海外情報  畜産の情報 2014年8月号


米国のトウモロコシ生産
−2014/15年度の生産概況−

調査情報部 山神 尭基


【要約】

 2012年、中西部を襲った大干ばつによる米国のトウモロコシ価格の高騰は、我が国の畜産経営に大きな影響を与えた。一方、2013年は天候に恵まれたことから、トウモロコシは豊作となり、トウモロコシ価格も2012年と比べ大幅に下落し、現在のところ落ち着きを見せている。

 また、2014/15年度トウモロコシの生産見通しは、作付面積の減少を単収の増加が補うことで、前年並みと見込まれている。今回、この豊作見通しを確認するため、主要生産州であるネブラスカ州、アイオワ州を中心に広範囲に渡ってトウモロコシの生育調査を行い、加えて穀物関係者から、現在のトウモロコシの生育状況などについて聞き取り調査を行った。

1 はじめに

 米国のトウモロコシ生産量は、世界の生産量の約30%を占めており、世界第1位の生産国かつ輸出国である。日本は、米国産トウモロコシの多くを家畜の飼料として輸入しており、日本にとって米国のトウモロコシ需給動向の把握は大変重要である。

 米国のトウモロコシ主要生産州は、一般的に「コーンベルト地帯」と呼ばれる中西部に位置し、全米のトウモロコシ供給量の約65%を産出している。2012年は、コーンベルト地帯で大規模な干ばつが発生し、トウモロコシ生産は大幅な減収となり、米国産のトウモロコシ価格は過去最高値を記録した。また、この価格上昇を受けて、トウモロコシの国際相場も高騰し、米国のみならず日本の家畜生産にも深刻な影響を与えたことは記憶に新しいところである。

 一方、2013年は、2012年の干ばつから一転し、トウモロコシの生育にとって適度な降雨に恵まれたことで豊作となり、高値で推移していたトウモロコシ価格は落ち着きを見せている。

 現在、米国農務省(USDA)は、2014/15年度(9月〜翌8月)のトウモロコシ生産見通しについて、2013/14年度並みと予測しており、米国のトウモロコシ需給は引き続き緩和に向かうと見ている。

 本稿では、2012/13年の干ばつの影響および2013/14年度のトウモロコシ生産動向について振り返った後、現地調査に基づく主要生産2州(ネブラスカ州・アイオワ州)での2014/15年度生産状況、米国農務省の予測に基づく今後のトウモロコシ生産見通しについて報告する。

 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=102円(6月末日TTS相場:102.36円)を使用した。

2 米国のトウモロコシ生産概況

(1)2012/13年度の干ばつの影響

 2012/13年度は、米国のトウモロコシ主要生産州(以下「コーンベルト地帯」という。)において、70年に一度と言われる深刻な干ばつに見舞われた。この干ばつ時期がトウモロコシの受粉時期と重なったことで、広範囲での受粉障害が発生した。この結果、子実は不十分な形成となり、2012/13年度のトウモロコシ生産量は前年比12%減の107億8000万ブッシェル(約2億7400万トン)と、干ばつの影響が大きく減産となった2006/2007年度並みの低水準となった。この減産に伴い、2012年8月21日シカゴのトウモロコシ先物価格(9月限)は、過去最高値となる1ブッシェル(約25キログラム)当たり8ドル20セント(836円)を記録した。世界のトウモロコシ生産量の約3割を占める米国産の価格が高騰したことで、トウモロコシの国際相場も高値となった。

 このため、トウモロコシの大部分を米国から調達していた日本は、米国産に比べて価格が安価であった南米産やウクライナ産へと輸入をシフトせざるを得なくなった。これにより、2012年度の日本のトウモロコシの国別輸入割合は、米国が前年度と比べ34ポイントも低下するなど、輸入先の多角化が行われた(図1)。
図1 日本のトウモロコシの国別輸入量

資料:農林水産省「飼料をめぐる情勢」
  注:年度は4月〜3月

 また、前述のとおりトウモロコシ国際相場の上昇により、2012年度の日本のトウモロコシ輸入量は前年度比5.3%減少となり、配合飼料の構成割合はトウモロコシや大豆油かすの割合が減少した一方、こうりゃんおよび小麦が増加となった(図2)。

図2 日本の配合飼料構成割合の変化

資料:農林水産省「流通飼料価格等実態調査」

(2)2013/14年度のトウモロコシ生産動向

 2012/13年度の干ばつにより大きな影響を受けたコーンベルト地帯では、2013年に入り、春先の積雪や降雨により、土壌の水分保有量が回復に向かったことや、気温が安定していたことで大きな受粉障害が起こることもなく、子実形成を迎えた。

 USDAの「Drought Monitor(干ばつモニター)」を見ると、受粉時期(7月中旬頃)のコーンベルト地帯の干ばつ状況は、前年同月と比べて改善され(図3)、この生育に適した状態が継続したことで同年度のトウモロコシ生産量は干ばつ以前の水準である3億トン台に回復し、豊作となった。
図3 2012年および2013年の干ばつの発生状況の比較
資料:U.S.Drought monitor
 また、この豊作に伴い、2012年の干ばつにより高値で推移していたトウモロコシ価格は、比較的高水準ながらも下落基調で推移している(図4)。
図4 トウモロコシ価格の推移
資料: シカゴ相場の先物、期近価格(当月最終取引日の終値)
  注:2014年は1〜5月までの平均価格
 トウモロコシ価格の下落は、国際市場での米国産トウモロコシの競争力を高めたことに加え、海外からの需要の回帰につながった。2013/14年度の米国産トウモロコシの輸出量は、2011/2012年度並みの約4000万トン台へ回復するなど、米国産トウモロコシへの需要は再び増加している(図5)。
図5 トウモロコシ輸出量の推移
資料:USDA
注1:年度は9月〜翌8月
注2:2013/14年度は、2013年9月〜2014年5月までの輸出量

(3)2014/15年度の作付け状況

 2014/15年度のトウモロコシ生産の目安となる作付け状況を見ると、春先の豪雪や多雨により土壌が緩んだことで、大型は種機の利用ができず、作付け当初(4月末)は、過去5年平均を下回る水準で推移した。しかし、5月に入って天候が回復に向かったことで、土壌の状態が安定し、近年の農機具の大型化・ハイテク化(24時間の作付作業が可能)も後押となり、急速にトウモロコシの作付けが進展した(図6)。
図6 作付け進捗率の推移(18州)
資料:USDA
 その後、作付け状況は順調に推移し、6月1日時点の全米(18州)作付進捗率は95%に達している。

 また、作付けが順調に行われた中で、その後の生育状況も良好に推移している。USDAが毎週公表している「Crop Progress(穀物進捗状況)」によると、6月22日時点のトウモロコシの生育状況(非常に良い・良いの割合)は、豊作となった前年同日を9ポイント上回る74%と、高水準で推移している(図7)。
図7 トウモロコシの生育状況(2014年6月22日時点)
資料:USDA
 このうち、コーンベルト地帯のトウモロコシの生育状況を見ると、現在のところ生育状況が悪いとされる割合はかなり低い水準となっており、良好な生育状況が数字からも読み取れる。

 なお、2014年のコーンベルト地帯の干ばつは、前述の春先の降雨などにより、多くの地域で改善されている(図8)。なお、ネブラスカ州の一部では、干ばつの影響が残るものの、同州は土地の約8割でかんがい施設が整備されていることから、生産への大きな影響はないものとみられる。
図8 2014年6月時点での干ばつの状況
資料:U.S. Drought Monitor

3 トウモロコシの生育状況

 USDAが豊作との見通しを打ち出している中、コーンベルト地帯の主要トウモロコシ生産州であるネブラスカ州とアイオワ州の生育状況を現地調査に基づき報告する。なお、上記2州のトウモロコシ生育状況については、2014年6月第1週時点のものである。

 今回、ミズーリ州(セントルイス)からネブラスカ州およびアイオワ州へ移動する中で、多くのほ場を調査した結果、現在のところトウモロコシの生育は良好であり、今後、順調に受粉前の生育段階(シルキング)へ進むものと感じられた(写真1)。

(1)ネブラスカ州

 ミズーリ州セント・ジョセフからネブラスカ州へ約500キロメートルを走行する中、ネブラスカ州のトウモロコシの生育状況を調査した。今回、調査地域(ネブラスカシティ近辺:写真2)のトウモロコシの背丈は60センチメートル程で葉も青々としており、同時期としては順調とみられる。USDAが公表する全米のトウモロコシ生育状況では、調査時となった6月第1週のネブラスカ州の状況は、全体で「非常に良い・良い」の割合が76%に達しており、現地調査はこれを裏付けるものとなっている。

(2)アイオワ州

 アイオワ州ではネブラスカ州と比べて作付開始時期が遅かったと報じられたこともあり、同州の中心地に位置するデモインの周辺(100キロメートル圏内)背丈が15センチメートル程度のものが多かった(写真3)。しかし、平年と比べるとそん色はなく、訪問時点での生育状況は良好であった。同様にUSDA公表のトウモロコシの生育状況を見ると、同州は「非常に良い・良い」の割合が82%と、主要生産州の中でも良好な状況が目立っている。

(3)現地情報

 2014/15年度のトウモロコシ生産について、コーンベルト地帯の大手穀物関係者に話を聞いたところ、作付けについては過去5年間で最高の状況としている。また、米国気象庁などの天候予測を見る限りでは、受粉期に当たる7〜8月に適度な降雨が予測されており、生育は順調に進むものと見込んでいる。今回の現地調査や穀物関係者の意見を含めると、現在のトウモロコシの生育状況は2013/14年度よりも良好に推移している状況にある。
図9 今回の調査ルート(走行距離1500キロメートル)
資料:Google
  注:一部交通状況により、ルートを変更した箇所あり
トウモロコシの生育状況(6月第1週時点)
写真1 ミズーリ州
写真2 ネブラスカ州
写真3 アイオワ州デモイン西部

4 現状および今後の見通し

(1)トウモロコシ在庫状況

 現在、2014/15年度のトウモロコシ生産は豊作との予想がある中で、コーンベルト地帯の一部でトウモロコシ在庫量が多くなっている。米国の穀物調査会社の報告では、コーンベルト地帯の多くのトウモロコシ生産者は、2012/13年度のトウモロコシ価格の高騰による収益の増加に伴い、貯蔵施設などへの投資を拡大したことで、これまで収穫後に売却していたトウモロコシを、ある程度、自家貯蔵施設で保管し、価格が上昇した時に売却できるようになったとしている。このため、一定水準のトウモロコシが自家貯蔵施設に保管される状況が続いている。このような中、一般的にトウモロコシの輸送手段として、鉄道が利用されているミネソタ州やアイオワ州の一部地域では、現在、貨物会社が価格優位性の高い石油関連の輸送を優先していることで、トウモロコシの輸送が滞っている。こうした影響から、これら2州のトウモロコシ在庫量は前年と比べ大幅に増加している(図10)。
図10 コーンベルト地帯におけるトウモロコシ在庫状況
資料:アドバンス・トレーディング社
注1:単位はパーセント表示
注2:各州の数字は、2013年6月6日から2014年6月6日までの増減率を示す

 この在庫水準の上昇の影響は、トウモロコシ価格にも表れており、例年、同2州のトウモロコシのベーシス価格(注)は、上昇傾向で推移するが、現在は下落基調となっており、引き合いが弱まっていることが読み取れる。トウモロコシの豊作が見込まれる中、今後、流通状況が改善する場合、生産者は旧穀の在庫を早急に市場へ放出する可能性もある。

(注)ベーシス価格とは、シカゴ相場の先物価格と現物価格の差を表す。

(2)今後の需給見通し

 USDAが毎月公表しているトウモロコシの需給見通しによると、2014/15年度のトウモロコシ生産量は、作付面積は減少するものの、単収の増加(前年比4.1%増)により、3億5204万トン(同0.5%減)と前年並みの豊作が見込まれている(図11)。

 豊作が予測される中で、トウモロコシの需要は、米国内の肉牛飼養頭数の減少などから、飼料向けの減少が見込まれている。また、輸出向けも、ここ数年で生産量を急増させているブラジルやウクライナなどの輸出競争力の高まりを背景に、減少が見込まれている。この結果、2014/15年度の輸出量は、前年比10.5%減の4318万トンと予測されている。

 この結果、トウモロコシの期末在庫量は、前年を大幅に上回る4575万トン(前年比44.5%増)と見込まれている。また、生産量の増加により、生産者平均販売価格は2013/14年度からさらに下落が見込まれ、1ブッシェル当たり3.65ドル〜4.35ドル(約25キログラム当たり、372〜444円)と予測されている。
図11 トウモロコシ生産量および単収の見通し
資料:USDA
  注:14/15年度は予測値

5 まとめ

 2012/13年度に干ばつの影響を受けた米国のトウモロコシ生産は、2013/14年度は豊作となり平年水準に回復し、また、2014/15年度は引き続き豊作が見込まれている。今回、コーンベルト地帯のトウモロコシの生育状況を調査した中では、天候要因などによるは種期の違いにより、多少、州により生育の差異は見受けられたものの、現在のところ概ね順調であることが確認できた。また、現地穀物関係者も良好な生育状況と見ている。一方、不安定要素として、ここ数カ月で米国の農業地域では突発的な異常気象(ひょうや竜巻の発生)などが報告されており、今後の受粉期の高温・乾燥気候も懸念材料となる。USDAによる豊作見通しがささやかれる中、トウモロコシ生産量を左右する受粉期に向け、今後の天候状況が注目される。

 
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