調査レポート 

BSEをめぐる情勢

ブラッセル駐在員 池田一樹、 東郷行雄

I はじめに


 牛海綿状脳症 (BSE) は、 1986年にイギリスで確認されて以来、 今年で10年と なる。 この疾病は、 病原体、 伝播経路、 人を含めた感受性動物の範囲等対策に必 要な要素のどれをとっても未解明の部分が多く、 関連する研究の進展に応じて、 その都度EUとして、 あるいはイギリス独自の防疫対策が講じられてきた。  この結果、 イギリスではこれまで16万頭を超える発生をみているものの、 近年 発生頭数は大幅に減少しており、 家畜衛生上は、 好ましい方向に推移していた。 しかしながら、 人への感染の可能性については未解明のままであり、 一般消費者 にとっては不安材料の一つであった。  このような状況の中で、 本年3月、 イギリス政府がBSEが人へ伝播する可能性 を否定できない旨を発表するに至り、 BSEは公衆衛生上の一大関心事となった。 EUでは、 イギリスにおける牛の処分、 イギリスからの牛等の輸出禁止などの防疫 対策を講じるとともに、 これらの防疫対策や消費減少に伴う生産者などへの補償 措置、 市場安定措置等を次々と講じ懸命な対処を続けている。  BSE対策については、 EU委員会は科学的根拠に基づいた措置を講じていくとの 態度を常に示している。 しかしながら、 消費者不安の継続、 関連産業への影響、 膨大な対策関連支出など、 極めて大きな問題であり、 各国の思惑が交錯し大きな 政治問題となっている。  BSE関連の動きは現在進行中ではあるが、 本レポートではこういった状況につ いての現状を紹介することとする。

II BSEについて


 BSEは、 運動失調や行動の異常 (過敏、 興奮等) といった神経症状を主徴とす る疾病で、 病理学的には顕微鏡下で脳に確認される海綿状の変性病変が特徴であ る。 同様の脳病変は、 家畜では、 めん羊や山羊のスクレイピ−、 ミンクの伝染性 脳症など、 ヒトではクロイツフェルドヤコブ病 (CJD:伝染性、 遺伝性または医 原性の発生が考えられている)、 ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカ ー症候群および致死性家族性不眠症 (いずれも遺伝性と考えられている)、 ク− ルー病などで確認されており、 最近では、 これらの疾病を一括して伝達性海綿状 脳症 (Transmissible Spongiform Encephalopathy:TSE) と呼んでいる。 また、 TSEは、 プリオン (proteinaceous infectious particle:prion) が引き起こす と考えられていることから、 プリオン病とも呼ばれている。  プリオンは正常な個体の脳細胞膜にも存在する糖蛋白質である。 しかし、 遺伝 子変異などにより3次元構造の異なる変異プリオンが出現したり、 外部から変異 プリオンの伝播を受けると、 変異プリオンと接触した正常プリオンが次々と変異 し、 プリオン病を引き起こすものと考えられている。 変異プリオンは蛋白分解酵 素に耐性であり、 アミノ酸に分解されないことから、 脳細胞に蓄積する。 このた め、 脳細胞に空胞変性が起こり、 顕微鏡で観察すると海綿 (スポンジ) のよう にみえることとなる。  このように、 プリオン病は、 ウイルスや細菌とは全く異なる病原体、 すなわち、 DNAやRNAといった自己複製機能を持たないプリオンという蛋白質を病原体とする 全く新しい疾病と考えられている。  BSEの起源は、 一般的にはスクレイピーに罹患しためん羊から生産された肉骨 粉が、 飼料として牛に給与され、 スクレイピーの病原プリオンが牛に伝播すると ともに変異し、 BSEのプリオンとなり、 疾病を引き起こしたものと考えられてい る。  スクレイピーは古くからイギリスに存在している疾病であり、 めん羊の肉骨粉 も古くから牛用飼料として使用されていた。 しかし、 1980年代初めに肉骨粉の製 造方法が変わったことにより、 製造段階においてスクレイピーのプリオンが不活 化されなくなってしまったため、 牛へ伝播してしまったとの見方である。 しかし ながら、 プリオン蛋白の種特異性からみて、 もともとBSEは存在していたが、 疾 病として確認されておらず、 未確認BSE罹患牛の肉骨粉を介して広範囲に広まっ たとの見方もある。  BSEの起源の特定は、 今後の研究によるところとなるが、 いずれにせよ、 BSEは、 飼料を介して広範囲に伝播したとの見方が一般的である。 このため、 イギリスの 防疫対策も、 めん羊/牛 →飼料→牛といった感染環を断つことを第一として措 置されてきており、 患畜 (病理解剖により、 BSEと診断された牛) や疑似患畜(病 理解剖でBSEと診断されなかった牛) は処分することとされているが、 同居牛の 処分は行われてこなかった。  BSEには発症前の検査診断方法やワクチンがない。 このため、 徹底した検査を 行いその診断に基づく、 処分等の措置をとったり、 ワクチンにより発生予防を図 るといった、 従来の伝染性疾病の予防措置が通用しないことが、 防疫上の一つの 障害となっている。  BSEのはこれまでイギリスをはじめとして5カ国で確認されているが (輸入牛 での発生を除く)、 発生数はイギリスが圧倒的に多いことがわかる (表1)。

III 英国におけるBSEの発生状況


 イギリスにおけるBSEの発生頭数は、 確認以来大幅な増加傾向で推移していた が、 1992年をピークとし、 その後、 発生頭数は減少傾向で推移してきている (図 1)。  イギリスでは、 1988年7月に、 反芻動物由来の肉骨粉等の蛋白質を、 反芻動物 用飼料に使用することを禁止する措置が講じられている。 イギリス政府は、 最近 の発生頭数の減少はこの禁止措置の結果とみなしている。 禁止措置を講じたのが 1988年であるから、 この措置が有効であれば、 その後BSEの潜伏期間である5年 程度を経過した後、 すなわち1993年以降は発生頭数が減少するはずであるが、 果 たして現実はその通りとなっているという見方である (図1)。
◇図1:英国におけるBSEの発生状況◇
 また、 発生頭数を年齢別にみると、 やはり潜伏期間に相当する5年を経過した 現在では、 5歳以下の牛での発生が減少しており、 イギリス政府見解の裏付けと なっている (表2)。

IV 96年3月以降の経過


1 BSE対策の新たな展開
 最近のEU内におけるBSE対策の新たな展開は、 イギリス政府が3月20日に、 BSE とCJDの関係を示唆する海綿状脳症諮問委員会 (SEAC) の勧告 (参考1) を受け て声明を発表したことに始まる (参考2)。  この勧告および発表では、 最近確認された新しいタイプのCJD (参考3) とBSE との関係について、 「関係を示す直接的な証拠はないが、 最も可能性のある解釈 は、 1989年に牛の特定内臓 (Specified BovineOffal:SBO 脳、 脊髄、 脾臓、 胸 腺、 へんとう、 腸) の食用禁止措置が導入される以前の段階でのBSEへの曝露と の関係である」 と述べると同時に 「新たに提出した勧告が実行されれば、 牛肉を 食べることによる危険性は極めて少ない」 としている。  この発表により、 BSE問題は家畜衛生上の問題というよりも、 公衆衛生上の一 大関心事として、 一挙に欧州のみならず全世界に波及した。  ただし、 これまで公衆衛生上の措置が全く取られてこなかった、 ということは ない。 ここで、 これまでイギリスならびにEUで取られた公衆衛生上の措置を振り 返ってみることにする (表3)。  まず、 イギリスでは、 1989年2月にイギリス政府の諮問機関である海綿状脳症 作業部会が、 いわゆる“サウスウッドレポート”として、 BSEの人への伝播の可 能性を完全に否定することはできないことから、 公衆衛生上の措置が必要である 旨を勧告した。 これを受けて、 イギリス政府は公衆衛生上の措置の制定に着手し、 最終的には1989年11月から1990年1月にかけて、 SBOの食用禁止措置を制定して いる (ただし、 サウスウッドレポートでは、 乳幼児用食品への使用禁止のみを勧 告)。  また、 EUレベルでは、 1989年11月にドイツが公衆衛生上の理由からイギリス産 牛肉や牛内臓の輸入禁止を一方的に決定したことに端を発し、 EU科学獣医委員会 が 「可能性は低いものの、 万一BSEが人へ伝播する場合、 6カ月齢以上の牛の脳、 脊髄等の臓器が最も危険であり、 これらは食用に供するべきではない」 といった 勧告を発表した。  この後、 1990年2月にイギリスからの生体牛 (6カ月齢以上) の域内禁輸措置、 同年4月にイギリスからの6カ月齢以上の牛の脳、 脊髄等の域内禁輸措置、 さら に同年6月にイギリスからの牛肉の輸出にあたっては、 当該牛肉が過去2年間BS E清浄農場由来の牛から生産された旨の証明を添付する措置等が制定され、 ドイ ツは禁輸措置をようやく撤回している。  これらの公衆衛生上の措置に対する当時の評価はさまざまであったが、 今とな ってみれば、 科学的に黒白付けられない段階から対策の必要性を勧告し、 また、 その勧告を実行したことは評価に値すべきものであろう。  今年3月の発表で、 BSEの防疫は、 いわば人畜共通感染症としての防疫と同様 の措置が求められることとなり、 公衆衛生上の措置のみならず、 家畜衛生上の措 置も一層てこ入れされることとなった。 表3:1996年以前に講じられた公衆衛生上の措置 ───────────────────────────────────── 英国 EU ───────────────────────────────────── 1989 ○SBOの食品への使用禁止  1990 ○英国からの生体牛(6ヶ月齢未 1995 ○頭蓋からの脳及び眼球の分離     満)の域内禁輸     を禁止し、頭蓋全体を特定牛    ○英国からの6ヶ月齢以上の牛の     内臓として処理           脳、脊髄、胸腺、へんとう、脾 1995 ○食肉処理場以外での脊柱から     臓、腸の英国からの域内禁輸     の脊髄の分離禁止         ○英国からの牛肉輸出に当って、     牛脊柱の食品への使用禁止      由来牛の清浄性の証明                   1994 ○英国からの牛肉輸出に当って                   及び  条件の強化                   1995      ───────────────────────────────────── 2 3月以降に決定された主な防疫措置
 それでは、 3月以降にどのような措置が採られてきたのであろうか。 以下、 最 近までの動きを取り上げてみる。  なお、 イギリスについては、 グレートブリテン (GB) と北アイルランド (NI) では獣医公衆衛生行政が独立しているため、 ここではグレートブリテンで講じら れた措置として紹介する。 ただし、 北アイルランドにおいてもほぼ同様の措置が 講じられていることを付け加えておく。 (1) イギリス国内の措置  公衆衛生上の防疫措置としては、 まず、 3月28日に30カ月齢以上の牛の肉の食 用への使用がことごとく禁止された。 BSEの発症は30カ月齢未満ではまれである ため、 30カ月齢という区切りが公衆衛生ならびに家畜衛生上の防疫措置には、 し ばしば用いられている。 BSEが牛肉を介して人に伝播する危険性は極めて少ない としていることからみると、 この措置はかなり厳格なものである。  なお、 月齢の確認には、 当初永久歯が3本以上の牛をもって、 おおむね30カ月 齢以上としていたが、 その後、 月齢を特定する証明書も確認手段として認められ ている。 また、 6カ月齢以上の牛の頭部はSBO (特定牛内臓) として取り扱うこ ととされた。 従来、 頭蓋についてはSBOとして取り扱うこととされてきたが、 脳 と脊髄が病原体の主たる存在部位であることから、 頭部の取り扱いについて万全 を期したものである。 牛の頭部には肉が含まれるため、 以降、 SBOという名称は SBM (特定牛畜産物) に変更されいる。  食用が禁止された30カ月齢以上の牛の処理に関しては、 EUが規則を制定してい る (4月19日)。 これによると、 1) 処理される牛は食用、 飼料用、 化粧品用ある いは製薬原料としては使用せず、 着色、 廃棄すること (ただし、 皮革原料として の皮は除く)、 2) 処理を行う食肉処理場、 焼却場、 化製場は政府の認定を受ける こと、 3) イギリス関係当局関係者が食肉処理場に常駐し処理の監督を行うこと、 4) 処理に際しては食用・飼料用目的で処理される牛を導入しないこと、 5) 処理 牛から得られた製品と、 食用・飼料用目的の牛関連製品との保管施設を分離する こととなっている (イギリス政府はEU規則に沿った規則を制定。 4月23日および 5月1日)。  この淘汰計画の対象頭数については、 30カ月齢以上の牛の頭数は400万頭以上 (総飼養頭数は約1, 200万頭) と見られており (本年3月時点)、 今後数年間 (6 年前後) で、 500万頭前後の牛が処分されるものと見込まれている。 本年は、 8 月下旬までに40万頭を超える牛が処分されている。 イギリス国内の30カ齢以上の 牛の処理能力は、 当初、 週当たり2万5千頭と見られていたが、 現在では、 3万 頭に増加しており、 このペースで処理が進行すれば、 本年末までに90万頭以上が 処分されることとなる。  家畜衛生上の防疫措置としては、 哺乳類由来の肉骨粉や、 これを含む飼料を全 ての家畜 (魚類も含む) の飼料として販売したり供給することが禁止された。 同 時に、 このような飼料を家畜に給餌することも禁止された (3月28日)。  飼料関係の措置は、 家畜衛生上の防疫措置の核であることから、 これまで採ら れた措置について触れてみたい。  BSE確認後の疫学調査で、 飼料が主たる伝播源と推定されたことにより、 まず、 反芻動物由来の蛋白質 (肉骨粉等) を反芻動物用飼料に使用することが禁止され た (1988年)。 しかしながら、 この措置では豚や鶏用飼料等への反芻動物由来肉 骨粉の使用は禁止されておらず、 飼料工場内で、 肉骨粉が反芻動物用飼料へ混入 している事例が判明した。 このため、 飼料工場内での混入防止を目的として全て の動物用飼料へのSBOの使用禁止措置が取られた (1990年)。 その後もSBOの混入 が発覚したため、 SBOを特殊色素 (パテントブルー) により着色し、 識別を強化 するとともに、 頭蓋からの脳や眼球の除去を禁止し、 頭蓋全体をSBOとして取り 扱うこととされている (1995年)。  このように、 飼料関係ではさまざまな対策が打たれてきた。 ただし、 こういっ た措置にも関わらず、 依然として農家の庭先等での混入が潜在的な問題となって いたことも事実である。 この3月の禁止措置により、 主たる生産段階の飼料工場 のみならず、 輸送段階、 農家の庭先での飼料への混入についても禁止されたこと になり、 飼料関係の措置は一層てこ入れされたことになる。 また、 哺乳類に由来 する肉骨粉については、 農用地での肥料としての使用も禁止された (4月20日)。 (2) EUの措置 1) イギリスからの牛等の輸出禁止措置  3月20日のイギリス政府の発表を受けて、 EUは直ちにイギリスからの生体牛お よび牛畜産物の禁輸措置を決定した (3月27日)。 この措置は生体牛、 牛関連製 品の輸出をことごとく禁止する極めて厳しい決定であり、 また、 これまで取られ たBSE関連のイギリス産牛等の禁輸措置と異なり、 域内輸出のみならず第3国輸 出も禁止している (表4)。  イギリスの牛肉関連輸出産業の規模は、 牛肉で年間5億2千万ポンド (1995年、 約800億円)、 生体牛で年間8千7百万ポンド (1994年、 約140億円) であること からみても、 禁輸措置の影響が計り知れる (表5、 6)。 表4:英国産牛製品等の禁輸対象品目及び一部解禁品目 ──────────────────────────────────── 禁輸対象品目(3月27日)     一部解禁品目(6月11日) ──────────────────────────────────── ●生体牛               ◇英国でと殺された牛に由来する ●牛精液、牛受精卵           以下の製品 ●英国でと殺された牛の肉        ○ ゼラチン、りん酸二カルシウム ●英国でと殺された牛に由来し、食用   ○ 皮から製造されたアミノ酸及び  あるいは飼料用に供される可能性の    ペプタイド  ある製品、及び医療用製品、化粧品、  ○ 牛脂及び牛脂製品  医薬品に使用される原材料     ○ 牛脂派生製品 ●哺乳類由来の肉骨粉         ◇英国以外でと殺された牛の肉、肉加                     工品、肉製品(以上は食用)及び肉                     食動物用飼料                    ◇精液 ──────────────────────────────────── 2) イギリス産牛製品の禁輸一部解除  6月11日、 上記1) の決定が一部改正され、 精液、 ゼラチン、 牛脂、 イギリス 以外でと畜された牛の肉等の禁輸が今後解除されることが決定された (表4)。 精液の禁輸解除については、 特段の付帯条件はないが、 その他の品目については、 1) 製造工場は獣医当局の監督下で、 各種の製造条件を満足できるものとしてイ ギリス政府が認定、 2) 当該認定工場リストのEU委員会および加盟国への提出、 3) 域内輸出に際して、 製造工場等を記載した衛生証明書の添付、 といった条件 が課せられている。  さらに、 個別に製造方法が規定されており、 ゼラチンの禁輸解除については、 1) BSEの症状を呈していない牛からの生産、 2) 30カ月齢以下の牛からの生産、 3) BSEの病原体が不活化される処理条件下での製造《骨を原料とする場合:酸処 理 (PH<1. 5で最低4日)、 アルカリ処理 (PH>12. 5の石灰で最低45日または0. 3規定の苛性ソーダで10〜14日間) および加熱処理 (138℃〜140℃で4秒)。 その 他の皮、 腱等を原料とする場合:骨を原料とする場合と同様のアルカリ処理およ び加熱処理 (138℃〜140℃で4秒)》4) 脳、 脊髄、 脾臓、 腸等の臓器の原材料か らの排除、 5) 製品に製造方法と製造工場を表示することが条件とされている。  精液については、 従来のルールに従って輸出が可能となったものの、 その他の 品目の輸出再開の期日については、 EU委員会が、 禁輸解除に当たっての上記の条 件、 特に獣医当局の監督の実施状況に関する現地調査を実施した上で、 EU常設獣 医委員会に諮り、 設定することとされた。 現在まで解禁期日は決定していない。  この禁輸の一部解除については、 いったんはEU常設獣医委員会で否決されてい る (5月20日)。 ゼラチンや牛脂については、 4月上旬、 世界保健機関 (WHO)が、 病原体を不活化できる条件下で製造されれば、 安全である旨の勧告を発表してい たことから、 EU委員会は、 一部解除は、 WHOの科学的な勧告に沿ったものとして いたが、 ドイツ、 ベネルクス三国などの反対により否決された。 これに対して、 防疫対策を拡充して票決に万全を期していたイギリスは、 科学的根拠に基づかな い不当な結果として不満を表明するとともに、 EU業務への非協力政策を打ち出し た。 3) 非食用畜産物の処理条件  非食用畜産物の処理条件については、 以前から規制が課せられていたが、 BSE やスクレイピーの病原体の不活化を目的として、 処理条件が決定された (7月18 日。 ゼラチン、 皮、 血液、 製剤原料用の腺組織、 牛乳乳製品等は除く。 また、 上 記2) のイギリス産牛製品の一部禁輸解除措置で定められた処理条件は、 この決 定に優先する)。 新たに設定された処理条件は、 畜産物を直径を50mm以下に処理 した上で、 3気圧、 133℃で20分の加熱を求めている。 新条件は1997年4月1日 から適用されることとされており、 これ以降は非食用畜産物は新たな条件下で製 造されることとなる。 4) イギリス産牛製品等の段階的禁輸解除の枠組み  6月21日のEU首脳会議の席上、 EU委員会は、 BSE対策として今後イギリスが講 じるべき措置および当該措置を前提としたイギリス産牛製品等の禁輸解除対象品 目に関するポジションペーパー (表7) を提出した。 EU首脳は、 このポジション ペーパーを受け入れたことにより、 段階的解除の枠組みに合意した。 同時に、 イ ギリスの対EU非協力政策も撤回された。 表7:ポジションペーパーの概要 ──────────────────────────────────── 段階的解禁の前提として英国がとるべき措置 段階的解禁品目(注) ──────────────────────────────────── ○BSEに罹患しているおそれのある ○BSE清浄群(これまでBSEの  牛の淘汰計画の実施           発生がなく、BSEの病原体に汚 ○公的な個体登録及び移動記録制度の    染された肉骨粉を含む飼料が使用  導入                  されたことのない群)の牛・牛肉 ○飼料工場及び農家からの肉骨粉の撤   ○受精卵  去、並びに関連施設・器具の清掃に   ○特定期日以降に生まれた牛及びそ  関する規則の制定            の牛肉 ○30ヵ月齢以上の牛の処理計画の効   ○30ヵ月齢以下の牛の肉  果的な実施              ○30ヵ月齢以上の牛の肉(長期的 ○SBM除去方法の改善          にみて) ──────────────────────────────────── 注:解禁順位については一切触れられていない  ただし、 EU首脳による段階的解除の枠組みの受け入れに当っては、 EU委員会の ポジションを 「歓迎する」 といった控えめな表現となっており、 この表現の裏に は、 イギリスがこの枠組みの合意を得るためにとってきた非協力政策に対する各 国首脳の気持ちが伺われる。  第3国向け輸出の解禁については、 段階的解禁品目に含まれていないが、 輸入 国からの要請に基づいて、 EU委員会が段階的解禁の枠組みの中で個別に検討する こととされた。 ただし、 EU域内の禁輸継続中に第3国向け輸出を許可することに ついては、 加盟国からも問題視する声が上がっており、 現状の禁輸が継続する間 は、 実現の可能性は低いものとみられる。  この合意により、 今後解禁問題はEU委員会のポジションペーパーに沿って、 処 理されていくわけであるが、 期日については一切触れられていない。 具体的な決 定プロセスは次の通りである。 ア イギリスにおける関連法規の制定等  イギリスは、 ポジションペーパーに掲げられた措置を8月1日までに法制化す ることとされた (現在一部遅れている)。 また、 EU委員会は、 これらの防疫措置 の実行状況に現地調査を実施することとされ、 調査結果いかんによっては、 これ ら一連の防疫対策に変更が加わることとされた。 (6月24日) イ イギリスによる解禁についてのワーキングペーパーの提出  イギリスは、 解禁を要請する品目について、 関連防疫対策の実施状況等につい てのワーキングペーパーを提出し、 常設獣医委員会、 科学獣医委員会、 多角的科 学委員会 (Multi-Disciplinary Scientific Committee)で検討が行なわれること となる。 多角的科学委員会は、 BSEに関連して、 科学的な助言を、 多くの専門家 の立場からEU委員会に行うことを目的に新設された。 ウ EU委員会による常設獣医委員会への解禁についての提案  上記イの意見を踏まえて、 EU委員会は解禁に関する提案を作成し、 常設獣医委 員会に諮り、 以降はEUの意思決定プロセスにより取り進められる。 3 段階的枠組みに沿った動き
 イギリスでは、 2の4) のアに述べた法制化について、 作業が進んでいる。 こ こではその主なものを紹介したい。 (1) BSEの患畜と同時期に同一農場で生まれた牛の処分計画 イギリス政府は、 7月3日付けで速効的と畜処分計画 (Accelerated Slaughter Scheme) と呼ばれる牛の処分に関する規則案の骨子を関係者へ配布し (Consulta tion Document) 聴聞を行った。  この計画はBSEには生前の診断方法がないことから、 疫学的に感染が疑われる 牛を淘汰し、発症を未然に防ごうとするものである。 この措置を取らなくともBSE の発生件数は、 今後減少すると推定されているが (イギリス政府見解)、 この措 置により発生頭数の減少が一層加速されると考えられている。 ただし、 この計画 については、 淘汰牛に対する補償問題で意見がまとまらず、 法制化は8月1日以 降にずれ込んでいる。 この計画の概要は次の通りである。 1) と畜処分候補牛  と畜処分候補牛は、 BSE患畜と同一時期に同一農場で生まれた、 いわゆる 「同 時出生牛群」 の牛である。 同時出生牛群とは、 一つの農場で、 7月1日から翌年 の6月30日までの期間に生まれた牛と定義されている。  BSEの伝播は、 主として病原体に汚染した肉骨粉を介したものであり、 また、 6カ月齢未満の段階で感染しているものと推定されているため、 BSE患畜と同一 時期に同一農場で生まれた牛は、 同じ汚染飼料を給餌され、 感染している可能性 が高いと考えられることから、 同時出生牛群が注目されたわけである。  と畜処分候補牛の出生期間は次の通りである。 ア 自衛と畜候補牛   1989. 7. 1〜1990. 10. 14   (89/90年同時出生牛群) イ 強制的殺処分対象牛   1990. 10. 15〜1991. 6. 30   (90/91年同時出生牛群)   1991. 7. 1〜1992. 6. 30   (91/92年同時出生牛群)   1992. 7. 1〜1993. 6. 30   (92/93年同時出生牛群)  1990年は、 期間の区切りが他と異なっている。 これは、 イギリスでは1990年10 月15日に、 この計画の重要な前提条件となる繁殖記録および記録の保管が義務付 けられたためである。 イギリス政府は当初この期日以降を計画の対象として考え ていたが、 EU農相会議での段階的解禁の枠組み合意に先立ち、 加盟各国から処分 頭数の拡大が求められたことにより、 89/90年同時出生牛群についても対象に含 まれることとなった。 ただし、 89/90年同時出生牛群については、 繁殖記録の関 係上処分は自衛と畜という形をとっている。 2) と畜処分対象牛  と畜処分候補牛すなわち、 BSE患畜の同時出生牛群のうち、 感染している危険 性のある牛のみが選択され、 処分の対象となる。 3) 同時出生牛群の追跡およびと畜処分対象牛の選択  同時出生牛群の追跡は、 当局の獣医官が行う。 獣医官は上記1) の期間に出生 したBSE患畜の出生農場を訪問し、 当該患畜が感染する程度の期間、 固形飼料を 給餌されたか否かを確認し、 確認が取れた場合は、 同一出生牛群の牛を特定する。  次いで、 販売されているものについては、 販売先の詳細を調査し、 可能な範囲 内で追跡が開始される。 この際、 雄牛は既に処分されている可能性が大きいため 追跡の対象とはせず、 また、 固形飼料を給餌される前の段階で売却された牛につ いても、 感染の危険性が少ないことから追跡対象とはしない。  さらに、 農場ごとに飼養管理が異なる、 あるいは同時出生牛群でも、 感染の危 険性がある牛は限定される場合があること、 などを考慮した上で、 同時出生牛群 の中から感染の可能性のある牛を選択し、 と畜処分対象とする。 ただし、 89/90 年同時出生牛群については、 それ以後の同時出生牛群のような繁殖記録の記帳と 保管が定められる以前であることから、 追跡の精度は低下することとなる。  なお、 農家は、 と畜処分対象とされることについて異議を申し立てることがで きることとされている。 4) 補償  と畜処分に対する補償については、 市場価格を反映させたものとするか、 ある いは、 代替牛の導入経費とするかについて検討中となっている。 家畜伝染病に基 づくと畜処分に対する補償は、 従来、 市場価格を反映させることが慣行となって いる。 しかし、 この慣行は水平感染をする従来の伝染病についてのものであり、 BSEはその範ちゅうに入らないことから、 代替牛の導入経費といった考え方が出 てきたものである。 代替経費の負担とした場合は、 処分牛よりも若くて価値のあ る牛の導入経費を税金で負担することになることが指摘されている。  また、 処分牛頭数の割合により、 補償金の割り増しを行うことも提案されてい る。  なお、 これらの補償措置は、 自衛と畜、強制的と畜処分を問わず適用すること とされている。 5) 処分対象頭数  この計画により処分される対象頭数は、 90/91〜92/93年同時出生牛群関係で 約8万頭と推計されているが、 89/90年同時出生牛群については、既にと畜処理 された牛がいることなどから、 明確な推計はなく、 約2万頭〜6万7千頭の範囲 と見られている。  なお、 イギリス政府は、この計画の効果を5月時点で推計している。 これによ ると、 1996年における90/91〜92/93年同時出生牛群でのBSEの推定発生件数の3, 400件に対して、 この処分計画、 すなわち、 約8万頭の処分により、 1, 200件の 発生が未然に防止されるとしている。 (2) 牛の移動を十分把握できるような個体登録の改善  「牛パスポート規則」 が7月1日から施行されている。 この規則により、 牛に 耳票を装着後28日以内、 または輸入後14日以内にパスポートを申請することとな り、 パスポートなしでの牛の移動を行うことはできなくなった。 耳票については、 別途装着期限が規定されており、 乳用牛にあっては生後36時間以内、 その他の子 牛にあっては30日以内とされている。 なお、 28日齢未満の牛の移動にあたっては、 特別の申請様式が定められている。 (3) 肉骨粉の使用を防止するための規制の強化  農場、 飼料工場、 飼料取り扱い業者の施設に、 哺乳類由来の肉骨粉やこれを含 む飼料を置くこと自体が禁止されるとともに、 哺乳類由来の肉骨粉に接触した機 械、 車両、 倉庫、 その他の施設は、 再利用前に洗浄が義務付けられた (8月1日)。  なお、 この規則の制定に先立ち、 当局は、 飼料の無料回収計画を発動し、 肉骨 粉の一掃を呼びかけて、 11, 000トンの飼料が回収されている。 (4) 牛肉品質保証計画  牛肉品質保証計画 (Beef Assurance Scheme) は、 上記の規則と異なり、 イギ リスが独自に制定したものである (8月19日)。 この計画の目的は、 一義的には、 BSEの清浄肉用牛群を認定し、 この肉用牛群の肉については、 30カ月齢以上であ ってもイギリス国内で食用に供することを認めるものであるが (ただし、 42カ月 齢まで)、 同時に段階的輸出品目の一つであるBSE清浄群の肉の解禁に向けてのス テップと考えられる。  この計画に参加するための条件、 すなわち、 BSE清浄牛群としての認定に必要 な条件の概要は以下のとおりである。 1) 独立した牛群 (専用牛舎、 専用放牧等) であり、 過去7年間乳用牛を同一に  飼養したことのない肉用牛群であること 2) これまでBSEの発生が一切ないこと 3) 移動された牛においてもBSEの発生が一切ないこと 4) BSEの発生のある牛群から牛を導入していないこと 5) 過去7年間、 肉骨粉を含む飼料を給餌していないこと 6) 過去4年間に使用された濃厚飼料は、 反芻動物用飼料専門工場で製造された  もの、 または肉骨粉を使用せずに自家配合したものであること。

V 新たな知見をめぐる動き


 最近、 BSEの防疫上重要な研究結果が発表されており、 今後の動向が注目され ることから、 ここでは、 これらの研究結果とその後の状況について触れてみたい。 1 BSEのめん羊への感染実験について
 BSEのめん羊への感染実験について、 最近次のような趣旨の結果が発表された。 1) BSE実験感染めん羊では、 脾臓に多量の病原体が蓄積されている (これまで、  BSE感染牛では、 脳、 脊髄および網膜に病原体の存在が証明されているが、 そ  れ以外の部位では実験的にも証明されていない) 2) BSEと同様のプリオン病として、 イギリスに古くから存在しているめん羊のス  クレイピ−では、 病原体の脾臓への蓄積が証明されている。 このことから、 BS  Eはめん羊ではスクレイピー様に振る舞っている可能性がある。  この発表に基づいて、 SEACは、 イギリスの野外環境下でめん羊がBSEに汚染さ れているといった実証はないとしながらも、 スクレイピ−に隠れて潜在的に汚染 が進行している可能性があるといった見解を発表した。 同時に、 6カ月齢を超え るめん羊の脳の食用禁止措置を速やかに検討することについて勧告を行った (参 考4)。  イギリス政府は、 この勧告を受け、 めん羊および山羊の脳の食用禁止措置案に ついて聴聞を行っている。 EUレベルでは、 イギリス政府における禁止措置導入の 動きや、 既にめん羊の中枢神経系および眼球の使用禁止と焼却処分等を決定して いたフランスから、 同様の措置をEUレベルでも採用するよう申し入れを受けてい ることなどから、 加盟国横並びで、 めん羊の特定臓器の食用禁止等の措置を提案 した。 しかしながら、 これについては、 EU常設獣医委員会での合意を得ることが できず、 現在、 科学獣医委員会、 多角的科学委員会等で再検討されている。 2 母子感染実験について
 母牛から子牛へのBSEの伝播の可能性に関する調査研究 (イギリス国立中央獣 医研究所) の中間報告が発表され、 これに基づきSEACは7月29日に、 1) 母子感 染が成立すること、 2) 5年の潜伏期間における母牛から子牛への感染率は1% 程度と推定されること、 3) 母子感染の経路は不明であるが、 生乳の安全性に関 する従来の勧告を変更するものではないことなどを表明するとともに、 イギリス 政府に対して加速的淘汰措置の導入に当っては、 母子感染の事実を考慮する旨を 勧告した (参考5)。  この発表を受けて、 EUでは、 フィシュラー委員がイギリス政府に対して速効的 と畜処分計画の再検討を求めたが、 EUレベルでの今後の措置の決定に当っては、 まずイギリス政府からより詳細なデータの提供を受けた上で、 科学獣医委員会や 多角的科学委員会等広い範囲で検討が行われることとなっている。 3 BSEの病原体の不活化に関する条件について
 イギリス産牛製品の一部解除に当っては、 例えばゼラチンでは138℃〜140℃で 4秒といった加熱条件が課せられている。 しかしながら、 この処理温度では、BSE の病原体は不活化されない場合が考えられる、 といった研究報告がEU委員会に提 出された。 この報告に基づき、 現在EU委員会で処理条件の改正の必要性などにつ いて検討が行われているが、 138℃〜140℃で4秒といった処理条件がBSEの病原 体の不活化に不十分であることが、 科学的に証明されれば、 イギリス産牛製品の 一部解除の条件を変更せざるを得なくなるものと見られる。 4 BSEの発生予測について
 イギリスでは、 8月下旬に、 母子感染のファクターも加味した疫学モデルによ る新たなBSEの発生予測が発表された。 この予測によれば、 イギリスにおけるBSE の発生は、 速効的と畜処分計画を実施しない場合であっても2001年までにはほぼ 終息すると予測されている。 また、 速効的殺処分計画について、 現在検討中の案 では1件の発生を未然に防ぐためには80頭の処分が必要であるが、 殺処分対象を 変更することにより、 30頭の処分で1件の発生を防ぐことができると予測してい る。  EU委員会では、 現在のところ、 イギリスにおける速効的と畜処分計画の変更等 に関する動きは見られていないが、 年末までにはこの予測の検討を行うこととし ている。 一方、 イギリスでは、 今後この発表をめぐって議論がなされるものとみ られ、 速効的と畜殺処分計画の法制化がさらに遅れる可能性が出てきた。

VI 市場の動向


1 消費、 価格動向
 近年、 EUにおける牛肉の消費量は、 価格や健康志向の高まりの中での豚肉や鶏 肉との競合、 BSE問題、 牛成長ホルモン (BST) の不正使用に伴うイメージの低下 などにより、 減少傾向で推移してきた (表8)。 今回のBSE問題は、 さらにこれに 追い討ちをかける結果となっており、 問題の勃発直後にはドイツの70%減をはじ めとして、 壊滅的な減少が見られた。 その後、 消費量の減少は回復してきている とはいえ、 依然として二桁の消費減少が見られており、 最近では、 ドイツ、 フラ ンス、 イタリア、 イギリスでおおむね20%減、 オランダ、 デンマークなどではお おむね10%程度の減少と見られている。  大陸では一般に国産牛肉の需要が高まっていることは言うまでもないが、 販売 店別の消費動向をみると、 スーパーマーケット消費の減少が一般の小売店での減 少を上回る傾向が伺われる。 これらは、 対面販売により、 国産牛肉であることを 確認しようとする消費者の意向が、 現れた結果と考えられる。 EUでは、 単一市場 の下で、 これまで牛肉の原産国表示は行ってこなかったが、 今回のBSE問題の突 発に伴い、 フランスでは国産牛肉に“VF” (フランス産牛肉) といった原産地表 示を始めている。  牛肉価格は、 近年、 低下傾向で推移していたが、 やはり3月を契機として、 大 幅な低下が見られる (図2)。 EU委員会はこれについても、 7月終わりに、 EU平 均での価格低下はおおむね15%程度に達しているとコメントしている。 これに対 して、 豚肉価格は、 上昇を続けており、 牛肉から豚肉へと消費者の購買動向がシ フトしていることが伺える (図3、 4)。
◇図2:牛肉の1人当たり年間消費量の推移◇
◇図3:牛枝肉卸売価格の推移(雄牛Rクラス)◇
◇図4:豚枝肉卸売価格(市場参考価格)の推移◇
2 介入買い上げ
 このような市場動向を背景として、 EU委員会は93年後半以降実施していなかっ た牛肉の介入買い上げを4月から開始した。 EUにおける介入在庫量は、 92年には 1百万トンに達したが、 その後減少し、 本年2月時点では8千トンまで減少して いたところである。  介入買い上げは、 毎月5万トンから7万トンのペースで行われており、 8月末 時点で約30万トンに達している (表9)。 EUにおける毎月の生産量と消費量は、 それぞれ68万トン、 62万トン程度であることから (1995年)、 4月以降、 毎月、 生産量の7%〜10%、 消費量の8〜11%程度が買い上げられていることとなる。  EUでは、 毎年の介入買い上げ限度数量が1992年に設定されており、 96年は40万 トン、 97年以降は35万トンとされているが、 EU委員会は96年末の在庫を65万トン 以上と推定しており、 現在、 限度数量の改正が検討されている。 検討案によると、 96年が72万トン、 97年が50万トン、 98年以降は35万トンとなっている。 EU委員会 の見込み通りとなると、 今後、 EUは92年のCAP改革以来の大量在庫を抱えること となる。

VII 補償措置について


 消費の低下、 大量の牛の処分などは、 生産者のみならず、 食肉処理場関係者、 化製業者などに対して、 深刻な影響を与えている。 ここでは、 こういった面での 補償措置について紹介する。 1 イギリス国内での措置 (1) 30カ月齢以上の牛への補償
 イギリスでは、 3月28日に、 30カ月齢以上の牛を食用に供することが禁じられ たため、 当該牛は処分されることとなった。 このため、 EUが関連する補償措置を 制定した (4月19日、 4月26日。 ただし、 4月29日施行であり、 実質的に30カ月 齢以上の牛の処分は4月29日以降)。 これにより、 1) イギリス政府は当該牛を買 い上げることとし、 その買い上げ価格 (生産者への補償) は、 生体重1kg当り1 ECUとすること、 2) EUは、 1頭当り、 392ECU (1ECU/生体重1kg×平均体重560 kg/頭×70%) を負担すること、 3) イギリス政府はこの補償額に追加補償をす ることができる旨決定された。  また、 枝肉重量から生体重を推定する場合については、 一定の係数が用いられ ており、 現在この係数は、 乳牛が2倍、 その他の牛が1. 7倍となっている (EU規 則7月29日付け1515/96)。  追加補償について、 イギリス政府は、 去勢牛と未経産牛を対象として暫定的に 支払うことを決定した。 これは、 30カ月齢以上の肥育を行う肉牛生産者を考慮に 入れ、 肥育生産体系の改善に時間を要すること、 および30カ月齢以上の乳牛との 価値の違いに配慮したものである。  追加額は、 これまでの乳牛と肉牛の市場価格の違いを勘案し、 当初生体重1kg 当り25ペンスとなっていたが、 市場動向の変化により6月18日から15ペンス、 7 月14日から10ペンスに減じられた。 なお、 この追加補償に要する経費は8千5百 万ポンドと推定されている。  牛の処分に対する費用については、 イギリスが負担することとされている。 牛 の処分に要する費用としては、 処分計画開始以来1頭について87. 5ポンドが食 肉処理場に支払われてきたが、 8月中旬、 実質上の処理コストは35〜40ペンスで あるとの報告が政府に提出され、 現在、 41ポンドに減額された。 (2) 子牛処分奨励金 (Calf Processing Premium)
 牛の輸出が禁止されたことに伴い、 子牛輸出産業は多大な影響を受けることと なった。 このため、 イギリス政府は4月22日からEU子牛処分奨励金制度の適用を 開始した。 この制度は、 1992年のCAP改革時に、 乳用牛からの牛肉生産を削減す る目的で創設され、 乳用雄子牛を生後10日以内に処分した場合に1頭当り120.75 ECUの奨励金が支払われるものである。 しかし、 これまで、 イギリスを含めて適 用実績はなかった。  イギリスでは、 この制度の適用に当って、 1) 子牛は食用に供さないこと、 2) 奨励金は指定食肉処理場に支払うこと、 3) 生産者と食肉処理場は処理費用や処 分子牛の残存価値 (皮の使用は認められている) を考慮の上、 生産者の手取り価 格を決定することとしている。  また、 子牛は、 切断した臍帯が完全に癒合するまでは (おおむね生後1週間) 輸送が禁止されていることなどから、 10日齢以下の子牛の処分は、 実行上支障を 来たしていた。 このため、 対象日齢を20日齢まで延長することが決定された (7 月8日)。  ただし、 この月齢延長の適用に当っては、 EU委員会が適用申請国における制度 の運用を検討した上で決定することとされており、 現在はイギリスとポルトガル が適用対象国とされている (7月26日)。 この制度の実績は、 イギリスで12万6 千頭 (8月12日)、 ポルトガルで2千5百 (7月22日) となっている。 (3) 患畜または疑似患畜への補償
患畜または疑似患畜に対しては、 これらの牛の市場価格 (健康な牛と想定した 場合の価格)、 あるいは市場参考価格 (疑似患畜の場合は市場参考価格の125%) のいずれか低い額が補償金として交付される。 市場参考価格については、 毎月イ ギリス政府が発表しており、 8月の価格は1頭当たり619ポンド (疑似患畜の場 合は773ポンド) となっている。 (4) 速効的と畜処分計画への補償
イギリスで今後措置される予定の加速的淘汰措置に関して、 補償措置が定め られている (7月26日EU規則)。 これにより、 淘汰牛については、 イギリス政府 が市場価格を補償することとなり、 補償額の7割はEUが負担することとなった。 なお、 イギリス政府は、 市場価格に追加補償をすることが認められている。 (5) 化製場への補助
 哺乳類由来肉骨粉の肥料および全ての家畜飼料としての使用禁止、 牛脂の輸出 禁止措置等により、 化製場は大きな影響を受けることとなった。 一方、 BSE対策 上、 牛等の的確な処理には化製場が従前どおり十分機能することが極めて重要で あることから、 イギリス政府は化製場に対して、 一連の禁止措置による損失への 補償を措置した。 補償額は肉骨粉1トン当たり356ポンドとなっている。 (6) 食肉処理産業への補助
 今回の問題の発生に伴い、 直ちに牛肉需要が落ち込み、 食肉処理場の稼動率が 低下したため、 食肉処理産業は大きな影響を受けることとなった。 このため、 イ ギリス政府は、 販売できなくなった食肉在庫 (4月9日現在での約4千トン) を 問題が起こる以前の価格の65%で買い上げるとともに、 1995年4月〜1996年3月 までの牛の処理頭数に応じて1頭当り7ポンド (今後も処理を続ける場合はさら に1. 75ポンドが加算される) を支払うこととした。  なお、 その他、 牛肉の取引き業者 (食肉処理場は除く) に対して、 販売できな くなった食肉を、 無料で処分する計画を検討している。 この計画に要する経費は 1千万ポンドと見込まれている。 (7) 減反地での牛の飼養
 30カ月齢以上の牛は、 食肉に供することなく処分されることとなったが、 処分 能力の限界から、 順番待ちをする必要が生じている。 このため、 EU規則で、 30カ 月齢以上の牛に限り、 飼料給与の目的で、 減反地 (Set−aside land) での放牧 を認めた (6月17日)。 2 EC域内の措置 (1) 肉牛奨励金の上乗せ
 BSE問題に係る生産者への直接所得補償措置として、 EUの繁殖雄牛奨励金制度 と、 雄牛特別奨励金制度の奨励金単価に上乗せを行うことが決定された (7月8 日)。  これにより、 生産者には、 繁殖雄牛奨励金として、 1995年の支給頭数 (1頭当 り144. 9ECU) に対して、 さらに1頭当り27ECUが交付された。 また、 雄牛特別奨 励金として、 1995年の支給頭数 (1頭当り108. 7ECU) に対して、 さらに1頭当 り23ECUが交付されることとなった。 この奨励金の上乗せに要する経費は5億8,1 00万ECUとなっている。  なお、 追加交付を受けた頭数よりも、 1996年の奨励金交付頭数を下回る場合は、 下回った頭数相当額は返還することとされ、 逆に、 上回る場合は、 追加請求がで きることとされている。 (2) 緊急補助を必要とする肉牛生産者への補助
 上記 (1) の措置は、 肉牛生産者への即効性を持った簡潔明瞭な措置として、 当初からEU委員会が提案してきた措置であるが、 これに対して肉牛奨励金制度の 適用対象となっていない生産者への補助を求める声が、 多くのEU首脳から上った。 このため、 緊急補助を必要とする肉牛生産者への補助という名目で、 使用方法は 事実上各国の裁量に任された形での補助金の配布がなされた (表10)。  イギリスでは、 この使途の一つとして、 肉牛生産者への補償制度を導入してい る(Beef Marketing Payment Scheme, 8月1日)。 これは、 3月20日から6月30 日までに食用目的で牛を販売した者に対して、 頭数割で一定金額を支払うもので あり、 補償を希望する生産者は8月23日までに申請を行うこととされている。 な お、 補償額は、 申請頭数を勘案して決定することとされているが、 おおむね1頭 当たり60ポンド程度と見られている。 (3) フランス、 オランダ、 ベルギーへの補助
 オランダ、 ベルギーおよびフランスでは、 子牛肉 (ヴィール) 生産用の素牛と して、 イギリスから多くの子牛を輸入している (表6)。 これらの子牛が食用に供されることは、 消費者不安につながることから、 当該 3カ国におけるイギリス産子牛の処理に関する規則 (4月19日) が制定された。 これにより、 1995年9月1日以降に生まれたイギリス産牛を処理する場合、 生体 重1kg当り2. 8ECU (放血後体重の場合は、 重量×1. 05) の補償が行われること となり、 この補償額の7割はEUが補助することとなった。 対象頭数は、 フランス 7万6千頭、 オランダ6万4千頭とみられている。

VIII 関連財政負担


 EUの財政は、 今回のBSE問題により、 大きな影響を受けることとなった。 これ まで述べたような一連の補償措置について、 EUの1996年の支出総額を試算してみ るとおおむね30億ECUとなる (表11)。 これは1996年のEU総予算額の約4%、 農業 予算総額の約7%、 牛肉関係の価格支持関連予算額 (表12) の55%に上っている。 また、 来年度以降もイギリスにおける牛の処分、 従来の上限を超えた牛肉の介入 買上げが見込まれること、 子牛処分奨励金制度は対象国の拡充等が検討されてい ることなどから、 BSE関連支出は、 中期的にEU財政の大きな圧迫要因となること は必至である。  こういった状況に対処するため、 EUでは、 雄牛特別奨励金の交付対象頭数の引 き下げ、 粗放化奨励金の申請に当っての飼養密度条件の変更など、 牛肉関係支持 予算のスリム化を検討する一方、 農業価格支持予算の4割以上を占める穀類分野 の来年度予算の大幅な減額が検討されている。 BSE問題を抜きにしても、 EUにお ける牛肉分野の改革は一つの大きな課題であったが、 ここにきて、 一気に拍車が かかる見込みである。  なお、 イギリス政府の発表によると、 同国における本年度のBSE関連支出は約 10億ポンド、 うちイギリス負担分が約8億ポンドとなっている (表13)。

――――――― 参 考 資 料 ―――――――


(参考1) 海綿状脳症諮問委員会の勧告 (1996年3月20日)
 当委員会は、 エジンバラのCJD調査部門で最近CJDと診断された、 42歳未満の患 者10例について検討した結果、 これら全てに、 これまでに見られていない疾病パ ターンが確認されているものと判断した。  患者の既往歴の調査、 遺伝的分析、 その他の可能性のある原因の調査では、 こ れらの症例を十分に理由づけることはできていない。 関係を示す直接的な証拠は ないものの、 現状のデータに即するとともに、 他に確実な解釈がないという状況 の下では、 最も可能性のある解釈は、 これらの症例が1989年に飼料禁止措置が導 入される以前の段階でのBSEへの曝露と関係があるということである。 これは懸 念すべきことである。  CJDは依然として希少な疾病であり、 今後この新しいタイプ疾病が発生すると しても、 現段階では発生数を予測することはできない。 最も重要なことは、 調査 の継続であり、 また、 このCJD調査部門の調査結果の判断材料として、 当委員会 はイギリスだけでなく諸外国に対してより一層のデータを積極的に求めていると ころである。  当委員会は、 現状の公衆衛生上の衛生措置が的確に実施されることが極めて重 要であることを強調するとともに、 脊髄の完全な除去が担保されるよう不断の監 視を行うことを勧告する。  また、 当委員会は以下について勧告する。 1 30カ月齢を超える牛の枝肉は、 食肉衛生局の監督下にある認可食肉処理場で  除骨処理し、 くず肉はSBOに区分すること。 2 哺乳類由来の肉骨粉は全ての家畜の飼料への使用を禁止すること 3 衛生安全委員会および危険病原体に関する諮問委員会は、 当委員会と協議の  上、 今回の知見に即して直ちに勧告を再検討すること 4 当委員会は今後必要な研究について直ちに検討すること  当委員会は、 これらの知見は、 生乳の安全性についての当委員会の勧告の改正  につながるものとは見なさない。 当委員会は、 上記の勧告が実行されれば、 牛  肉を食べることによる危険性は極めて少ないものと考えられる旨、 結論する。 注:エジンバラのCJD調査部:イギリスでは、 BSEの発生に伴い、 CJDの発生に変   化が生ずるかどうかについて調査するため、 1990年から疫学調査が実施され   ており、 CJD調査部が設けられている。 (参考2) イギリス農業大臣ダグラスホッグの声明 (3月20日、 抜粋)
1 海綿状脳症諮問委員会から追加勧告が直前に提出されており、 このうち農業  当局が最も緊急な対応を必要とするものは、 30カ月齢を超える牛の枝肉は食肉  衛生局の監督下にある特別に認可を受けた食肉処理場で除骨処理されねばなら  ないこと、 屑肉は食用に供してはならないこと、 および哺乳類由来の肉骨粉は  全ての家畜飼料への使用を禁止することである。 2 同委員会は、 こららの勧告およびその他の勧告が実行されれば、 牛肉を食べ  ることに基づく危険性は極めて少ないものと考えられる旨表明している。 3 政府はこれらの勧告を受理したところであり、 私は可及的速やかにこれらの  勧告を実行に移すつもりである。 4 また、 食肉処理場およびその他の食肉工場、 ならびに飼料工場に対する現行  の対策を直ちに、 より一層強化するよう既に指示したところである。 5 私は、 この報告は、 消費者の信頼、 ひいては牛肉産業に悪影響を及ぼすもの  ではないものと考えるが、 共通農業政策には支持制度があり、 政府は状況をよ  く見守っていくつもりであることを申し上げておく。 また、 事態の進展につい  ては下院にありのままを報告申し上げていく。 6 今後世論に懸念が生じるものと思うが、 政府の医局長からは、 BSEが牛肉を  介して人に伝播するといった科学的な確証はないとの意見を得ている。 さらに、  医局長は重要かつバランスのとれた食品として今後も牛肉を食べ続けると述べ  ており、 私自信もそうである。 以上私が述べたように、 イギリス産牛肉は安心  して食べられるものであると信じている。 (参考3) イギリスにおけるクロイツフェルドヤコブ病の新型 (variant)に       ついて (要旨)
P G Will (National CJD SurveillanceUnit, Western General Hospital, Edinb urgh) ら、 LANCET Vol. 347  1990年以降CJD調査部で神経病理学的に検査を行った207症例のうち、 10例 (女 性4名) で他とは明らかに異なる神経病理学的所見が得られた。 このうち2例は 存命中である。 発症時期は94年2月から95年10月。 10例のうち、 9例については、 CJD罹患に関する潜在的危険因子に関する調査ができた。  これによると、 脳外科手術の既往歴、 ヒト脳下垂体由来ホルモンの使用、 輸血 等の医原性の要因は見つかっていない。 ただし、 簡単な手術 (4例)、 帝王切開、 結腸の内視鏡および腹腔鏡の使用歴 (1例)、 85年から87年まで食肉処理場に勤 務 (1例)、 87年に2日間食肉処理場を訪問 (1例)、 76年から86年まで年に1週 間酪農家 (BSEの発生はない) で生活 (1例) といった状況がわかっている。 こ れら9例は過去10年間に牛肉または牛肉製品を食べているが、 脳を食べた者はい ない。 なお、 このうち1例は91年から厳格な菜食主義を取っている。  10例において他と異なると報告された主な点は次の通りである。 ───────────────────────────────    他とは異なると見られる10例     その他 ───────────────────────────────  発症から 長い:平均12ヶ月   短い:平均4ヶ月(注1)  致死に至 (7.5ヶ月〜  る期間 22.5ヶ月) ───────────────────────────────  発症時年 若年:16歳〜39歳   老年:平均65歳  齢  (注1)(注2) ───────────────────────────────  臨床経過 CJDによく見られる脳波   を示さない等、初期の診   察段階では7例について   は疑いも持たれなかった。 ───────────────────────────────  神経病理  大脳、小脳に広く分布す  学的変化  るプリオン蛋白プラック        の存在。(注3) ─────────────────────────────── (注1) 1990年5月から報告のあった215例のうち遺伝性あるいは医原性  の症例を除いた185例について(他とは異なると見られる10例を含む) (注2) 45歳以下での発生は2例あるが、神経病理学的な変化は見られていな  い (注3) 同様のプラックはスクレイピーで報告されている  このような知見に基づき、 以下のように結論している。  “45歳未満に限って発生している、 新型のCJDの発見は懸念すべき事態である。 この新型のCJDはBSEの病原体に曝露された結果であるという見方が、 解釈として は最も可能性がありそうである。 ただし、 強調しておきたいことは、 両者の関係 を示す直接的な証拠はなく、 また、 他の解釈も可能であるということである。  これらの症例の発見には診断の進歩があるかもしれないが、 このような明らか な神経病理学的なパターンが、 これまで、 特に若年で死亡した患者の中から見逃 されたという可能性は低い。 若年CJD患者における臨床上および神経病理学上の 特徴に関する情報をヨーロッパ内外から収集することが不可欠であるが、 BSEとC JDの関係の実証については、 動物感染による調査や疫学的監視の継続によってな されるものと思われる。 万一関係があるとして、 長期間、 広範囲にわたってBSE の病原体へ曝露されているとすれば、 新型のCJDは増加するものと考えられる。” (参考4) 海綿状脳症諮問委員会の勧告(結論のみ抜粋。 96年7月10日)
 BSEは実験的にめん羊に対して経口感染が成立した (注1)。 わが国のめん羊が 汚染飼料を介して感染が成立するだけの病原体の量に曝露されてきたことは十分 考えられるが、 わが国のめん羊にBSEが潜在しているか否かは全く不明である (注2)。 しかしながら、 公衆衛生面での慎重な対応という観点から、 めん羊の内 臓の禁止措置を導入したほうがよいと考えられる。  当委員会は一致して、 この禁止措置により、 めん羊業界に多大な影響を及ぼす であろうことを承知している。 理論的に筋の通った結論や判断を下すにはデータ が不足しており、 委員会内にはめん羊の内臓の禁止措置は全く必要ないとの意見 もある。 しかし、 少なくとも月齢の進んだのめん羊の脳は食べない方が良いとの 見方が大勢を占めている。  当委員会は、 もしかすると公衆衛生上重大な影響をもたらすかもしれないが、 その程度を計り知ることができない危険性と、 勧告がもたらす経済、 社会および 公衆衛生と直接関わらない分野への影響のどちらに重きを置くかについては意見 の一致を見ることはできなかったが、 政府に対して以下について勧告する。 ○本件についてEU加盟国とともに、 さらに検討を行うこと ○6カ月齢を超えるめん羊の脳を食用に供さないことについて速やかに検討する  こと ○一層の調査研究に対するここに述べたような勧告を実施すること 注1:4頭のBSE患畜の牛の脳をプールして作った1%乳剤を50mlを6頭のめん  羊に経口投与した結果、 1頭のめん羊が734日後に発症した。  発症めん羊の脳及び脾臓を用いて病原株型を検査したところ、 BSEの病原体の  特徴を持っており、 スクレイピーとは全く異なっていた。 また、 病原体は、 脾  臓で著明に認められている。 注2:めん羊用濃厚飼料生産量は1980年にはめん羊230頭に対して1t の生産量  であったが、 92年にはめん羊80頭に対して1tに増加している。 飼料業界筋に  よれば、 めん羊用濃厚飼料には肉骨粉が使用されているものもある。 (参考5) BSEの母子感染に関する海綿状脳症諮問委員会の勧告 (1996年7月29日)
1 海綿状脳症諮問医委員会は、 中央獣医研究所 (Waybridge) の疫学部が行っ  たBovine Spongiform Encephalopathyの母牛から子牛への伝播の可能性に関す  る調査研究の中間報告を1996年7月19日の会合で検討した。 この調査研究は、  BSEの患畜の産子群 (以下実験牛群という)、 およびこれらと同一牛群に属し、  同一の分娩時期に生まれた牛で、 その母牛が6歳齢に達した時点でBSEの臨床  症状をなんら示していない牛をもう一方の群 (以下対照牛群という) とする二  つの牛群を対象としており、 それぞれの牛群は300頭を超えている。   これらの群の牛は、 7歳齢まで、 あるいは、 BSE、 その他の疾病を発症する  まで飼養を継続している。 BSEは両群でみられているが、 対象牛は1988年の反  芻獣飼料の禁止措置の施行前後に生まれており、 少なくとも一部は汚染飼料を  摂取しているものと考えられることに留意する必要がある。 2 1996年7月14日現在で、 両群それぞれ273頭が7歳齢に達し、 と殺された  か、 あるは疾病の発生を見ている。 いまだ55頭が飼養されおり、 8頭について  は組織学的検査が行われていない。 実験牛群273頭中42頭、 対照群273頭中13頭  が組織学的にBSEと診断されている。 このことから、 BSE罹患牛における母子感  染の危険性は、 おおむね10%程度であるといえるが、 この確率の統計学上の信  頼限界は、 調査研究対照牛の頭数およびBSEの発生頭数からして、 5%〜15%  の範囲をもっている。 まだ63頭の脳について組織学的検査を行っていないが、  検査結果が出たとしてもこの知見に大きな変更を加えることにはならないもの  と考える。 3 実験牛群における産子の出生時期と母牛のBSE発症時期についての分析がな  されている。   実験牛群の産子は全て、 その母牛のBSE発症前13カ月以内に生まれており、  大半は発症前5カ月以内に生まれている。 この結果からみると、 母牛が発症す  る6カ月以上前に出生した牛に対する危険性がどれ程のものであるかは確実に  は評価できるものではないが、 BSEの潜伏期間の最後の6カ月間では母子感染  の危険性が増大していることは事実であり、 母子感染の危険性は母牛の発症時  期と産子の出生時期が離れるにつれて著明に減少することが示唆される。   このことから、 実験レベルで観察された母子感染の危険性は、 あらゆる牛で  想定されるものよりも大きなものとなっていると考えられる。 野外環境下では、  この疾病は潜伏期間が長いことから、 臨床症状を呈する前の6カ月の間に出産  する牛はごく一部分にすぎない。 潜伏期間の平均が60カ月であり、 仮に潜伏期  間の終わりの6カ月間の伝播率が10%であり、 それ以前は無視できるとすれば、  臨床症状を呈する前の60カ月間の感染期間を通じての、 母牛から子牛への平均  的な伝播率は1%と言うことになる。 これが、 野外環境下で見られる母子感染  率と思われる。 4 イギリスの乳用牛飼養環境下でのこの程度の母子感染であれば、 BSEが定着  することにはつながらないし、 散発的な発生の継続にもつながらない。 汚染飼  料を介した主たる感染様式を抑えたことによる結果から既に明らかなように、  BSEはやがて消滅する。 この調査研究は、 水平感染に関してはなんら新しい知  見を示唆するものではない。   7月19日の会合後、 中央獣医研究所の疫学部門は調査研究結果および実験対  象牛の由来牛群に関するデータを検討したが、 水平感染を示唆する知見は見つ  かっていない。 5 この調査研究は母子感染の経路、 例えば子宮内感染、 出生時の感染、 出生直  後の感染といった経路については何ら示すものではない。 母子感染が証明され  ているめん羊のスクレイピーでは胎盤に感染性が認められている。 さらに、 ス  クレイピー感染めん羊の受精卵を健康なめん羊に移植したところ、 産子はやが  てスクレイピーの発症を見たという実験結果があり、 めん羊のスクレイピーで  は子宮内感染が証明されている。   同様の受精卵移植実験が進行中であるが結果は出ていない。 牛の胎盤、 生乳、  および血液では感染性は証明されていない。 6 当委員会は、 母子感染の事実が現行の公衆衛生上の勧告に異議を唱えるもの  なのか否かについて検討した。 BSEは、 証明されてはいないが人に対する危険  性があるという仮定、 また、 母子感染が起こるという仮定の下で取りまとめた  が、 当委員会は、 生乳、 肉、 その他現行許可されている製品に関しては、 なん  ら勧告を変更するものではないことと結論する。 7 生乳を介しての感染については、 どんな伝染性海綿状脳症でも証明されてい  ない。 BSEの発症の大半を占める乳用牛群では、 子牛は生後数日間に初乳を給  餌される以外は、 母牛の生乳を飲むことはない。 初乳は通常の生乳とは性質が  異なり、 食用として販売されることはない。 肉用牛群では、 通常6カ月齢まで  母牛と同居している。 既存のデータでは、 母乳を飲む期間が長い肉用牛群にお  ける母子感染率が、 生後数日間初乳を飲むだけの乳用牛群における母子感染率  と異なることを示唆するような知見は得られていない。   当委員会としては、 この点について、 中央獣医研究所の疫学部がより詳細な  調査研究を行っており、 近日中に結果が得られるであろうことを付け加える。 8 当委員会は、 職業上の危険性に関して、 衛生安全委員会 (HSE) 及び危険病  原体に関する諮問委員会 (ACDP) の役割を認識している。 当委員会は、 これら  の新しい知見に対する両機関の注目を促すものであるが、 この知見および職業  上の危険との関係を考慮した方がよいということ以上の作業勧告を行うもので  はない。 9 当委員会は、 BSEの撲滅対策に関して、 特に、 政府が行う選択的淘汰計画に  関して検討を行った。 BSEは母子感染によって永続するものではない。 そのた  めたとえ選択的淘汰を実施しなくともいずれは消滅することは明らかである。   当委員会は、 これらの新たな知見が選択的淘汰措置に与える影響について、  予備的に分析が行われてはいるが、 まだ不十分であることは承知している。 そ  れでも、 当委員会は、 十分な分析結果を検討した上で、 選択的淘汰措置に関し  て決定を下すよう勧告する。   当委員会は、 この調査結果に照らして、 さらにどのような調査を優先するか  について検討したが、 本件については、 別途報告するものとする。 (参考6) イギリスの牛におけるBSEの伝播動態と疫学 (R M Andersonら、       Nature Vol 382、 8月29日) の概要
○潜伏期間は汚染飼料の摂取量によって異なるが、 平均5年。 感染時期は生後2  年間に集中。 ○これまでの発生頭数16万1千頭に対して、 昨年末までの時点での感染牛は90万  頭と推定される。 両者のかい離は、 潜伏期間が長期間であるのに対して、 牛の  耐用年数が短いことによる。 ○食用に供せられた感染牛の推定頭数は、 1989年にSBOの食用禁止措置が導入さ  れる以前で約45万頭、 さらに1995年までで28万3千頭。 ただし、 これらのうち、  感染が進行していたと思われる牛は6千頭。 ○発生は、 淘汰を実施しない場合でも、 2001年までにはほぼ終息する。 発生予測  頭数は、 1996年に7400、 1997年から2001年までで、 7000頭。 ○昨年末までの推定感染牛頭数90万頭のうち、 母子感染によるものは5100頭とみ  られる。 1996年から2001年までの推定母子感染頭数は340頭。 ○現在提案されている速効的殺処分計画により、 1997年から2001年までの間に発  生を未然に防ぐことができると思われる頭数は1580頭 (推定発生頭数の23%)。  当該計画による殺処分頭数が12万6千頭とすれば、 80頭の殺処分で防ぐことが  できる発生は1件。 ○次のような牛の選択的淘汰を行った場合は、 1997年から2001年までの間に発生  を未然に防ぐことができると思われる頭数は1490頭 (推定発生頭数の21%)。  30頭の淘汰で1件の発生を防ぐことができる。 1) 1991年から1995年の間に、 飼養牛27頭に対して1頭以上の発生があった農場  のみを対象として、 同時出生牛群を淘汰。 2) 1990年10月以降に生まれた牛のうち、 出生後6カ月以内に母牛がBSEを発生し  ている牛を淘汰。
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