【要約】
2014年以降、豪州は、韓国、日本、中国と、自由貿易協定などを順次締結した。これらの協定も踏まえた今後の輸出見通しについて、豪州の畜産業界では、日本への輸出増加は部分的と見ている一方、韓国については一定の輸出増加を見込んでおり、中国については大幅な輸出増加を期待している。ただし、最終的に輸出の増減を決定する最大の要因は価格であり、これらの協定のみにより、劇的に輸出量が変化するわけではない。今後、日本の畜産物の海外からの調達に当たっては、協定の有無にかかわらず、近年の日本の購買力の低下や中国の需要急増の影響が大きく表れることが予想される。
1 はじめに
豪州は、日本、韓国および中国の牛肉と乳製品市場において、ニュージーランド(NZ)や米国などとし烈な市場競争を繰り広げている。そうした中、2014年以降、豪州は韓国、日本、中国と立て続けに経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)(以下両者「協定」という)を締結し、これらの国への輸出の強化を図っている。
こうしたことから、本稿では、豪州産牛肉と乳製品について、日本、韓国および中国向けの輸出動向や今後の展望について、相次いで締結されたこれらの協定の内容を比較しながら報告する。
なお、本稿中特に断りのない限り、豪州の生乳生産に関連する年度は7月〜翌6月である。
2 豪州の牛肉および乳製品の生産・輸出をめぐる情勢
はじめに、豪州の牛肉と乳製品の生産、輸出動向を確認する。
(1)牛肉
牛肉生産量は、2012年までは年間200万トン前後だったが、大規模な干ばつによると畜頭数の増加により、2014年は255万トンまで増加しており、2015年も、7月現在、引き続き増加傾向で推移している(図1)。
図1 豪州の牛肉生産量の推移 |
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資料:ABS「Livestock and Meat,Australia」 |
牛肉輸出量は、2012年までは冷蔵、冷凍合計で年間90万トン前後だったが、近年増加傾向にあり、2014年は冷蔵31万トン、冷凍98万トンと、合計で129万トンとなっている(図2)。これは、牛肉生産量の増加傾向に加えて、中国など新興国の需要の拡大、米国の牛肉生産量減少に伴う代替需要の増加、豪ドル安傾向で推移する為替相場などが背景にある。
図2 豪州の牛肉国別輸出量(冷蔵・冷凍)の推移 |
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資料:DAFF「Red Meat Export Statistics」 |
国別に見ると、最大の輸出先は米国であり、次いで、日本、韓国、中国の順となっており、特に2013年以降、中国向け冷凍牛肉の輸出量が増加し、2014年には全輸出量の10%を占めている。
(2)乳製品
生乳生産量は、2001/02年度の1127万キロリットルをピークに減少傾向で推移してきたが、2013/14年度以降わずかに増加し、2014/15年度は948万キロリットルとなっている(図3)。
図3 豪州の生乳生産量の推移 |
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資料:DA「Australian Dairy Industry In Focus」
注 1:年度は7月〜翌6月。
2:2014/15年度は速報値。 |
乳製品輸出量は、年によって変動するものの、2013/14年度は60万トンで、生乳生産量の約4〜6割が輸出向けに利用されている。
品目別に見ると、脱脂粉乳は14万トンと、乳製品輸出量(2013/14年度、以下同じ。)の24%を占めている。主要な輸出先はインドネシアと中国で、それぞれ2万6000トン、2万3000トン、割合はインドネシア18%、中国16%となっている(図4)。
図4 豪州産脱脂粉乳の国別輸出量の推移 |
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資料:Dairy Australia「Australian Dairy Industry In Focus」
注 1:年度は7月〜翌6月。
2:2013/14年度は速報値。 |
同じく全粉乳は10万トンと、乳製品輸出量の17%を占めており、近年は減少傾向にある。最大の輸出先は中国で、3万2000トンと、全体の31%を占めている(図5)。
図5 豪州産全粉乳の国別輸出量の推移 |
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資料:Dairy Australia「Australian Dairy Industry In Focus」
注 1:年度は7月〜翌6月。
2:2013/14年度は速報値。 |
バターは4万トンと、乳製品輸出量の7%を占めている。ヨーロッパ向け輸出が多く、1万9000トンと、全体の47%を占めている。アジア地域では中国が4000トンと、全体の10%を占めている(図6)。
図6 豪州産バターの国別輸出量の推移 |
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資料:Dairy Australia「Australian Dairy Industry In Focus」
注 1:年度は7月〜翌6月。
2:2013/14年度は速報値。 |
チーズは15万トンと、品目別に見て乳製品輸出量に占める割合が最も高く、25%となっている。最大の輸出先は日本で、7万4000トンと、全体の49%を占めている。中国、韓国向けはそれぞれ2万トン、5000トン、割合は中国13%、韓国3%となっている(図7)。
図7 豪州産チーズの国別輸出量の推移 |
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資料:Dairy Australia「Australian Dairy Industry In Focus」
注 1:年度は7月〜翌6月。
2:2013/14年度は速報値。 |
3 日本、韓国および中国の輸入動向
次に、日本、韓国および中国の牛肉と乳製品の輸入動向と、その中に豪州産が占める割合などを確認する。
(1)日本
ア 牛肉
冷蔵牛肉の輸入量は、2009年以降横ばいで推移してきたが、2014年はわずかに増加し、21万9000トンとなっている。このうち、豪州産は12万5000トンと、全体の6割を占めており、最大の輸入相手国である。一方、冷凍牛肉の輸入量は、2005年以降増加傾向にあり、2014年は前年をやや下回り29万9000トンとなっている。このうち、豪州産の輸入量は15万5000トンと、全体の5割を占めており、こちらも最大の輸入相手国である(図8)。
図8 日本の牛肉国別輸入量(冷蔵・冷凍)の推移 |
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資料:財務省「貿易統計」
注:部分肉ベース。煮沸肉、ほほ肉、頭肉を含む。 |
冷蔵、冷凍いずれも豪州に次ぐ輸入相手国は米国で、同国産の輸入量は、2003年のBSE発生により減少したが、近年は回復傾向にあり、2014年は冷蔵で8万3000トン、冷凍で10万5000トンと、ともに輸入量の4割弱を占めている。
イ 乳製品
2014年の粉乳の輸入量は4万4000トンとなっており、大半が脱脂粉乳である。豪州産は8000トンと、全体の1割〜2割を占めているものの、最大の輸入相手国はNZであり、2014年は2万1000トンと、全体の5割を占めている(図9)。
図9 日本の粉乳国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0402 |
2014年のバターの輸入量は1万1000トンとなっている。豪州産は350トンと、2009年以降大きく減少している。2011年以降、NZが最大の輸入相手国となっており、2014年は6000トンと、全体の6割を占めている(図10)。
図10 日本のバター国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:040510 |
2014年のチーズの輸入量は23万トンと、2010年以降増加傾向にある。豪州産は7万9000トンと、全体の3割以上を占めており、最大の輸入相手国である。豪州に次ぐ輸入相手国はNZで、同国産の輸入量は増加傾向にあり、2014年は5万5000トンと、全体の2割を占めている。なお、2014年は米国産も、NZ産とほぼ同じ輸入量となっている(図11)。
図11 日本のチーズ国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0406 |
(2)韓国
ア 牛肉
2014年の冷蔵牛肉の輸入量は4万6000トンと、近年増加傾向にある。豪州産は3万4000トンと、全体の7割以上を占めており、最大の輸入相手国である。2014年の冷凍牛肉の輸入量は23万4000トンとなっており、冷蔵牛肉を大きく上回っている。豪州産は11万8000トンと、全体の5割を占めており、冷蔵牛肉同様最大の輸入相手国である(図12)。
図12 韓国の牛肉国別輸入量(冷蔵・冷凍)の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0201(冷蔵牛肉)、0202(冷凍牛肉) |
日本と同様に、冷蔵、冷凍ともに豪州に次ぐ輸入相手国は米国で、同国産の輸入量は、2003年のBSE発生により減少したものの、2009年以降急激に増加し、2014年は冷蔵で1万1000トン、冷凍で9万トンと、冷蔵では全体の2割を、冷凍では全体の4割を占めている。
イ 乳製品
2014年の粉乳の輸入量は2万3000トンとなっており、2011年以降増加傾向で推移している。輸入している粉乳の大半は脱脂粉乳である。2014年の豪州産は6000トンと、全体の2割を占めている。最大の輸入相手国は米国で、同国産の輸入量は2013年以降急増し、2014年は8000トンと、全体の3割強を占めている(図13)。
図13 韓国の粉乳国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0402 |
2014年のバターの輸入量は3500トンとなっており、近年は3000トン〜4000トン前後で推移している。直近では豪州産の輸入量はほとんどなく、主要な輸入相手国であるNZと米国からの2014年の輸入量はそれぞれ1700トン、1200トン、割合はNZ5割、米国3割となっている(図14)。
図14 韓国のバター国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:040510 |
2014年のチーズの輸入量は9万7000トンとなっており、2000年頃(3万1000トン)と比較すると大幅に増加している。その一方、豪州産は、2000年頃(1万5000トン)と比較すると大幅に減少しており、2014年には5000トンとなっている。2010年以降、米国産が急増し、2011年以降は米国がNZに替わって最大の輸入相手国となっており、2014年は6万4000トンと、全体の6割以上を占めている(図15)。
図15 韓国のチーズ国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0406 |
(3)中国
ア 牛肉
中国の牛肉輸入は、ほぼ全て冷凍牛肉であり、2000年に6000トンであった輸入量は、2013年以降急増し、2014年には29万5000トンとなっている。2014年の豪州産は13万2000トンと、全体の4割を占めており、最大の輸入相手国である。2013年以降は、ウルグアイ産やNZ産も増加しており、2014年はそれぞれ8万9000トン、4万トン、割合はウルグアイ3割、NZ1割となっている(図16)。
図16 中国の牛肉国別輸入量(冷蔵・冷凍)の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0201(冷蔵牛肉)、0202(冷凍牛肉) |
イ 乳製品
2014年の脱脂粉乳の輸入量は25万2000トンと、2009年以降増加傾向にある。2014年の豪州産は1万7000トンとなっており、全体に占める割合は小さい。最大の輸入相手国はNZで、2014年は11万5000トンと、全体の4割以上を占めている(図17)。
図17 中国の脱脂粉乳国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:040210 |
全粉乳の輸入量も2009年以降増加傾向にあり、2014年は67万トンと、脱脂粉乳を大幅に上回る輸入量となっている。2014年の豪州産は1万5000トンと、全体に占める割合は小さい。最大の輸入相手国はNZで、2014年は61万3000トンと、全体の9割を占めている(図18)。
図18 中国の全粉乳国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:040221 |
2014年のバターの輸入量は5万1000トンと、粉乳と同様に2009年以降増加傾向にある。2014年の豪州産は1500トンとなっており、全体に占める割合は小さい。最大の輸入相手国はNZで、2014年は4万5000トンと、粉乳と同様に全体の9割を占めている(図19)。
図19 中国のバター国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:040510 |
2014年のチーズの輸入量は6万6000トンと、2006年以降増加傾向にある。2014年の豪州産は1万7000トンと、全体の3割弱を占めている。最大の輸入相手国はNZで、2014年は2万9000トンと、全体の4割以上を占めている(図20)。
図20 中国のチーズ国別輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード:0406 |
4 日豪EPA、韓豪FTAおよび中豪FTAの概要
ここでは、日豪EPA、韓豪FTA、中豪FTAの内容を比較する。3つの協定の概要については、表1を参考にされたい。
表1 日豪EPA、韓豪FTA、中豪FTAの比較(概要) |
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資料:豪州外務貿易省(DFAT)をもとに機構が作成。
注:『撤廃』は、一定期間かけて、関税を無税にすること。
『削減』は、一定期間かけて、関税を減らすこと。
『除外』は、『撤廃』または『削減』の対象外とすること。 |
(1)日豪EPA
日豪EPAは、2007年4月の交渉開始から全16回の会合を重ねた末、2014年7月に締結、2015年1月に発効した経済連携協定である。日本にとっては、農畜産物の主要輸入相手国との初めてのEPA締結となった。関税削減スケジュールは、表2の通りである。
表2 日豪EPA 関税削減スケジュール |
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資料:豪州外務貿易省(DFAT)
注 1:セーフガード(SG)発動時は、MFN税率(38.5%)が適用される。
2:プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズは、全ての国からの輸入量に対し、
国産:輸入=1:2.5となるよう関税割当が設定されている。
3:両国間の見直しの交渉で合意が得られない限り、10年目の発動基準が適用
される。
4:粉チーズ、プロセスチーズおよびプロセスチーズ原料用またはシュレッドチーズ
原料用ナチュラルチーズの枠外税率はそれぞれ25.1%、40.0%、29.8%となって
いる。
5:プロセスチーズ原料用またはシュレッドチーズ原料用ナチュラルチーズの無税
枠(豪州特別枠の関税割当)は、国産:輸入=1:3.5の範囲内で利用可能となった。 |
豪州産牛肉の関税率は、現行MFN税率の38.5%から段階的に削減され、冷蔵牛肉は15年目(2028年4月1日)以降23.5%に、冷凍牛肉は18年目(2031年4月1日)以降19.5%となる。また、関税率の削減と併せて、セーフガード(SG)が導入された(図21)。これまでの輸入量(2013/14年度(日本の年度は4月〜翌3月。)は冷蔵11万5000トン、冷凍16万2000トン)をもとに発動基準(1年目(2015年1月〜)は冷蔵13万トン、冷凍19万5000トン、11年目(2024年4月1日〜)にかけて冷蔵14万5000トン、冷凍21万トンまで段階的に上昇)が定められ、輸入数量の月別累計が発動基準を超過した場合、当該月の翌々月から当該年度終了までの間、関税率がMFN税率まで引き上げられるという仕組みとなっている(注1)。
図21 日本の豪州産牛肉輸入実績とSG発動基準の推移 |
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資料:農林水産省、DFAT
注 1:日本の年度は、4月〜翌3月。
2:2024年度以降は、2023年度と同等の発動基準。 |
乳製品のうち、バターおよび脱脂粉乳は「将来の見直し」(注2)とされた。チーズは、品目ごとに関税割当枠が設定され、枠外関税は撤廃や削減などの対象から「除外」とされ、関税割当枠内は、税率削減または無税となった。プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズとシュレッドチーズ原料用ナチュラルチーズ(シュレッドチーズは小さく切ったチーズで、ピザなどの料理に使用されている。プロセスチーズ同様、日本ではチーズ原料として輸入されることが多い。)は、豪州向け特別枠として、一定比率の国産品使用を条件に無税枠が設定された。前者は、21年目(2034年4月1日)に2万トンとなるまで段階的に拡大し、後者は、11年目(2024年4月1日)に5000トンとなるまで段階的に拡大する。
(2)韓豪FTA
韓豪FTAは、2014年4月に締結、日豪EPAに先立って同年12月に発効した自由貿易協定である。関税削減スケジュールは、表3の通りである。
表3 韓豪FTA 関税撤廃スケジュール |
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資料:DFAT
注 1:牛肉のSGは、当該年の冷蔵・冷凍牛肉の輸入数量の合計が、発動基準数量を
超過した場合に発動。
2:チーズの「無税枠」は、カード、ブルーチーズ以外のすべてのチーズに対して
適用される。なお、関税撤廃された品目は、合計対象から除外していくため、
「無税枠」はその都度小さくなる。 |
豪州産牛肉の関税率は、現行MFN税率の40%(冷蔵、冷凍ともに同率)から段階的に削減され、15年目(2028年1月1日)以降無税となる。また、関税率の削減と併せて、SGが導入された(図22)。これまでの輸入量(2013年は冷蔵、冷凍併せて14万7000トン)をもとに発動基準(1年目(2014年)は15万5000トン、15年目(2028年)にかけて20万4000トンまで段階的に拡大)が定められ、年累計の輸入数量が発動基準を超過した場合、当該年終了までの間、関税率がMFN税率まで引き上げられる。
図22 韓国の豪州産牛肉輸入実績とSG発動基準の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」、DFAT
注 1:2029年以降、関税撤廃とともにSGも廃止となる。
2:HSコード:0201(冷蔵牛肉)、0202(冷凍牛肉) |
乳製品のうち、粉乳は脱脂粉乳、全粉乳ともに今回の関税撤廃の対象外となった。
豪州産バターの関税率は、現行MFN税率の89%から段階的に削減され、15年目(2028年1月1日)以降無税となる。豪州産チーズの関税率は、現行MFN税率の36%から段階的に削減され、品目によって差はあるが、最も遅いものでも20年目(2033年1月1日)以降無税となる。なお、バターとチーズは、関税撤廃までの間、関税割当枠が設定され、枠内税率は無税となる。
(3)中豪FTA
中豪FTAは、2005年5月の交渉開始から全21回の交渉を重ねた末、2015年6月に署名された自由貿易協定である。同FTAは、2015年7月末現在未発効であるため、本稿では、同FTAに係る関税撤廃のスケジュール(表4)は、2016年を「発効1年目」と仮定している。
表4 中豪FTA 関税撤廃スケジュール |
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資料:DFAT
注 1:中豪FTAは、2015年7月末現在未発効であるため、本稿では、2016年を「発効
1年目」と仮定している。
2:牛肉のSGは、当該年の冷蔵・冷凍牛肉の輸入数量の合計が、発動基準数量を
超過した場合に発動。
3:牛肉、全粉乳ともに、SG発動時は、MFN税率が適用される。 |
豪州産牛肉の関税率は、現行MFN税率(冷蔵枝肉・半丸枝肉は20%、冷凍枝肉・半丸枝肉は25%、冷蔵・冷凍その他は12%)から段階的に削減され、10年目(2025年1月1日)以降無税となる。また、関税率の削減と併せて、SGが導入される(図23)。これまでの輸入量(2014年は冷蔵、冷凍併せて13万5000トン)をもとに発動基準(1年目(2016年)は17万トン、17年目(2032年)にかけて約25万トンまで段階的に上昇)が定められ、年累計の輸入数量が発動基準を超過した場合、当該年終了までの間、関税率がMFN税率まで引き上げられる。
図23 中国の豪州産牛肉輸入実績とSG発動基準の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」、DFAT
注 1:中豪FTAは、2015年7月末現在未発効であるため、本稿では、
2016年を「発効1年目」と仮定して、関税撤廃スケジュールを
記述している。
2:2033年以降は、2032年と同等の発動基準。
3:HSコード:0201(冷蔵牛肉)、0202(冷凍牛肉) |
豪州産乳製品の関税率は、現行MFN税率から段階的に削減され、12年目(2027年1月1日)以降全て無税となる。ただし、全粉乳については、SGが導入される(図24)。これまでの輸入量(2014年は1万3000トン)をもとに発動基準(1年目(2016年)は1万8000トン、15年目(2030年)にかけて3万4000トンまで段階的に上昇)が定められ、年累計の輸入数量が発動基準を超過した場合、当該年終了までの間、関税率がMFN税率まで引き上げられる。
図24 中国の豪州産全粉乳輸入実績とSG発動基準の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」、DFAT
注 1:中豪FTAは、2015年7月末現在未発効であるため、本稿では、
2016年を「発効1年目」と仮定して、関税撤廃スケジュールを
記述している。
2:HSコード:040221 |
(注1)
当該月の翌々月が次年度となる場合は、当該月の属する年度が終了するまでの間に発動基準を上回った数量を、次年度4月の輸入数量に含めることができる。
(注2)
「除外」は、関税の撤廃や削減の対象としない品目(コメ等)。「再協議」は、除外対象品目のうち、5年目以降に再度交渉することを約束した品目(とうもろこしでんぷん等)。「将来の見直し」は、5年目までに市場アクセスの条件を改善することを約束した品目(麦、乳製品等)。これらの定義の詳細は、衆議院調査局 農林水産物貿易等研究会(2014)「日豪EPAにおける農産物市場アクセスと食料供給章−その意義と今後の政策展望−」『Research Bureau 論究』第11号(2014.12)pp.151-189参照。
5 日豪EPA、韓豪FTAおよび中豪FTAの締結に伴う豪州の牛肉、乳製品の輸出見通し
これまで確認してきた事項に基づき、日豪EPA、韓豪FTAおよび中豪FTAの締結に伴う豪州の牛肉、乳製品の輸出見通しについて、現地の業界団体への聞き取りなどを踏まえ報告する。
(1)日豪EPA締結に伴う豪州の日本市場への輸出見通し
ア 日本市場の位置づけと、日豪EPAに対する評価
日本市場は、牛肉、乳製品ともに、市場規模の急速な拡大は見込めないものの、成熟した安定的な市場として位置付けられている。日豪EPAについての評価は、牛肉業界と酪農乳業界とで異なっている。牛肉については、日豪EPA締結後、日本への輸出量は増加しており、牛肉業界からも一定の評価を受けている。しかしながら、関税撤廃ではなく約5割の関税削減にとどまっていることや、セーフガードが設けられていることに対し、豪州がこれまで他国と締結してきたFTAと比較すると不十分との声も多い。
一方、乳製品については、粉乳やバターは今回の市場アクセス改善の対象外となった上、チーズも関税割当の拡大にとどまったため、豪州の酪農乳業界としては便益が少ないことから、日豪EPAに対する評価は低いものとなっている。
イ 日本市場への輸出見通し
牛肉については、関税削減により一定の輸出量の増加が見込まれている。しかしながら、今後の豪州の牛肉生産量は、干ばつ後の牛群再構築の開始により減少が見込まれている上、日本市場で競合する米国の今後の牛肉生産量は、牛群再構築後回復が見込まれるため、これまで以上に米国との競合関係が激化すると予想されている。
乳製品については、バターやチーズを中心としたNZとの競合に加え、今後は輸出志向を高める米国との競合関係の激化も予想されている。
また、日本市場への輸出において、牛肉、乳製品の両品目に共通して認識されていることは、日本の購買力の低下と、中国をはじめとした新興国の需要拡大による、絶対的、相対的な日本の価格競争力の低下である。このため、日豪EPA締結以前から、牛肉、乳製品ともに、日本よりも高い価格を提示する中国や中東向け輸出にシフトする傾向があり、かつてのように日本向けが優先されるという市場環境ではなくなっている。
以上の通り、日豪EPAにより、日本向けの輸出は、牛肉については一定の増加こそ見込まれるものの、牛肉、乳製品ともに、他の輸出国との競合関係の激化、日本の購買力の低下など、むしろ日本向け輸出を減少させる要素も見られることから、日豪EPAによる日本向け輸出への影響は部分的なものになるとみられている。
(2)韓豪FTA締結に伴う豪州の韓国市場への輸出見通し
ア 韓国市場の位置づけと、韓豪FTAに対する評価
韓国市場は、日本と同様に成熟した安定的な市場であるものの、日本に比べ一定の購買力を有していると位置づけられている。韓豪FTAについては、粉乳を除く全ての乳製品と牛肉の関税が撤廃されるため、牛肉業界、酪農乳業界ともにおおむね満足しているといった評価である。
韓豪FTAと前後して韓国が米国やNZと締結したFTAと比較すると、牛肉については、いずれのFTAにおいてもおおむね15年で関税とSGが撤廃されるのに対して、乳製品については、韓豪FTAの関税撤廃スケジュールが遅く、協定内容で劣後している箇所がみられる(表5)。これについては、豪州における牛肉産業と酪農乳業の市場規模や政治力の差、あるいは米国や国を挙げて酪農乳業を振興するNZとの交渉力の差などが表れている、という見方もある。
表5 韓米FTA、韓豪FTA、韓NZFTAにおける乳製品の輸入関税削減スケジュール |
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資料:DFAT
注 1:粉乳については、いずれの国に対しても、枠外税率:脱脂粉乳=176.0%、全粉乳
=89.0%は維持。韓豪FTAでは、無税枠が設置されなかった。
2:いずれのFTAにおいても、チーズの「無税枠」は、カード、ブルーチーズ以外のすべ
てのチーズに対して適用される。なお、関税撤廃された品目は合計対象から除外
していくため、「無税枠」はその都度小さくなる。
3:韓米FTAにおけるチーズの「無税枠」については、10年目以降、チェダーチーズを
合計対象から除外する。 |
イ 韓国市場への輸出見通し
牛肉については、近年、外食産業や小売業向けの冷蔵グレインフェッド牛肉の輸出が増加している。こうした傾向に加え、関税の削減、豪州と競合する米国および韓国国内の牛肉生産量の減少や、豪州産牛肉に対して消費者が持つクリーンなブランドイメージにより、韓国市場への輸出は堅調に推移すると見込まれている。
乳製品については、バターやチーズを中心に輸出の増加を期待しているものの、豪州に先んじてFTAを締結した米国に一部市場を奪われている。今後、韓国の乳製品市場では、米国、NZ、EUといった国や地域との競合関係の激化が予想され、これらの競合国の動向が、豪州の乳製品輸出にも大きく影響を及ぼすとみられている。
(3)中豪FTA締結に伴う豪州の中国市場への輸出見通し
ア 中国市場の位置づけと、中豪FTAに対する評価
中国市場は、牛肉、乳製品ともに今後も拡大を続ける市場として大きく期待されている。中豪FTAについては、牛肉、乳製品に関しては全ての品目で関税が撤廃されるため、牛肉業界、酪農乳業界の双方から高く評価されている。その一方で、牛肉、乳製品の中国向け輸出は、FTA締結以前から旺盛な需要により急増しているため、関税撤廃そのものによる輸出促進効果は特筆するほどではない、という見方もある。
イ 中国市場への輸出見通し
牛肉、乳製品ともに、旺盛な需要に関税削減が追い風となり、輸出の増加傾向が続くと見込まれている。ただし、牛肉と乳製品とでは豪州の立ち位置が異なる。
牛肉については、NZが2008年に豪州に先んじて中国とFTAを締結しており、中豪FTAと同様に、10年程度で関税を撤廃するとしている。しかし、豪州はすでに中国の最大の輸入相手国である。このため、今後は輸出余力の拡大が見込まれる南米諸国や、将来的に、現在は2003年のBSE発生に伴い輸入が停止されている米国との競合関係が予想される中で、市場規模の維持、拡大を図ることになる。
乳製品については、豪州に先んじてFTAを締結したNZが、すでに一部の乳製品では関税が撤廃されていることもあり、中国市場では圧倒的な存在感を示している(表6)。このため、豪州としては、今後はチーズや育児用調製粉乳、UHT牛乳といった高付加価値製品の輸出に特化することで、競合関係にあるNZとは量ではなく質で勝負し、差別化を図ろうとしている。しかし、こうした戦略に対しては、豪州の高付加価値製品の製造、開発技術レベルが不十分ではないか、また、生乳生産量の伸び悩みにより中国の需要を満たせないのではないか、という見方もある。
表6 中豪FTA、中NZFTAにおける乳製品の輸入関税削減スケジュール |
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資料:DFAT
注 1:中豪FTAは、中NZFTAと異なり、全粉乳にのみSGが設けられている。
2:SG発動時は、MFN税率が適用される。 |
なお、中国向け輸出については、当局の政治介入により経済活動が突然規制される「政策上のリスク」を危惧する声もあり、豪州の牛肉産業、酪農乳業としては、中国への依存度を高めすぎないようにアジア市場全体を見渡すことも重要になっている。
6 おわりに
最後に、今後の豪州の牛肉および乳製品の輸出見通しや日本への影響について考えるうえで、重要な点を2点記す。
一つは、最終的に輸出の増減を決定する最大の要因は価格であり、協定はあくまでも価格を決定する上での一つの要素に過ぎない、という点である。牛肉や乳製品の輸出は、輸出国の生産情勢(天候)、競合国の輸出余力、輸入国の経済情勢、為替相場や関税率といった要素が総合的に影響しながら、最終的には個々の顧客の提示する価格によって決定される。このため、協定の締結は輸入量の増加に直結するわけではない。
もう一つは、中国の圧倒的な存在感が、牛肉や乳製品の国際価格に大きな影響を与えている点である。食の欧風化や生活水準の向上による中国の牛肉や乳製品需要の急速な高まりを受け、牛肉や乳製品の国際価格は近年上昇しているが、その一方で、ひとたび中国の需要が弱まると、国際価格もそれに伴って下落する傾向がある。今後、日本の畜産物の海外からの調達に当たっては、協定の有無にかかわらず、近年の日本の購買力低下と中国の需要急増の影響がより大きく表れることが予想される。
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