海外駐在員レポート 

96年農業法と米国農業・畜産政策

デンバー駐在員 堀口 明、 藤野哲也
 米国の農業政策を大きく転換することとなった96年農業改良・改革法 (Federal 
Agricultural Improvement and Reform Act of 1996、 96年農業法) が昨年4月
に成立してから1年になろうとしている。 96年農業法も、 これまでの農業法と同
様、 価格支持制度などの米国農業の基本政策を定めた恒久法である38年農業調整
法 (Agricultural Adjustment Act of 1938) や49年農業法 (Agricultural Act 
of 1949) を改正する形で、 96年から2002年までの7年間の米国農業の基本政策
を定めたものとなっている。 

 米国では、 そのときどきの農業情勢に応じて、 4〜5年毎に当該期間について
恒久法を改正する形で農業法を制定し、 農業政策が遂行されてきた。 米国農業法
制定の手法から見れば、 96年農業法も従来の手法を踏襲したものといえる。 しか
しながら、 96年農業法を内容面から見ると、 これまでの農業政策の基本制度を大
きく転換したものとなっており、 今後の米国の農業生産のみならず、 世界最大の
食糧輸出国としての米国の立場から見て、 貿易相手国にも少なからぬ影響がある
と思われる。 

 今月は、 96年農業法が成立した背景として、 米国の農業経営の状況について報
告するとともに、 90年農業法と比較した形で96年農業法による農業政策の内容に
ついて報告する。 さらに、 次回は、 貿易問題や環境問題に関する規定について報
告し、 畜産に関連のある農業団体等の96年農業法に対する評価、 そして、 96年農
業法の制定による今後の米国農業・畜産業への影響などについて報告する予定で
ある。 

1. 米国農業経営の概況


 96年農業法の制定により、 不足払い制度や減反制度が廃止され、 生産者は作付 け作物の選択などについて自由な選択を行うことができるようになった。 これま での価格・所得支持制度は、 生産活動に一定の制限を行う反面、 農産物価格の安 定や農家所得の一定水準での保証が得られることから生産者にとっても、 安定し た農業経営の継続という意味で重要な役割を果たしてきた制度であるといえる。 このような制度であるにもかかわらず、 今回の農業法の検討過程において、 生産 者からは、 農業政策の転換について大きな反対の声はあがらず、 むしろ生産活動 の自由化実施の側面に強い支持が表明された。 生産者の考え方の背景には、 近年 の米国の農業生産を取り巻く情勢が、 制度の廃止と農業生産の自由化実施の選択 に影響を与えたものと思われる。 ここでは始めに、 96年農業法成立の背景として の、 近年の米国農業の状況などについて簡単に報告する。 (1) 農家戸数の減少と大規模化
 近代国家に共通する傾向であるが、 近年、 米国における農家戸数は一貫して減 少傾向を示している。 96年9月に米国農務省 (USDA) が議会に報告した96年農家 収入・生産費調査 (1993 Farm Costs and Returns Servey) によれば、 米国の農 家戸数は、 1935年の約680万戸を境にほぼ一貫して減少し、 93年には約200万戸と なっている (図−1)。 ◇図−1 米国の農家戸数の推移◇  農家戸数の減少とは逆に、 1戸当たりの農地面積は、 35年の155エーカーから、 93年には436エーカーとなり、 規模拡大が進んでいる。  また、 米国の統計上、 非商業生産農家とされる年間販売額5万ドル未満の農家 は、 全体農家の73%と多数を占めているが、 販売額では約10%を占めるに過ぎな い。 逆に、 戸数割合では0.7%に過ぎない年間販売額100万ドル以上の農家の販売 額シェアは26%となっている。 1900年には全体農家数の約17%で全体生産額の半 分を生産していたが、 93年には4%の農家が半分の生産を行っており、 米国の農 業生産が一部の大規模経営によって担われている様子がうかがえる (表−1)。 表−1 販売額割合と達成農家 (全体農産物販売の内、25、50、75%を達成するため必要な農家戸数、農家割合) ───────────────────────────────────── 区  分 │ 農家戸数 │   全体の農産物販売額に占める割合 │ (1993) │   25% │  50% │  75% ───────────────────────────────────── 農家戸数(戸) │ 2,063,300 │ 12,800 │ 82,854 │ 273,866 ───────────────────────────────────── 農家割合(%) │ 100 │ 0.6 │ 4.0 │ 13.3 ─────────────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「1993Farm Costs and Returns Servey」   注:農家戸数は、ハワイ、アラスカ州を除いた48州のものである。  従来の米国農業の基本政策が定められた30年代から40年代にかけては、 人口の 4分の1が農村地域に暮らし、 勤労者の約4割が農業関係の仕事に従事していた とされている。 現在では、 農村地域に暮らす人の割合は、 人口の2%にも満たな いものとなっている。 農村地域の人口減少は、 中西部などの純農村地域において 雇用問題や地域社会の崩壊といった問題を提起している。  農業関係諸政策実施に対する支持は、 政策決定の場である議会において農業生 産者の声を代表する議員や農業問題に理解のある議員の数が減少することにより、 次第に薄れつつあると言える。 (2) 経営形態の変化
ア. 経営の主体は家族経営農家  5年毎に実施されている米国の農業センサスでは、 農業経営を(1)個人または 家族経営、 (2)共同経営、 (3)企業経営、 (4)その他 (農業協同組合、 団体など)の 4つに分類している (表−2)。 米国においては、 一般的には家族経営農業が衰 退し、 企業経営農業が進展しているとの懸念が持たれている。 しかしながら、 農 業センサスの結果から見ると、 農家戸数や農産物販売額シェアにおいて、 家族経 営農業が著しい減少を示しているということにはなっていない。 共同経営に分類 されているものでも、 親子間や兄弟間での共同であったり、 企業経営においても 家族を中心に株式が所有されるなど、 10人以下の出資者構成のものが主体となっ ており、 通常考えられている以上に、 農業生産における家族経営農業の比重は、 高い地位を維持している。  92年の農業センサスにおける農家戸数の構成内容を見ると、 個人・家族経営農 業が主体となっており、 全体の85.9%で、 このクラスの販売額は、 全体の54.1% を占めている。 家族経営を広義にとれば、 共同経営や企業経営の内の家族保有企 業も含めて考えることができるので、 このような形で集計を行えば、 依然として 家族を経営の主体とする農業が生産の主体となっていることがわかる。  家族以外によって株式が所有されている純粋な企業経営農業の割合は、 戸数割 合で見れば78年0.3%が92年に0.4%とわずかに増加し、 農産物販売割合では78年 の6.5%が92年は6.0%にやや減少となっているが、 それほど大きな変化を示して いない。  この結果から見れば、 農業経営においては、 個人・家族経営を主体としつつ、 個人・家族経営から共同経営や企業経営へ移行する傾向にあるといえる。 そして、 これらの経営が個人・家族経営の生産シェアの減少を補っていると言える。 表−2 経営形態別農家・生産額割合の推移 単位:% ─────────────────────────────────────── │ 農家割合 │ 農業生産額割合       │────────────────────────────────  区  分 │ 1978 │ 1982 │ 1987 │ 1992 │ 1978 │ 1982 │ 1987 │ 1992 ─────────────────────────────────────── 個人・家族 │ 87.1 │ 86.8 │ 86.7 │ 85.9 │ 61.6 │ 59.2 │ 56.3 │ 54.1 共同 │ 10.3 │ 10.0 │ 9.6 │ 9.7 │ 16.1 │ 16.4 │ 17.1 │ 18.0 企業 │ 2.2 │ 2.7 │ 3.2 │ 3.8 │ 21.6 │ 23.9 │ 25.6 │ 27.2  家族保有 │ 2.0 │ 2.3 │ 2.9 │ 3.4 │ 15.1 │ 17.4 │ 19.5 │ 21.1 10人以下│ 1.9 │ 2.3 │ 2.9 │ 3.3 │ 13.9 │ 15.7 │ 18.0 │ 18.3 10人以上│ 0.1 │ 0.1 │ 0.1 │ 0.1 │ 1.2 │ 1.7 │ 1.5 │ 2.9  その他 │ 0.3 │ 0.3 │ 0.3 │ 0.4 │ 6.5 │ 6.5 │ 6.1 │ 6.0  10人以下│ 0.2 │ 0.3 │ 0.3 │ 0.4 │ 3.6 │ 4.2 │ 4.3 │ 4.0  10人以上│ 0.1 │ 0.1 │ 0.0 │ 0.1 │ 3.0 │ 2.4 │ 1.8 │ 2.0 その他 │ 0.4 │ 0.5 │ 0.6 │ 0.6 │ 0.6 │ 0.5 │ 0.9 │ 0.7 ───────────────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「Stractural Change in the U.S.Farm Sector」    「Census of Agriculture」   注:区分欄の人数は出資者の数 イ. 農産物の生産・流通形態に変化  アで述べたように、 経営の形態にあまり大きな変化は見られない一方、 経営内 容・方法においては、 農産物の生産と販売の方法の面において大きな変化が見ら れる (表−3)。 例えば、 生産者は、 農産物の販売方法として、 従来は近隣の地 方市場においてその時々の市況により販売を行っていた。 規模の小さい農業経営 ではあまり変化はみられないものの、 大規模経営になるほど、 このような販売形 態から事前の生産契約 (契約相手側の所有、 価格リスクにより生産し、 生産者は 生産行為に対する報酬を受ける) や販売契約 (販売数量や価格の取り決めを行い、 生産者の所有とリスクにより生産を行う) により農産物の生産や販売を行う傾向 が進んでいる。  このような生産と流通の形態の最も進んだものが垂直的統合 (Vertical Inte gration) である。 垂直的統合の主体となる企業は、 自ら一貫した生産・流通・ 加工施設を所有するとともに、 これと併せて、 契約農家との間で生産契約や販売 契約を結んで、 農産物生産・流通において大きな地位を占めるようになってきて いる。  90年代初めまでには、 ブロイラー産業や鶏卵産業などで垂直的統合が形成され、 現在は、 養豚産業で垂直的統合が伸展している。 垂直的統合の下で生産を行う農 家の戸数はそれほど多くはないが、 大規模経営が多いため、 生産・販売シェアに おいては大きな割合となっている。 垂直的統合の下での生産は、 生産の効率化、 輸出競争力があることなどのメリットが見られるが、 公正な価格形成が阻害され るとの懸念が持たれている。 以上のような農家生産規模の拡大や契約生産の増加 は、 生産者の企業的経営感覚の高まりを表していると考えられる。 表−3 生産・販売契約実施状況 ─────────────────────────────────────── 区  分 │   農家戸数 │ 農地面積 │平均年間販売額│年間販売額 │     (戸,%) │ (エーカー) │  (ドル) │ (億ドル) ─────────────────────────────────────── 現金販売のみ│ 1,837,992(89.1) │ 409 │  49,967 │ 918 契約販売実施│ 225,308(10.9) │ 661 │  267,248 │ 602  生産契約 │ 43,609( 2.1) │   380 │  484,985 │ 211  販売契約 │ 185,736( 9.0) │   730 │  225,691 │ 419 ───────────────────────────────────────  合 計 │ 2,063,300 │   436 │  73,694 │ 1,520 ───────────────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「Stractural Change in U.S.Farm Sector」   注:1.契約販売農家は、必ずしもすべての農産物を契約対象としている訳       ではない。     2.生産契約と販売契約の両方を実施している農家は、それぞれの内数       に含まれている。 (3) 農業経営の状況
ア. 農業所得  90年から95年までの間の農業純所得の平均は、 430億ドルとなっており、 順調 な拡大を示していると言える。 95年のように飼料穀物価格の上昇が畜産経営のコ スト上昇に結びついたことによって、 生産費上昇を招き、 所得を縮小させたこと に見られるように、 農業生産には常に不確定要因が付随しているが、 生産者の米 国農業の将来に対する見方は、 海外需要の拡大を中心とした需要の拡大を期待し て、 今後とも拡大傾向を維持するものと考えられている (表−4、 図−2)。 表−4 農業所得の推移   単位:10億ドル ───────────────────────────────────── 区 分 │ 1990 │ 1991 │ 1992 │ 1993 │ 1994 │ 1995 │ 1996* ───────────────────────────────────── 1.現金粗収入 │187.1 │184.3 │188.7 │200.1 │197.8 │203.9 │219.6 2.現金外収入 │ 7.9 │ 7.8 │ 7.7 │ 8.5 │ 9.8 │ 9.9 │ 10.2 3.資産修正 │ 3.3 │ -0.2 │ 4.2 │ -4.5 │ 8.2 │ -3.4 │ 3.4 4.粗収入(1+2+3) │198.2 │191.9 │200.6 │204.2 │215.8 │210.4 │233.2 ───────────────────────────────────── 5.費用 │153.4 │153.3 │152.5 │160.5 │167.4 │175.6 │182.4 ───────────────────────────────────── 6.純所得(4-6) │ 44.8 │ 38.5 │ 48.0 │ 43.6 │ 48.4 │ 34.8 │ 50.8 ─────────────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「Agricultural Outlook December 1996」   注:96年*は予測。     農家所得=現金純収入(農産物販売収入、補助金収入、農業関連収入等)     −生産総費用(肥・飼料費、家畜導入費、燃料費、修繕費、支払利息、     雇用労働費、原価償却費、租税公課等)+非現金収入(農産物自家消費     相当額等) ◇図−2 農業所得の推移◇ イ. 農家所得  USDAの調査によれば、 米国の農家1,996,793戸 (1994年、 ハワイ州とアラスカ 州を除く) を年間所得規模別に分類すると、 5万ドル未満の非商業的生産農家が 73.0%と多数を占め、 5万ドルから25万5千ドル未満のクラスが21.9%、 25万5 千ドルから50万ドル未満のクラスが3.5%、 50万ドル以上は2.2%となっている。 5万ドル未満の農家の平均所得は、 農業部門では赤字となっており、 賃金や給与 などの農外所得に頼る形になっている。 一方、 商業的生産と分類されている5万 ドル以上の農家については、 農業所得だけで見ても黒字となっている。 販売規模 別に所得内容を見た場合には、 販売規模の増大とともに全体所得に対する農外所 得の比率は減少している。 商業的生産農家の94年の平均所得額は54,090ドルで、 全米家計平均所得の42,469ドルを大きく上回っている。 農業を主体とする経営に あっては、 全米平均と比べて高い所得を得ていると言える (表−5)。 表−5 販売規模別の農家年間平均所得 単位:ドル ──────────────────────────────────── 区  分 │$50,000 │ $50,000〜│$250,000〜│$500,000〜│ 全農家 │ 未満 │ $249,000 │$499,000 │  │ 平 均 ──────────────────────────────────── 1990 農家所得 │ 33,889 │ 37,838 │ 79,174 │ 150,733 │ 39,007 農業 │ -3,387 │ 16,236 │ 53,314 │ 118,035 │ 5,742 農外 │ 37,276 │ 21,602 │ 25,860 │ 32,698 │ 33,265 1991 農家所得 │ 33,822 │ 33,147 │ 71,330 │ 177,910 │ 37,447 農業 │ -1,840 │ 13,952 │ 47,333 │ 143,421 │ 5,810 農外 │ 35,662 │ 19,195 │ 23,997 │ 34,489 │ 31,638 1992 農家所得 │ 38,527 │ 41,968 │ 65,117 │ 192,616 │ 42,911 農業 │ -1,712 │ 19,925 │ 45,520 │ 149,408 │ 7,180 農外 │ 40,239 │ 22,044 │ 19,597 │ 43,208 │ 35,731 1993 農家所得 │ 35,597 │ 41,372 │ 66,008 │ 153,328 │ 40,223 農業 │ -2,815 │ 14,655 │ 40,551 │ 120,487 │ 4,815 農外 │ 38,413 │ 26,718 │ 25,457 │ 32,840 │ 35,408 1994 農家所得 │ 38,168 │ 40,758 │ 72,518 │ 155,711 │ 42,469   農業 │ -3,522 │ 12,143 │ 50,178 │ 119,929 │ 4,376   農外 │ 41,690 │ 28,615 │ 22,340 │ 35,782 │ 38,092 ────────────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「1994 Farm Costs and Returns Servey」   注:農業所得は、現金収入から原価償却費差し引き、在庫農産物の棚卸し評     価修正と非現金収入を加えたもので、農家経営の収益、損失の状況を示     すとともに、家族労働、投資資本の見返りを表す。    農業における価格・所得支持政策実施の論拠としては、 これまで、 農家所得を 一般家計所得の水準に近づけることが必要であるとの説明がされてきた。 現在で は、 少なくとも年間所得が5万ドル以上の商業的生産農家については、 この論拠 の基盤を失う状況になっている。 また、 年間5万ドル以下の非商業的生産農家を 含めた全体として見ても、 農家収入は農外収入を加えることにより、 米国の一般 家計の所得水準をほぼ達成していると言える。 このような状況から、 農業補助制 度の必要性に対する説明は、 説得力を失いつつあると言える (表−6)。  農業所得問題については、 平均所得の向上という段階を超えて、 農業生産にお いては避けることのできない、 天候異変や自然災害による被害に対する所得補償 対策を検討する段階に達したと考えられる。 表−6 農家年間所得と一般家計年間所得の推移                     (単位:ドル) ─────────────────────────── 年 │ 農家所得(1) │ 米国家計所得(2)│比率(1)/(2) ─────────────────────────── 1960│ 4,054 │ 6,227 │ 0.65 1970│ 9,472 │ 10,001 │ 0.95 1980│ 18,572 │ 21,063 │ 0.88 1990│ 39,007 │ 37,403 │ 1.04 1991│ 37,447 │ 37,922 │ 0.99 1992│ 42,911 │ 38,840 │ 1.10 1993│ 40,223 │ 41,428 │ 0.97 1994│ 42,469 │ 43,133 │ 0.98 1995│ 44.392 │ 44,938 │ 0.99 ───────────────────────────  資料:USDA、ERS、「Farm Costs and Returns Servey」     USDC、Bureau of the Census 「Money Income of Households,Families and Persons in the U.S.」 ウ. 農業資産価値  農家資産の中心となっているのは、 農地と建物であるが、 好調な米国の農業生 産を背景としてこれらの資産価値もここ数年来、 安定した上昇傾向を示している。 これらの資産の価値は農業生産の収益性と連動しており、 80年代中期の農産物価 格の低落時には、 農家資産の価値が低落し、 一方、 需要の増大等により収益性が 向上すれば、 農家資産の価値は上昇する (表−7)。 表−7 農家の資産状況 (単位:10億ドル) ─────────────────────────────── 区 分 │ 1990 │ 1991 │ 1992 │ 1993 │ 1994 │ 1995 ─────────────────────────────── 農家資産 │838.8 │842.4 │870.4 │907.2 │937.8 │971.6 不動産 │618.4 │624.4 │642.8 │673.7 │706.1 │755.5 家畜 │ 70.9 │ 68.1 │ 71.0 │ 72.8 │ 67.9 │ 54.7 車両・機械 │ 85.4 │ 85.9 │ 85.5 │ 86.7 │ 87.9 │ 86.9  備蓄農産物 │ 23.0 │ 22.2 │ 24.2 │ 23.3 │ 23.1 │ 25.1 購入資材 │ 2.8 │ 2.7 │ 3.9 │ 4.2 │ 5.0 │ 3.4 金融資産 │ 38.3 │ 40.6 │ 43.1 │ 46.6 │ 47.8 │ 45.9 ─────────────────────────────── 農家負債 │137.9 │139.2 │139.0 │141.9 │146.7 │150.6 ─────────────────────────────── 農家財産 │700.9 │703.2 │731.4 │765.3 │791.1 │820.9 ─────────────────────────────── 負債/資産(%) │ 16.4 │ 16.5 │ 15.9 │ 15.6 │ 15.6 │ 15.5 ───────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「Agricultural Outlook December 1996」  農家資産価値が上昇する中で農家の負債額の上昇率は、 比較的緩やかなものと なっている。 農家の財政状況を負債対資産の比率で見てみれば、 90年から95年に かけては、 15から16%台と安定して良好な割合を示している。 80年代中期の農業 危機の際には、 この比率が20%を上回っていた。 負債対資産の比率が40%以上の 負債比率の高い農家の割合は、 86年をピークに年々減少している。 また、 この比 率が70%以上の経営状況の良くない農家の割合は、 80年代中期の9%から95年に は4%に減少している。 これらの数字は、 現在の農業経営が良好な状態にあるこ とを示している。 (4) 農産物貿易
 95年度の米国農産物輸出額は、 81年度に記録した438億ドルを大きく上回る542 億ドルを記録した。 記録達成の原動力となったのは、 小麦や飼料穀物などのバル ク農産物の輸出が大幅に増加したことによるものであるが、 食肉などの高価値農 産物の輸出も大きく増加している (表−8)。 表−8 米国の農産物貿易の状況   (単位:10億ドル) ─────────────────────────────────── 区  分 │1992FY│1993FY│1994FY│1995FY│1996FY* │1997FY* ─────────────────────────────────── 農産物輸出計 │ 42.4 │ 42.6 │ 43.5 │ 54.2 │ 60.0 │ 58.0  主要バルク農産物 │ 17.4 │ 17.0 │ 16.2 │ 22.4 │ 27-28 │ 23-24 その他 │ 25.0 │ 25.6 │ 27.4 │ 31.8 │ 32-33 │ 34-35  (内)畜産物 │ 7.9 │ 8.1 │ 8.9 │ 10.8 │ 12.1 │ 12.7    園芸作物 │ 6.9 │ 7.3 │ 8.1 │ 9.1 │ 9.3 │ 9.8 ─────────────────────────────────── 農産物輸入 │ 24.3 │ 24.5 │ 26.4 │ 29.5 │ 31.5 │ 32.0  園芸作物 │ 8.4 │ 8.6 │ 9.1 │ 9.9 │ 10.9 │ 11.1  コヒー,ココア,ゴム │ 3.7 │ 3.4 │ 4.0 │ 6.0 │ 5.8 │ 5.8 貿易収入 │ 18.0 │ 18.0 │ 17.1 │ 24.6 │ 28.5 │ 26.0 ───────────────────────────────────  資料:USDA、ERS、「Agricultural Outlook, December 1996」   注:1.96、97年度*は、見込み     2.年度は財政年度(10月から翌年9月)  好調な農産物輸出の背景には、 経済成長を続けるアジア諸国や中南米諸国など への輸出の拡大が挙げられる。 さらに、 米国の農業政策の転換の背景には、 大き な財政負担を伴いつつ農産物供給のコントロールを行うよりも、 国際競争力を増 して海外市場への米国農産物輸出の拡大を図ることの方が得策であるとの考えが あると見られる。 (5) 96年農業法決定の背景
 今回のような形で農業法が定められ、 農業政策の方向転換がなされた理由とし ては、 大きな財政負担を伴う所得・価格支持制度などの農業政策を変更し、 財政 支出を抑えて予算の均衡を図ることが必要とされていた点が一つの大きな要因で あった。  これを実現させるための客観的背景として、 これまで述べてきた最近の米国農 業を取り巻く情勢があったことも認識しておく必要があると思われる。  米国農業の生産構造の変化や米国の農業生産に依存する海外需要の高まりによ り、 生産者は、 これまでの諸制度による保護の対価として政府により管理された 生産を受け入れる代わりに、 自らリスクを負うとしても自由な農業生産を行う道 を選択したといえる。

2. 90年農業法と96年農業法


 米国の農業政策の基本は、 大恐慌や第二次世界大戦の影響による混乱から農村 経済を復興させることを目的として1930年代や40年代に農家収入安定のために定 められた法律に基づいている。 90年農業法もこのような農業政策の系列に属する ものであり、 農産物価格の安定と農家所得の補償を目的とした制度が採用されて いる。  具体的には、 主要農産物である小麦や飼料穀物について、 不足払い制度とロー ンレート制度の2つの制度により農産物価格の安定と農家所得の補償がなされて きた。 また、 これらの事業に参加する条件として、 作付け作物の規制や減反計画 (Acreage Reduction Program、 ARP) への参加を義務付けることにより、 農産物 供給の管理が行われてきた。  96年農業法による大きな改革は、 農業政策の基本とされてきた不足払い制度や 減反計画が廃止された点にあると言える。  ここでは、 96年農業法の内容を把握する方法として、 従来、 農業法の下でどの ような制度が実施されてきたかを、 90年農業法と96年農業法を比較する形で見て いくことにする。 (1) 農産物計画
ア. 飼料穀物等の不足払い制度 (ア) 90年農業法の下における不足払い制度  小麦、 飼料穀物 (トウモロコシ、 ソルガム、 大麦、 えん麦)、 綿花、 米を対象 とした不足払い制度は、 目標価格を設定し、 市場価格が目標価格を下回った場合 に、 目標価格と市場価格の差額を生産者に不足払いするという所得補償制度であ る。 ただし、 市場価格がローンレートを下回っている場合には、 目標価格とロー ンレートの差額を単価として計算された額となる。 目標価格は、 基本的には生産 費を基礎として算出されるが、 予算削減要求など様々な要因で調整が行われてき た (図−3)。 ◇図−3 不足払い制度・ローンレート制度の仕組み◇ (イ) 96年農業法と不足払い制度 a. 不足払い制度の廃止と生産柔軟化契約  96年農業法は、 従来の農業政策の中心ともいえる不足払い制度を廃止し、 これ に替わって生産柔軟化契約 (Production Flexibility Contract、 PFC) の締結に より、 市場価格の動向にかかわらず一定の補助金を生産者に支払うという制度を 導入した。 また、 事業参加の条件として減反計画 (ARP) への参加義務を撤廃す るとともに作付け作物選択についても規制を大幅に緩和した。 価格支持制度とし ては、 ローンレート制度が残されたものの、 今後の農業生産については、 生産者 が自ら市場動向を指針として意志決定を行い、 リスクについてもまた生産者自ら が負うことが求められるようになった。 96年農業法で規定された生産柔軟化契約 の概要は次のとおりである。 b. 生産柔軟化契約の概要 (1)参加資格・条件 ・過去5年間に1回以上農産物価格支持計画に参加したことのあること。 ・環境保全対策を実施すること。 ・契約対象地で農業生産をおこなうこと。 ・事業への中途参加は認めない。 (2)補助金の受給 ・契約締結により、 7年間、 毎年所定の補助金を受給することができる。 ・補助金は、 前金払い受給 (50%) が認められる。  96年度   前金払 契約締結後30日以内   残金  9月30日  97年度以降   前金払 9月30日   残金  12月15日または翌年1月15日 (3)補助金の年度別配分額及び農産物別配分割合 ─────────────────────────── 年度 │金額(10億ドル)│ 補助金配分割合(%) ─────────────────────────── 1996 │ 5.5700 │ 小麦        26.26 1997 │  5.3850 │ トウモロコシ    46.22 1998 │ 5.8000 │ ソルガム       5.11 1999 │  5.6030 │ 大麦         2.16 2000 │  5.1300 │ えん麦        0.15 2001 │  4.1300 │ アップランド綿花  11.63 2002 │  4.0080 │ 米         8.47 ─────────────────────────── 合計 │ 35.6260 │ 100.00 ─────────────────────────── (4)補助金の額の計算 ・補助金の支払いは、 契約農地面積の85%について行う。 ・従前の不足払い制度の補助金を生産柔軟化契約の支払いにおいて調整できる。 ・個別の生産者に対する補助金支給額の算定は次により行う。 契約対象農地面積×0.85×支払反収×支払単価 注:支払単価=農産物別総予算額/農産物別事業参加総面積 (5)その他の規定 ・環境保全を目的とした休耕計画である土壌保全保留計画 (CRP) の契約対象農  地は、 契約の満了または中止を行った場合には、 契約対象地とすることができ  る。 ・所有者及び生産者の変更の場合は、 新所有者または新生産者が契約による義務  をすべて履行することを了承しない限り契約は失効する。 c. 生産柔軟化契約の締結状況  USDAは、 96年農業法施行の1週間後に生産柔軟化契約締結の案内を行い、 事業 の参加申し込みを5月20日から8月1日までの間とした。 この間、 事業参加のあ る生産者18万8千戸の内、 89.1%に当たる16万8千戸から申し込みがあり、 契約 実施面積では、 契約可能対象農地2億1,016万エーカーの内、 98.8%に当たる2 億756万エーカーが対象となった (表−9)。 表−9 生産柔軟化契約の締結状況 ──────────────────────────────────────    │ 生産者戸数ベース(戸、%) │  契約農地ベース(エーカー、%) 農産物│────────────────────────────────── │有資格農家│ 参加農家 │参加率│参加可能農地│ 参加農地 │参加率 ────────────────────────────────────── 小麦 │ 1,042,042│ 953,995 │ 91.6│ 77,345,101│ 76,673,892 │ 99.1 トウモロコシ│ 1,389,100│1,235,795 │ 89.0│ 82,084,594│ 80,726,420 │ 98.3 ソルガム │ 368,948│ 343,724 │ 93.2│ 13,246,904│ 13,093,078 │ 98.8 大麦 │ 234,881│ 216,309 │ 92.1│ 10,640,419│ 10,528,502 │ 98.9 えん麦│ 572,017│ 513,334 │ 89.7│ 6,364,769│ 6,176,378 │ 97.0 綿花 │ 169,655│ 164,632 │ 97.0│ 16,302,861│ 16,202,154 │ 99.4 米 │ 22,669│ 22,382 │ 98.7│ 4,176,420│ 4,157,904 │ 99.6 合計 │ 1,887,194│1,681,921 │ 89.1│ 210,161,067│207,558,418 │ 98.8 ──────────────────────────────────────  資料:USDA「News Release August 19,1996」  生産柔軟化契約は、 保全順守を約束する以外に生産を制限する特別な条件が課 せられる訳ではないため、 事前の予想どおり極めて高い事業参加率となった。 事 業に参加しなかった生産者は、 少額の補助金を受けるために煩わしい手続を行う ことを嫌ったものと考えられる。 実質的には、 ほとんどすべての有資格生産者が 事業に参加したと言える。 イ. ローンレート (短期融資) 制度 (ア) 90年農業法の下におけるローンレート制度  ローンレート制度は、 不足払いの対象となっている農産物以外に大豆や落花生 などの農産物にも適用される制度である。 生産者は、 生産した農産物の全部また は一部を商品金融公社 (CCC) に質入れし、 質入れ数量に応じて農産物毎の所定 のローンレート (融資単価) により計算された資金の融資を受けることができる。 融資資金は、 9カ月以内にその間の利息を付けて返還することとされている。 生 産者は、 預け入れた農産物をCCCに引き渡すことにより (質流れ) により返済義 務を免れることができる。  この制度により、 市場価格がローンレートより高いときには、 生産者はCCCか らの融資資金を返済して質入れしていた農産物を引き取り、 市場で販売すること になる。 また、 市場価格がローンレートを下回っているときは、 質流れにより返 済義務を免れる方法を選択することになる。 このような仕組みにより、 収穫時期 に一度に大量の農産物が流通し市場価格の低落を招くことを防止するなど市場流 通量と価格の調整機能が果たされることになる (図−3)。 (イ) 96年農業法とローンレート制度 a. ローンレート制度の継続  96年農業法ではローンレート制度の継続が決定された。 不足払い制度の廃止に よりこの制度の重要性が増すものと考えられる。 各農産物の2002年までのローン レートの設定方法については、 次のとおり規定された。 なお、 USDAは今年2月6 日に発表した98年の予算要求において、 現在9カ月間とされている融資期間を農 務長官の権限により12カ月間まで延長できるよう要求している。 (a) 小麦及びトウモロコシ ・最高と最低を除いた直近5年間の単純平均価格の85%以内の額。 ただし、 小麦  については$2.58/ブッシェルをトウモロコシについては$1.89/ブッシェル  を上限とする。 ・在庫数量を基準としたローンレート調整を10%を限度として実施できる。 (小麦の場合)  期末在庫量 (A) と当該年度の需要見込み量 (B) の比率 (A/B) によりつぎの とおり調整することができる。 (1)比率が30%以上のとき、 農務長官は、 10%以内でローンレートを引き下げる  ことができる。 (2)比率が15%以上、 30%未満のとき、 農務長官は、 5%以内でローンレートを  引き下げることができる。 (3)比率が15%未満のとき、 農務長官は、 ローンレートの調整は行えない。 (トウモロコシの場合)  期末在庫量 (A) と当該年度の需要見込み量 (B) の比率 (A/B) によりつぎの とおり調整することができる。 (1)比率が25%以上のとき、 農務長官は、 10%以内でローンレートを引き下げる  ことができる。 (2)比率が12.5%以上、 25%未満のとき、 農務長官は、 5%以内でローンレート  を引き下げることができる。 (3)比率が12.5%未満のとき、 農務長官は、 ローンレートの調整は行えない。  なお、 96年については、 いずれもこの率が低いため、 ローンレートの引き下げ 調整は行われない。 (b) ソルガム、 大麦及びオーツ  トウモロコシ価格を参考として農務長官が決定する。 (c) アップランド綿花  最高と最低を除いた直近5年間の単純平均価格の85%の額または当該年度の 7月1日からの15週間の平均価格の90%の額のいずれかよりも低い額。 ただし¢ 50.00/ポンド以上¢51.92/ポンド以下であるものとされている。 (d) ELS綿花  最高と最低を除いた直近5年間の単純平均価格の85%の額。 ただし¢79.65/ ポンド以下であるものとされている。 (e) 米  96年から2002年の間のローンレートは、 $6.50/100ポンドに固定されている。 (f) 大豆  最高最低を除いた直近5年間の単純平均価格の85%の額。 ただし$4.92/ブッ シェル以上$5.26/ブッシェル以下であるものとされている。 (g) マイナー油糧種子 (ひまわり油など)  最高と最低を除いた直近5年間の単純平均価格の85%の額。 ただし$8.70/10 0ポンド以上$9.30/100ポンド以下であるものとされている。 b. 96年農業法における農家所有保管 (Farmer-Owned Reserve、 FOR) 制度  ローンレート制度は、 生産者がCCCに対して農産物を質入れすることにより、 市場流通を抑えることにより価格調整機能を果たす制度であるが、 FOR制度もこ れと同様にローンレート制度によりCCCに預け入れた農産物を再度CCCに預け入れ 融資を受ける制度で、 実質的にはローンレート制度の預け入れ期間を延長するも のと考えることができる。 ローンレート制度による融資機関満了時の農産物市場 が低迷している場合に生産者は、 ローンレート制度からFOR制度による融資に切 り替えることができる。 これにより市場流通量が抑制されることになる。 FORに よる融資期間はローンレート終了後27カ月間とされている。 生産者はこの間、 い つでも融資の返済により農産物を引き取ることができ、 期間満了時には、 ローン レート制度と同様に質流れにより融資資金の返済義務を免れることができる。  90年農業法では、 (1)トウモロコシの期末在庫対次年度需要量の見込割合が22. 5%以上のとき、 または、 (2)トウモロコシの市場価格が90日以上連続してローン レートの120%以下であるとき、 農務長官は、 FORの実施を認めることができると している。 また、 (1)と同時に(2)の状態が続いた場合には、 3月15日までに次の 収穫年度にFORを実施するとされている。 なお、 事業対象数量の上限は、 事業の 実施時に公表することとされている。 FORは、 ローンレート制度による融資の実 施を前提としており、 農家は、 ローンレート制度による農産物の預け入れと融資 を受けずに最初からFORによる農産物の預け入れと融資を受けることはできない とされている。 FORの実施においてUSDAは、 市場価格が目標価格の95%未満の ときは生産者に保管料相当額 (26.5¢/ブッシェル) を支払うものとされている。 また、 市場価格が目標価格の105%を超えているときには、 生産者から利息を徴 収することとされている。  96年農業法では、 この規定を廃止しなかったが、 2002年までの間は適用を停止 するとした。 ウ. 減反計画 (Acerage Reduction Program ARP) 等  90年農業法の下で生産者は、 不足払い制度やローンレート制度により補助金を 受給するための条件として、 ARPに参加しなければならないとされていた。 減反 の実施は、 基本農地面積に対して期末在庫量と年間需要割合を勘案して政府が定 めた一定割合により実施することとされていた。 ARP対象地は不足払い補助金の 対象とならないとされている。 ARPは政府の補助金支出を削減することと農産物 の余剰生産を目的として設けられた制度であるが、 供給を制限することにより農 産物価格を引き上げる効果もあるとされている。  ARPは、 政府が在庫数量と次年度の需要見込みから実施率を決定するものであ るが、 90年財政調整法により基本農地面積の15%までついて、 所得・価格支持制 度の参加資格を失わずに野菜と果物以外の農産物を自由に作付けすることができ る制度が採り入れられた。 但しこの農地も、 不足払いの対象とされないこととな っている。  96年農業法では、 これらの減反に関する規制が廃止され、 すべての農地につい て野菜と果物を除く作付けの自由が保証された。 エ. 補助金支給制限  96年農業法では、 農産物計画による補助金受給の条件を厳しく設定した。 規定 の内容は次のとおりである。 ・従来からの3戸経営原則 (自らの経営に加えて、 経営権のある他の2つまでの  経営について補助金を受けることができる規定) を存続する。 ・1農家当たりの補助金支給額の上限は、 従来の年間5万ドルから4万ドルに減  額する。 また、 3戸経営原則による第2及び第3の経営に対する支給額の上限  は、 それぞれ2万ドルとする。 ・マーケティングローン制度 (国際価格がローンレート以下となった場合に国際  価格水準により融資の返済を認める制度) による1農家当たりの受益限度額は、  7万5千ドルとし、 3戸経営原則による第2及び第3の経営に対する受益限度  額は、 それぞれ3万7千500ドルとする。 オ. 酪農関係制度  米国の酪農関係制度としては、 連邦ミルク・マーケッティング・オーダー制度 と乳製品価格支持制度の2つの基本的な制度を挙げることができる。 連邦ミルク ・マーケッティング・オーダー制度は、 飲用基準の生乳の最低取引価格を規定し、 乳製品価格支持制度は、 バター、 チーズ、 脱脂粉乳の政府による買い入れにより 乳製品の価格を支持し、 間接的に加工原料乳向け生乳の価格を支持する制度であ る。 96年農業法では、 この2つの制度について大幅に改革し、 生乳販売における 価格競争の方向が示されたと言える。 (ア) 連邦ミルク・マーケッティング・オーダー制度 a. 90年農業法の下における連邦ミルク・マーケッティング・オーダー制度  連邦ミルク・マーケッティング・オーダー制度は、 37年農産物取引協定法 (Ag ricultural Marketing Agreement Act of 1937) に基づき設けられた制度で、 飲 用乳の秩序ある取引市場を確立し、 消費者に対する安定的な牛乳供給を確保し、 乳価と生産者収入の安定を図ることを目的とした制度である。 この目的を達成す るため、 (1)飲用規格生乳 (グレードA) に用途別最低価格を設定し、 (2)プール 乳価を算定して生産者へ乳価を支払う、 ことが定められている。  連邦ミルク・マーケッティング・オーダー制度は飲用向けのグレードA生乳を 対象としたものであるが、 グレードA生乳のすべてが飲用として使用される訳で はないので、 その用途により、 クラス1 (飲用向け)、 クラス2 (アイスクリー ム、 カッテージチーズ、 ヨーグルトなどのソフト乳製品向け)、 クラス3 (バタ ー、 チーズ、 脱脂粉乳などのハード乳製品向け) に分類され、 毎月、 クラス別に 取引の最低価格が決定される。 クラス別価格の算定に当たってUSDAは、 最初にク ラス3の取引価格を算定する。 この制度では、 長年の間、 ミネソタ・ウイスコン シン価格 (M-W価格) が乳価の指標とされてきたが、 USDAは95年の5月から、 M-W 価格に調整要素を加味した基本公式価格 (BFP、 Basic Formula Price) を指標と している。 両者の相違は、 M-W価格が、 加工乳生産地帯であるミネソタ・ウイス コンシン地域の加工原料乳の取引価格を調査していたのに対し、 基本公式価格で は、 調査対象を全国に広げ、 乳製品価格の動向による調整を行うこととした点に ある。 クラス3の生乳価格は、 BFP価格と同一の価格とされる。 クラス1とクラ ス2の生乳価格は、 それぞれ、 クラス3価格に差額を加えて算定される。 クラス 2差額は、 全国一律で、 クラス3価格に100ポンド当たり30セントの差額を加え ることにより算定される。 クラス1価格は、 クラス3価格にクラス1差額を加え ることにより算定されるが、 この価格は、 マーケッティング・オーダー毎に異な っている。 クラス1差額がマーケッティング・オーダー毎に異なるのは、 飲用牛 乳としての品質維持に要する経費相当分と生乳の主要産地であるミネソタ州やウ イスコンシン州からの輸送費相当額を上乗せした額を当該オーダー地域の飲用乳 価格とし、 当該地域の飲用向け生乳生産を奨励するためである。 b. 96年農業法と連邦ミルク・マーケッティング・オーダー制度  96年農業法は、 現在33地域あるミルクマーケッティング・オーダーを99年4月 までに10から14のオーダー地域に整理・統合することを定めている。  USDAは、 昨年12月3日に統合の素案を発表し、 関係者の意見を求めるなど、 オ ーダー地域の統合に向けての作業を開始した。 現在は、 飲用向けと加工向けの仕 向率の相違によって、 オーダー間のプール乳価の格差が大きいことから、 取引地 域を広げることにより格差を是正する意図がある。 (イ) 乳製品価格支持制度 a. 90年農業法の下における乳製品価格支持制度  乳製品価格支持制度は、 加工用の生乳価格を一定価格以上で支持するため、 政 府機関であるCCCが乳製品の製造業者等からの申し出により、 乳製品を無制限に 買い上げることにより、 原料乳価を支持する制度である。 この制度は、 (1)十分 な生乳生産を確保すること、 (2)生産コストを反映した乳価を設定すること、 (3) 将来の安定的な供給が保証されるよう酪農経営の維持に必要な所得を保証するこ と、 を目的としたものである。  生乳ベースの決定される加工原料乳の支持価格は、 生産者に対してこの価格で の原料乳価支払いを保証するものでなく、 CCCがこの原料乳価から加工費等を勘 案してバター、 脱脂粉乳、 チーズの乳製品買入価格を算定し、 その価格でこれら の製品を買上げるという間接的な形で行われる。 CCCは、 買い受け申し込みがあ り、 その品質が基準に達したものであれば、 公表した買い上げ価格で数量に制限 を定めずに買い上げを行うこととされている。  90年農業法においては、 91年から95年 (93年包括財政調整法により96年まで延 長) までの価格決定方法を定めており、 その内容は、 最低支持価格を100ポンド 当たり10.10ドルとし、 CCCの翌年の乳製品買い入れ見込み数量 (毎年11月20日ま でに議会に報告) に基づき支持価格を調整するというものとなっている (表−10)。 表−10 CCCの乳製品買い入れと支持価格の調整 ────────────────────────────────  翌年の買い入れ見込み数量 │    支持価格の調整 (全乳固形分ベース) │ ──────────────────────────────── 35億ポンド未満 │支持価格を25セント以上引き上げる。 35億ポンド以上50億ポンド未満│支持価格を据え置く。  50億ポンド以上       │支持価格を25〜50セント引き下げる。 ────────────────────────────────  注:翌年の買い入れ見込み数量が70億ポンド以上の場合は、支持価格引き下げ    の措置の他に余乳処理に必要と見込まれる経費相当額を賦課金として生産    者から徴収することができるとされている。  CCCによる買い上げ数量をトリガーとした指示水準の見直し方法は、 買い上げ 量の増加により支持水準を引き下げることにより生産を抑制するという生産調整 機能を果たすことになるが、 これに加えて、 90年財政調整法と93年包括財政調整 法は、 財政支出削減対策を規定し、 酪農関係では、 91年から97年まで生産者から 賦課金を徴収する規定を設けている。 この賦課金は、 前年より生乳生産量を増加 させなかった生産者には、 その請求に基づき賦課金の還付を行うこととされてお り、 支持価格の調整による生産調整と併せて2重の調整機能が生産量の制限につ いて講じられていた。 b. 96年農業法と乳製品価格支持制度  96年に100ポンド当たり10.35ドルとなっていた乳製品価格支持制度による支持 は、 支持価格を97年1月から99年まで毎年15セント低下させながら実施し、 99年 末をもって廃止することとされた。  従来の制度の下では、 価格支持水準は翌年のCCCの乳製品買い上げ見込み数量 により調整されることとなっており、 これによる支持価格水準の上下により生乳 供給のコントロール機能が果たされていた。 96年農業法では、 96年から99年まで の毎年の支持価格水準をそれぞれ固定したため、 これまでのような調整が行われ ないことになった。 また、 前年の生乳生産を上回った生産者から賦課金を徴収す る制度も廃止され、 生乳生産を規制する規定がなくなったことになる。  乳製品の価格支持制度は99年で廃止されるとされているが、 2000年から2002ま での期間については、 これに代えてローンレート制度が創設されることになって いる。 乳業会社は、 乳製品を預け入れることにより、 $9.90/100ポンドに相当 する単価でCCCから融資を受けることができ、 乳製品の流通量を調整し、 乳製品 価格の安定を図ることができる。 この制度による融資の期間は、 原則として当該 年度内に限られるとされているが、 農務長官の裁量により翌年度内までに限って 期間の延長が認められるとされている。 この制度は、 飼料穀物などのローンレー ト制度と異なり、 質流れにより融資資金の返済義務の免除を受けることはできな いとされている。 (ウ) その他の乳製品に関する規定 a. 乳製品輸出補助制度 ・乳製品輸出促進計画 (DEIP) は、 2002年まで存続させ、 市場拡大事業を加えて  ガットで許されている最大数量に対する補助を行う。 ・農務長官は、 乳製品の輸出を促進するための機関の設立に協力する。 b. その他 ・ニューイングランド地域におけるマーケティング・オーダー制度改革の適用免  除について検討する。 ・牛乳処理業者の資金による自主的な飲用牛乳消費拡大事業を2002年まで継続す  る。
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