調査・報告  畜産の情報 2013年4月号

食肉の販売意向調査の結果
(平成25年度上半期)について

畜産需給部 需給業務課


【要約】

 平成25年度上半期における食肉の販売意向などに関する調査を実施した結果、穀物高や輸入相手国における現地相場動向、国内における経済状況、輸入牛肉の月齢制限緩和措置など、複雑に影響しあう様々な要素を勘案しながら、各社で対応を迫られている現状が浮き彫りになった。上述の規制緩和措置による影響については、米国産牛肉の販売量の増加を見直しつつも、当面は、前期と比較して販売活動を大きく変化させず、動向を注視する傾向もみられた。

1.はじめに

 当機構では、食肉の販売動向を把握するため、年に2回、小売店や卸売業者に対し、食肉の取扱割合や販売見通しに関するアンケート調査を実施している。今回は、平成25年度上半期(4月〜9月)の食肉、特に牛肉および豚肉の販売動向について、2月中〜下旬に量販店、食肉専門店および卸売業者の協力を得て調査を行った。加えて、本年2月1日から実施された米国産などの輸入牛肉の規制緩和措置に対する各社の対応や、当該措置を踏まえた今後の見通しについてアンケート調査を行ったので、これらの概要について報告する。

2.調査対象先

 当機構では、食肉の小売価格や市況(仲間相場)について調査を実施しており、今回も同調査の対象企業にアンケート調査を行った。

(1)小売店…全国の主要量販店および食肉専門店
     ・量販店:26社のうち25社から回答を得た(回収率96.2%)。
     ・食肉専門店:60社のうち58社から回答を得た(回収率96.7%)。

(2)卸売業者…全国の主要卸売業者
     ・牛肉:19社のうち17社から回答を得た(回収率89.5%)。
     ・豚肉:15社のうち14社から回答を得た(回収率93.3%)。

 なお、両畜種の調査協力企業は、一部重複している。

3.調査結果

(1)最近の食肉の取扱割合(重量ベース)

 量販店および食肉専門店(専門店)に対し、各店における最近の食肉の取扱割合について調査したところ、量販店では豚肉が約4割と最も多く、牛肉、鶏肉はそれぞれ約3割であった。また専門店では牛肉および豚肉が約4割で、鶏肉は2割弱であった(表1)。牛肉の割合が、前回調査の結果と比較すると3ポイント低下したが、東日本大震災発生前である23年2月に実施した調査の結果と比較すると2ポイント上昇しており、牛肉の取扱いに関しては震災前と同程度あるいはそれを上回る水準にまで回復していると言える。

表1 小売店(量販店・食肉専門店)における食肉の品目別取扱割合

注:( )内は前回調査(24年9月実施)の結果
 卸売業者に対しても取扱割合を調査したところ、牛肉については和牛肉および国産牛肉の合計割合が11ポイント上昇し、輸入牛肉の割合が低下した。また、23年2月に実施した調査における国産品と輸入品の比率と同じであったことから、震災からの回復の兆しがここにきて表れたと言える(表2)。
表2 卸売業者における牛肉の品目別取扱割合

注:( )内は前回調査(24年9月実施)の結果
 また、豚肉に関しては逆に国産品の割合が7ポイント低下し、これは前々年同期の調査結果をも下回っていた(表3)。
表3 卸売業者における豚肉の品目別取扱割合

注:( )内は前回調査(24年9月実施)の結果

(2)平成25年度上半期の販売見通し

(1)量販店における販売見通し

 平成25年度上半期(4月〜9月)の各品目の販売見通しについて調査したところ、量販店における和牛肉の販売見通しは、牛肉の放射性セシウム検出問題発生時から大きく回復した前回調査(24年9月実施)と比べると「増加」の割合が減少したものの、48%と、前々回調査時(24年2月実施)よりも高かった。

 輸入牛肉については、「増加」が6割を占めた。前年同期(24年度上半期)の調査結果においても「増加」が5割を超えており、季節的な傾向である可能性も考えられるが、後述のとおり、本年2月1日から実施された米国産などの輸入牛肉の月齢制限緩和措置に伴う対応も反映されていると推測される(図1)。

 豚肉および鶏肉の販売見通しについても調査したところ、国産豚肉および国産鶏肉は「増加」の割合が減少し、「同程度」の割合が増加した。
図1 量販店における牛肉の品目別販売見通しの推移


 また、輸入豚肉および輸入鶏肉に関しても、「同程度」の割合が増加したことが特徴といえる(図2、3)。
図2 量販店における豚肉の品目別販売見通しの推移

図3 量販店における鶏肉の品目別販売見通しの推移

(2)専門店における販売見通し

 専門店に対しても平成25年度上半期の販売見通しを調査したところ、牛肉については、前回調査と比較して輸入品の「増加」の割合が増えたが、専門店は和牛肉および国産牛肉の取扱割合が高く、これらの販売に重点を置く傾向があることなどから、その割合は2割弱にとどまった。また、豚肉および鶏肉に関しては、量販店と同様に、国産豚肉および国産鶏肉の「増加」の割合が減少し、「同程度」の割合が増加した一方、輸入豚肉および輸入鶏肉の販売見通しは、前回調査と比較して大きな変化はなかった(図4)。
図4 専門店における食肉の品目別販売見通し(平成25年度上半期)

(3)卸売業者における販売見通し

 卸売業者における牛肉の品目別販売見通しは、輸入冷蔵品に関しては前回調査と比較して「増加」の割合が上昇したが、小売店と同様に、季節的な変動および米国産など輸入牛肉の月齢制限緩和措置への対応が要因として考えられる(図5)。
図5 卸売業者における牛肉の品目別販売見通しの推移

 また、一方で「減少する」と回答した企業の割合も増加した。この要因としては、一部の企業において、昨年末以降、為替相場が円安傾向で推移していることや、現地相場が高値で推移していることなどから、輸入牛肉の取扱量を減少させる方針が立てられていることが挙げられる。

 豚肉に関しては、小売店と同様に前回調査と比較して国産品の「増加」の割合が減少し、輸入冷蔵品は「増加」が増えた。ただし、前年同期の調査結果と併せて比較すると、両品目とも季節的な変動による見通しの変化と見ることもできる。

 一方、輸入豚肉の冷凍品は、これまでの調査に比べ「減少」の割合が大幅に高まった。一部企業から寄せられたコメントによると、平成24年4月以降、輸入申告に係る審査・検査の充実化が図られており、今後の仕入れ動向に影響を与えるという推測が、上述の見通しの理由となっているようである(図6)。
図6 卸売業者における豚肉の品目別販売見通しの推移

 さらに、卸売業者の牛肉および豚肉の部位別販売見通しについては以下のとおりであった。和牛肉、国産牛肉において増加見通しの割合が最も高かったのは、比較的安価な「切り落とし」であった。一方、「かた」や「かたロース」は、他品目と比較して減少見通しの割合が高かった。また、輸入牛肉において増加見通しの割合が最も高かったのは、冷蔵品では「サーロイン」、冷凍品では「ばら」であった(図7)。
図7 卸売業者における牛肉の部位別販売見通し(平成25年度上半期)

 豚肉については、国産品の「かた」、「もも」および「切り落とし」、輸入冷蔵品の「かた」や「もも」の増加見通しの割合が高かった。一方、輸入冷凍品は全部位において減少見通しが50%以上を占めた。この背景には、前述の円安傾向や主要輸入国の一部における現地相場高、輸入申告の審査・検査の充実化による影響などがあるとみられる(図8)。
図8 卸売業者における豚肉の部位別販売見通し(平成25年度上半期)

(3)販売促進に向けての対応(小売店)

 平成25年度上半期の販売促進(販促)の回数について、小売店を対象に見通しを調査したところ、量販店では、輸入牛肉、国産豚肉および国産鶏肉については「回数を増やしたい」とする割合が最も高く、その他の区分においては「これまでと同様」という回答が多かった。また、輸入豚肉および輸入鶏肉に関しては、「回数を減らしたい」とする割合も高く、これらの品目の最近の価格上昇を反映した対応の一つと考えられる(図9)。
図9 量販店における販促回数の見通し(平成25年度上半期)

 一方、専門店では全品目について「これまでと同様」の割合が最も高かった(図10)。
図10 専門店における販促回数の見通し(平成25年度上半期)

 また、各畜種の販売拡大に向けた具体的な対応については、量販店では全畜種について「調理方法や食べ方の提案」を実施するとの回答が多かった。また、豚肉と鶏肉に関しては「惣菜や味付け肉の強化」を実施するとの回答も多く、その割合はいずれも8割以上であった。(図11、12)。
図11 量販店における食肉の販売拡大に向けた対応

注:複数回答
図12 専門店における食肉の販売拡大に向けた対応

注:複数回答

(4)消費者の牛肉に対する意識(小売店)

 平成23年4月に発生したユッケ食中毒事件や、同年7月以降特に問題となった、放射性セシウム検出に伴う風評被害など、牛肉の安全性に対する消費者の信頼を揺るがす出来事があったことや、デフレが続く経済情勢を踏まえ、量販店および専門店に対して、最近の消費者の牛肉に対する意識が一年前と比較してどのように変化したかを調査した(図13、14)。

 その結果、「安全・安心への関心」や「国産の産地への関心」については、量販店・専門店ともに「大変高くなった」あるいは「高くなった」の割合がこれまでよりも低下したものの、「変わらない」が顕著な増加をみせた。このことから、牛肉の安全性への関心は、依然として消費者の購買行動に影響を与えていることが推測される。

 また、「低価格・節約志向」については「高くなった」あるいは「変わらない」という回答の割合が増加した。

 今回の調査先からは、品質・安全性と価格のどちらを訴求するかによって、国産品志向と輸入品志向とに二分されるというコメントもあることから、このような結果になったものとみられる。
図13 消費者の牛肉への意識に関する量販店の認識

図14 消費者の牛肉への意識に関する専門店の認識

(5)消費増減の要因について(卸売業者)

 卸売業者に対して、牛肉、豚肉それぞれの消費が増減する要因を調査したところ、消費の増加を後押しするものとして、牛肉では「小売価格の低下」や「卸売価格の低下」、豚肉では「牛肉からの代替」が多く挙げられた。

 一方、消費減退の要因となりうるものについては、牛肉、豚肉ともに「卸売価格の上昇」、「小売価格の上昇」および「原産地価格の上昇」が多数であった。また、豚肉については、「鶏肉への代替」も多数挙げられた(図15、16)。
図15 牛肉および豚肉の消費が増加する要因

注:複数回答
図16 牛肉および豚肉の消費が減少する要因

注:複数回答

(6)輸入牛肉の月齢制限緩和措置の影響

 先般、これまで20カ月齢以下とされていた米国、カナダ、フランス産牛肉の輸入条件が、本年2月1日から30カ月齢以下(オランダ産については12カ月齢以下)へと変更されたが、この月齢制限緩和措置に対する各社の対応を以下にまとめた。

(1)品種別牛肉取扱量変化の見通し

 米国産牛肉および国産牛肉の取扱量をどのように変化させるかについては(図17〜19)、量販店では米国産が「増加する」と回答した割合が5割以上を占め、国産乳牛おすおよび国産交雑牛では「変わらない」という回答が最も多く、次いで「減少する」の割合が高かった。専門店では、和牛について「変わらない」という回答が7割以上、国産乳牛おすについては6割弱を占めることから、従来の国産品に重点を置いた販売姿勢を継続させる店舗が多いと考えられる。
図17 量販店における品種別牛肉取扱量変化の見通し

図18 専門店における品種別牛肉取扱量変化の見通し

図19 卸売業者における品種別牛肉取扱量変化の見通し

(2)米国産牛肉取扱量を増やす企業における具体的な対応・見通し

 (1)で米国産牛肉の取扱量が「増加する」と回答した企業に対して、月齢制限緩和措置を受けて具体的にどのような対応をとる予定か、あるいは見通しを持っているかを尋ねたところ(図20〜22)、いずれの業態においても半数以上が、取り扱う輸入牛肉の産地を豪州などから米国へシフトさせると回答した。特に、卸売業者においては、米国産牛肉取扱量を増加させる企業のうち9割が、豪州産などの取扱量を減少させる予定であるとの結果が出た。この背景には、豪州産などの価格が高水準で推移していることがあるとみられる。
図20 量販店における具体的な対応・見通し

注:複数回答
図21 専門店における具体的な対応・見通し

注:複数回答
図22 卸売業者における具体的な対応・見通し

注:複数回答
 また、取扱いを増やす部位については、量販店および卸売業者ではそれぞれ8割以上が「ばら」および「内臓類」と回答したのに対して、専門店においては「サーロイン」との回答が最も多く、約6割を占めた(図23〜25)。

 なお、「増加する」と回答した卸売業者において、増加予定の「内臓類」は、タン70%、サガリ40%、ハラミ20%(複数回答)であった。
図23 量販店における取扱量増加予定の部位

注:複数回答
図24 専門店における取扱量増加予定の部位

注:複数回答
図25 卸売業者における取扱量増加予定の部位

注:複数回答
(3)米国産牛肉取扱量を当面は増加させない理由

 米国産牛肉取扱量が「変わらない」、「減少する」、「わからない」など、増加させないと回答した企業に対して、その理由を調査したところ(図26〜28)、量販店および卸売業者においては、ともに約半数が「仕入れ価格の低下が見込まれないから」と回答した。この背景には、新興国における需要増加により、日本向け輸出量が大幅に増加することはないという見通しがある。また、量販店においては、約半数が「当面の仕入れ動向を見て判断したいから」、「消費者や供給先の反応を見て判断したいから」と回答しており、慎重な態度を示していることがうかがえた。また、輸入される米国産牛肉の肥育期間が従前よりも長くなることにより、肉質の向上が期待できるため取扱量を増やしたいが、円安傾向により価格面でのメリットが少ないため、当面は様子を見る、といった声も聞かれた。
図26 量販店において米国産牛肉取扱量を当面は増加させない理由

注:複数回答
図27 専門店において米国産牛肉取扱量を当面は増加させない理由

注:複数回答
図28 卸売業者において米国産牛肉取扱量を当面は増加させない理由

注:複数回答
(4)豚肉の販売への影響(卸売業者)

 豚肉を扱う卸売業者に対して、当該措置が豚肉の販売へ与える影響について尋ねたところ(図29)、半数以上が「影響はない」と回答した。
図29 月齢制限緩和措置が豚肉販売へ与える影響(卸売業者)

注:1および2については回答が重複している

4.おわりに

 今回の調査では、これまでと同様の調査項目である次期販売見通しなどに加え、本年2月1日以降の米国産などの輸入牛肉の月齢制限緩和措置を受けた各社の対応に焦点を当てて調査を実施した。調査先の回答からは、米国産牛肉の仕入れ価格低下や販売量の増加を期待しつつも、当面は「様子見」の意向を持つ企業が多いことがうかがえた。

 この背景として、昨夏以降の穀物高が依然として尾を引いていることや、新興国における需要増加から、主要輸入相手国の多くは現地相場が高値で推移している上、為替相場が円安傾向で推移しているため、仕入れコストの上昇が免れない状況下にあることが考えられる。

 今後は、夏場の需要期に向けて各社がどのような販売活動を行っていくのか、その動向が注目される。

 


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