海外駐在員レポート 

EUにおけるオーガニック畜産物の生産基準

ブラッセル事務所 池田一樹、 井田俊二



1 はじめに


 EUでオーガニック農業に転換済みあるいは転換中の耕地面積および農家戸数は、 
96万ヘクタールおよび4万3千戸とみられている (1995年、 推定) 。 これ
らは、総耕地面積および総農家戸数からみれば1%に満たない。 しかしながら、そ
の増加率は、 それぞれ37%、 27%に達しており (過去5年の年率) 、 オーガ
ニック農産物市場は急成長している。 オーガニック畜産に限って見た場合も、 
牛乳・乳製品および食肉の市場規模は、現在11億USドルと見積られているが、2
002年には、 さらに現在の3倍に達するであろうとの予測さえある。 

 今回は、こういったいわばブームを呼んでいるオーガニック畜産物について、生
産基準の概要を中心にレポートすることとする。 


2 EUのオーガニック農産物の諸基準


 オーガニック農産物に関する基準には、 生産基準の他に、 加工基準、 表示基準、 
生産基準に従っている農家の認証手続き、 生産・加工基準の履行状況の検査手続
き、 こういった基準の策定とその運用を行う 「認証団体」 の認可基準等が含まれ
る。 今回はこれらの 「基準」 のうち、 生産基準を取り上げ、 まず、 EUにおけるそ
の設置状況をみてみたい。 

 (1) EUの基準

 EUは、 1991年にオーガニック農産物の諸基準 (生産基準の他、 加工、 表示
等の基準を含む) に関する規則を制定した。 しかし、 畜産物に関しては、 規則の
対象とすることが定められただけで、 具体的な諸基準は一切定められていない。 
EU委員会は、 昨年、 ようやく畜産物の諸基準に関する規則を提案したが、 採択の
目処は今のところ立っていない。 このように、 現段階ではオーガニック畜産物に
ついては、 EUとしての統一諸基準は存在していない。 

 (2) 各国の基準

 EU各国では、 オーガニック農産物の認証団体が、 それぞれオーガニック畜産物
に関する諸基準を定め、 運用している。 認証団体の性格は国によって異なり、 例
えば、 デンマークの場合、 国が基準を定めるとともに監督も行っているが、 ドイ
ツやフランスでは民間団体が行っている。 イギリスは、 公の機関と民間団体が共
存している。 

 なお、 各国は (1) で述べたEU規則に従って、 オーガニック農産物の認証団体
を指定している。 

 (3) IFOAM

 オーガニック農業運動国際連盟 (INTERNATIONAL  FEDERATION OF ORGANIC AGR
ICULTURE MOVEMENTS, IFOAM)は、 1972年に創設された非営利民間団体で、 オ
ーガニック農業に関する国際基準を取りまとめるほか、 認証団体の認可、 ロビー
活動等を行っている。 本部はドイツに置かれ、 92カ国、 527団体が会員とな
っている。 IFOAMの基準は、1980年に策定され、 現在も広く世界各国の基準の
基礎となっている。 また、 1992年からは、IFOAMの基準に沿った認証活動を行
っている認証団体の認可を行っている。 この認可活動の本部は、 米国に置かれて
いる。 


3 イギリスの基準


 イギリスでは、 オーガニック農産物に関する基準の制定と運営は、 元々統一基
準がない中で、 複数の民間の認証団体が行っており、 複数の基準が並立していた。 
この結果、 消費者サイドにも混乱が生じたため、 80年代初頭から国内基準の統
一の動きが始まった。 そして、 1987年に、 イギリス政府はEU統一規則の制定
への動きに呼応するとともに、 消費者の混乱や民間団体間の軋轢の解消を図るた
め 「イギリスオーガニック食品基準登録局 (UK Register of Organic Food Stan
dards、 UKROFS」 を設置した。 UKROFSは、1989年にオーガニック農産物基準を
制定している。 

 今回は、 このUKROFSの最新の生産基準の概要を紹介したい。 

 (1) 畜舎環境および動物愛護

 生産者は、 家畜が起立、 横臥、 旋回、 毛づくろい、 羽ばたき等、 自然の営みを
自由に行うことができるような畜舎環境および管理を行わなければならないとし
ている。 畜舎内には、 麦わら等の敷料を十分使用し、 また、 常に乾燥した場所が
確保できるように糞尿の排出や敷料の管理を行うこととされている。 スノコ床は、 
その他の部分に敷料が適切に施されることを条件として、 床面積の4分の1の広
さまで認められている。 家畜を単独で収容するストールや牛房は、 給餌用以外に
は使用してはならないとされている。 また、 常に他の家畜や人の姿が見えたり、 
音が聞こえたりしなければならない。 

 むやみな外科的処置や化学物質での処理は禁じられている。 ただし、 去勢およ
び除角については、 必要に応じて認められている。 

 繁殖手段としては、 自然交配のほか、 人工授精も認められている。 

 (2) 飼料

 原則として、 UKROFSの基準に従って生産されたオーガニック飼料だけを使用す
ることとしている。 ただし、 これが困難な場合は、 上記オーガニック飼料の日量
の最低給与基準 (乾物重量比) を次のように定めている。 

(1)肉牛、 めん山羊 (乳用以外) 、 未経産乳用家畜:9割

(2)乳用家畜であって、 (1)に含まれるもの以外:8割

(3)反すう動物以外:7割

(4)条件不利地域で粗放的に飼育されている繁殖用牛群、 繁殖用めん山羊:年間
  8割

 この際、 乾物重量で5割以上は、 上記オーガニック飼料にしなければならない
が、 上記の最低給与基準との差は、 転換期間中の作物 (ただし、 収穫までに12
カ月の転換期間を経ていなければならない) とすることが認められている。 

 ただし、 上記の規定にかかわらず、 反すう動物については、 乾物重量比で6割
以上はUKROFSの基準に完全に従ったオーガニック粗飼料 (緑餌 (生草や乾草) や
粉砕前の飼料作物) とすることとされている。 

 子牛は、 原則として生後9週間はオーガニックミルクで飼養することとしてい
るが、 やむを得ない場合は、 代用乳の使用が許可されている (オーガニックミル
クから製造した脱脂粉乳が最適とされている。 ) 。 また、 豚も、 原則として6週
齢までは離乳させないこととしている。 

 従来農法で生産された飼料を使用する場合は、 搬入元や製造条件を把握するこ
とが必要とされている。 なお、 98年1月からは、 搬入元の検査、 登録が行われ
る予定である。 

 飼料の内容についての基準も定められている。 あくまで自然な生産を追求する
ため、 集約的生産を招くような高たんぱく、 高エネルギーの飼料の使用は避けな
ければならない。 また、 畜産副産物、 魚粉、 溶媒で抽出した物質の使用は禁止さ
れている。 ミネラル、 ビタミン、 アミノ酸、 油脂等の使用は、 オーガニック基準
に従った給餌体系では不足する場合に認められる。 ただし、 成熟の促進や生産性
の向上を目的としてはならないとされている。 

 牛、 めん山羊については、 放牧を最大限に取り入れなければならないとされて
いる。 肉用家畜についても、 同様であるが、 仕上げに当たっては、 敷料の完備し
た十分な広さのパドックで行うことができる。 母豚については、 常に屋外の運動
場を自由に利用させなければならない。 この際、 運動場は土で、 緑餌が確保され
ていることが望ましいとされている。 家禽についても、 日中は常に屋外の運動場
を利用させなければならず、 また、 運動場は管理の行き届いた植生が確保されな
ければならないとされている。 

 (3) 家畜衛生

 家畜の飼養管理に当たっては、 抗生物質の投与などの化学療法を必要としない
ように、 健康管理に努めることが前提であるとしたうえで、 許容される治療方法
を疾病別に定めている。 
 寄生虫疾病については、 防疫対策を講じることを条件に、 一定期間駆虫剤を常
用することが認められている。 伝染病については、 明らかに感染の恐れがある場
合は、 ワクチンの使用が認められる。 ただし、 ワクチンはできる限り4価以下と
し、 また、 オーガニック畜産への転換期間中に十分な防疫効果を得ることができ
るものを選択するよう求めている。 抗生物質や、 その他西洋医学に用いられる製
剤の使用は、 代替治療法がなく、 苦痛軽減、 救命、 治癒のために最良の処置とみ
なされる場合には認められている。 ただし、 これらの使用を中断すると、 家畜が
苦痛を受ける場合には、 たとえオーガニックの状態を失っても使用を継続しなけ
ればならないとしている。 
 
 休薬期間は、 一般薬の場合については、 使用上の注意に定められている期間あ
るいは獣医師が指示する期間とされている。 その他の薬、 例えば要指示薬等は、 
使用上の注意に定められた期間や獣医師が指示する期間のそれぞれの2倍以上 
(最低14日)とされている。 万一有機リン剤を使用した場合は、 オーガニックと
しての食肉生産に供することはできない。 また、 乳用家畜の場合は、 オーガニッ
クミルクの生産を行うまでには、  (4) に述べる転換期間を再度経なければなら
ない。 

 腸内細菌叢や内分泌系に作用して、 強制的に生産性を向上させる食品以外の物
質を使用することは禁止されている。 ただし、 これらの物質を治療目的に使用す
る場合は、 この限りではないとされている。 

 牛海綿状脳症 (BSE) に関する条件も定められている。 BSEの発生農場あるいは
過去6年間に発生農場から牛を導入した農場では、 発症牛の初代の産子および発
症牛と同じ飼料を与えられた牛は処分が義務付けられている。 処分は、 既存のオ
ーガニック農家の場合は3年以内、 転換中の農家の場合は、 転換終了前に完了し
なければならない。 なお、 1993年末以降に導入された牛で、BSEに関する疫学
状況が不明な牛は全て処分することとされている。 

 (4) オーガニック畜産への転換

 従来型の畜産からオーガニック畜産に転換し、 オーガニック畜産物として出荷
できるようになるまでには、 次に掲げるように、 家畜をUKROFSの生産基準に従っ
て飼養しなければならない。 また、 転換後、 オーガニック農家以外から家畜を導
入する場合も同様の転換期間を経る必要がある。 

(1)繁殖雌牛:分娩前12週間

(2)肉畜生産用羊、 山羊、 雌豚:オーガニック生産群内で種付けすること。 その
 後、 UKROFSの基準に従うこと。 

(3)肉用家畜:オーガニック畜産農家で生産されること (従って、 転換期間はな
 い) 。 ただし、 肉用家禽に限り、 従来型畜産農家から、 1日齢の初生雛を導入
 することが認められる。 

(4)乳用家畜:36週間。 ただし、 飼料に関しては、 転換期間終了前12週間。 
 なお、 導入した乳用家畜は、 肉用生産に仕向けてはならない。 

(5)卵用家禽:6週間


4 ドイツにおける基準の例


 ドイツにおけるオーガニック農産物の基準の策定とその運用は、 民間団体が行
っている。 現在、 EU規則に従ったオーガニック農家の認証活動を行う政府認定団
体が、 50程存在している。 これだけの多くの団体が存在している大きな理由は、 
一部地域に活動を限定する団体が多いことにある (同様の団体数は、 第2位はイ
タリアで6団体、 第3位はイギリスで5団体) 。 

 これらの認可団体のなかでも、 有力な9団体がドイツオーガニック農業組織協
会 (Association of Organic Agriculture Organizations Germany、 AGOL) とい
う組織の下に集まっている。 AGOLはオーガニック農業に関する基準を定めており、 
傘下の団体はこれに沿った基準を定めて活動している。 また、AGOLは、 IFORMの基
準にあったオーガニック農家の認証活動を行う団体として、IFOAMに認可されてい
ることから、 傘下の団体は全てIFOAMの基準を満足していることとなる。 

 今回は、 AGOLの会員の中から、 1982年に創設され、 約900会員を擁する 
「Naturland」 の基準を紹介する。 

 (1) 畜舎環境および動物愛護

 UKROFSの基準同様、 前提として、 畜舎は、 移動、 休息、 摂食、 繁殖などについ
て、 家畜の種によって異なる様式に従って行動することができるものでなければ
ならないとし、 解放畜舎が第一であるとしている。 また、 休息場所には、 麦わら、 
草、 乾草等の敷料を十分使用することとしている。 

 スタンチョン畜舎での恒常的なつなぎ飼いは禁止され、 また、 床面は、 スノコ
床等の隙間のある床を全面に配することは禁止されている。 こういった畜舎は、 
5年以内に改善しなければならず、この間はNaturlandのロゴは使用できない。 休
息場所については、 全家畜が同時に休息できる面積を確保することとされている。 

 これらの一般的基準に加えて、 家畜種別の基準も定められている。 乳牛、 めん
山羊については、 シーズン中は放牧の機会を与え、 その他の期間も常に屋外運動
場を利用できることが求められている。 通路のスノコ床については、 新築や改築
に当たっては、 スノコの表面積を拡大することとしている。 また、 解放畜舎では、 
全頭分の給餌場所を確保することとしているが、 不断給餌の場合はこの限りでは
ない。 

 肉牛の畜舎環境、 放牧、 運動については、 乳牛とほぼ同様の条件が定められて
いる。 ただし、 解放畜舎における飼養密度について、 体重を踏まえ、 自由に行動
できるよう2〜5平方メートル/牛の範囲で設定することが加わっている。 

 豚については、 母豚のつなぎ飼いは禁止され、 天候が許せば常に運動させるこ
ととしている。 また、 肥育肉豚にも運動が求められている。 非妊娠母豚や妊娠初
期の母豚は群として飼養することとされているが、 単独で飼養する場合には、 4
平方メートル/頭のスペースが求められる。 抜歯、 断耳および断尾は禁止されて
いる。 

 家禽については、 種や用途にかかわらず、 ケージ飼いの禁止、 夜間の連続8時
間の消灯、 床面積の3割は敷料を施して家禽がついばめるようにすることおよび
断嘴や翼羽の除去を禁止することを定めた上で、 採卵鶏と肉用家禽に分けて基準
を定めている。 採卵鶏については、 日中は屋外運動場を自由に利用できることが
求められている。 運動場は、 一年を通じて自由に利用できることとし、 土の部分
と草におおわれた部分とを併設できれば、 土の部分は鶏舎の床面積の4分の1で
よいこととされている。 この際、 鶏舎の飼養密度は最大7羽/平方メートルとさ
れている。 どちらか一方しか設置できない場合は、 その運動場の面積は、 土の場
合にあっては、 鶏舎面積の3分の1とし、 草の場合にあっては2.5平方メート
ル/羽とし、 また、 鶏舎の最大飼養密度は6羽/平方メートルと定められている。 
この他、 止まり木や巣の設置も求められている。 また、 強制換羽は禁止されてい
る。 

 肉用家禽については、 羽が生え揃い次第、 土または草でおおわれた屋外運動場
に出すことが望ましいとされている。 最大飼養密度は鶏舎1平方メートルあたり
20kg (七面鳥は25kg) とされている。 

 (2) 飼料

 飼料は自給を基本とした上で、 自給率(Naturlandが認可した共同体からの導入
を含む) を5割以上としている。 飼料の購入に当たっては、 次の原則が定められ
ている。 

(1)一般条件:土壌の過栄養化を防ぐため、 飼養密度が1.4DU/ヘクタール(資
 料1) 未満の農家に限る。 

(2)購入先の条件:AGOLの傘下団体の基準あるいは IFOAMの基準に従って飼料を
 生産していること。 

(3)購入量:0. 5DU/ha相当量未満。 

 ただし、 オーガニック飼料の入手が困難な場合は、 乾物重量ベースで日量の1
0% (豚は3〜15%、 家禽は3〜20%) までは、 オーガニック以外の農家か
ら購入することが認められている。 

 乾燥飼料のうち最低6割は、 12カ月の転換期間を経過していなければならな
い。 ミネラルやビタミン製剤はこういった規制の対象外としているが、 尿素、 合
成アミノ酸、 家畜副産物、 遺伝子組み換えやそれに由来するもの等の使用は禁止
されている。 家畜種別の基準は次のとおりである。 

 牛については、 乾草、 麦わら、 ホールクロップサイレージをバランス良く十分
に給与しなければならないとし、 サイレージだけの通年給餌は禁止されている。 
また、 夏季には、 緑餌を与えることとしている。 子牛は生後12週間授乳させ、 
1週目からは粗飼料を給餌して、 第1胃の発達を促進させることとしている。 代
用乳を使用した場合は、 従来農法の牛として販売することとなる。 また、 子牛肉
生産用の子牛は、 自給生乳で育てることとしているが (7週目以降は脱脂乳の給
与も可能) 、 粗飼料なしでミルクだけで飼養することは認められていない。 

 肉用子羊については、 子牛の給餌に準ずるとされている。 繁殖用の子羊と子山
羊については、 抗生物質の含まれていない代用乳の給餌が認められている。 

 豚については、 飼料に、 粗飼料と多汁質の飼料を含めることとされている。 

 家禽については、 給餌および飲水場所の数を十分確保することとしている。 ま
た、 卵用家禽への給餌については、 粒のままの穀類をできれば敷料上に播いて与
えなければならないとされている。 また、 砂礫を与えることも求められている。 

(3) 家畜衛生

 UKROFSの基準と同様に、 前提として家畜の健康はまず第一に、 最適な飼養環境
や給餌による予防衛生で担保されるべきであるとしている。 健康を損ねた場合は、 
薬剤投与によらないで回復させることが最良とし、 西洋医学で用いる薬物を使用
するときは、 必ず獣医師の処方によることとしている。 この際の出荷停止期間は、 
通常の2倍とされている。 合成化学物質やホルモンによる予防的処置の常用は、 
禁止されている。 内部および外部寄生虫に高濃度で汚染している場合は、 これら
の治療は例外として認められている。 また、 子豚への鉄分の投与も当分の間、 認
められている。 遺伝子操作や受精卵移植による繁殖は行ってはならない。 

 (4) オーガニック畜産への転換

 従来型の畜産からオーガニック畜産に転換する場合、 経営に使用している全て
の土地を12カ月間オーガニック基準に従って管理 (待機期間) した後、 種類ご
とに、 以下の期間を経ることとされている。 

(1)卵 :4週間

(2)生乳:12週間

(3)肉 :a 家禽    3カ月
     b 豚     5カ月
     c 小反芻獣類 6カ月
     d 牛     12カ月

 さらに、 肉用家畜は、 生涯の4分の3の期間は、 オーガニック基準に従って飼
養されなければならないという条件が加わっている。 ただし、 豚および繁殖目的
で導入した2歳以上の家畜には適用しない。 繁殖目的で導入した家畜は、 オーガ
ニック肉生産に供するまでには、 上記の転換期間の2倍の期間が必要とされてい
る。 

 家畜の導入は、AGOLの傘下の団体に登録された農家、 あるいはIFOAMの基準に従
っている農家から行うこととされているが (繁殖用の動物はこの限りでない) 、 
これが困難な場合、 飼養頭数の10%までは、 従来型の畜産農家から導入するこ
とができるとされている (この割合は群の拡大などで、Naturlandが了解した場合
は引き上げることができる) 。 この際、 オーガニックとして出荷するには、 やは
り上記の転換期間が必要となる。 

 なお、 オーガニック作物の基準はここでは詳しくは触れないが、 合成化学肥料
の使用禁止、 農薬の使用禁止 (ただし、 特定の物質は許可されている) 、 化学合
成物質による種子の処理の禁止、 遺伝子操作作物の使用禁止などが定められてい
る。 転換期間は、 播種前24カ月、 永年作物の場合は収穫前36カ月とされ、 こ
の間、 こういったオーガニック作物の生産基準に従わなければならない。 なお、 
転換中もしくは転換を完了した農家が、 新たに耕地を取得した場合、 当該耕地は
上述の転換期間を経ることが必要とされている。 


5 EUのオーガニック畜産物の基準案


 (1) 畜舎環境および動物愛護

 畜舎は、 家畜それぞれに、 乾いた休息スペースを十分与える等、 快適さや移動
等についても家畜のニーズを満たすものでなければならないとしている。 繁殖は
自然繁殖を基本としているが、 人工授精は認められている。 受精卵移植やホルモ
ン投与による排卵調整は禁止されている。 また、 断尾、 抜歯、 去勢、 除角等の処
置が認められるのは、 家畜衛生上あるいは安全上の理由に限られている。 

 EUの基準案の特徴ともいえるのは、 詳細に定められた飼養密度である。 まず、 
経営体全体の飼養密度について、 家畜の糞尿による土壌の富栄養化を避けるため、 
2家畜単位 (LU/ヘクタール) を超えないこととしている。 他の有機糞尿を使用
する場合は、 使用する窒素量が2LU/ヘクタール相当量、 すなわち170kg/ヘ
クタールを超えないようにしなければならない。 家畜単位の換算係数は、 資料2
のとおりである。 この基準を超える場合、 他の農家の土地を利用することも認め
られている。 畜舎内の飼養密度は、 家畜の種、 品種、 年齢および大きさを踏まえ、 
休息、 摂食、 移動等の活動が十分行えるスペースを確保するとしたうえで、 個別
に定めている (資料3)。 

 家畜別の基準を見ると、 ほ乳類は、 畜舎内は麦わらその他適切な自然の敷わら
を牛床に用いることとし、 繁殖用および搾乳用の家畜には、 気象条件や土壌の条
件が許す限り、 放牧やパドックでの運動を最大限に取り入れなければならないこ
ととしている。 なお、 屋外では地域の気象条件に応じた防暑、 防風等の対策を講
じなければならない。 肉畜も同様の条件が望ましいが、 肥育の仕上げは屋内で行
うことが認められている。 

 家禽は、 肉用家禽は伝統的な放し飼い方式、 採卵用家禽は半集約的に飼養する
こととしている。 ただし、 どちらも条件が許す限り、 常に運動場の利用ができな
ければならない。 人工的に照明を行う場合は、 日照時間を16時間以内とされて
いる。 なお肉用家禽は、一定の日齢を超えるまでは処分しないこととしている(鶏
81日齢、 北京あひる49日齢、 雌バリケン70日齢、 雄バリケン84日齢、 合
鴨92日齢、 ホロホロチョウ94日齢、 七面鳥およびガチョウ140日齢。 ) 

 (2) 飼料

 EUのオーガニック基準に従った飼料を自給することを原則に掲げているが、 基
準に従った飼料の購入も認められている。 ただし、 例外措置として、 2000年
12月31日までは、 全ての飼料をオーガニック飼料にすることができない場合、 
乾物重量の20% (反芻獣の場合は10%) までは従来農法で生産した飼料の使
用が認められている。 

 オーガニック畜産に転換した後は、 日量の2割までは、 オーガニック基準に最
低1年間従っている作物を使用することが認められている。 なお、 これらの割合
は、 悪天候等による不作の場合、 増加させることができる。 

 反すう動物の飼養管理は、 放牧を最大限に利用することとしたうえで、 日量の
60%以上は、 粗飼料、 乾燥飼料 (注) あるいは乾燥飼料にする以前の生の形、 
またはサイレージで構成することとしている。 ただし、 サイレージだけの給餌は
認められていない。 この他、 ビタミンや微量元素の飼料への添加は認められてい
るが、 牛乳・乳製品以外の畜産物、 成長や生産を促進する合成物質の使用は認め
られていない。 

 なお、 オーガニック作物の基準は、 肥料をオーガニック農家由来のものに制限
し、 また、化学合成農薬の使用も原則として使用禁止とするなどNaturlandの基準
と類似点が多い。 転換期間は、 播種前24カ月、永年作物の場合(草地を除く) は
収穫前36カ月とされている。 

(注) 乾燥飼料:共通市場に関するEU規則で、以下の作目が含まれることとされて
  いる。 (1)芋、 (2)ルーサン、 イガマメ、 クローバー、 ルピナス、 ベッチお
  よびこれらと同様の飼料作物 (乾燥、 飼料用ケール、 乾燥を含む製品を除く)、
  (3)ルーサン汁や草汁由来の蛋白濃縮物

 (3) 家畜衛生

 家畜の健康の維持は、 地域に適合した畜種の選択、 適切な飼養管理などにより
維持すべきであるとしている。 この際、 植物からの抽出物、 微量元素、 同種療法
用の製剤の使用は特に制限されていない。 

 ただし、 これらでは治療が不十分な場合は、 獣医師の責任の下で、 逆症療法を
実施することが認められている。 この際、 合成薬を使用した場合、 休薬期間は法
の定める期間の2倍とする。 また、 駆虫以外の目的で、 毎年の繁殖サイクル内あ
るいは生涯 (と畜まで1年以内の場合) に2回逆症療法用を施された場合は、 当
該家畜の畜産物はオーガニックとして販売することはできないとされている。 

 なお、 成長を促進する物質の使用は禁止され、 また、 繁殖障害の治療を除いて、 
性周期同調のためのホルモン投与も禁止されている。 

 ワクチンは、 当該農家が存在する地域にその病気が存在すると認められた場合
や、 関係法規の下で義務付けられた場合に投与することができるとされている。 

 (4) オーガニック畜産への転換

 従来農法からオーガニック畜産に転換する場合、 まず、 経営体の飼料部門を、 
原則として2年間オーガニック基準に従って管理することが必要とされている。 
次いで、 家畜の種類別に、 以下に示した転換期間を経ることが必要とされている。 

 牛肉生産用の肉牛の場合は 12カ月
 小反芻獣、 豚、 肉用鶏は   6カ月
 生乳生産         12週間
 採卵鶏          10週間

 転換後の家畜は、 原則として、 生産から販売までオーガニック基準の下で飼養
することとされているが、 群の更新のためであれば、 年間当たり成畜の10%ま
でに限って未経産家畜を従来型の畜産農家から導入することが認められている。 
この割合は、 群の拡張等の場合、 増加も可能である。 なお、 2000年12月3
1日までの例外措置として、 オーガニック基準に基づいて飼養された家畜が十分
手に入らない場合、 次の家畜については、 従来型の畜産農家からの導入が認めら
れている。 

(1)採卵鶏:18週齢未満
(2)肉用鶏:3日齢未満
(3)子 牛:4週齢未満
(4)子 豚:離乳後オーガニック基準に従って育てられてもの

 従来型の畜産農家から家畜を導入した場合は、 畜産物をオーガニックとして販
売するまでには、 先に述べた転換期間が必要となる。 ただし、 繁殖用の雄は、 導
入後基準に従えば、 転換期間は必要ないこととされている。 


6 オーガニック市場等について


 ドイツは、 ヨーロッパ最大のオーガニック市場である。 約5千3百戸のオーガ
ニック農家が生産した農産物は、 自然食品店(推定2千店) 、健康食料品店 (“Re
formhaus"、推定2千5百店) 、 農家の直販店、 マーケットの露店、 スーパーマー
ケット等で流通している。 これらの中で流通の主体となっているのは自然食料品
店である。 健康食料品店はもともとのビタミンやダイエット食品主体の品揃えに、 
オーガニック農産物を加えるようになってきた。 また、 スーパーマーケットでは、 
乾燥食品を主体にいくつかの品揃えをしてきたが、 最近では牛乳・乳製品等の生
鮮品も販売するようになってきた。 

 オーガニック農産物を嗜好する消費者層については、 所得には関係がないが、
(1)高学歴(2)35歳以下(3)6歳以下の子供がいること(4)単一世帯といった
特徴があるとの報告がある。 

 なお、 オーガニックミルクの生産量は25万トンで、 全国総生乳生産量280
0万トンの1%弱となっている。 

 イギリスでは、 80年代半ばに大手スーパーマーケットチェーンであるセイフ
ウエーが全店舗でオーガニックフルーツとオーガニック野菜の販売を始めた後、 
他の大手のテスコ、 セインズベリー、 アスダ、 ウエイトローズ等がこれに追従し
た。 食料品小売業や健康食品店が減少し、 スーパー大手4社で食料品市場の約6
割を占める現在、 イギリスのオーガニック食品の流通はスーパーマーケットが中
心となっている (食品小売市場シェア:テスコ (14.5%) 、 セインスベリー
 (12.5%) 、 セイフウエー (8%) 、 アスダ (8%) ) 。 健康食料品店がこ
れに続いているが、 通信販売 (インターネットを含む) や農家の直販も増加して
いる。 健康食品という観点からは、 イギリスの消費者の特徴は、 6人に一人とい
われるベジタリアン嗜好がまず挙げられる。 しかしながら、 最近では、 オーガニ
ックへの理解も広まってきている。 

 イギリスのオーガニック農業は、 約9百戸の農家、 5万2千ヘクタールの耕地
で行われており、 生産高は全体の0.3%と見られる。 表1に、 オーガニック畜
産物の生産の増加を示した。 これは、 イギリスの土壌協会の資料によるものであ
る。 綿羊や家禽はそれぞれスコットランドオーガニック生産者協会、 オーガニッ
ク食品連盟がより多くの生産シェアを握っているといわれているが、 その他につ
いては、 同協会のシェアが9割程度といわれている。 これをみると、 軒並み急増
していることがわかる。 ただし、 このトレンドは、 古くから続いていたものでは
なさそうである。 95年度以前の統計は、 残念ながら、 畜産物に関しては得るこ
とができなかったが、 農作物についてみると表2のとおりである。 従来の緩やか
な増加であったものが、 最近急増したことがわかる。 土壌協会は、 オーガニック
食品の購入理由としては、 環境上の理由よりも、 健康や安全性の問題が鍵である
とのアンケート調査結果をまとめているが、 最近の生産の急増、 すなわち、 需要
の急増の背景には、 牛海綿状脳症問題等により、 消費者の食品の安全性に対する
要求が一段と高まったことが大きな理由の一つと考えられている。 さらに、 イギ
リス政府はオーガニック農業振興策として、 1994年から、 UKROFSの基準に従
っている農家には、 5年間にわたり奨励金を交付している。 交付単価は、 初年度
75ポンド (約1万5千円) /ヘクタールから、 最終年度には25ポンド (約5
千円) /ヘクタールとなっている。 

表1 イギリスにおける最近のオーガニック畜産物生産の増加

 資料:イギリス土壌協会

表2 主なオーガニック野菜等の作付け面積の推移

 資料:イギリス土壌協会

 なお、 冒頭でも述べたが、 この両国を含んだ、 ヨーロッパ諸国 (ドイツ、 フラ
ンス、 オランダ、 デンマーク、 イギリス、 スイス、 オーストリア、 スウエーデン) 
のオーガニック食肉および牛乳乳製品の市場規模の現状と見通しについては、 表
3のような調査報告がある。 

表3 ヨーロッパにおけるオーガニック食肉及び牛乳乳製品の市場規模

 資料:Frost & Sullivan


7 オーガニック畜産物の価格


 表4に生産者価格の例を示したが、 これによればオーガニック畜産物は、 従来
農法で生産された畜産物に比べてほぼ2割高以上で取り引きされている。 イギリ
スやオランダの生乳取引では50%、 110%の価格差も見られている。 好調な
需要に裏付けられたこういった高値での取引が生産者にとってオーガニック農業
へ転換するインセンティブの一つになっていることは容易に伺い知ることができ
よう。 ただし、 オーガニック農業では、 従来農法に比べて単収が低くなることな
どから、 これらの価格差が直接農家の所得の増加にはつながらない。 

表4 畜産物価格の比較(従来農法とオーガニック農法)

 source BER, MAFF


8 おわりに


 EUにおけるオーガニック畜産物の生産基準は、 国や団体間で相違点も多い。 し
かし、 基本原則は共通しており、 化学合成物質を使用せずに生産したオーガニッ
ク飼料を使用し、 動物用医薬品を使用せずに家畜の健康を維持しつつ、 畜舎内外
での家畜の快適かつ自由な活動を担保し、 さらに、 持続的な農業の維持発展とい
った両面から飼養密度に制限を加えている。 これらの条件をEUの農業政策の課題
に照らしてみると、 食品の安全性問題、 家畜への倫理的対応 (動物愛護) 、 環境
対策等、 目下の重要課題に見事に一致する。 こういった点からみると、 消費者の
安全性への関心を背景とした市場の拡大という追い風の中で、 それぞれの課題を
オーガニック農業という媒体を通じていかに実現させてゆくのか、 今後注目され
るところである。 

 オーガニック農産物市場に関しては、 農産物市場の中で既に確固とした地位を
築いていると言える。 根強いオーガニック農産物需要が、 従来型の農産物との大
きな価格差という強い生産インセンティブを生み、 市場は拡大が続いている。 こ
の価格差が消費者の購買意欲の大きな壁になっていることも確かであるが、 消費
者ニーズが価格だけでなく、 安全性、 政策にあった商品志向、 倫理面での満足の
追求と多様化していることを踏まえると、 現在の市場の拡大はしばらく続くと考
えても良さそうである。 さらに、 EUあるいは加盟国が、 環境対策の強化の一貫と
して、 オーガニック農産物生産に財政面でのテコ入れを行うことにでもなれば、 
価格面での改善も図られ、 市場の拡大に拍車がかかる可能性も高い。 オーガニッ
ク畜産は、 政策面だけでなく市場面からも今後の動向が注目される。 


資 料


資料1 糞尿単位


資料2 家畜単位


資料3 飼養密度について

1 採卵用家禽 (屋外運動場と鶏舎) 

(1) 屋外運動場:1ヘクタールあたり最大4千羽 (2. 5平方メートル/羽) 。 

(2) 鶏舎:床面積1平方メートルあたり最大7羽 (床面積の3分の1は、麦わ
      ら、 おがくず、 砂、 芝等の敷料で被われていること) 。 
 
(注:これは、卵の販売に当たっての飼養形態の表示に関する EU規則により、 「半
 集約的飼養」 として区分される条件である。 その他、  「放し飼い」 、  「敷わら
 式鶏舎」 、  「とまり木式鶏舎」 がある) 

2 肉用家禽

 (1) 屋外運動場の面積 (主に草木で被われること) 

 (1)鶏、 バリケン、 北京あひる、 ホロホロチョウ:1羽あたり2平方メートル
 (2)合鴨:3平方メートル/羽
 (3)七面鳥:6平方メートル/羽
 (4)ガチョウ:10平方メートル/羽

 (2) 鶏舎

A:床面積1平方メートルあたりの最大収容羽数

 (1)鶏:12羽で合計体重25kg以下

 (2)バリケンと北京あひる:雄は8羽で合計体重35kg以下
              雌は10羽で合計体重25kg以下

 (3)合鴨:8羽、 合計体重35kg以下

 (4)ホロホロチョウ:13羽、 合計体重23kg以下

 (5)七面鳥:6.25羽 (または7週齢までは10羽)、合計体重35kg以下

 (6)ガチョウ:5羽 (または6週齢までは10羽) 、 合計体重30kg以下

B:一つの生産場所での複数の鶏舎の総合使用可能面積は1千6百平方メートル
  未満

C:1鶏舎の最大収容数は

 (1)鶏4千8百羽
 (2)ホロホロチョウ5千2百羽
 (3)バリケンと北京あひるの雄3千2百羽、 雌4千羽
 (4)合鴨:3千2百羽
 (5)七面鳥およびガチョウ:2千5百羽

D:鶏舎には100平方メートルあたり合計で4mの長さの出入口を設けること。 

E:以下の月齢から屋外運動場を自由に利用できること。 

 (1)鶏:6週齢
 (2)あひる、 ガチョウ、 ホロホロチョウ、 七面鳥:8週齢

3 肥育豚

 EU指令91/630/EECで、以下のとおり畜舎内の飼養密度条件が定められて
いる。 ただし、 オーガニック規則案では、 畜舎内だけでなく、 屋外運動場につい
ても同じ面積を確保するよう求めている。 なお、 EU指令にはこの他飼養管理条件
一般についても定められており、 オーガニック養豚においても準用することとさ
れている。 

 (1)体重10kg以下:0. 15平方メートル/頭
 (2)10〜20kg:0. 20
 (3)20〜30kg:0. 30
 (4)30〜50kg:0. 40
 (5)50〜85kg:0. 55
 (6)85〜110kg:0. 65
 (7)110kg以上:1. 00

4 子牛 (EU指令91/629/EEC) 

 子牛を群で飼養する場合、 150kgの子牛に対して1.5平方メートルの床面
積、 個別に飼育する場合は、 幅を90cm±10%あるいは囲いの高さ×0.8と
することといった条件の他、 飼養管理条件一般について定められている。 オーガ
ニック農業においてもこれらの条件が準用されることとなっている。

参考4 オーガニック農業経営耕地(転換中を含む)の推移


参考5 オーガニック経営戸数の推移

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