連続豊作の余波と今後の課題 (中国)



2年連続豊作により国際需給逼迫要因が軽減


 政府機関の予測によれば、 96年の糧食 (穀物が90%前後を占める) の生産量が、 史上最高の480百万トン (対前年比3%増) に達したことが確実となっている。 その結果、 昨年 (生産量約467百万トン:対前年比4.8%増) に引き続いて、 2年 連続で建国以来の生産記録を更新することになる。  経済成長に伴う需要の急増と94年の不作の影響により、 中国が95年に純穀物輸 入国に転じたため、 国際需給逼迫の要因として、 このところ穀物関係者の間では 懸念が増大していた。 したがって、 長期的な需給議論はさて置き、 12億強の人口 を有する中国の連続豊作のニュースは、 当面、 世界の穀物関係者に安堵感を与え るものといえよう。  また、 96年は、 穀物全体では純輸入国から転換できなかったとみられるが、 飼 料穀物については、 その大部分を占めるトウモロコシの年間輸入量が、 対前年比 −91%と 「激減」 している。 したがって、 飼料穀物部門では、 中国の国際需給へ の圧迫要因は慨ね解消していることになる。 なお、 最近では、 さらに一歩進んで、 今後96年収穫穀物の市場出回り態勢が整うにしたがって、 中国が再びトウモロコ シの輸出国になるのでは、 との声が関係者の間で既に出始めている。  なお、 これに対して、 食用穀物では小麦、 コメの輸入が続いており、 その対前 年比減少率は、 小麦が29%減、 コメが54%減に止まっている。 需要増が続いてい ることがその基本原因であるが、 高品質なものを求める新しい需要の拡大も見逃 せない要素となっている。

●トウモロコシは需給緩和、 価格低落が顕著


 こうした中、 特に需給緩和が顕著なトウモロコシ(対前年比5%程度の増加(5 百万トン以上) とみられる) の主産地では、 連続豊作ゆえの幾つかの課題を生じ ている。 それらは、 連続豊作により生じた価格下落の問題と、 その対策でもある 販売促進にどう取り組むかという課題である。 国が、 契約及び協議により農民か ら買い上げる穀物にその他の公的調達 (流通市場での調達を含む) を加えても、 政府が所管する割合は、 近年では全体の約1/3(150百万トン程度か) 程度とみ られる。 それ以外の分は、 流通市場で販売されるが、 農民や郷鎮 (「村」) 組織は、 豊作で生じた過剰分の処分のために、 今まで以上に、 販売促進に努力しなければ ならない状況になっている。  また、 トウモロコシの市場価格は、 95年の豊作により既に軟調ぎみとなってい たが、 その96年12月の全国平均価格はトン当り1,370元 (1元=約14.5円) と、 前年同月比で約20%下落している。 これに対して、 主産地では、 価格の低落は一 段と厳しいものとなっている。 全生産量の2/3を占める山東・河北・河南・東 北3省の平均価格 (単純平均) は約30%下落しており、 生産者にとっては、 販売 と価格の両面で厳しい状況になっていると考えられる (なお、 こうした状況に対 処して、 既に中央政府は、 公的な買い入れを増やす考えを示唆するとともに、 関 係機関には買い付け資金を十分準備すべきことを求めるなどの、 「過剰対策」 に 乗り出している)。  なお、 価格低落のほかに、 主産地では、 全国的流通体制が未整備であるため販 売を円滑に進め難いことや、 商談がまとまっても、 輸送手段を迅速に確保し難い という問題を生じつつあるとされる。 また同時に、 産地では貯蔵施設が不足して いることから、 生産者にとっては、 保管場所に困るという問題が新たに浮上しつ つあるとみられる。

●価格低迷や過剰在庫の生産意欲等への影響


 次に注視すべき問題は、 主産地での価格の低迷や在庫の発生が、 今後、 生産意 欲や投資・投入意欲に影響を与えるのではないか、 という点である。 すなわち、 2年連続で記録更新を達成した背景は、 (1)穀物価格の急上昇による生産刺激効 果や、 (2)基盤整備・機械化投資の拡大、 (3)化学肥料の投入増・新技術の応用な ど、 生産意欲向上や投資・投入の積極的拡大に負うところが大であった。 したが って、 97年の生産動向を見通すうえでは、 先ず第一に、 価格低迷と産地在庫圧迫 による、 「生産と投資・投入」 意欲への影響を注視しなければならない。  しかしながら、 そうした環境下においても、 97年の生産動向を予測する上で重 要な、 秋蒔きの穀物 (夏までに収穫されるもの=夏穀物) の作付け計画等は、 順 調なものとなっている。 したがって、 この穀作部門においては、 需給緩和、 価格 低迷等の生産へのマイナスの影響は、 今のところ現れていないといえる。 (参考) <96年11月の状況> ・生産者の作付け意向調査   対前年比で2.2%増加 (予定面積) ・97年夏穀物の生産計画   111.5〜112.5百万トン → 昨年実績110百万トン

●流通対策、 経営支援の成否が食糧自給維持の鍵


 その後、 本格的な冬場に入ってからも、 南部など一部で洪水被害を生じたもの の、 天候問題などによる重大な被害は出ていない。 したがって、 今のところ、 秋 蒔き穀物の好収穫の予想に変化はない。 なお、 関係者の一部には、 豊作の翌年に は、 「気の緩み」 などから収穫が減ると指摘する向きもあったが、 これも、 2年 連続で豊作となったことや、 中央政府が引き続き農業重視政策を堅持 (中央農村 工作会議、 1月) すると強調していることから、 その懸念は少ないものと考えら れる。  しかしながら、 今後の課題である、 価格低迷や過剰在庫の影響については、 こ れらが顕在化したのは、 秋蒔き作付けのヤマが過ぎてからであったため、 その作 付実績から影響度合いを測ることはできない。 その影響度合いを推測するうえで は、 今後しだいに明らかとなってくる、 春蒔き穀物 (全糧食生産量の約3/4を 占める) の作付け状況が、 その尺度の一つとなろう (なお、 飼料穀物は春蒔きも のが中心となっている)。  なお、 当面の食糧関連の重点政策として、 中央政府は、 (1)穀物取引・流通備 蓄体制の整備や(2)流通過程での減耗低減、 また(3)農業機械や化学肥料の普及強 化などを取り上げている。 さらに、 昨年10月には 「食糧問題白書」 を公表し、 世 界食糧サミット (ローマ) でアピールしたが、 そこでは長期的視野での食糧自給 堅持の方針を強く打ち出している。  中国の食糧供給問題は、 今や世界の関心事項となってきたが、 その将来にわた っての自給維持実現には、 (1)〜(3)の流通対策や経営支援策、 また、 新技術の開 発・応用や生産者の教育訓練政策の成否が、 その鍵となりそうだ。
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