海外情報  畜産の情報 2013年6月号


新たな市場の確保に向けたタイの鶏肉産業の動き

調査情報部 宗政 修平

【要約】

 タイの鶏肉産業は、自国で飼料用原料となるトウモロコシの調達ができる強みを生かし、2012年7月のEUのタイ産生鮮鶏肉の輸入解禁を機とした国際的衛生基準の確保という信頼性を得て、国際市場でシェアを伸ばしていく動きが活発化している。

 しかし、国際市場でシェアを確保するためには、安価なブラジル産との競合を覚悟しなければならない。このため、より安価な鶏肉生産への取組に向けて隣国(ラオス、カンボジア)を巻き込んだサプライチェーン構築を図り、イスラム圏など新たな市場の確保を目指している。

1.はじめに

 タイの鶏肉生産量は142万トン(2012年)であり主要生産国である米国、中国、ブラジルに比べ10分の1程度であるが、輸出量は55万6000トン(同)と世界第4位を誇る(図1)。

図1 世界の鶏肉輸出量(2012年)
資料:タイは機構調べ、その他は米国農務省(USDA)
 日本との貿易関係では、2004年の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生を機に、タイ産生鮮鶏肉の取引は停止しており、スーパーなどでは見ることはないが、加熱加工品(もも肉や手羽先のから揚げなどの既に製品となった鶏肉調製品)の輸入は、年々増加傾向にあり、2012年は22万トンと、輸入シェアの49パーセントを占めるなど、日本の食卓にとって欠かすことのできない存在になっている(図2、図3)。
図2 日本向け鶏肉輸入量の推移(タイ産)
資料:貿易統計(財務省)
図3 鶏肉(生鮮および輸入加熱加工品)の日本国内供給量(2012年)
資料:食鳥流通統計(農水省)、貿易統計(財務省)
    HS:輸入生鮮鶏肉(冷凍)(020714)および輸入加熱加工品(160232)
 また、2012年7月、欧州連合(EU)は、タイの家きん衛生対策のリスク評価がEUの基準を満たしていることから、8年ぶりにタイ産生鮮鶏肉の輸入再開に踏み切り、2012年はタイの鶏肉産業にとって追い風の気運が高まった。

 しかし、それに水を差すような出来事が同時期に起きた。米国の干ばつに端を発した飼料原料用トウモロコシや大豆かすの世界的な価格高騰である。トウモロコシは自国でほぼ調達可能だが、価格はシカゴ相場に連動しているため飼料費が上昇し、コスト高をある程度緩衝できる大手インテグレーター(注)においても経営はひっ迫した。

 本稿では、EUの生鮮鶏肉の輸入解禁を契機としたタイにおける生産動向や増産の取組み、また、新たな市場開拓に向けたコスト低減への取組みなどについて報告する。

 なお、本稿中の為替レートは、1バーツ=3.43円(4月末日現在為替レート)および1米ドル=98.92円(同TTSレート)を使用した。

(注)タイのインテグレーターは、もともと飼料工場や養鶏場などから始まり、鶏の生産・流通に関わる川上から川下までの部門を垂直統合(インテグレーション)した大規模生産・流通システムを形成している事業者である。インテグレーションにより、生産費の大部分を占める飼料費、ヒナ購入費を抑え、圧倒的な競争力を持ち、小規模農場などを次々と吸収し規模拡大を図っている。現在、大手と呼ばれるのは、4社(チャルーン・ポカパン、ベタグロ、サハ・ファーム、GFPT)である。

2.鶏肉生産等をめぐる状況

 タイの鶏肉生産状況が大きく変化を遂げる契機となったのは、やはり、2004年に発生したHPAIである。このHPAI発生により、8名の死亡者が確認されるとともに、3500万羽にも上る家きん類が殺処分された。また、生鮮鶏肉の輸出が停止されたことで、加熱加工品へとシフトすることとなった(図4)。
図4 タイ産鶏肉の輸出量の推移
資料:「GLOBAL TRADE ATLAS」(GTI)
 生鮮鶏肉と同様に、加熱加工品の製造工程においても、カッティング(切り身にする工程)は必要不可欠である。特に日本向けの厳しい規格要求(から揚げは、1個当たりの重量誤差が±数グラムなど)に対応してきた正確なカット技術などは、タイ産鶏肉のメリットである付加価値の高い製品を生み出す原動力となってきた。

 今後、鶏肉産業が持続的に発展していくためには、この付加価値の維持強化とともに、生産コスト低減に向けた労働集約型から資本集約型へのシフトや、安価な飼料原料の調達、新たな市場の開拓が必要である。

 なお、現在、タイでは官民でコンパートメント方式の飼養やトレーサビリティーシステムを導入するなど防疫策を講じており、2008年11月以降、新たにHPAIは発生していない。

(1)鶏肉生産量

 2012年の食鳥処理羽数は、10億3386万羽と、HPAI発生以前を超える水準までに回復した。鶏肉生産量も141万6000トンと着実に増加傾向を示している(図5)。

 この要因としては、内需、外需ともに堅調なことが挙げられる。

 国内需要が伸びている背景は、牛肉や豚肉に比べ、安価な動物性タンパク資源であることはもちろんのこと、「モダントレンド」と称される最近の中食・外食における鶏肉加工食品の需要の増加がある。

 また、外需が伸びている要因は、日本やEU向けの加熱加工品の輸出量が増加していることが挙げられる。

 今後も需要の増加は続くと見込まれ、2013年は、食鳥処理羽数10億6735万羽、鶏肉生産量146万トンと予測されている。

 この増産を維持している背景には、タイが鶏肉の生産に適した環境基盤を有していることに加え、品質の安全性に尽力し、世界規格に通じる製品を作ってきたことにある。
図5 食鳥処理羽数と鶏肉生産量
資料:タイ農業・協同組合省農業経済局
  注:2013年は予測値。

(2)鶏肉生産に適した環境基盤

 タイが有する鶏肉生産に適した環境基盤は主に5つである。

 @飼料原料用トウモロコシをほぼ自国で調達できること、A鶏肉処理などの労働集約型の作業工程には欠かせない手先の器用な労働力が安価で確保できること(特に地方出身の女性など)、B経済発展に伴い国内消費が安定的に増加していたことに加え、EUや日本向けのムネ・モモ肉以外の部位(内臓、ガラ、もみじ)や血液も消費する食文化が土壌としてあったこと、C養鶏の盛んなバンコク近郊から大型船が接岸できる水深のある輸出港(バンコク港、レムチャバン深海港)が近いため輸送コストが低減できること、D政府の投資委員会(BOI)が鶏肉産業を投資奨励業種に指定して所得税の免除などの恩典を与えたことにより、外国資本の鶏肉処理工場や加工工場の投資が加速したこと(図6)、である。
図6 BOI投資奨励ゾーンとその恩典および養鶏が盛んな地域

(3)増産への取組

 堅調な需要を背景に増産への取組みが進んでいる。

 タイには、原々種鶏(GGP)はおらず、原種鶏(GP)はヒナで輸入されるため、タイの生産体制を測る尺度となるのは、GPの輸入量である。主な品種はアーバーエーカープラス、ロス308、コッブ500である。

 2009年より、タイ農業協同組合省は、GPの輸入量の公表を停止したため、正確なデータが取得できないが、185グラム以下の繁殖用ヒナ(採卵用も含む。)の輸入量をみると、2011年前半の輸入量が増加しており、ブロイラーサイクルからすると、2012年7月のEUの解禁に向けた増産体制に取組んでいたことがわかる。さらに2011年11月、12月は輸入量が急増しており、2013年に向けての増産体制を図っている(図7)。
図7 繁殖用鶏の輸入量の推移
資料:機構作成
 一方で、採卵鶏の飼養羽数の推移をみても、増羽数は緩やかなことから、この急増分は、鶏肉用と推測される(図8)。
図8 採卵鶏の飼養羽数の推移
資料:タイ農業・協同組合省農業経済局
 では、ここでどの程度の増産が可能か推計してみたい。大手インテグレーターは、EU解禁の思惑から2012年の年初から食鳥処理羽数を増やしており、2012年第1四半期(1〜3月)を前年と比較すると、増産したと見込まれる処理羽数は1700万羽である。歩留りを1羽当たり1.37キログラム、年々増産している分を4パーセントとして控除し、鶏肉増産量を算出すると、2万2000トン(1700万羽×1.37キログラム×0.96)となり、年間にすると9万トンの生産量の増加になる。
図9 月別食鳥処理羽数の推移
資料:タイ農業・協同組合省農業経済局
  注:平年は2009〜2011年の平均

(4)国内価格動向

 2011年前半は、価格は上昇傾向で推移しており、7月の洪水による供給不足から価格高騰が懸念されたが、政府が指標価格を設定し価格の抑制を図ったことから、下半期の小売価格はおおむね一定で推移した。

 2012年は第1四半期および6月の増産分が、EUの輸出基準(7月以降にふ化したヒナ由来の鶏肉)を満たさなかったことから輸出不可となり、行き場を失ったものが国内に仕向けられ供給過剰を引き起こした。この結果、卸売価格は下落し、農家出荷価格が生産コストを割り込む事態となった(図10)。
図10 鶏肉価格の推移
資料:タイ農業・協同組合省農業経済局
  注:生産コストは、複数の生産者聞き取り。
 一方で、鶏肉と豚肉価格との価格差は、依然としてキログラム当たり約45〜65バーツ(154〜223円)あり、豚肉が高値であることが鶏肉価格の下支えになっている(図11)。
図11 鶏肉と豚肉の小売価格の推移
資料:タイ農業・協同組合省農業経済局
 ただし、現在、米国と交渉している貿易投資枠組協定(TIFA)の中で、米国側は、タイの豚肉の輸入制限に懸念を示しており、交渉次第では安価な輸入豚肉との競合にさらされる可能性もある。

3.鶏肉輸出動向

 2012年の輸出量は、55万6000トンとタイの鶏肉生産量の39パーセントを占める。現在、2大輸出市場は日本とEUであるが、鶏肉産業の発展のために新たな市場を模索している。付加価値の高い製品を製造できる基盤が確立されている中で、新たな市場の要求に応えるのは容易であり、今後、輸出拡大の機会は増していくであろう。

(1)日本向けの輸出動向

 日本向けのタイ産鶏肉加工品の輸出量は、年々増加しており2012年で22万2000トンである(図12)。
図12 日本の輸入量の推移(加熱加工品)
資料:貿易統計(財務省)

 また、タイ政府は、日本において生鮮鶏肉の輸入解禁がなされれば、現在90パーセントを占めるブラジル産のシェアのうち30パーセント(10万トン程度)程度が将来的にはタイ産に置き換わると、予測している(図13)。
図13 日本の生鮮鶏肉輸入量
資料:貿易統計(財務省)
    HS:冷凍鶏肉(020714)
 この要因は、日本の要求する均一な品質を供給でき、かつ、ブラジル産より地勢的に優位であるため、輸送コストが低減できることである。

 日本・タイ経済連携協定(2007年11月1日発効)より、生鮮鶏肉(冷凍)の関税は16年かけて11.3パーセントから8.5パーセントまで段階的に引き下げられることも輸出競争力に寄与するであろう。

 2013年第1四半期(1〜3月)の生鮮鶏肉の平均製造コストは、トン当たり2,167ドル(約21万円)であり、仮に日本向けが解禁になった場合のCIF価格はトン当たり2,528ドル(約25万円)と試算される(表1)。
表1 日本向け生鮮鶏肉のCIF価格(試算値)
資料:機構作成
注 1:ドル・バーツの為替レートはバンコク銀行。
注 2:日本向け生鮮鶏肉は加熱加工品と同様に40フィートコンテナで輸送されると仮定。
 将来、日本が生鮮鶏肉の輸入解禁をすれば、日本向けの部位は日本人が好む「もも肉」、EU向けは欧州人が好む「ムネ肉」が輸出され、残りの部位は国内市場で吸収できるため、収益性の少ない特定の部位のみの販路拡大ではなく、「鶏1羽」で収益性が確保できる。このことは、タイの鶏肉生産の収益性を押し上げる効果を生むであろう。

(2)EU向けの輸出動向

 EUは、生鮮鶏肉に関して、タイやブラジルなどには、関税割当(TQ)を課している。

 ただし、生鮮鶏肉(冷凍)(表2の@)をみると、TQを課されている国からは、TQ枠を大幅に超えた輸出が行われている。この要因は、枠外税率は、CIF価格に応じて設定されており、これらの国のCIF価格は高いため、結果的に課税額が低く設定され障壁となっていないためである。

 一方で、加塩鶏肉(表2のA)は、TQ内、枠外税率ともに高いことから、TQ枠内の輸入量さえ満たしていない。
表2 生鮮鶏肉の関税割当(TQ)と輸入量
資料:機構作成
注 1:@はカット品(骨なし)(HS:02071410)、ムネ肉(骨つき)(HS:02071450)、その他(骨つき)(HS:02071470)である。
注 2:その他は、アルゼンチン、チリである。
注 3:@の枠外税率は、CIFに応じてトン当たりゼロユーロから1734.2ユーロである。
注 4:@の2012年の枠外税率はタイ産でトン当たり240ユーロ、ブラジル産で同250ユーロである。
 タイ産鶏肉解禁は、ブラジル産の輸入価格(CIF)を引き下げる効果をもたらした。特に加塩鶏肉において、その下落は顕著である(図14、図15)。
図14 冷凍鶏肉(カット品)の輸入量(EU)
資料:「GLOBAL TRADE ATLAS」(GTI)
図15 冷凍加塩鶏肉の輸入量(EU)
資料:「GLOBAL TRADE ATLAS」(GTI)
 2013年タイの輸出価格(冷凍鶏肉)は、飼料価格高により製造コストが上昇し、CIF価格が上昇したことで、ブラジル産を上回る価格で推移している。また、EU市場では、輸出価格(FOB)において、ブラジル産と同じ価格を求められるため、対ドルレートに対してバーツ高で推移する為替相場の中で輸出競争力の低下が懸念されており、生産コスト低減の取組が必要になっている。

 タイ鶏肉輸出協会によれば、タイ産鶏肉解禁後は、輸出が順調に進んでいることから、2013年は、TQ枠の9万7710トン(生鮮鶏肉(冷凍)と加塩鶏肉との合計)まで輸出可能と見込でいるが、製造・輸送コストが有利なブラジル産との競争により、TQ枠内の輸出が限界とのことである。

 しかし、タイにとって、この解禁は、安全性や品質の基準が厳しいEU市場への輸出が再開されたという信頼を世界的に獲得できた影響の方が大きいであろう。

(3)新たな市場の開拓

 EU向けの生鮮鶏肉輸出が解禁されたものの、タイにとって、今後も持続的な成長を遂げるためには、新たな市場開拓が必要不可欠である。

 輸出向けメインとなる部位(ムネ・もも)以外の部位などを消費する国内市場も、経済成長や人口増加に伴って安定的に伸びており、輸出を促進できる基盤は有している。

 新たな市場としては、経済成長が著しく鶏肉消費も伸びているASEAN諸国が考えられるが、2015年に締結予定の自由貿易圏創設のASEAN経済共同体(AEC)において、ラオス、カンボジア、マレーシア、フィリピンは、自国の鶏肉産業育成を図る目的で、鶏肉をセンシティブ品目として保護しているため、輸出拡大の機会は限られている(表3)。

表3 AECにおけるセンシティブ品目(主要畜産分野)
資料:機構作成
注 1:カット品を除く。
注 2:家きん由来のもの。
注 3:ソーセージ類。
注 4:生クリーム(脂肪分6%以下のもの)。
 このため、消費量が伸びている中東、ロシア、南アフリカ共和国などの市場開拓を行っており、これらの国、地域における輸出量は大幅に増加している(図16、図17、図18)。また、一部大手インテグレターの食鳥処理場では、イスラム人口15.7億人のうちの2割(3.2億人)を抱える中東や北アフリカの消費拡大をにらんで、鶏肉処理施設でハラールフードの認証を取得するなど、新たな市場へ向けた輸出拡大の取組が始まっている(図19)。
図16 1人当たりの家きん肉の年間消費量
資料:FAOSTAT(FAO)
図17 生鮮鶏肉の輸出量
資料:「GLOBAL TRADE ATLAS」(GTI)
    HS:冷凍鶏肉(020714)
図18 加熱加工品の輸出量
資料:「GLOBAL TRADE ATLAS」(GTI)
    HS:加熱加工品(160232)
図19 中東および北アフリカの家きん肉の1人当たり年間消費量の伸び率
(2000−2009年比較)
資料:FAOSTAT(FAO)

(4)将来的に目指す市場

タイの将来的なターゲットは、13億人の市場を持ち地勢的にも近い中国である。

 現在、中国は、自国内で鶏肉を調達でき、タイ産に比べ価格優位性も有しているため、今のところタイ産の入り込める余地はない。

 しかし、タイ政府は、将来的に中国の鶏肉消費量が現在の年間1人当たり9キログラムから15キログラムまで増加すると予測している(図20)。この結果、中国は国内供給力の限界から輸入国に転じ、富裕層を中心としたさらなる需要の増加により、より品質の高いものを求めるというニーズも拡大すると考えられる。さらに今後、中国国内の資材費などの上昇により国内価格が上昇すれば、タイ産との価格差が縮まり、輸出機会の拡大につながると期待されている。
図20 中国家きん肉の年間1人当たり消費量の推移
資料:中華人民共和国統計局

4.コスト低減の取組と今後の課題

 政府は、「第11次国家経済社会開発計画2012−2016年」の下での農業開発計画畜産部門の目標として、「畜産物製品のさらなる付加価値の創造」を掲げ、安全性の確保はもちろんのこと、将来に向かってイスラム圏などの安定的な市場の確保を図り、価格競争からの脱却を図ろうとしている。

 しかし、今後のブラジル産とのさらなる価格競争を考えると、世界市場でシェアを獲得していくには、タイにとってコスト低減は避けることのできない大きな課題である。

 飼料原料用トウモロコシは自国でほぼ調達できるものの、国内価格はシカゴトウモロコシ相場に連動し、大豆かすの大半は輸入に依存しているタイにおいて、生産コストを低減するためには、飼料原料穀物の調達費をいかに安く抑えることができるかかが重要な鍵となる。

 加えて、タイでは、経済成長に伴い雇用環境が好調なことから、2013年1月には全国一律賃金値上げが実施され、より賃金の高い職を求める者や地方へ帰省する者が増えており、鶏肉処理工程の労働力の確保も課題となっている。

(1)配合飼料の需要量

 タイ飼料工場協会によると、ブロイラー向けの配合飼料使用量(注)は、531万トン(1364万トンの39%)と最も多い(図21)。
図21 配合飼料使用量
資料:タイ飼料工場協会
 また、配合飼料の需要量は、鶏肉生産量の増加に伴い、増加傾向で推移している。鶏肉向けの配合飼料の原料割合は、トウモロコシ62パーセント、大豆かす30パーセントであり、この2つで9割以上を占めている(図22)。
図22 配合飼料に占める飼料原料割合(2012年)
資料:タイ飼料工場協会
 今後も鶏肉を増産していく上で、配合飼料原料の安定的かつ安価な調達に向けて行われている取組については後述する。

 なお、配合飼料は、政府の物価統制品目となっており、原料費が高騰しても政府の承諾なしには、価格に転嫁できない仕組みとなっている。

(注)畜種別に1頭羽数当たりの平均消費量から算出した配合飼料使用量(実際の需要
   量ではない。)

(2)安価なトウモロコシの調達の取組

 2012年の飼料用トウモロコシの生産量は469万トン、これに輸入量を加え輸出量を差し引くと、国内供給量は479万トンと推計されることからも、国内需要量467万トンに応じた供給がなされている(表4)。
表4 飼料用トウモロコシの需給表
資料:タイ商務省国内取引局
 国内生産については、政府は、2013年2月に飼料用トウモロコシの安定的生産を目的とし、土壌分析に基づいた生産地域の指定制度(ゾーニング制度)を導入し、生産の集約化を実施するとした(表5)。
表5 飼料用トウモロコシの栽培に適した地区
資料:タイ農業・協同組合省土地開発局
 この制度により効率的な生産が行われ、国内生産量の増加も期待されるが、国内価格がシカゴ相場に連動した取引となっている現状では、配合飼料価格の低下にはつながっていない(図23)。
図23 トウモロコシ農家出荷価格
資料:農業・協同組合省農業経済局
  注:水分値14.1〜14.5%の価格
 このため、他国からトウモロコシを安価に調達する仕組みが求められる。2004年のイラワジ・チャオプラヤ・メコン川経済協力戦略(ACMECS)により、大手インテグレーターは、隣国のラオス、カンボジアで飼料用トウモロコシの委託契約栽培を推進し、タイ国内が供給不足となった場合に、無税で輸入ができるというスキームを整備している。

 輸入状況をみれば明らかなとおり、在庫が不足する3〜7月は、ラオス、カンボジアなどから調達されている(表6、図24)。
表6 トウモロコシの作物サイクル
資料:タイ農業・協同組合省農業局
図24 飼料用トウモロコシの輸入量
資料:「GLOBAL TRADE ATLAS」(GTI)
    HS:飼料用トウモロコシ(10059090002)
 一部の大手インテグレーターは、すでにカンボジアで飼料用トウモロコシの保管サイロを、ラオスでプレミックス工場を建設するなど、飼料原料の安定確保の動きが加速しているが、これらの国の品質はタイ産よりも劣るため、補完的に輸入されている程度にとどまっている。

 しかし、最近では、ラオス、カンボジアで飼料用トウモロコシ生産から食鳥処理までのインテグレートが開始されており、鶏肉生産構造にも変化をもたらしている(図25)。
図25 ラオスのトウモロコシ生産量と家きん飼養羽数
資料:ラオス統計局
 ラオス、カンボジアで生産するメリットは、安価(ラオス産でキログラム当たり4〜5バーツ(15〜17円))に生産できることに加え、生産拡大が可能な土地基盤を有していることである。タイの農地は、すでに開発が進んでおり、生産拡大できる基盤がなく、ラオス、カンボジアに比べ人件費や地代も高いことから、今後、ますますこれらの国での調達の動きが進んでいくであろう。

(3)輸入に依存する大豆かす

 タイは、熱帯気候に属しており、大豆の生産にはあまり適していないことに加え、優良種子の不足や収益性が低いことから、2012年の大豆の生産は、わずか7万9000トンである。

 国内産大豆は主に豆腐などの食用向けとなり、搾油向けには回らないことから、2012年の国内産大豆由来の大豆かす生産量は1万3000トン、輸入大豆由来の生産量113万4000トンを合わせても114万7000トンと、大豆かすの需要量371万トンに満たないため、輸入に依存せざるを得ない(表7)。
表7 大豆かすの需給
資料:タイ商務省国内取引局
 このため、大豆かすは、タイの生産コスト削減の足かせとなることは否めない。現在、コスト低減には関税を引き下げる対応策しかなく、関税率は2009年にトン当たり4パーセントから2パーセントに引き下げられた。

(4)資本集約型への転換

 2013年1月、全国一律の最低賃金が、1日当たり300バーツ(1029円)に引き上げられた。これまで、タイは地域の経済規模に応じて最低賃金を課してきたが、BOIの恩典により、地方でも産業が育成されてきたことや、首相選挙の公約でもあったことから、賃上げが実現した(表8)。
表8 タイの最低賃上げ表
資料:機構作成
 この賃上げにより、タイの労働力の流出が懸念されている。2012年末で失業率は0.4パーセントと売り手市場にある。地方でも働き口があるため、鶏肉のカット技術を習得した地方出身者が地元へ帰省してしまい、いまだ労働集約型によって鶏肉処理を実施しているタイの鶏肉産業にとって大きな痛手となる。

 しかし、この賃上げは、ラオス、カンボジア、ミャンマーにとっては、呼び水となり、労働力は、これらの国からの出稼ぎ労働者に置き換わっていくと見られている。

 ただ、こうした国々の人は、屋台で食事を取る文化があるため、包丁(ナイフ)を握った経験も乏しく、付加価値の高い製品のカット技術を習得するためには時間を要するなどの課題も出てくる。このため、大手インテグレーターでは、鶏肉処理工程の一部を機械化するなどの検討も行われている。

 また、BOIの鶏肉産業の育成を目的とした税制優遇などの恩典は終了し、次の段階として、工程の機械化など生産効率向上に向けた取組への支援に移行すると推測されており、資本集約型の産業への転換が求められている。

5.おわりに

 2015年のASEAN経済共同体(AEC)による域内の関税撤廃を機に、6億人の自由貿易市場が形成されるが、加盟国の多くが自国の鶏肉産業を保護するため、タイの鶏肉輸出拡大につながるとはいえない。

 タイの大手インテグレーターは、隣国のラオス、カンボジア、ミャンマーなどで鶏肉生産を開始し、大きなシェアを確保している。現在、防疫上の問題により生鮮鶏肉の取引は行っていない。今後、官民の協力により、タイのように国際的に通用する衛生基準を隣国で適用できる環境が整えば、隣国からの安価な飼料原料調達だけでなく、生鮮鶏肉の処理が可能となり、輸出基盤が整っているタイで付加価値をつけ、さらに安価な加熱加工品を海外市場へ供給するという、サプライチェーンの構築が可能になるかもしれない。

 イスラム圏、ひいては中国などへの市場拡大の成功の鍵は、隣国での世界的な衛生基準や防疫体制の確立にかかっているといえる。

 将来に向けて、タイを基軸とした鶏肉産業の隣国を巻き込んだサプライチェーンの動きは、同じアジア圏の日本にとっても注目に値するであろう。

 
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