調査情報部 平石 康久
【要約】●世界で最大の酪農国であり、2010年の生乳生産量は1億2千万トン(日本の生産量の15倍)である。うち水牛の生産量が半分以上を占める。生産コストも低い。 ●紅茶や直接消費以外にも、伝統的に加熱濃縮した乳や酸で凝固させた乳などから多様な乳製品を産出。84%の乳が自家消費や伝統的な流通経路を通じて消費される。 ●自給率はほぼ100%。ただし毎年400万トン〜600万トン消費量が増加すると予測。生産が追い付かなければ輸入増加につながる恐れ。たとえば、2010年の消費量のうち、5%を輸入に頼るだけで、世界全体の輸出量を12%増加させる。バターオイルや粉乳の貿易が増加か。 ●世界銀行の資金も導入し、生産拡大を目指す大規模プロジェクトが開始予定。牛の品種や飼料の改良、生産者の組織化が主な内容。生産拡大の余地はあり。 ●ただし生産拡大のスピードが問題。零細な生産基盤、国内飼料資源の制限、農村部から都市への人口流入、生産コストの上昇などが課題 はじめに世界最大の生乳、バター生産量を誇るインドは、人口の増加や所得の向上に伴う需要増加に対し、国内生産を拡大することで対応していた。 しかし、2011年以降インドでは、国内乳製品価格が上昇した影響で、粉乳などの輸出停止措置を講じるとともに、関税割当数量を設定するなどの動きも見られる。このことから、インドが乳製品の輸入に踏み切る可能性について、関係者の関心が高まっている。 伝統的な乳・乳製品の流通、加工、消費がいまだに支配的な同国の需給構造の中で、消費を充足させるため、今後の国内生産拡大への可能性と課題について、インド酪農乳製品需給の基本的な構造を明らかにしつつ、分析を行った。 T.世界最大の酪農国2010年の生乳生産量は1億2千万トン(日本の生産量の15倍)であり、世界最大の乳生産国(EUを除く)である。 近年のインドの乳製品が国際貿易に占める割合はわずかであるが、純輸出国として推移してきた。しかし、今後の経済発展等で増加する乳製品の消費量を数パーセントでも輸入で賄うと、国際市場に大きな影響を及ぼすのみならず、インドの酪農・乳業の構造は不安定さを抱えているため、短期的に生乳・乳製品の生産動向が大きく変動する懸念がある。 インド財務省の「2010年度経済調査レポート」は、国内需要は2021年度には1億7200万トンに達すると予測しており、毎年600万トンの増加を達成できなければ輸入に頼らざるを得ず、世界市場に大きな影響を与える可能性があると指摘している。 また、OECD-FAOによる予測でも2020年度には国内生産および国内需要が1億5300万トン程度としており、毎年400万トン程度の増加を達成するため、国内生産の体制整備が喫緊の課題となっている。
U.インド酪農・乳業の現状1.乳需給の概況 〜増加する生産量と1人当たり消費量〜2010年度の生産量は1億1600万トンで消費量もほぼ同じ数量であった。2009年度の1人当たり消費量は生乳換算数量で263g/日(96kg/年)で日本と同程度である。 畜産基本統計によると、年間の生産量(≒消費量)の伸びは2000年代で3.8%であり、1980年代5.5%、1990年代の4.1%より鈍化している。2000年に入ってからの人口増加は年1.64%(2001年〜2010年)であることから、1人当たり消費量の伸びは年2%強と考えられる。 今後の需要のペースについてさまざまな見方があるものの、毎年3.5−5.5%程度の増加とする予測が多く、消費の伸びに生産が追い付かない事態を、国内外の多くの関係者が懸念している。
2.生産の概況 〜水牛乳主体の生産。上位5州で生産量の半分を生産〜ウッタル・プラデーシュ州、アーンドラ・プラデーシュ州、ラージャスターン州、パンジャーブ州、グジャラート州などが主な産地である。上位の5州で全国の生産量の1/2を占めている。
インドでは、(1)1頭当たりの乳量が多い (2)乳脂肪分の割合が高い (3)廃用時にと畜することによる収益が期待できる などの理由から、ムラー種(Murrah)に代表される水牛による生産が主力である。州別に見ても5位のグジャラート州までは水牛による生乳生産が、乳牛による生乳生産量より多い。
しかし、生育環境への適性や消費者の好みで、乳牛による生産が主力の地域も多くみられる。伝統的な牛の種類はタルパルカー(Tharparkar)、ギル(Gir)、ラティ(Rathi)などがあげられる。 2003年度と2009年度の統計を比較すると、いずれの種類も生産量は増加しているが、特に交雑種(ホルスタインと伝統種)による乳量が増加しており、品種改良による乳量増加の効果が出ていることが推察される。一方で山羊などが主体のその他乳量は、草地資源荒廃を懸念する政府の意向もあり、ほとんど増加していない。
季節的な生産の変動としては、乾期(10〜5月)の終盤の4〜6月にもっとも生産が落ち込み、雨期(6〜9月)が終了し授乳が一段落した後の10〜12月にピークとなるが、6〜9月の雨季(モンスーン)の雨量により乳量が左右される特徴がある。
乳牛の飼養農家の1戸当たり平均飼養頭数は2〜3頭であり、生乳生産量の7割が飼養頭数4頭以下の小規模農家や土地なし農家によって生産されている。 酪農は農村の雇用や貧困対策に重要な役割を果たしている一方、課題として技術の普及や飼養品種の更新、乳質の向上などを抱えている。 3.不足する国内飼料とうもろこしの茎葉といった農産物残渣および大豆かすや小麦ふすまを利用しての飼養が多く行われている。 統計によると牧草地および飼料用穀物面積はあわせて1850万ha程度であり、3億頭の牛が飼育されていることから、1ha当たり16頭の牛を飼養している計算になる。
飼料需要についての現状分析は研究により異なるが、乾草、緑餌、配合飼料の潜在的な需要量のうち、相当量が不足していると計算しており、生乳増産にあたっての制限要因となっている。限られた生産資源の中で生乳生産量を増加させるためには、生産性の悪い牛の淘汰が必要であるが、牛のと畜については宗教上の制約があり、容易ではない。
4.低廉な生産コストと価格連邦直轄地であるデリー首都圏における、政府実施による乳供給事業の実績でみると、コストは毎年1割程度上昇している。2010年度デリー周辺では1リットル当たり25ルピー(42円)程度であった。
一方、他の資料によると、生産コストのうち、6〜7割が飼料費であると分析されており、飼料コストが生乳価格に大きく影響する構造となっている。
5.乳業メーカーの生産者との関係事例マハーラーシュトラ州の大手乳業メーカーによると、その企業における生乳生産者とメーカーとの関係は下記のとおりであった。
6.流通、価格、加工、消費 〜伝統的な消費・流通形態が主体〜インドの乳・乳製品の大部分は、非組織化セクターとよばれる、自家消費および周辺への販売や簡易な加工を経て消費される。この消費量は生産される乳量のうち8割以上を占めている。 そのため、消費形態も日本で見られるような殺菌された牛乳や脱脂粉乳、バター、チーズのような乳製品ではなく、伝統的な乳製品が多い。 無殺菌のフレッシュミルクをミルクティーの一種であるチャイに利用するほか、バターオイルの一種であるギー、カッテージチーズの一種であるパニールなど独特の乳製品が多く消費されている。全体でどの程度の生乳が製品に加工されているかの正確なデータは不明だが、飲用乳で半分、ギーなどのバター類に1/3が利用されているとの分析もあり、飲用のほか、ギーに代表される乳脂肪分の消費量が多いことが推察される。
なお、中央政府および州政府に登録されている乳業工場が処理できる量は年間生産量の1/4程度にしかすぎない。 それら工場による買い入れ価格は生産コストの上昇を反映して近年特に上昇しているが、牛乳では1キログラム当たり35円という水準である。ただし生産者側からはこの買取価格では生産コストを賄えるものでないとの意見が出されている。
7.消費および小売一般家庭の消費形態としては、お茶などへの利用(チャイ)が一番多く、次いで直接飲用に利用するものであり、飲用用途が多いが、自ら加工してパニールや発酵乳を製造することもあるとされる。
インドにおける乳・乳製品はタンパク質および脂質の摂取源として重要な食材である。 一方、政府担当者や関連団体からの聞き取りによると、タンパク質として肉や卵を全く食べないベジタリアンは多くはないことから、ある程度肉や卵などにより代替は可能である。脂肪分も植物油による代替は行われている模様である。 それにもかかわらず、家計消費に占める乳・乳製品の支出は大きな割合を占めているだけでなく、所得の伸びにより消費量は増加すると見られている。 家計消費の統計を見ると、2007年に乳・乳製品が食品支出額に占める割合は都市部で18%、農村部で15%となっている。所得が増加している中、実質的な支出額も増加している。 なお、タンパク質摂取源は地域により大きな差があり、乳だけでなく、卵や肉類を多く摂取する州もある。例えばナガランド州の乳消費は1日96gと全国平均の37%であるのに対し、肉類摂取量は年間33kgと、全国平均の10倍に達している。
大規模小売店内の牛乳乳製品の価格は、LL牛乳およびヨーグルト飲料において、国産ブランドは海外ブランドの1〜2割程度安い価格が付けられていた。
8.2010年および2011年は輸入国に転じるインドの乳製品貿易をみると、生産量に占める貿易量はわずかなものであるが、周辺国及びアラブ諸国に対する乳製品の供給圏を確立しており、粉乳や乳油脂類の供給国でもあった。 一方、国内の物価上昇を背景に2011年2月18日から粉乳およびカゼインの輸出の停止措置、2011年8月4日からは粉乳の関税割当数量を3万トンから5万トンに拡大するなど、国内需給を反映して純輸入国に転じている。 ただし政府担当者の意見によれば、当面の間、恒常的な輸入国に転ずる恐れは少ないとの考えである。それは平年であればわずかであるが輸出をおこなっていること、近年行われた輸入の背景としては、10月から4月にかけて牛乳の余剰分が粉乳等に加工されて、5−9月の供給が不足する時期に供給されるパターンであったものが、2010年以降国際相場が高く粉乳が輸出されてしまい、乾季に生乳が不足したことが、2010年以降輸入が増加した原因であるという意見が聞かれた。 1)脱脂粉乳脱脂粉乳は例年周辺国及びアラブ諸国に3万〜5万トンの輸出が行われていた。ただし2009年や2010年の輸出は1万トン台に減少し、10年は純輸入国となった。輸入元は豪州およびニュージーランドである。
2)全脂粉乳国際価格高騰時に調製品などに利用される原料として全脂粉乳が輸出されることがある。しかし2010年には国内価格の上昇を背景に、1万トンを超える輸入が行われた。
3)バターおよびその他乳由来油脂(ギー)バターおよびその他乳由来油脂(ギー)については、アラブ諸国などに一定量の輸出が行われてきた。 しかし、2006年、2007年および2009年以降にバターオイルの輸入がニュージーランドから行われている。関係者によると、バターオイルについては、ギーの代替になりうるとの認識が定着されてきているとのことである。
4)カゼイン伝統的にカゼインの輸出国であり、大手乳業メーカーにとって重要な収益源の1つである。しかし、2011年2月以降は輸出が禁止されている。
V.現状と今後の見通し今後のインドの乳需給を見るうえで重要な課題について、関係者などから聞き取った情報や意見を整理すると、次のようなポイントがあげられる。 1.生産拡大の余地 〜潜在的な生産余地は大きい〜牛の飼養頭数については今後大きく増やせる余地は少ないが、インドの1頭当たりの乳量は年間1500キログラム程度であり、1頭当たりの乳量を増やすことによって、生産量を増加させることは可能である。 インドの関係者は、以下のような改善を目指している。 1)品種改良による改善品種改良による1頭当たりの乳量の増加が期待できる。交雑種として代表的な品種はKARANとよばれる、ホルスタインと伝統種(Tharparkar)を掛け合わしたもの(ホルスタインが5−6割)で、飼養環境によっては年間4000kgを超える乳量があり、北インドで人気であるとのことであった。人工授精による優良系統への更新も進められている。 2)飼料の改善栄養バランスのとれた飼料給与や穀物肥育の推進により増産が可能であるとみられている。ただし、特にインド北部を中心として小麦が主食(チャパティやナンなどの平焼きパン)であることから、食料との競合の問題が発生する。 また、全国12,075戸を対象に行った調査(2011年XLインド乳業会議報告)では、80%以上の農家でカルシウムやビタミンの供与が不足しており、飼料内容の改善による乳量の改善余地が多いとの発表があった。 3)飼養管理技術の改善聞き取りによると、水牛の乳房炎は、水牛乳の生産を年間2割〜3割減少させるとの推計があった。また、夏の高温による乳量の減少が著しいことから、簡単な飼養技術管理の向上(日よけの設置など)による増産余地もある。 また、インドでは、搾乳期間:乾乳期間の割合が56%:44%(日本では搾乳期間:乾乳期間が84%:16%)という報告もあり、乾乳期間の短縮による、搾乳期間の延長も期待できる。 以上のようにインドの関係者によると、品種改良や技術改良により生産拡大を図る余地は大きいと考えられる。ただ、これらの対応は即効性においてやや懸念が残るとともに、飼料の改善には、食料との競合のほか、流通やコストの問題など、解決すべき課題があると考えられる。 2.生産拡大に向けての課題 〜拡大する消費に追いつけるのか〜生産拡大には以下の課題があると考えられる。 1)品種更新の制約宗教上の制約により牛のと畜が難しく(水牛は可能)、優良品種への切り替えには時間を要する。インドでは牛の寿命は12−13年程度とされている。 また、ホルスタインなどを基本とする交雑種や水牛はA1タイプ(注)の乳であるが、伝統種はその逆のA2タイプの乳を算出する牛が多く、品種改良に当たっては、乳質についても考慮すべきとの意見もある。 (注)A1およびA2ミルクは乳の中のベータカゼインのタンパク質の種類が違うとされる。どういった栄養学上の違いがあるかはよく検証は行われていない。 2)組織化部門のシェアが小さいこと協同組合や民間会社による組織化された生産は少なく、零細農家による生産が主体であるため、増産のための投資が行われにくい。 3)飼料資源の制限人口圧力が強く、飼料用草地が限定されている現状では、品種の更新による収量増加や簡単な加工技術の普及により輸送ロスを減らす期待はあるが、自給飼料の生産量増加に大きくは期待できない。また、穀物給与(および穀物飼育が効果を発揮する品種改良)を進める必要があるが、小麦をはじめとする穀物需給に影響するので、貧困層への影響を考慮すると、容易ではない。 4)安定した生乳確保に対する問題小規模農家や集乳業者からの集乳が主体であり、天候不順などの影響による供給の不安、個別農家の飼養管理技術などの違いによる品質の差が懸念される。また、季節的な変動が大きく、最盛期には生乳処理や加工が間に合わないことがあるが、逆にピークに合わせた設備投資を行うと過剰投資となる恐れがある。 5)都市化の進展都市化が進展するにつれ、農村部からの人口流入にともない、都市サイドの乳製品需要は増大する一方、農村部の生産者が減少していくことになる。 6)生産コストの上昇飼料価格の上昇と、確保が難しい雇用労働の賃金が上昇している。 生乳生産拡大の潜在的可能性は大きく、増産余地があることは事実であるが、人口の増加、所得の向上、都市化の進展による乳需要の増加のペースに国内生産の増加がどの程度追いつけるかが課題となる。 仮に需要増加のペースが速ければ、生産コストの上昇と相まって国民生活上重要な乳製品の価格が上昇すると、インフレ抑制のため政府による輸入の可能性は否定できないものと考えられる。 W.政府の対策政府は以上のような現状に鑑み、国家的な乳量増産プログラムを導入し、生産量増加に向けて力を入れようとしている。ここでは政府の対策について概説する。 1.国家乳業支援プロジェクト(National Dairy Support Project)世界銀行グループの国際開発協会(IDA)の融資を受け、インド政府は生乳生産量を大幅に増加させるプログラムを2012年4月より実施予定である。 実施期間は2012年4月から15年間を期間としているが、そのうち2018年3月までが第1期となる。 世界銀行の資料によると、第1期6年間の予算額は4億5390万ドル(350億円。うちIDAの融資額が3億5200万ドル)と大規模なプロジェクトとなっている。 生乳生産量の達成目標としては、2016年度(第12期5カ年計画終了時)までに1億5500万トン、2020年度までに1億8000万トンとしている。この目標設定の根拠としては、乳供給量が過去15年間で年間350万トンしか増えていないが、今後の需要が年間600万トンを超えるペースで増加するとの予測である。 (1)具体的な実施方法 (1)乳用品種および飼料の改良 (予算額2億5830万ドル) 特に不足している優良な雄牛の数を増やし、良質の精液の供給量や人工授精の割合を増加させる。人工授精の実施率は、2009年度20%であるものを、2021年度には50%まで引き上げる。 また、栄養バランスのとれた飼料給与方法の普及と、牧草の種子の更新、サイレージ化等の推進を進める。 (2)集乳の組織化 (予算額1億6630万ドル) 集乳および販売の段階で生産者の組織化を図り、小規模農家の販売力を強化する。具体的には、協同組合化をさらに進めるとともに、民間会社と協同組合の両方の長所を発揮できる生産者会社の設立を促す。 (3)経営管理技術の向上や訓練(予算額2930万ドル) (2)実施地域 同プロジェクトは14の主要生産州で行われる予定。これらの州で全国の生乳生産量の9割を占めている。
(3)関係者の反応 この計画については、協同組合の本部であるインド酪農開発委員会の関係者からは期待が寄せられる一方、同計画の実行主体および資金を受ける対象が協同組合主体であることから、民間会社からは強い不満が聞かれた。 2.2010年度までに行われてきた主な政策インドは、経済全般の包括的な方向性を定める5カ年計画が策定されている。第11次5か年計画(2007〜2011年)では、政府が行うべき対策の1つとして、畜産業全体の対策と酪農・乳業対策が定められている。 2008年度の政府が両対策に支出した金額は45億ルピー(77億円)と10億ルピー(17億円)であった。以下が、対策の内容である。 (1)畜産業全体に関連する対策 ►良質な精液の供給や遺伝資源の確保、栄養価の高い牧草種子の普及、と畜場の整備、疾病予防、家畜共済(農家1戸につき2頭まで。政府5割、農家5割の負担)などが主な内容となっている。 (2)酪農・乳業対策 ►協同組合のカバー率の高い地域はインド酪農開発委員会(NDDB)が、系統率の低い地域には農業省家畜飼育・酪農局がそれぞれ実施主体となって行われる。 ►冷蔵庫の整備、品質向上、トレーニング、小規模農家への出資(venturecapital。25%もしくは1/3)、技術支援、疾病対策、デリー市の牛乳供給プログラム、工場の設備更新などの内容 ►乳製品の輸出禁止措置 (農業省畜産酪農漁業局「2010年度年間報告」による) 3.政府による見通し 〜協同化を進め、1頭当たりの生産量を向上〜政府畜産担当部局の聞き取りによると、政府は現在の水準より飼養頭数を維持あるいは減少させ、1頭当たり乳量を増加させることによって生産拡大を図り需要に応じたいとの考えをもっている。 技術的には人工授精の普及などにより品種改良された乳牛への更新を進めて生産性向上を図ることで、乳牛の数は徐々に減少に向かうのではないかとの見通しを聞くことができた。 地域に酪農振興を推進する手法としては、生産者の協同化を進め、政府が全額負担の初期投資(牛舎、乳牛、建物や設備)を行うことにより生産環境を整備し、その後自立させることが政府の基本的な生産誘導モデルということである。 一方、短期的には飼料の品質や供給量の改善をはかることが重要であるとの認識を持ち、例として農業残渣のサイレージ化やTMR(混合飼料)の普及といった言葉が聞かれた。 なお、海外資本を含む民間投資による大規模農場については、投資による生産拡大は否定しておらず、個別生産者の協同化を進めて生産能力の向上を図る場所と、民間投資により生産能力が増加する場所と、それぞれが合理的な働きが期待できる形での生産が行われていくべきであるとの考えであった。ただし、同時に輸入乳製品による国内需要の充足については否定的な見解が聞かれた。 4.業界による要望や意見 〜生産性向上を目指すが、政策のサポートを強く求める〜業界団体も基本的には政府による見方と同様であり、飼養頭数を抑えつつ、1頭当たりの乳量の増加が図られるとの見通しを持っている。 一方上昇する生産コスト、特に飼料に対する対策を求める声が多く、穀物と同様に、粗飼料に対する最低保証価格制度の導入を求める声が聞かれた。 また、今後の乳生産増加のため農家の生乳販売収入を課税対象から外すべきとの意見もだされていた。 その他、乳業協会幹部からは、2012年2月の会議において飼料価格の上昇を抑えるために、現在インドが年間150万トンの輸出を行っている大豆粕について、20%の輸出税を課し、国内価格の上昇を緩和させるべきとの意見が表明された。事実インド財務省の大臣との折衝が行われている模様であり、大豆粕以外の粕類について10%の輸出税を課すことに同意するだろうとの観測もあった。 このようなことから、インド国内の乳需給を考えた時、乳価格の上昇を抑えつつ生産者の収益を考えた場合、大豆粕など飼料原料についても、国際需給上大きな影響を与える対策がとられる可能性がある。 外国からの乳業分野への直接投資(FDI)については、流通段階でのマージンの中抜きを警戒する声が聞かれた。 X.まとめ今後ともインドは人口増加、所得向上や都市化による消費量の増加が続くとみられる。 生産量については、1頭当たりの乳量を増やすことにより生産量を増加させる潜在的な可能性は十分にあり、インドの乳業関係者も価格次第では乳量の増加は可能との見通しを持っている。政府も従来の政策に加え、国際機関の支援も受け、生産力向上に向けた取り組みを行っている。 一方、1頭当たりの乳量を増加させるためには、品種改良や技術普及を着実に進めるとともに、不足傾向にある飼料を低廉な価格で供給することが求められている。 生産向上に向けて、国家的なプログラムも計画され、従来以上に政府からの支援は行われていくが、生産量が消費量の伸びにどの程度追い付いていけるかは、今後の動向を見定めなければならない。 需要の伸びが大きい場合、乳製品の価格上昇につながり、都市消費者に影響の大きい生活必需品のインフレ懸念が起こる。一方、農村の零細農家の収入増に貢献することになる。政府はインフレ懸念と農家の収入増の両方を見極めつつ、輸入の可能性を含めた判断を行うこととなる。 このことは、いままでと同じく、政策的な意図に貿易量が大きく左右されることが続くことを示唆するものと考えられる。 ニュージーランドやEUとのFTAが締結された時の影響について 聞き取りを行った者の関心は意外と低く、はっきりとした見通しは聞けなかった。 農業部畜産局の担当者は、FTAに限らず国内の乳生産に影響を与えるような輸入の増加が起きることについて否定的であった。 一方民間企業の担当者からは、乳製品は需要の増加に国内生産の伸びが対応できておらず、今後NZからの乳製品の増加があっても、影響は少ないとの意見をきくことがあった。 インドでは非組織化セクターの割合が高く、そこでの生産コストは低いことから、輸入による国内需給への同セクターへの影響は限定的にとらえることができるかもしれない。たとえば、FAOの統計によるインドの生乳生産者価格を主要国の価格と比較すると、インドの価格が安価なものになっている。
また、インドの乳製品については独特のものが多く、国産と輸入が競合する製品はバターオイル(不足傾向にあるギーの代替)、インド国産粉乳(不足時期の飲用用途)、一部LL牛乳やヨーグルト飲料などに限定される可能性もある。 一方で各国と同様の乳製品を製造しているインド国内乳業メーカーもあることから、たとえばグジャラート州酪農協同組合連合会のように、NZとのFTAにおいてHS4類をすべて除外するように要求しているなどの動きもある。 円換算は、2012年1月末TTSレート 1ルピー=1.7円、1ドル77円で計算 |
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