特集:自給飼料生産の振興に向けて  畜産の情報 2013年2月号

飼料用米(籾米サイレージ)の栽培・加工・利用の実態と課題
〜山形県真室川町における先進的な取り組み〜

秋田県立大学 生物資源科学部 教授 鵜川 洋樹


【要約】

 飼料用米は新規需要米として作付面積が急速に増加しているが、そのなかで籾米サイレージは飼料用米の生籾をサイレージにした飼料で、大家畜に給与できる国産濃厚飼料として注目されている。山形県真室川町では、籾米サイレージに先駆的に取り組み、生産・流通方式を確立している。そこでは、水田利活用と飼料自給率の向上が達成されるとともに、耕種経営と畜産経営が実質的に連携し、それぞれが経営的なメリットを実現している。

1.はじめに

 1970年代から実施されている米生産調整において、飼料作物は重要な転作作物として位置づけられており、水田地帯に立地する畜産経営では、転作田で生産された飼料作物に依拠する経営が多数みられるようになった。加えて、こうした畜産経営は、堆肥を耕種経営に供給し稲わらを収集するなど、耕畜連携による地域の資源循環の中核になっている場合が少なくない。

 2011年に本格実施された農業者戸別所得補償制度における新規需要米は10アールあたり8万円という助成金のインパクトが大きく、その作付面積は急激に増加した(図1)。そのなかでも飼料用米の増加度合いは最も大きい。本稿では、籾米サイレージに先駆的に取り組んでいる山形県真室川町の事例を取り上げ、その栽培・加工・利用の実態と課題について報告する。

 なお、籾米サイレージとは、飼料用米(生籾)を粉砕・密封してサイレージ発酵させた飼料で、乾燥工程が不要なことから低コストな濃厚飼料として大家畜に給与することができる。
図1 新規需要米の作付面積

2.飼料用米の利用

 転作作物としての飼料用稲は、これまで稲WCSとして利用されてきた。稲WCSの生産・調製は畜産経営が担う場合が多く、繁殖肉用牛や乳用牛の粗飼料として給与されている(表1)。一方、飼料用米(玄米)は、生産(栽培)は耕種経営、調製・加工はカントリーエレベータ(CE)や飼料会社が行い、これを畜産経営が購入して、主に豚や鶏に濃厚飼料として給与している。飼料用米(玄米)は濃厚飼料であることから、配合飼料の代替としてすべての畜種に給与できるが、玄米にするための乾燥調製費や飼料会社(工場)までの輸送費が製造コスト増加の要因になっている。加えて、耕種経営は助成金によって主食用米程度の所得が補償されているが、飼料用米の乾燥調製費が販売価格よりも高いことから、その差額(赤字)は単収が高いほど大きくなるなど、生産に対するインパクトの欠落が指摘されている。
表1 飼料用稲の種類と特性
 他方、籾米サイレージは、近年普及した技術であることから、営農レベルでの給与マニュアルが未確定で、畜産経営では試行錯誤しながら肉用牛や乳用牛に配合飼料の代替として給与している。生産工程は、耕種経営が栽培するところまでは玄米利用と同じであるが、生籾を粉砕・膨軟化してサイレージ発酵させることから、乾燥費は不要であり、遠くの飼料会社まで輸送する必要もない。また、耕種経営において乾燥調製費が発生しないことから、生産に対するインパクトは保持されている。飼料用稲が水田の利活用と飼料自給率の向上に寄与するものとして推進されているなかで、籾米サイレージは低コストな濃厚飼料として注目され、畜産経営と耕種経営の双方からの期待も大きい。

 なお、籾米サイレージの生産技術は、ソフトグレインサイレージとして1990年頃には開発されていたが、耕種経営が飼料用米の生産から得られる所得水準が低く、普及することはなかった。この技術が営農レベルで普及するのは、農業者戸別所得補償制度に先立つ2009年頃からである。

3.真室川町における籾米サイレージの取り組み

1)真室川町の概要

 真室川町は山形県の北端に位置し、耕地面積1,872ヘクタールのうち94%が水田という水田農業地帯である。総農家数は703戸で、水稲と園芸や畜産との複合経営が多い。畜産経営(肉用牛、乳用牛)は50戸で、中でも繁殖経営が40戸と多数を占める。真室川町の2011年の米生産調整面積は717ヘクタールで、転作率は39%になる。転作作物の中では飼料作物が約200ヘクタールで最も面積が大きく、全体の28%を占める。飼料作物の内訳は、永年牧草が105ヘクタールで最も大きく、次いで飼料用米(73ヘクタール)、稲WCS(12ヘクタール)の順になっている。真室川町では飼料用稲を除く飼料作物と園芸作物に産地交付金を設定し、生産を奨励している。また、耕畜連携が推進され、堆肥センターを中核とする堆肥散布(200ヘクタール)や転作田における飼料生産、耕種経営における稲WCS生産が取り組まれ、それぞれの作業を請け負うコントラクターが設立されている。

 真室川町が籾米サイレージに取り組む契機になったのは、世界の穀物需給の逼迫により配合飼料価格が高騰するなかで、2008年に米生産調整の緊急配分(65ヘクタール)があったことである。当時、真室川町の水田農業推進協議会(町役場と農協で構成)では、その対応として稲WCSの増産を検討したが、コントラクターの収穫作業面積が上限に達していたことから、稲作用のコンバインで収穫できる籾米サイレージに取り組むこととした。そのため、産地交付金で稲WCSと同等の助成体系(10アールあたり4万2000円)を設定した。こうして真室川町の籾米サイレージは水田協主導で進められることになり、農協が籾米サイレージの原料となる飼料用米(生籾)を耕種経営から買い取り、加工してから畜産経営に販売する方式(農協の加工販売事業)となった。当時、籾米サイレージは取り組み事例が少なく、畜産経営の認知度も低かったことから、畜産試験場と連携するなど意欲的な農家へのサンプル提供からスタートした。また、飼料用米の栽培農家については、転作大豆の連作障害対策として導入が始まった。その後、クチコミ等により取り組みは拡大し、2011年には栽培農家は80戸(75ヘクタール)にまで拡大し、給与農家も13戸(700頭)に増加した(表2)。なお、2012年の栽培面積は90ヘクタールの予定である。

表2 真室川町における籾米サイレージの栽培と給与

2)籾米サイレージの生産と流通

 真室川町における籾米サイレージは、既述のように、農協の加工販売事業として実施され、そこでの取引主体は図2のように整理できる。

 耕種経営は飼料用米を栽培して、行政から水田利活用で10アールあたり8万円の助成金を得て、飼料用米(生籾)をキログラムあたり8円で販売する。生籾の平均単収は10アールあたり785キログラムなので、販売額は10アールあたり6,280円になる。加えて、ほとんどの飼料用米の稲わらは畜産経営によって収集されていることから、耕種経営は耕畜連携の助成金10アールあたり1万3000円も受け取ることができる。したがって、収入合計額は10アールあたり約10万円になる。なお、生籾の買取価格(キログラムあたり8円)は農協が独自に決めた水準である。また、籾米サイレージの販売価格(畜産経営における購入価格)は、生籾の買取価格に加工コストを加えた水準になるが、そこでは配合飼料価格とのバランスが重要になる。籾米サイレージのハンドリングや品質の安定性、変敗リスク等を考慮して、TDN換算で配合飼料価格の半額程度が目安とされている。

 飼料用米の栽培品種は統一されておらず、主食品種の「はえぬき」や専用品種の「べこごのみ」など多様である。主食用と飼料用の栽培方法はほぼ同じで、飼料用では出穂以降に防除を行わない点が異なる。専用品種の場合は、その特性を発揮するために、施肥量を増やすなど特別な管理が必要になる。こうしたことから、大規模経営では専用品種、小規模経営では主食用品種の栽培が多いという傾向がみられるものの、明確な単収差はなく、全体では71%が主食用品種になっている。
図2 籾米サイレージの生産と流通
 農協の製造工程では、カントリーエレベータの施設(プレスパンダーなど)を使って、生籾を粉砕・膨軟化し、フレンコンバッグに詰め込み、乳酸菌の添加や水分の調整をしてから密封する。この後、貯蔵場所(屋外)に移動し、2カ月程度でサイレージ発酵が仕上がり製品になる。その時点で脱気および穴の確認などを行い、保管するところまでを農協が行う。これらの作業は4名の臨時雇用(9月から50日間)で実施されている。製造工程の作業効率は施設整備により年々上昇し、2008年には1時間あたり1トンであったが2011年には1時間あたり3トンになり、作付面積に換算すると1日あたり2.3ヘクタール分の処理が可能になった。なお、製造および保管に要する費用は、賃金や資材費、電気・水道料金等がキログラムあたり15円であり、畜産経営への販売価格はこれに生籾代8円を加えてキログラムあたり23円になる。TDN換算ではキログラムあたり43円(籾米サイレージ原物の水分率30%、TDN含量53.2%)で、配合飼料価格の半額程度となっている。

3)耕種経営における籾米サイレージ用米生産

 ここで事例とした耕種経営は山間地に位置する集落営農で、1993年にライスセンターの共同利用組織としてスタートし、2007年に転作大豆の作業受託を行う集落営農、2010年には農事組合法人となった。2012年の構成員は4名、他に従業員が6名で、水稲、大豆、野菜の生産と作業受託を行っている。

 飼料用米の作付は、転作大豆の連作障害対策として2008年の籾米サイレージ利用開始時から導入され、「大豆(3年)−飼料用米(3年)」の水田輪作が目標とされている。飼料用米の導入により、作付構成は大きく変化した。導入前は、作業受託を含めると大豆が全体の75%を占めていたが、導入後の2011年には60%に減少し、水稲(主食用+飼料用)が31%に増加した(表3)。
表3 飼料用米の導入と作付面積の変化
 水稲の作付品種は、主食用は「ひめのもち」、「ひとめぼれ」、「はえぬき」、「あきたこまち」で、平均単収は10アールあたり450〜500キログラム程度である。飼料用は「べこごのみ」で、単収は生籾で10アールあたり600キログラム程度である。「べこごのみ」の単収は専用品種としては高くないが、倒伏しないことから管理が楽であり、防除費が少なく、共済掛金も不要なことから、全体の費用は主食用に比べ低い。一方、主食用米の10アールあたりの収入は、米の販売額が9万円程度で戸別所得補償を加えると10万5000円になる。同じく飼料用米は水田利活用による助成金が8万円、稲わら収集による耕畜連携による助成金が1万3000円、稲わら代(2ロール)が7000円、生籾代が5000円で、計10万5000円になる。したがって、主食用米と飼料用米の収入は同程度であるのに対し、費用は飼料用米の方が低いことから、所得では飼料用米の方が高いことがわかる。また、主食用米には乾燥調製費がかかることから、飼料用米の有利性はさらに高い。

 このように、事例経営における籾米サイレージの導入は、水田輪作による土地利用方式の高度化と収益性の向上を同時に実現している。なお、事例経営が主食用米10ヘクタールを作付ける理由は、地主(30名、36ヘクタール)に対する現物小作料として使用するためである。

4)畜産経営における籾米サイレージ利用

 畜産経営については、酪農経営と肉用牛繁殖経営の2つを事例とした。

 1つめの酪農経営は経産牛90頭を飼養する大規模経営で、後継者が同じ敷地内で別経営として繁殖肉用牛(40頭)の飼養を始めている。経営者は発酵TMRの給与試験に取り組むなど、新技術に熱意があり、稲WCSを利用するコントラクターの構成員でもある。籾米サイレージは2008年の開始時から給与している。給与に取り組んだ理由は、「米だから悪くない」、「サイレージの魅力」である。給与飼料はTMRでコーンサイレージやビール粕、大豆粕、自家配合飼料、籾米サイレージ、乾草(スーダングラス)などを調製している。日乳量35キログラムの設計で、年間の個体乳量は9,200〜9,300キログラムである。このTMRの中で籾米サイレージの導入により変化したのは、配合飼料と大豆粕である。籾米サイレージの給与量は経産牛1日1頭あたり3キログラムで、それにより配合飼料は11キログラムから6キログラムに減少したが、籾米サイレージはタンパク質含量が少ないことから大豆粕は増加した。なお、稲WCSの給与時期になると、籾米サイレージは2キログラム、稲WCSは3キログラムになる。2011年の籾米サイレージ購入量は200袋×500キログラム=100トンであり、ほかに稲WCSが2.5ヘクタール、サイレージ用稲わら収集10ヘクタールがあり、水田が重要な飼料基盤になっている。自給飼料としては、牧草が10ヘクタール、トウモロコシが9ヘクタールあり、ともにロールベールサイレージに調製されている。

 2つめの肉用牛繁殖経営は繁殖牛(育成を含む)136頭を飼養する大規模経営である。2008年の畜産公共事業(公社営事業)を活用し120頭牛舎を整備し、繁殖牛頭数を47頭から急拡大した。当面は140頭を目標としている。給与飼料はTMR(セミコンプリート)で、繁殖牛1日1頭あたり籾米サイレージ1.25キログラムと牧草サイレージ10キログラムである。籾米サイレージ導入前は配合飼料を1.2キログラム給与していたが、導入後は籾米サイレージ以外の購入飼料はない。また、1月になり稲WCSの給与が始まると、籾米サイレージの1.25キログラムと、稲WCSと稲わらサイレージ合計10キログラム(乾物6キログラム)という組合せになり、飼料は稲だけになる。なお、繁殖牛の分娩前には配合飼料1.5キログラムが増給される。経営者の籾米サイレージに対する評価は高く、配合飼料の代替によるコスト低減に加え、原料は近隣の人が生産しているため安心感が大きく、顔の見える連携であることから、原料の水分も均一で品質も高まるなどの効果がみられる。

 また、この経営では稲作も行っており、主食用稲12ヘクタール、籾米サイレージ用稲2ヘクタールを栽培している。飼料用米の品種は「ひとめぼれ」で、専用品種は稲わらの嗜好性が悪いことから使用していない。ほかに稲WCSの利用が4〜5ヘクタール、サイレージ用稲わら収集が38ヘクタールある。自給飼料は牧草地が40ヘクタール程度あり、サイレージに調製している。
写真1 開封された籾米サイレージ
写真2 屋外で保管される籾米サイレージ

4.籾米サイレージの普及に向けて

1)真室川町における籾米サイレージ取り組みの成果

 これまでみてきたように、真室川町における籾米サイレージの取り組みは、米生産調整の助成金を前提にしながらも、飼料用米(玄米)で課題とされた耕種経営におけるインセンティブ欠如がなく、畜産経営においても低コストな濃厚飼料として配合飼料の代替利用を可能にしている。そのため、耕種経営が畜産経営における籾米サイレージ利用を想定した飼料用米の栽培を行い、その結果、品質が向上し、畜産経営は地元産の飼料を安心して利用できるようになっている。したがって、食料自給率の向上を目的とする水田利活用の目的に合致するとともに、耕畜連携の主体である耕種経営と畜産経営の双方の合理性に基づく収益向上、土地利用や地域資源循環の高度化も実現していると評価できる。

 このような籾米サイレージの取り組みは、真室川町が推進する公共牧場を中核とした畜産振興策の耕畜連携等に位置づけられただけではなく、真室川町農協が加工販売事業として主体的に取り込むことで、行政と農協が一体となって進められている。また、農協は加工(製造)工程の施設改善に取り組み、作業効率や品質の向上を実現するとともに、開封後の変敗防止技術を開発するなど、利用効果をさらに高める取り組みを継続的に行っていることも特筆すべきことである。

2)籾米サイレージ普及・定着の課題

 真室川町における籾米サイレージ利用に関する先駆的な取り組みは、他の地域の模範となっており、その利用は広がりつつある。利用のための生産・流通システムのあり方は、地域の条件に応じて異なると考えられるが、どのようなシステムでも、その定着のためには低コスト化と品質向上が内包された仕組みであることが必要である。籾米サイレージの実需者である畜産経営が、配合飼料と比較したうえで利用するからである。低コスト化のためには加工工程の効率化、品質向上のためには栽培技術の向上などが考えられるが、それらはいずれも畜産経営における給与を念頭に置いた取り組みである。このような本来的な耕畜連携や地域連携を視野に入れながら、水田利活用と国産濃厚飼料の供給を可能にする籾米サイレージ利用がより広い地域で普及することが望まれる。

 また、真室川町で取り組まれている籾米サイレージの栽培・加工・利用の仕組みは、土地利用や資源循環、経済性の点からみて合理性が高く、一連の生産方式として確立されたものといえるが、今後は助成金に依存しない仕組みを構築することが望ましい。そのためには経済性をさらに高めることが必要である。具体的には、生産費用の低減と販売価格(畜産経営における購入価格)の引上げである。真室川町の籾米サイレージ用稲は主食用品種が多数を占めているが、これを専用品種に置き換え、単収を高めることが生産費用の低減にとって重要である。そのためには、専用品種がその能力を発揮でき、さらには直播栽培ができるような基盤整備等が求められる。

 また、畜産物に付加価値をつけてその販売価格を高めることができれば、籾米サイレージ購入価格の一定程度の引上げは可能と考えられる。例えば、地元産の籾米サイレージ利用をセールスポイントにして畜産物のブランド化を図り、高価格で販売することができれば、高値で購入することができる。豚や鶏では飼料用米を利用したブランドが既に確立していることから、牛でもその可能性は高い。ただし、真室川町の畜産は酪農と繁殖肉用牛が主体であることから、消費者にとって商品の差別化ができず、ブランド化が難しい。この点については、真室川町で増加しつつある和牛肥育を含め、籾米サイレージを起点とする六次産業化等による付加価値獲得に向けた取り組みが求められる。

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