海外情報  畜産の情報 2014年8月号

食肉産業の持続的な発展とその将来
−第20回世界食肉会議から−

調査情報部 木下 瞬


【要約】

 世界の食肉需要は、各地の人口増加や経済成長に伴い年々増加している。一方で、持続的な食肉生産には、干ばつなどの気候変動への対応や口蹄疫、鳥インフルエンザなど伝染性疾病の対策も求められている。

 こうした中、国際食肉事務局(IMS)が主催する第20回目となる世界食肉会議が中国北京で開催された。30カ国、約800人の食肉関係者が一堂に集う中、食肉の安定供給、食肉の安全、持続可能な食肉生産の3つのテーマが大きな焦点となった。各国の出席者や専門家から食肉需給に関する現状分析や今後の見通しに関する発表も行われたので、これを紹介する。

はじめに

 近年、世界各地では干ばつなどの気候変動が畜産物生産に影響を与えている。さらに、口蹄疫やBSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザ、PED(豚流行性下痢)などの伝染性家畜疾病対策も食肉産業にとって重要な問題となっている。

 一方、東アジアでは牛肉と豚肉が、中東やアフリカでは鶏肉需要が、経済成長に伴いいずれも伸長している。また、国連は世界人口が2050年までに96億人を超えると予測しており、高まる食料需要に対し、いかに高品質な動物性タンパク源を供給していくかが課題となっている。

 このような中、第20回世界食肉会議が6月15〜16日の2日間、中国の北京で開催された。本会議は、パリに事務局を置く国際食肉事務局(IMS:International Meat Secretariat)が、世界各地域の食肉需給および貿易動向に関する情報交換、また、食肉関係団体などの交流を目的として2年に1回開催される。

 今回の会議では、「世界的な食肉生産と貿易の調和のとれた発展」をテーマに、食肉の安定供給、食肉の安全、持続可能な食肉生産が大きな焦点となった。また、各地域を代表する食肉関係者が食肉をめぐる情勢、需給見通しなどの報告を行い、世界30カ国、800人を超える会議参加者(主催者発表)と議論を交わした。

 本稿では、会議で報告された各地域の食肉需給見通しなどの概要を取り上げる。

 なお、本稿中の為替レートは1人民元=16.6円(6月末日TTS相場:16.62円)を使用した。
写真1 就任あいさつを行うIMS新会長のルー氏
(フランス養豚団体INAPORC会長と兼任)

1.世界の食肉需給動向

 オランダ金融機関ラボバンクは、開発途上国の消費行動の変化が食肉消費に影響するとしており、その要素に食生活や嗜好性の変化、食品安全への欲求を挙げている。食肉消費の伸びが期待されるのがアジアであり、特に中国は、2012年の一人当たり食肉消費量が52キログラム程度と、米国(同110キログラム)やEU(同75キログラム)と比較して少ないことから、伸びる余地が大きいとしている。中国では2011年に都市化率が50%を突破し、都市住民一人当たり可処分所得は2万5000元(41万5000円)を超えた。ラボバンクは、都市化の進展や消費者の購買力の高まりによって、中国の豚肉消費はさらに増加すると見ており、2018年の豚肉消費量を、2012年比約20%増となる5600万トン(枝肉重量ベース、調製品を含む。)と見込んでいる。なお、同社は、消費者がより高品質で手軽な食肉製品を求めつつあるため、豚肉調製品の市場シェアが拡大し、2018年には生鮮豚肉の消費量を上回るとしている。

 フランス調査会社GIRAは、2014年の世界の食肉消費量を前年比1.5%増の2億4822万トン(牛肉5103万トン、豚肉1億288万トン、家禽肉8523万トン、羊肉908万トン)と見込んでいる(図1)。また、全世界の2014年のGDP成長率を3.6%とし、特にBRICsやMINT(注1)の経済成長が大きいとしている。GIRAはこうした経済成長に伴い、新興国の食肉需要は堅調に増加する一方、先進国では食肉の小売価格が上昇すると見ている。

(注1)BRICs:ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国、MINT:メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコの4カ国

図1 世界の食肉消費量の推移
資料:GIRA
注1:枝肉重量ベース
注2:2014年は予測値
 GIRAは、2014年の世界の食肉貿易量を、前年比1.9%増の2974万トンと見込んでおり、牛肉については同1.8%増の955万トンとしている(図2)。これは、主要輸出国の米国や豪州などで牛群再構築による肉用牛の保留が進むことから、供給は幾分タイトになるとの予測による。しかし、インドの水牛肉輸出が増加することで、その供給不足を補い、結果的に牛肉の貿易量は増加するとしている。また、世界的な牛の飼養頭数はあまり変化しないとしているが、中国では口蹄疫対策の遅れなどにより、急激な肉用牛飼養頭数の増加は困難と見ている。また、同社は2014年の牛肉価格について、飼料価格が高騰した2012年並みの高水準になると予測している。

 GIRAは豚肉について、各国間で自由貿易協定締結の進展などによって貿易量が増加するとし、同1.0%増の712万トンとしている。また、飼料穀物価格が軟調なため、主要生産国の豚肉生産量は増加すると見込んでいる。一方、中国は、国内の豚肉生産が過剰傾向であることから、当面の間、供給に問題はないとしているが、豚肉と鶏肉は、アジアやサブサハラなどの市場で貿易量が増加するとしている。なお、上記の分析には、北米で発生しているPEDやリトアニアのアフリカ豚コレラ発生に伴うロシアのEU産豚肉輸入禁止の影響が加味されておらず、GIRAは2014年の国際市場は混乱するとの表現にとどめている。しかし、これら疾病の影響は一時的なものであるとし、2015年は生産の増加を見込んでいる。

 家禽肉は、同3.1%増の1202万トンと、食肉の中で一番の伸びを示している。これは、飼料穀物価格の下落によって世界各地で鶏肉生産量の伸びが期待されるためである。大手インテグレーターは、増産によって市場シェアを拡大させ、短期的に利益を得ようとする傾向にあるとしている。さらに、牛肉・羊肉の供給がタイトになると見込まれるため、安価な鶏肉に需要がシフトする可能性も指摘されている。なお、中国については、鳥インフルエンザ(H7N9型)の影響で落ち込んだ国内消費が回復するとみられる。
図2 世界の食肉貿易量の推移
資料:GIRA
注1:枝肉重量ベース
注2:2014年は予測値

2.各国の食肉需給動向

(1)中国

 中国食肉協会によると、2013年の中国の食肉生産量は前年比1.8%増の8536万トン(豚肉5493万トン、牛肉673万トン、羊肉408万トン、家禽肉1798万トン、その他164万トン)となった。この数量は、第12次5カ年計画(2011〜2015年)で掲げられた目標値8500万トンを超えるもので、家禽肉以外の食肉は前年からの増産を達成している。なお、家禽肉の減産は前年に発生した鳥インフルエンザの影響で、生産・消費が低迷したことによる。

 中国では、都市化の進展と所得水準の向上によって食肉消費構造が変化している。牛肉と羊肉は消費が拡大し、豚肉は加熱調理品、レトルト、小型パッケージなど現代の生活スタイルに合わせたバリエーションが増加している(写真2)。また、消費者が食肉を購入する際にも、品質や安全性、栄養成分などが重視されるようになってきた。

写真2 新希望集団の高級ハムなど

 一方、中国国務院は2014年1月、「中国食品栄養開発計画(2014〜2020年)」を公表した。これは科学的根拠に基づき食事バランスを見直したもので、国民の肥満解消の目的もある。食肉については、現在の一人当たり消費量60キログラムから、2020年までに同29キログラムまで半減させるという目標が設定された。しかしながら、現在の食肉需要の増加などを考慮すると、目標達成は困難とみられている。

 食肉の価格を見ると、豚肉は供給過剰のため下落する一方、牛肉、羊肉は需要の高まりとタイトな供給により上昇傾向にある(表1)。一方、鶏肉は鳥インフルエンザの影響で下落しており、その経済損失は1000億元(1兆6600億円)以上といわれている。近年、中国では食肉に関する不正事件が幾度となく発覚し、価格安定や増産の足かせとなっている。代表的なもので豚肉の痩肉精事件(注2)や羊肉・牛肉などの偽装事件(注3)などがあり、国産ブランドの信頼は低下している。中央政府にとっては、食肉の安定供給と価格安定は主要な課題であり、家畜疾病対策の強化とともに食品製造の安全性確保に取り組む必要がある。

(注2)ぜんそく治療薬の塩酸クレンブテロールを豚に給与し、意図的に赤身部分を増やして販売した事件。中国では脂身の少ないほうが高値で取引されるため、禁止されているにもかかわらずたびたび同薬の使用例が報告されている。なお、人間がその豚肉を摂取すると動悸や手足の震えなどの中毒症状を起こし、1998年頃から中毒事件が報じられるようになった。

(注3)2013年にキツネやネズミなどの肉を羊肉と偽り販売した事件。このほか未検疫の牛肉を流通させる事件も発生した。

表1 中国の平均食肉小売価格(2013年12月現在)
資料:中国商務部
 中国は、これまで食肉をほぼ自給してきたため、国際市場への影響は限定的であった。しかし、2006年頃から需要の高まりと国内の供給不足により、内需を満たすことが困難となっている。中国の2013年の食肉輸入量は、前年比23.3%増の256万3000トン(豚肉139万7000トン、牛肉31万4000トン、羊肉25万3200トン、鶏肉59万2000トン、その他6800トン)となり、年々増加している(表2)。一方、2013年の食肉輸出量は前年並みの89万8000トンとなり、食肉の輸入と輸出の差は拡大している。輸入量を品目別に見ると、量が比較的多いのは豚肉、鶏肉である。近年、増加が著しいのは牛肉と羊肉である。中国は世界最大の羊肉輸入国であり、需要の増加は輸入先である豪州とニュージーランド(NZ)の輸出価格を引き上げているとされる。

表2 中国の食肉輸出入量および輸出入額

資料:中国海関総署
 こうした中、中央政府は、食肉業界の再編と近代化を推進しており、特に老朽化した施設の廃棄・更新などを奨励している。これによって、2011年から現在まで5000カ所以上の食肉処理場が閉鎖されたといわれている。一方、一定規模以上の食肉関連企業は、投資の増加によって、この一年間で300社以上増加した(表3)。また、食肉関連企業は山東省、河南省、遼寧省、四川省、江蘇省といった食肉消費の高い5省に集中しつつあり、生産構造の変化がうかがえる。

 しかし、中小企業の割合が80%以上を占める中、依然として、工場の大部分の工程が労働集約的に行われており(写真3、写真4)、機械の処理能力や従業員の技術の低さが指摘されている。このため、中国食肉協会は、さらなる規制強化によって、食品の安全性や品質が高まると見ている。
表3 中国の食肉関連企業の経営体数
資料:中国食肉協会

写真3 北京市近郊の豚肉処理場。
内臓摘出、トリミングなどに人手をかけている。

写真4 部分肉カットの様子。
こちらも分割や除骨に人手をかけている。

(2)インド

 インドは1969年に水牛肉の輸出を開始し、近年輸出量を急速に伸ばしている。2013年の輸出量は135万トンと、この10年間で輸出量は4倍に増加した(図3)。インド産水牛肉は、主にカラビーフ(水牛由来の脱骨した冷凍肉)として輸出され、USDA(米国農務省)によると、インドは2012年に豪州を抜き、世界第2位の牛肉輸出国となった。主要な輸出先は、アジアや中東、CIS諸国、アフリカなどのハラール市場が過半を占め、これらの国々では、ハラール処理が施されたインド産水牛肉を加工に仕向ける場合が多い。
図3 インドの水牛飼養頭数と水牛肉輸出量の推移
資料:AIMLEA
 インド食肉畜産輸出業者協会(AIMLEA)は、イスラムの開発途上国では牛肉の一人当たり年間消費量はまだ少ないものの、市場の潜在性は高いとしている。また、同協会はインド産水牛肉の利点として、牛肉と比較した際の加工のしやすさや赤身部分の多さ、栄養価の高さなどを挙げている。給与飼料も牧草のみを利用しており、安全性の高さからイスラム諸国の需要は年々高まっているという。

 インドでは、水牛肉輸出の取り組みを支援する重要な要素として生産者に対する獣医サービスの普及に努めている。これは、家畜の衛生管理の向上がインド産水牛肉の評価につながると見ているためである。インドは、BSEについては無視できるリスク国であり、口蹄疫の発生国であるものの、輸出向けの食肉処理場が位置する州ではここ数年間発生していない。

 同様に重視されているのが、副産物の利用である。水牛一頭から取れる副産物は、皮革、医薬品、家畜飼料などさまざまな形態で利用され、関連産業を潤している。こうした水牛肉の生産振興と輸出促進は、雇用の創出や農村開発、産業発展などにつながるため、インドの国家戦略とも調和している。

 インドの水牛肉輸出産業は、政府関係機関と輸出向け食肉処理場、AIMLEAの3者による緊密な連携によって発展してきた。例えば、輸出先の管理当局からの視察を積極的に受け入れ、インド産水牛肉の安全性・信頼性の高さを証明することで、販路拡大を可能にしている。輸出先国で諸問題が発生した際にも、三位一体で問題解決に取り組み、輸出先との信頼関係を構築している。

(3)ロシア

 MCUEA(ロシア総合経済圏食肉委員会)によると、2013年のロシアの食肉消費量は、1100万トン(牛肉248万トン、豚肉397万トン、家禽肉(鶏肉および七面鳥)435万トン、羊肉20万トン)となった(図4)。

図4 ロシアの食肉消費量の推移
資料:MCUEA
  注:2020年は予測値
MCUEAは、2020年の食肉の一人当たり年間消費量が77キログラム(2012年63キログラム)に増加すると予測しており、食肉の総消費量は1084万トンと見込んでいる。ただし、消費構成については牛肉が減少し、家禽肉が増加するとしている。

 ロシアの牛肉消費市場は近年縮小傾向にあり、牛肉生産量は2011年以降、毎年2%程度減少し、2013年は163万3000トンとなった。牛肉輸入量も同様に減少しており、2013年は70万6000トンとなった。

 2013年の豚肉生産量は、2007年比47%増の282万9000トンと堅調に増加している。一方、豚肉輸入量は2007年比13%減の101万3000トンとなった。ロシアでは、ここ10年間で養豚経営の大規模化・近代化が進んでおり、小規模経営の割合は86%から15%に減少した。こうした養豚経営の生産性向上によって、今後も国内生産量は増加するとみられる。

 2013年の家禽肉生産量は、2007年比約2倍の381万7000トンと、急速に増加している。一方、家禽肉輸入量は、2007年比約60%減の53万8000トンと減少傾向にあるため、自給率は90%程度と高まっている。国内では、牛肉や豚肉価格が上昇しており、比較的安価で健康的とされる鶏肉への需要が高まっている。

 以上のように、ロシアでは、牛肉を除き食肉生産量は増加傾向にある。こうした状況を踏まえ、2020年の食肉輸入量は牛肉が55万トン(2013年比25%減)、家禽肉が20万トン(同63%減)、豚肉が62万5000トン(同38%減)と、軒並み減少が見込まれる(図5)。
図5 ロシアの食肉輸入量の推移
資料:MCUEA
 注:2020年は予測値
 また、食肉調製品分野における消費割合を見ると、家禽肉45%、豚肉35%、牛肉20%となっている。MCUAEによると、家禽肉調製品の消費は伸びており、このことが、食肉消費の拡大に寄与しているという。

(4)ブラジル

 GTPS(ブラジル持続可能な畜産の代表者会議)によると、2013年のブラジルの牛飼養頭数は2億800万頭と見込まれる(図6)。2013年のと畜頭数については、過去最高となった2012年の3109万頭を上回るペースで進んでおり、記録更新が見込まれている。こうした背景には、為替相場のレアル安や香港向け輸出の伸びなどにより、輸出が好調だったことが挙げられ、2013年の輸出量は119万トン(前年比25.4%増)となった(図7)。また、今年中に中国向け輸出の解禁が見込まれており、今後、ブラジル産牛肉の引き合いはさらに強まると予想される。
図6 ブラジルの牛飼養頭数およびと畜頭数の推移
資料:ブラジル地理統計院(IBGE)
  注:2012年の飼養頭数は未公表、2013年は見込み
図7 ブラジルの牛肉輸出量の推移
資料:ブラジル地理統計院(IBGE)
  注:2013年は見込み

 輸出が好調な一方、持続可能な生産のためには課題がある。ブラジルには、2011年現在、1億8900万ヘクタールの牧草地があり、これは国土面積8億5000万ヘクタールの22%に相当する。牧草地では牛が粗放的に飼養されており、1ヘクタール当たりの飼養頭数はわずか1.1頭である。しかしながら、近年、ブラジルでは地代が上昇しており、これが生産コスト上昇の一因となっている。また、牧草地面積は年々減少傾向にあり、環境面への配慮から既存の牧草地を自然に還元しようとする動きもある。

 GTPSでは、2022年までに牧草地5600万ヘクタールを還元する計画を策定する一方、2022年の牛の飼養頭数は2億2700万頭まで増加すると見込んでおり、1ヘクタール当たりの飼養頭数は1.7頭になるとしている。この水準を達成するためには、土地生産性の向上が不可欠となるが、GTPSは現在、農家指導の実施やモデルほ場の設置、GMP(注4)の励行などに取り組み、技術水準の向上を図っている。

 一方、放牧地の減少により、フィードロットの導入が進むことも考えられる。ブラジル全国農業連盟によると、2013年のフィードロットの飼養頭数は405万頭であり、2011年の340万頭から堅調に増加している。こうした集約的な生産にシフトすれば、トウモロコシなどの飼料需要の増加も予測される。

(注4)Good Manufacturing Practiceの略。製造段階において一定の品質が保たれるように定められた規則とシステム。

(5)ウルグアイ

 ウルグアイ国立食肉院(INAC)によると、2013年のウルグアイの牛飼養頭数は1154 万頭と、人口340万人の約3倍に相当する。近年、干ばつなどの気象条件の影響により、飼養頭数は1100万〜1200万頭の範囲で増減を繰り返しており、と畜頭数は毎年20万頭程度である(図8)。また、国内で生産された牛肉の8割が輸出向けとなり、中国、EU、ロシア、米国など世界120カ国以上に輸出される。近年の牛肉輸出量は毎年40万トン程度が維持され、牛肉生産は国内経済を支える重要な産業となっている(図9)。ウルグアイでは、国内で飼養可能な頭数は1200万頭とされ、輸出可能な数量も40万トン程度とされる。このため、牛肉生産は付加価値化と安全性を高める方向で行われている。
図8 ウルグアイの牛飼養頭数およびと畜頭数の推移
資料:INAC
  注:飼養頭数は各年6月1日時点
図9 ウルグアイの牛肉輸出量と輸出額の推移
資料:INAC
  注:輸出量は枝肉重量ベース、輸出額はFOB価格
 輸出に際して積極的に取り組まれているのが、衛生管理とトレーサビリティである。衛生管理については、全国的に実施される疾病対策や担当獣医師のチェックにより、牛の健康状態が適正に管理されているとしている。給与飼料も牧草中心であり、成長ホルモンの類は使用されていない。また、輸出向けの食肉処理施設は全てHACCP(危害分析重要管理点)により適正な処理が行われる。

 トレーサビリティは、生産者段階と食肉処理段階の2段階の電子システムが採用されている。生産段階は農牧水産省が所管し、食肉処理段階はINACが担当しており、それぞれが連携してトレーサビリティを実行することで、牛肉の安全性を保証している。なお、生産者は、2006年に施行された法律に基づき、全ての肉用牛にICタグと耳標の装着、データベースへの登録が義務付けられている。これにより、消費者は、店頭で販売されている牛肉から、携帯電話などの端末を使って生産農場や個体識別などの情報が入手できる。

 INACは、こうした牛肉の安全性を高めることが、輸出先の市場でウルグアイ産牛肉の高評価につながり、他国産牛肉に対して優位性があるとしている。

おわりに

 中国では、北京や上海などの都市部の消費市場は成熟期に達しつつあり、豚肉・鶏肉については、消費の量から質への転換が進んでいる。一方、消費構造の変化により消費増が見込まれるのが牛肉・羊肉であり、供給不足のため質より量が求められている傾向にある。さらに、地方都市では、都市部に比べて所得水準が低く、低・中所得者層の収入が向上するにつれ、中国の食肉消費は引き続き伸びていくと考えられる。

 今回の会議の中では、中国企業による自社製品の安全性確保の取り組みと、食肉輸出各国による自国製品のPRが注目された。中国では、数々の食肉スキャンダルで国産ブランドの信頼が低下している中、輸入食肉の需要が高まっている。今後も広がりを見せる中国市場に対し、輸出先国は熱い視線を注いでいる。一方、中国企業も世界各地で食肉企業の合併・買収によるグローバル化を進めており、海外からのルート確保と調達量を増やしている。国際貿易のボーダーレス化が進展する中、中国の影響力の大きさを再認識する機会となった。

写真5 リーダーシップ討論会の様子
(写真左からBPEX会長、双匯集団会長、大庄園肉業社長、JBS、
ダニッシュクラウン会長、タイソンフーズ副社長、河南食品会長)

食肉トレードショー「中国国際食肉産業展2014」

 毎年開かれる中国最大級の食肉トレードショー「中国国際食肉産業展2014」が、6月17〜19日の3日間、北京で開催された。本産業展の主催はIMSと中国食肉協会で、中国を含む14カ国から、最新の肉製品や食肉関連機器・資材など約1400件の出展があった。開催規模は年々拡大しており、3日間で延べ6万人以上(主催者発表)が来場した。本産業展では、より高品質で健康的な食肉を求める消費者ニーズを反映した商品の展示が目立った。以下では、主な中国企業の動向を報告する。
写真6 会場前の様子
万洲国際(WH Group、旧社名:双匯そうかい国際)

 国内最大手の食肉加工企業、双匯集団の子会社で河南省に拠点を置く。昨年9月に米国スミスフィールド・フーズを買収し、6月にスペイン食肉大手カンポフリオを他社と共同買収した。最近では、資金調達のため香港市場への上場を試みるも、投資家の需要が得られないとの判断により、上場を4月から8月に延期した経緯がある。

 また、スミスフィールド・フーズとは米国産冷蔵豚肉を、カンポフリオとは欧州産の高級ハム・ソーセージなどを、それぞれ提携して国内の富裕層向けに販売するとしている。また両社とは、共同での新製品の研究開発も進行中である。
写真7 スミスフィールド・フーズ社の冷蔵豚肉
写真8 カンポフリオ社のハム
鵬程ほうてい(北京順新農業股份有限公司鵬程食品分公司)

 北京で強力な物流・販売網を有し、北京の豚肉市場で最大のシェアを誇る国有企業。肥育豚の育成から、と畜、加工・販売までを行うインテグレーターでもある。同社は北京五輪公式食品のサプライヤーとして認定されたほか、「鵬程」ブランドは国内では有名。

 最近では、自社工場での、ISO22000(食品安全)の取得などを進めており、国内に供給する豚肉の安全性と品質を高めることに注力している。また、新たに「小店」ブランドを立ち上げ、多様な豚肉加工品の販売を展開している。
写真9 鵬程ブランドの冷蔵豚肉
雨潤食品(Yurun food group)

 江蘇省に拠点を置く豚肉加工大手。子会社を通じて、冷蔵豚肉のほかハムやソーセージなどを提供している。また、「雨潤」、「福潤」、「「旺潤」、「大衆肉総」の4ブランドを展開し、スーパーだけでなく、高級ホテルに進出することで、同社ブランドは高級食材として認知されている。

 昨年ごろから経営状況が悪化していたが、最近では電子商取引(EC)サイトに参入し、オンラインでの食肉販売を展開する見通し。
写真10 雨潤ブランドの冷蔵豚肉。潅黒土猪と呼ばれる黒豚の肉を使用
写真11 旺潤ブランドのソーセージ
大庄園肉業(Grand Farm)

 黒龍江省に拠点を置く牛肉・羊肉生産企業。黒龍江省や内モンゴル自治区の広大な牧草資源と放牧地を利用して、牛肉・羊肉を生産している。また、NZから牛肉・羊肉を輸入しており、国内最大の羊肉輸入業者でもある。

 最近では、牛肉、羊肉の生産から流通、販売までのインテグレート化を進めており、国内での生産量を増加させている。さらにトレーサビリティの確立にも注力し、国産ブランドの信頼回復に努めている。
写真12 自社生産の冷凍牛肉
写真13 NZ産の冷凍牛肉・羊肉
恒陽集団(Foresun Group)

 黒龍江省を拠点とする牛肉・豚肉加工企業で、グループ牧場で牛10万頭、豚20万頭を飼養。牛肉・豚肉製品の輸出入も盛んに行っており、輸出の主力商品はハラルマーケット向けの冷凍牛肉、ビーフジャーキーなど。

 最近では、国内市場への供給力を強化するため、5月に豪州ビクトリア州の牛肉生産企業を2社買収した。同社は今後も、高品質な豪州産牛肉の輸入量を増やすとしている。
写真14 国産の牛肉加工品
写真15 豪州産冷凍牛肉


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