調査レポート 

EUにおける畜産環境対策−オランダの事例を中心に−

ブラッセル駐在員 釘田 博文、 東郷 行雄

はじめに

 畜産環境問題には、 多くの観点が含まれることは多言を要しない。 しかし、 そ の中でも最大の問題は、 まずは家畜糞尿問題であろうし、 実際問題として、 多く の関係者にとって、 畜産環境問題=家畜糞尿問題 (言い換えれば、 家畜に由来す るミネラル問題) といっても過言ではないだろう。  わが国でも畜産の規模拡大、 集約化に伴い、 家畜糞尿問題はますます重大とな ってきたが、 長い畜産の歴史をもつばかりでなく、 多様な立地条件の中で多様な 形態の畜産が営まれている欧州は、 この面でも先進地ということができるだろう。 そのため、 EUにおける本問題への取り組みについては、 これまでにも多くの調査 報告や論文が作成されており、 わが国の畜産環境問題を考えるに当たって参考と なる事例や経験が、 既に多く紹介されているものと思われる。  環境問題は、 近年世界的に大きな関心を集めている問題であり、 特に農業と環 境の問題は、 ポストウルグアイラウンドにおいても焦点の一つとなるとみられて いる。 しかし、 畜産は、 環境と関わりを持つ多くの産業活動の一つにすぎず、 し たがって、 環境関連政策の立案や影響評価は、 畜産分野だけで完結することがで きないのは明らかである。 このため、 環境政策は非常に裾野が広く、 その多くは、 包括的、 また産業横断的な内容を含んでおり、 畜産との関わりだけを論じるのは 困難な面がある。  本レポートでは、 そのような制約の中ではあるが、 可能な範囲で、 畜産に影響 を及ぼすEUレベルの主要な環境政策の概要を整理するとともに、 そのEUの中でも 最も深刻な畜産環境問題を抱えており、 それ故に本問題の最先進国ともなってい るオランダにおける家畜糞尿問題への取り組みの現状を報告したい。  本レポートの作成に当たっては、 在オランダ日本大使館小谷康敬書記官から、 貴重な情報提供及び助言をいただいた。 ここに記して、 謝意を表したい。 (なお、 以下では、 「家畜糞尿」 の替わりに 「マニュア (manure)」 という言葉を 用いている。)

1.EUの畜産環境政策

1) 主要な環境政策  EUでは、 73年にEUの環境政策の目的と原則及び環境汚染を軽減するための措置 を定めた 「環境に関する行動計画 (第1次)」 が閣僚理事会宣言として採択され たのを初めとして、 この前後から多くの環境に関するルールが定められてきた。   その後、 各分野で採択され、 又は提案されている環境政策は膨大な数に上るが、 その中で、 特に畜産分野にも大きな影響を及ぼす主要なものを列挙すると、 以下 のとおりである。 (1) 環境に関する行動計画  最新の行動計画は、 92年に採択された第5次行動計画であり、 「環境と持続可 能な発展」 をキーワードに、 工業、 エネルギー 運輸、 農業、 観光の5分野を対 象に、 それぞれの長期的な政策方向と2000年までの達成目標を明らかにしている (表−1)。 また、 環境問題への取組には、 従来のEUレベルでのルール作成だけ では不十分であるとの認識から、 関連する各部門ごとの責任の分担を明らかにし、 その調整を図るための新しいフォーラムが設置された。 表−1 EUの農業に関する行動計画(第5次行動計画より抜粋) ?「────────────────────────────     長期目標 2000年目標 ───────────────────────────── 持続可能な農業に不可欠な 地下水の硝酸塩水準の凍結又は 基礎的天然資源、特に、水 削減 、土壌及び遺伝資源の維持 硝酸塩含有量が50ml/lを越える 又は湖や海の富栄養価を引き起 こす地表水の発生削減 土壌中の有機物質水準の安定化 又は増加 これら天然資源に影響を与 少なくとも自然保護のために重 えない水準への化学物質の 要な地域における生産面積当た 使用量削減 りの農薬使用量大幅削減及び総 合害虫管理への農家の転換 養分の投入量と土壌・植物 による吸収能力の均衡化 生物の多様性及び野生生物 15%の農地を管理契約下におく の維持が保たれ、自然災害 (土壌浸食など)及び火災を 最小限にするための農村環 境管理 危険のあるすべての農村に対す る管理契約 ───────────────────────────── ──────────────────────── 行動 時期  実施者 ──────────────────────── 硝酸塩指令の厳格な適用 1994〜 MS+AGR 新しい家畜単位及びサイロに 継続 MS+LAS 対する地域排出基準の設定 燐酸使用の削減計画 1995 EC+MS+LAS 環境法令を完全に実施するた 1995〜 +AGR めの奨励金の配分及びその他 の保証支払い −農薬の販売・使用の登録 継続 EC+MS+AGR −農薬の販売・使用の管理 1995 EC+MS+AGR −総合管理(特に訓練活動) 1992〜 の奨励及び生物農業の奨励 FEOGAの資金拠出による奨励 1992〜 MS+EC 金の対象となる農業・環境計 画 危機に瀕するすべての家畜品 継続 MS 種の保護 潅漑に対する許可条件及び排 1995 MS+EC 水計画に対する国別補助金の 再評価 農家の訓練及び類似の環境管 1992〜 EC+MS+LAS 理状況にある地域間の交流の 奨励 ───────────────────────── 注:ECはECレベル、MSは加盟国レベル、LASは地域政府レベル、AGRは農業レベル (2) 水質関係の規制 ア. 人の飲用水の品質に関する理事会指令(80/778)  70年代後半以降、 多くの水質保護に関する措置が採択されたが、 そのなかで、 農業に起因する環境問題への取組みとして最初に挙げられるものであり、 硝酸塩、 農薬を含む広範囲の物質について、 最大残留水準 (MRL) を詳細に定め、 加盟国 に対して、 この水準を5年以内に達成するための措置を義務づけたものである。 硝酸塩については、 飲用水リットル当たり50ミリグラムの限度が設定された。  しかし、 この指令は、 実施上の多くの技術的問題があり、 ほとんど実際の成果 を上げることができなかった。 イ. 農業に起因する硝酸塩汚染に対する水の保護に関する理事会指令(91/676)  硝酸塩汚染問題に対するより現実的な取組として、 91年に採択されたもので、 後述される 「硝酸塩指令」 として良く知られているものである。 ウ. 水の生態学的品質に関する提案  良質な水に対する持続的な需要増加に対応して、 地表水の保護のために、 その 全般的な品質保護、 改善のための措置を定めるもので、 94年に提案された。  加盟国は、 99年から2001年を対象期間とする水質向上のための総合計画を定め、 必要な措置の実施によりその目標を達成するとともに、 それらの措置及び水質へ の影響を監視することを義務付けられる。 計画は、 その後、 6年後ごとに更新さ れることとなっている。 (3) 総合的汚染防止及び管理に関する提案  環境の汚染経路を別々に規制するのではなく、 総合的汚染防止及び管理の概念 を導入するもので、 93年に提案され、 理事会の承認を得て、 現在欧州議会の意見 待ちとなっている。  そのポイントである 「事前総合許可制度」 の概要は以下のとおりである。 1)事前総合許可  原則として、 すべての生産活動を行う施設は、 2005年以降、 事前に加盟国の許 可を受けなければならない。 2)対象生産施設  広範な生産施設を含むが、 畜産部門については、 脆弱地域 (指令91/676で定 められる) に位置する100家畜単位を超える集約的家畜生産 (例えば、 4万羽を超 える採卵鶏又はブロイラー経営、 2千頭の肥育豚又は750頭の繁殖豚を超える養豚 経営) や、 ヘクタール当たり170kgを超える硝酸塩を生産する経営のほか、 年間1 万トン以上の動物枝肉処理施設、 50人以上を雇用する食品加工施設などが含まれる。 3)許可の申請  施設の概要、 汚染物質の潜在的な排出数量及び影響、 排出の防止・抑制対策、 回 収及び再利用対策、 排出の監視対策など、 多くの項目を明らかにした書類を整えて 申請しなければならない。 4)許可の発行  加盟国は、 許可の発行に当たっては、 最低限EUレベルで定められた環境基準が満 たされることを確実にしなければならない。 許可は少なくとも10年ごとに再検査及 び更新される。 (4) 共通農業政策への環境政策の統合  EUの共通農業政策 (CAP) は、 本来、 域内の生産拡大を意図した政策であり、 農業 が環境に及ぼす影響については十分な考慮が払われていなかった。 価格支持に大き く依存した従来の政策体系は、 生産の規模拡大や集約化を通じて、 広範な汚染やそ の他の環境問題を引き起こしてきたことは、 現在では広く認識されている。  農業が及ぼす環境への影響は、 地表水及び地下水の汚染、 土壌の品質低下、 空気 の汚染、 地域景観の変化、 生物の遺伝的多様性の喪失など、 多面的であるが、 畜産、 特に集約的な家畜飼養は、 これらの問題に大きく関係している。  欧州委員会は、 85年のCAP改革に関するグリーンペーパー以来、 環境への配慮を CAPの一部に組み込むことに努めてきた。 その成果は、 92年のCAP改革において、 大 きな進展をみることとなった。 ア. クロス・コンプライアンス措置  複数の異なる目的に合致する措置という意味であり、 特に、 農業と環境の双方の 目的に配慮された措置を指して用いられているようである。  CAP改革で導入され た具体的な例としては、 穀物の休耕補助金、 家畜飼養密度と関連づけた肉牛・めん 羊に対する1頭当たり奨励金がある。 イ. 農業環境措置 (規則2078/92)  環境の維持改善の目的に適う農業方式を奨励するための措置であり、 CAP改革時 に導入された (詳細後述)。 ウ. 有機農業の奨励  有機農業は肥料や農薬の使用についての制限を重要な要件としているため、 より 環境に優しい農業政策と考えられている。  有機農業に関するEUレベルのルールは、 CAP改革に先立って91年に採択された ( 規則2092/91) が、 これは作物だけを対象としたものであり、 畜産に関しては、 一 部の加盟国で独自の制度が実施されているものの、 EUレベルのルール作成は今後の 課題となっている。  有機農業に対する補助対策は、 特別の制度は存在しないが、 上記の農業環境措置 や構造政策 (農業構造改善のための投資補助、 加工・販売条件の改善などに対する 補助など) においては、 いわゆる有機農業も対象メニューの1つとなっている。 (5) その他の関連政策  これ以外にも畜産分野に影響を及ぼし得る環境政策は多くあるが、 その主要なも のは以下のとおり。 1)農業構造・地域政策 (規則797/85ほか)  農業の近代化、 離農促進、 条件不利地域に対する支援措置等。   2)LIFE (規則1973/92)  環境のための特別の財政措置であり、 91−95年の実施期間に4億ECUを計上。 3)エコラベル計画 (規則880/92)  環境面に配慮した一定の基準を満たした商品 (食品、 医薬品を除く) にエコラベ ルを与える仕組み。 強制措置ではないが、 農業用資材なども対象となり得る。 4)遺伝資源の保全 (規則1467/94ほか)  動植物の遺伝資源の保全のための取組を支援する措置。 5)畜産廃棄物等の処理 (指令90/667ほか)  病原物質を含む畜産廃棄物や飼料についての処理法などを定めたもの。 6)環境評価指令 (85/337)  農業を含む各分野における特定の事業について、 環境に及ぼす影響の評価手続き を定めたもの。 2) 硝酸塩指令(91/676) (1) 概要  営農活動に起因する硝酸塩による汚染を防ぐことを目的としており、 窒素肥料の 施肥、 家畜の過密飼養、 マニュアの貯蔵及び散布などに関する措置が定められてい る。
◇図−1 オランダにおける家畜頭数とマニュア対策の経緯◇
 具体的には、 以下のような段階的な措置が定められている。 ア. 第一段階  加盟国は、 2年以内に、 脆弱地帯 (窒素複合物質からの汚染による水の富栄養化 を招きやすい地域) を指定し、 6カ月以内に指定内容を欧州委員会に報告する。 ま た、 指令の目的を達成するための農家の自主的な取組である 「適正な営農法に関す る規程」 (肥料の散布期間、 マニュアの貯蔵基準などを含む) 及び農家の訓練計画 も並行して定められる。 イ. 第二段階  加盟国は、 脆弱地帯の指定後2年以内に、 当該地帯における硝酸塩汚染の削減計 画を作成し、 その後4年以内に行動計画を実施に移さなければならない。 行動計画 には、 マニュアの生産がMAR (Maximum Annual Residual:ヘクタール当たり年間窒 素残留数量の上限、 当初4年間は210kg、 その後170kg) を超える畜産農家について の特別な硝酸塩余剰削減措置が含まれる。  なお、 硝酸塩問題を回避するような全国的行動計画を採択した場合、 脆弱地帯の 指定は免除される。 ウ. 監視及び見直し  加盟国は、 地表水の硝酸塩濃度、 富栄養化状態などを監視するとともに、 必要に 応じ、 脆弱地域の指定や、 行動計画の内容を4年ごとに見直す。 (2) 実施状況  多くの加盟国は、 まだ脆弱地帯の指定手続き段階にあり、 第一段階の実施は遅れ ているといわれている。  また、 削減対象となる硝酸塩余剰の計算には、 マニュアだけでなく、 化学肥料及 び既に土壌中に存在する硝酸塩を考慮しなければならないが、 土壌中や水中の硝酸 塩水準に多くの要因が影響を及ぼすばかりでなく、 それらは土壌、 気候及び植物の 生育条件によって絶えず変化するため、 各国政府は、 この指令の実施に大きな困難 を抱えている。     (3) 硝酸塩の余剰  米国農務省の研究報告 (The EU Nitrate Directive and CAP reform, 1995年1月 ) によれば、 EU10カ国で畜産の副産物として生産される窒素 (960万トン) は、 人工 肥料に由来する窒素 (860万トン) を上回ると計算されている。  一方、 作物による利用を考慮した後の窒素余剰は、 全体供給量の約57%に相当し、 マニュアに由来する窒素の量とほぼ等しくなっている。  国毎の余剰割合は、 フランスの52%からオランダの77%まで、 大きなばらつきが ある。 表−2 EU各国における窒素の供給、利用及び余剰(86年) ──────────────────────────────────          窒素供給 作物 窒素余剰 ───────────── 利用      家畜  肥料  合計 合計 ─────────────────────────────      千トン  千トン 千トン 千トン 千トン Kg/ha % ────────────────────────────────── ベルギー  384 199 580 211 368 240 64 デンマーク  434 381 816 287 529 187 65 ドイツ  1,717 1,578 3,295 1,314 1,981 165 60 ギリシャ  455 432 887 403 484 84 55 フランス  2,393 2,568 4,961 2,406 2,555 81 52 アイルランド 536 343 879 407 473 83 54 イタリア 1,157 1,011 2,167 1,027 1,140 65 53 オランダ 752 504 1,255 284 972 480 77 イギリス 1,819 1,671 3,490 1,521 1,969 106 56 ────────────────────────────────── EU10 9,645 8,688 18,333 7,860 10,473 108 57 ────────────────────────────────── ────────────── MAR*達成に 要する削減 ──────────────   千トン % ────────────── ベルギー 107 29 デンマーク 48 9 ドイツ 0 0 ギリシャ 0 0 フランス 0 0 アイルランド 0 0 イタリア 0 0 オランダ 632 65 イギリス 0 0 ────────────── EU10 787 8 ────────────── 資料:米国農務省“The EU Nitrate Directive and CAP rerorm” 注:ベルギーにはルクセンブルクを含む。 *MARを170Kg/haとして計算。 (4) 予想される影響  米国農務省の研究は、 硝酸塩指令がそのまま実施された場合の、 EUの畜産 (家畜 飼養頭数) への影響を試算しているが、 それによれば、 豚は12%減少、 鶏は10%減 少、 乳牛は8%減少と大幅な減少となっている。 肉牛は比較的影響が小さく5%の 減少、 一方、 羊生産は、 「低硝酸塩生産家畜」 として牛に置き換わる地域もあること から、 1%の減少にとどまっている。  加盟国ごとの影響は、 EU全体の数字より一層深刻であり、 ベルギーでは28%、 オ ランダでは84%もの家畜頭数の削減が必要となる。 このような削減は、 肥料の大幅 な使用制限によってある程度軽減できる。 例えば、 オランダでは、 肥料の使用を28 %制限することによって、 家畜頭数の削減は65%で済むことになる。 しかし、 ベル ギー、 オランダなどでは、 畜産への深刻な打撃を避けるためには、 大胆な措置が必 要となることは明らかである。  貿易に対する影響としては、 畜産物の輸出減少と、 家畜飼料向け需要の低下によ る穀物の輸出可能量の増加が予測されている。 CAP改革の効果との組み合せにより、 牛肉を除く畜産物については、 純輸出国から純輸入国へと転じる一方、 穀物の純輸 出量については、 小麦が10%、 粗粒穀物が50%、 それぞれ増加すると試算されてい る。 (5) 今後の対策  硝酸塩指令が計画通りに適用された場合、 硝酸塩余剰の大きな国では農業生産に おいて大幅な変化が生じ、 EUの農業生産と貿易にも多大な影響を及ぼすことになる。  硝酸塩の余剰削減には、 家畜マニュアの削減、 人工肥料の使用制限、 またはこれ らの組み合わせが考えられ、 現実的な選択肢としては、 人工肥料を家畜のマニュア に置き換えることがある。 しかし、 マニュアは、 人工肥料に比べて、 加工や運搬に 大きなコストがかかることから、 そのような変化を促進するためには何らかの形で の補助金が不可欠となるだろう。 いずれにしても、 オランダ、 ベルギーなど硝酸塩余剰の深刻な国においては、 硝 酸塩指令の遵守に必要な集約的家畜生産の削減規模は、 政治的に受け入れられない ものであろう。 そのため、 今後、 指令の条件に対する適用除外や新たな硝酸塩余剰 に対する補助政策についての要求が強まることが予想される。 3) CAP関連農業環境措置 (1) 概要 ア. 目的  92年CAP改革により導入されたもので、 1)土地の管理及び天然資源の保護という、 農家が担っている公共的役割を評価し、 奨励すること、 2)粗放的な (環境保護の目 的にあった) 農業生産の奨励により、 生産の抑制を図ること、 という二つの側面を 持っている。 イ. 措置内容  環境保護の目的に合致する農業生産方式を奨励するため、 直接補助金の支払、 また は教育や訓練が実施される。  環境問題の中身やその優先度は加盟国ごとに異なることから、 詳細な実施に関する 決定の多くは、 欧州委員会との協議によってそのガイドラインの範囲内で加盟国別に 定められる。 加盟国は、 規則に含まれた目標の実現に努めるため、 5年ごとに農業・ 環境計画の地域別計画を定めることが義務づけられている。 ウ. 補助対象のメニュー 1)肥料・農薬等の大幅な使用削減、 有機農業の導入 2)耕地の粗放的草地への転換など、 粗放的生産の導入。 3)めん羊・牛飼養の粗放化、 4)環境保護の要件にあった営農方式への転換、 絶滅の危機に瀕する家畜品種の飼養 5)放棄された農地の維持 6)自然公園の設置など環境に結びついた目的のための20年以上の休耕 7)公共利用及びレジャー活動のための土地管理 8)環境に適った営農に関する農家の訓練 エ. 補助金単価  上記の措置を実施した農家に対し、 土地または家畜頭数単位当たりの年間奨励金が、 少なくとも5年間支払われる。 家畜についての奨励金単価の上限は、 削減された羊または牛1家畜単位当たり210 ECU、 危機に瀕する家畜の飼養については1家畜単位当たり100ECUとされている。 (2) 実施状況  本措置の実施は、 加盟国と欧州委員会の協議に時間を要し、 ようやく本格化したよ うな状況であり、 その効果を評価するには時期尚早である。 しかし、 加盟国からの申 請に対して資金供給が不十分なこと、 加盟国ごとの適用状況には大きな差があること、 などから、 農業生産方式の緩やかな変化は期待されるとしても、 硝酸塩生産の削減な どへの直接的な効果は限定的なものにとどまるとみられている。  オランダでは、 93年から97年の間に5つの措置が実施されており、 EUからの資金は 約70百万ECUが予定されている。 このほか、 肉牛生産の粗放化、 畜産の有機農業奨励、 危機に瀕する家畜品種の保護などの計画が欧州委員会の承認待ちとなっている。 表−3 オランダにおける農業環境措置の実施状況 ──────────────────────────────────── 事業内容 対 象 予算(万ECU) ──────────────────────────────────── @環境目的にあった生産 年間50事業 5,600 方式の奨励実証事業 A環境センシティブ地域の 20万ha 不明 管理 約半分は自然保護地区として買い 上げ B環境目的にあった生産 年間1万1千人 835 方式についての訓練 C作物の有機農業の奨励 5千ha 130 D公共道路の設置 500Kmの公共歩道 5 ────────────────────────────────────

2.オランダにおけるマニュア政策

1) 経緯  オランダでは、 60年代中期には早くも研究者や大学関係者の間でマニュアの余剰 問題についての警告が始まった。 しかし、 その後しばらくは具体的な政策が採られ ることはなかった。  養豚による環境汚染の深刻化を背景に、 これに対応するため、 84年にその最初の 政策である 「集約的家畜生産に関する暫定法」 が施行された。 この法律は豚及び家 禽のそれ以上の増加を防ぐことを狙いとし、 新たな集約的畜産経営を禁止するとと もに、 既存の集約的畜産経営の生産増加を、 「集約地域」 では10%、 その他の地域 では75%に制限した。  しかし、 84年から87年の間に、 豚飼養頭数は28%、 家禽飼養羽数は16%、 それぞ れ増加し、 所期の目的は達せられなかった。  家畜マニュアによる環境汚染の軽減を図るための包括的な政策は、 86年に開始さ れた。 これは、 環境対策の導入による農業への圧力をできるだけ緩やかにするため に、 三段階に分かれて実施されることとなっている。 (1) 第一段階 (87年〜90年)  問題の安定化と家畜生産の増加の防止を図る。 ・土壌保全法による、 ヘクタール当たりのマニュア施用基準(上限数量)の設定。 ・肥料法による、 マニュア生産クオータの導入。 ・農家の新規設立や拡大を厳しく規制。 ・マニュア中のミネラルの利用率向上及びアンモニアの揮散削減を図るため、 マ ニュア散布時期の制限、 特定のマニュア散布方法の義務づけ。 (2) 第二段階 (91年〜94年)  マニュア施用基準の強化により環境への圧力を徐々に軽減する。 ・余剰マニュア課徴金の導入。 ・マニュア施用法の改善。 ・マニュア散布禁止期間の延長。    制限強化により、 農家レベルでのマニュア余剰及びマニュア処分コストは増加し た。 この間、 燐酸塩の消化を促進する酵素の飼料への添加措置などによって、 家畜 からのミネラル排出量は減少した。 (3) 第三段階 (95年〜2000年)  最終目標である窒素、 燐酸の均衡達成に向けて、 マニュアの一層の削減が実施さ れる。 ・ミネラル出納記帳システムが導入される。 このシステムは、 すべての発生源 (マ ニュア、 肥料、 飼料など) からのミネラルの流れを農家レベルで包括的に記録する ものである。 ・マニュア施用基準は、 「ロス基準(loss standard)」 に置き換えられる。  ここで、 ロスとは、 環境 (作物など) による利用可能数量を超える数量で、 いわ ゆる余剰のことであるが、 論理的なロスのうち、 農家の対応可能性などを考慮して 政策的に定められた不可避 (又は許容可能) な部分を 「ロス基準」 と呼んでいる。  この第三段階については、 具体化が遅れており、 後述の通り、 95年にようやく具 体的内容が明らかにされ、 95年末には国会を通過したが、 農業者側の反対が強く、 まだ実施については不透明な点もあるが、 計画通りであれば、 98年開始となる。  このほか、 家畜飼養に伴うアンモニア排出は、 酸性雨の一因でもあることから、 アンモニア排出を抑える技術や畜舎に関するルールが定められた。 アンモニア排出 を80年に比べて94年までに3割削減、 2010年までに8〜9割削減することを目標と している。
◇図−2 オランダにおける家畜頭数とマニュア対策の経緯◇
2)マニュア政策の概要  現在のオランダのマニュア政策は、 以下の三つの法令から構成されている。 −環境の管理に関する法律 −土壌保全法 −肥料法  しかし、 具体的な措置の内容は、 単純に三つの法律ごとに分かれているわけでは なく、 相互に関連しているため、 主要な分野ごとに整理してみたい。 (1) マニュアの生産 (肥料法)  マニュア政策の基本は、 その源、 即ち生産段階での対策である。 肥料法は、 マニ ュアの生産をコントロールするために、 以下の三つについて原則的禁止を定めてい る。 −生産拡大の禁止 −経営体内又は経営体間での生産移動の禁止 −家畜の種類の間での生産代替の禁止 ア. 生産拡大の禁止 (マニュアクオータの導入)  農業省は、 86年に、 畜産事業者ごとに、 農場の全面積及び家畜種類別頭数を登録 した。 この情報をもとに、 マニュア生産の基準数量、 即ち燐酸 (P2O5) の生産数量 の計算が行われた。 この計算には、 家畜の種類 (牛、 豚、 家禽、 七面鳥、 羊、 狐、 ミンク、 山羊、 アヒル及びウサギ) ごとに定められた1頭当たり燐酸生産量の基準 値が用いられた。 燐酸は窒素と異なり揮散がなく安定していることから、 指標とし て用いられている。  この基準数量はマニュアを生産できる権利を制限していることから、 しばしば 「 マニュアクオータ」 と呼ばれる。 これは、 書類上の数字であり、 農家の実際の家畜 頭数が変化しても変わることはない。  マニュアクオータが燐酸125kg/ha以下の 場合には、 何の規制も行われない。 しかし、 実際には、 大部分の畜産農家はこの限 界値以上の生産を行っていたため、 この規制によって生産拡大は事実上不可能とな った。  なお、 農家が一部の土地を売却した場合、 農家の基準数量合計からha当たり燐酸 125kgが控除されることから、 既に125kg/haを超える生産を行っていた農家が土地 を売却した場合、 残った土地当たりの平均基準数量はさらに高まることになる。  マニュアクオータの導入に伴い、 農家はマニュア記録簿の記帳を義務づけられた。 これは、 マニュアの生産量と処理方法を明確にし、 燐酸125kg/haを超えるマニュ アの生産に対する余剰課徴金の支払いの基礎となるものである。  マニュアクオータは、 95年1月1日から、 一律30%削減された。 表−4 オランダにおけるマニュアクオータの配分 (燐酸千トン) ────────────────────────────────── 地域1 地域2 地域3 合 計 ────────────────────────────────── 面積基準数量 39.8 31.3 131.3 202.4 移動不可自由基準数量(牛) 2.0 2.0 2.0 6.0 移動不可自由基準数量(豚、家禽) 1.7 4.6 2.6 8.9 移動可能自由基準数量(牛) 4.0 1.9 1.8 7.7 移動可能自由基準数量(豚、家禽) 24.4 41.3 14.9 80.6 ────────────────────────────────── 合 計 71.9 81.1 152.6 305.6 ────────────────────────────────── 資料:Boerderij(オランダ農業専門誌)、95年11月。 注:地域1=束部、地域2=南部、地域3=その他。1及び2は、いわゆる集中地域 (集中地域は通常、高度な集約型家畜経営の集中が見られるオランダの砂質地域 であり、この地域へのクオータ移動は制限される) イ. 生産移動の禁止  肥料法の導入当初は、 農家内または農家間でマニュアクオータを移動させること は認められなかった。 農民団体からの要求を受けて、 マニュアの移動に関する法律 が採択され、 94年1月1日から、 農家はマニュアクオータの購入により、 規模を維 持又は拡大することができるようになった。  マニュアクオータは、 実際の土地面積および家畜頭数に基づいた新しい計算によ って、 以下の三つに分けられた。 @面積基準数量 (燐酸125kg/ha) A (同じ家畜種類間であっても) 移動できない自由基準数量 B (同じ家畜種類間であれば) 移動できる基準数量  この三つの基準数量の合計は、 86年に計算された当初の基準数量 (マニュアクオ ータ) に等しい。 95年当初に実施されたクオータの30%削減は、 実質的には2)の部 分を削減することを狙ったものである。  クオータの移動は、 88年、 89年または90年に実際に生産された数量についてのみ 可能であり、 そのうち面積基準数量の移動は認められない。  自由基準数量の移動 については、 以下のような多くの規則が存在する。 − 「集中地域」 への移動は認められない。 −移動した基準数量は、 課徴金事務所に 登録された後有効となる。 −基準数量を取得する生産者は、 自分のマニュアを認められた方法で処理できると いうことを証明しなければならない。 −移動する基準数量は、 全国基準数量の合計を削減するために、 25%カットされる。 表−5 オランダにおけるマニュアクオータの移動数量 (94年1月1日(移動ルール導入時)〜9月2日の実態) (燐酸千トン) ─────────────────────────────── 移 動 元 区 分 ────────────────────           地域1 地域2   地域3 合計 ───────────────────────────────   1 豚/家禽 0.99 − − 0.99  移 ───────────────────────────    牛 0.11 − − 0.11 ─────────────────────────────   2 豚/家禽 − 1.41 − 1.41  動 ───────────────────────────   牛 − 0.19 − 0.19 ─────────────────────────────   3  豚/家禽 0.03 0.00 0.60 0.63  先 ───────────────────────────   牛 0.01 0.00 0.06 0.07 ─────────────────────────────   計 豚/家禽 1.02 1.41 0.60 3.04 ───────────────────────────   牛 0.12 0.19 0.06 0.37 ─────────────────────────────── 注:マニュアクオータの移動は同一地域内では自由であるが、3から1又は2への移動、 1と2の間での移動は認められない。 表−6 オランダにおけるマニュアクオータの売買価格             (Fl/燐酸Kg) ───────────────────────────────           牛     豚/家禽  区  分 ─────────────────────────      1−6月 7−12月   1−6月   7−12月 ───────────────────────────────   地域1 30 25 35 25   地域2 28-35 25 47 45   地域3 20-30 15-20 25-30 15-20 ─────────────────────────────── 注:1995年における取扱業者からの調査結果。 Fl=フローリン(オランダギルダー)、約60円。
◇図3:オランダにおけるマニュア排出量の推移◇
◇図4:オランダにおけるマニュア余剰の推移◇
◇図5:オランダにおける地域別マニュア余剰◇
表−7 オランダにおける畜種別マニュア・燐酸の排出及び余剰(94年) (百万トン、燐酸千トン、%) ────────────────────────────────────         マニュア排出    余剰 余剰 燐酸余剰   区 分 ──────────────────割合──────────    合計  構成比  合計  構成比  合計 構成比 ──────────────────────────────────── 牛 61.2 74 1.17 7 2 120.0 3.0 肥育豚 9.1 11 6.82 40 75 42.2 31.7 繁殖豚 7.6 9 5.16 31 68 27.5 18.6 ヴィール子牛 2.4 3 1.36 8 57 3.0 1.7 採卵鶏 2.2 3 1.95 12 89 25.1 23.3 ブロイラー 0.5 1 0.41 2 82 11.2 9.5 ────────────────────────────────────  合 計 83.1 100 16.88 100 20 228.8 87.6 ──────────────────────────────────── ウ. 生産代替の禁止  各農家の自由基準数量は家畜種類ごとに区分されているが、 豚及び家禽のマニ ュアは大きな過剰にあることから、 豚及び家禽以外の家畜の基準数量を、 豚及び 家禽の基準数量に代替することはできない。 (2) マニュアの施用 (土壌保護法及び肥料法) ア. 施用基準  施用基準は、 87年の最初の導入以来、 次第に厳しくなっている。 用いられる単 位はマニュアクオータと同じで、 燐酸kg/ha/年である。 施用基準の強化は、 作 物による吸収量が施用数量とが等しくなる均衡点への引き下げを目標としている。  施用基準は土地の利用によって異なり、 95年の基準は、 草地150kg、 一般耕地 (トウモロコシ畑を含む) 110kgである。 その他の土地 (管理取り決めのある自然 保護区を含む) については、 上限70kgで維持されており、 管理取り決めのない自 然保護区の場合、 マニュア散布は認められない。  マニュアが責任ある方法により処分されたことを証明するのは農家の責任であ り、 農家にはマニュアの処分方法の記録が義務付けられる。 表−8 マニュア施用基準     (燐酸Kg/ha/年) ───────────────────── 草地   トウモロコシ畑  一般耕地 ───────────────────── 1987 250   350 125 1991 200   250 125 1993 200   200 125 1995 150  110 110 ───────────────────── イ. 施用方法  作物によるミネラル吸収が行われない時期のマニュアの散布を禁止するととも に、 マニュアからのアンモニアの排出を防ぐことを目的としている。  土壌については、 ミネラルの浸透に脆弱なもの (一般に砂質土壌はミネラルの 浸透に侵されやすい) と、 そうでないものとが区分されている。 95年には、 草地 (いずれの土壌タイプも) 及び浸透に弱い土壌の耕作地 (トウモロコシ畑を含む) には2月から8月まで、 その他の耕作地には年間を通じて、 マニュアを散布する ことができた。 また、 すべての場合に、 アンモニア放出を低く抑えるような方法 (マニュアが散布時に直接土壌中に注入されるか、 散布後すぐに土壌中に混和さ れる方法。 方法ごとに特別の散布用機械が開発されている) で散布しなければな らず、 土壌が雪で覆われている場合にはマニュアの散布は禁止される。
◇図6マニュア散布期間及び方法に関する規制◇
(3) マニュアの余剰 (肥料法)  マニュアの余剰は、 排出数量と散布可能数量との差である。 しかし、 畜産農家 の余剰なマニュアを耕種農家が散布することができれば、 全国の余剰数量は個々 の農家の余剰の合計よりも小さくなる。 マニュアの地域間移動への援助として、 以下のような措置が実施されている。 ア. 余剰課徴金  余剰課徴金は、 ha当たり燐酸125kgを超えるすべてのマニュアに課されるが、 課 徴金単価は以下のように変化する。  余剰課徴金は、 主にマニュアバンクを通じて、 マニュア余剰を解決するための 研究への資金提供及びマニュア処分促進のための事業に用いられる。 ──────────────────────                課徴金単価 ────────────────────── ha当たり燐酸生産量 125Kg〜200Kg 0.25Fl/Kg 200Kg超 0.50Fl/Kg ────────────────────── マニュア処分契約がある場合 0.15Fl/Kg 家禽の固定マニュア 0.15Fl/Kg マニュアが輸出される場合 0.15Fl/Kg ────────────────────── イ. マニュアバンク  マニュアバンクは、 余剰マニュアの処分に対する取り組みを調整し、 支援する ために、 86年に設立された。 全国マニュアバンクのほか、 四つの地域マニュアバ ンクが置かれている。  マニュアバンクの業務は、 以下のとおり。 @輸出を含めたマニュア流通の促進。 このために、 農家段階での低水分良質マニ ュア生産奨励 (品質ボーナス‥現在は中止)、 販売地域に対するマニュアコンテナ 設置、 マニュア流通に関する助言、 情報提供を行っている。 Aマニュア販売先の登録 B農家から申し入れがあった場合マニュアの義務的受入 (緩衝機能) ウ. マニュア処分契約  マニュア処分契約は、 家畜生産者とマニュアの引受者 (耕作農家、 コントラク ターなど) との間の合意である。 通常、 畜産農家は輸送費、 引受者は散布のコス トをそれぞれ負担する。  家畜生産者は、 マニュア処分契約をもっていれば、 余剰課徴金単価が低くなる ばかりでなく、 マニュアを責任ある方法で処分できることを証明できることから 基準数量の購入を正当化することができる。  契約に含まれるべき主な条件は、 以下のとおり。 @引受者は、 マニュアを自分の (又は第三者の) 土地にha当たり燐酸125kgの制 限内で散布できること。 A契約期間は最低2年間であること。 B家畜生産者の余剰のすべて又は燐酸500kg以上を対象としていること。 C処分はオランダ国内で行われること。   (4) 畜舎及び付帯設備 (環境管理法)  家畜飼養に伴うアンモニアの排出は、 酸性雨の原因ともなっているといわれる。 この排出を減らすために、 マニュア散布方法にも制限を加えているほか、 飼養家 畜に起因するアンモニアの排出を減らすために特別のルールが採択された。  家畜生産者は、 その事業を営むために特別の環境許可を取得する必要がある。 この許可は、 マニュアの貯蔵、 家畜飼料の貯蔵、 土壌の保護、 騒音汚染、 電気設 備、 農薬等の貯蔵、 建物の維持及びその衛生などの条件を満たした場合にのみ発 行され、 畜産事業が環境に及ぼす悪影響をできるだけ小さくすることを目的とし ている。 これらは、 アンモニア及び家畜飼養に関する暫定法に規定されている。  畜産事業からの排出量の計算には、 家畜ごとの基準数量が用いられる。 既に環 境許可を取得している農家はその許可に定められる排出量を維持することができ るが、 新たに申請する者は最大15モル (87年以前に既に存在していた農家は86年 の排出量) の排出制限が課せられる。  しかし、 許可の発行は地域委員会に任されており、 地域委員会は独自にアンモ ニア削減計画を定めることができることから、 許可される放出量は15モルと異な ることもあり得る。 3) 余剰マニュアの処分  オランダのマニュア余剰がどの程度に上るかは、 一定の前提に基づき推定する しかないが、 1995年までの実績と2000年の目標は、 表−9のとおりと推定されて いる。  前提によって異なるが、 現状の燐酸余剰数量は、 1万5千トンから5万トンの 範囲にあると考えられている。 しかし、 散布量の規制が厳しくなるに従って、 余 剰は増加する。  マニュア処分対策には、 表−10のとおり、 三つの柱が考えられている。 これら は、 一般に、 削減、 流通、 加工の順でコストが高くなる性格をもっている。 マニ ュア問題がEUでも最も深刻なオランダにおいてさえ、 加工及び処理という高コス ト対策には補助金が不可欠というのが現実である。 表−9 オランダにおけるマニュアの生産と余剰 (燐酸千トン) ─────────────────────────────────               1986    1990   1995    2000 ───────────────────────────────── 総生産量 238 221 200 185 自己農地への散布 238 154 123 92 他の国内農家への流通 − 62 59 32 加工及び輸出 − 5 12 61 余剰 − 0 6 0 ───────────────────────────────── 資料:オランダ農業省 表−10 マニュア対策の3つの柱 ──────────────────────────────────── 対策の柱 具体的内容 実施状況/実施期間 ──────────────────────────────────── 削減 −マニュア生産、移動、代替の制限 マニュアクオータ、余剰課徴金 (Reduction) (マニュアバンク、マニュア事務局) 農家段階での −ミネラル生産量の削減 使用ミネラル登録システム マニュア管理 ・飼料中のミネラル配合率の適正化 (MiAR) ・飼料への酵素/特定アミノ酸添加 −マニュアの品質向上 マニュア品質ボーナス ──────────────────────────────────── 流通 −余剰マニュアの流通促進 マニュア処分契約 (Distribution) マニュア品質ボーナス、マニュアコンテ 貯蔵を含む ナ、設置など(マニュアバンク) ──────────────────────────────────── 加工 −加工プラント/システムの奨励 加工プラント/システムへの (Processing) 補助 工業的な処理 マニュア加工情報提供 (CIOM) ──────────────────────────────────── ア. 生産対策  養豚部門では、 マニュア中の燐酸及び窒素は、 飼料中の含有量の削減及び動物 が燐酸を分解し利用することを助ける酵素 (fytase) の飼料への添加によって、 削減されてきた。  飼料要求率の低下や水の給与制限などもマニュアの総生産量の削減に寄与して きたほか、 豚に対するパルプやトウモロコシサイレージのような粗飼料、 ミネラ ル含有率の低い食品産業副産物の給与は、 マニュア中のミネラル量を減らすこと も知られてきた。  これらの組み合わせによって、 マニュア中のミネラルを (家畜の種類によって) 20%から40%削減することが可能であり、 fytaseの添加による燐酸排出削減量は 2万3千トンと推定されている。  しかし、 現在のところ、 政府は実際のマニュアのミネラル含有率を受け入れず、 基準数量を用いた燐酸及び窒素の生産量の算定を維持していることから、 全国の マニュア余剰数量は削減されていない。 イ. 流通対策  マニュアの流通は、 引受農家がまだ施用基準に達してない場合にのみ可能であ る。 流通はコントラクター、 農協及びマニュアバンクによって組織化される。  流通量は、 88年の燐酸6万3千トンから、 93年の燐酸6万9千トンへ増加した が、 今後は施用基準の削減により減少すると予想されている。  流通コストは、 マニュア1立方メートル当たりで、 近距離の場合4〜8Fl、 遠距離の場合13〜25 Fl程度であり、 家畜生産者が負担している。 この金額には、 輸送コスト及び、 通 常、 引受農家への補助金が含まれている。 一方、 引受農家側のマニュア散布コス トは、 2〜4Fl程度となっている。 (以上、 豚マニュアの場合)  マニュアの流 通を促進するために、 マニュアバンクは品質ボーナス制度及びマニュア販売地域 へのマニュアコンテナ設置対策を実施してきた。 しかし、 これらの補助制度は経 過的措置として欧州委員会から認められた措置であり、 95年に停止されたことか ら、 マニュアの流通対策は転機を迎えている。  品質ボーナスは、 農家段階での低水分良質マニュア生産により、 マニュアの品 質向上、 生産量削減を図るとともに、 高品質マニュアの広域流通を促進し、 耕種 農家のマニュア需要を拡大することを狙いとしている。 一定の条件を満たした場 合に、 畜産農家が負担しているマニュアの流通経費の一部を、 マニュアバンクが 補助するもので、 88年には72万1千トン、 94年には19億35百万トンのマニュアが 対象となった。  販売地域におけるマニュアコンテナ設置対策は、 年間を通じて行われるマニュ ア生産と、 春から秋に限定されるマニュアの需要のギャップを埋めるとともに、 75〜250kmも離れている畜産地域と耕作地域との間の流通を円滑に行うために、 マニュアコンテナ設置経費に対する利子負担等の支援を行うものである。
◇図7:品質ボーナスのし組み◇
◇図8:品質ボーナス制度による補助対象マニュア数量の推移(1988-94年)◇
ウ. 輸出対策  マニュアそのものの形での輸出は、 最もミネラル分が高い乾燥鶏糞だけが可能 である。 この輸出は、 91年の12万トン (燐酸2千トン) から94年の44万トン (燐 酸8千トン) へと増加した。 これは将来70万トン (1万1千トン) にまで増加す ると予想されている。  EU法令の下では、 鶏糞及び馬糞以外の未加工マニュアは、 国境を越える輸出は 認められていない。 マニュアの輸出を増やすためには、 ペレットなどに加工され なければならない。 表−11 オランダのマニュア加工プラント(95年末現在) (千トン/年、千ギルダー) ──────────────────────────────────── プラント/システム名 加工の種類   処理能力 補助金 ──────────────────────────────────── Promest 豚糞尿からペレット 600 2,710 Stegra 鶏糞の圧縮 研究 200 Ecotechniex 豚糞尿の生物学的純化及び発酵 研究 910 Vefinex 鶏糞からペレット 205 2,570 Triple A 豚糞尿からリシン生産 研究 500 MeMon  豚糞尿に関する試験調査 503 4,370 Mestrecycling  豚糞尿からタンパク分離 20 1,280 Scarabee  豚糞尿の加工 1,020 1,640 Begeman  豚糞尿及び鶏糞の加工 5 3,640 Comesta  豚糞尿に関する実施可能性調査 500 700 Seaswan  豚糞尿の輸出に関する実施可能 6,000 230 性調査 ──────────────────────────────────── 以上、すでに中止したもの(11件) 8,853 45,750 ──────────────────────────────────── Ferm-O-Feed 鶏糞からペレット 50 2,660 Haflo 豚及び子牛糞尿への膜応用 研究 80 OVV 鶏糞の試験加工 190 1,850 CNC 鶏糞の加工 240 11,730 M.Gelderland 子牛糞尿の生物学的純化 660 3,090 Eraspro 鶏糞の貯蔵 21 470 Dams 鶏糞の貯蔵 30 310 ──────────────────────────────────── 以上、実施中のもの(7件) 951 20,190 ──────────────────────────────────── Mestwerk 豚及び子牛糞尿の乾燥 1,605 46,350 (Van Aspert法) OVEM 豚糞尿の試験乾燥 3 240 Smit 豚糞尿及び鶏糞と草との混合 21 940 Arev 多種の糞尿加工 470 n.a. MVH 糞尿ペレット生産試験プラント 25 4,640 M.Gelderland 子牛糞尿の乾燥(Van Aspert法) 202.5 5,550 Argaetec 多種の糞尿による藻栽培 7.8 340 Vloet 藻栽培及び生物学的純化 2.2 350 MeMon 鶏糞の乾燥 27 2,400 Kennes 鶏糞の貯蔵 60 1,680 Fleuren 鶏糞のマッシュルーム栽培への加工 31 1,070 ──────────────────────────────────── 以上、計画中のもの(11件) 2,454.5 63,560 ──────────────────────────────────── 合計(29件) 12,258.5 129,500 ──────────────────────────────────── 資料:オランダ農業専門誌“Boerderij”による。 注:すべてが網羅されているものではない。 表−12 1993年におけるマニュア加工数量   (千トン) ────────────────────────── 乾燥家禽マニュアの加工 190 (ペレット製造量 116) ヴィールマニュアの純化 430 肥育豚マニュア の加工 65 (ペレット製造量 8) 牛マニュアの加工 60 (ペレット製造量 8) ────────────────────────── 資料:オランダ農業省“Fact and Figures” エ. 加工対策  オランダ政府は、 80年代後半に、 マニュアの余剰を解消するためには95年まで に5百〜6百万トンのマニュアを加工しなければならない、 と見通していた。  これは、 燐酸にして約3万5千トンに相当する。  このため、 マニュア加工プラント及びシステムに対する補助が実施されており、 これまでに多くの計画が対象となっているが、 加工能力は95年当初時点で約130万 トンと、 かなり小さい規模にとどまっている。 これは、 マニュア余剰についての 予測が現実よりも過大だったこと、 技術開発及び最終製品の販売が予想外に困難 だったこと、 が原因とみられている。  全国で開始された多くのマニュア加工プラント設立計画の中でも最大規模の一 つは、 農家連合NCBによるPromestである。 この肥育豚マニュアル用加工プラント では、 約60万トンの処理能力を持ちながら、 実際には3万トン以下の加工実績し かあげられず、 そのコストも1立方メートル当たり25−35Flと高かった。 このた め、 余剰課徴金を財源とする補助金を受けても損失を償うことができず、 95年に 破産した。 この事例は、 現状におけるオランダのマニュア加工事業成立の困難さ を示している。  しかし、 現在でも事業規模は一般に小さいものの、 補助金を前提にいろいろな 加工事業を継続している会社は多数存在している。 さらに、 今後、 マニュア規則 の強化によって、 マニュア加工の必要性は高まることが予測される。 4) 今後のマニュア政策 (1) 総合的マニュア・アンモニア政策  95年9月、 農業大臣及び環境大臣はマニュア余剰及びアンモニア放出に関連す る中期的な政策方向を定めた共同文書を発表した。これは、 オランダのマニュア 政策の第三段階を具体化するためのものであり、 その内容は以下のとおりである。 表−13 家畜飼養密度基準、排出基準、課徴金及び散布基準の年次目標 ──────────────────────────────────── 1995 1998 2000 2002 2005 ──────────────────────────────────── 登録義務の対象となる家畜飼養 密度基準(頭数/ha) − 2.5 2.5 2.0 2.0 ──────────────────────────────────── 燐酸のロス基準(Kg/ha/年) (=課徴金(5Fl)適用水準) − 40 35 30 25 ──────────────────────────────────── 割増課徴金(20Fl)の対象となる 燐酸のロス水準(Kg/ha/年) − 50 45 40 30 ──────────────────────────────────── 窒素のロス基準(Kg/ha/年) − 300 275 250 200 ──────────────────────────────────── 施用基準 草地(Kg/ha/年) 150 120 85 80 80 ──────────────────────────────────── (燐酸)一般耕地(Kg/ha/年) 110 100 85 85 80 ──────────────────────────────────── ───────────────────── 2008/10 ───────────────────── 登録義務の対象となる家畜飼養 密度基準(頭数/ha) (注) ───────────────────── 燐酸のロス基準(Kg/ha/年) (注) (=課徴金(5Fl)適用水準) 20 ───────────────────── 割増課徴金(20Fl)の対象となる 燐酸のロス水準(Kg/ha/年) (注) ───────────────────── 窒素のロス基準(Kg/ha/年) 180 ───────────────────── 施用基準 草地(Kg/ha/年) 80 ───────────────────── (燐酸)一般耕地(Kg/ha/年) 80 ───────────────────── (注)2008年以降の家畜飼養密度基準及び課徴金単価は今後決定。 ア. マニュア政策  家畜飼養密度が一定頭数を上回る 「集約的畜産事業体」 は、 ミネラル報告シス テムへの参加を義務付けられ、 農場で供給されたミネラル数量、 その販売・処分 数量などを報告しなければならない。  農家は、 標準ミネラル含有率を用いる一般ミネラル報告システムと、 農家の実 際のミネラル含有率を用いることができる厳格ミネラル報告システムとのいづれ かを選択することができる。 後者は、 多くのサンプルを用いるため、 追加的コス トが必要となる。  ミネラルの供給と処分の格差、 即ちミネラルロス (余剰) には基準 (上限) が 設定され、 それを上回るミネラルロスには累進的な課徴金が課される。  集約的畜産事業体以外の畜産農家及び耕作農家は、 ミネラル報告システムを守 る必要はないが、 9月1日から2月1日までの間のマニュア散布の禁止などの、 既存の通常ルールは適用される。 また、 これらの農家がマニュアを散布する場合、 マニュアの搬入についての記録を保存しなければならない。  98年にこれが施行されれば、 集約的畜産事業体については、 従来の散布数量基 準はミネラルロス数量に置き換わることになる。  その他の農家については、 散布数量基準は、 農場へ搬入できる燐酸の最大数量 に置き換わることになる。 これは、 98年には、 耕作地では100kg/ha、 草地では 120kg/ha、 2000年にはすべて85kg/ha、 2002年以降にはすべて80kg/haとなる。  この結果、 すべての農家のマニュア記録簿は廃止され、 これに替わって、 集約 的畜産事業体に対するミネラル報告システム及びその他農家に対する搬入マニュ アの登録が実施されることになる。  なお、 以上の提案は、 従来のマニュア政策の第三段階として計画されていた内 容に比べて、 @燐酸のロス基準を大きく緩和したこと (2000年で5kg/haの計画 が、 2008年で20kg/haに)、 Aマニュアに関するミネラル登録制度を、 集約的畜 産農家に限定し、 マニュア散布基準を併用を認めたこと (計画では全農家にマニ ュア以外の発生源も含めたミネラル報告システムを義務づけ、 マニュア散布基準 は廃止) 等の点で、 かなり緩和されたものとなっているが、 依然農業団体は強く 反発している。 イ. アンモニア政策  アンモニアについては、 処理による削減政策から、 排出の削減政策へ重点が移 される。 家畜飼養密度2. 0LU/haを下回る畜産事業者に対してのマニュア削減は 排出を小さくする方法で行い、 マニュア貯蔵施設には覆いをするなどの現行のル ールが維持される。  それ以上の家畜飼養密度の畜産事業者は、 畜舎の新設の際には、 排出を小さく する畜舎の建設が義務付けられる。 同様の制限は、 既存の畜舎にも段階的に導入 される。  なお、 計画にあったアンモニア課徴金は断念された。 また、 アンモニアの処理 による削減政策の実施は、 地域レベル (州政府) に委ねらる。 ウ. 関連対策  政府は、 2002年までに、 1万7千トンの燐酸の削減を計画しており、 これは、 主として、 マニュアクオータの移動に伴う25%削減及び農場の家族による相続以 外の農場継承に伴う50%削減によって行われることとなる。  また、 政府と養豚産業の共同拠出による4億7500万Flの基金を設立し、 養豚集 中地域におけるマニュア余剰削減措置の支援や養豚経営中止農家からのマニュア クオータの買い上げなどに充てられる。 さらに、 農家自身によるマニュア加工支 援や、 適正営農法の開発導入などを促進するために、 今後7年間に1億4000万Fl の予算が計上される計画となっている。 (2) 畜産農家への影響 オランダ農業経済研究所が行った研究によれば、 酪農家の実態は以下のとおり となっている。 −酪農家の平均燐酸ロス:71kg/ha −養豚等との複合酪農家の平均燐酸ロス:82kg/ha −燐酸ロス40kg/ha未満の酪農家の割合:27% −集約的酪農家 (2. 5LU/ha超のもの) の割合:51%  養豚農家については、 これをかなり上回る状況であることは容易に推定できる。  今後、 環境規制の強化に伴って、 畜産農家のコストは着実に上昇し、 廃業が加 速されることが予想される。  政府の試算によれば、 2000年の農家所得は、 酪農家では平均1千Flの減少 (94 年度3万5千Fl。 86−90平均6万1千Fl)、 養豚農家では7千Flの減少 (94年度養 豚養鶏の平均1万2千Fl。 過去3年大きく低迷しており、 86−90年度平均では5 万2千Fl) となり、 養鶏農家や耕作農家ではわずかな影響に止まると見込んでい る。 同じく2000年の農家戸数は、 養豚農家では700戸の減少 (94年24, 058戸)、 酪 農農家では1, 000戸の減少 (94年38, 938戸) と見込まれている。  また、 98年からミネラル報告システムが義務付けられるのは、 7万4千戸の畜 産農家のうちの3万5千戸になると推定されている。  このような変化は、 環境の改善には大きく寄与するものの、 EU硝酸塩指令の達 成には、 依然として、 不十分であるとみられている。
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