調査・報告 学術調査  畜産の情報 2017年6月号


国産穀類の飼料用米を多給与した肥育豚の発育・肉質成績と食味評価に関する調査研究

山形大学農学部 教 授  堀口 健一
准教授  松山 裕城
教 授  浦川 修司



【要約】

 国産穀類である飼料用米の養豚(肥育)における一層の利用促進を図るため、飼料用米(玄米)の配合割合を極力高めた飼料を給与し、さらに、タンパク質飼料原料としての大豆かすの割合を低減してアミノ酸飼料を配合したときの肥育豚の発育性、消化性、肉質に及ぼす影響について調査した。その結果、肥育豚の主要な飼料原料である輸入穀類のトウモロコシ(80%配合)の全量を玄米で代替できることが示された。また、玄米を高配合した飼料を給与した肥育豚において、アミノ酸飼料の利用による大豆かすの低減は可能であることが示唆されたが、飼料摂取量の低下による増体量への影響も考えられ、生産現場への導入に当たっては慎重に検討すべきである。

1 はじめに

国内の養豚経営において、国産穀類の積極的な利用により、飼料基盤を強化しながら輸入飼料への依存度を下げ、国産豚肉の競争力を高めていくことが喫緊の課題となっている。それらを解決するためには、国産穀類である飼料用米の養豚での利用拡大を図っていくための技術開発が不可欠であり、特に、飼料用米を主原料とする配合飼料による給与・肥育技術の確立が必要である。

飼料用米の配合割合を極力高めた飼料を給与したときの肥育豚の発育性、消化性、肉質に関する調査研究は、一定の事例報告があるものの、まだ不十分な状況であると思われる。そのため、本調査研究の実施により肥育豚の生産現場に不可欠な情報の収集に取り組むことが必要である。また、飼料用米を主原料にした肥育豚用の配合飼料において、タンパク質飼料原料としての大豆かすなどの割合を低減してアミノ酸飼料を配合した事例はほとんどなく、肥育時における発育成績や枝肉成績を検証する必要がある。

そこで本調査研究では、肥育豚において、飼料原料の主要なエネルギー源であるトウモロコシを飼料用米(玄米)に代替し、さらに、タンパク質(アミノ酸)の大豆かすからの供給をアミノ酸飼料で補足したときの発育や肉質に及ぼす影響について確認する。特に、玄米によるトウモロコシの全量代替と玄米多給与の肥育豚におけるアミノ酸飼料による大豆かすの低減について検討することを主な目的とした。

2 肥育試験と調査方法

供試豚はハイブリッド豚(注1)9頭(肥育試験開始時の平均体重74.5キログラム)を用い、3つの処理区に3頭を振り分けた。各供試豚はハウス動物舎内に配置したケージ内で飼育し、各供試豚とも1頭ごとに管理した。飼料は自由に摂取できる状態とし、原則1日2回の管理作業時に飼料の残り状況から給与量を決定した。各供試豚の体重の測定は、期間中1週間間隔で実施した。

(注1) 高能力で固定した種の雑種強勢の効果を利用して強健性などに優れ、発育性が良好かつ斉一な能力を発揮するブタのこと。

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それぞれの処理区は、(1)トウモロコシ80%配合区(以下「対照区」という)、(2)玄米80%配合区(以下「玄米区」という)、(3)玄米87.2%配合+大豆かす低減によるアミノ酸飼料配合区(以下「低粕区」という)とした。供試した飼料の内訳と各処理区の配合設計は表1に示した。トウモロコシと玄米は、粉砕機を用いて処理し、その後、他の飼料と混合して配合した。

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各調査の方法は次のとおりに行った。飼料の化学成分は、常法に従って分析した。飼料摂取量は、飼料の給与量から残飼量を差し引いて算出した。増体量は、終了時体重と開始時体重の差を肥育試験期間の日数で除して算出した。消化試験は、全ふん採取法(5日間の飼料摂取量と排泄ふん量の調査)により実施した。枝肉成績は、と畜後に(公社)日本食肉格付協会の豚枝肉取引規格に従って格付が行われた。胸最長筋(注2)の化学成分は、常法により分析した。胸最長筋の肉色と背脂肪の脂肪色は、色彩色差計で測定した。胸最長筋のドリップロス(注3)は、肉汁吸収紙を用いて24〜96時間後を調査した。背脂肪の融点(注4)は、毛細管を用いた上昇融点(毛細管中の脂肪が溶けて1センチメートル上昇したときの温度)を調査した。背脂肪の脂肪酸組成は、抽出した脂肪サンプルを前処理後、ガスクロマトグラフ(注5)で分析して求めた。胸最長筋の遊離アミノ酸は、ミンチ状のサンプルを前処理後、高速アミノ酸分析計により分析した。また、選抜と訓練を行ったパネルによる分析型官能評価を各区の胸最長筋(加熱処理カット肉)を用いて実施した。各区のカット肉を実食させ、風味、脂肪質、軟らかさ、多汁性、うま味、総合評価の6項目について、それぞれの項目とも8段階で評価した。

(注2) 一般にロース(食肉の肩から腰にかけての背肉部分)と呼ばれている部分の筋肉のこと。

(注3) 解凍時や保存時間の経過時に、肉汁や水分を失ってしまうこと。

(注4) 脂肪が溶け始める温度のこと。

(注5) 気化しやすい化合物を測定する分析機器のこと。

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3 結果

飼料の化学成分組成(飼料の一般的な栄養成分)を表2に示した。配合飼料中の粗タンパク質の含量は、対照区で14.7%、玄米区で14.4%、低粕区で11.5%であり、飼料の配合を設計したときに試算した計算値にほぼ設定できたと思われる。粗脂肪と粗繊維の含量は、対照区が玄米区や低粕区より高かった。一方、可溶無窒素物の含量は、玄米を高配合した2区が対照区より4〜7%高くなり、低粕区が約80%と、最も高かった。

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発育成績の結果を表3に示した。終了時体重は、低粕区が他の2区を下回ったが、区間に有意差がなかった。1日当たりの増体量は、対照区で0.85キログラム、玄米区で0.83キログラム、低粕区で0.75キログラムであった。飼料乾物摂取量は、玄米区と低粕区が対照区より有意に低かった。飼料要求率(乾物換算)は、対照区で3.34、玄米区で3.10、低粕区で3.30となり、玄米区が良好であり、低粕区が対照区と同等であった。

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飼料乾物摂取量が玄米区と低粕区で低くなった結果から、玄米の配合割合を極力高めたときの肥育豚における嗜好性への影響が考えられ、この点を明らかにしていくことも必要であると思われた。

消化試験の結果(消化率および栄養価)を表4に示した。乾物および可溶無窒素物の消化率は、トウモロコシ高配合の飼料を給与した対照区に比べ、玄米高配合の飼料を給与した玄米区および低粕区が有意に高かった。粗タンパク質の消化率は、各区とも83%〜85%の範囲にあり、区間に有意差がなかった。粗脂肪の消化率は、低粕区が他の2区に比較して高いものの、区間に有意差がなかった。粗繊維の消化率は、対照区が高く、対照区と他の2区の間に有意差があった。可消化養分総量は、対照区で88.0%、玄米区で90.7%、低粕区で91.4%となり、対照区に比べて玄米区と低粕区が有意に高くなった。

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玄米を高配合した飼料の肥育豚への給与は、栄養価(可消化養分総量)を改善することが確認でき、前述した発育成績(表3)の結果にも影響していると考えられた。

5には枝肉成績の結果を示した。枝肉重量は、区間に有意差がなく、対照区で74.3キログラム、玄米区で72.3キログラム、低粕区で74.2キログラムであった。歩留は、対照区や玄米区より低粕区が高かった。背脂肪厚は、玄米区が他の2区より薄くなったが、区間に有意差がなかった。いずれの調査項目とも大きな違いがなく、枝肉の等級(数値化した等級値)においても、各区とも同等の評価であることが確認された。

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6には胸最長筋および背脂肪の理化学特性を示した。胸最長筋の水分、粗タンパク質および粗脂肪の含量は、区間に有意差がなかった。胸最長筋の肉色は、いずれの項目(L*、a*、b*)も、区間に有意差がなかった。胸最長筋のドリップロスについては、それぞれの調査時間とも、区間に有意差がなかった。背脂肪の脂肪色は、いずれの項目も、区間に有意差がなかった。背脂肪の融点は、各区とも33℃前後であり、区間に有意差がなかった。

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表7には背脂肪の脂肪酸組成を示した。不飽和脂肪酸(注6)のリノール酸は、対照区で9.6%、玄米区で7.3%、低粕区で6.2%となり、有意差がないものの、トウモロコシを多給与した対照区より、玄米を多給与した玄米区および低粕区で低くなった。背脂肪の脂肪酸の中で割合の高いパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸は、いずれも区間に有意差がなかった。

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一般に、トウモロコシと玄米の脂肪酸を比較すると、玄米はトウモロコシよりリノール酸が低い。このトウモロコシと玄米に含まれる脂肪酸の違いにより、玄米を多給与した玄米区と低粕区の背脂肪のリノール酸が低くなったと考えられる。

(注6)植物油に多く含まれ、常温で固まりにくく、融点が一般に低い脂質のこと。オレイン酸やα-リノレン酸なども不飽和脂肪酸である。

表8には胸最長筋の遊離アミノ酸含量を示した。グルタミンの含量(mg/100g)は、対照区10.9、玄米区で9.1、低粕区で5.7であり、対照区と低粕区の間に有意差が認められた。うま味成分として知られているグルタミン酸の含量(mg/100g)は、対照区で6.5、玄米区で6.4、低粕区で5.7であった。甘味に関係するアミノ酸として知られているスレオニン、セリン、グリシンおよびアラニンの含量は、いずれも区間に有意差がなかった。苦みに関係するアミノ酸であるバリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、アルギニンについても、いずれの含量とも区間に有意差がなかった。

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図1には胸最長筋の分析型官能評価の結果を示した。胸最長筋の加熱処理カット肉を用いた16名のパネルによる分析型官能評価の結果において、風味は、対照区で4.4、玄米区で3.8、低粕区で3.3となり、対照区と低粕区の間に1ポイントほどの違いがあったが、区間で有意差がなかった。他の項目(脂肪質、軟らかさ、多汁性、うま味)については、区間に明らかな違いがなく、有意差も確認されなかった。総合評価(総合的な好ましさの評価)は、対照区で4.7、玄米区で4.3、低粕区で4.1となり、トウモロコシ多給与の対照区に比較して玄米を多給与した2区が下回ったが、区間に有意差がなかった。

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以上のような本調査研究の結果から、肥育豚の主要な飼料原料である輸入穀類のトウモロコシ(80%配合)の全量を国産穀類の玄米で代替できることが示され、玄米による全量代替の配合に設定しても、肥育豚の発育成績、枝肉成績、肉質・脂質成績および官能評価に対してマイナスの影響に働くことはないと思われた。また、玄米を高配合(87.2%配合)した飼料を給与した肥育豚において、アミノ酸飼料の利用による大豆かすの低減は可能であることが示唆された。ただ、本調査研究のような飼料の配合設計では、肥育豚の飼料摂取量の低下による増体量への影響も考えられ、生産現場への導入に当たっては慎重に検討すべきである。

なお、玄米を多給与したときの肥育豚の発育性、消化性、肉質・脂質において興味ある結果も得られており、各調査項目との関連性を確認するうえでも、データの蓄積が必要であると思われる。また、肥育時期などの飼育環境条件の違いによる発育や肉質への影響についても確認すべきであり、肥育豚において、主要な飼料原料のトウモロコシを玄米で代替し、アミノ酸の大豆かすからの供給をアミノ酸飼料で補足したときの発育や肉質に及ぼす影響を明らかにしていくためにも、本調査研究の再現性の確認が必要であると思われる。

4 おわりに

本調査研究から得られた成果も含め、飼料用米の養豚への利用に関する情報の発信は、国内で生産管理された飼料用米の利用促進につながり、特色ある豚肉を生産していくための飼料選択の幅が広がり、生産履歴が明確で消費者が求める安全・安心な畜産物(国産豚肉)の生産・供給に貢献できると考えられる。また、価格の高い大豆かすなどの飼料原料の配合割合を減らすことで、飼料コストの削減が図れるため、養豚経営における競争力の強化に寄与できると思われる。

攻めの農林水産業への転換として畜産業においても、生産コストの削減や畜産物の品質向上など収益力や生産基盤を強化することが必須であり、これにより国際競争力を高めていくことが重要である。今後における輸入豚肉との競争の激化を想定しながら、国産豚肉の品質面や価格面において国際的な競争力をもつことが必要であると思われる。そのための一つの方向性として、養豚経営における戦略的な飼料用米などの活用が考えられ、さまざまな基本情報の集積が必要である。


				

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