調査・報告  畜産の情報 2013年4月号

平成23年度加工乳・乳飲料等の
生産実態調査の結果について

畜産需給部 乳製品課


【要約】

 近年の加工乳、乳飲料およびはっ酵乳の消費は、年度によって様々な需要動向をみせており、普通牛乳の消費にも大きな影響を与えている。当機構では、これら乳製品の需給を的確に把握するため、「加工乳・乳飲料等の生産実態調査」を毎年実施しているが、今般、平成23年度の調査結果を取りまとめたので、その概要を報告する。

1.調査対象

 本調査は、「加工乳」「乳飲料注1」「はっ酵乳」の3品目について、アイテムごとの生産量、成分、原材料使用割合等を調査したものである。調査対象は対象品目を生産している全国142企業(現在廃業等した7社を含む)であり、有効回収は107社、有効回収率は79.3%であった。

注1 乳飲料は大きくわけて、牛乳をベースとして牛乳の栄養分や風味をそのままにカル
   シウムや鉄、ビタミン、ミネラルなどの栄養分を強化した「白物乳飲料」と、コーヒー
   や果汁などの入った色のついている「色物乳飲料」がある。本調査では、風味にか
   かわらず、白いものを「白物乳飲料」、色のついているものを「色物乳飲料」に区分
   している。

2.生産動向

(1)加工乳

 平成23年度の加工乳生産量は9万4426キロリットル(前年度比28.6%減)で、特に「その他」注2の生産量は3万432キロリットル(同56.2%減)と減少が顕著であった。22年度までは「低脂肪」と「濃厚」の生産シェアが減少していたが、23年度はこれら2タイプが前年度並みとなる一方で、「その他」の生産量が大きく減少した(図1)。

注2 加工乳は乳脂肪率によって「低脂肪(1.5%以下)」「濃厚(3.8%以上)」「その他
   (1.5%超〜3.8%未満)」の3タイプに分類した。
図1 タイプ別加工乳生産量の推移

 企業区分別注3では、21〜22年度は、大手3社の加工乳生産量が大きく増加していたが、23年度は1万8182キロリットルと2万キロリットルを下回り、生産シェアも19.3%と2割を下回った。一方で、23年度は中小系の生産量が5万2774キロリットルと5万キロリットル台を回復し、生産シェアも55.9%と過半数を占めた(図2)。

注3 本調査では、企業区分を「大手乳業3社(以下、大手3社)」「農業プラント系(以
   下、農プラ系)」「中小系」の3区分に分けて分析を行っている。「大手3社」とは株式
   会社明治、森永乳業株式会社、雪印メグミルク株式会社の3社、「農プラ系」は主に
   酪農生産者団体が出資する乳業会社、「中小系」は大手3社・農プラ系を除いた
   その他の乳業会社をいう。
図2 企業区分別加工乳生産量の推移

 また、各企業に対し、23年度の生産量が前年度と比べ変動した要因を調査した。タイプを問わず、加工乳の生産量が減少した要因としては「消費者の嗜好の変化」「牛乳類との競合」「より廉価な乳飲料への生産シフト」「脱脂粉乳の価格上昇に伴う価格競争力の低下」等の意見がみられることから、牛乳や乳飲料と比較すると、消費者の嗜好性・価格面双方において市場競争力が低くなっているものと思われる。

(2)乳飲料

 平成23年度の乳飲料の生産量は106万3607キロリットル(前年度比20.6%増)となった。農林水産省「牛乳乳製品統計」においても23年度は生産量が増加しているが、今回の調査については、これまで回答のなかった比較的規模の大きい企業の回答が新たに含まれていることに留意する必要がある。

1)色物乳飲料

 色物乳飲料の生産量は58万883キロリットル(前年度比24.0%増)となった。タイプごとの生産量シェアは、平成22年度まで「コーヒー」が減少傾向にあり、「フルーツ」「その他注4」が増加傾向にあったが、23年度は「コーヒー」の割合が若干増加し、「フルーツ」「その他」の割合が若干減少する結果となった(図3)。

注4 色物乳飲料における「その他」タイプとは、「コーヒー」「フルーツ」のどちらにも属さ
   ない色のついた乳飲料であり、ココアやティーオーレ等が該当する。
図3 タイプ別色物乳飲料生産量の推移

 企業区分別では、23年度の中小系の生産量は19万3181キロリットル(前年度比131.3%増)となった。農プラ系も同31.1%増加させており、大手3社のみが同3.8%減と前年度を下回る水準となったことから、生産量シェアでは、大手3社が5年間で72.2%から55.5%まで割合を低下させた(図4)。
図4 企業区分別色物乳飲料生産量の推移

2)白物乳飲料

 白物乳飲料の生産量は、加工乳からの生産シフトなどにより、48万2724キロリットル(前年度比16.7%増)となった。

 企業区分別では、中小系は15万3076キロリットルと同72.6%増、大手3社も24万198キロリットルと同3.7%増となった。一方で、農プラ系は8万9450キロリットルと同4.2%減となった(図5)。近年では大手3社の生産量も増加傾向にあるが、それ以上に中小系の生産量が伸びており、平成23年度では大手3社の生産シェアが49.8%と、過半数を割った。
図5 企業区分別白物乳飲料生産量の推移

3)乳飲料全体

 各企業に対し、平成23年度の生産量が前年度と比べ変動した要因を調査した。

 色物乳飲料については、増加要因として「新商品開発」「顧客獲得」等、減少要因として「大手メーカーの攻勢」「価格競争の激化」「コスト削減が上手くできず価格競争力がない」等の回答がみられ、色物乳飲料の価格競争は厳しくなっていると思われる。

 白物乳飲料に関しては、増加要因として「新商品開発」「成分調整牛乳や加工乳からの生産シフト」「特売による販売促進」「低価格商品の販売」等がみられた。

 東日本大震災による生産量への影響については、色物乳飲料のほうがより変動しやすいという傾向がみられた。東北地方の企業は減少要因として、その他の地域の企業は増加要因として震災の影響を挙げている。

(3)はっ酵乳

 平成23年度のはっ酵乳注5の生産量は9万6375キロリットル(前年度比22.8%増)となった。タイプ別注6のシェアでみると、「ハード」「ドリンク」は近年シェアが減少傾向にあり、「ソフト」「プレーン」はシェアを増やしている(図6)。

注5 はっ酵乳については、これまで回答のなかった比較的規模の大きい非乳業系企業
   の回答が新たに得られたことに留意する必要がある。

注6 はっ酵乳のタイプを次のとおり分類した。(1)ハード:寒天やゼラチン等で固形化した
   もの、(2)ソフト:果肉等を加えて流動性のあるもの、(3)プレーン:牛乳・乳製品等を
   はっ酵させたもの、(4)ドリンク:プレーンヨーグルトを液状化したもの、(5)フローズン
   等:上記以外のもの。なお「フローズン等」は過去5年間の生産量シェアがいずれの
   年度も0.2%を下回っているため、図中には記載していない。
図6 タイプ別はっ酵乳生産量の推移

 企業区分別注7にみると、23年度は非乳業系の生産量が20万2652キロリットル(前年度比59.9%増)と顕著な伸びを示している。乳業系も同15.8%増と生産量を伸ばしているが、シェアでみると8割を下回ることとなった(図7)。

注7 本調査では、原則として、生乳処理場を持っている企業を「乳業系」、生乳処理場
   を持っていない企業を「非乳業系」と分類した。
図7 企業区分別はっ酵乳生産量の推移


 各企業に対し、23年度の生産量が前年度と比べ変動した要因を調査したところ、増加要因としては「健康志向」を挙げる企業が多かった。東日本大震災の影響については、東北地方の企業において、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う生産減少という回答もみられたが、北海道や西日本の企業を中心に「震災による特需」「東北地方や関東地方への出荷増」「震災後の品薄状態に伴う増産」等、生産増の理由とする回答が多くみられた。

3.原材料使用割合の動向

(1)加工乳

 加工乳の原材料使用割合注8は、生乳が21.6%と前年度よりも0.4ポイント減少し、脱脂濃縮乳は10.1%と前年度から4.4ポイント増加した。バターの使用割合は0.4%と前年度よりも0.8ポイント減少し、脱脂粉乳も4.0%と前年度から1.4ポイント減少した。

 平成19年度以降、脱脂粉乳の使用割合は3.8〜5.4%と比較的変動が少ないが、生乳や脱脂濃縮乳については使用割合の変動は大きい傾向にある(図8)。

注8 原材料使用割合のうち、「生乳」には「殺菌乳」「部分脱脂乳」などを含む。
図8 加工乳の原材料使用割合の推移


(2)乳飲料

1)色物乳飲料

 色物乳飲料の原材料使用割合は生乳が6.2%と前年度よりも0.6ポイント増加し、脱脂濃縮乳は2.1%と前年度から0.6ポイント減少した。

 平成19年度以降、生乳の使用割合は5.6〜7.9%で推移しており、他の原材料使用割合に比べると変動幅がやや大きい(図9)。
図9 色物乳飲料の原材料使用割合の推移


2)白物乳飲料

 白物乳飲料の原材料使用割合は、生乳が15.5%と前年度から5.5ポイント減少し、脱脂濃縮乳は5.6%と前年度から0.3ポイント減少した。バターの使用割合は0.4%と前年度から0.3ポイント減少し、脱脂粉乳は3.4%と前年度から0.3ポイント減少した。

 平成19年度以降、生乳の使用割合は14.2〜21.0%で推移しており、他の原材料使用割合に比べると変動幅が大きい。なお、脱脂粉乳の使用割合は毎年減少傾向にある(図10)。
図10 白物乳飲料の原材料使用割合の推移


(3)はっ酵乳

 はっ酵乳の原材料使用割合は生乳が23.9%と前年度よりも2.4ポイント増加した。バターおよび脱脂粉乳の使用割合は、ほぼ前年並みとなっている。

 生乳の使用割合は年度ごとにばらつきがあるものの、平成22年度を除き24〜25%前後で推移している。また、脱脂濃縮乳は21年度に前年度の3.4%から6.0%に大きく増加し、以後6%台となっている。逆に脱脂粉乳は21年度に前年度の5.8%から5.2%に減少し、以後5%台前半で推移しており、使用割合が減少している(図11)。
図11 はっ酵乳の原材料使用割合の推移


4.おわりに

 今回の調査において見られた特徴的なポイントは以下の通りである。

(1)大手乳業3社の加工乳生産量の大幅な減少と白物乳飲料生産量の増加

 平成23年度における加工乳の生産量は前年度比28.6%減となっており、特に大手乳業3社については同72.1%減と大幅に減少している。減少の要因としては、「他の牛乳類との価格競争力の低下」や「消費者嗜好の変化」等が挙げられている。近年の脱脂粉乳やバターなどの価格上昇に加え、「加工乳」に分類されるものは、カルシウムなどの添加物を使用できないため、消費者ニーズに柔軟に応えられないことが、これらの背景にあるものと思われる。

 一方、白物乳飲料については、添加物を使用できることから、「新商品開発」の可能性が広がることや「成分調整牛乳・加工乳からの生産シフト」「低価格商品の販売」等を要因として、生産量が増加しており、大手乳業3社も同3.7%の増加となっている。

(2)非乳業系を中心としたはっ酵乳生産量の増加

 はっ酵乳生産量は前年度比22.8%増となっており、特に非乳業系の生産量の増加が顕著である。生産量増加の要因として「健康志向の高まり」を挙げる企業が多く、近年のはっ酵乳市場は、消費者ニーズに合致した分野として、引き続き高い伸びが期待される。

(3)東日本大震災の影響による、北海道・西日本の生産量増加

 平成23年度は東日本大震災が生産に大きく影響を与えた時期であり、特に乳飲料やはっ酵乳の生産量の増減要因として、震災の影響を挙げる企業が多くみられた。東北地方では東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害、関東地方では計画停電の影響や原材料不足により、生産量を減少させざるを得ない状況にあった。一方、これら地域への一時的な出荷増により、北海道や西日本では生産量を増加させた。

(4)白物乳飲料やはっ酵乳における脱脂粉乳使用割合の低下

 白物乳飲料やはっ酵乳の原材料のうち、脱脂粉乳の使用割合が低下する傾向が近年みられている。これは、大手乳業メーカーを中心とした消費者のフレッシュ志向を反映した脱脂粉乳から脱脂濃縮乳などへの切り替えや、平成20〜21年度の脱脂粉乳価格の上昇が影響しているものと考えられる。その後、脱脂粉乳価格が一時的に下がったものの使用割合は回復せず、23年度においても使用割合が低下した状態となっている。


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