海外情報  畜産の情報 2012年7月号

マレーシアの畜産概況

調査情報部(現 畜産経営対策部酪農経営課) 藤井 麻衣子




【要約】

 マレーシアの畜産物生産額のうち、家きん肉は約5割、家きん卵は約2割を占め、国内消費に加えて輸出も積極的に行うなど、生産規模の拡大が続いている。豚肉は家きん卵に次いで約2割と、自給はできているものの、環境汚染問題の影響などにより、飼養規模は減少傾向にある。一方、牛肉や乳製品は、輸入に依存しており、若年層の増加に伴い増加する消費に対し生産拡大が急がれる。

1.はじめに

 東南アジア諸国連合(以下、「アセアン」という。)の国々では、自由貿易の推進などによる好調な経済成長を背景に食肉需要は増加傾向で推移している。特に、マレーシアは、日本、パキスタン、ニュージーランド、チリ、インドと自由貿易協定(以下「FTA」という。)を締結し、オーストラリア、韓国、米国、EUなどとの協議を進め、積極的なFTA戦略を展開している、本稿では、プラス成長に転じている経済とFTA戦略を加速化させるマレーシアにおける畜産概況について報告する。

 マレーシアの国土面積は約33万平方キロメートル(日本の面積の9割)で、人口は約2825万人(2010年推計)(日本の2割程度)である。

 人口構成は、マレー系を中心とするブミプトラ(土地の子の意)60%、中国系23%、インド系7%、その他10%となる。また、20歳未満人口は約4割と、若年層人口の割合が高い。若年層の増加に伴い食習慣が変化するとみられ、今後、食肉および牛乳・乳製品の需要は増加傾向で推移すると見込まれる。

2.マレーシアにおける畜産概況

(1)畜産物生産額

 2008年のマレーシアの畜産物生産額は、約98億4000万リンギ(約2558億円:1リンギ=26円)と、農畜産物生産額(約244億4700万リンギ(約6356億円))の約4割を占める。豚肉の摂食を禁じるイスラム教を国教とすることもあり、家きん肉や家きん卵の生産が大きい。主に中華系の需要に支えられる豚肉生産は約2割ある。

図1 マレーシアの農畜産物生産額(2008年)
資料:マレーシア農業・農業関連産業省 獣医サービス局(DVS)
注1:予測値
 2:右側の棒グラフの割合は、畜産物合計に対する割合
 3:工業原料作物はのぞく

畜産の飼養および需給動向

 マレーシアの畜産においては、これまで比較的小規模、零細規模で推移してきたが、ここ十年で、養豚および養鶏農家の生産は規模拡大へ移行しつつある。特に養豚は著しく、2011年の養豚飼養戸数は548戸(2000年比30%減)、1戸当たり頭数は2,518頭(同41.7%増)となっている。

 家畜の飼養頭羽数を見ると、家きんは、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生に伴い、2005年に飼養羽数が約1割減少したものの、その後は増加傾向で推移している。牛は2006年まで横ばいで推移していたものの、2007年以降増加に転じている。豚は、変動しながら推移しているものの、環境汚染問題の影響などにより、2007年以降微減傾向で推移している。(表1)
表1 家畜飼養頭羽数の推移
資料:マレーシア農業・農業関連産業省獣医サービス局(DVS)
 注:2011年は予測値
 畜産物の自給率の推移を見ると、家きん肉や卵は100%を大幅に超えており、国内消費に加えて輸出も行っている。豚肉はほぼ自給できている水準で横ばいで推移している。一方、牛肉や乳製品は除々に増加してきているが、輸入に依存している。(表2)
表2 畜産物自給率の推移
資料:DVS
 注:2011年は予測値

 食肉消費の中心は家きん肉である。豚肉は、1999年にニパウイルスの発生により、大量の豚が処分された。この影響で、豚肉消費が減退した。それ以降の生産は回復基調で推移している。豚肉の消費量は1人当たり約8キログラム。非ムスリムの人口で計算すると、19.5キログラムとなる。

 また、卵の消費量は1人当たり年間300個を消費し、世界的に見ても消費量は多い。(表3)

表3 マレーシアの国民1人当たり畜産物消費量の推移
資料:DVS
 注:2011年は予測値

 畜産物の輸出入を見ると自給率が約30%の牛肉や5%の牛乳・乳製品は輸入に依存しており、輸入国はFTA締結国が中心となる。自給率が100%を超える家きん肉は、主にタイやベトナムなどのアセアン向けに輸出されている。(表4)
表4 畜産物の輸出入数量
資料:World Trade Atlas

(3)畜産の価格政策

 マレーシアでは、製造者や流通業者などによる不当な搾取や価格のつり上げを防止し、消費者が手ごろな価格での商品入手を可能にする目的で、価格統制制度を実施している。

 現在対象となっている鶏肉、豚肉や卵など13品目は、祝祭期間のみ上限価格が設定されている。過去2年の上限価格の例を見ると、鶏肉はキログラム当たり3.3リンギ(85円)と設定された。


3.家きん肉および卵の概況

(1)需給動向

 家きん肉や卵の生産量および消費量は、年間約2%のペースで上昇している。2005年に家きん肉の消費が落ち込んだが、その年に発生した鳥インフルエンザによるものか、観光客の減少によるものかは不明であった。

図2 家きん肉の生産量および消費量の推移
資料:DVS
図3 家きん卵の生産量および消費量の推移
資料:DVS

(2)小売価格

 家きん卵価格は規格(重さ)ごとに設定され、平均小売価格は1個当たり35セントである。家きん肉の小売価格は、キログラム当たり4〜5リンギ(104〜130円)である。生産者価格は、聞き取りによると、ブロイラーがキログラム当たり3.2リンギ(83円)、卵は1個当たり0.25リンギ(6円)である。現地の小売価格は表5の通りであった。
表5 家きん肉部位別および卵の小売価格 (2012年3月5日、クアラルンプール市内スーパー)
注:地元スーパーにおいて機構調べ
スーパーで販売される家きん肉

(3)消費形態

 現地では家きん肉の部位は、もも、手羽、胸肉の順で人気がある。廃鶏は一般に、カレー缶詰用に仕向けられる。調理法は、フライが好まれる。家きん肉の用途は、30%;加工向け、70%;生鮮市場(加工または生体)とされる。

 卵は赤卵が人気であり、流通の大半を占める。マレーシアの卵の消費量は、日本に次いで多く、1日当たり2500万個が消費される。「カヤ」と呼ばれるスプレッドカスタードは、朝食でよく食される。

(4)輸出入

 政府は家きん肉や卵を、輸出産品として位置付けている。しかし、家きん肉は生産コストは低いものの、加工コストが高く国際市場において、価格競争が欠しいと見ている。

 家きん肉の主要輸出先は、タイおよびベトナムである。WTO交渉により家きん肉に年間4万トン程度の関税割当数量が設置されており、中国から3万トン程度、分割した家きん肉が輸入される。

 卵(殻付き)はシンガポールや香港向けに輸出されている。その他にも中東、インドネシア、モルディブ、パプアニューギニア向けに輸出されている。30×4カートンbox(120個)で採卵後2日以内に出荷する。シンガポールまでは常温輸送のトラックを使用し、片道6時間程度で出荷できる。
家きん卵工場で箱詰めされる家きん卵

4.養豚の概況

(1)生産拡大は限定的

 豚の生産地は、中国系の人口が集中していることや飼料を荷揚げできる港があることから、マレー半島の西海岸となる。リーマンショックの影響により、2007年の豚肉消費量は落ち込んだ。今後の飼養規模拡大の見通しについては、国民の主食ではないため、生産拡大は劇的には進まないものとみられる。

図4 豚肉の生産量および消費量の推移
資料:DVS

(2)主要品種

 マレーシアでの豚の主要品種は、ランドレース種と大ヨークシャー種によるF1母豚およびデュロック種種雄豚を用いた三元交雑豚が一般的である。1腹当たり生産頭数は12頭と、日本をわずかに上回る。肥育豚の出荷日数は210日と日本より15日長いものの、出荷体重は日本を下回る(表6)。また、環境汚染への規制が厳しいため、養豚農家は防臭や適正なふん尿処理の観点から、徐々に閉鎖型畜舎を採用している。

 なお、豚のふん尿処理は一般にため池を用いている。宗教上の問題もあり、ふん尿をたい肥として利用することは好まれていない。

表6 母豚および肥育豚の能力
資料:日本は「家畜改良増殖目標」のなかの2010年全国平均。
   マレーシアのデータは聞き取り

(3)流通形態および価格

 養豚農家は中間業者に生体豚を売り渡し、その後、中間業者はと畜場へ販売する。豚肉の流通のうち9割は生鮮市場向けとなっている。

 生産者価格は、2009年以降前年を上回って推移したが、2011年は前年比36.1%安のキログラムあたり5.0リンギ(130円)となった。(図6)
図5 マレーシアにおける流通フロー
注:機構聞き取り
図6 肥育豚生産者販売価格の推移
資料:DVS

5.酪農の概況

(1)需給の動向

 現在、生乳の自給率は4%強である。政府は、飲料向への国産乳の生産拡大を図り、増加する消費に対する自給率を高めたいと考えている。学乳制度でも、国産の牛乳を利用することが期待されるものの、一部では還元乳が利用されているのが実態である。政府はこれを国産乳に切り替える意向を示している。

 なお、還元乳などの原料である粉乳はニュージーランドや豪州から輸入している。

(2)飼養

 農業省のデータによると、2009年で乳牛頭数が15,740頭、1頭当たり年間乳量が2,600リットル、1日7リットル、受胎率は68%で、受胎率の向上が課題である。人工授精も一般的であるものの、農家は失敗した時のため雄牛も飼養している。

 乳牛の品種はジャージーとホルスタイン、あるいはインド系のサヒワール(Sahiwal)とホルスタインの交雑種などがある。
図7 生乳生産量および消費量の推移
資料:DVS

(3)乳価格および乳質

 価格決定については、国際相場など考慮に入れながら、政府が乳業メーカーと交渉する。 これは不定期の交渉となる。現在の乳価は1リットル当たりAA等級が1.85リンギ(48円)、A等級が1.75リンギ(45円)、A-等級が1.35リンギ(35円)である。細菌数(TPC)が基準を満たせば0.1リンギ(2円)が加算、乳業メーカーから割り当てられる数量を超えて出荷した農家にはさらに0.05リンギ(1円)が加算される。乳脂肪はホルスタインで3.5%程度、ジャージーで4.5%程度である。
表7 品目別小売価格 (2012年3月5日、クアラルンプール市内スーパー)
資料:日系スーパーにおいて機構調べ
スーパーで販売される牛乳

6.おわりに

 好調な経済成長が継続しているマレーシアにおいては、食肉などの畜産物需要も拡大傾向で推移しているが、食肉はコールドチェーンの未整備などの影響により国内産によって供給される傾向が強い。

 現在、アセアン各国は個別に域外の国々と経済連携協定(EPA)を推進するほか、域内でアセアン自由貿易地域(AFTA)により域内関税を将来的に撤廃する構想を進めるなど、経済的な連携を強化しつつある。これらの制度的な枠組みがメンバー国の経済の一段の活性化が予想される状況を作り出している。

 現状では、インフラが未整備のため、生産されても効率的な流通がなされない状況であるが、将来的には経済発展に伴うインフラの整備が進み、アセアン域内での畜産物流通の活発化などにより、地域全体としての畜産の発展が期待される。

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