海外駐在員レポート 

EUにおける学校向け牛乳補助制度について

ブラッセル駐在員 池田 一樹、 東郷 行雄



1 はじめに


 現在、 多くの主要国の教育機関において、 児童・生徒への牛乳、 乳製品の供給
が、 補助を含む何らかの制度として実施されている。 これは成長期にある児童・
生徒の食生活上、 牛乳、 乳製品が、 特に摂取が必要とされるカルシウムを中心と
する豊富な栄養源として、 また摂取しやすい形態を持った食品として位置付けら
れていることによる。 

 EUの学校向け牛乳補助制度は、 わが国の学校給食用牛乳供給事業が1957年に創
設されてから、 遅れること20年後の1977年に開始された。 加盟国によってはそれ
以前に独自に実施していた国もあるが、 EUにおける単一制度として、 生産過剰気
味であった牛乳、 乳製品の需要拡大による処分対策の一環としてスタートした。 
創設された時代背景が違うこともあり、 わが国の発足当初の目的とはやや異にす
るが、 教育機関における牛乳の定期的な供給を通じて、 児童、 生徒に牛乳の飲用
習慣を身に付けさせ、 健康的な食生活の実現を図るという意味においては共通し
たものがあると思われる。 

 しかし、 こうした重要な意義を持つ学校向けの牛乳、 乳製品の補助制度も、 補
助金の削減や競合飲料の出現等によって、 各国とも制度の普及に苦慮している一
面がある。 本号では、 EUの教育機関における牛乳、 乳製品の補助制度およびイギ
リス、 デンマークにおける制度の実施状況等についてレポートする。 

2 EUの学校向け牛乳 (乳製品) 供給の概況


 ここでは、 EUの学校向け牛乳供給の全体像をつかむために、 国際酪農連盟 (ID
F) 内に置かれたInternational Milk Promotion Groupが93年に実施した (その
後95年に更新) 学校牛乳に係るレポートから主要国の実施状況の一部を紹介する。 

 なお、 同グループによる調査時期は、 EUにおいて大幅な学校向け牛乳補助制度
の改革が行われた時期であり、 当該レポート上ではまだ改革後の姿が反映されて
いない面がある。 また、 後述するイギリスおよびデンマーク等EUにおける学校牛
乳補助制度との関連性についても、 調査年度等が異なっていることもあり、 両者
の違いには言及していないことをお断りする。 

(1)対象となる教育機関

 対象となる教育機関は、 国によりかなりの違いがみられる。 EU規則では、 幼稚
園から初等教育機関 (小学校) までを本制度の対象としているほか、 中等教育機
関 (中学校から高校) における本制度の実施を加盟国の任意として対象に含めて
いるほか、 大学は対象とされていないが、 この表を見る限りでは、 加盟国の独自
の制度によって大学についても実施されている事例が見受けられる。 また、 対象
となっている場合でも学校や児童・生徒の参加率は国によりばらつきがあるもの
と思われる。 

(△は一部で実施。○は多くで実施。◎は全部で実施。)



(2)他の飲料との競合

 学校向けに供給される牛乳には、 特に果汁飲料との競合問題が多くの国で存在
する。 また、 コーラ等のソフトドリンクが学校内で入手できる国も多くある。 

学校での牛乳の消費量が他の競合飲料の消費量と比較して



(3)供給促進のための対策

 学校における牛乳消費の促進を図るために、 冷蔵庫や自動販売機の設置等の何
らかの対策を講じている。 




(4)学校向けに供給される牛乳の種類別割合 (%)

 それぞれの国の飲用乳の需給事情等もあり、 一概に断定はできないが、 低脂肪
タイプのシェアが高い割合を占める要因としては健康問題も無視できない一つで
あろう。 


3 EUの学校向け牛乳補助制度


 現行のEUにおける学校向け牛乳補助制度は、 83年に制定された 「学校児童への
割引価格による牛乳及び特定の乳製品の供給に関する一般規則を定めた理事会規
則NO.1842/83」 および93年に制定された 「同理事会規則の適用のための細則に
関する委員会規則No.3392/93」 に基づく。 

 EU規則に基づき加盟国は、 国内における実施規程を定めている。 

(1)受益者

(1) 保育園、 初等 (小学校) および中等教育機関 (中学〜高校) に在籍する児
 童・生徒で、 大学または同等の高等教育機関は除く。 

  なお、 中等教育機関は、 加盟国の任意で対象とすることができる。 

(2) (1)の児童・生徒が在籍する教育機関がその児童・生徒を対象として実施す
 るホリデーキャンプ

(3) 慈善団体

(2)対象となる牛乳、 乳製品

<カテゴリー1>

(1) 全脂牛乳。 殺菌またはUHT処理したもの。 

(2) チョコレート等着香全脂牛乳。 殺菌、 滅菌またはUHT処理したもので、 重量
  比で少なくとも90%の全脂牛乳が含まれるもの。 

(3) 全乳ヨーグルト。 

<カテゴリー2>

(1) 低脂肪牛乳。 殺菌またはUHT処理したもの。 

(2) チョコレート等着香低脂肪牛乳。 殺菌、 滅菌またはUHT処理したもので、 重
  量比で少なくとも90%の低脂肪牛乳が含まれるもの。 

<カテゴリー3>

 フレッシュおよびナチュラルチーズ。 乾燥重量で脂肪量が40%以上のもの。 

<カテゴリー4>

 その他のチーズ。 乾燥重量で脂肪量が45%以上のもの。 

<カテゴリー5>

 Grana padanoチーズ (硬質チーズであるパルメザンチーズの1種)。 

<カテゴリー6>

 Parmigiano−Reggianoチーズ (〃)。 

<カテゴリー7>

 全脂牛乳。 未処理のもの。 

※   カテゴリー1および2の品目が補助の対象であるが、 カテゴリー3から
    7の品目についても加盟国の任意で対象とすることができる。 

※※  カテゴリー1および2の品目について、 加盟国は製品1kg当たり最高5
    mgまでのフッ素を添加することができる。 

※※※ すべての品目は、 EU域内で生産され、 当該加盟国でこの制度用に購入さ
    れたものでなければならない。 

(3)制度の概要

<補助率>

  「理事会規則1842/83」 により、 基本となる補助率が、 生乳目標価格の95% 
(現行の生乳目標価格30.98ECU/100kg×0.95=29.44ECU/100kg) と定められて
いる。 

 これを基に 「委員会規則3392/93」 により、 上記(2)のカテゴリーのうち、 1
および2について次の通り補助単価が定められている (95年9月1日適用)。 

<カテゴリー1および7> 

 29.44ECU/100kg

<カテゴリー2> 

 18.58ECU/100kg

 なお、 <カテゴリ−3〜6>については、 基本となる補助率である29.44ECU/
100kgを基準にして、 次の換算係数により補助単価が決定される。 

<カテゴリー3>

  (当該品目100kgを生乳300kgとして換算)  88.32ECU/100kg

<カテゴリー4>

  (当該品目100kgを生乳765kgとして換算)  225.22ECU/100kg

<カテゴリー5>

  (当該品目100kgを生乳850kgとして換算)  250.24ECU/100kg

<カテゴリー6>

  (当該品目100kgを生乳935kgとして換算)  275.26ECU/100kg
 さらに、 供給数量、 供給価格に関しては次のような規定が設けられている。 

(1) 児童・生徒/一日/一人当たりの牛乳の供給限度量は0.25リッターで、 上
 記カテゴリー中の各乳製品の供給限度量についても、 同じ換算係数により供給
 限度量が決定される。 

(2) リッターからkgへの換算は1.0300の係数が使用される。 

(3) 補助金が供給価格に反映されるよう、 加盟国は上限単価を定めなければな
 らない。 

(4) 補助金単価が供給業者の販売単価を上回る場合は、 補助金単価は減額され
 る。 

(4)補助金の交付申請

<補助金交付申請者>

 補助金の交付申請者として次の機関が定められている。 

(1) 教育機関
(2) 学校向け牛乳補助制度を実施している地方行政庁
(3) 加盟国が承認した供給業者

<補助金交付申請書>

 補助金交付申請書は、 加盟国ごとに少なくとも次の項目が設けられている様式
による。 

(1) カテゴリーごとの供給数量
(2) 教育機関または地方行政庁の名称、 所在地
(3) 製品の価格

 なお、 交付申請書の金額を証明するために、 製品価格が記載されたインボイス
に領収書または支払い証明書を添付の上、 整備、 保管しなければならない。 

<申請期限>

 補助金の交付対象となる期間 (月または学期) に続く4カ月以内に申請しなけ
ればならない。 なお、 さらに2カ月の猶予期間が設けられているが、 その場合は
補助金が減額される (提出が1カ月遅れた場合5%の減額。 同2カ月10%)。 

(5)実施状況

 EUにおける本制度の実施状況は、 供給数量、 補助金額ともに年々減少傾向にあ
る。 この傾向は、 それぞれの加盟国にも同じ傾向がみられる。 この最大の原因は、 
補助単価の削減に影響を受けるところが大きい。 発足当初、 全脂牛乳、 チョコレ
ート風味全脂牛乳およびヨーグルトを対象に、 生乳目標価格比50%の補助率で開
始された本制度は、 83年に補助率が125%に引き上げられるとともに、 対象とな
る品目が拡充された。 

 その後、 93年に本制度の財源の一つであった共同責任課徴金が廃止されたこと
から、 補助率は95%に引き下げられるとともに、 対象品目の整理も行われ現行の
姿となった。 

 この93年の引き下げに伴い、 加盟国においても補助金の引き下げと併せて、 加
盟国の任意として実施されていた中等教育機関の本制度の対象からの除外、 チー
ズの対象品目からの除外 (いずれもイギリスの例) 等制度の大幅な改革が行われ
た結果、 本制度の対象数量、 補助金額の実績はこの時期を境に大きく減少してい
る。 

表1 供給数量の推移

 資料:EU委員会


表2 補助金額の推移

 資料:EU委員会


表3 本制度への参加校数および参加児童・生徒数
(1990/91学校年度)

  注:参加率は、当該国の19歳以下の人口に占める割合
 資料:EU委員会

4 イギリスにおける学校向け牛乳補助制度


 イギリスは、 フランス、 ドイツと並んで、 供給数量、 補助金額の面でEU最大の
学校向け牛乳補助制度の実施国である。 ここでは、 近年、 大幅な改革により、 制
度が簡素化されたイギリスの学校牛乳補助制度を紹介する。 なお、 イギリスの場
合、 教育制度、 本制度の実施主体等が地方により異なる場合があることから、 説
明の都合上、 イングランド地方を主体とした制度の紹介とする。 

(1)制度の実施主体

 まず、 イギリスにおいてこの制度に関わる関連機関には次のようなものがある。 

 [Intervention Board]  (イギリスの介入機関、 IB) 

 学校向け牛乳補助制度を初めとして、 EUの共通農業政策 (CAP) の実施機関。 

 イギリス国内では、 イングランド、 ウエールズおよびスコットランドを所管。 
なお、 北アイルランドは、 北アイルランド農業省が所管。 

 [Claomants] (補助金申請者) 

(1) [Local Authority Claimants] (公立学校関係補助金申請機関) 

 公立学校に係る学校牛乳補助金のIBに対する申請手続きを一括して行う機関で、 
多くはCountry (郡) 単位 (複数の場合もある) の地方行政庁が担当している。 

(2) [Approved Claimant Association] (私立学校等関係補助金申請機関) 

 イギリスの場合、 数多くの私立学校、 公費 (国) 助成学校が設置されており、 
これらの学校が学校向け牛乳補助制度を利用する場合の補助金申請の代行機関で
ある。 しかし、 この機関の業務は、 学校、 行政府間の各種法律手続きのアドバイ
ス、 代行等多岐にわたっており、 本制度のためのみに設立されたものではない。 
この申請機関には、 私立学校を対象とする [Incorporated Association of Prep
aratory Schools Central Claiming Unit] と、 公費 (国) 助成学校を対象とす
る [Grant Maintained Schoola Center] があり、 それぞれ申請機関としてIBか
ら認可を受けている。 

 [Suppliers] (供給業者) 

 学校へ、 牛乳のみを単独で供給する場合は乳業会社が、 他の食事と併せて供給
する場合は給食業者が担当している。 供給業者の決定は通常地方行政庁が行って
いる。 

 [School] (学校) 

 イギリスの学校制度は、 地方により就学年齢、 就学年数等異なった特色がみら
れる。 運営母体を基準とすれば、 (1) [Local Authority Maintained Schoola] 
(公立学校)、 (2) [Independent/Non−Maintained Schools] (私立学校) および
(3) [Grant Maintaoned Schools] (公費 (国) 助成学校) に分類することができ
るほか、 (4) [Special School] (養護学校) がこれに加わる。 これらの学校のう
ち保育園から小学校の教育課程に在籍する児童を有する次に掲げる学校が本制度
の対象となっている。 

(1) [Nursery school] (保育園) 

 通常、 5歳未満の児童が対象

(2) [Primary school] (小学校) 

 通常、 5歳から11歳までの児童が対象。 スコットランドは、 12歳までが対象。 
義務教育。 

(3) [Middle school] (中等学校) 

 イングランド地方に設立されている学校で、 8歳から12歳までの児童が対象。 

 なお、 [Secondary school] (中等教育機関=中学校、 就学年齢は11歳または12
歳から16歳までが対象。 義務教育。 なお、 通常、 高校 (16歳から18歳) もこれに
含まれるが義務教育ではない。) は、 96年4月より本制度の対象から除かれた。 

(2)対象となる児童・生徒

 保育園 (5歳未満) および小学校 (6歳から11歳まで、 地域によっては12歳ま
で) に在籍する児童

(3)対象となる品目および容量

 容量は全品目とも共通で一人一日当たり250mlが限度とされており、 対象とな
る品目も次の通り整理されている。 

 (カテゴリー1) 

全脂牛乳 (無着香、 殺菌またはUHT (ロングライフ) 処理されたもの。 脂肪分3.5
    %以上。 

全脂牛乳 (着香、 殺菌、 滅菌またはUHT (ロングライフ) 処理されたもの。 全体
    の90%が全脂肪牛乳であること、 最終製品1kg当たり5mgを上回らない
    フッ素が含まれていること。) (イングランドおよびウエールズについて
    は、 牛乳は滅菌されていること)。 

全乳ヨーグルト (無着香、 無加糖、 脂肪分3.5%を下回らない全脂牛乳を原料と
    したもの、 脱脂乳にクリームを加えたものを原料としたものは不可)。 

※ 学校において、 これらの牛乳、 ヨーグルトに甘味料、 または香料を加えるよ
 うな場合も補助の対象となる。 

 (カテゴリー2) 

低脂肪牛乳 (脂肪分1.5〜1.8%で、 次のもの)。 

(1) 無着香で、 殺菌またはUHT (ロングライフ) 処理されたもの。 

(2) 着香し、 殺菌、 滅菌またはUHT (ロングライフ) 処理されたもので、 重量の
 少なくとも90%が低脂肪牛乳であり、 かつ最終製品1kg当たり5mgを上回らな
 いフッ素が含まれていること。 

※ なお、 これら補助の対象となる製品を、 カスタード、 パイ、 ケーキの原料と
 して、 または紅茶、 コーヒーに加えたり、 朝食のシリアル食品に使用すること
 は認められていない。 

 また、 供給業者は供給したものが、 上記の基準に適合したものであることを書
面で証明できるようにしておかなければならない。 

(4)学校教育と本制度の関係

(1) 学校年度は、 9月開始、 翌年の8月終了。 一般的には、 秋期 (9〜12月)、 
 春期 (1〜3月) および夏期 (4〜8月) の3期に分けられる。 
  本制度における補助金の交付対象期間は、 この学期単位で申請する場合と、 
 月単位の場合がある。 

(2) 牛乳は、 供給業者により、 毎日、 早朝に各学校へ配送される。 

(3) 牛乳は、 通常、 食堂、 または教室で午前中の休憩時間 (10時台) に、 教師
 により児童へ配布され飲用される。 

(4) 牛乳は、 通常3分の1パイント (189ml) の容量で、 紙パックである。 なお、 
 聞き取りによる事例では、 供給業者による飲用後の空パックの回収義務はない。 

(5)制度の仕組み

(1) 補助金申請者 (説明の都合上、 地方公立学校を管轄する群単位の地方行政
 庁を対象とする) は、 補助金の対象期間 (学期または月単位) ごと、 学校ごと
 の最大供給本数を決定する。 

※ 最大供給本数は、 イギリス教育省が年1回実施する 「スクールセンサス」 に
 より当該学校の名簿に登録された児童数に、 対象期間 (学期または月) の供給
 日数を乗じて算出され、 補助金の限度数量となる。 

  (例):20 (ある月の供給日数) ×990 (名簿に登録された児童数) =19,800 
    (最大供給本数) 

※ 実際の供給数量がこの最大供給本数を上回った場合、 これを限度に補助金は
 打ち切られるが、 ほとんどの場合実際の供給本数は下回っており、 年間の予算
 額も最大供給本数ではなく、 過去の実績を基に計上されている。 

(2) 補助金申請者は、 管内の学校へ牛乳を供給する供給業者、 供給価格を決定
 する。 

※ 供給業者の決定方法は、 補助金申請者である群単位の地方行政庁に任せられ
 ており、 入札により供給価格、 供給先学校等が決定されているようであるが、 I
 Bはこの決定過程には関与していない。 

  なお、 供給価格は、 次により算出される最高価格を上回ってはならない。 
 最高価格 (1本当たり) 
     =購入価格 (供給業者への支払い価格) −補助金+管理/流通コスト

※ 管理/流通コストは、 その積算根拠があることを前提に、 最高5ペンス/本
 まで認められる。 

(3) 補助金申請者は、 供給本数に変更があった場合は、 供給業者へこれを通知
 する。 供給業者は、 毎日、 早朝に牛乳を配送する。 

※ 配送は、 通常、 供給業者である乳業会社、 給食会社が直接行う。 

(4) (3)により配送を受けた学校は、 供給本数の実績を補助金申請者へ報告する。 

(5) 補助金申請者は、 牛乳代金 (補助金を控除した額) を児童の父兄から徴収
 するとともに、 供給業者へは納入実績に基づく牛乳代金 (補助金は控除されて
 いないフルコストの額) を支払う。 

(6) 補助金申請者は、 IBが定めた様式に基づく申請書を作成の上、 IBへ提出す
 る。 

※ IBへの申請書の提出期限は、 対象期間 (学期または月) に続く4カ月以内と
 なっている。 なお、 さらに2カ月間の猶予が認められているが、 この場合、 5
 カ月目までは5%、 6カ月目までは10%の補助金の削減が行われる。 6カ月を
 超える申請は受け付けられない。 

(7) IBから補助金申請者である地方行政庁へ補助金が交付される。 

※ IBは、 補助金の支給日に関し、 次のような目標を定めている。 

  問題がない申請書の少なくとも98.5%について:申請書受領後28日以内の補
 助金の支払い。 

  問題がある申請書の場合:問題解決後28日以内の補助金の支払い。 

  すべての申請書 (新規参加者を除く) について:受領後4カ月以内の補助金
 の支払い。 

(6)供給価格、 補助金について

 (1£=100ペンス=175円で換算) 

(1) 供給価格は、 全脂牛乳の平均的な価格として次のような事例がある。 
  11ペンス/本 (父兄の負担額、 1/3パイント=189ml、 約19円) 
 =11ペンス (購入価格) −5ペンス (補助金) +5ペンス (管理/流通コスト) 
  なお、 保育園児への供給は無料で行われており、 父兄の負担はない。 

(2) 96年の夏期における補助金単価は次の通りである。 

 (カテゴリー1) 

全脂牛乳 14.75986ペンス (約25.8円)/パイント (0.57リッター) 
     25.97373ペンス (約45.5円)/リッター (1.76パイント) 

(カテゴリー2) 

低脂肪牛乳 9.31516ペンス (約16.3円)/パイント
      16.39239ペンス (約28.7円)/リッター

 (カテゴリー3) 

全乳ヨーグルト 2.52172ペンス (約4.4円)/100グラム

※ 上記(1)の補助金5ペンスは、 (2)の全脂牛乳の補助金単価1パイント当たり
 14.75986ペンスの約3分の1の価格に相当する。 

(7)補助金の申請様式

 イギリスのイングランド地方の一補助金申請者からの申請書様式の事例を紹介
する。 

(1) この申請書は、 96年5月分の補助金申請に係るもので、 当該月の供給日数
 は22日であった。 

※ なお、 申請は補助金交付対象月 (期間) 終了後4カ月以内に行うこととなっ
 ていることから、 この申請書は9月10日付け (申請書の裏面に、 申請者のサイ
 ンとともに記載) で申請がなされている。 (同様式上1) 

(2) この補助金申請者が所管する地域の地方公立学校における名簿登録児童数
 は、 169,756名である。 
 
  (この児童数からすると、 かなり大きな地域であることが想定される。) 

(3) (1)および(2)から、 最大供給本数が3,734, 632本と算出される。 (同2) 

 (この申請書にメモされているklへの換算数量は、 933.658klとなっているが、こ
 の月における実際の供給数量は10klにも満たない。 なお、 ここで実際の供給数
 量が、 前もって算出されている最大供給本数を上回っていないかチェックが行
 われる。) 

(4) 各学校からの報告を基に合計されたこの月における実際の供給数量/供給
 額は、 全脂牛乳で8.013kl/5,916.55£、 低脂肪牛乳で1.376kl/708.31£であ
 った。 (同3) 

 合計=9.389kl/6,624.86£ (約115万9千円、 1リッター当たり約123円) 

(5)  4)の供給数量に、 前述した(6)の(2)の補助金単価を乗じると、 次の補助
 金交付額が算出される。 

 (全脂牛乳)   8.013kl×25.97373p/l=2,081.28£ (約36万4千円) 
 (低脂肪牛乳)  1.376kl×16.39239p/l=225.56£ (約3万9千円) 

 この結果、 この申請書では2,306.84£ (約40万4千円) の補助金交付申請がな
されていることになる。 (同4) 

 なお、 これらの計算は平行して電算処理がなされている。 

 (参考) 

 この申請書に基づき、 全脂牛乳について極めてラフな計算を行うと、 補助金申
請者である地方行政庁は、 1リッター当たり約129円で購入した牛乳を児童へ供
給 (父兄の負担は、 この金額から補助金を控除したもの) し、 IBからは同約45円
の補助金を受給することになる。 したがって、 父兄の負担額は同約84円となるも
のとみられる。 なお、 IBが補助金の交付を決定するに当たって、 提出を求める書
類はこの申請書1種である (もちろん、 申請書に記載された数値を証明するため
の証拠書類の整備保管は義務付けられている)。 
【補助金申請書記載事例】
 

5 デンマークにおける学校向け牛乳補助制度


 デンマークの学校向け牛乳補助制度は、 約50年前に開始された。 当初は、 デン
マーク政府および地方政府による生活困窮者を対象としたものであったが、 その
後、 牛乳、 乳製品の消費拡大を目的として1977年にEC委員会による補助制度が開
始され現在に至っている。 最近のデータによると、 同国では、 対象となる教育機
関の90%、 児童・生徒の40−50%がこの制度を利用している。 デンマークにおけ
る同制度は、 現在デーニッシュ・デイリー・ボード (DDB) が中心となって運営
されており、 DDBは、 同国農業省のEC局 (市場介入業務を担当) からEUの補助金
の交付を受けている。 

 DDBによる同国の学校向け牛乳補助制度は次の通りである。 

(1)対象となる児童、 生徒

 デンマークにおいては、 5・6歳から17・8歳の幼稚園児から高校生に相当す
る年齢が対象となっている。 DDBは、 このうち小学校以上の教育機関を対象とし
ている。 

(2)対象となる品目および容量

(カテゴリー1) 

 全脂牛乳 (脂肪分3.5%)  250ml
 全乳ヨーグルト 250,150,175,180ml

(カテゴリー2) 

 低脂肪牛乳 (脂肪分1.5%)  250ml
 チョコレート風味牛乳 (脂肪分1.5%)  250,200ml
 チョコレート風味牛乳 (脂肪分1.5%、 UHT)  200ml
 ミルクシェーク 170ml

(カテゴリー3) 

 チーズ (脂肪分40%以上)  86g

(カテゴリー4) 

 チーズ (脂肪分45%以上)  34g

(3)学校教育と本制度との関係

(1) 学校年度は、 8月開始、 翌年の7月終了。 

(2) 授業は、 一般的には午前8時開始、 午後2時終了。 

(3) 通常、 11時から20分、 または30分の昼食タイムが設けられており、 児童・
 生徒はこの時間の中で家庭から持参したランチとともに牛乳 (統一デザインの
 紙パック) を飲用する。 

(4)制度への参加率
 95年秋の調査によると、 DDBが実施している学校向け牛乳補助制度は、 参加学
校 (771校) の総児童数の33%、 約6万1千人となっている。 DDBとしては、 2000
年までに参加学校を1,750校とし、 児童の参加率も50%まで引き上げる計画であ
る。 

 なお、 DDBは、 幼稚園を実施の対象としていないが、 こうした教育機関は独自
に供給業者を決定し、 同制度を実施している場合がある。 

(5)制度の仕組み
 学校年度を2期に分けた6カ月ごとに次の手続きが行なわれる。 

(1) DDBが各学校へ、 児童・生徒の父兄向けに 「制度のリーフレット」 および 
 「牛乳購買申込書」 を配布。 

(2) この制度に参加したい児童・生徒の父兄は(1)の申込書により学校へ申し込
 む。 

(3) 学校は、 (2)に基づきこの制度へ参加希望した児童・生徒の登録名簿を作成
 し、 DDBへ報告する。 

(4) この制度への申し込みを行った児童・生徒の父兄は、 (1)の申込書に添付さ
 れている振込用紙により、 当該6カ月分の自己負担分を直接、 DDBへ払い込む。 
 (6カ月間の自己負担分の支払額は(7)の(3)の通り) 

(5) DDBは、 参加希望のあった学校に牛乳等を供給するため、 卸売業者、 乳業者、 
 スーパーマーケットの供給業者 (約100社) の中から供給業者を決定する。 

(6) 決定を受けた供給業者は、 週1回、 または2回の間隔で学校へ牛乳等を供
 給する。 

(7) 学校は、 供給を受けた牛乳等を備え付けの冷蔵室 (庫) で保存の上、 登録
 名簿に基づき児童・生徒へ牛乳等を配布する。 
  (なお、 この配布のために各学校に管理人 (老齢者) が置かれているようであ
 る。) 

(8) 参加学校に対しボーナス (奨励金) として、 6カ月ごとに参加児童・生徒
 一人当たり10Dkr (デンマーククローネ、 約190円) がDDBにより支給される。 

(9) (8)の支給を受けた学校は、 給食施設の維持 (冷蔵室・冷蔵庫の購入等も含
 む) 等にボーナスを使用しなければならない。 

(6)この制度の特徴、 有利な点等について、 DDBが作成した資料によると次の
 通りである。 

(1) 学校は、 補助金の申請手続等を行う必要はない。 

(2) 学校および教師は、 牛乳等の発注、 配布および管理のための業務を行う必
 要はない。 

(3) 学校へは、 年に2度、 参加児童・生徒数に応じてボーナスが支給される。 

(4) 教師は、 児童・生徒から代金を集める必要はない。 

(5) 児童・生徒は、 牛乳飲用によって健康が得られる。 

(6) 児童・生徒は、 EU補助金によって安価な牛乳を得ることができる。 

(7) 児童・生徒は、 牛乳等購入のために毎日、 牛乳代やクーポン券を持つ必要
 がない。 

(8) 父兄は、 6カ月ごとに牛乳等の代金を支払うだけでよい。 

(7)供給価格、 補助金等について
 (1デンマーククローネ=19円として換算) 

 (1)EUからの補助金単価表、 (2)デンマーク農業省が決定した、 供給業者が学校
へ供給するに当たっての最高限度価格および(3)DDBが決定した、 父兄が6カ月ご
とに支払う自己負担分価格表については次の通りである。 

(1) EUからの補助金単価表 (95年8月1日現在) 

 (カテゴリー1) 

 全脂牛乳 (脂肪分3.5%, 250ml) 
      0.569Dkr (約10.8円) 

 全乳ヨーグルト (250ml) 
      0.569Dkr (約10.8円) 

 (カテゴリー2) 

 低脂肪牛乳 (脂肪分1.5%, 250ml) 
      0.359Dkr (約6.8円) 

 チョコレート風味牛乳 (脂肪分1.5%、 UHT, 200ml) 
      0.287Dkr (約5.5円) 

 (カテゴリー3) 

 チーズ (脂肪分40%以上, 86g) 
      0.570Dkr (約10.8円) 

 (カテゴリー4) 

 チーズ (脂肪分45%以上, 34g) 
      0.574Dkr (約10.9円) 

(2) デンマーク農業省が決定した、 供給業者が学校へ供給するに当たっての最
 高限度価格

 (カテゴリー1) 

 全脂牛乳 (脂肪分3.5%, 250ml) 
      2.25Dkr (約42.8円) 

 全乳ヨーグルト (250ml) 
      2.50Dkr (約2.50円) 

 (カテゴリー2) 

 低脂肪牛乳 (脂肪分1.5%, 250ml) 
      2.25Dkr (約42.8円) 

 チョコレート風味牛乳 (脂肪分1.5%、 UHT, 200ml) 
      5.00Dkr (約95円) 

 (カテゴリー3) 

 チーズ (脂肪分40%以上, 86g) 
      8.00Dkr (約152円) 

 (カテゴリー4) 

 チーズ (脂肪分45%以上, 34g) 
      4.00Dkr (約76円) 

(3) 児童・生徒の父兄が6カ月ごとに支払う自己負担分金額表 ((1)、 (2)に該
 当する品目のみ抜粋、 DDBが決定したもので、 牛乳の供給価格は全国一律)。 

 (カテゴリー1) 

 全脂牛乳 (脂肪分3.5%, 250ml) 
      180Dkr (約3,420円) 

 (カテゴリー2) 

 低脂肪牛乳 (脂肪分1.5%, 250ml) 
      179Dkr (約3,401円) 

 チョコレート風味牛乳 (脂肪分1.5%、 UHT, 200ml) 
      245Dkr (約4,655円) 

 (参考) 

 DDBは、 EUからの補助金が受けられることを前提に、 デンマーク農業省が決定
した最高限度価格 (供給業者の供給価格の最高限度、 補助金相当部分を控除した
もの) の範囲内で、 児童・生徒の父兄が負担すべき6カ月間の自己負担分の金額
を算定の上、 父兄に対し通知するとともにこの制度への参加を学校を通じて呼び
かけることとなる。 

 供給価格を上記の価格表から見てみると、 全脂牛乳 (脂肪分3.5%, 250ml)の
場合、 1本当たり約11円のEUからの補助金が受けられることを前提に、 デンマー
ク農業省は、 供給業者がこの制度に基づき学校へ供給する場合の最高限度価格で
ある1パック当たり43円を決定する。 この最高価格の範囲内で供給価格がDDBお
よび供給業者間で決定され、 この供給価格を基礎に6カ月間の負担金 (約3,420
円) が算出され、 父兄へ通知される。 父兄はこれらの通知を見て学校へ制度の参
加を申し込むこととなる。 

6 おわりに


 イギリスでは、 IB以外に地方行政庁が本制度の一翼を担っており、 制度の仕組
みを調べる上では教育機関との接点ともなるこの部分に踏み込めなかった点で調
査不足が否めない。 

 デンマークは、 DDBブラッセル事務所からの聞き取り調査を基にした。 DDBは国
全体を網羅していないが、 児童・生徒の父兄との手続きまでを含めたほとんどの
手続きを直接担当しており、 制度の仕組みとしてはイギリスよりもシンプルとい
えるかもしれない。 

 EUの制度とはいえ、 わずか2カ国を見ただけでもそれぞれの国内における実施
方法にはかなりの違いがある。 しかし、 各国の実情に沿った形で運営されている
からこそ、 加盟国における運営のしやすさ等でこの制度の維持に果たしている役
割も大きいように思える。 

 IB、 DDBの担当者が共通して触れていたことは、 児童・生徒がこの制度により
せっかく身に付いた牛乳の飲用習慣が、 学校を離れるとそうした習慣がほとんど
なくなってしまうということであった。 しかし、 栄養面等他の食品では代用が難
しい牛乳が、 摂取が必要な成長期において、 摂取しやすい形態により定期的に供
給されているということが持つ意義は大きい。 

 もちろんEUの場合、 学校に限らず日常生活の中で乳製品という姿を変えた形で
の摂取はふんだんに行われており、 その摂取量はわが国の比ではない。 

 イギリスでは、 紅茶、 コーヒーにたっぷりのミルクを加える伝統的な消費パタ
ーンのほかに、 最近では乳脂肪を高めに設定したシリアル食品専用のミルクなど
も店頭に出ており、 やはり時代とともに消費者のし好が変化してゆく中で消費者
の動向を常に把握し、 学校向け牛乳を含めそうした要望に合う製品の供給がなけ
れば、 たとえEUにおいても現在の牛乳、 乳製品の消費水準が将来にわたって維
持されるのは難しいといえるのかもしれない。 

7 参 考


(1) イギリスの保育園における牛乳飲用風景 (午前10時過ぎのミッドモーニン
 グブレークといわれる休憩時間に供給される。 ロンドン近郊) 
 


(2) 学校向け牛乳を供給している乳業メーカー (この工場は牛乳の専門工場で
 あり、 学校向け牛乳への依存度は2%程度とのことである。 ロンドン近郊) 
 


(3) イギリスの学校向け牛乳補助制度の普及用ポスター
 (ポスターには、 牛乳には、 豊富な栄養が含まれ、 特にカルシウムは骨や歯の発
 育に欠かせないこと、 ECの補助金により負担が軽くなっていることが記載され
 ている) 



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