特別寄稿 

中国チルド・ブロイラーの生産・輸出について

豊中貿易株式会社 食品部部長  沈 廸中



 中国の対日ブロイラー輸出は、 相場がよくなかった平成8年度においても前年
を約13%上回る21.7万トンに、 また、 市況低迷が続いている今年の4月でも、1.6
万トン (前年比約23%増) に達したように、 相場のよしあしにはあまり影響され
ずに増え続けて行くものと思われる。 なかんずく、 チルド品の急増ぶりに、 もっ
とも注目すべきであろう。 そうした中で、 日本のブロイラー輸入の40%近くを占
め、 その相場を左右する影響力を持つようになった中国産ブロイラーとその産業、 
とくにそのチルド品の生産・流通事情などについて、 いまこそ見てみるべき機会
であると思います。 

一. 増産の背景


1. ブロイラー産業の基盤の確立

 中国において、 唯一、 大量に輸出できる食肉は鶏肉であって、 畜産業業界では、 
「短、 平、 快のプロジェクト」 (短は短い、 資金回転周期が短いという意味、 平は、 
平坦でリスクが小さいという意味、 快は早いで、 すぐ利益が得られる意味) と言
われている。 中国の地方政府と外資との間で合弁や提携の交渉ができることから、 
「地方は、 土地 (もの)と人、 外資は資金」 といった協力が行われる。 典型的なも
のがタイ系外資企業である。 例えば、 昨年のきびしい経営環境に直面しても、 同
系列は三つの大型生産プロジェクトを完成し、 操業を開始した。 いずれも年間2
万トンほどの輸出能力を持っている (ちなみに、 三つの工場の所在地は、 黒竜江
省、山東省、 河北省である)。 新プロジェクト稼働以前のこれまでの生産能力だけ
でも、 年間30万トン (EUなども含む) ほど輸出できたので、 新たに稼働し始めた
工場の能力を加えると、 輸出増加傾向に拍車がかかるとみられる。 


2. 飼料価格の低下による刺激

 昨年、 中国では、 穀物が5%増産という大豊作になったことから、 11月から、 
飼料価格が大幅に下落し始めてブロイラーの生産コストが低下したため、 各地で
生産意欲が高まり、 ヒナ不足が生ずるほどとなっている。 そのため、 ヒナの価格
も高くなってきている。 例えば、 昨年の10月までは、 1.5元 (1元=約15円)/1
羽であったのに対し、 今や30%も高くなり、 2.8〜3元/羽となっている。 


3. 内外共に販売が順調

 昨年の10月から、 日本マーケットでは、 市況低迷が続き、 輸出数量を減らさな
ければならなくなったが、 それに加えて、 EU向けのムネ肉やササミの輸出もスト
ップした。 それでも、 各パッカーはそれほど困ったというわけではない。 なぜな
ら、 昨年までは、 穀物の不作による飼料価格の高騰により飼養羽数が抑制された
ことから、 当時は、 生鳥の出荷量が多くなかったためである。 それに加えて、 日
本側が買付けオーダーを出さなくなる2月は、 丁度中国の春節 (旧正月) にあた
ることから、 国内販売が活発である。 さらに、 スイスなどに向けて、 毎月2千ト
ンぐらいの熟製品 (ムネ肉のから揚げなど、 調理・加工品を指す) を継続的に輸
出できたし、 さらに湾岸諸国、 南アフリカにも輸出したので、 さほど在庫しなく
ても窮状をしのぐことができたようだ。 


4. 政府のブロイラー産業への支援

 労働集約型産業であるので、 昨今の高い失業率に対しては、 ブロイラー産業成
長のプラス効果の意味が大きい。 過剰となっている農村労働人口を、 いかにして
大都市に出稼ぎに行かずに吸収するかの工夫が進められつつあり、 ブロイラー産
業の吸収力が認められたのである。 例えば、 去年の夏、 朱鎔基副総理が山東省諸
城市の工場を視察して、 そのときに、 大型の融資案件が約束されたような例があ
る。 

二. チルド・ブロイラーの生産・流通


1. 生産メーカー状況

 チルド生産の初期段階では、 製造工場は、 フェリー便のある上海、 天津港の近
辺にある工場に限られたが、 生産技術の進歩や管理レベルの向上につれて、 青島、 
大連港のような、 フェリー船ではなくて、 貨物船を利用する港の近辺でも製造で
きるようになってきた。 

<生産地域> <数量(月)> <積出港>

 上海市    1,000トン   上海
 山東省     350     青島
 河北省      50     天津
 北京市     100     天津
 吉林省      50     営口
 
(注) 数量は地域別輸出量。 おおよその数値であり、 月によって変動がある。 


2. チルドの製造工程

            1)    2)    3)
放 血→湯むき→中 抜→シャワー→予備冷却→本冷却→解 体→選 別→計量・パック=全工程
 ↓   ↓   ↓   ↓    ↓    ↓   ↓   ↓    ↓
 5分  2分  4分  2分   20分   25分  5分  30秒   3分   63.5分間

1)、 2)、 3)は、 次亜塩素酸80〜100ppm使用。 

 その後は、 −30〜35度の急速冷凍庫40分冷凍→箱詰→1度 (夏は0度) の冷蔵
庫保管→コンテナーに積込む (コンテナー設定温度0〜1度)。 

 船の出航時間に合わせて処理をするので、 普通は、 鳥を処理し始めてから船積
までの時間は、 10時間ぐらいである (上海市、 山東省の工場から港までは、 1時
間程度)。 なお、 海上輸送の時間は、 大阪、 神戸、 長崎、 横浜は3日間、 また、博
多では2日間しかかからないという近さである。 日本での通関業務は、 1日で終
了する。 例えば、 青島→博多の貨物船を例にとってみると、 土曜日夜船積作業を
終えて翌朝日曜8時出港→火曜日朝9時博多港に到着→水曜日午後3時には通関
が切れて国内貨物となる。 その後、 荷捌きして、 物流が開始されるが、 品質保持
期間が10日間であるので、 販売完了までには十分な余裕がある。 


3. 日本での荷揚げ地域

 初期段階では、 阪神であったが、 その後、 長崎、 博多、 横浜へと荷揚げ地域が
広がっている。 なお、 上海→横浜のフェリーが、 今後開航する予定で、 近い将来
関東地区に入る量がさらに増えるとみられる。 また、 国内の主産地である九州で
は、 減産となっていることから、 博多揚げも今後かなり増えると思われる。 各地
域間の物流構成は、 下記の通り (今年を例にする) 

〈月別揚地別チルド輸入量〉

 (注)上記3地域以外の揚地もあるため合計と一致しない。

三. チルド・ブロイラーの市場動向等


1. 原産地表示の問題

 「食肉に関する公正競争規約」の改正により、 原産地表示が義務づけられるよう
になって以来、 荷受業者がブランド化するためにいろいろ検討し努力をした。 例
えば、 量販店に、 中国唐山産のチルドを、 「唐山ドリ」と表示して並べて販売する
と、 やはりよく売れると言われる。 それには、 二つの理由があげられる。 先ず第
一には、 価格の差:すなわち国産品より150円/kgほど安いことが、バブル崩壊後
の 「反省期」 にある消費者にとっては、 目玉商品であると映っている。 その二、 
鶏肉加工業に明るくない消費者では品質を見分けて購入しているとは言えないか
もしれないが、 品質を知る 「玄人」 の需要家の評価を受けていることは、 中国ブ
ロイラー産業が世界に通用する水準である証しであると思われる。 

 その品質に自信を持つ以上、 いいものは売れるという市場原理に則って流通す
るのが原則であり、 事実、 輸入チルドが急増しているのは、 その信頼できる品質
によるものであると考える。 


2. コストダウン

 大量輸入により、 その価格も下がってきた。 平成8年度にチルドと冷凍品の価
格差が150〜180円/kgだったのに対して、 昨今では、 その差は、すでに100円未満
へとなっている。 もとより、 チルド価格の計算においては、 ベース価格に15%加
算してきたのだが、 いまや、 価格競争の激化によりベース価格自体がかなり下が
っており、 かつ、 物流の短縮もあって、 それが小売価格の低下につながっている。 
現在、 国産生鮮品が500円近く (もも) に下げた理由の一つは、その影響であると
考えられる。 また、 売れ行きが不振であることから凍結にまわされ、 それが冷凍
品相場を一段と引き下げる悪循環にもつながっているとみられる。 価格の低下は、 
消費者にとってはなによりであるかもしれないが、 日本のブロイラー生産者の経
営には、 大きな影響を与えることになる。 それが、 次の3番目の問題に関連する
点であろう。 


3. 急増する輸入チルドと業界の対応

 輸入チルドの流通市場では、 国産の生鮮品との競合が激化しつつある。 輸入チ
ルドが国内の減産分を埋め合わせるという姿が、 需給バランス上は理想的である
が、 実際には、 需要家のニーズ拡大に合わせて輸入チルドが増加するという状況
になっている。 日本のブロイラー業界にとっては、 そうした状況にどう対応すべ
きかが、 これからの課題であると思われる。


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