◇絵でみる需給動向◇
牛海綿状脳症 (BSE) 問題が新たな展開をみせた昨年3月以来、 EUの牛肉需要 は大きく減少したが、 小売価格の値下がり、 原産地表示への業界の取り組みなど により、 依然低水準ながらも、 域内消費は昨年後半から徐々に回復傾向を示して きた。 BSE問題の発端となったイギリスでさえ、 96年3月には前年同月比30%近 くまで減少した小売販売量が、 今年1月には同1%増にまで回復したとされる。 消費にようやく回復の兆しが見え始めた中、 この1月に、 ドイツ北西部で確認 された1頭のBSEの発症 (本誌トッピクス参照) は、 ドイツ国内のみならず、 EU 全域の牛肉業界に、 再び消費の後退という大きな不安をもたらした。
今回のドイツでのBSE発生ケースが従来の例と異なる点は、 外国 (ドイツ) で、 イギリス産とみられる母牛からの産子牛に発症したという点である。 このため、 BSEが多発したイギリスやスイスから母牛を導入している他の国でも、 類似のケ ースが起こることへの懸念が高まっている。 当事国のドイツでは、 当面の対策として両国からの輸入雌牛のとう汰が決定さ れた。 今後、 病理学的因果関係が確認されれば、 さらにとう汰の範囲が広がる可 能性が高く、 この方面からも関係者に衝撃を与えている。
既に、 ドイツの牛肉消費量は、 今回の症例を契機に、 再び減少に転じたと伝え られており、 打ち消されつつあった域内消費者の牛肉への不信感は、 再び悪化す る兆候を見せている。 ドイツ中央市場情報センターによれば、 1月の最終週の牛 肉販売量は、 ハンブルグで2〜5割も以前の水準より減少しており、 ベルリンや ケルンでも同様の状況にあるとしている。 また一方で、 ハンガリーやポーランド などの周辺諸国がドイツ産牛肉の輸入を禁止したとも伝えられている。 今後、 EUの主要な牛肉輸出相手国がこのような動きに追随したり、 また域内に 牛肉消費の減少傾向が波及した場合には、 EUの牛肉需給に極めて大きな悪影響を もたらすことが予想される。
牛肉の供給過剰対策として昨年4月より再開された介入買入れは、 96年合計 で約43万8千トンに上った。 この結果、 昨年3月末時点で約8千トンに減少して いたEUの介入在庫は、 93年後半の水準まで膨らむことになった。 既に、 業界内に は、 97年の介入買入上限数量である50万トンを超す供給過剰を見込む者もあり、 特に今回の当事国であるドイツや牛肉の輸出依存度が高いアイルランドで、 供給 過剰への危機感は強い。 イギリス食肉畜産委員会によれば、 96年の域内消費量、 域外輸出量とも前年比 で1割以上の減少と予測しており、 EUの牛肉需要はBSE問題により大きく後退し た。 このような状況から、 ようやく回復の兆しが見え始めた矢先での、 今回のド イツのBSE発生ケースは、 供給過剰への大きな懸念となってEU牛肉市場を覆いつ つある。
96年(4月〜12月)のEUの介入買入量 (単位:トン) 資料:MLC「Market Servey」
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