最近のマレーシアの畜産事情



 マレーシア畜産協会連盟 (FLFAM) は、 去る11月中旬、 チア会長ほか3名が副

農業大臣を訪問し、 マレーシア畜産の現状について説明を行った。 その際、 最近

の飼料原料価格の高騰に伴って、 畜産物生産コストが上昇していることを指摘し、 

この点を理解した上での、 鶏肉の基準価格設定など対応策を要請した。 

 マレーシアは、 すでに豚肉と鶏卵、 鶏肉の自給を達成しているが、 他の畜産物、 

特に牛肉と牛乳の生産量は極めて限定されたもので、 牛乳の自給率は5%、 牛肉

は25%程度と推定されている。 これに関してチア会長は、 「コストがかかり過ぎ

るので、 企業は手を出さないだろう」 と現状を是認する発言をしている。 



畜産物の生産概況

 95年の農業総生産高のうち畜産は23.6%を占め、 総額42億7千万リンギット (以下 「RM」 と表記、 1RM=約40円) に達すると見込まれている。 このうち鶏肉 (アヒルを含む) が20億5千万RMで48%を占め、 鶏卵が9億3千万RM、 22%、 豚 肉が10億8千万RM、 25%を占めている。 残りのわずか5%を、 牛肉などこれ以外 の畜産物が占めている。

飼料価格上昇の影響が深刻

 マレーシアでは、 トウモロコシなど、 養豚、 養鶏用の飼料原料の国内生産はほ とんどない。 わずかに、 米ヌカやコプラミールなど農業副産物が利用されている 程度であり、 主要原料のそのほとんどは輸入に依存している。 この飼料原料価格 が、 国際相場の上昇と国内の飼料需要増大から上昇しており、 養鶏、 養豚業界に とっては自ら価格を制御できないため、 深刻な問題となっている。 下表に飼料原 料価格 (RM/トン、 農家取得価格、 FLFAM調べ) の推移を示す。 94年1月 95年1月 95年8月 95年9月 ─────────────────────────────── トウモロコシ 350 430 450 510 大豆ミール - - 590 616 フスマ - - 347 396 米糠(国産) - - 350 396 魚粉(国産) - - 1,080 1,230 ───────────────────────────────

価格統制の対象に指定された鶏肉

 マレーシア政府はインフレ抑制に懸命である。 今年10月までの消費者物価指数 は対前年で3.5%上昇、 食料品だけでは4.9%の上昇と公表されているが、 「実際 にはもっと大きい」 との疑念を示す向きも多い。 現在、 クアラルンプールでは、 「世界一高いビル」 をはじめとした建設ブームとなっており、 この疑念を直ちに 否定しきれないところがある。 ────────────────────────── 標 準 価 格 上 限 価 格 ──────────────────────────  農場出荷 2.0RM/Kg 3.5RM/Kg 卸売り 2.5 4.0 小売り(生体) 3.0 4.5 小売り(と体) 3.4 5.4 ──────────────────────────  このため、 政府は特定の生活必需品を指定して標準価格と上限価格を設定し、 これを公表することによって価格抑制を図っている。 上限価格を超えて販売した 場合には罰則を伴う。 鶏肉も指定品目の1つであり、 去る12月7日に農業省獣医 局により公表された価格は、 次のとおりであった。  11月のブロイラー初生ヒナ価格は、 高い需要を背景に合法と非合法あわせて700 万羽がタイやインドネシアから輸入されたため、 前月の1.3RMから0.7RMに低下し た。 また、 鶏肉の農場出荷価格も当面の生産過剰傾向から同様に3RM/kgから2.6 RM/kgに低下しており、 12月下旬では、 2.2〜2.4RM/kgの水準にある。 生産者の 間には、 今後、 本年2月19〜21日の祭礼 (旧正月とモスレム、 土日を含めると5 日間の連休) に向かって価格は徐々に上昇するとの期待感がある。

強力な汚水対策が適用される養豚

 養豚業の排出水が河川を汚染するとして、 養豚業は指定された地域に集中的に 立地するよう勧告されている。 その具体的な方法として、 ジョホール、 メラカ、 セランゴール、 ペラクなどの州に養豚地域の早急な設置が要請されている。  96年1月から養豚排水の水質基準として、 BOD250mg/kgが適用されるが、 ほと んどの養豚場が、 すでに対応済みのようである。 ただし、 2年後は50mg/kgに強 化されることになっている。

採卵養鶏、 SE対策に苦慮

 昨年3月以来、 10カ所以上の採卵養鶏場が、 鶏卵のシンガポールへの輸出停止 処分を受けた。 シンガポール側の責任官庁である第1次産品局 (PPD)では、 輸出 停止措置とした内の7養鶏場の鶏卵が、 サルモネラ・エンティリティディス (S.E) に汚染されていたとしている。 一方、 マレーシア側の獣医局 (DVS) によ ると、 44カ所の輸出用採卵養鶏場を3ヶ月ごとに国際的に認知された方法で検査 しているが、 ほとんどが陰性であったと報告している。 しかしながら、 PPDがDVS の検査結果を尊重しないため、 輸出停止処分を受けた養鶏場の中には、 民間の検 査機関に分析を依頼したところもある。 シンガポールでは約150万羽の採卵鶏が 飼養されていることから、 PPDの措置は多分に国内産業保護的であると非難する 声もあるが、 低い率ではあるがS. E陽性が認められているというのが実態のよう である。

政府は牛肉産業の発展に努力

 マレーシア農業省は、 ベトナムから肥育用素牛を輸入する計画を有している。 順調にいけばベトナムは、 インドやオーストラリアに次ぐ素牛の供給国となる。  マレーシアの肉牛需要は、 年間約50万頭ほどであるが、 国内の総飼養頭数は80 万頭にしか過ぎない。 農業省としては素牛の輸入を促進し、 肉牛の増殖を図りた いところであるが、 問題は飼料原料の不足である。 同省は、 広大なパームヤシ林 での林間放牧促進のため、 6億RMの低利融資資金を用意したが、 申し込みはほと んど無い模様である。
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