海外情報  畜産の情報 2012年3月号

今後、穀物の国際需給を担う新興農業開発地域
─ブラジル・マトピバ地域─

調査情報部 南米チーム 星野 和久、岡 千晴


  

【要約】

 ブラジル農務省は2020/21年度までに農業生産量増加のポテンシャルが高い地域として、北部・北東部のマラニョン州(MA)南部、トカンチンス州(TO)東部、ピアウイ州(PI)南部、バイア州(BA)西部の4地区に跨る「マトピバ地域」を挙げる。ここは、日本の支援によるセラード農業開発事業の成果を生かし、世界でもトップレベルの農業生産を誇るブラジルの新興農業開発地域だ。ここでは、ブラジルに見られがちな輸出インフラの課題に対しても整備が進み、さらに、今後の生産拡大に合わせたインフラ強化計画も検討されている。海外からの投資も積極的に促進し、トウモロコシ、大豆も国内外からの需要に十分対応できるだけの農業生産が期待できる。中国はじめ世界の穀物需要が増大する中、国際需給の均衡を保つためにマトピバ地域の生産拡大は不可欠である。

1 はじめに

○ブラジル農務省の報告

 ブラジルは世界的な食料需要を背景に、南部、中西部を中心とした農業生産が進められ、今では世界の食料供給国にまで成長した。これらの地域は、豊富な水や日光と農業生産に適した広大な大地を有すとともに、土壌改良や種苗の新品種の導入などにより、効率性の高い農業生産が行われている。

 この成長は今後も継続されるとの見通しから、2011年6月、ブラジル農務省(MAPA)は、2020/21年度(10月〜翌9月:以下同じ)までに、農業生産量が南部、中西部を中心に20%超増となると報告する。さらに、MAPAが選ぶ、特に成長のポテンシャルが高い地域は北部・北東部の「マトピバ地域」とし、主要穀物生産量を24.9%の増加と見込む(表1)。

表1 マトピバ地域の主要穀物生産予測
資料:ブラジル農務省(MAPA)、ブラジル農牧研究公社(EMBRPA)

○マトピバ地域は新興農業開発地域

 北部・北東部は、かつては不毛な土地と称されていたセラード地帯が広がっている。1970年代から日本の支援によりセラード農業開発事業が開始され、その結果、中西部から北部・北東部にかけた地域は大規模な農業生産地帯へと変貌を遂げた。「マトピバ(MA-TO-PI-BA)地域」とは、マラニョン州(MA)南部、トカンチンス州(TO)東部、ピアウイ州(PI)南部、バイア州(BA)西部の4地区からなる新興農業開発地域のことで、MAPAによれば、ブラジルでもトップクラスの農業生産性を誇るという(図1)。

図1 マトピバ地域(点線内)
資料:ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)
  注:「MA」マラニョン州、「TO」トカンチンス州、「PI」ピアウイ州、「BA」バイア州。

 今回、近年、成長目覚ましいマトピバ地域の農業事情および農産物の輸出ルートについて調査を行ったので、最近のブラジルのトウモロコシ、大豆の需給動向を交えながら報告する。

2 トウモロコシ、大豆をめぐる情勢

 はじめに、ブラジルの主要農産物であるトウモロコシ、大豆の最近の需給動向について整理し、農産物の輸出において現在ブラジルが抱える課題を考察する。

(1)トウモロコシ

○2011/12年度は前年度に比べ2.8%の増加

 2012年1月、国家食糧供給公社(CONAB)の報告によれば、2011/12年度のトウモロコシの需給予測は、生産量5921.0万トン(前年度比2.9%増)、消費量5000.0万トン(同3.3%増)、輸出量850.0万トン(同7.9%減)である(表2)。

表2 トウモロコシの需給動向の推移
(単位:千トン)
資料:国家食糧供給公社(CONAB)2012年1月公表。
  注:2010/11は推定。2011/12は予測。

 2011年11月に開始された作付けは順調に進み、作付面積は前年度比5.2%増となったものの、ラニーニャの影響から生産量はわずかな増加にとどまった(表3)。近年、国内経済の好調を背景に畜産物の消費が伸びており、飼料用トウモロコシの需要も増加している。

表3 トウモロコシの州別生産動向
資料:国家食糧供給公社(CONAB)2012年1月公表。
  注:2010/11は推定。2011/12は予測。

 

○輸出量はパラナ州からマットグロッソ州に変化

 ブラジルは2000年よりトウモロコシの純輸出国となった。その後、輸出量を伸ばし、2011年の輸出量は945万9千トンとなり、2001年に比べ68.1%増となった(図2)。輸出先国はイラン、台湾、日本の上位3か国で輸出量の4割を占めている(表4)。

図2 トウモロコシの生産州別輸出量の推移
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)
表4 トウモロコシの輸出先国
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

 州別の輸出量を見ると、2001年はパラナ州が412.5万トンで首位であったが、最近は州別生産量が第2位のマットグロッソ州(表3)が輸出量においては首位となり、2011年は輸出量608.5万トン、輸出量全体の64.3%となっている(図2)。ブラジルではトウモロコシの5割弱が国内の肉用鶏飼料として消費される。パラナ州はブラジルで最も肉用鶏の飼養羽数が多く、近年の国内の鶏肉需要の高まりから輸出向飼料用トウモロコシが国内向けに転じた。

○日本向けも同様

 日本向けに飼料用のトウモロコシが輸出されており、2011年は73万4千トン、前年比21.0%増となった(図3)。日本は米国にトウモロコシの供給を頼っているが、最近、米国のエネルギー政策によるトウモロコシ輸出力の低下懸念から、輸入者が輸入先の多角化を進めたため、ブラジルからの調達が増加したとみる。ブラジル全体の輸出傾向と同様に、日本向けのトウモロコシも最近10年間でパラナ州からマットグロッソ州にシフトし、2011年は輸出量全体の56.3%を占めた(図3)。

図3 日本向けトウモロコシの生産州別の推移
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

(2)大豆

○セラード農業開発事業により拡大

 ブラジルの大豆生産は、1960年代、南部の小規模農家から始まった。1970年初めに、ペルー沖かたくちいわし(アンチョビー)の不漁による動物性たんぱく資源の不足から大豆の国際相場が高騰し、米国は大豆の禁輸措置をとった。この際、米国からの輸入に依存していた日本への影響は大きかった。このことを背景として、1974年、当時の田中元首相は、日本の国土の5倍以上となる2億ヘクタールのセラード地域を対象に「セラード農業開発事業」を行うこととした。

 この事業では、酸性かつ含アルミニウムのラトソル土壌であった「不毛の地」を農業適地に改良するため、土壌改良手法の確立と熱帯乾燥地帯でも生産可能な大豆の品種改良を目標としてすすめられた。この事業により、ブラジルでの大豆の生産は飛躍的に成長し、作付面積だけでも1976/77年度694万ヘクタールから2010/11年度2418万ヘクタールと35年間で3.5倍となった(図4)。

図4 大豆生産の拡大
資料:ブラジル農牧研究所(EMBRAPA)

○2011/12年度は前年度に比べ4.7%の減少

 2012年1月、CONABの報告によれば、2011/12年度の大豆の需給予測は、生産量7175.1万トン(前年度比4.7%減)、消費量4120.0万トン(同1.0%減)、輸出量3240.0万トン(前年同)であった(表5)。トウモロコシと同様にラニーニャの影響により単収は1ヘクタール当たり2.913トン、同5.2%減となるため、生産量の減少が見込まれている(表6)。

表5 大豆の需給動向の推移
(単位:千トン)
資料:国家食糧供給公社(CONAB)2012年1月公表。
  注:2010/11は推定。2011/12は予測。
表6 大豆の州別生産動向
資料:国家食糧供給公社(CONAB)2012年1月公表。
  注:2010/11は推定。2011/12は予測。

○輸出は中国向けが7割弱

 2011年の輸出先国は、大幅な需要の増加から中国が全体の67.0%を占めており、近年ではその割合は増加傾向にある(表7)。

表7 大豆の輸出先国
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

 州別の生産量、輸出量はいずれもマットグロッソ州、パラナ州、リオグランデドスル州、ゴイアス州の上位4州で全体の7割強を占める(表6、図5)。ブラジルの北部・北東部は、他に比べ貧困度が強く、マトピバ地域ではセラード農業開発事業で定着した大豆生産が地域活性産業となり、ブラジル全体の生産量9.9%(2010/11年度)、輸出量13%(2011年)を占めるまでに成長している。

図5 大豆の生産州別輸出量(2011)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

○日本向けはバイア州から5割弱

 ブラジルは日本向けに大豆粒を輸出しており、2011年は53万6千トン、前年比5.7%増となった。州別にみると、2001年はゴイアス州が輸出量35.6万トン、全体の47%を占めていた。しかし、最近ではバイア州からの輸出量が増加しており、2011年は同24.9万トン、同47%となった(図6)。日本向けに関していえば、生産量、輸出量の多い上位4州よりもバイア州と関係が深いのが特徴だ。

図6 日本向け大豆の生産州別の推移
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

○流通は欧米系のメジャーが担う

 日本の支援により開発された大豆生産地であったが、現在、大豆粒、大豆油、大豆かすの流通・販売を担うのは主に欧米系の穀物メジャーだ。ブラデスコ銀行の報告によれば、BUNGE、Cargill、ADM、Luis Dryfus(現地ではAMAGGIと提携)が輸出量の64%を取り扱っている(図7)。

図7 大豆産品の輸出企業別輸出量割合(2010)
資料:ブラデスコ銀行

(3)農産物輸出の課題─南北問題─

○ブラジル農業連盟の報告

 ブラジルの農産物生産は年々増加するが、一方で国内輸送に必要な道路や鉄道、輸出港の積み出し施設、倉庫の保管容量など、生産地から輸出港まで農産物を輸送するための流通インフラの整備が遅れており、輸出拡大のネックとされてきた。

 このことに関し、ブラジル農業連盟(CNA)が2009年の大豆とトウモロコシに関し、ブラジルを南緯15度で北部領域(行政区分では北部、北東部、中西部(マットグロッソ州、ゴイアス州))と南部領域(同様に南部、南東部、中西部(マットグロッソドスル州))に二分して穀物(トウモロコシ及び大豆のこと。以下同じ。)の生産から消費、輸出の動向について分析した報告が興味深い。

○「南高北低」の需要

 2009年のトウモロコシと大豆の全生産量1億800万トンの内訳は、北部領域5600万トン(全生産量に占める割合52%)、南部領域5200万トン(同48%)とほぼ同量だ。しかし、生産された穀物の動向をみると、北部領域は域内消費1100万トン、輸出700万トンであるのに対し、南部領域は同5400万トン、同3600万トンとなっている。消費や輸出といった需要は、南部領域(9000万トン)が北部領域(1800万トン)の約5倍となり、明らかな「南高北低」であることがわかった(図8)。南部領域は養鶏、養豚、フィードロット肉牛など畜産地帯であり、また輸出港の数も多く規模も大きい。このため、北部領域で生産される穀物の6割強が南部領域に陸路輸送されている。

図8 穀物生産地と主要輸出港の関係(トウモロコシ・大豆:2009)
資料:ブラジル農業連盟
 注:図中、はトウモロコシ、は大豆の生産地

○南部に比べ北部は高い国内輸送コスト

 穀物生産地が北部領域で拡大するにつれ、ブラジル国内の輸送コストも増大している。ブラジル交通省が調べた輸出港までの平均輸送コストをみると、北部領域からは1トン当たり90〜110ドル(7020〜8580円:1ドル≒78円)となるが、南部領域からは同20〜80ドル(1560〜6240円)と最大5倍以上の格差があることがわかる(図9)。北部領域は、輸送コストの面で顕著な課題を抱えていると言える。

図9 農産物生産地から輸出港までの輸送コスト(2010)
資料:ブラジル交通省の資料を基に機構で作成

○輸出港までの国内輸送コストはアルゼンチン、米国の約4倍

 穀物需要の「南高北低」は、広大な国土を有するブラジルにあっては、輸出港までの輸送コストに大きく影響している。ブラジル穀物輸出協会(ANEC)ではアルゼンチン、米国およびブラジルにおける生産地から輸出港までの輸送コストを比較している。これによれば、2011年の1トン当たりの平均輸送コストは、アルゼンチン20ドル(1560円)、米国23ドル(1794円)、ブラジル85ドル(6630円)となり、ブラジルは他2国よりも4倍もの輸送コストを費やすことが明らかになった(図10)。最近8年間の増加率では、アルゼンチン、米国が40%超に対し、ブラジルは2倍超の上昇であった。北部領域の農業開発に伴い、政府がインフラ整備に何らかの方策を措置しない限り、他の輸出国に比べ国内の輸送コストはますます増加するばかりだ。

図10 各国における農産物生産地から輸出港までの輸送コストの比較
資料:ブラジル穀物輸出協会(ANEC)
  注:2011年は推定

○海上輸送は北部の輸出港からのほうが有利

 南部領域に規模の大きな輸出港が集中するブラジルだが、海外の主要港であるロッテルダム港(オランダ)や上海港(中国)までの海上輸送距離は、北部領域のサンルイス港が南部領域のサントス港やパラナグア港に比べて2000kmも短い(表8)。北部領域で生産された農産物を北部領域の輸出港から積み出しすることは、国内輸送と海上輸送の両面からコストの大幅な削減につながる。

表8 ブラジルから海外主要港までの輸送距離
(km)
資料:ブラジル交通省

○北部での輸出ルートの確保が急務

 これまで見てきたように、ブラジルでは北部領域の生産拡大に伴い、「南高北低」の需要のアンバランスを是正するため、国内輸送インフラの整備、海上輸送を行うための輸出港の能力を拡大などにより、北部領域の輸出ルートを確保することが急務だ。

3 マトピバ地域の農業生産の特徴

○マトピバ地域は4州のセラード地帯で構成

 マトピバ地域とは、行政区分として明確に定義されておらず、一般に、セラード地帯で生産性の高い農業生産を行っているマラニョン州バルサス市以南、トカンチンス州ペドロアフォンソ市・ディアノポリス市以東、ピアウイ州ウルスイ市以南、バイア州バヘイラス市以西に囲まれた地域を言う(図11)。これら4州は、輸出ルートに課題があると分析された北部領域に位置する。少しデータは古くなるが、ブラジル地理統計院(IBGE)らによれば、2008/09年度の大豆の生産をみると、作付面積181万ヘクタール、生産量491万トンとなり、最近20年間で同4倍以上、同20倍以上と飛躍的に成長している(表9)。我が国の畑作面積が210万ヘクタール(農林水産省:2009年)であることを考えると、マトピバ地域の作付面積は、日本全国の畑作の8割強に値する。また単収は1999/00年度にブラジルの全国平均の1ヘクタール当たり2.4トンと並び、2008/09年度には同2.7トンと国内平均を上回っている。

図11 マトピバ地域
資料:国家食糧供給公社(CONAB)
  注:「MA」はマラニョン州、「TO」はトカンチンス州、「PI」はピアウイ州、「BA」はバイア州。
    「LEM」はルイス・エドワルド・マガリャンエス市
表9 マトピバ地域の大豆生産の推移
資料:ブラジル地理統計院(IBGE)、バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)

 次からは、広大なマトピバ地域の中でも最も早くから農業開発が行われ、近年、生産拡大が著しいバイア州西部について報告する。

(1)バイア州西部の農業事情

○農業開発拠点はバヘイラス市からLEM市へ

 バイア州西部は面積914万ヘクタール(南北450キロメートル、東西200キロメートル;日本の国土の約4分の1)の平坦な台地で、セラード地帯の中でも粘土層と砂層が混じった水はけのよい土壌が広がる機械化農業耕作に適した土地である。

 1970年代後半より南部から個人農業者の移住がはじまり、バヘイラス市は農業開発の拠点となった。同市は人口15万人(2010年)、首都ブラジリアから北東に国道20号で540キロメートル、州都で輸出港もあるサルバドールからは西に国道242号で950キロメートルの地点にある。いずれの都市とも片側1車線のアスファルト舗装道路でつながっているほか、航空便も毎日発着しているため、内陸の都市にもかかわらず、物流は盛んだ。しかし、最近の開発の拠点は、バヘイラス市から国道242号を西に90キロメートル離れたルイス・エドワルド・マガリャエンス市(LEM市)に移りつつある。同市は2001年にバヘイラス市から独立し、人口6万人(2010年)のうち3割は農業関係従事者だ。今後ますます農業関係者の人口増が見込まれ、数年内には現在の2倍以上となり、2015年にはバヘイラス市を超すと言われている。バイア州西部農業協同組合(COOPROESTE)によれば組合員300名の所有農場は、平均1戸あたり1〜2千ヘクタールとなり、大規模機械化農業が進められている。一方で、20−30ヘクタールの小農との所得の格差による教育、衛生、環境対策の問題が生じている。今後は、農産物をそのまま販売するのではなく、加工し付加価値を付けることで雇用の創出を狙っており、そのための投資を誘致している。

○海外のアグリビジネス企業が進出

 LEM市近辺は現在、世界中からアグリビジネス関係者が集結し、盛んに農業投資が行われている。例えばカントリーサイロはBUNGE(オランダ)、Cargill(米国)、multigrain(日本)、大豆搾油工場はBUNGE、Cargill、肥料工場はBUNGE、GALVANI(ブラジル)、農業機械はJohn Deere(米国)、NEW HOLLAND、(米国)、CASE(米国)、穀物商社はADM(Archer Daniels Midland:米国)、AMAGGI(ブラジル)、LOUIS DREYFUS(フランス)、NOBLE(香港)、LOS GROBO(アルゼンチン)、CEAGRO(ブラジル)などが挙げられる(表10)。

表10 バイア州西部(ルイス・エドワルド・マガリャエンス市)に進出している多国籍アグリビジネス企業
資料:現地関係者より聞き取り。
図12 LEM市の幹線道路沿いにあるBUNGEの穀物サイロ

○地価は南部の半分以下

 バイア州西部でアグリビジネスを展開する魅力の一つに、地価の安さが挙げられる。ブラジルは、先に述べたとおり、国内の輸送コストは他国に比べても高いが、輸出港から遠く離れた中西部や北東部では、いまだに湾岸の農業地域よりも、地価が安いため農地を取得しやすくなっている。

 2010年の国家食糧供給公社(CONAB)らの報告によると、パラナグア港やサントス港など南部の大規模な輸出港に最も近いパラナ州では1ヘクタール当たり2万3千500レアル(103万4千円;1レアル≒44円)となるが、輸出港から最も遠いゴイアス州やマットグロッソ州では同1万1千レアル(48万4千円)以下である(表11)。さらに、マトピバ地域では、最も高いバイア州バヘイラス市でも同9333レアル(41万6百円)、他は同3千〜6千レアル(13万2千〜26万4千円)となり、価格の比較優位性を示している。ただし、現在、農業投資として非常に注目されているため、いずれの地域も2002年からの8年間で地価が150%以上上昇している。

表11 ブラジルの農業生産現場における地価の比較
資料:国家食糧供給公社(CONAB)、農業コンサルタント聞き取り。
  注:レアル

○EMBRAPAの指導により土壌改良

 セラード地帯はもともと、農業には不向きな酸性でアルミニウム含有の「不毛の地」であったため、30年前、この地に入植した時でも灌木の根張りは浅く開墾は割と容易であったと聞く。しかし、土壌改良には相当の時間を要し、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)の指導のもと石灰を用いて行われた。1年目は1ヘクタール当たり石灰4.5−5トン、2年目は同2トン、3〜4年目は同1トンと散布し、一定の石灰の層を形成することで、土壌は常にpH6〜7を保つことが可能となった(図13)。

図13 土壌改良用に畑に積まれた石灰

 これにより農作物の根の深度は、改良前30センチメートルから改良後3メートルにもおよんだ。さらに、カリウムとリンを2:1の割合で施肥し、窒素については大豆の場合は種子に根粒菌を付着させは種することで、根から空気中の窒素を固定することが可能となる。4−5年かけて pH調整と土壌養分の蓄積をおこなうことで、以後の農産物の生育が劇的に向上する。

○降水量は年間1600ミリメートル

 農業用水は天水や河川からのかんがい水の利用が可能である。年間降水量は平均1100ミリメートルであるが、月別の降水分布は4〜9月の乾期と10〜3月の雨期にはっきり分かれている(図14)。地勢的にトカンチンス州の標高は400〜500メートルだが、バイア州西部は崖を超え900〜1000メートルの台地となる。このため、西からの雲が雨をもたらし、バヘイラス市の年間降水量は1600ミリメートルとなるが、東に行くほど少なく、同1000ミリメートルのところもある。

図14 バイア州西部の月間降水量の推移
資料:ブラジル農牧研究所(EMBRAPA)

 ブラジルには雨期中の乾期といわれる「ベラニコ」があるが、バイア州西部では土壌水分含有量が多いため、これまでの経験から雨期に20日間も降雨が無くとも農作物の生育には問題ないと言われている。年間平均気温は24.3℃(最高42℃、最低10℃)、年間日照時間は3000時間が確保されており、乾期でも域内を流れるサンフランシスコ川の水量は豊富であることから、年間を通じた農業生産が可能だ。

○は種は11−12月、収穫は4−6月がピーク

 主な農産物のクロップカレンダーを見てみよう。季節によって若干異なるが、例年、10月から大豆、トウモロコシ、綿の順には種が行われ、2月から大豆、トウモロコシの収穫がはじまり、6月からは綿も収穫される(図15)。大豆、トウモロコシ、綿の収穫期は4月〜6月に集中するが、この時期は雨が降らない。このため、乾燥した農産物が効率よく収穫でき、さらに他のセラード地域は粘土層の赤色が農産物に付着するが、バイア州西部は砂層が多いことからその心配はない。このため、農産物はいずれも白〜黄色の本来の色彩のまま大変きれいな製品となり需要も高い。

図15 バイア州西部のクロップカレンダー
資料:国家食糧供給公社(CONAB)
  注:*は作業が集中する時期

○今後、拡大可能な農地は2倍以上

 ブラジルでは森林法により一定の割合の土地は自然保護しなければならないとされているが、バイア州西部では面積の20%にあたる182万8千ヘクタールが法定保全地、河川、水源地、丘の頂きの周辺など168万ヘクタールが永久保全地となり農業開発することができない(表12)。バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)によれば、2010/11年度の耕作面積は183万5千ヘクタールである。これは全耕作可能面積の32.6%しか利用されていないため、今後さらに、現在の2倍以上の379.7万ヘクタールが農業開発の可能な土地とする。

表12 バイア州西部地域の農業開発の可能性
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)
  注:「自然保護地域」は森林法に基づき入植してはいけない土地。
    「法定保全地」はバイア州の場合は個人所有面積の20%。
    「永久保全地」は河川・ラグーンなどの水環境保全地。
図16 農場内に設置された「法定保全地」の案内板

(2)バイア州西部の農業生産性

○20年間で作付面積は2−3倍、生産量は6〜7倍に成長

 バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)の報告によれば、2010/11年度の作付面積および生産量は、トウモロコシは15万3千ヘクタール、149万6千トン、大豆は108万ヘクタール、362万8千トンとなった(図17、18)。最近20年間の作付面積と生産量の増加率は、それぞれトウモロコシが3.4倍、7.0倍、大豆が2.8倍、6.1倍といずれも大幅な伸びを示している。作付面積の拡大に比べ生産量が飛躍的に伸びた要因としては、農業技術の革新や品種の改良などによる単収の増加がいずれも2倍以上となったことが挙げられる(図19、図20)。トウモロコシ、大豆ともに、2005/06年度の単収が大きく落ち込んでいるのは、かつてないほどの「ベラニコ」(雨期中の乾期)が長く続いたためだ。また、大豆生産が2001/02年度及び2002/03年度に落ち込んだのは、アジアサビ病が大流行したことによる。当時は本病に対する効果的な対処方法がなかったことから被害は大きなものとなった。

図17 バイア州西部のトウモロコシ生産動向
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)
図18 バイア州西部の大豆生産動向
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)
図19 バイア州西部のトウモロコシ単収の推移
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)
図20 バイア州西部の大豆単収の推移
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)

○単収は世界トップレベル

 2010/11年度の1ヘクタール当たりの単収は、トウモロコシが9.78トン、大豆が3.36トンであった。これは、ブラジル国内の他州や国際的な生産上位国と比べても高い値となり、間違いなく世界トップレベルの生産地域だ。

図21 トウモロコシ単収の比較(2010/11)
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)、国家食糧供給公社(CONAB)
図22 大豆単収の比較(2010/11)
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)、国家食糧供給公社(CONAB)

─大豆の不栽培期間(バジオサニタリオ)─

 アジアサビ病(病原体:Phakopsora pachyrhizi)は、大豆の葉が落ちるのを早め、豆の形成を阻害することから、大豆の生産性低下をもたらし、経営に大きな影響を与える疾病だ。ブラジルでは2001年に初めて本病が侵入したことが確認され、その後、瞬く間に全国の大豆生産州にまん延し、2001/02年度および2002/03年度は、全国で大豆生産量が大きく減少した。効果的な対処方法が見いだせないまま、2007年1月29日、ブラジル農務省は植物衛生対策の一環として、全ての大豆生産州において、本病根絶のために大豆を栽培してはいけない期間(不栽培期間:バジオサニタリオ)を設置するよう農務省訓令第2号で指示した。これを受け、現在、各州政府ごとに大豆のは種と収穫の時期を考慮し設定している。

 バイア州農牧防疫公社では同年10月5日、「バイア州西部における大豆不栽培期間設定のためのプロセス」(布告第623号)を発令し、不栽培期間を8月15日〜10月15日と定め、2008年より実施している。これにより、生産者は、この2か月間、ほ場に大豆を作付することが禁止されるとともに、自然発生する大豆についても薬剤散布または機械によって除去することが義務付けられた。

図 大豆の不栽培期間(バイア州およびマットグロッソ州)
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)、国家食糧供給公社(CONAB)
注1:主な成育期間は105〜135日間である。
注2:マットグロッソ州はブラジルで最大の大豆生産州である。

 バイア州では、2002年にサビ病の発生が確認されて以降、生産者が自ら薬剤散布を行うことができるように、本病の管理プログラムを策定した。2003年には、アジアサビ病の診断を迅速に行うため、無料の検査所を配置した。さらに、バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)では、インターネットサイトを通じ、疾病の発生を伝える警告プログラムを開発し、生産者が効果的な薬剤散布を行なうことが可能になった。

バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)による大豆の「不栽培期間」のPR

(参考)「バイア州西部における大豆不栽培期間設定のためのプロセス」(2007年布告第623号)(抜粋)

第5条 バイア州西部における大豆の不栽培期間は毎年8月15日から10月15日までとする 。

  第1項 本布告による不栽培期間の設置は2008年からとする。

  第2項  「不栽培期間」とは、大豆の作付が皆無の状態である期間を言う。

第6条 不栽培期間中に自然発生する大豆は、薬剤散布又は機械により除去しなければならない。

  第1項 「自然発生する大豆」とは収穫時に地面に落ちた大豆より発芽したものをいう。

  第2項 土地の所有にかかわらずいかなる大豆作付生産者は本布告の責任を負うものとする。

○トウモロコシは100%国内消費

 ブラジルは官民を挙げて大豆の輸出に力を入れているが、北部・北東部のトウモロコシについては輸出に必要な衛生検査など輸出手続きの整備が進んでいない。トウモロコシと大豆の収穫時期が重なるため、輸出に必要な手続きはすべて大豆優先となっている。さらに鶏肉をはじめとする食肉消費が増加しているため、トウモロコシの国内需要も増加している。このため、バイア州のトウモロコシは、100%国内消費となっている。トウモロコシについては、輸出の基準に沿った品質や規格の証明書を発行したり、輸出設備に投資を行うということに対するインセンティブが働かないようだ。

○大豆は5割超が輸出

 2010/11年度の輸出量は生産量の53.3%、193万5千トンとなった。輸出以外は現地で搾油され、同年度の生産量は、大豆油65万3千トン、大豆かす283万トンとなる。

○収益率のトップは綿

 バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)の報告では、生産コストと農業生産額より農産物別に1トン当たりの収益をみると、綿が同1982.6レアル(8万7234円)で最も高く、次いでコーヒが同1842.6レアル(同8万1084円)、芝生種子が同1100.0レアル(4万8400円)となり、大豆は250.0レアル(11000円)、トウモロコシが145.5レアル(6402円)となった(表13)。近年、トウモロコシと大豆の国際相場は堅調に推移しているが、他の農産物と比べた場合、必ずしも収益率は高くない。

表13 バイア州西部の農産物別の生産コストと農業生産額(2010/11)
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)

○生産者の4割が自己資金

 農業生産に必要な資金の調達先を見てみると、銀行、商社、肥料関連企業から借り入れる生産者が5割以上いる。一方で、生産者自らの自己資金で運用している生産者が4割はいることが分かった(表14)。AIBAによれば、バイア州西部の生産者は、2008年後半の国際金融危機の際にも、数年で負債を返済し、現在は自己資金を有する大規模生産者が多いとのことである。

表14 2010/11年度農業生産資金調達先(バイア州西部)
資料:バイア州西部かんがい・農業協会(AIBA)

○生産コストの2割強は肥料

 国家食糧供給公社(CONAB)がまとめた大豆生産のコストの内訳をみると、1ヘクタール当たり2.88トンの単収を上げる農場では、全コストの23.8%が肥料に要されることが分かった(表15)。セラード地帯ではリンやカリウムの肥料系資材の継続投与は欠かすことができない。

表15 大豆生産コスト(2010/11)
資料:国家食糧供給公社(CONAB)
  注:2010/11年度バイア州バヘイラス市の単収2.88t/haのモデル農場

(3)バイア州西部の農業フロンティア事例

 これまで見てきたように、バイア州西部ではトップレベルの農業生産が行われており、さらに今後、農業開発の可能性を持った地域であることが分かった。ここでは、具体的な農業生産の事例を紹介する。

ⅰ:大規模農業生産法人─HORITA社ACALANTO農場─

○1984年に入植し今では世界トップレベルの農業生産

 バイア州西部には大規模生産者が多く、そのうちの一つに、トウモロコシ、大豆、綿の生産で世界のトップレベルの成績をあげる農業生産法人HORITA(ホリタ)社がある。特に綿は生産量こそブラジル第3位であるが、2010/11年度の1ヘクタール当たりの単収は個人としては世界一となり、最近、各方面で大きく取り上げられた(図23)。

図23 農業誌「GLOBO RURAL」は「セラードに大きな変化を起こした」とホリタ氏を高く評価

 経営者のワルテル・ホリタ氏は日本人の父と日系二世の母の三男としてパラナ州に生まれ、1984年、バヘイラス市に入植したバイア州西部ではパイオニアの一人だ。兄弟3人で力を合わせて農業開拓を成功させる願いが、会社のトレードマークである「三本の矢」に込められている。「南部の入植地を売り、不足分は民間から融資を受けながら、資金を集めて移住してきた。当時のバヘイラス市近郊は今以上に地価が安く、大規模農地を所有することは可能であったが、生産性も極度に低いものであった。その後、技術の進歩による土壌改良と農業に適した気候条件がうまく合い、この地域の農業生産性を非常に高いものとした。」とホリタ氏は言う(図24)。バイア州西部農協(COOPROESTE)によれば、25年前は南部のパラナ州の土地1ヘクタールで、バイア州西部の土地が50ヘクタールは購入できたという。

図24 28年前の入植当時を語るホリタ氏

 近年では国際相場の良い大豆、綿を中心に、国内需要の高いトウモロコシの3作物による輪作を展開している。2010/11年度のは種面積はトウモロコシ6千ヘクタール、大豆1万3千ヘクタール、綿2万5千ヘクタールで計4万4千ヘクタール、2011/12年度は同8千ヘクタール、同4万6千ヘクタール、同3万ヘクタールで計8万4千ヘクタールと2倍に拡大する計画だ。バヘイラス市近郊にいくつかに分散しているとはいえ、東京23区(面積6万2千ヘクタール)がすっぽり入る広さだ。今では従業員600名のHORITA社の経営者であり、バイア州かんがい・農業協会(AIBA)の会長として、地域の「顔」ともなっている。AIBAでは独自に農業技術を開発するなど、今後、ますます規模拡大に向けて意欲的である。

○HORITA社ACALANTO農場の概要

 バヘイラス市からブラジリアに向かう国道20号線の幹線道路沿いにHORITA社が所有する農場の一つであるACALANTO(アカラント)農場がある(図25)。ここは、雨期の10〜4月の半年間で降水量1700ミリメートルとなる農業適地だ。

図25 国道に面したHORITA社アカラント農場の入り口

 2010/11年度は、は種面積がトウモロコシ1千400ヘクタール、大豆1万3千ヘクタール、綿4千700ヘクタールで計1万9千100ヘクタールとなる。当年度は大豆の400ヘクタールだけセントラルピポットによるかんがい用水で、他はすべて天水で栽培している。1ヘクタール当たりの単収はエリアによって異なるが、トウモロコシ11.3−14.0トン、大豆3.6−4.3トン、綿4.8−6.0トンといずれも非常に高く、農場管理者によれば過去最高の成績とのことだ。

図26 広大な大豆畑が続く

○肥料、農薬は生産コストの5割以上

 2010/11年度の1ヘクタールの生産コストは、トウモロコシ2千200レアル(9万6千800円)、大豆1千600レアル(7万400円)、綿4千800レアル(21万1千200円)であった(表16)。コストに占める肥料および農薬の割合は非常に高く、いずれの作物も肥料、農薬は全コストの50%以上を占める。特に綿に関しては、大量の肥料、農薬を使用する。アカラント農場では、綿、大豆、トウモロコシの順に輪作を行うのが一般で、綿の後は肥料による土壌中の養分が豊富にあるため、大豆の肥料コストは少なくて済むようだ。

表16 2010/11年度のホリタ社アカラント農場の生産コスト
資料:聞き取りにより機構作成

 また作業コストは、生産コスト全体に占める割合は大豆、綿ともに30%以上なる。綿は1ヘクタール当たり183人と大豆の15倍を要するため、地元の雇用を創出する。

〇トウモロコシは輸出ルートが確立されていない

 ブラジルでは面積当たりの収益を表す際に、大豆60kgを1俵とした「俵数」でやり取りするため、アカラント農場の2010/11年度の1ヘクタール当たりの収益は、トウモロコシは35俵相当(2万3千595円;バイア州産大豆1俵当たりの価格(2011年4月時)は40.45レアル)、大豆は20俵相当(1万3千483円)、綿は60俵相当(4万450円)とのことである。現在はコストも要するが高い利益が見込まれる綿を主体に生産が行われ、その次に収益が低いがほとんど手間がかからず国際需要も高い大豆が生産される。

 世界的に需給のひっ迫感の中、トウモロコシは生産すれば必ず輸出できると思われるが、バイア州西部の場合は、国際市場までの流通・販売ルートが確立されていない。このため、バイア州西部の一部生産者のトウモロコシ生産に対する考え方は、低コスト低収益でも良しとしているようだ。不耕起栽培であるため、トウモロコシは「緑肥」と割り切っている生産者もいると聞く。当然、そのような場合は、高価なGM種子など使わず、消毒や肥料を抑えて生産する。

○年間作業カレンダー

 作業の作業管理スケジュールはおおむね次の通りである。この地域の大規模生産農場ではどこも同様と思われる。

3−5月:

  次年度の作付作物の選定とは種面積を計画し、必要な種子、肥料、消毒薬の選定・調達を行う。

 

6−10月:

  乾期の間に、土壌改良のためリン(P)、カリウム(K)、石灰などを投入し、栄養分を回復する。


11−12月20日:

  トウモロコシ、大豆、綿の順では種を開始する。雨期の降雨状況にもよるが、クリスマス前までに作業は完了させる。天候リスクなどを避けるため生育期間の異なる数種類の種子を作付する。

 

1−2月:

  開花時期となるため、降水量と日照時間が最も必要な時期だ。収穫までの消毒、殺虫、除草も重要で、Btトウモロコシは1−2回と少ないが、アジアサビ病対策から大豆は6−7回、綿は20回以上、農薬散布用のセスナやトラクターなど大型機械で散布する(図27)。

図27 農薬などは飛行機で散布する

3月15日−4月25日:

 大豆の収穫最盛期となる。大豆の場合はさやがはじけてしまうと実がぽろぽろと落ちて回収不能となるため、はじける前に収穫を行う。

 

4月15日−6月:

  大豆の収穫の目途がたった頃、トウモロコシの収穫最盛期となる。トウモロコシは茎につけたまま乾燥させてから収穫を行うことが可能だ。

 

6月−8月:

  乾期の真っただ中に綿の収穫最盛期となる。乾燥しているため、綿本来の白さを残したまま刈取り、製品化することができる。

 

○耐性出現に配慮したGM品種の栽培

 種子はトウモロコシ、大豆、綿のいずれも、パイオニア社やモンサント社など数種類のGM品種を利用している。は種方法は不耕起栽培で行い、茎や葉など前作の刈り残し部分はそのまま緑肥として土壌表面を覆うことで、土壌中の養分流出を防ぐ。そこに、あらかじめ、肥料や大豆の場合は根粒菌が付着されている種子をは種することで生産性の高い生育が可能となる(図28)。さらに土壌中の水分蒸発を防止し、常に必要な水分を維持できる。

図28 肥料等を塗布済みのトウモロコシ種子

 現在使用しているGM品種は除草剤耐性品種(RR)と害虫耐性品種(Bt)が主となり、双方を掛け合わせたスタック品種はまだ使われていないようだ。GM品種を利用する際は一定の割合(10%以上)で非GM品種をは種することにより、GM抵抗性の雑草や害虫を発生させないよう管理することが種子会社や関係団体から推奨されている(図29)。例えば、GM品種のは種エリアの周囲やBtトウモロコシの場合はエリア内の800m間隔で非GM品種のは種が行われていた。

図29 害虫耐性遺伝子組み換え(Bt)トウモロコシの推奨作付方法
資料:農畜産業振興機構作成
 注:非GM品種()を害虫耐性GM品種()の10%以上には種することで、GM抵抗性害虫の出現を防止する。

○貯蔵施設を有することで価格交渉に有利

 2011/12年度の生産量はトウモロコシ9万6千トン、大豆18万4千トンで合わせて28万トンとなる。現在5か所に所有しているサイロや倉庫は12万トンしか入らないため、これをまず16万トンまで増設する予定だ(図30)。サイロに入りきらない分は、収穫後、直ちにメジャーなどの穀物商に販売して流通させる。この場合、サイロなど貯蔵施設を自分で所有することは、価格交渉で売り手が有利となるため経営面で重要な設備投資となる。サイロに保管する際の水分管理は重要で、収穫初期はまきを燃料とした乾燥機を使い湿度を13%以下に抑えてからサイロで貯蔵する。

図30 農場内の個人のカントリーサイロ

○トウモロコシは国内消費、大豆はサルバドール港から輸出

 トウモロコシは養鶏場など家畜の飼料として100%国内で消費される。

 大豆はバイア州サルバドール市のC-PORT港やイレウス港まで運搬し、アジアや欧州に輸出される。輸送コストは、輸出港までは同90−95ドルだが、輸出港から中国までは同30ドルということだ。綿は自社の製綿工場により処理して、バイア州サルバドール港まで運搬し、主に中国向けに輸出する。この場合の輸送コストは、バヘイラス市からサルバドール港までは1トン当たり4セント、サルバドール港から中国までは同4セントとほぼ同じとのことだ。ブラジル国内の陸路における高い輸送コストに驚くばかりだ。

ⅱ:大型カントリーサイロ─multigrain社─

○日系企業の子会社

 multigrain(マルチグレイン)社は大豆、トウモロコシ、綿の生産を行うXINGU AGRI(シング農業)を所有し、ブラジルにおける生産、販売、流通を行う農業法人で、2011年より日本の三井物産株式会社が100%出資し子会社化している。

○年間45万トンの取扱量

 multigrain社がバイア州西部で取り扱う大豆の量は、シング農場も含め、年間45万トンに及ぶが、所有する3つのカントリーサイロはそれぞれ6万トン、4万トン、2万8千トンの貯蔵能力しかない(図31)。このため、現在ではサイロ経由が7割、農場で袋サイロを使用しながら直接輸出港に運搬するものが3割となる。

図31 multigrain社のカントリーサイロ

○非GM大豆の生産・輸出

 XINGU農場は2010/11年度のは種面積は大豆4万9千ヘクタール、トウモロコシ4千ヘクタール、綿2万1千ヘクタールとなる大規模農場だ。

 XINGU農場の特徴は、非GMの生産を積極的に行なっている。大豆生産14万2千トンの7割が非GM大豆であり、東部のサルバドール港、イレウス港から日本、欧州に向けて輸出される。GM大豆は品種改良の過程で、発芽部(へそ)が黒くなるが、非GM大豆は発芽部が白いため、非GMは特に日本の豆腐用として需要が高く、サルバドール港からコンテナで海上輸送されている(図32)。

図32 GMと非GM大豆の違い

○GMと非GMの判定

 GM大豆が主流の中、非GM大豆を取り扱うサイロなどでは、モンサント社から無償支給された「QUICK STIX KIT」(クイック・スティックス・キット)により、GM、非GMを判定することが可能だ(図33)。使い方は、大豆100gをミキサーで粉砕し、水100mlに混ぜた抽出液をスティック状の検査キットに浸し、5分間待つだけだ。判定ラインが2本なら陽性、1本なら陰性となる(図34)。

図33 GM大豆の迅速判定キット
図34 GM大豆の判定方法

 モンサント社のGM大豆を利用する際は、生産者は販売価格の2%をロイヤリティとして同社に支払うことが義務付けられる。しかし、GM大豆はF1でも種子用として利用するこが可能となるため、この場合、同社はロイヤリティを徴収することはできない。このようなことを避けるため、同社は、multi-grainのようなカントリーサイロや大豆搾油施設など大豆が集荷される施設に、無償で判定キットを配布し検査を依頼する。検査の結果、GM大豆にもかかわらずロイヤリティの支払い証明書がない場合は、同社に連絡する仕組みとなっている。大豆の購入者側も、非GMにGMが混入することを防ぐことが可能となり、双方にとって好ましい。このキットの管理は厳密で、キット1本ずつすべて番号がラべリングしてあり、使用実績と検査結果を同社に提出しなければならない。

ⅲ:大豆搾油施設─Cargill社─

○年間搾油量は大豆粒45万トン

 Cargill(カーギル)社は、ブラジル国内6か所(パラナ州、マットグロッソ州、マットグロッソドスル州、ゴイアス州、ミナスジェライス州、バイア州)に、大豆の貯蔵、搾油施設を所有し、2010年はブラジルの大豆生産の14%となる1000万トンの大豆粒を取り扱った(図35)。輸出は大豆粒500万トンと国内最大で、以下、BUNGE、ADM、Louis Dreyfusとなるが、大豆油はBUNGE、Cargillの順だ。

図35 Cargillの大豆搾油施設(バイア州西部)

 同社のバイア州にある大豆搾油施設(処理能力50万t/年)では年間45万トンの大豆粒を取り扱い、15万トンは大豆粒としてサルバドールのC-PORT港より輸出している。残りの30万トンは搾油され大豆油6万トンを生産し、北東部を中心に流通している(図36)。大豆かすの50%は同港から輸出される。

図36 Cargill社製の大豆油

○最近の集荷は現物売買が主

 Cargill社は自社農場を持たず、すべて個人あるいは組合から買い取る方法で大豆を集荷する。バイア州西部では、は種前の売買契約を行ういわゆる「青田買い」は少なく、自己資金を有し貯蔵用サイロも所有している生産者が多いため、2010/11年度は8割以上が現物売買となった。この地域では、大豆の取引価格は、毎年4月30日から5月2日の先物価格により決定され、ドルとレアルのどちらでも決済が可能だ。

ⅳ:鶏肉生産状況─MAURICÉA社─

○北部・北東部最大のインテグレート型鶏肉処理企業

 ブラジルの一人あたりの年間鶏肉消費量は43キログラム(2010年)となり、食肉の中では最も需要が高い。価格も安いことから、北部・北東部の低所得層にも人気であるが、バイア州西部ではMAURICÉA(マウリセア)社が唯一鶏肉を生産している。経営者のマルコンデス氏は25年前にペルナンブーコ州レシフェ市で数羽の庭先養鶏から始め、今では、北部・北東部で最大のインテグレート型鶏肉処理企業の経営者となった。鶏肉需要の高まりに対応するため、施設の拡張と飼料用トウモロコシを求めて、10年前にバイア州西部のバヘイラス近郊に新規開拓してきた。現在では、ペルナンブーコ州レシフェ市とバイア州西部で生産し、北部・北東部に供給している。

図37 インテグレート型鶏肉処理企業のMAURICÉA社

○種鶏場から鶏肉処理施設まで自社ライン

 サンパウロ州にあるCOBB(コブ)社の原種鶏農場(GP)から種鶏候補初生ヒナを1羽あたり雌12レアル(528円)、雄21レアル(924円)、1ロットあたり雌5万5千羽、雄7千700羽で年間6回導入し、コマーシャル用初生ヒナを自社種鶏場で生産している。6〜12か月齢の種鶏で平均産卵率65%(最低40%、最高88%)となる。種鶏場は1200ヘクタールの隔離敷地にふ化場と10鶏舎を設置している。疾病防除の観点から、鶏舎間は1キロメートル離し、鶏舎周囲は60メートル幅にユーカリを植樹することで外部からの空気の流通を遮断している。

 毎週100万羽のコマーシャル用初生ヒナを生産し、25万羽はバイア州西部、残りは同社のペルナンブーコ州レシフェ市にあるコマーシャル用肥育施設に運搬され、肥育を行う(図38、図39)。

図38 MAURICÉA社の肥育施設
図39 肥育鶏舎内の様子

 バイア州西部には1農場1400ヘクタールの敷地内に、1鶏舎当たり3−3.2万羽収容可能で平均年間出荷回数4.5回となる鶏舎が8鶏舎あり、この農場が全部で11農場ある。ここから鶏肉処理場に年間1237万5千羽が運搬され鶏肉処理されている。MAURICÉA社はバイア州西部だけで1年に3万4千600トンの鶏肉を出荷していることとなるが、これはブラジルの1人あたりの年間鶏肉消費量43キログラムを考慮すると80万人超の消費相当となる。

〇トウモロコシの消費量は生産量の1割強

 バイア州西部農業協同組合(COPROESTE)によれば、バイア州西部のトウモロコシはブラジル国内で100%国内で消費され、ほとんどは食肉生産に利用されているとのことだ。MAURICÉA社でも、トウモロコシ、大豆かすはすべて現地で調達する。

図40 MAURICÉ社鶏肉生産システム
資料:農畜産業振興機構作成
図41 MAURICÉA社の鶏肉運搬車両

 マウリセア社のトウモロコシの配合割合は60%となり、1羽あたり出荷までに2.7キログラムが給与される(表17)。飼料マネージャーによればバイア州とペルナンブーコ州すべての養鶏に必要なトウモロコシの量は1日当たり540トンという。1年間では19万7千トンとなり、バイア州西部のトウモロコシ生産量149万6千トン(2010/11年度)の13%に相当する量がマウリセア社だけで消費されていることとなる。

表17 鶏肉生産成績
資料:現地聞き取り

 同様に、大豆かすは1日当たり220トンとなり、1年間では8万トンとなり、バイア州西部の大豆かす生産量283万トン(2010/11年度)の5.6%に相当する。

図42 3.5万トン×2台で運搬するMAURICÉA社所有の飼料トレーラー

○トウモロコシの需要が拡大の見込み

 MAURICÉA社所有のバイア州西部にある鶏肉処理場の能力は1日当たり15万羽であるが、現在は、同3.3万羽となり稼働率は2割と低い。このため、今後、養鶏場を増設し、数年以内には飼養羽数を5倍に増羽して、処理場の稼働率を上げる計画だ。飼料となるトウモロコシ、大豆かすは、バイア州西部からの調達で十分確保することが可能とみる。

 飼料の価格を見ると、2010年は、トウモロコシはほぼ一定で1トン当たり210ドル(1万6千380円)、大豆かすは280−345ドル(2万1千840−2万6千910円)で取引された。最近の国際価格の高騰が経営に与える影響が心配だが、当地のトウモロコシは輸出産品でないため、相場に左右されることが少なく、影響は限定的だ。自社所有のサイロには、トウモロコシ1万5千トン、大豆かす3万6千トンを貯蔵することが可能であるため、相場次第では配合割合を調整する。飼料マネージャーによれば、マトピバ地域の生産量が現在ほど多くなかった時期に、アルゼンチンから海上輸送してトウモロコシを購入したこともあったが、今ではその心配もないほど生産が増加したという。

4 マトピバ地域からの大豆輸出ルート

○域内需給のバランスが取れたマトピバ地域

 ブラジルを南緯15度で南北領域に二分すると、生産量に比べ消費と輸出が南部領域に偏っているため需要の「南高北低」があることは前述の通りだ。マトピバ地域で生産された大豆が、どこの港から輸出されているのか確認するため、ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)の統計を確認したところ、2011年、北部・北東部の4州(マラニョン州、トカンチンス州、ピアウイ州、バイア州)の大豆の輸出量407万トンは、サンルイス港53%、サルバドール港37%、イレウス港2%と9割以上が北部領域の港から輸出されていた。このことから、マトピバ地域では、ブラジルで問題となっている需給の南北問題はなく、地域内で需給のバランスが取れていることがわかった。

○東部ルートと北部ルートから輸出

 マトピバ地域からの大豆は、トラック陸送で国道242号をバイア州サルバドール港まで運搬し輸出する東部ルートと、マラニョン州ポルトフランコ市までトラック輸送、そこから南北鉄道とカラジャス鉄道にてサンルイス港まで運搬し輸出するルートの2つがメインとなる(図43)。ここでは、これらのルートを追ってみよう。

図43 マトピバ地域の輸出ルート図
資料:ブラジル交通省陸路交通局(ANTT)
  注:点線は計画中

(1)東部ルート:バイア州西部→サルバドール港

○950キロメートルのトラック輸送

 バイア州西部では、幹線道路から農場まで数10キロメートルの未舗装道路が続く場合が少なくない(図44)。未舗装道路では、積み荷を満載にしたトラックはバランスを崩しやすく、大豆の損失は1割以上になるとも聞く。幹線道路である国道242号にまで出れば、あとはサルバドール市まで950キロメートルのアスファルトの舗装路だ(図45)。サルバドール市にはバイア州西部から最も距離が近い輸出港があり、取り扱う大豆のほとんどはバイア州西部のものである。トラック輸送のコストは時期により異なるが、収穫時期の3−6月はトラック需要期となり1トン当たり120ドル(9360円)と高く、それ以外の閑散期は90ドル(7020円)だ。ブラジルでは輸出価格(FOB)の20−30%が国内輸送フレートとも言われているので、できるだけ抑えたいところである。

図44 ほ場から幹線道路までは未舗装
図45 バイア州西部からサルバドール市までは舗装道路

○最近10年間で輸出量急増

 バイア州サルバドール市にはサルバドール港(公営)、アラツ港(公営)と、C-PORT港(民営)がある。大豆の取り扱いは、袋詰めのコンテナ輸送を行うサルバドール港とバラ積船専用のC-PORT港が主となる。ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)の統計では両港合わせてサルバドール港としており、2011年は大豆152万トンが輸出されている。2001年にはわずか90トンの輸出量であったが、バイア州西部の大豆生産拡大とともに、この10年間で輸出の取扱量も急増した(図46)。

図46 大豆の輸出先別輸出量の推移(サルバドール港)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

 2011年の輸出先別輸出量は、中国が50万トンで2年続けて最多となり、ドイツ27万トン、スペイン15万トン、日本14万トンと続く。多くはバラ積船でC-PORT港から輸出されるが、日本向けの食用非GM大豆は袋詰めしたものをサルバドール港からコンテナで輸出している。非GM大豆の需要は増加傾向にあり、日本向けは前年に比べ3倍の増加となった。

○東部ルートの要となるC-PORT港

 2005年にMoinhos Dias Brancos社(本社:セアラ州、中南米最大の小麦製品製造会社)とTerminal Porturico de COTEGIPEの共同出資により開港した民営の港である(図47)。現在は、水深13−15メートルのバース2基で穀物の輸出入を中心に行い、大豆粒や大豆かすの輸出用に倉庫2棟(10万トン、14万トン)、タワーサイロ4基(7千500トン×4)、小麦の輸入用にタワーサイロ2機(8万トン、3万トン)を設置する。2012年には大豆粒輸出用のバース1基と1万8千トンのタワーサイロ8基を建設予定だ。このサイロには需要が高い非GM専用のものも計画しているという。

図47 C-PORT港の全景

 2011年の荷役取扱量は、輸出は大豆粒110万トン、大豆かす140万トン、輸入は小麦350万トンとなった。荷役料はサルバドール港など公営港が1トン当たり18−22レアル(792−968円)であるのに対し、C-PORT港は27レアル(1188円)と高い。しかし、バイア州西部の大豆搾油施設やカントリーサイロなど利用者の声を聞くと、トラック待機ステーションの設置、貯蔵施設の温度管理の徹底、時間外や休日の対応などトータルで見ると決して高くないという。

 近年、ブラジルでは収穫期は、輸出港の処理能力が追い付かず、穀物を運搬してきたトラックが公道に列をなして待機している光景が当たり前となっているが、いつ順番が来るともわからないため、運搬費は増すばかりだ。C-PORT港にも収穫期には月に500台ものトラックが大豆を運搬してくる。だが、C-PORT港ではトラックの渋滞とは無縁だ。ここでは、港から90キロメートルの地点に400台のトラックが待機できるステーションを設置し、登録順に処理予定時間を通告することで、公道の待機を回避している(図48)。運転手用に休憩所も整っており、燃料費も抑えられるため輸送関係者には大変好評である。このように民営ではサービスの向上を図ることで、輸出港としての稼働率を上げる戦略だ。

図48 穀物運搬トラック待避場

○肥料の輸入に欠かせないアラツ港

 1975年に設立され、現在は主に肥料など農業資材の輸入港となっているのがアラツ港だ。2011年の港別肥料輸入量は25万6千トンでブラジル第4位となった(図49)。C-PORT港から中国に大豆を運搬したバラ積船がブラジルに戻る際に、アラツ港に中国から肥料を積み込んでくるケースが多いようだ。輸入された肥料はトラックでバイア州西部まで運搬され、土壌改良材として利用される(図50)。バイア州西部の生産拡大から、2012年にはこの港でも大豆を取り扱えるよう、現在、施設の変更など整備が進められている。

図49 肥料の輸入港別輸入量割合(2011)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)
  注:「肥料」とは窒素、リン酸、カリウム含む鉱物、化学製品。
図50 輸入肥料が一時的に野積み管理され国内への移動を待つ。

○老朽化の進むイレウス港

 1971年にサルバドールより南に200キロメートルのイレウス市に設立された公営港だ。大型船が主流の現在、4万トン級(ハンディタイプ)の船しか接岸できないため、大量の穀物輸出には向かない。しかし、日本向けの非GM大豆の取り扱いには適しており、2011年の輸出量は5万2千トンで全体の58%となったことも納得できる(図51)。

図51 大豆の輸出先別輸出量の推移(イレウス港)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

 施設の老朽化から、BUNGEの輸入用小麦サイロは使用されておらず、また非GM大豆の輸出をC-PORT港から行うよう変更する計画があるようだ(図52)。

図52 イレウス港の穀物倉庫

○東西鉄道とポルトスル港

 バイア州政府によれば、イレウス港から北に50キロメートルのアリタグア市に新たな輸出港となるPORT SUL(ポルトスル)港を計画中とのことだ。バイア州カイチテ市にある鉱山の鉄鉱石運搬用として東西鉄道の敷設も並行して進められており、これがバイア州まで延長されれば、穀物も運搬できるようになると期待する。港の総工費は32億ドル(2496億円)で4年後の完成を目指すとのことだが、現在、建設地の用地取得が予定通り進まず、予定が立たない状況のようだ。

(2)北部ルート:ポルトフランコ→アサイランジア→サンルイス港

○輸出はマトピバ地域のものが8割以上

 北部のサンルイス港はイタキ港(公営)とポンタデマデイラ港(民間)からなり、2011年に251万トンの大豆を輸出した。輸出量の生産州別割合をみると、マトピバ地域の大豆が86%を占めており、まさにマトピバ地域のための輸出港となっている(図53)。輸出量の45%は中国向けで、サルバドール港と同様に首位となっている(図54)。

図53 大豆の生産州別輸出量の推移(サンルイス港)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)
図54 大豆の輸出先別輸出量の推移(サンルイス港)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

○トラックと鉄道を結ぶターミナル(ポルトフランコ)

 マラニョン州ポルトフランコにはマトピバ地域から運搬された大豆を南北鉄道に積み込むための専用ターミナルがある。2000年にBUNGEが利用を始め、以降、Cargill、CEAGRO&LOS GROBO、multigrain、ALGARの5社が鉄道積み込み施設を設置し、2011年はトウモロコシ、大豆合わせて171万トンを取り扱った(図55)。ALGARのみが鉄道路線併設の大豆搾油施設を所有し、大豆かすも鉄道で運搬している。ループ状の積み込みエリアには160台の貨車(計1万5千トン)が停車可能となる。

図55 鉄道ターミナル(ポルトフランコ)
資料:VALE社

○南北鉄道とカラジャス鉄道の連結地点(アサイランジア)

 カラジャス鉄道は1985年に設立し、ポンタデマデイラ港からパラ州カラジャス鉱山までの892キロメートルを結び、主に鉄鉱石を運ぶ。ポンタデマデイラ港から500キロメートル地点のマラニョン州アサイランジアで南北鉄道に連結し、マトピバ地域からの大豆の運搬を担う。

 南北鉄道は1996年に設立され、アサイランジアからゴイアス州アナポリスまでの700キロメートルを結びマトピバ地域のトウモロコシ、大豆を運搬する計画だ(図56)。現在、鉄道ターミナルがあるポルトフランコまでの225キロメートルが開通し、2012年春にはトカンチンス州パルマス、同年末には終点アナポリスまで開通する予定である。

図56 大豆を運搬する南北鉄道(インペラトリス地点)

 いずれの鉄道もすべて資源開発会社であるVALE(ヴァーレ)社が管理・運用しているため、確実な保守管理と運行が行われている。大豆専用貨車は屋根付き20メートルで1台あたり96トンを運搬し、輸送費は1トン当たり55ドル(4290円)という。トラック輸送90ドル(7020円)の4割安となるため、早期の全面開通が期待される。

○イタキ港とポンタデマデイラ港の連携

 ポンタデマデイラ港はVALE社が所有する港であり、初めはカラジャス鉱山の資源のみを取り扱う港であった。このため、最近のマトピバ地域の農業開発に伴い、大豆の輸出取扱量も増えてきたものの、輸出量は鉄鋼などが全体の9割を占めている(図57)。

図57 輸出品別輸出量の推移(サンルイス港)
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

 港の貯蔵と積み出しはポンタデマデイラ港とイタキ港の連携により行われている。すなわち、ポンタデマデイラ港には、大手穀物メジャーの穀物貯蔵倉庫がすでに配置されており、そこまでカラジャス鉄道の貨車で運ばれた大豆を誘導する(図58)。さらに、船への積み込みは、イタキ港の第2バースまで長いベルトコンベアで運搬し、バラ積み船に積み込むこととなる(図59)。

図58 ポンタデマデイラ港の大豆備蓄施設
資料:VALE
図59 イタキ港の大豆積み出し(桟橋2)
資料:VALE

 港湾関係者は、最近の世界的なトウモロコシ、大豆の需要の増加を背景に、マトピバ地域の生産増は必至と判断し、これら輸出港の取扱能力を拡大する必要性を感じている。

 イタキ港では取扱量1500万トン規模まで拡大する計画の検討が、港湾当局と数社の穀物商により進められているとのことだ。第1期500万トン分の工事が着工を始めたと聞くが、事業をよく知るVALE社によれば、予算面や実行面からこの計画が予定通り進むか不透明であるという。一方、VALE社も同様の判断から、ポンタデマデイラ港とは別に、カラジャス鉄道沿いに南に下ったメアリン港に4つのバースを整備する計画だ。このうち1つでトウモロコシ、大豆を1200万トン取り扱うこととし、5〜6年後の完成を目指すと言う。こちらが完成すると一挙に現在の5倍近くの輸出が可能となるため、関係者の期待は高い。

5 まとめ

 ブラジル農務省(MAPA)は、北部・北東部の4州に跨る「マトピバ地域」について、今後、農業開発のポテンシャルが高い新興農業開発地域と報告する。この地域は、日本の支援で始まった「セラード農業開発事業」により大豆の一大生産地に変貌し、今後は、トウモロコシなど農産物生産の拡大が期待出来る。

 今回の調査は、ブラジリアから北東に車両で5時間の地点に位置し、バイア州西部の代表的な農業開発都市となるルイス・エドワルド・マガリャエンス市(LEM市)を拠点として行った。LEM市周辺では、数千から数万ヘクタールの大規模な農業生産が一般的で、トウモロコシ、大豆、綿のいずれも世界トップレベルの単収を記録し国際市場をリードしている。輸出はサルバドール港を経由する東部ルートとサンルイス港の北部ルートが代表的だが、どちらのルートも輸出港まで1000キロメートル以上の距離がある。しかし、アスファルト舗装路や鉄道網が整備されているため、マトピバ地域で生産される大豆の9割以上が南部領域に輸送されることなく、北部領域から輸出されていた。ブラジル農業連盟は、ブラジルは穀物需要(消費・輸出)の「南高北低」が顕著で、北部領域のインフラ整備が大きな課題というが、この地域は該当しないようだ。それどころか、鉄道網の延長や輸出港の取扱能力の拡大に関する計画もいくつかあり、今後、ますます成長していく印象を強く受けた。家畜飼料となるトウモロコシ、大豆かすが安価に現地で入手できるため、鶏肉生産も順調に成長するなど農産物の付加価値加工産業も育ちつつある。

図60 ブラジル、米国の大豆輸出量と中国の輸入量の予測
資料:米国農務省(USDA)2011年2月
  注:穀物年度は9月〜8月

 米国農務省は2011年2月に2020/21年度までのブラジル、米国の大豆輸出量と中国の輸入量の予測を報告した。これによると、中国は8千800万トンもの輸入が見込まれているが、ブラジルの生産拡大が前提となっていることがよくわかる。

 大豆と同様なことはトウモロコシなどの農産物にも当てはまるであろう。今後ますます、世界の食料需要は増大する中、ブラジルの供給力に頼らなければ国際需給の均衡は保つことは出来ず、まさにマトピバ地域の生産拡大にかかっていると実感した。

 調査中、宿泊したLEM市のホテルでは欧米の農業関係者と思われる人々が忙しく行きかい、ホテル周辺のメイン通りに穀物メジャーの看板が大きく飾られるなど、ブラジルだけでなく世界中の農業投資がここに入り込んでいる躍動感を感じた。農業機械メーカーの多くも進出しており、世界中に販売網を持つ米国農業機械メーカーJhon Deer社では、2010年の店舗当たりの農業機械の販売台数は、LEM支店がトップだとも聞く。調査を終えた今、MAPAが新興農業開発地域であるマトピバ地域の今後の農業開発のポテンシャルを高く評価するのも十分納得できる。当機構でも今後のマトピバ地域の躍進に大いに期待したい。

 


 
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