生産者等の意思に委ねられている。また、USDAは法律に基づき議会からの委託を受け、同制度の監視を行っているが、それに掛かる費用をチェックオフから受け取っていることなどを踏まえると、同制度の主役は生産者等であることがうかがえる。

 注目すべきはチェックオフの活用システムおよび実施体制である。酪農チェックオフ事業では、生産者からのチェックオフは一旦全国(デーリィボード)と地域(地域団体)に分かれるが、UDIAやDMIを通じて、統合マーケティングプランに集まる仕組みになっている。この結果、生産者から集めたチェックオフの3分の2が同プランに充当されており、地域の資金を全国レベルで一体的かつ効果的に活用することに成功している。この様な効率的な運営を可能としているのは、DMIやMilk PEPなどチェックオフ事業を専門的に実施する組織が設置され、調整機能を発揮しているからである。

参考:日本および米国における消費拡大活動(理解醸成活動等も含む)の比較
注1:1ドル=79.13円

 我が国で消費拡大を実施する二つの全国団体について見ると、両団体とも、消費拡大活動を重要な取組事項と位置付けてはいるものの、他の業務も同時並行で行っている。

 この様に両国の消費拡大活動の実施体制を比較すると、米国は、専門の組織を整備することにより、我が国と比べ24倍の資金を効率的かつ効果的に運用している。もちろん、我が国のように消費拡大事業と併せて他の業務を行うことで、高い相乗効果が得られるという利点はあるが、米国のシステムにも参考となる部分があるのではないだろうか。

(3)プログラムの内容

 プログラムの内容について企業との連携に着目したい。日本における酪農乳業関係団体と食品関連企業の連携を、量販店の売り場等における合同販売促進以外で見てみると、地域の乳業メーカーと地域の菓子メーカーが、地元産の生乳を使用したケーキを開発するという規模にとどまっていることが少なくない。米国のチェックオフ事業と日本の消費拡大の取組では資金の規模が大きく異なることから、同じ規模での活動は難しい。また、企業が会員となっている酪農乳業関係団体の場合は、特定の企業と連携しづらい面もあると思われる。しかしながら、今後の新たな消費拡大の取組を計画するに当たり、米国で大きな成果を上げている企業(食品、外食など)との連携について検討することも重要であろう。

10.おわりに

 米国の生産者等は、時代の変化に対応するためにチェックオフ事業のプログラムを柔軟かつ即座に対応させていく必要があると認識しており、プログラムの見直しを頻繁に行っている。

 これまで、我が国の消費拡大活動には政府補助金が含まれていたため、補助金の性質上、プロモーションの内容に制限が課されることもあった。しかしながら、今後、生産者等自らの取組のみによるのであれば、より自由な発想でプロモーションを行うことができる。これからの消費拡大については、海外の取組も参考にしつつ、様々な選択肢を検討することが求められるのではないだろうか。

 今回訪問した地域団体の担当者が、「米国の生産者は昔から牛乳・乳製品の消費拡大を自分たちの問題として捉えている。チェックオフ事業は政府のプログラムではない。その様な自立した意識が、チェックオフ事業がうまく機能している理由でもある。」と話していたが、これは、酪農乳業関係団体が自主的にチェックオフ事業を実施している我が国にも当てはまる。

 両国の食生活には大きな違いがあるため、米国の取組を我が国で行ったとしても同じように消費が拡大するとは必ずしもいえないが、米国のチェックオフ制度が我が国の現場でも大いに参考になることを期待したい。


 

元のページに戻る