調査・報告 学術調査  畜産の情報 2012年11月号

25〜35歳の牛肉に対する嗜好、購買行動に関する実態調査

神奈川県農業技術センター畜産技術所 主任研究員 引地 宏二



1.背景・目的

 国産牛肉の消費は長期的な低迷が続いている。このような厳しい環境の中で、国産牛肉の消費量を増やしていくためには、基点となる消費者の牛肉に対するニーズを把握することが必要である。

 本研究では牛肉輸入自由化から20年経過し、当時10代前後だった25〜35歳を中心に、世代間での牛肉に対する嗜好、購買、消費行動を比較するとともに、牛肉輸入自由化前後では異なる消費動向だった関東と関西の比較を通して、これから社会や家庭の中核となる25〜35歳の消費者ニーズを解明し、今後の肉牛生産の方向性について生産者へ提示していくことを目的とする。

2.調査方法

調査方法:インターネットアンケート調査
対 象 者:25〜65歳
 25〜35歳(以下「35歳以下」という。)、36〜45歳(以下「45歳以下」という。)、46〜55歳(以下「55歳以下」という。)、56〜65歳(以下「65歳以下」という。)
地  域:関東(東京都、神奈川県、埼玉県)、関西(大阪府、兵庫県、京都府)
性  別:男性・女性
実施時期:平成23年12月中旬
回 収 数:2,496名

3.結果及び考察

(1)調査結果

ア 牛肉を購入する頻度

 「黒毛和牛肉」の購買頻度について、「ほとんど買わない」、「全く買わない」が約70%を占め、「2週間に1回」以上の購買頻度は約11%であった。同様に「国産牛肉」では、36%、37%であり、ほとんど購入しない割合と日常的に購入する割合がほぼ同数であった。「外国産牛肉」では、44%、35%であり、「国産牛肉」に比べてほとんど購買しない割合が多かった(図1)。


図1 牛肉の購買頻度

表1 地域、年代間別の牛肉の購買頻度(ポイント)
*設問毎に地域間、年代間の異符号間で有意差(p<0.05)、年代間は分散分析とTukeyの多重比較、地域間はU検定
 購買頻度を「月に1回ぐらい」1ポイント、「2週間に1回くらい」2.1ポイント、「週に1〜2回」6.4ポイント、「週に3〜4回」15ポイント、「ほぼ毎日」30ポイント、「ほとんど食べない」0.3ポイント、「全く食べない」0ポイントと数値化

 牛肉の購買頻度を年代間で比較すると、35歳以下ですべての牛肉の購買頻度が有意に低く、55歳以下で「外国産牛肉」の購買頻度が有意に高かった。また、地域間では関西で「黒毛和牛肉」「国産牛肉」の購買頻度が有意に高く、特に「国産牛肉」の購買頻度が2.13ポイントで「2週間に1回」以上購入する日常的な食材であることが確認された。「外国産牛肉」については地域間の購買頻度で有意差は認められなかった(表1)。

イ 購入する牛肉の産地

 普段(日常)購入する牛肉の産地について、年代間では35歳以下で「牛肉は自分で購入しない」が多く、65歳以下では「国産牛肉(赤身の多い牛肉)」が特に多かった。また地域間では、関西で「国産牛肉(赤身の多い牛肉)」が多く、関東で「外国産牛肉」や「国産、外国産は気にしない」「牛肉は自分で購入しない」が多かった(表2)。

表2 普段購買する牛肉の産地クロス表(度数)
*地域間、年代間でχ二乗検定、調整済み残差分析の結果、有意に大きいセルは網掛け太字ゴシック数字、有意に小さいセルは網掛け数字として示した。
ウ 牛肉を食べる頻度

 牛肉を食べる頻度について、「黒毛和牛肉」は35歳以下で食べる頻度が有意に少なく、「国産牛肉」は45歳以下で有意に食べる頻度が少なかった。また地域間では関西で「黒毛和牛肉」「国産牛肉」が有意に多く食べられていた(表3)。
表3 地域、年代間別の牛肉を食べる頻度(ポイント)
*設問毎に地域間、年代間の異符号間で有意差(p<0.05)、年代間は分散分析とTukeyの多重比較、地域間はU検定
 食べる頻度を「月に1回ぐらい」1ポイント、「2週間に1回くらい」2.1ポイント、「週に1〜2回」6.4ポイント、「週に3〜4回」15ポイント、「ほぼ毎日」30ポイント、「ほとんど食べない」0.3ポイント、「全く食べない」0ポイントと数値化
エ 牛肉を利用する場面

 牛肉を利用する場面について、年代間では35歳以下は「黒毛和牛肉」が「自分へのご褒美」「誕生日・記念日」「利用しない」、「国産牛肉」が「日常の食材」「休日」、「外国産牛肉」が「日常の食材」「バーベキューをする時」が多かった。また、地域間では、関西で「国産牛肉」を「日常の食材」「バーベキューをする時」で利用する場面が多く、関東では「外国産牛肉」の「バーベキューをする時」で多かった(表4)。
表4 地域、年代間別の牛肉を利用する場面(度数)
*回答者の20%以上が選択した項目及び10%以上で地域間、年代間に有意差があった項目を示した。
*地域間、年代間でχ二乗検定、調整済み残差分析の結果、有意に大きいセルは網掛け太字ゴシック数字、有意に小さいセルは網掛け数字として示した 。
オ 牛肉を利用する理由

 牛肉を利用する理由について、年代間で、35歳以下は「黒毛和牛肉」、「国産牛肉」の「贅沢な気分になれる」が多く、「外国産牛肉」の「味や風味が好き」が35歳以下、45歳以下で多かった。また地域間では、関東で「国産牛肉」の「贅沢な気分になれる」、「外国産牛肉」の「味や風味が好き」が多く、関西では「国産牛肉」の「価格が手頃」「料理の種類が多い」「子供の頃からよく食べた」、「外国産牛肉」の「特に理由がない」が多かった(表5)。

表5 牛肉を利用する理由(度数)
*回答者の20%以上が選択した項目及び10%以上で地域間、年代間に有意差があった項目を示した。
*地域間、年代間でχ二乗検定、調整済み残差分析の結果、有意に大きいセルは網掛け太字ゴシック数字、有意に小さいセルは網掛け数字として示した。
カ 牛肉のおいしさを表現する言葉

 牛肉のおいしさを表現する言葉について、年代間では35歳以下で「黒毛和牛肉」の「脂ののった」「ジューシー」「うま味がある」が多く、地域間では、関西で「黒毛和牛肉」の「ジューシー」、「外国産牛肉」の「あてはまる表現がない」が多かった(表6)。
表6 牛肉のおいしさを表現する言葉(度数)
*回答者の20%以上が選択した項目及び10%以上で地域間、年代間に有意差があった項目を示した。
*地域間、年代間でχ二乗検定、調整済み残差分析の結果、有意に大きいセルは網掛け太字ゴシック数字、有意に小さいセルは網掛け数字として示した。

(2)考察

ア 集計・分析

 「黒毛和牛肉」「国産牛肉」「外国産牛肉」の消費行動と地域や年代との関連性を明確にするため、牛肉の利用場面と牛肉を食べる理由の選択項目を地域(関東、関西)と年代(35歳以下、45歳以下、55歳以下、65歳以下)を組み合わせた8区分について集計・分析を行い、その結果をもとにグラフ化した(図2〜4)。
図2 年代、地域と黒毛和牛肉の利用場面と利用する理由
※クロス集計からコレスポンデンス分析を行い、その得点をもとに2次元グラフ化
図3 年代、地域と国産牛肉の利用場面と利用する理由
※クロス集計からコレスポンデンス分析を行い、その得点をもとに2次元グラフ化
図4 年代、地域と外国産牛肉の利用場面と利用する理由
※クロス集計からコレスポンデンス分析を行い、その得点をもとに2次元グラフ化
 地域全体では、グラフ右上方向に関東、左下方向に関西と地域ごとにまとまりが認められた。35歳以下では関東と関西の地域間が近くに配置され、45歳以下、55歳以下と徐々に離れ、55歳以下では原点からほぼ対角線上に位置した。地域間別にみると、「黒毛和牛肉」では、関西では35歳以下が「自分へのご褒美」「バーベキュー(以下BBQと省略)をする時」「スタミナ源」、45歳以下は「価格が手頃」、55歳以下は「大勢の人が集まる」、65歳以下は「正月」「料理にコクがでる」など行事や料理と関連性が高かった。一方、関東では55歳以下が「クリスマス」、65歳以下が「健康にいい」、45歳以下は「利用しない」に近く、「黒毛和牛肉」とおいしさの結びつきが非常に限定的であった。

 「国産牛肉」では、関東では35歳以下と45歳以下で「友人との食事」「自分へのご褒美」、45歳以下と55歳以下で「誕生日・記念日」「利用しない」で関連性が高く、65歳以下では「料理にコクがでる」で関連性が高かった。また35歳以下の関東と関西共に「休日」と関連性が高かった。関西では45歳以下で「BBQをする時」「大勢の人が集まる」、45歳以下と55歳以下で「子供の頃からよく食べた」、55歳以下で「日常の食材」と関連性が高かった。関西の55歳以下と65歳以下では「価格が手頃」「料理の種類が多い」で関連性が高かった。以上の点から、関東では「国産牛肉」に対して特別な日に食べる贅沢品であるのに対し、関西では昔から食べている日常の食材として認知されていると考えられた。

 「外国産牛肉」では、関西で55歳以下で「利用しない」、45歳以下、55歳以下で「料理の種類が多い」、35歳以下では「スタミナ源」との関連性が高かった。関東では35歳以下、45歳以下で「BBQをする時」、「味や風味が好き」、45歳以下で「家族のリクエスト」「料理にコクがでる」と利用場面や利用する理由との関連性が高いのに対し、関西では低かった。この結果から、関東では「外国産牛肉」に対して利用する場面や理由があり、「黒毛和牛肉」や「国産牛肉」の代替品という位置づけではないと考えられた。一方、関西では「利用しない」という「外国産牛肉」に対して積極的に利用しない層と、「料理の種類が多い」という積極的に利用する層に分かれていると考えられた。その中で関西の35歳以下が、どの年代よりも関東に近く配置されたことは、牛肉の利用場面や理由が関東に近づいていることが示唆された。

イ 年代別因子分析

 牛肉の消費行動の理由を知る上で、消費者がどのような考え方の背景から食品を購買、消費しているのかを知ることは重要である。そこで食全体に対する消費者のスタンス(以下「食ライフスタイル」という。)に関する54項目の設問について「あてはまる(=5)」から「あてはまらない(=1)」の5肢選択式で評価してもらい、その回答結果を用いて年代別に因子分析を行い、項目の共通点から年代別に考え方の背景となる潜在的な因子(ニーズ)を抽出した。

 食ライフスタイルに関する設問から年代別因子分析を行った結果、「料理」、「安全性」、「地域環境」、「節約」、「健康」、「栄養」の6つの因子(ニーズ)が抽出され(表7)、35歳以下では第1因子が「地域環境」、その他の年代では「料理」が抽出され、35歳以下の食に関する考え方の特徴として「地域環境」に意識または関心が高いことが認められた(表8)。
表7 因子分析により抽出された因子
※因子抽出法は最尤法さいゆうほうを用いた。
表8 35歳以下因子分析の結果
※因子軸の回転法は項目間の相関性を考慮してプロマックス回転とした。

4.結論

 本研究の主題である25〜35歳の牛肉購買、消費の特徴を整理すると、日常的に利用する手頃な価格の「外国産牛肉」と「味や風味が好き」で「贅沢な気分になれる」特別な日に「焼肉屋」で食べる「黒毛和牛肉」「国産牛肉」という嗜好や購買行動の実態が明確になり、また、分析の結果から、この世代の牛肉に対する考え方は関東、関西で差が少ないことが示された。

 一方、地域間では消費、購買行動に特徴がみられる。関西では、牛肉の購買頻度、普段購入する牛肉の産地や牛肉を食べる頻度の結果から「国産牛肉」を多く利用していると考えられ、さらに「国産牛肉」の利用場面や理由として「料理のしやすさ」、「日常的な食材」、「おかずにすると子供が喜ぶ」、「価格が手頃」、「料理の種類が多い」、「子供の頃からよく食べた」が挙げられ、家庭料理の食材として牛肉が定着していると考えられた。関東では、普段購買する牛肉は「外国産牛肉」、購買産地に関して「外国産牛肉」または「産地を気にしない」という意見が多く、また牛肉を利用する理由として「外国産牛肉」に対して「価格の手頃さ」と「味や風味が好き」をあげ、産地へのこだわりが低く、価格が手頃な「外国産牛肉」を多く利用していることが推測された。

 以上の結果から25〜35歳や関東地域では牛肉購買頻度が低く、日常的な食材として価格が手頃な「外国産牛肉」を利用している。このような消費者に「外国産牛肉」から「黒毛和牛肉」「国産牛肉」へ消費をシフトしてもらうためには、消費者が「食」に対して求めている潜在的な因子(ニーズ)として抽出された「料理」、「安全性」、「地域環境」、「健康」、「栄養」、「節約」をキーワードとし、「料理」や「健康」、「栄養」と結びつけて適度な脂身、ジューシーさ、うま味等の要素を取り入れた「黒毛和牛肉」、「国産牛肉」の新たな価値を提供していくことが重要であると考える。

 


元のページに戻る