調査・報告 専門調査  畜産の情報 2012年11月号

飼料用米を活用した畜産経営の展開と地域活性化
〜大分県の鈴木養鶏場と高田牧場を事例として〜

別府大学国際経営学部 准教授 中川 隆




1.はじめに

 近年、飼料用米・WCS用稲など自給飼料生産の拡大が顕著である。とりわけ、飼料用米生産の拡大について、全国の作付面積は平成20年の1,000ヘクタールから平成23年の3万4千ヘクタールへ、生産量は平成20年の8千トンから平成23年の18万3千トンへと、きわめて大幅な増産となっている〔1〕。その背景には、現行の10アール当たり8万円の水田活用による所得補償交付金があることは言うまでもない。

 一方で、畜産部門においては、飼料用米の利活用に際し、単なる輸入穀物飼料の代替としての利用のみならず、その特徴を活かした畜産物の高付加価値化を追求する取り組みがみられるようになっている。畜産経営においても、飼料用米の活用に伴う持続性・安定性が問われており、各地で、耕種部門との連携を深化・促進させ、消費者に支持される畜産物の供給を図るべく、懸命な努力がなされている。

 本稿では、大分県で飼料用米を給与する畜産経営の実態と課題について、採卵鶏経営を営む鈴木養鶏場と肉用牛経営を営む高田牧場を事例として検討する。とりわけ、畜産経営の飼料用米活用の取り組みによる地域活性化への貢献という視点も踏まえ、考察したい。

2.大分県における飼料用米生産・利活用の動向

1)飼料用米生産・利用の背景

 大分県では、平成20年度より採卵鶏経営で本格的な飼料用の米の利用が開始されている。飼料用米の生産・利用への取り組みの契機は、配合飼料価格高騰の影響を受けていた当県養鶏協会会員の声であった〔2〕。当時、これへの対策として自給飼料生産拡大を掲げていたが、具体的な方策は定まっていなかった。当県の畜産及び水田関係部局や出先機関との協議が重ねられ、飼料用米の収量等の特性や家畜の栄養価等の調査が行われた。実践につながる課題について整理するため、平成19年、標高の異なる県下2カ所で、飼料用米7品種の試験圃場(49アール)を設置し、各種の調査が開始された。また、先進事例について学ぶため、飼料用米の生産・利用の先進地域である岩手県一関市や、実需者である株式会社フリーデン大東牧場、青森県のトキワ養鶏場の取り組みを調査し、情報収集を行っている。こうして、試験圃場で生産した飼料用米の給与試験が当県畜産試験場で実施され、同年、当県養鶏協会会員の採卵鶏への試験的給与が開始された。販売店では、飼料用米を給与し生産された卵の消費動向調査も行われている。

2)飼料用米生産・利用の動向

 表1に、当県の飼料用米利用量の推移を示す。平成19年度までは利用実績はほとんどなく、試験的給与にとどまっている。平成20年度より、本稿事例の鈴木養鶏場で本格的に利用され始めた。年間262トンの利用実績で、ほとんどが採卵鶏への給与である。このように、飼料用米は採卵鶏経営で先行利用されるが、この2、3年間では肉用鶏経営での利用増加が顕著であり、肉用牛経営での利用も増加している。地域的にみると、当県の東部では採卵鶏経営での利用量が多く、北部では肉用牛経営での利用量が多い〔3〕。また、需要のある南部九州などでの県外利用が増え、平成23年度では利用量全体(5,140トン)の28%を占めている。
表1 大分県産の飼料用米の畜種別利用量の推移
資料:大分県農林水産部家畜衛生飼料室資料を基に作成。
  注:採種圃を除く。

 表2に、行政区画(県振興局)別にみた当県の飼料用米生産面積の推移を示す。県内需要の増大と国の助成制度の充実により、県全体では、この2年間で生産面積は4.4倍に拡大し、平成23年度で940ヘクタールである。県内の水稲作付面積(2万3500ヘクタール)の4.0%を占めている。とりわけ水田地帯である北部を中心に生産面積が大幅に拡大している。

 だが、飼料用米生産の急速な拡大に県内での需要の伸びが追いついていないため、上述のように、一部は県外で利用されているのが実情である。また、耕種経営の飼料用米からWCS用稲への切り替えもみられるようになり、平成24年度の生産面積は横ばいか減少することが予想されている。主食用米から飼料用米への転換の動きなどもとりわけみられない中、現行の交付金(10アール当たり8万円)のあり方を含めた今後の飼料用米生産の動向が注目される。
表2 大分県における飼料用米生産面積の推移
資料:大分県農林水産部家畜衛生飼料室資料を基に作成。
  注:採種圃を除く。

3)飼料用米流通の動向

 当県における飼料用米の流通は、基本的に大きく分けて、(1)相対取引による直接流通、(2)JA仲介による間接流通、の2形態で展開されている。JA仲介による間接流通は、平成21年度から、肉用鶏経営で実施されている。直接流通では、価格形成において困難な面がある。この場合、輸送はフレコンバッグ(500〜800キログラム)で行うことが多く、集荷は畜産経営の庭先や農場への持ち込みである。飼料用米の保管には、JAの倉庫を借りるケース、畜産経営が保管タンクを設置するケースなど、さまざまなケースが考えられるが、保管に係るコストを耕種経営と畜産経営でどのように分担するかで困難を伴うことがある。また、保管に際しては、カビの発生を防止する必要があり、これが原因となって両者の間でトラブルになるケースもあるため、保管時の温度管理や水分管理がきわめて重要なポイントになっている。

 また、県内の飼料用米流通を推進させるため、平成22年に、需要者部会(県養鶏協会、県養豚部会、県畜産協会など)と生産部会(全農大分県本部、県農協、県食糧集荷協同組合など)で組織された「大分県飼料用米推進会議」(以下、推進会議)が設置された。ここで、関係機関の連携・情報共有化のもと飼料用米の流通推進が図られている。飼料用米の需給調整については、上述のように、飼料用米の流通形態が2分化されており、「取引条件等が需要者間で異なるため、行政及び推進会議によるマッチングは実施しない」ものとして、推進方針に定められている。ただし、「生産及び需要の推進上、生産者・需要者双方の紹介が必要な場合は、推進会議において顔合わせ等の場を設定する」とされ、「売買などの契約に係る事務については、当事者間で責任を持って実施する」とされている。

4)飼料用米を給与し生産された畜産物のブランド化の動向

 当県産の飼料用米を給与し生産された畜産物(鶏卵、豚肉、交雑牛肉)について、高付加価値化・ブランド化の取り組みがすでに始まっている。

 採卵鶏経営では、当県日出町に立地する鈴木養鶏場が「豊の米卵」として差別化商品を販売しており、同商品は県内である程度認知されている。養豚経営では、中津市に立地する福田農園が「錦雲豚」としてブランドを確立している。肉用牛経営では、豊後高田市および大田村において、(株)大分県酪食肉公社や大分県飼料用米利活用協議会との連携により、「大分県産牛(県産飼料用米仕上げ)」として、交雑牛のブランド化の取り組みが行われ、平成23年6〜8月に3度、大分市内の量販店3店舗において、試験販売が実施された。平成24年8月には「おおいた愛情こめこめ牛」(案)としたブランド名称が検討され、本格販売に向けて、同年9月に県内量販店3店舗で名称等に関する消費者調査が実施された。また、飼料用米を給与し生産した畜産物では、「肉質が良くなる」「脂肪中のオレイン酸含量が増える」ことなどを重点的に訴求したブランド化が図られている。採卵鶏経営および肉用牛経営でのブランド化の取り組みの詳細については後述する。

 表3に、上述してきた当県における飼料用米の生産・流通・利用・畜産物のブランド化に係る取組経過の要点を示す。
表3 大分県における飼料用米の生産・流通・利用・畜産物のブランド化に係る取組経過

資料:大分県農林水産部家畜衛生飼料室資料を基に作成。


3.鈴木養鶏場における飼料用米活用の取り組みの実態

 当県養鶏協会は、平成19年度に試験圃場で生産された飼料用米を基に、飼料用米導入定着化緊急対策の飼料用米利活用モデル実証に取り組み始め、その現地給与実証試験を鈴木養鶏場で実施した。その後、飼料用米利活用に向けた研修会や市場調査を実施し、新たな自給飼料としての可能性を探る活動を行ってきた。ここでは、先進事例の鈴木養鶏場の取り組みを基に、採卵鶏経営における飼料用米活用の実態と課題を検討する。

1)有限会社鈴木養鶏場の概要

 有限会社鈴木養鶏場は、大分県国東半島南端の自然豊かな日出町に立地している。昭和44年5月に創業され、大分県経済連指定若鶏農場として開設された。大分県経済連の種鶏場の閉鎖に伴い、昭和47年、採卵養鶏場(8千羽)が建設される。昭和51年9月、資本金200万円で法人経営として操業が開始された。事業内容は、鶏卵の生産・加工・販売のほか、惣菜・菓子販売、産直野菜取扱販売、有機肥料販売などであり、多角的に事業展開している。養鶏場内には、9棟の成鶏舎、1棟の育雛舎、3棟の中大雛舎がある。生産した鶏卵は、大手地場量販店のトキハグループを中心に生産量の60〜65%(月産200トンのうち120〜130トン)を直接販売し、残りは問屋に卸している。問屋では160円/キログラム、量販店では230〜250円/キログラムで販売しており、直売比率を高めることで収益向上を図っている。年間売上は6億5千万円であり、そのうち2億円弱が加工・販売部門による売上である。従業員数は40名であり、パートは3〜4名である。

 当養鶏場代表取締役の鈴木明久氏は、県養鶏協会会長も務めており、当県の飼料用米生産・利用の促進を先導してきた。また、県下最大規模の採卵鶏経営として、長年にわたり大分県の畜産・鶏卵生産を牽引し、高品質鶏卵生産や雇用創出など、地域経済活性化に大きく貢献している。後述のように、「豊の米卵」など商品の地元消費拡大に向けた販売促進や、首都圏への販売展開を積極的に行うなど、県産農産物の「The・おおいた」ブランド確立への貢献度も高い。
有限会社鈴木養鶏場代表取締役社長の
鈴木明久氏

2)多角化された事業展開〜6次産業化による鶏卵の高付加価値化〜

 上述のように、鈴木養鶏場では、鶏卵生産から加工・販売までの6次産業化を実現している。加工部門への事業展開は、平成10年に当養鶏場の近隣に立地するテーマパークで販売されるキャラクターグッズの焼き菓子作りを始めたのが契機であった。その後、平成13年、加工場兼アンテナショップである「すずらん食品館」を開設し、本格的に加工・販売事業に取り組むことになる。「すずらん食品館」では、鶏卵のほかにシュークリームやプリン等自社の原料卵を使用した加工食品の販売を行っている。平成22年5月には、大分市内のトキハわさだ店に「すずらん食品館2号店」を開店した。「すずらん食品館」での客単価は1,000〜1,200円/人であり、来客は平均200人/日で、多いときは300人/日以上にものぼる。商品は単価の高いものから売れていく傾向にあり、月商は本店が約1,000万円、わさだ店が約200万円である。主に口コミによるマーケティングを展開しており、将来的には、大消費地である福岡・博多での出店も計画している。


鈴木養鶏場の鶏卵・加工品を販売する
「すずらん食品館」
 同店舗では「安全・安心」を前面に出したブランド化を図ることで、販売単価20円/個以上の鶏卵の高付加価値化を追求している。その手段が、後述の原料にこだわった飼料用米給与であり、生産から加工・販売事業まで展開した6次産業化である。「需要のあるところに供給する」という、至極マーケットオリエンテッドな考え方に従い、商品開発及び販売展開を行っている。
すずらん食品館で販売される「豊の米卵」

3)飼料用米を活用した鶏卵生産の実態

 平成24年8月現在、当養鶏場では、12万羽の成鶏と5万羽の雛を飼養している。年間2,400トンの鶏卵生産が可能であるが、鶏舎の改造等に伴い、現在、月間160トンで年間2千トン弱の鶏卵を生産している。上述のように、鶏卵の産直事業や加工品製造・販売など6次産業化を積極的に展開してきたが、経営がいかに利益体質であっても、購入飼料の海外依存度を考えたとき、それは「砂上の楼閣」でしかないという思いがあった。これが、飼料用米の活用を始めた直接の動機である。平成23年、飼料用米を1,100トン購入しているが、購入代金3千万円が県内の耕種経営に振り込まれることにより、飼料購入資金を地域に還元することができた。また、「地域の水田を守る」という意義もある。このように飼料用米活用によるエコや地産地消への貢献の側面をとりわけ重視している。

 現在、3万羽の成鶏には、トウモロコシを全く使わず、飼料用米を給与している。残りの9万羽には、飼料用米20%を完全配合飼料に後付けした形で給与しているが、今後、県内の飼料用米生産が増えることがあれば、この自家配合比率を高めることを考えている。現在、年間3千〜4千トンの飼料用穀物を利用しているが、飼料用米で代替させることは技術的に可能であると考えている。

 ただ、平成24年産の飼料用米の購入量は1,100トンを下回る見込みである。導入先の耕種経営において牛飼料用WCS用稲への切り替えが増えたためである。また、南部九州から当県産WCS用稲の需要も高まっている。これには、やはり交付金10アール当たり8万円が飼料用米生産者・WCS用稲生産者共に等しく助成されていることが影響していると考えられる。
飼料用米を保管する専用サイロ
県下一円の生産者から集荷される飼料用米

4)採卵鶏経営における飼料用米活用の利点と問題点

 鈴木氏は、飼料用米を活用する利点として、以下の6点を挙げている。

(1)籾米なので、通年常温保存可能である。
(2)籾殻が滑りやすく、配合飼料とよく混ざる(専用配合機が不要)。
(3)鶏の嗜好性がよい。
(4)産卵成績向上の可能性が高い。
(5)籾殻が鶏の筋胃や腸管を大きく丈夫にする。
(6)鶏糞に籾殻が混ざるので、悪臭が少なく、鶏糞の発酵が早い。

 とりわけ、(3)の鶏の嗜好性について、飼料用米の方がトウモロコシよりも高く、大きな利点と考えている。一方、問題点として、以下の5点を挙げている。

(1)飼料要求率が5%低下した。
(2)100戸以上の生産者から集荷するので、品質のバラツキが大きい。
(3)1年分を一度に集荷するので、保管コスト、資金手当てが必要である。
(4)配合飼料よりもコスト高になる。
(5)乾燥・飛散等により保管する飼料用米量に減少がみられた。

5)飼料用米生産者との相対取引〜耕畜連携の促進〜

 当養鶏場では県下の100戸以上の飼料用米生産者と相対取引を行っており、「飼料用米売買覚書」の契約を毎年交わしている。覚書の第3条には、主に次のような事項が定められている。(1)代金決済は飼料用米(籾米)30円/キログラムで、支払いは当養鶏場の受け入れ後90日以内とすること、(2)地域循環と耕畜連携の為、発酵鶏糞を飼料用米生産者は10アール当たり500キログラム以上を目安に施用すること、(3)鶏糞単価は10円/キログラムとすること、(4)籾米・鶏糞共に税込現場中身価格、鶏糞代は籾米代と相殺、などである。

 (4)について「鶏糞代は籾米代と相殺」とある。採卵鶏経営にとって、最も効率的な耕畜連携とは、出来秋に鶏糞堆肥を飼料用米生産者に運搬すると同時に飼料用米を持って帰ることである。このような飼料用米と次年度米収穫用堆肥とのバーター的な取引が行われている。一方、土地条件等諸事情により、取引先の飼料用米生産者の約半数が鶏糞堆肥を利用していない。これらの生産者とは、むろんバーター取引は行われておらず、飼料用米(籾米)を20円/キログラムで購入するなど、耕畜連携関係にある場合と比べ低価格で取引されている。

6)飼料用米給与鶏卵のブランド化と大消費地への販売展開

 これまで「あさつゆ卵」や「日の出浪漫」、「平飼い有精卵 大樹」など幾つかの銘柄卵を販売してきたが、鶏卵の商品特性に起因する差別化の難しさも感じていた。そのような背景の中、より差別化された銘柄として打ち出したのが「豊の米卵」である。当県産米を給与して生産された鶏卵であることを前面に出してブランド化したのは、平成19年のことである。地場量販店のトキハインダストリーでは、「豊の米卵」が1日約500パック(5千個)、その他量販店でも、1日約500パック(5千個)が販売される。また、県内の幾つかのホテルのレストランでも、原材料の差別化のため、当養鶏場の「豊の米卵」が利用されている。

 さらに、飼料用米給与鶏卵の大消費地への販売も展開されている。大分県出身の社長が経営するアロボ広尾店(東京都渋谷区に立地する日用品・雑貨販売を中心とした小売店)では、当県産の食料品の一部が取り扱われている。そこでは、後述の「愛情たまご「優香」」が84円/個(税込)、「大樹」(有精卵)が105円/個(税込)で、バラで販売されている。紙パック(6個用・4個用)も別途販売されており、近隣在住者に多いリピーター客はリサイクル紙パックを持参し、まとめ買いを行っている。また地元大分で大変人気のある加工品のロールケーキも販売されている。
アロボ広尾店で販売される鈴木養鶏場産の鶏卵

7)採卵鶏経営の新たな動向〜アニマルウェルフェア対応鶏舎の導入とイノベーション〜

 当養鶏場は、アニマルウェルフェア(以下、AW)先行地域であるEUの飼養管理基準に対応した鶏舎をわが国で初めて導入するなど、きわめて先進的な取り組みも行っている。9棟の成鶏舎のうち、AW対応鶏舎を4棟設置している(現在2棟が稼働)。元々平飼いだったスペースに3棟のAW対応鶏舎を導入しているが、これは鳥インフルエンザ予防徹底等、鶏舎内の衛生面を強化するという点も背景にある。建設コストは1棟約5千万円である。AW対応鶏舎で飼料用米を給与し生産された卵は、「鶏にやさしい」「人にやさしい」「自然にやさしい」をコンセプトにした「愛情たまご「優香」」として、県内および上述のアロボ広尾店で販売されている。

 このようなAW対応鶏舎の導入においても、飼料用米の利活用においても、先見性が必要である。また、こうした新しい事業を展開させるためには投資が必要であるが、投資の回収には忍耐を要する。「経営には、先見性と忍耐が必要である」と鈴木氏は力説する。

 同氏の経営理念はイノベーションであり、「イノベーションこそが産業発展の元である」をモットーとしている。イノベーションの実行には資本投下を要するが、これまで地場銀行から多額の資金を借り入れるなど、きわめて積極的な資本投下を行ってきた。学生時代に学んだシュンペーターの経済発展理論を自らの経営哲学として、これまでイノベーションによる積極果敢な事業展開を実践してきたが、その経営はまさにわが国の畜産を「動かすもの」としての企業者機能を体現しているといえる。
AW対応鶏舎で生産された「愛情たまご「優香」」

4.高田牧場における飼料用米活用の取り組みの実態

1)有限会社高田牧場の概要

 高田牧場は、大分県北東部の自然豊かな中山間地域である豊後高田市小田原に立地している。労働力は、代表取締役の仲井光則氏(65歳)と妻(64歳)、次男(36歳)の3名で、繁忙期には農協のヘルパー部会からヘルパーを雇用している。交雑種肥育を中心とした肉用牛経営を展開しており、交雑種肥育牛770頭、黒毛和種肥育牛12頭、肉用牛繁殖牛14頭を飼養している。牧場内には、13棟の牛舎、3棟の堆肥舎がある。耕地面積は水田3.7ヘクタール(主食用米2ヘクタール、WCS用稲0.1ヘクタール、飼料用米1.6ヘクタール)で、飼料用米を栽培する水田では放牧も行っている。繁殖牛は、仲井氏が代表を務める地域の集落営農法人に貸し出し、水田と林地あわせて6カ所(12ヘクタール)で放牧を実施することにより、耕作放棄地解消や鳥獣害防止などに貢献している。


有限会社高田牧場代表取締役社長の仲井光則氏

2)経営発展の経緯

 経営主の仲井氏は昭和52年にUターン就農し、父親から肥育経営を継承した〔4〕。当時の経営形態は3戸の肥育経営による法人経営であり、飼養頭数はホルスタイン50頭であった。昭和55年から57年にかけ、3棟の牛舎を増設し、平成13年のBSE発生後には、交雑牛を導入し、その後、廃業した2戸の経営を継承した。近年、次男が帰農し労働力に加わり、飼養頭数の大幅な増頭が図られている。

 現在、仲井氏は、くにさき西部肉牛肥育研究会長や(農)めぐみの郷小田原組合長の役職を務めるなど、地域のリーダーとして大分県北部の農業・肉用牛生産を牽引し、平成23年には大分県知事賞を受賞した。
高田牧場で肥育されている交雑牛
「おおいた愛情こめこめ牛」(案)

3)肉用牛生産・出荷の実態

 飼養する交雑牛の素牛の導入先は大分県と熊本県で、導入日齢は60日、導入時体重は75kgである。出荷月齢は23〜24カ月齢で、早期に牛を仕上げて出荷している。1日当たり増体重(DG)は0.93キログラム、事故率は3%で(平成23年)、肥育牛の出荷時体重は690キログラムであり、その95%以上が雌である。格付けの平均は2.4等級である。肥育牛の出荷先は、大分県、福岡県、大阪府であり、過半は大分県となっている。3戸の肥育経営で飼料用米給与に取り組んでいるが、飼料設計は各経営で異なる。購入粗飼料は、ワラ、稲WCS、チモシーなどで、飼料用米は、肥育後期飼料に、トウモロコシやビール粕、麦糠等と混合給与している。
圧ペン加工された飼料用米

4)飼料用米給与の取り組みの経緯と実態〜大分県初の肉用牛肥育への活用〜

 仲井氏は、飼料用トウモロコシの価格が高騰する中で、これまでの飼養方法に不安を感じていた。平成20年の飼料価格高騰を契機に、くず米の試験的給与を開始した。「給与飼料にくず米を入れると美味しくなる」との情報を先行利用する経営から得たことも影響している。平成21年より、当県日出町に立地する飼料加工業者で飼料用米を蒸気圧ペン加工することで、肉用牛が飼料をより吸収しやすい形にして給与する体制を整えた。

 一部の肥育牛に出荷前6カ月間、濃厚飼料の2割量(1.5キログラム/日・頭)を給与し、出荷成績を調査した。平成23年度には、(株)大分県酪食肉公社を通じて、県内で初となる飼料用米給与牛としての試験販売を大分市内の量販店で実施した。「県産飼料給与による安全・安心」を訴求する形で販売し、販売店舗や消費者から一定度の評価を得た。これにより、平成24年度には本格的に飼料用米給与牛のブランド化を目指すことになった。取り組み開始時は当牧場1戸であったが、同年6月末からは肥育牛全頭に飼料用米を給与し、飼料用米給与牛の年間出荷目標頭数を880頭以上としている。現在、3戸800頭で給与に取り組んでいる。   

5)肥育牛向け飼料用米の流通チャネル

 今後の飼料用米の生産拡大を円滑に促進させ、ネックとなっていた通年保管を可能にするため、飼料用米の生産者と利用者の間に地元のライスセンターを介することにより、飼料用米の年間供給体制が整った。利用者(肥育経営)に至るまでの飼料用米の流通チャネルを図1に示す。
図1 肥育牛向け飼料用米の流通チャネル
資料:大分県北部振興局資料を基に作成。
注1:フレコン袋の費用は、地元ライスセンターが負担する(利用者は使用後、要返却)。
 2:実線矢印は物流を、点線矢印は商流をそれぞれ表している。
 飼料用米給与開始時に流通チャネルの整備を行い、飼料用米の生産者と利用者(肥育経営)の間に、上述のライスセンター及び飼料加工業者を介した間接流通チャネルを形成した。これまでライスセンターから肥育経営が飼料用米を取り入れていたが、飼養牛への給与量増加により、肥育経営が個別にライスセンターから原料を調達し、1年分を庭先で保管することが困難になったため、年間の飼料用米保管をライスセンターが担い、肥育経営から注文があれば、飼料加工業者が受け破砕加工し、肥育経営まで同業者が輸送するというチャネルへの転換が図られた。これにより、肥育経営は庭先で飼料用米を保管する手間がなくなった。

 飼料用米に係るコストであるが、肥育経営はライスセンターに籾米・保管・運搬費用30円/キログラム(税別)、飼料加工業者に加工料金5円/キログラム(税別)、税込みで計37円/キログラムを支払っている。飼料加工業者から肥育経営庭先までの輸送費は肥育経営が負担する。

6)飼料用米給与牛肉のブランド化の展開と組織間連携の重要性

 上述の3戸の肥育経営、(株)大分県酪食肉公社、大分県飼料用米利活用協議会の組織間連携により、「大分県産牛(県産飼料用米仕上げ)」として、これまで試験販売等で飼料用米給与牛肉のブランド化の取り組みが実施されてきている。平成23年6〜8月には、大分市内の量販店3店舗で試験販売が実施され、平成24年9月には、県内量販店で後述のブランド名称等に関する消費者調査及びPR販売イベントが実施されている。当該ブランド牛の定義として、「出荷までに300キログラムの飼料用米を給与すること」が条件とされている。実質的には、肥育後期に300キログラムの飼料用米を給与している。肥育経営を含めた関係者間で、「地元産の米を地域の肥育経営が利用することで、安全・安心な牛肉を生産する」という取り組みの意義の共有化を図っている。飼料用米生産者と利用者(肥育経営)のコミュニケーションの深化が重要であり、交流会の開催も今後予定されている。

 また、同年8月には「おおいた愛情こめこめ牛」としたブランド名称案が検討されている。このブランド名称を検討する過程において、仲井氏をはじめ肥育経営が深くコミットしている点にも大きな意義がある。畜産経営自身が主導的に畜産物の高付加価値化を追求する姿勢は、地域経済を活性化させる何よりの原動力となろう。
大分県内の量販店でPR販売される飼料用米給与牛肉

5.むすび

 本稿では、大分県の鈴木養鶏場と高田牧場の取り組みを事例として、畜産経営における飼料用米の活用の実態と課題を検討した。両事例共に、飼料用米の活用を基軸として、地域資源循環の促進を図り、大分県の地域活性化に大きく貢献していることがわかった。

 鈴木養鶏場では、まさに地域の活性化を担うベンチャー企業としてイノベーションを経営理念とした畜産経営が展開され、その手段として飼料用米の活用が促進されていた。最近のAW対応鶏舎の導入も注目すべきイノベーションの動向であり、今後、わが国の畜産に大きな影響を及ぼすに違いない。高田牧場の取り組みは、牛肉のブランド化が全国的に顕著な動きをみせる中、交雑牛への飼料用米の給与を売りにした高付加価値化を図る先進事例であった。その意義は、単に耕畜連携の促進手段という地域資源循環への貢献にとどまるものではない。家畜への米給与による肉脂肪中のオレイン酸含量上昇効果は、「健康志向」にある現在の消費者志向に合致したものであり、この点でも消費者に支持されうる取り組みである。今後は、出荷成績に反映された経営的意義をより追求していくことが重要となろう。

 これら2事例はいずれも飼料用米の導入によるイノベーション、生産者主導による畜産物の高付加価値化の追求により、地域活性化の中核としての機能を果たす畜産経営である。本事例でみられたような積極的な取り組みが各地で展開され、畜産における飼料用米の利活用が持続的・安定的なものになることを期待したい。

追記:本稿を草するに際して、調査に御協力頂いた大分県農林水産部家畜衛生飼料室、大分県畜産協会、有限会社鈴木養鶏場、有限会社高田牧場、JAおおいた豊後高田事業部、大分県北部振興局および農畜産業振興機構の各関係者に対して、記して感謝の意を申し上げたい。

参考文献
〔1〕農林水産省編『食料・農業・農村白書平成24年版』農林統計協会、2012年
〔2〕大分県農林水産部家畜衛生飼料室資料
〔3〕大分県農林水産部畜産振興課・家畜衛生飼料室「大分の畜産2011」2012年3月
〔4〕大分県北部振興局「有限会社高田牧場の概要」2012年


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